※この作品はR-18です。

湊友希那ママシリーズ。   作:美肉。

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湊友希那ママ。

「マ、ママ?」

 湊友希那は動揺していた。反射的に声が飛び出していた。衝撃だった。自室のいつもの風景が、一気に遠ざかってふわふわと歪んでいた。

「……ママ?」

 友希那は復唱した。対面する彼氏が無言でこくりと頷いていた。しかし、なんだか現実感が無かった。彼の顔は妙に照れていたが、瞳だけは線香花火のように輝いていた。

 純粋な男児のような眼光だった。

「……私は、あなたのママではないのだけれど」

 友希那は慎重に訂正した。低い声が出ていた。

 しかし彼は、それでも自分の中の意識を変えるつもりが無いようだった。そんな情緒が、瞳の色で理解できた。

「あなたっ――」

「う、うんっ……。それはわかってるんだけど、でも、友希那さんに、ママになってもらいたくてぇ……」

「ママって……。ママ?」

 頷いている彼は、泣き出してしまいそうな声だった。か細かった。友希那は彼を注視していた。彼の顔の中には、照れた雰囲気があった。瞳には、銀河のような光があった。煌びやかで華やかな雰囲気だった。自分の『お願い』に確かな恥ずかしさを得ているが、同時に、それを絶対に押し通したいという意思が宿っていた。

 やはり、少年のようだと思った。今までの彼とは、何もかもが違う雰囲気だった。

「あのっ」

「ごめんなさい。意味がわからないわ」

 友希那は切った。最愛の彼を前にして、激しく困惑していた。自分でも解るほどに顔色が強張っていた。心が曇っていた。正直なところ、完全未知の生命体の文化と触れ合った気分だった。

「――あなたの母親なら、すでに居るでしょう?」

 それでも友希那は、その未知の彼にできるだけ寄り添うように、彼の顔を覗いた。湿った雰囲気は本当に別人のように思えた。

「えっと……、つまりね、ママみたいになんでも受け入れてもらって、甘えたり、ちょっとだけ虐められたいって、ことなの……」

 彼は、つっかえながらも丁寧に説明してくれた。

「あ、甘えたい……? それに、虐められたい……?」

「うん……。お願い、友希那さん」

 彼は上目遣いだった。友希那はその態度に驚いた。彼の声は、こん日まで聞いてきた声と比べると、明らかな異質に在った。いつもの、確信めいている強さは無かった。ずどんと響く直線的な凶弾などではなかった。それとは到底違っていた。スポンジ製の如く、ふにゃりとしている玩具の弾丸でしかなかった。優しく弱弱しい放物線を描いてみせてくる玉でしかなかった。

「ええと、つまり……」

 友希那は、うちなる困惑が加速していくのを意識した。彼からの、思いもよらない発言に面食らっていた。

「その、つまりえっちなことをしてほしくて、でもいつもみたいに普通にするんじゃなくて、僕が赤ちゃんで、友希那さんがママになってもらいたいの……」

「それが、気持ち良いの?」

 友希那は再び、彼の思い詰めたような顔を覗いた。彼もまた再び、大きく首肯した。彼は、ひどく暗い顔つきだった。視ている友希那が、心配になるほどの闇に居た。自分の後ろめたい隠し事を、必死に打ち明けている雰囲気だった。相当の精神的苦痛に在るようだった。

「本当に……?」

 友希那は険しい顔で彼の顔を見つめた。そんなことが嬉しいだなんて、信じられなかった。

 すると彼は、またもや首を大きく振ってみせた。瞳に浮く光は真剣そのものだった。硬く力強く、何より燃えていた。顔にも、しっかりとした意思が宿っていた。

 その顔は男らしかった。友希那が知る、いつもの彼だった。

 彼は本気のようだった。

 友希那は動揺がさらに濃くなるのを意識した。

「ちょ、っとごめんなさい……。考えさせて……」

「うん」

 友希那は、彼から少しだけ目を逸らして思考に入った。脳内の動揺はまだ引いていなかったが、思考はゆっくりと再起して素早く動いていた。

 彼は、友希那から観てもしっかりとした男性だった。芯のある人間だった。他人に甘えるなどという現象とは無縁だった。いわゆる、剛の者だとすっかり思っていた。そういう信頼を置いていた。そんな彼からの改まった『お願い』が何かと思えば、今までの雰囲気を破ったうえでの、「甘えたい」という緩んだ求愛だった。意外性しかなかった。しかし、正直言って悪い気はしていなかった。動揺は凄まじかったが、それでも、(この人ならいいか)という落ち着いた意識も確かにあった。友希那も、もちろん彼のことを愛していた。その自覚がしっかりと在るほどには、彼という男性に惚れ込んでいた。その彼から強烈に甘味を求められるのは、悪くなかった。自分という女性が、彼の中で、極めて濃い存在として在る証拠のように思えた。むしろ濃厚過ぎるほどなのではないかと考察した。

 彼は自分に対して、正常な愛情を通り越してどういうわけか母性すら感じてしまっているようだった。本来の恋人の像からは若干外れているような気がしなくもないが、しかし今重要なのは、他人と偏見だけで構成された世間の恋人像などではないはずだった。そんなものは、はっきり言って至極どうでもよかった。今は、自分が彼に対してどう思っているか。何をしてあげたいか。それだけが、ただ問題であるはずだった。

 そして自分は、湊友希那は、彼の枯渇しきっているらしい欲求を我が身で満たし尽くしたいと思っていた。とことん喜んでもらいたいと切望していた。もう、溺愛している彼を、激しく癒したいということだけだった。

 つまり、有り体に言えば「母性本能ガ刺激サレテユク」だった。その温かい衝動はすぐに脳から全身に伝わって、火照りを現していった。

「わかったわ」

 友希那はきっぱりと呟いた。

「え?」

 すっかり『その気』になっている友希那は、気付けば自分から彼の両肩を抱いていた。困惑している彼に、唇に唇を触れさせていた。

「んっ……、ちゅ」

 数秒、触れた後に離れた友希那は、彼のとろけている顔を見つめた。

「あなた、意外と甘えたがりなのね」

 今の彼に、強靭で逞しい雰囲気は無かった。すでに、一切得られなかった。新しい彼には幼さが在った。

「……ちょっと、可愛いかも」

 そんな彼に、友希那は、際限のない庇護欲だけを意識していた。

「友希那さんっ、ぼく……」

「ねぇ、聞いて」友希那は真剣な目を作って彼を視た。「正直、まだあなたの言う『ママ』が何なのか、はっきりとはわかってないなわ。あなたの期待に応えれるかも、上手く『ママ』というのができるかも、わからない。それでも、それでもあなたが望むのなら……」

 友希那は、ごくりと喉を鳴らした。彼の瞳を見つめた。彼は本当に泣きだしてしまいそうな情緒だった。

 それを視た友希那はほほ笑んでいた。愛する彼のためなら、なんだってできる気がした。

「――良いわよ。ママにでも何にでも、成ってあげる」

 友希那は、はっきりと宣言した。その声色に、淀みは一切無かった。すでに母性で染まりきった瞳だった。弱っている彼のことを、愛おしく意識していた。

「ほ、本当に……?」

 彼は溶けかけている声だった。

「ええ。もちろん」それに対して優しく低く呟いた友希那は、彼の頬を左右から持ち、再び彼の唇に触れた。柔らかく熱を持った彼が当たり、少し這わせるとすぐに離れた。「――私が、あなただけのママよ」

「……友希那、ママ」

 その瞬間、友希那は、自分が彼の、彼だけの、唯一にして頂点の『ママ』に成ったことを、ぞくりと理解した。

 

 すでに満足しているところがあった。

 心の底から肯定されている感覚が、確かに在った。勇気を出して良かったと、本気で思っていた。

 自分の中に宿る本物の性癖を、思い切って友希那へ暴露した瞬間、全身の筋肉がきゅっと固まる思いが在った。呼吸の感覚が激しくなっていた。今自分が息を吐いているのか、それとも吸っているのか、何もかもが、正確にはわからなくなっていた。

 友希那は、数十秒ほど無言で思考していた。沈黙の時間は少しだけ怖かった。友希那の横顔は美しかった。やはり考える友希那は美麗だった。一切の動きが無く、情緒も筋肉も静寂の中に居るというのに、こちらが緊張するほどの美しさを宿していた。反射的に母性も感じた。抱き着いてしまいたい衝動に駆られたがなんとか我慢した。ぞくりと震える鼓動が、ずっと耳の奥で鳴っていた。

 次いで出てきた友希那の言葉に、彼は驚いた。情緒そのものが、溶けて無くなるような感覚だった。

「――私が、あなただけのママよ」

 彼は、目の前のこの女性、ただ唯一の、湊友希那の赤ちゃんへと、成っていった。

 

「やるからには本気で、あなたのママになってみせるわっ」

 立ち上がった友希那はいつもの調子だった。顔つきも凛々しいものになっていた。友希那はそのまま脱衣をはじめた。彼も慌てて立ち上がり、服を脱ごうとした。しかし素手は震えていた。素手どころか全身が震えていた。緊張に在ることがすぐに理解できた。多大な緊張と興奮によって、衣服すら脱げなくなってしまったようだった。

 なさけないと思った。罪悪すら抱いた。独りで慌てていると、シャツの裾に真白い素手が触れた。見上げると友希那が居た。友希那は、すっかり生まれたままの姿になっていた。色白の素肌の中で真っ先に目がいったのは胸だった。栄えは無かったがそれでも美しい発達で魅せている乳房だった。桃色の乳首がちょこんと立っていて愛らしかった。

「ふふっ」

 友希那の声で彼は我に返った。友希那はくすりと笑っていた。時おりみせてくれる気品な笑みだった。なんだか安心できる笑みだった。

「服も脱げなくなるなんて、相当興奮してるのね」

 彼のシャツを脱がせた友希那は次にしゃがみ、彼のズボンを下げた。彼はただ固まっていた。もう何もできなかった。

「ご、ごめん……」

 彼は、つっかえながら声を出した。下を視ると、友希那がこちらを見上げていた。目と目が合っていたが、友希那の視線が少し逸れた。友希那が向かった先は彼の股間だった。彼のパンツはもっこりと栄えていた。

 友希那の前で股間を晒すのは、過去に何度か経験があった。普遍的な性行為をしたこともあった。しかし、このように、改めて下着姿を見せると、いつもとは違う痒い羞恥があった。

 一方、友希那は、彼が意識しているような熱を、少なくとも顔には一切見せていなかった。やはり、すでに慣れてしまっているのだろうか、と彼は思った。友希那はそのままパンツに手を伸ばした。ためらいの無い動きだった。友希那は彼のパンツを勢い良く下げた。

「ううっ!」

 竿は、震えながら登場した。

 彼の、すっかり膨張しきった陰茎だった。

「相変わらず、大きいわね」

 友希那は冷静だった。

「うふん……」

 友希那は彼の竿の先端の、真っ赤に肥えた頭を見つめていた。そこまでまじまじと見られると、本気で恥ずかしかった。しかし友希那はやめてくれなかった。やめる気配が無かった。

「それじゃあ、ベッドに横になってちょうだい」

 友希那は淡々と放った。本当にためらいが皆無であるようだった。

「ベ、ベッドに? いいの……?」

「? 赤ちゃんなんでしょう?」友希那の目が再び彼と触れ合った。「立ったままするなんて、そっちの方がよっぽどおかしいと思うわ。私のことはいいから、はやく横になってちょうだい」

 友希那の命令に、彼は素直に従った。

 恋人である友希那が、普段から使用しているベッドだった。そこに全裸で沈むということに、彼は、多大なる抵抗を得ていた。しかし、本人である友希那が「いいから」と許可していた。故に彼は、結局従ってベッドに寝転んだ。シーツは良質な触り心地だった。マットレスもふかふかだった。彼はすんなりと背を預けた。仰向けだった。裸体はだらんと脱力していたが、その中でも、陰茎だけが異質に上を向いて硬くなっていた。

 落ち着けない情緒のままで居ると、友希那がベッドに乗って来た。友希那は素早く彼に添った。寝転ぶ彼の右から被さるような勢いだった。彼は少しぎょっとした。驚いて友希那を見つめた。友希那は、冷静な顔つきで場を整えていた。長い頭髪が、真白いシーツの上で美しく散乱していた。美麗だった。美学というものを彼は意識した。友希那は自分の髪を、手慣れた作業で一束にまとめた。さらり、と適当に垂らしていた。髪は鮮やかに目立っていた。可憐な薄紫の毛だった。その美学が、ふわりと自由に広がっていた。

 それから友希那は、彼の、板のような胸元についた。控えめな乳房をぴったりと密着させていた。本当に上から這うような意識だったが、あくまで添い寝の形だった。彼はどきりとしていた。心臓がはち切れそうな勢いだった。身体そのものが唸っていた。理性が崩壊しかけていた。友希那との性行為の回数はそれなりにあるが、ここまで密着感のある触れ合いは、今がはじめてだった。同時に、友希那が本気であることも理解した。自分が思い切って提案した赤ちゃんプレイを、本気の本気で執行しようとしていることをここで理解した。それは純粋に嬉しかった。最初、少し拒絶気味だった友希那が、ここまで積極的になってくれているのは幸福でしかなかった。恋人が友希那で良かったな、とすでに思っていた。

 そんなふうにうっとりとしていると、下半身辺りに熱と重さを感じた。見ると、いつの間にか、下半身を友希那に拘束されていた。友希那の細い両足で挟まれ、一切の動きを出せないように拘束されていた。完璧に友希那に捕獲されていた。両足には、友希那の足のほんのりとした熱と、肉からの重さだけが在った。高貴な友希那の生物らしい質感だった。幸せだった。無理やり身体を動かそうとすると、すぐに友希那の、女性らしい柔らかさたちが触れた。慌てていると、耳元で「おとなしくして」という低い声が聞こえてきた。友希那の声だった。彼は筋肉が一気に弛緩していくのを感じた。友希那の声に怒気は一切無かったが、こちらの行動を制御するほどの重さが含まれていた。それから彼はぴったりと身体を停止させた。友希那の声に従っていた。従うしかないと思っていた。従うことこそが幸福なのだと確信していた。故に本当に脱力し、友希那のベッドと、友希那の裸体に肉体を預けていた。すると今度は「えらいわよ」という友希那の声が耳の付近で触れた。胸板を軽く撫でられていた。友希那はくすくす笑っていた。低かったが温もりがある質感だった。胸の位置がじんわりと蒸れた。彼はうっとりと沈んでいた。

「それじゃあ、言うこと聞けたご褒美に、頭も撫でてあげるわ」

「あ、頭……?」

「今のあなたは赤ちゃんなのだから、当たり前でしょう? たくさん撫でて、たくさん褒めてあげるわ」

 ほほ笑む友希那は彼の後頭部に左腕を回した。腕を使った枕をするような要領だった。しかし枕になるわけではなかった。友希那の素手は、そのまま彼の頭に這った。彼は何をされるのかと思考したが、友希那はそれに応えるように、彼の、もっさりとした頭部を包んだ。小さな素手だったがそれでも多大な包容を感じられた。友希那は彼を優しく掴んで撫ではじめた。彼はそこで安心感を得ていた。友希那に包まれていた。友希那に愛撫されていた。これが肯定されるということなのか、と納得のようなものを意識してほほ笑みが浮いた。

「どうかしら」

 友希那が冷静な口調で訊ねた。

「ううんと、ううん。えへへ……」

 友希那に包まれている質感が極楽だった。

「あなたがママになれって言ったのよ? 何か、ちゃんとした感想があるんじゃないかしら?」

「……ば、ばぶ」

 彼はひねり出した声だった。幸福で満ち満ちている状況の中で、明瞭な声を出すことなどもう不可能だった。

「それ、喜んでいるの?」

 友希那が冷静に訊ねた。彼はこくりと頷いた。股間の竿も同じように震えたが、友希那はまだそこまで視ていないようだった。

「そう。ならよかった。知識も何も無い急ごしらえだけれど、楽しんでいるのなら私も嬉しいわ」

 友希那は笑みを浮かべていた。それは弛緩した笑みだった。ゆったりと落ち着いた意識の中から浮かんでいることがわかった。華やかさというよりも、ひたすら、暖かさが在った。友希那の奥でいつも輝く、宝石のような母性が、今だけは最前線に姿を出していた。

 そんな友希那の素手が、竿に伸びていった。ついにしごかれる。彼は強い興奮の中に居た。その熱は竿に勢い良く伝わった。

「あっ……」

 掴もうとしていた友希那の素手から、竿は飛び出すように離れていた。竿に向いていた友希那の目が、一気に彼に向かった。

「ちょっと、逃げないでちょうだい」

 友希那は再び竿を握ろうとした。しかし陰茎は、またもやびくついて素手をすり抜けてしまった。

「……あなたが虐めてほしいって言ってきたのよ? それなら、ちゃんと私に虐められてほしいわ」

 友希那はじっとりとした目だった。

「ご、ごめん……」

「謝罪はいいから、おちんちんびくびくさせるの、やめて。掴みづらいわ」

 友希那は竿をちらりと視てから、唐突に自分の右手のひらに唾液を落とした。口の中で素早く音を立てながら溜めた唾液を、だらりと舌を伸ばして素手に吐くように乗せた。

「な、なにそれ……」

 驚きと卑猥な雰囲気を同時に感じた彼は、怪訝な顔で訊ねた。友希那の舌と素手を繋ぐ唾液の透明な糸を注視していた。

「そういえば、ローションが無いのよ。申し訳ないけれど、これで代用させてもらうわ」

 友希那は、きっぱりと説明した。そして彼の反応を待たずに、今度は不意打ちのような素早さで、竿に手を伸ばした。

 友希那はついに竿を掴んだ。

 ぬるつきと柔らかさと、友希那の熱だった。

「んっ……」

 反射的に高い声が出ていた。身体が、友希那の中で震えていた。

「……大丈夫? まだ触っただけよ?」

「いやっ、あの、唾液が、あったかくてぇっ……」

 握られているだけとは思えなかった。

「ローション代わりに唾液を使ったのは、正解だったみたいね」

 友希那に竿を握られた経験も、何度かあった。しかし、今回のこれは格別だった。唾液の影響だろうか。状況の影響だろうか。とにかく、興奮の具合はとてつもなく激しかった。竿だけを握られているはずなのに、自分の全てを掌握されたような感覚になっていた。

「それじゃあ、いくわよ」

「あう……」

 友希那は宣言と共に右手を動かしはじめた。

「んんっ……。いうっ!」

 触れていただけの質感たちが、一気に蠢いた。長い竿の中、唾液によってぬるついた友希那の五指の肉が、前後していた。彼は、友希那が少し動いただけで声が漏れてしまうほどだった。竿と、身体そのものが震えていた。友希那に捕まれている腰が、がくがくと痙攣していた。

「ううっ。んぬっ」

 友希那が、より強く彼の腰を固定した。力んだ両足で締めるようにした。彼は腰を動かすことが絶対にできなくなった。それはつまり完全な受け身だった。もう彼は友希那からの刺激をただ受けることしかできなかった。それ以外は赦されなかった。もちろん友希那はしごきを止めることなどしなかった。むしろすぐに陰茎の弱点を探り当て、すぐさまそこを指で刺激していた。唾液でぬるついているため指先で擦るだけで立派な責めと化していた。

「あああぁっ……!」

 彼は、とろけていた。すでに、限界だった。しかしまだ果てたくなかった。この程度で果てるなどもったいない以外の何でもなかった。だから耐えた。腰に力を入れて我慢した。顔はすぐに真っ赤になった。漏れ出す吐息が獣のように荒かった。声が高くなっていた。友希那で温められている友希那の室内に、嬌声が散っていった。

「気持ち良いかしら?」

 友希那は彼のことを淡々と視ていた。彼は乱れていたが、それでも友希那はいつもの冷静さを持っていた。全く変わらない情緒だった。

「ねぇ、はやさは、これくらいで大丈夫なの?」

「う、うんっ……」彼は潰れた喉から出したような声で答えた。「きもちいっ……」

「そう。ふふ、よかった」

「うふっ。うううっ……。ゆきな……」

 まともな言葉を出せているのが、彼は自分で不思議だった。理性とやらは、すでに限界に在るはずだった。

「でも、手コキがいいって言ったからしたけれど、これじゃあいつもと変わらないわ……」横の友希那は少し思考に落ちるような声だった。「ママ、というと……。そうね……」

「ゆきな、さん……?」

 彼は横を視た。友希那は虚ろを視て思考していた。しごきは淡々と続いていた。もう出てしまいそうだったが、やはり彼は漢を出して我慢し続けた。

「ふふっ」

 やがて、友希那が控えめに笑みを作った。無表情が唐突に壊れた感覚だった。

 友希那は彼を視ると、そのままにたりとしながら口を開いた。

「ほーら、あなたのママでちゅよー」

 甘い、甘い声だった。

「ううっ」

「たーくさん甘えてくだちゃいねー」

 友希那の中で創られた、甘味そのものだった。

「あう」

 彼は腰と脳に溜まるせつない意識をそのまま口から出した。

「なんて、これはちょっと、からかってるかしら」

「いやっ……」

 彼の竿は激しく反応していた。友希那の素手であやされている五指の中で、肥大化して熱を放っていた。

「あら、これでいいみたい……」友希那は一瞬竿を視た。「なるほど、ママになるって、こういうことなのね」

 友希那は思考してからら再び彼を見つめた。

「ほら、ママが、あなたのおちんちん、たくさんしこしこしてあげまちゅからねー。ふふっ、あなたは、ただ気持ち良くなるだけでいいんでちゅよー」

 極上だった。普段の友希那からは想像もできない声質と口調が、興奮の度合いを高めていた。身体の細胞そのものが、一気に潤って蘇っていくような感覚だった。

「ふふ。可愛いでちゅねー。ほら、もっとしこしこしてあげまちゅからねー」

「友希那、ママ……」

 彼は、とろけた求愛の目を友希那に向けた。それは心の底から無意識に出たような声だった。芯など無かった。独り言のような雰囲気だった。

「まま……! ゆきなまま!」

 彼は無邪気に叫んだ。友希那をじっと見つめていた。竿が震えていた。友希那の中の母性をはっきりと認識した瞬間だった。やはりこの女性は自分のママなのだと理解した。そしてその母性に沈みたいと本気で思った。

 友希那は戸惑いながらも破顔していた。

「そんなふうに呼ばれると、流石に不思議な感覚になるわ……。でもそうね、今はそういう時間だから、好きに呼んでちょうだい」

「ママ……、もっとっ。もっとしこしこっ」

 彼はさらに声色に甘さを含ませて吐いた。瞳はほとんど潤んでおり、表情はどろどろにとろけていた。ただ友希那を求めていた。ただ友希那がよかった。友希那と触れ合っていたかった。友希那を感じていたかった。もっと友希那の、友希那の中の母性を受けていたかった。

「まま、ままっ。ゆきなまま……!」

「いいわよ」友希那は口元を緩ませた。竿を撫でていた。竿を掴む指の肉の間で、唾液が擦れる湿った音が連続で鳴っていた。

「あう、ままぁ……」

「こんなにおちんちん大きくしちゃって、我が儘な赤ちゃんでちゅねー」

 友希那は、にっこりと破顔しながら続けた。

「でも、いいんでちゅよ。あなたのママが、ちゃぁんと気持ち良くしてあげまちゅから……。ママが居ないと何もできない赤ちゃんは、じっと感じてるだけでいいんでちゅよー。それだけであなたは、とってもえらい子、なんでちゅからね……」

 こちらに寄り添ってくれるような温かい声だった。低いはずなのに、蒸れた灯りを意識できる声だった。友希那と交際してもう数年が経っていたが、こんな声は聞いたことがなかった。そして内容は真に赤子に接する時のそれだった。友希那に母親の経験は当然皆無で、そのためこのテの台詞も完全に手探りで放っているはずだった。それなのに、この威力だった。彼は言葉の一つ一つに反応していた。竿と脳で感じ取っていた。友希那にはママの才能もあるのだと驚いていた。

「……ねぇ、赤ちゃん言葉でこんなに興奮するのって、どうなの? あなた本当に、私に赤ちゃん扱いされたかったの?」

 友希那が唐突に、少し冷静な情緒を出してきた。

「ママ……、もっと激しくしてよ……。ままぁっ……。うう」

 しかし彼はもう弱弱しい情緒だった。もっとママらしい友希那がほしかった。

「そうね……。今はそんな話、どうでもいいわね。わかったわ。もっと攻めてあげるから、私の手コキ、じっくり堪能しまちょう。赤ちゃんっ。ふふ」

 甘く呟いた友希那は咲いていた。そして、すっかり唾液まみれになった竿を握り直した。ぐっぽりと、改めて粘ついた五指が絡みついた。しごく速度が上がった。

「うううっ。ままぁっ」彼は友希那の目を視て叫んだ。「ゆきなっ、ゆきな、まぁまっ……!」

「ええ。あなたのママよ。ゆきなママでちゅよー」

「うふんっ。まま」

 嬉しかった。友希那がママに成ってくれるのが嬉しかった。手淫をしてくれるのが嬉しかった。五指を根本まで、がっしりと絡みついているのが嬉しかった。ぬるりと上がっていく五指が嬉しかった。亀頭の丸々とした造形を優しく閉じ込めてくれるのが嬉しかった。再びぬるついた質感で根本まで下がっていく五指が、やはり、嬉しかった。

「んっ……。きもちぃっ……。ママの手きもちいのっ……」

 彼が細い声を上げた。友希那は彼を見つめながら淡々と繰り返していた。彼は友希那に、その緩んだ顔をずっと見られていた。見つめられ続けていた。どれだけとろけても、なさけなく柔らかくなっても、友希那は目を離さなかった。全てを観るつもりのようだった。彼にとってはそれも嬉しかった。自分のママとして、自分の全てを観てもらいたかった。

「ままっ。ううっ、ゆきなっ。まま……。うふんっ」

「本当に、可愛い……」

 友希那が甘く囁いた。小さな声だった。

「あふっ。ゆきなっ……。すきっ。ゆきなすき」

 彼は連続して友希那の名を叫ぶだけだった。もはやそれだけの存在だった。

「ええ、知ってるわ」友希那は彼の耳に寄った「私も大好きよ。だから安心して」

 友希那は冷静な調子だった。彼はさらに身体が発火していくのを感じた。ここまでの痴態を披露しているというのに、真剣な顔で友希那から告白をされたことで、さらなる興奮へと至ってた。

「ママ……。ママすきっ……」

 彼は友希那の目を見つめていた。もっと好意を伝えていたかった。

「ついさっきも言ったけれど、私も大好きよ」

「んふっ。すきっ」

「ふふっ。あなた、さっきからもうそれしか言ってないわよ?」

「すき……、ゆきなすき……。まま」

「ママよ」

「んふ」

「好きよ。ふふ」

 友希那はやはり冷静だった。冷静に呟きながら、片手では彼の頭を撫で、もう片方ではしごきを続けていた。

 頭を撫でられ続けられると、なんだか今の姿そのものを肯定されているような感覚になれて温かかった。手淫の方では、ぬちゃぬちゃと音が鳴っていて実に卑猥だった。竿の硬さと形に添うような手つきも心地良かった。

「……そうだ、ちょっと舌を出してみて」

「し、した……?」

「そうよ。ほら、口を開けて? こっちをもっと視て」と言ってから、友希那はすぐに彼の耳元に迫った。「……お口、あーんして?」

 彼は、少し躊躇いながらも口を開いてみた。すると、友希那が飛びついてきた。唐突だった。彼は少し驚いた。しかし、その驚きをかき消すかのように、口内に友希那の舌が入ってきた。ほとんど侵入だった。まだ準備ができていなかったため、収納されていた柔らかい舌が、友希那の舌によって掬われていた。舌を遊ばれていた。ぬちゃりと全体を素早く舐め廻されていた。それからは編み込むように、絡みついてきた。

「んちゅっ……。んっ、もっと絡めなさい」

 友希那は吐息混じりだった。続けて口を貪られていた。なんだか、友希那に何もかもを誘導されているような感覚だった。完全に安全な道筋に全身全霊を預けたような心地だった。他は何も思考できなかった。友希那のことしか思考したくなかった。友希那はむしゃぶりついているような情緒だった。極めて獰猛で、野性的で、舌だけを使った食事だと感じた。彼は、友希那に食されていた。舌を、一方的に貪られていた。舌と唾液の味を押し付けられるような接吻だった。

「ふふ。あなたの唾液、なかなか美味しいわっ」

 上下の素手と口調は、はっきりとしたママだった。

「むふっ……、んっ、おいしっ……」

 舌の使い方だけは、性欲をむき出しにした牝だった。

「んんっ。んむっ。んっ」

 彼は、夢中になっている友希那に舌を食われ続けていた。抵抗などできなかった。口の中で主導権を握っているのは友希那だけだった。

 だか、それが心地良かった。最良だと思った。ただ友希那からの快感を受け取るだけで許されていた。それは、他の全てを無価値へと変えていた。それほどに富んでいる喜悦だった。やがて接吻の中で、友希那の唾液が大量に流れてきた。彼はそれを飲んでいた。飲まされていた。友希那の唾液はねっとりとしていた。美味だった。友希那の口の中の味は何よりも素晴らしかった。舌で感じ取れる桃源郷とはこのことだと確信した。友希那そのものを飲んでいた。身体の中に友希那を流しているのが幸せだった。唾液は少し甘いような気がした。女の子らしくて心地良かった。

「んむっ。あむっ。んちゅっ。んぢゅるっ……」

 彼に接吻をしながらも、友希那はしごきを止めなかった。竿を包んだ素手の手首を動かし、ぐりぐりと勢い良く振るように、かき回しはじめた。唾液の飛沫が飛んでいた。友希那は冷静だった。淡々と手淫を続けてくれる情緒には、ストイックな意識を感じた。ぬるついた竿を高速で揉んでくれていた。しかし激しい責めは素手だけではなかった。友希那は執拗だった。ねちねちと触れてくる接吻には、徹底的な姿勢を感じた。こちらを徹底的に気持ち良くしようとしてくれている奉仕の意識だと思った。上も下も快楽で埋まっていた。他など無かった。感覚の全てが友希那で支配されていた。発達する触感は最終的に全て友希那に行きついていた。

「んぢゅっ。んんっ……」

 竿は先ほどよりも強靭だった。彼も体験したことのない勃起に至っていた。特に、鮮やかな桃色の首の位置が、はっきりとした段差として発揮されていた。友希那もわかっているらしく、接吻を続けたまま、その溝に親指と人差し指の輪を当てた。次の瞬間、そこそ摩るように動かしてくれた。

「どうかしら? 気持ち良いかしら?」

 彼から口を離した友希那が訊ねた。彼は息を整えながら友希那を視た。友希那は落ち着いていた。つい先ほどまで深い接吻をしていたとは思えなかった。音楽家としての肺活量がここで生きているように思えた。対する彼はもう消耗していた。唾液だけではなく思考能力まで吸い取られたのではないかと思った。互いの口の間には、唾液が混ざった液体の糸がいくつか垂れていた。よく視るとシーツも唾液で濡れていた。

 彼がなかなか答えないでいると、友希那は再び彼に口を触れさせた。一通り彼の唇を撫でると、すぐに離れた。

「どうなの? 気持ち良い?」

「きもちいい」

 彼は、腰を震わせながら高い声で答えた。

「ママとのキス、気持ち良い?」

「きもちいいっ。ままのちゅーすき……」

 それが、精いっぱいだった。緩んだ口はぬるぬるとしていた。てかっていた。もうどちらのかもわからない唾液でまみれていた。

「ふふ……」友希那が、彼の頭を強く撫でた。笑顔だった。普段の硬い意識は無く、柔らかい質感だけが在る笑みだった。

 にやける友希那の口が、再び迫って彼を覆った。すかさず口の中に、あの舌がねじ込まれた。股間では、真っ赤な彼の先端だけをこねるように動いていた。指の肉の感触を押し付けられているような具合だった。強く握られていた。竿の頂点で友希那が堂々と蠢いていた。動きは激しかったが、ぬるついているため痛みは無かった。心地が良いだけだった。しっかりと掴まれているのは、むしろ大切にされているように思えて幸せだった。友希那は彼を高速で揉んでいた。さらに彼が突き出した舌そのものに、無我夢中でしゃぶりついていた。もはや友希那は彼の隣で寝そべってはいなかった。仰向けで寝ている彼に、本当に上から覆いかぶさるようについていた。無抵抗の彼は食らい尽くされていた。友希那は彼の舌の根本の方を唇で挟むと、それをぬるりと啜り、自分の口内で、その彼の先端を連続で弾いていた。

 友希那の口の中という空間に引き込まれ、そのまま舌で自由にされていた。それは完全に友希那だけの行動だった。そこに彼の意思は皆無だった。友希那だけが主導し、友希那だけがひたすら責めている行動だった。舌が触れる質感は全て友希那だった。柔らかさも、熱も、空気そのものも、全てが友希那から分泌されたものだった。それが舌にまとわりついていた。

 彼は友希那の中で、友希那の舌に遊ばれていた。友希那はそれから舌を吸いはじめた。唾液と肉が弾ける音が鳴り響いた。舌そのものが引っこ抜かれるかと思った。

 舌と舌が離れた。しかし彼の舌の上には、いつまでも友希那の質感が在った。常に友希那に触れられているような錯覚に在った。

 口と口の間に、唾液の糸が架かっていた。本数が増えたような気がした。それは彼と友希那の心の繋がりを示す鎖を、そのまま具現化したような糸である。淫らで、強固な絆に違いなかった。

「ふふ。そろそろ射精かしら。いいわよ」友希那は呟くと彼の耳に唇を添えた。「たくさん出してちょうだい」

「あう。まま……。うう」

 友希那は竿を握り直した。彼にはそれが、本当の意味の最終警告のように思えた。

「いくわよっ」

 彼の予想は的中した。友希那は高速のしごきをはじめてくれた。彼の顔はまどろんでいた。股間に集結していく射精感が、ついに尿道を上がっていた。その上昇を仕組んでいるのはもちろん友希那だった。友希那によって精液が上がっていた。友希那のしごきで射精が引き出されていた。

「まま,ままっ。うう、イっちゃうっ……。もうっ、出ちゃうよおっ」

 彼は、掠れた声で宣言した。射精する瞬間を、全て参観してもらいたかった。

「いいわよ。ママの手でお射精しなさい。我慢なんて、しないでいいの。思う存分気持ち良くなって。ふふっ」

「みてて……、出るとこみてて、ゆきなままっ、みてっ、みててぇっ……!」

「もちろん。ママはちゃんと視てるわ」

 友希那は上の位置のまま囁いた。やはり冷静だった。目と目がしっかりと合っていた。全てを観られていると確信できた。

 友希那のしごきは続いた。睾丸から盛り上がって、駆けてくる快感がはっきりとわかった。友希那は連続で力強かった。ぬちゃぬちゃと音が鳴り続いていた。もう限界だった。もう無理だった。頭が一気に真っ白になった。脳が友希那だけに成った。友希那はずっと視ていた。甘い瞳で眺められていた。陰茎がひときわ強く震えた。

「んんっ!」

 腰そのものが、少し突き上がった。同時に竿が一気に硬くなると、先端から白濁の放物線が飛び出した。同時に彼に爽快感が流れた。筋肉が弛緩していた。緩やかな思考へと堕ちていた。呆けた視界に在るのは友希那の顔だった。緩い瞳だったが顔つきは冷静に在った。そんな友希那が、何も言わずに陰茎のしごきを続けてくれていた。だから彼の射精は止まらなかった。射精を深く肯定されているようで心地良かった。友希那は頭も撫でてくれた。素手を深く動かしていた。頭部全体をゆったりと愛撫してくれた。もちろん目も離れなかった。彼はにっこりと顔が歪んだ。友希那の存在そのものが、射精を強く促進させていた。

「くうっ」

 亀頭の先端から精液が大量に放出していた。友希那の素手に導かれるが如く、彼は射精していた。精液が飛び出し続けていた。友希那の自室の中を飛散していた。ねっとりとした質感だった。自由に落下し、自室を汚していた。

 もちろん、友希那の素手にすぐに絡みつく精液もあった。あちこちに飛び出す精液は、友希那の真白い素肌にも付着して濡らしていた。しかし友希那は何も気にしていないようだった。友希那はひたすら彼を視ていた。じっ、と観察していた。本当に彼だけを視ていた。全く動かなかった。顔は、瞳は、ずっと彼だけだった。

 友希那のしごきは、精液の出に合わせて無くなっていった。かと思えば、今度は、放出したばかりの竿を上から撫ではじめた。指先で擦られると、彼はそれだけで身体をびくりとさせた。もちろんその姿も友希那にしっかりと視られていた。友希那の目は、うっとりとしていた。赤子に向ける母親の目とは、こういうものなのだろうと確信して彼は嬉しくなった。そんな友希那は竿と頭を撫で続けていた。彼の凄まじい労力を慰めるように、優しく優しく触れていた。

 友希那の五指に絡みついた精液が、ぐちょりと音を立てていた。それはより濃く、友希那の素手の中に散布していた。

「ふぅっ……」

「たくさん出たわね」

 呆けていた彼が、最初にまともに認識できたのは、友希那だった。「お疲れ様」

「えへへ……」

 彼は、思わずにっこりとした。脱力しきった友希那の鮮やかな笑みが、活発な少女のように煌びやかだった。

「あなたが射精してる顔、もちろんしっかり見てたわよ。気持ち良さそうに緩んだ顔、本当に、すごく……、可愛かった」

 友希那は頬を赤らめた。そこで彼は、友希那が、本気で自分の痴態に可愛さを見出していることを理解した。その途端、額の辺りがぼうっと熱くなった。まさか本気で愛玩されているとは思っていなかった。

 すっかり消耗している竿から、友希那の手がゆっくりと離れていた。

「ほら見て。私の手、こんなについてるわ」

 友希那が、彼にその右手を見せつけるようにした。彼はそこではじめて、自分の竿をしごいてくれた友希那の素手を視た。全体的にどろりと白色に濡れていた。光沢のようなものもあった。出したばかりの精液が、我が物顔でべっとりと絡みついているようだった。

「すごい……」

「そうでしょう? これ全部、あなたが出した精液なのよ? すっかりあなたで、マーキングされちゃったってことになると思うの。ふふっ、なんだか、あなたに精液植え付けられてるみたいで、私も、興奮するわ」

「うへ……」

 友希那が左手のほうで、再び頭を撫でてくれた。暖かかった。やはり母性を感じた。友希那からの絶大な庇護の意識、あるいは、愛玩されている意識を感じざるを得なかった。

「ママ……」

 彼の笑みはふやけていた。しかし無力というわけではなかった。筋肉が程よく和らいでいる雰囲気だった。

「いい子よ、いい子……。たくさん射精できて、すごくえらかったわね……、でもこの量は、私も流石に驚いてしまったわ。ふふ」

 今まで、友希那の前で射精したことは何度もあった。しかし、ここまで激しく、長く、部屋そのものを汚すほどの射精は、はじめての経験だった。つまりそれほどまでに興奮しているということだった。それほどに気持ち良かったということだった。それほどに、湊友希那という女性が、ママが、素晴らしいということだった。

「……ねぇちょっと、手、出してみて?」

 そんな友希那が、また何かを提案してきた。

「最後に恋人繋ぎ、しましょう?」

 ぼうっとふぬけている彼は、少し困惑しながらも左手を差し出した。深く考えていなかった。考える必要もあまり無いかと思っていた。

「ありがとう」

 友希那が、伸ばした手首を左手で掴んだ。やはり友希那の体温は温かかった。

「ふふ」

 笑みをこぼす友希那は、次の瞬間、彼の手のひらに唇を触れさせた。彼は驚いた。目を見開いていた。しかし友希那は、そのまま舌を突き出して手をべろべろ舐めていた。楽しそうだった。目元がにやにやとしていた。口内でたっぷり溜めた唾液で潤わせた、温かい舌だった。基本的にぬるついており、どろりと流動的だったが、ざらりとした質感もあった。彼はそんな舌を押し付けられていた。友希那は猫のように素手を舐めていた。しかしどちからといえば、手を舐めているのではなく、舌そのものをぐいぐいと擦ってくる情緒だった。

「ゆきな、さん……?」

 友希那は、素手の中に唾液を塗っていた。淡々としていたが絶対に手を離さない意思が在った。

 やがて、友希那は彼の手から舌を離した。彼は素手のひらを視た。全体が友希那によって、てかっていた。友希那によって、ぬるついていた。友希那によって、とにかく蠱惑的に染められていた。

「なにこれ……」

 彼は、友希那を視た。素手を近づけると、友希那の唾液の香りが鼻孔をくすぐって竿が反応した。

「これは私からの、マーキングのお返し。これで、ちゃんとお揃いになったわね」

 友希那はほほ笑んでいた。数秒遅れて事を理解した彼は、友希那の小悪魔のような企みに、ふやけた顔で返答した。

 すぐに頭を撫でられた。意識してみると、こちらの素手も、むわっと温かかった。撫でられているだけなのに、じっくりと安心できる不思議な魅力だった。

「……やっぱり、可愛い」

 友希那の笑みは、視ているこちらがぞくりとするほどに、鋭い愉悦で満ちていた。

 彼は確信した。確実に、自分が一方的に愛玩されているようだった。友希那が普段、猫に向けているらしい笑みや、雰囲気も、こういう意識の中に在るものなのではないかと思った。

 ひょっとすると、もう自分たちは対等の位置関係には無いのかもしれない。自分は友希那ママの下であり、永遠に赤子のような対象として、愛でてもらえるのかもしれない。

「へへ、へへっ……」

 その愛玩に満ちた友希那の意識が、彼は、なによりも、なによりも嬉しかった。

 

「少し、驚いたわ」

 友希那は、彼を視て呟いた。

「まさかこんなプレイが好きだったなんて、本当に意外だわ」

 部屋に散布した精液を拭き取りながらのことだった。

「う、なんか、ごめん……」

 彼は、若干の気まずさを含んでいるらしい声だった。友希那と同様に、精液を拭いていた。

 友希那は声を聞きながら、それでも冷静だった。

「構わないわ。私も楽しかったから。……赤ちゃん言葉で気持ち良くなってくれているところとか、可愛かったもの」

 友希那の脳裡に先ほどの彼が蘇った。今思い出しても、股間がうずくほどの愛らしさだった。

「そう言ってくれるなら嬉しいよ……。けど、やっぱりごめん。急にこんなこと頼んじゃって」

 彼は、改まった真剣な顔で友希那に謝罪した。その顔の中に先ほどまでの煌めきは無かった。冷静で、不動な雰囲気だけが在った。

 友希那はその目を見つめながら、思わず口元を緩ませた。

「きっとそういう時は、『ありがとう』って言うべきなのよ」

 友希那は優しく促した。彼は一瞬戸惑ったような顔をした。その頬はすぐに赤くなった。彼はにやけていた。ぐにゃりと表情が溶けていた。

「ありがとう」

 声色は穏やかで、暖かくあった。申し訳なさの類は、少しも見えなかった。

「ねぇ、少しいいかしら?」友希那はそんな彼に、真剣なまま、口を開いた。「もしあなたが、最初からそういう願望を持っていたのなら、私はそれを満足に吐き出させてあげられなかったことになると思うの。それは、本当にごめんなさい」

「そんなっ――」

「でも、同時に私も、『ありがとう』って思ってる。今日、こうしてあなたは本当の欲望を打ち明けてくれた。こうして楽しく、気持ち良くなれた。私たちはきっと、これからもお互いを知って、もっと深く付き合っていけると思うの。私の身体、両手も、口も、足だって、あなたの自由よ。胸は……、少し小さいけれど、でもあなたが欲しいいって言うなら、喜んで使わせてあげるつもりよ。下の方だって……、当然同じ。全部あなたのモノよ。だから、これからも、もう遠慮なんてしないでほしい。たくさんえっちな『お願い』をしていいから、安心して私に、ママに任せてほしいの」

 友希那は、彼の目を見つめながら真摯に話した。

「……ど、どうかしら?」

 言った途端に、じわりと羞恥が持ち上がってきた。友希那は赤面しながら、彼の顔を見つめた。友希那が話したのは、一切の淀みの無い本音のつもりだった。先ほどの、全く知らなかった彼の強烈な射精を前に、友希那は改めて彼を愛していた。その愛情は激烈へと到達していた。もうやみつきだった。彼の欲望に、いつまでもいつまでも相乗りしたいと思っていた。

「ね、ねぇ、何か言ってほし――」

「そ、そっかぁ……!」

 無言だった彼は、少し驚いたような様子だった。弾けたような声だった。それからじっくりと、友希那の言葉の意味を咀嚼するように深く頷いた。

「ふふ。ゆ、友希那さんからそんなこと言ってもらえるなんて、夢みたいだ……」

 彼も頬を赤らめた。いかにも恥ずかしそうにしていた。彼は目を逸らし、そのまま「えへえへ」と笑っていた。

 今は、そういう姿でさえ愛おしいと感じていた。

「そうね。前の私なら、きっとこんなこと、言わなかったわ。でも、今は違う。あなたという大切な相手ができたから。音楽とはまた違った、かけがえのない大切な存在。そんなあなたに尽くすのは、恋人として、当然じゃないかしら?」

 友希那は、ほほ笑んでみせた。その瞬間、彼が勢い良く抱き着いてきた。少し驚いた。裸体である彼の肉体が触れていた。彼の肉体はごつごつとしていた。男性の身体だと思った。彼の身体だと思うとさらに興奮して股間が濡れた。彼は深く友希那に身体を押し付けてきた。友希那は彼の胸に顔を触れさせた。彼がぐっと友希那を抱いた。互いの肌と熱が合わさっていた。

 すると、腰の辺りに硬さを感じた。

「また勃起してる」

 彼に抱き着きながら、友希那は少し呆れていた。彼には雰囲気を意識するという感覚が無いのだろうか。

「ごめん。どうしても、友希那さんがえっちで」

 彼の声は強張っていた。

「まったく、仕方がない人ね……」

 友希那は恍惚としていた。彼の胸板に顔をぐりぐりと押し付けた。腕を動かして、彼の背中に優しく触れた。彼の背中も硬かった。それが何よりも安心できた。包むようにすると、腰の位置の竿がさらにびくついた。

「……友希那さん、こんなに受け入れてくれる人が恋人なんて、僕は本当に幸せ者だよ」

「ええ、私も十分幸せよ。……あなたと一緒だから」

 友希那は彼の胸から顔を上げ、彼の表情を見上げた。

 彼の顔は、すでに冷静さを取り戻しつつあった。しかし友希那は見逃さなかった。その中に、愛だけで満たされた温かさが宿っていた。

「こんなのだけど……、これからも、どうか、よろしくお願いします」

 彼は、林檎のように頬を赤らめながら、しかし、はっきりと言い切った。

「ええ、もちろん。こちらこそ」

 友希那も、それにはっきりとした声で返答した。

 二人は同時に口を緩ませた。

 二人の間にあるのは、純粋で濃厚な思いやりだけだった。互いを想う気持ちだけが、二人の中で咲いていた。

 友希那は彼を見つめながら、彼の陰茎を素早く握った。彼の竿は友希那のものだった。

 もう絶対に握りそびれたくなかった。ずっと掴んでいたかった。

 彼の熱と、それから硬さが、友希那の素手にじっとりと、触れていた。

 

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