「……あら、どうしたの?」
湊友希那は机から顔を上げ、自室に入ってきた彼氏の顔を素早く見た。
「何か用かしら?」
友希那は続けて明瞭な声で訪ねた。
「ええっと……」
彼は部屋の入り口で立ち尽くしていた。一度声を出しかけたが、すぐに俯いてしまった。友希那はぎゅっと目を強めて彼を見つめた。彼は、勢いのあった口を、焦っているようにもごもごと失速させるばかりだった。
「?」
友希那は何も言わない彼に困惑していた。彼の瞳の光は弱弱しかった。死にかけている線香花火そのものだった。友希那は彼を目で舐め廻した。全身からは落ち着きの無さを感じた。心細さのようなものだった。
「ちょっと、どうしたの?」
友希那は硬く訊ねた。しかし彼は無言だった。明らかな羞恥を得てもじもじとしていた。
「あ、いや……」彼は何かを言いかけて再び口を閉じ、「やっぱいいや」と捨てて立ち去ろうとした。
なんともなさけなかった。
友希那は鋭い眼光を作って彼を睨んだ。
「付き合っているからって、何でも察してもらえると思わないで」友希那が鋭く飛ばすと、彼の歩みがスンと止まった。友希那は背を睨んだまま彼を意識した。「してほしいことぐらい、自分の口で言ったらどうなの?」
彼の背が止まり、くるりと向き直った。いまだに怯えているような様子だった。
「安心して。否定するようなことはしないわw。ちゃんと聞いてあげるから、しっかり話してちょうだい」友希那は椅子に座ったまま彼を見据えた。
彼は一つの覚悟を備えたような顔だった。少しだけ男らしい雰囲気を感じた。
「おっぱいが、舐めたい」
そしてようやく声を出した。低いが芯のある質感だった。
「胸……」やっぱりそういうことなのか、と友希那は胸中で独り言ちた。呆れと喜悦が同時に発生して口から空気が抜けた。
「勃起、しちゃってさ」
途端にへらついて誤魔化している彼の声に、友希那は全身がじゅるりと反応するのを意識した。
「あなたって、頭の中に性欲しかないのかしら」友希那は真顔で突いた。男をむき出しにしている彼を、少し遠くから観察して分析する情緒だった。
「それはっ」彼は鋭い声を刺し込んできた。「友希那さんがえっちだから……」友希那に縋って尊ぶような声だった。
「私のせいにしないで。勝手に発情してるのはあなたでしょう?」
友希那はさらに真顔のまま追撃した。
「う、ごめん……」
縮こまって呻く彼を前に、友希那はため息を吐いた。彼という人間は、一度そういう情緒になると途端に正直になるのが常だった。どことなくみっともなさを感じた。性欲むき出しなところには下品さも感じた。
しかし不思議と、嫌だという意識は感じないのもまた常だった。
「胸が舐めたいの?」
囁くように確認すると、彼は強く頷いた。自分の性欲の意思の誇示だけは、勇ましくはっきりとしていた。
「……また、ママなの?」
友希那が控えめに呟くと、彼は途端に顔面の閃光をより焚いて肯定した。
「はぁ……」友希那は思考が遠ざかって停滞していくのを感じた。脳が物理的に重くなったような気がした。どうして自分の彼氏という人は、性欲というか性癖に正直なだろうか。
「ねぇ、あなたって、疲れているの?」友希那は彼に向き直って訊ねてみた。
「えぇ?」彼がきょとんとした目を向けた。
「疲れているから、私にママ、ママーって縋ってくるのよね?」
「答えたらママに成ってくれる?」彼はにたついていた。
「回答次第よ」友希那はきっぱりと放った。刀剣のような鋭い眼光と声質だった。
「えへへ」彼は口を緩ませるだけだった。
「どうして笑うのよ……。まったく」
それが答えだとでも言いたいのだろうか。どろりと思考する友希那は二度目のため息を吐いた。また赤ちゃんプレイとやらをやらなくてはいけないのかと思うと、倦怠感と庇護欲がちょうど半分の割合で脳に湧き出した。友希那はじっとりとした目で彼を視た。彼はずっと友希那を視ていた。その目には依然として輝きがあった。音楽を語ってくれる時の目よりも輝いているような気がした。
――この人、ただ私としたいことをしたいだけなんじゃないからしら。
それが真実なら、とことんどうしようもない人だと思った。
しかし、それでも何とかして付き合おうとしている自分が居た。
友希那は素早く椅子から立ち上がった。目が無意識に彼の股間に向いていたが、今の状況で栄えは窺えなかった。友希那は素早く彼に歩み寄った。彼はいつまでもにたりと歪んでいた。目線は確実に胸にあった。
「あなたって、本当に物好きね」友希那は彼の顔を下から覗いた。「私をママにするだけじゃなくて、今度は胸なの?」
友希那は自分の胸部を視た。膨らみはほどんど無く、平坦な乳房が衣服越しに視えるだけだった。「こんな小さな胸が良いだなんて……」友希那は彼の顔に目を戻した。
「本当にいいの?」
「うん」
彼は呟きながら頷いた。即答だった。「あ、嫌だったかな……」
その瞳は恥ずかしそうだった。堂々と性癖を要求してくるくせに、変なところでこちらの情緒を気にするのも、いつもの彼だった。
「かまわないわ」
友希那ははっきりと彼を視た。純粋な本心だった。
「へへ、まま……」
すると彼は途端に甘えた声を出した。媚びているような声だった。
「わかったわ」もはや呆れの境地に在った。彼の異常性癖を容認している自分にも理解が及ばなかった。「今回だけ、仕方ないからやってあげる」
「でもそれさ、昨日も聞いたよ」彼は唐突に真顔になった。
「……今回でママやめようかしら」
途端、彼の顔からスッと色が消えた。
「ふふっ、嘘よ」
友希那は明るく囁くと、彼の顔を左右から掴んだ。柔らかい肉の心地が触れた。ぼうっと蒸れている質感だった。友希那は彼の口に一瞬で唇を突きつけた。そのまま滑り込ませるように舌を入れた。ぬるりと彼に侵入した。素早く彼の口内を一通りかき回してから、ゆったりと離れた。
彼が名残惜しそうな目をしていた。
「赤ちゃんプレイだなんて……」友希那は彼のその瞳を注視した。「本当に、おかしな趣味ね。どうしてそんなものを思いつくのかしら」
友希那は至近距離で彼をあやした。発言内容とは裏腹に溶けるような甘い声だった。彼の不安げな神経を直接癒すような仕草だった。
「ままぁ」
彼が呟いた。意識ではなく無意識の中から飛び出たような声だった。彼の小さな瞳は、輝く閃光で満ち満ちていた。元気溌溂な男児のそれだった。友希那は腹の辺りが蒸れて重くなるのを意識した。やはり愛する男性の笑みとは素晴らしいものだった。何よりも清くて尊いものだった。衝動的にもう一度接吻をしたいと思った。はやくベッドの上でまぐわいたいと思った。
しかし理性がそれを制止した。
「……でも、ごめんなさい。ちょっと待っていてほしいの。あと少しで歌詞が書き上がるから、それが終わったら、ちゃんと気持ち良くさせてあげる」
友希那は名残惜しそうに彼から手を離した。そして自分の服を脱いだ。唐突だった。目の当たりにした彼が短く驚いていた。友希那はそれを無視してにやけながら脱衣を続けた。上半身に着ていたブラウスを両手でぐしゃぐしゃにまとめると、それをきょとんとしている彼に差し出した。
「なにこれ」
「視たらわかるでしょう? 私の服よ」友希那は平然と呟いた。真剣な光が目に宿っていた。
「いや、それは知ってるけど……」彼は友希那の手の中の衣服を視ていた。
友希那は彼に衣服を押し付けた。当然受け取ると思っていた。案の定彼は受け取った。ほんのりと温かい衣服が、彼のごつごつとした素手の中に向かった。友希那の勢いに負けて流されるような情緒だった。
「もちろん脱ぎたてよ」友希那はまたもや平然と説明した。この情報によって彼が安心し、興奮するだろうと確信していた。
「目の前で脱いだもんね」
「ふふっ」
「なんでちょっと誇らしげなの……?」衣服を受け取った彼は友希那の顔を視ていた。
「だってあなた、こういうのが好きでしょう? 脱ぎたてだから、私の蒸れたニオイとか、たくさんついてると思うわ」友希那は続けて説明した。この情報も無いといけないと思っていた。
「ニ、ニオイ……」
彼はゴクリと喉を鳴らして衣服を視た。彼の中で、衣服の価値が一気に高騰しているようだった。それでよかった。それこそが友希那の企みだった。
「それ、もうあげるわ。部屋では私のニオイを嗅いで、ゆっくり待っていてほしいの。すぐに終わらせるから」
「……わかった。待ってる」
彼は衣服を少しだけ見つめると顔を上げた。その顔には、もう先ほどまでの落ち込み具合なんて少しも無かった。それらがまるっきり嘘のように、明るく漲っていた。彼は友希那のことをまっすぐ見つめていた。にこやかだった。歯列が覗く笑みだった。褒められた少年のような雰囲気だった。いつも通りの、甘えたがりな時の彼だった。
「待たせることになってしまって、本当にごめんなさい」
そんな彼を前にした友希那は、母性が刺激されていくのを感じていた。内側から放たれて、そのまま全身が騒ぎ出していた。ゾッとするほどの喜悦だった。彼と出会うまでは少しも無かった感覚だった。特に股間がじんわりとうずいて、もうしょうがなかった。
「――でも、ありがとう」
友希那は彼にほほ笑みかけた。彼と過ごすようになってから、自然と明るく咲く機会が増えているような気がした。
「ねぇ……」
すると彼の顔が一気に火照った。最初の縮こまった情緒が再現されていた。
「まだ何かあるの?」
友希那は純粋な疑問で眉をくねらせた。
「もっかいさ、ちゅーしたい……」彼の火照りがさらに濃くなった。
「ま、またなの……?」友希那はきょとんとした。目を開いていた。
「いやごめん。もう行くよ」
友希那が高く声を出すと、彼はおとなしく部屋から出ようと動いた。素早かったが、背はなんだか寂しげだった。
「待って」
友希那は呟いた。気付いたら口を開いていた。同時に彼の身体に手を伸ばし、彼を振り向かせていた。彼の目は澄んでいた。視ていると胸中がきゅっと震えるほどだった。友希那は彼の首に腕を回した。隙だらけの彼にするりと絡みついた。引っ付くように懐に飛び込み、顔を寄せて、彼の口に迫った。
「んんんっ」
口同士が連結し、その中で舌が絡み合った。彼の舌は温かかった。唾液はねっとりとしており、触れ合うだけで意識が浮くほどの恍惚を得た。
「んっ……」友希那は彼から顔を離した。「ほら、今はこれだけよ。もう部屋に行ってちょうだい」
「んふ……」
とろけた顔の彼は、唾液で繋がっている口を歪ませた。
充実した満足感が咲いていた。
友希那は彼が待っているはずの部屋の扉を開いた。
彼はベッドに腰掛けていた。心なしか礼儀正しい雰囲気を感じた。
小さくなっている彼は、先ほど友希那が渡したブラウスを顔面に擦り付けて、そのまま激しく吸引していた。動作自体はとことん異質な雰囲気だった。彼が一時的に人間としての尊厳を捨て、ひたすら臭いに夢中になっていることが一目瞭然だった。小学生の頃に学んだ、違法薬物の中毒とはこのようなものを指すのではないかと思った。
彼は友希那の臭いの中に在るようだった。彼は永遠と臭いを嗅いでいた。激しい鼻呼吸の音が室内に鳴り響いていた。友希那が入室したというのに、彼は全く気付いていないようだった。気付かずに臭いの中の友希那を求めていた。凄まじい集中力だと思った。よく見ると、彼の鼻孔はちょうど脇の位置にきていた。どうやら、こびり付いた汗の臭いを嗅いでいるようだった。彼は友希那の汗の臭いに夢中であるようだった。本当に中毒症状なのではないかと思った。体臭を少しだけ妬んだ。
友希那はそんな彼の隣に座った。
彼と同じようにベッドに腰を落とした。
「随分激しいのね」真横の彼を見つめながら友希那はにやけた。
「んふっ?!」
途端、彼は勢い良く顔を上げた。
「そんなに私のニオイがいいのかしら。ふふっ」
友希那は平然と口元を崩し、彼を覗いた。
「もちろん」
彼は冷静な口調だったが明るい表情だった。ベッドの上でにっこりと咲いていた。あれだけ夢中だったのに、友希那の声に反応してからはぴたりと一瞬で、行動を中断していた。
「最高だよ、ふふ……」
彼は爽快な声で評すると再びブラウスに顔面を突っ込んで呼吸した。
「そ、そう……」友希那は目を逸らした。会話中だというのに臭いを吸引する彼に少し冷えた。衣服を渡したのは自分だが、ここまで好評だと恥ずかしかった。隣で彼の激しい鼻呼吸の音が鳴っていた。「あなたが嬉しいのなら……、よかったわ」
友希那は一度コホンと咳払いをした。自分の中の感情を初期化し、ひとまず彼への奉仕の方向に切り替えた。冷静に顔を保つと、改めて彼を視て穏やかに口を開いた。
「さっきも言ったけれど、待たせてしまってごめんなさい」友希那は真剣に彼へ声を届けた。「でも、ちゃんと待っていてくれて、ありがとう」
友希那は破顔した。心の底から明るく崩れていた。
すると彼はブラウスから顔を上げ、友希那を視た。
「ならさ」その瞳は燦然としていた。「ご褒美ほしいなぁ」
彼は楽しそうな雰囲気でにたついていた。
「そういうところ、本当に徹底してるわね」
友希那は彼の頭に腕を伸ばし、そのまま何度か優しく撫でてあげた。それは上から頭に触れるのではなく、横から頭を包むような動きだった。すると彼が、その友希那に寄り添うように柔らかくなった。縋ってくるような情緒だった。
「それで、今日は何がしたいのかしら。確かさっき、胸が舐めたいって言ったけれど……」
「うん。今までいろいろやってきたけれど、なんか、急におっぱいがいいなって思って」
「つまり……」友希那は目を少し離して思考した。「やっぱりあなた、赤ちゃんなの?」
「うん」
彼は堂々とした態度だった。赤ちゃんを自称することに、一切のためらいが見れなかった。友希那は彼からの暴露を思い返していた。そういえばはじめてそちらの方向で求愛されたのもこの部屋だった。あれは刺激的で、今でもよく覚えていた。
「不思議ね、何度かこなしているうちに、すっかり慣れてしまったわ」
「それは……、よかった」
「全部あなたのせいなのだけれど……。いや、もういいわ。ひとまず服を脱ぎましょう」
友希那は意気込んで彼を視た。しかし彼はなぜか苦悶の顔だった。ブラウスをベッドに置き、再び友希那の隣に座ってから、一切動かずに居た。
「どうしたの?」
友希那は彼から注視されていた。何か、欲しがりのような意識を感じた。
「はやく服を――」
「ぬっ……」
彼は目を逸らしながら口を開いた。重い意識が感じられた。
「ぬ?」
「ぬ、脱がせてほしい、なんて……」彼の顔はいつの間にか赤くなっていた。
友希那は目を見開いた。声すら出せずに驚いていた。
先ほど話した『赤ちゃん』という話題に、より強い信ぴょう性が備わっていた。友希那は脳裡で彼の衣服を脱がせている光景を創った。それは甘えるどうこうというより、もはやただの親子のように思えた。
改めて彼を視た。
彼は真剣だった。どこからどう視ても、服が脱げなくて困っている赤子ではなかった。
ただかまってほしいだけの男児だった。
「どうしても、自分では脱げないのかしら」
グッと見つめながら、友希那はようやく呟いた。
「むりかも」カッと蒸れている彼は、やはりにたついていた。
「赤ちゃんだもん」
「そんなことで堂々としないでほしいのだけれど」
「だって赤ちゃんだもん。無理なものは無理だよ。赤ちゃんだもん」
「連呼しないで」友希那はきっぱりとした態度で彼を制した。しかし、すぐに情緒が乱れて頬が蒸れた。「……今回だけよ」
「へへ、やった」
恋人から脱衣の要求をされて嫌な気が少しも無い自分が、不思議でしょうがなかった。
友希那はベッドから立ち上がった。彼の目の前に直立して彼を見下ろした。傍から観ても楽しそうな雰囲気だった。
「ふふ、ありがとっ」
「どういたしまして」友希那は低く吐いた「でも。最低限自力で頑張ってちょうだい」
「が、頑張ってみるっ」彼の口ぶりからは若干の下向きを意識した。本気で全ての脱衣をやってもらると思っていたのだろうか。
「それじゃあ、最初は上からよ」
「うん……」
彼は湿った声だった。友希那はそれを無視してシャツの裾を掴んだ。
「ほら、はやくばんざいして」
友希那が呟くと、彼はためらいなく両腕を上げた。友希那は掴んだシャツを一気に引き上げ、彼からシャツを剥がすように脱がした。彼の上半身が露出した。白っぽい肌色だったが男性らしく硬い雰囲気の肉体だった。
友希那は今自分の手にある彼のシャツをぐしゃぐしゃに丸め、顔面に押し付けた。
「ちょっと、友希那さん……?」
友希那は彼の困惑を無視して顔面をシャツで埋めた。
「んふっ。んんっ」
友希那は吸引を開始していた。激しく鼻呼吸をした。ほとんど衝動的な行動だった。嗅がずにはいられなかった。もはやそういう使命か何かだと思っていた。空気がスゥー、と音を立てながら勢い良く入り込んでいた。
「んんふっ」
瞬間、脳細胞が浮き出して、一気に蒸れた。シャツにこびり付いた彼の臭いだった。香ばしくて、雄っぽい風味だった。至高だった。彼が全身に達していた。彼で達していた。彼に包まれているような感覚だった。思考の全てが彼で統一されていた。
「あぁっ、いい、臭いっ……」友希那はとろける口調で一度吐くと、再びシャツに顔を擦り付けた。もう一度、改めて彼に沈みゆく意識だった。彼まみれの中でさらに鼻呼吸をし、彼を誘い込んだ。爽快な音と共に再び彼が脳まで浸透して火照った。「やっぱりあなたの臭い、好きよ……。すきっ。ふふ」
ようやくシャツから顔を離した友希那は、冷静な顔でベッドにシャツを置いた。先ほどまでの情緒が全て嘘か、その時間だけ人格が入れ替わったような切り替えだった。友希那はシャツをさりげなく自分のブラウスに混ぜ込むようにした。臭い同士が混ざり合う雰囲気だった。友希那は内心がぞくりと満たされていくのを強く意識した。
「ふぅ、それじゃあ次は、下の方ね」友希那は無表情を作って彼を視た。
「友希那さんってさ、なんて言うかさ」彼はきょろきょろと見まわしながら囁いた。
「何かしら」
「臭いフェチだよね」
「……フェチというものが何なのか、よくわからないけれど、私はあなたの臭いが好きなだけよ。あなただってそうでしょう?」友希那は淡々と反論した。
「そういうのをフェチって言うんだよ」
「次はズボンよ。はやくして」
無視をした友希那は次に彼の前でしゃがんだ。彼という偉大な存在に、自分から跪く感覚が少しだけ楽しかった。友希那は彼のズボンに手をかけた。金具とジッパーを解くと、そのまま両手で一気にずるずると下げた。彼の、すでにもっこりと起動している股間のパンツが現われた。ズボンからでは視えなかった彼の雄だった。友希那はそれにも手を伸ばした。そして下げる前に、彼の顔を見上げた。
「いくわよ?」
「う、うんっ……」
彼は笑っていた。純粋さのある笑みだった。燦然と輝く閃光そのものだった。友希那は彼の下半身に目を戻した。山はより強く盛り上がっているような気がした。友希那はパンツを下げた。
「んっ……」
途端、濃い臭いが室内を舞った。顔面を撫でてくる彼の臭いが在った。鼻孔に強引に流れ込むと、脳の中に溶けていってすでに意識が浮つきはじめた。
眼前に聳えるのは強烈な男根だった。ぶるんと震える竿は猛々しく、落ち着きなんてどこにもなかった。
「……相変わらず、大きいわね」
友希那は鼻呼吸をしながら声を漏らした。入ってくるのはもちろん彼の激臭だった。男として最も汚らしい部分だけを凝縮したような臭いによって、友希那はすでに犯されていた。
「赤ちゃんであるはずなのに、ここは巨大で、激しいわ。一体どういうことなのかしら」
友希那は口角を上げて彼を見上げた。
「ま、ままがえっちだから……」彼は調子の良い質感で震えていた。
「母親で興奮するのはよくないと思うのだけれど……」友希那は彼の陰茎に目を戻した。「でも、ふふっ。すごいわっ」
友希那は亀頭部分を凝視し、鼻先をさりげなく近づけて呼吸しながら、鮮明に声を出した。亀頭は穏やかな赤で、そういう色の果実のようにも思えた。そのまま見つめ続けると、思考がうっとりとしていた。形も臭いも明らかに歪な凶器そのものだったが、こうして彼の情緒と共に前にすると、どこからともなく欲望が滲み出てきて肌が熟れた。
「視れば視るほど、不思議な形……。そういえば、ずっとこんなふうになっていたの?」
友希那は陰茎を見つめたまま訊ねた。改めて視る彼の陰茎に、強い疑問が浮かび上がっていた。
「ん? あ、うんっ」彼は肯定しながら頷いた。目がせわしなく動き、身体そのものも、そわりそわりと動いていた。
「パンツの中に在った時から、こうだったのよね?」
友希那が冷静に訊ねた。下着の中でずっとこのままだったという事実が少し信じられなかった。なんとなく窮屈そうな印象を受け、素直に疑問をぶつけてみた。彼を見上げると、彼はもう一度肯定して首を振った。それから止まらずに、ウンウンと何度か呻いた。自己主張が激しいと思った。同時に陰茎もびくりと震えていた。どうやら連動しているようだった。
「そう……」
もしかしてこの人は、自分と居ると問答無用で勃起しているのではないだろうか。「ずっとだと、苦しそうね」
「まぁね……。んっ」
彼はびくびくと痙攣して示していた。なんだか露骨というか、敏感だった。
「あなた、さっきから、どうしてそんなに喘いでいるの?」
友希那は彼を見つめた。困惑の色が浮いていた。
彼の頬は火照っていた。
「いや、あのっ……」苦しそうにも視えたが、発せられる高い声から興奮状態に在るようだった。
「まだ何もしていないのだけれど……」友希那の中の疑問が、さらにうねりを作っていた。
「ううっ」
彼は嬌声を上げ続けた。竿も激しく震え続けていた。それは友希那のせいだった。友希那は竿の至近距離で声を出していた。そのため一言発するだけで息が竿にかかり、くすぐったい快感によって彼は根本からびくついていた。
友希那は不思議に思いながらも、ズボンの時と同様にパンツも彼から取った。正直、このパンツの臭いも堪能したかった。しかし、今は彼に集中すべきだと思った。臭いなどは、行為が終わった後にじっくり楽しめばいいはずだった。そのため、このパンツもシャツと同様にした。手早くぐしゃぐしゃに丸めて隅に置いた。同時に友希那は立ち上がり、素早く脱衣した。と言っても脱ぐのはブラジャーだけだった。黒色のタイトスカートはそのままにするつもりで、ブラジャーだけを身体から取った。今日つけているのは黒色で花柄が施されているものだった。友希那はそれを慣れた手つきで脱いだ。彼の目を意識していた。彼は釘付けだった。目線が物理的な重さとして体験できるほどだった。心ここに在らずといった具合で、意識の全てを友希那の乳房に集中させていた。しかし友希那は無表情で淡々と脱衣した。作業の一つのような雰囲気を放った。それでも彼はずうっと胸だけを視ていた。その時間の中で、友希那は顔すら視られなかった。そんなに胸が好きなのかと困惑しながら金具を解き、一気に胸部を解放した。
途端、控えめな主張の、まっ平らな乳房があらわになった。もちろん彼の目はそこに留まっていた。熱烈だった。
ブラジャーを置いた友希那は彼の隣に戻った。スカートに包まれている尻が、ベッドにどすんと沈んだ。
「それじゃあ――」
「ままぁっ……」
彼が唐突に甘い声を出して友希那に迫った。
「きゃっ」
「ままっ。ううっ」
破裂してどろりと出てきたような勢いだった。彼は嘆きながら友希那の胸を目掛けて頭を突撃させ、そのままぐりぐりと突撃した。
「ううっ」
「なっ、何っ。まっ、待ってっ」
友希那は高い声を上げて驚いた。身体が揺れ、体勢を崩しかけたがそれでもなんとか彼を受け入れていた。
「ままっ。ままぁっ」
彼はお構い無しだった。友希那の胸元に飛びついていた。吸い付いていた。両腕を友希那の背に回し、がっしりと掴んで乳房に顔面を押し付けていた。
「まま、ゆきなっ、ままぁっ」
甘い声を連呼しながら、彼は友希那を抱きしめた。慌てている友希那にい強引に迫っていた。自分で友希那の身体を引き寄せ、それに自分の頭部を擦り付けていた。
「んっ、ちょっとっ」
友希那が身体を離して制止を叫んでも、彼は乳房をまさぐっていた。
「まっ、てっ――」
「んふっ。んんっ。ふふっ」
それは待ち望んでいたような情緒だった。明らかに狙われていた。座った友希那は射止められていた。
「ううっ。んむっ。んっ」
「ちょっと待ってっ」
彼はもう我慢できないようだった。広げた左右の素手を乳房にそれぞれ当て、そのまま押し込むようにぐにぐにと数回揉んだ。乳房を揉んでいるというより胸部そのものを素手で這っているような感覚だったが、しかし手のひらはしっかりと柔肉を狙っていた。手はすぐに離れ、かと思えば彼は、次に顔面を胸に押し付けた。ほとんど盛り上がりが無いため、友希那の体躯そのものに顔面を突撃させているような具合だった。途端にんふんふと声が漏れた。谷間の位置で顔面が揺れていた。左右の頬で胸を嗜んでいるようだった。顔そのもので胸を貪るようにされるとくすぐられているような感覚になった。
「あなたっ。落ち着いてっ」
「んふっ。おっぱい……。ゆきなっ、おっぱい……」
彼は制止を無視して友希那の胸部に縋っていた。甘い声をまき散らしていた。友希那は動揺しながらも、そんな彼の頭部を撫でた。彼の頭部を抱きしめるようにした。すると自由に垂れている強かな薄紫の長髪が、ゆったりとした情緒で震えていた。長い髪は、それこそ彼を包んでいるような雰囲気だった。
「凄い、勢いね……。そんなに私のがいいの?」
「ゆきなおっぱいっ。うふっ」
彼は強い声だった。胸に突撃しながら明るい声を出していた。
「私の胸じゃあ、あなたの顔すら包めないわ」
「ままのおっぱいがいいの」
彼は、はっきりと放った。意思の強さのある声だった。そして声と同時に、彼はより深く友希那の胸の中に進んだ。硬い鼻がめり込み、しっとりとした質感の乳房は自由にぺしゃりとしていった。胸部全体に違和感が触れた。友希那の乳房は大した盛り上がりが無いため、胸が潰れるというよりは体躯に彼が入り込んでくるような感覚だった。身体そのもので彼を意識できた。自分の胸部と彼の頭部が一体化するような感覚だった。
彼は、そのまま友希那の乳房を鼻で擦った。乳房の中に在るらしい何かを探るような情熱的な動きだった。流石の友希那も身体の芯が震える喜悦を得た。恍惚として視界すら揺らいでいる友希那は、猛々しい彼の股間に目を向けた。先ほどまでまじまじと見ていた竿はさらに肥大化していた。そして震えていた。左右にブンブンと蠢いていた。根本の位置から蠢いていた。上機嫌な犬の尻尾のように大きい動きだった。ゆったりではなくかくかくとした鮮明な動きだったため、これを使えば確実なリズムが取れるだろうと思った。
「……ふふ」
そして友希那は雄犬の彼が、あるいは駄犬の男児が、本気でこの貧乳を好いていることを理解した。ただの貧乳にここまで野生的になる彼がなんだか可笑しかった。はっきり言って滑稽だったが、その滑稽さが喜悦に繋がっていた。
友希那は彼の頭部を撫で続けた。彼を抱え込むように愛撫した。そして、むしろ自分から彼の顔を胸に押し付けた。
「男の人って、もっと大きな胸が好きなんだと思ってたわ」
「ううっ」
彼の頬が右の乳房に触れて、ぐりぐりと蠢いた。
「私の認識が間違っているのか、あなたが少し変わっているのか、わからないけれど」
「んふ。まま」
彼の唇が左の乳房に触れて、ふにふにと這った。
「あなたが幸せなら、それでいいのかもしれない。……不思議ね、あなたを視ていると、あなたから愛されると、私は本当にそう思うわ」
友希那は彼を注視した。胸を顔で食んでいる彼は、いつの間にか両腕をがっしりと友希那の背に回していた。
「んんっ」
彼の額辺りが胸に触れていた。
「……聞いていないみたいね」
友希那はトントンと彼の頭を優しくほぐした。彼は乳房を味わい続けていた。その様を視ていると、友希那は自分の中で母性がより強く開花し、全身の細胞にじゅわりと繁栄していくのを感じた。
すると友希那は手首を掴まれた。彼だった。彼はそのまま友希那の素手を動かした。加減しているような弱弱しい掌握だったが引っ張る力はそれなりに強かった。向かった先は彼の股間だった。素手を強引に近づけることで、握ってほしいと主張しているようだった。友希那はそれを無視した。近くに在るだけなのに、素手に肉棒の熱が伝わっていた。友希那は何も動かさずにぼうっとした。泣き出してしまいそうな彼は、友希那の素手を自分の陰茎にさらに持っていった。力無くたたまれている友希那の指たちは、いよいよ竿のぶよついた質感に触れていた。籠った熱がよりくっきりと伝わった。素手が肉棒に溶け込むような雰囲気だった。友希那は彼を握らなかった。代わりに、弄ぶように頭を撫でてあげた。彼の手の動きが過激になった。自分の竿に友希那の素手を押し付けるようにした。ぐいぐいと触れると竿の方が倒れていた。友希那はその一切を無視した。
「にぎって……、まま、にぎってぇ……」
彼が友希那を見つめながら漏らした。高い声だった。震えた質感だった。潤んでいる瞳だった。友希那はじっとりと見つめられた。
「何を、かしら」
友希那は平然とした。脳裡に嗜虐的な意思が芽生えていることは理解していた。
「……おちんちん」
彼の目は潤んでいた。もはや眼球そのものが強烈な水分と化しているような具合だった。
「おちんちんだけじゃあ、何もわからないわ。そのおちんちんを、どうしてほしいの?」
「おちんちん、握ってほしい」か細く高い声だった。腹というよりは胸から出た声だった。
「誰に?」友希那は鋭く返した。
「ままにっ」
「最初から、ちゃんと言って」
「まっ、ままにおちんちん握ってほしい」
拍子抜けするほどに従順だった。彼は性欲のためなら全てを捨てていた。とてつもなくなさけなかった。もの凄く滑稽だった。
「ふふっ。そう、あなたって、私におちんちんを握ってほしいのね。そう……。ふふっ」
「にぎって……」彼は続けてとろけた声で呟きながら、再び友希那の素手を動かした。ぐい、と押し付けるようにすると竿がさらに反った。柔らかいはずなのに芯が在る不思議な熱の質感が指たちに触れていた。
「ねぇ、まま……」
彼はふやけた情緒だった。求愛だった。
「しょうがないわね」友希那はにっこりと宣言してから、ようやく彼に捕まれている素手を動かし、ためらい無く彼を掴んだ。
「んんっ!」
「握ったわ。見えるかしら。あなたのおちんちん、ちゃんと握ってるわよ」
加減など無い完璧な強い掌握だった。握ってから五指の居住まいを正し、さらに強く握りしめてみた。
「んあっ……」
彼の身体が大きく震えていた。顔だけではなく体躯そのものを友希那に擦り付けていた。友希那は軽く彼を擦った。彼の勃起を褒めるような情緒だった。
「ううっ」
彼はさらに震えた。すでに耐えられないほどの快感のようだった。身体もだったが竿も同様に激しかった。内側から弾けるように、大きく、どくりと震えていた。心臓の鼓動のようだと思った。そのまま友希那が摩ると痙攣が続いた。震える度に硬さが素手に伝わってきた。まさに彼は、自分の竿の強さを友希那に示していた。友希那は一度しごきを停止させてから、素早く彼を視た。胸の中に居る彼は、友希那の両肩をがっしりと掴んでいた。顔を乳房に押し付けていた。竿という象徴を掌握されたことで、とっくに情緒が弛緩しているようだった。肉体や精神までもを預けているようだった。友希那は彼に寄りかかられていた。
「なんだか、女の子みたいね」
「あう、うう……」
弛緩した彼は浮ついた声を出していた。竿が再び震えた。今度はびくびくと、何度も蠢いて友希那の中にめり込んできた。友希那は、そんな彼の激しさを落ち着かせるように、頭に在る素手を深く動かした。ゆったりとあやすような情緒だった。
「おちんちん、たくさん動いてるわ。私に握られて、そんなに嬉しいのかしら」
友希那は彼の耳元で囁いてみた。
「気持ち良い、からぁっ……」
彼は胸の中で泣くような声を出していた。
「ふふっ。声、凄く弱ってるみたいね」
男児のような彼を撫でながら、友希那は竿に指を押し付けた。素手の中で暴れる竿を、少し強引に押えて制御するような情緒だった。熱く煮えている竿に、こちらの五指を練り込むようにした。
「んんっ」
彼は息が詰まっているような声を出した。喉に栓をされたような、窮屈そうな質感だった。竿はどんどん硬くなっていった。友希那が揉めば揉むほど、強く集中していった。まさに、友希那が彼の勃起を操作していた。彼の性欲の加速を誘導していた。陰茎は震え、震え続け、体躯は痙攣のように不規則に動いた。
「それじゃあ、いくわよ」
彼の耳元で囁く友希那はしごきをはじめた。煮えている太い陰茎を五指で摩った。
「ほら、どうかしら? おちんちん、よしよしされて気持ち良いの?」
最初はゆったりとした。彼の竿の、のたうち回る激しさを撫でるようにした。包むような意識だった。淡々と素手を動かした。
「んふっ。すごいっ……」
彼が呻いた。上がった息で細く鳴いていた。胸の中で震えていた。友希那はそんな彼をさらに撫で続けた。竿もそうだったが頭も撫でていた。
「よかった。このまま全部私に任せていいのよ。あなたは、ただ気持ち良くなることだけに集中していればいいの」
「んふ。ままっ、ゆきなっ。うう……」
彼の痙攣は止まらなかった。むしろ過激になっていった。腰を露骨にくねらせる情緒だった。快楽を受けてたじたじになっているようだった。弱っている彼は友希那にしがみついていた。魅力がぎゅっと詰まっている小さな友希那の体躯に、自分の肉体を押し込むような勢いだった。先ほどから友希那の両肩をぎゅっと握り続け、胸部の谷間に顔面を擦り付けていた。時おり動いて乳房が撫でられていた。
「もっと私の手、感じなさい」
にこやかに囁いた友希那は、唐突に、何の予告も無しに、しごきの速度を上げてみた。
「あうっ。ううっ」
「ふふっ」
彼の腰が敏感に震えていた。もはや震えというよりは跳ねだった。釣り上げられた魚が、地面で披露するなさけないあの動作によく似ていた。しかし愛らしかった。こちらの奉仕になす術も無くただ一方的にやられているだけの彼がなんだ面白かった。いつもは頼りがいのある彼が、ここまでひ弱な存在に成ることを考えると、性癖とは凄まじい力を持つのだなと思った。
「はやいの、気持ち良いの?」
友希那は囁き声で訪ねた。
「はやいのっ。だめっ。でちゃうよぉっ。ままでちゃうっ」
彼の切羽詰まった意識が手に取るようにわかった。もう果ててしまいそうな雰囲気だった。友希那はまた唐突に、今度はなだめるように速度を戻した。頭部の素手と同様に、ゆったりと愛撫した。彼の中で盛り上がっていた激しさは、一応スッとなりを潜めたようだった。
「なんだかこれ、面白いわ」
友希那は全身で呼吸をする荒い彼を見つめた。
友希那は愉しんでいた。悪戯少女のような情緒だった。完全に彼を玩具にしていた。彼の快感を手玉に取り、彼を完全に惑わしていた。一人の雄を虐める感触にほほ笑みながら、その雄の抜けた姿を見つめ続けた。
「んふっ。ううっ。う……」
彼はずっと唸っていた。苦しんでいるのか気持ち良いのかわからない呻き声だった。しかし、それに反応するように友希那が頭を撫でてみると、彼は嬉しそうに肩をびくびくとさせて勃起が激しくなった。
これこそが彼によっての至福なのだろうと友希那は確信した。故に制止はせずに、ひたすらしごきを続けた。
すると陰茎の先から、じんわりと粘液が垂れて友希那の指に触れた。
「あら、もう我慢汁が垂れてきたわ。私の手コキ、そんなに気持ち良いのかしら」
「うふっ……。ままの手、きもちいいっ……」
彼は薄まる意識を吐露した。
「そう。よかった」友希那は冷静に返した。「見て、あなたのおちんちんから垂れてくる我慢汁、そのまま私の手に絡みついてる。ぬちゃ、ぬちゃって、いやらしい音……。それに、臭いも……」友希那は意識して鼻呼吸をした。素手から香るカウパー汁の臭いを、スンスンと吸引した。
「んっ……」
深みのある激臭が鼻孔を貫いた。友希那は自分の頬も赤くなるのを意識した。熱風を受けた脳がくらつき、すぐに細胞が心地の良くなった。直接的ではなく、少し遠い位置から嗅いだだけなのに、この威力だった。
しかし彼の雄の臭いは、それでもこちらの情緒を一瞬で恍惚とさせた。魅惑で魔性の、彼だけの臭いだった。
「ふぅ……」口から息を吐いた友希那は満足げに破顔していた。「あなたの濃いニオイ、好きよ。これを嗅いでいると、私までえっちな気分になってくるわ」
「ね、ママ……」
その下で、彼は強い声色を湛えていた。声に釣られる形で彼を注視すると、彼は胸から顔を上げ、友希那を視ていた。
「どうしたの?」
「そろそろ、おっぱい舐めていいっ? おっぱい……」
彼は友希那を見つめながら、物欲しそうに細く出していた。
「そうだったわね。あなた、そのために部屋まで来たのよね……」
「まま、おっぱい……」
「わかった。いいわよ。満足するまで、たくさん舐めて」
友希那は彼の頭部を自分の胸部に押し込んだ。口の位置に乳頭が触れるように、背筋を伸ばして胸部を彼に突き出した。
「ほら、おっぱいの時間よ。たくさん舐めていいのよ。ほら」友希那は自分の身体も彼に押し込んだ。
「おっぱい……」
「ええ、おっぱいよ。あなたのママのおっぱい」
「おっぱい……。ううっ」
甘く喘いで震える彼は、友希那に寄りかかっていた。腕を握り、友希那の華奢を頼りにしていた。枕に頭を預けるような情緒だった。
友希那は上から覆いかぶさるようにした。胸に埋もれている彼に這う体勢で包んだ。頭を撫でていた素手は背中に到達して大胆に這っていた。
「んふっ。ままおっぱい……」
彼は、ついに友希那の乳房を食んだ。ためらいなく吸い付いていた。友希那の胸部に在るのは、少しも飛び出ていない乳房だった。極めて平坦に近い胸元だった。彼はそれにいよいよ飛びついた。すぐに丸っこい先端を唇で包むようにし、口内で乳首をちろちろと叩いた。
「んあっ」
胸の先端が彼の口の温かさに浸かっていた。内部の熱は、この室内の温かさとは別ものだった。湿気があり、何より全てが彼だった。その彼は、ただ乳輪の位置を食むだけではなかった。口の中に誘い込んだ乳房の、そのさらに先端に発つ突起に、すかさず舌を触れさせていた。
「んむっ。んん」
彼の舌遣いは、まったく男らしいものだった。
友希那の雌が、彼の雄によって大胆に弾かれていた。
「んふっ。くぬっ。んっ」
鋭い電撃のような快感だった。しごきが緩まってしまうほどだった。しかし友希那は素手を止めなかった。止めるわけにはいかなかった。むしろ、今こそより強い激しさで彼を撫でるべきだった。そのため友希那は、身体を軽くよじらせながらもしごきを続けた。竿はより一層の力強さを発現した。カウパー汁でぬちゃりとしている竿を、同様にカウパー汁でねっとりとしている素手で撫でた。友希那の柔らかい肉の五指の中で、陰茎はずんずんと膨らんでいた。
「あっ、ふふっ。おちんちん、また大きくなったわっ……。もっとしてほしいのかしら」
「してぇっ。ままもっとしごいてっ」
「欲しがりな人ね」
「ままっ。ままぁ……」彼は友希那の体躯をぎゅっと握った。男性らしい強さが肉体に伝わった。
「ふふっ。赤ちゃんのはずなのに、気持ち良くなりたくて必死ね……。いいわよっ。ちゃんと最後まで面倒を見るわ。もっとっ。もっとたくさんしごいてあげるっ」
友希那は震える喉に力を込めた。しごきの速度を上げた。同時に、乳房に夢中になっている彼の背をより意識して撫でてあげた。胸を舐めている彼を誘導していた。汗で蒸れ、時おりびくつく背の全体を素手で這った。優しくも激しい素手の動きだった。胸を舐めている彼を肯定していた。
「いい子っ。いい子よっ。たくさん舐めていいから……」
ひらすら、彼を雄として褒め称えていた。彼は乳房を吸い続けていた。唾液が弾ける音が、彼の口から鳴っていた。吸引されると、乳房が少し引っ張られた。口の中にめり込んでいった乳房を、彼は、さらに素早い舌遣いで舐めた。全体の形を探り、撫でるように舌を動かした。
彼は口で友希那の乳房を堪能し尽くしていた。唇で乳輪を揉んでいた。舌先で乳首を弾いていた。そんなふうに大切にしゃぶられると、友希那は胸の全体がぴりぴりと反応した。それが心地良かった。赤ちゃんらしい彼を意識することができて満たされていた。彼は一通り乳輪の箇所を舐めた後に、乳首を突く動作に戻っていた。さんざん周辺を舐められた後に、思い出したように乳首に触れ、食べられていた。より濃厚な刺激が身体に流れて、友希那は火照っていた。
「んっ、痕でもつけるつもりなのかしら」
そんなことを言っても、もちろん彼は何も止めなかった。むしろより過激に友希那を求めていた。本当に乳頭に痕をつけるつもりなのかもしれない。それでもよかった。彼は貪るように友希那に触れていた。その猛烈な情緒は、もう執着と言ってよかった。
「本当に、赤ちゃんみたいっ……。ふふっ、そんなに吸っても、何もでないわよ」
彼は友希那の乳房に集中していた。何か必死さのようなものすら感じた。誰も横取りなんてしないのに、独占を強く続けていた。ただでさえ膨らみの無い乳房に、押し込むように顔面を触れさせていた。友希那の胸元そのものを、横から潰すような勢いだった。
「んぶっ。んんんっ」彼の口からチュウチュウと音が鳴ってた。
「大丈夫よ。おっぱいはどこにも逃げないわ。だから落ち着いて、満足するまで、吸って、吸っていいんでちゅよ……」
友希那は彼の頭を大きく撫でていた。彼を落ち着かせたかったが、それをやると、彼はむしろ激しく行動を加速させてしまった。友希那は全て理解したうえで、それでも彼の頭を撫でた。陰茎を相手する素手は、一旦前後するしごきを緩め、代わりに、でっぷりと肥えている真っ赤な亀頭を上から掴んだ。亀頭を丸ごと包み込み、素手で隠すような情緒だった。ぐりぐりと動かした。途端に彼の甲高い声が過激になった。友希那の中で震えていた。本当に少女のような声だった。
「亀頭撫で撫で、気持ち良いかしら」
「きもちいいっ」
彼のこの明るい返事を聞くだけで、友希那は心の一番奥の位置がじゅわりと湿る感覚になった。友希那は彼に向けて乳房を突き出した。
「ほら、おっぱいも、たくさん舐めて」
彼は流れるように再び友希那の乳房にむしゃぶりついた。友希那はそれでも素手の動作を続けた。彼の身体は不規則に跳ねていた。唾液が弾ける音と、嬌声が同時に室内に舞っていた。
「ふふっ」
友希那は、彼の二つの頭を同時にあやしながら、自分の身体の中の彼を、じっくりと見つめ続けた。
友希那が彼から『ママ』と呼ばれるようになってから、そのテのプレイや雰囲気が、もはや日常の中にすら溶け込んでから、すでに半年が過ぎていた。今思い返すと、あの日の衝撃は凄まじいものだった。ひたすら困惑した。とにかく驚いた。しかし、真摯であり性的であり、激烈でもある彼の姿に、ママ役の友希那は、すっかり心を打たれていた。
「んうっ。んぢゅっ」
「いい子、いい子、気持ちいいわね」
「んん……」
彼がこんなにも母性に飢えている理由は不明だった。しかしどんな理由であれ、友希那は彼を甘やかすだけだった。
竿の全体と、指たちに広がっているカウパー汁が、ねちょねちょと音を響かせていた。友希那は再び竿を握ってしごいた。淡々と続けると汁が弾けて散っていた。肉同士の擦れ合いが、彼にさらなる刺激を与えているようだった。汁によって滑らかになっているため、相当の快感が流れているのだろうと友希那は思った。快楽によって骨抜きになっている彼は、友希那が一度素手を動かす度に、身体そのもので反応していた。
彼は、そんな自分のみっともない様相を誤魔化すか、あるいはかき消すように、友希那の乳房に居た。硬く集結して存在している乳首を舌で転がすように連続で弄んだ。かと思えば、唐突に唇を吸いつかせて吸引することもあった。唇で乳房を揉むようにしていた。まるで本当に母乳を飲んでいるような調子だった。吸われていく音を奏でられると、友希那は、無いはずの乳が出てくるような気がしていた。
ならば、と思い立った友希那は、素早く口に唾液を溜めた。ぐちゅりと連続で音を泡立て、どこからともなく溢れ出る口内の粘液を、集結させた。この数か月で、すっかりこの手の行為の練度が上がっていた。
「んっ、れぇ……」
友希那は口に溜めた唾液を一気に放った。彼が啜っている方の乳房に、ゆったりと垂らすようにした。舌から離れた唾液は、ツー、と淑やかに落下していった。泡立っている粘液は胸に触れた。唾液はさらにそこを下って、今まさに、その乳輪に吸い付いている彼の唇に、どろりと到着した。
それは今の友希那が彼に対してしてあげることのできる、精いっぱいの授乳だった。
口で友希那の唾液を感じたらしい彼の竿が、友希那のしごきの中ではっきりと反応していた。
「私、まだ母乳は出ないから、これは代わりよ。どうかしら?」
「おいちっ……」
彼は友希那の乳房を吸っていた。好評のようだった。ぢゅるりという音が鳴り、唾液が吸引された。彼はさらに友希那の胸を頬張った。
「喜んでもらえてるみたいね。よかった」
友希那は満足感を得ていた。自分の作戦が完璧にはまった快感だった。思わずにたりと口角が上がっていた。その顔のまま彼を見つめた。身体の中で縮こまっている彼は、本当に赤子そのもののように思えた。
「まったく……。本当に、どこまでも赤ちゃんね、あなた」
「んぶ」
という声と共に、五指に主張してくる硬さを友希那は意識した。「あら……? またおちんちんが震えてるわ。そろそろ限界なのかしら」訊ねたわけではなかったが、彼の竿は応えるように震えた。「あなたの男の子、私の手で射精したいって、駄々こねてるみたい」
しかし友希那は、自分の甘い言葉とは違う情緒で動いた。しごきを停止し、竿の根本を握った。ぎゅっと絞めて堪えさせるような厳しい情緒だった。
「だしたい……。ままっ」彼の震えた声が心地良かった。
「――まだ駄目よ。出すのは駄目。もっと溜めるの」
友希那は、戸惑っている彼に硬い声を放った。小さな胸に吸い付いたままの彼は、もどかしそうに鳴いていた。物欲しそうな欲求だった。肩を小刻みに震わせていた。
「そんな声を出しても、駄目。もっと我慢するの。そうすれば、もっと気持ち良くなれるのだから。……あなたも、それがいいはずよ」
友希那は、彼の竿をより強く握りしめた。尿道に迫って上がっているはずの精液を、強引に押しとどめる勢いだった。
すると彼が、より激しく友希那の乳首を舌で叩いた。蠱惑的な突起に舌先を引っ掛けるようにし、力任せに突き放した。それを連続で仕向けられると、友希那は露骨に背筋が波打って甘い声が漏れた。涙のような情緒だった。
「ちょっと……! んんっ!」
火照った友希那は彼の頭部を改めて撫でた。暴走して授乳に向く彼を、なだめるように摩った。しかし彼は、それを受けてもなお乳首への攻撃を止めなかった。このままでは乳首でこちらが絶頂してしまうかもしれなかった。そのため、友希那は慌ててしごきを再開した。彼の竿も友希那の乳首同様に至極敏感になっているはずだった。数回素手を上下させるだけで、全身がぷるぷると震えていた。身体の内側からこみ上げてくるねっとりとした欲求が、身体を打ち破って爆発しようと準備しているようだった。
友希那はしごきを続けた。彼の口から嬌声が漏れていた。彼は肩にあった両手を背に這わせた。寄りかかるような体勢だった。いよいよ射精をするようだった。
「でるぅっ……」
「駄目」
友希那しごきを止めた。根本の部分をきゅっと握った。
「ああっ、うう……。なんでっ。うう」
彼が浮ついた声と共に顔を上げた。湿らせたティッシュのような表情だった。細い悲鳴だった。
「だしたいっ。だすっ。ううっ」
「いいえ、まだまだよ。耐えてちょうだい」
しごきを止めた代わりとして、友希那は頭を強く撫でた。それは彼の崩壊してしまいそうな理性を一度落ち着かせる行為だった。彼は潤んだ瞳だった。委縮した声だった。彼の中のひ弱さを、そのまま表現したように思えた。
そんな彼に向かって一度咲いた友希那は、しごきを再開した。が、彼の身体が震えて、持ち上がり、自動的に射精の瞬間へと移行していく兆候が少しでも見えると、ぴたりと奉仕をやめた。再び、根本をぎっちりと拘束して蓋をしてしまった。
「ままっ。ままぁっ。イきたいよっ」
友希那に埋もれる彼は泣きながら嘶いた。
「駄目よ」
「うううっ……。だしたい……。まま、おねがい」
彼は切望の意識をそのまま声に変換して溶けていた。口は変わらず強烈な吸引だった。吸われているというよりは食べられていた。乳首そのものが引っ張られるような感覚だった。ぢゅるりと音が鳴り、同時に竿からは絶え間なくカウパー汁が垂れていた。
「んふ。ままっ。ま、まま……。んふ」
「……ふふ」
友希那は彼の竿に目をやって呟いた。そして次の瞬間、一気に高速でしごきを再開した。粘液と肉同士が絡み合い、弾けて練られていく音が鳴った。
「んふっ……! んんっ、ふうっ、んんんんっ……」
それは本当に前触れが無かった。本当に唐突だった。彼にとっては、完璧に予測不能な情緒の変動のはずだった。
「まま……。ママ、出るっ……。もうっ、友希那っ、出ちゃううっ……」
彼は友希那をぎゅっと拘束して捕まりながら胸の中で叫んだ。
友希那はそれを撫でながら耳に唇を近づけた。
「いいわよ。ここまでよく耐えたわね。もう我慢なんてしなくていいわ。たくさん気持ち良くなっていいの。思いっきり、お漏らししてちょうだい。白いのが出てくるところ、私に……、ママに見せつけて?」
友希那は可憐の笑みだった。彼は限界のさ中だった。腰まわりの筋肉が一気に突っ張っていた。全身が強張っているのが友希那には、友希那だけには、はっきりとわかった。
「んふっ……、もうイくよっ……。ママの手でイくっ。イくのおっ……。うううっ」
友希那は、彼を愛撫しながらしごきを続けた。彼の頭部は汗で湿っていた。ざわめきのような短い頭髪を撫でながら、手首を器用に使ったしごきを与えた。粘り気がかき混ぜられてくような音が激しく連続で響いた。
「うふうっ。ままっ。ゆきなっ。ままぁ」
「いいでちゅよ……、お射精しまちょうねー。ふふっ。あなたが気持ち良くなっているところ、ちゃんと見ててあげるから。大好きなママに全部見つめられながら、気持ち良い白いおしっこ、お漏らししまちょうねー。ふふっ」
友希那は落ち着いた情緒を放った。これを言えば彼が確実に快感に果てることを熟知していた。熱で浮かされて喘ぐ彼とは違い、友希那はどこまでも余裕のある笑みだった。自分の母性の中で破裂していく彼を、上位から眺めて愛玩していた。
「イくイくっ、出る、手ちゃうっ、ママァ。ゆきなまま……! ああぁっ」
「イって……。イって?」友希那は冷静な顔つきのまま、身体を倒して彼の耳に接近した。「――ほら、イけ」
「んはっ……。イ、くぅっ……!」
友希那の低い声を合図にするように、彼は甲高く喘いだ。同時に体躯がピンと突っ張った。背中がぐにゃりと波打っていた。竿が痙攣を起こしていた。友希那が握る彼の先端から、勢い良く、濁った粘液が飛び出していた。友希那はそれでも激しくしごいた。射精を助長していた。白濁が連続で上に舞った。
「ふふっ。たくさん出てるわっ……」
友希那は亀頭を見つめて素手を高速化していた。引っこ抜くような意識だった。
「あっ、あぁっ。ううぅ……」
彼は友希那の胸の中で鳴いていた。友希那は丸くなった背を撫でていた。しごいていた。股間の竿は、震えながら白の放物線を描いていた。
「うぐう……」
「その調子よ。全部出しなさい。ほら、もっと……」
友希那はすかさず彼の耳元で囁いた。吐息のような質感だった。彼の耳に溶けて馴染んでいった。同時に彼が跳ね、落ちかけていた射精の勢いが復活した。彼の情緒と同じように、激しく鈴口から飛び出して着地していた。友希那のしごきはそれでも続いていた。呻く彼の発射も、何度も何度も続いていた。その度に竿が強く震えていた。しごけばしごくほどに精液が飛び散っていた。どろどろと垂れていた。いつまでも流れていた。ほとんど水道と同じ勢いだった。このままいつまでも出てくるのではないかと思った。故に友希那は彼がどれだけ射精してもしごきを止めなかった。むしろ強くしごき続けた。
彼から放たれた精は、その全てが友希那のスカートの上に着地していた。黒色のタイトスカートだったた。ぴっちりと張っている布の上で、濁った白色の飛沫がとても良く目立っていた。このスカートはそれなりのお気に入りであり、まだまだ普段使いがしたい一着だった。しかし、彼の精液になら汚されても別にかまわなかった。そんなことよりも、彼の竿から、睾丸から全ての精液を放ち、吐き捨てさせ、完璧にすっきりさせることだけを意識していた。
「うわぁっ。うううっ」
彼は完全に表情筋が溶けていた。悲鳴のような声を出しながらも、しかし友希那を拒絶することはなかった。友希那はそれを見つめながら竿を擦り続けていた。
「まだ、まだ出せる。まだよ……」
竿の先端を自発的にスカートに向け、どろりと垂れて放たれる射精を導き続けた。黒の良質な布は、出したばかりの彼でべっとりと汚れた。黒の上に白であるため、見ためとしての印象も強かった。さらに、スカートの上の精液からは物理的な重さを意識できた。本来自分を女性として飾ってくれる衣類に、彼の中で強く雄を意識できる要素がぶちまけられていた。それが何よりも幸福だった。彼だけに汚される感覚が喜悦だった。自分という女性の中に、彼という雄が介入してきたことが最良の出来事として感情を満たしていた。
彼の射精がおさまりを見せた。同時に、友希那もしごきを穏やかにした。何もかもを出した竿はすっかり萎れていた。友希那の素手の中で、弛緩してぐったりと在った。どろどろの友希那の中だった。カウパー汁だけではなく精液までもが付着している友希那の中で、とてもとても満足げに、ただくたびれていた。
友希那は、その竿から手を離すことはしなかった。縮んだ竿を五指で包み込んだ。そのまま彼を粘液ごと揉みながら、ゆったりと、彼を撫でた。
彼は、射精を開始した時から変わらない体勢だった。友希那の胸に頭から突撃し、背を丸めて両肩を握っていた。ぜぇぜぇと荒い呼吸をしていた。荒い吐息が谷間に当たって撫でられていた。両肩が大きく動いていた。激しい消耗に在るようだった。
友希那が悪戯に陰茎を強く揉むと、途端に先ほどまでの高い声を出した。
「……気持ち良かったかしら?」
友希那は穏やかに声を出した。甘く明るい声で彼を労っていた。「うんっ……」
彼は胸の中で薄く頷いた。弱弱しかったが、それでも熱のある声だた。とにかく満たされたのだろうと思えた。友希那はそんな彼の頭を、改めて撫でた。それは自分の五指を擦り付けるような撫で方ではなく、彼の疲弊しきった身体を心の底から敬い、いまだに静まりきらない情緒を落ち着けさせようとする丁寧な動作だった。
「んへ。へへ……」
「随分疲れているようね。その様子だと、本当に全部出し切ったのかしら」激しく起伏する彼の背に、友希那は真剣な声色で訊ねた。
「そりゃあ、もちろんっ」と呟きながら、彼はようやく顔を上げた。「友希那さんの手、すごかったよ」
火照っていた顔は少しだけ落ち着いていた。どこか干からびた雰囲気に在ったが、そんな彼の笑みは、確かな温かさと感謝が湛えられていた。
「よかった、ちゃんと生きてるみたいね」
「し、死んだと思ったの?」
「そうね。精液と一緒に、理性まで吐き出してしまったのかと心配したわ」
友希那は陰茎から手を離しながら冷静に思い返した。凄まじい射精がすでに濃い記憶として鮮明に想起できた。
「ほら、視て」友希那は自分のスカートに目を向けた。粘り付く精液は黒色の上で堂々としていた。「相変わらず、すごい量よ。私のスカート、妊娠させるつもりなのかしら」
「ご、ごめんなさい……」
「謝らなくていいのよ。たくさん出したのは、いいことなんだから。ほら、それよりちゅーしましょう……。お漏らし射精お疲れ様のちゅーよ」
友希那は彼の顔に顔を落とした。肉厚な唇同士が触れ合った。顔を押し付けるとぬるついて湿っている舌が絡み合った。友希那は舌を彼の口にねじ込み、彼の舌ごとかき混ぜて唾液を吸った。疲れているであろう彼に慎重になりつつも、しかし一方で、しっかりと自分の口の味わいを彼に感じてもらいたいと思っていた。
「……んっ。ふふ、私の手は、気持ち良かったかしら?」
彼から口を離した友希那は、ほほ笑みながら改めて訊ねた。彼の頭部に回した方の素手で、彼のことを撫でながら笑いかけた。髪をかき分けて彼そのものを撫でる動作だった。
「うん。最高だったよ」彼はふにゃりと笑みを浮かべた。「やっぱり友希那さんって、凄いえっちなママだったんだなぁ……」
「なっ……」途端に顔が火炎に成るのを意識した。胸の内側から何かが突き出し、身体が裏返るような意識だった。「えっちだなんて、別に、そんな……」
友希那は彼からお願いされて付き合っていただけに過ぎないはずだった。自分がいやらしいかどうかなど、そもそも思考したことがなかった。しかし、まさに彼から指摘された言葉を、どうにも否定しきれなかった。彼がそう言うのならそうなんだろうと思った。なんだか不意を突かれた気持ちだった。もどかしさを感じた。腹の底が痒かった。何かにつまずいて、そのまま情緒が不安定になった感覚だった。
「ふふ、ふふふっ」じっと虚を視て思考している友希那に、彼は咲いていた。その声で友希那は我に返った。彼の目には全てを見透かしたような色があった。ありとあらゆる感情を盗られていると思うと、脳内の熱量が一気に上昇して煩くなった。
「あなた、ことが終わったからってそんな――」
顔面が耳まで熱されているのがはっきりとわかってしまった。何か次に言い出そうとした。しかし彼が、それを遮るように友希那の胸に倒れてきた。友希那は驚きながらも、しっかりとそれを受け止めた。
「……本当に、甘えたがりな人ね」
胸の中で笑みをこぼし続ける彼を視て、友希那は温かい意識が改めて胸中に充満して落ち着くのを意識した。友希那はくしゃりと表情を溶かしながら彼の頭に手を這わせた。撫でるのではなく抱えて尊重するような意識だった。
彼の体躯の熱が、そのまま身体の中に溶け込んでいくのを友希那は意識した。
華奢な女体の中にきゅっと母性が詰められているような胸部で、それが最高に卑猥だった。
彼が友希那の乳房に夢中になったのは唐突なことだった。本当に突然、急に友希那の胸に意識が集中し、そこに甘えてみたいと激しく求愛するようになった。
黒色のブラジャーが剥がれ、乳房が視えてくる。まず、ぺったりとしている平坦の形が素晴らしかった。他の肌色から地続きの流れで造られている柔肉で、体躯の一部らしさがよくわかった。
激しさの無い輪郭は、視ているとそれだけで心が落ち着いた。その穏やかな雰囲気は、普段の友希那の冷静な性格をそのまま表現しているようにも思えた。起伏が無いぶん、二つの乳輪や乳首が目立っていた。友希那の桃色の領域と突起は、彼に生物的な女性を意識させた。今すぐ両肩を握り、胸部に顔面を押し付けてから、突起を巻き込んでひたすら頬ずりをして、とにかく、とにかく愛撫したいと強く思った。
友希那が目の前で脱衣した瞬間、彼は、自分の中の留め具のようなものが破裂した音を聞いていた。眼前に現れたそれは、まさに彼にとって、何よりも魅力的な友希那の胸だった。この穏やかな見た目の胸こそが最良だった。この盛り上がりは皆無な印象こそが素晴らしかった。
だから思わず抱き着いていた。顔面に触れる柔らかさだけで射精する勢いだった。
彼は友希那の制止を無視して乳房を堪能した。これこそが彼の求める友希那だった。彼が求める唯一にして、絶対の、温かい母性だった。
とぷり。
連続で身体を震わせる快感は心地良かった。発熱をさらに加速させる運動によって、意識が、水面にぼうっと浮いて任せているような輪郭の無い状態へと成っていった。発散は続き、最後の最後まで搾られて、何も無くなった後に余韻が波としてやってくる。
その中で確信する。やはり自分の母親は、友希那しかありえない。
そんな射精だった。
友希那は横になった彼に添っていた。
彼は隣の位置で友希那に密着していた。抱き合ったままベッドに入ったような体勢で、互いの熱や肌の質感がよくわかった。彼は恍惚とした顔だった。友希那を視ていたが、しかし時おり、我慢ならないような情緒で、引っ張られるような雰囲気で乳房に向いていた。瞳には少しだけ悲しそうな光があった。行為が終わった後、素手を洗ったりスカートを処理した際に発生した待ち時間の影響だろうと友希那は思った、現在の添い寝に至るまで、友希那は彼から離れていた。その少しの時間ですら、今の彼にとっては多大な苦痛であるようだった。
故に、彼は今までの寂しさを埋めるように、友希那のむき出しの乳房を凝視していた。口が半開きで、何かを求めるかの如くぱくぱくと動いていた。
(本当に、私の胸が好きなのね)
友希那は彼の視線を意識していた。やはり、彼は友希那の乳房を好んでいるようだった。
(不思議……)
友希那はそれがいまだに意外だった。
自分の身体に特別な関心は無かった。世間の女性の中には、胸に対してコンプレックスというものを抱いている人も居るようだったが、音楽だけをしていたい自分にとって、身体的特徴など至極無意味だった。胸なんて、小さくても大きくてもいいと本気で思っていた。そして、それとは別に、男性という生き物は悉く、巨大に実った胸が好みであり、それに対してのみ母性を感じるものだと思っていた。この価値観が世間に浸透している本当の認識であるのなら、自分の肉体というものは、男性から視て一切の価値が無い劣等なのだろうなと予想できた。
しかし、対面する自分の最愛の彼氏は、そんな思い込みから大きく外れていた。理屈の類はやはりわからなかった。それでも彼は、自分の幼さのある胸を特別好んで、本物の赤子が実母の胸を前にした時のような、とろける感情をむき出しにしていた。
「まだ揉み足りないのかしら」
友希那は明瞭な声を出した。彼の中に再び芽生えた欲求を射止めるつもりだった。
途端に彼の顔が驚きに包まれた。
「いやっ」
「かまわないわ」友希那はなおもはっきりとしていた。「揉みたいのなら、好きなだけそうすればいいじゃない」
「いいの? え、でも……」彼は視線と口を迷わせた。
くよくよとした彼に、友希那はだらしなさを感じた。どうしてこういう時だけ意思が弱まるのだろうか。
「揉むか揉まないか、はっきりしてちょうだい。揉まないのなら、服を着るわ」
「揉む」
言うがはやいか、彼はするりと腕で迫ってきた。目指すところはもちろん胸だった。小さな胸が素手に包まれ、覆われた。乳房だけではなく胸部そのものを求められていた。彼は男性らしい硬い手だった。乳房の中にめり込むような感覚だった。
「うわ、すごい……」
彼は友希那の胸部を凝視したままだった。燦然とする瞳は少年だった。しかしその手はすぐに離れようとした。
「待って」
もう遠慮なんてしないでほしかった。
ぬるりと遠ざかる手を友希那はがしりと掴んだ。彼が驚いていた。流石に竿は無反応だった。
「あなたが私の胸を特別に好んでいることは、今回ではっきりわかったわ」友希那は冷静に言葉を示しながら、掴んだ彼の素手を自分の乳房に触れさせた。乳房のぷにりとした質感を彼の素手で押し退けた。ひしゃげてしまうほどに、彼を自分から自分に突きつけた。
「ああっ……」乳房に触れた彼の五指がざわめいた。胸の全体を這う勢いだった。乳房の中に指が進んでいった。
「あなたがこれでいいのなら、もう自由にしてほしいの。好きなだけ、堪能すればいいわ」
友希那がにやりと歪むと、彼は乳房を見つめて手を激しくした。五指の蠢きが脂肪を揉み、無いものを執拗に絞るような情緒だった。それが数回過ぎると、やがて彼の顔面が再び胸部に貼り付いた。彼は素手で揉むより、顔面で感じるほうが好きなのかもしれない。
勢いのある動きだった。少し驚いた友希那は、しかしそれを両手で抱きしめた。本当に彼の頭を抱えていた。胸が無いため身体そのもので彼を包むことができているような気分になれた。その瞬間、腹胸の中で気持ち良いような苦しいような質感が発生して脳をも震えた。同時に、自分についてくれている彼のことがなんだかより愛おしく思えた。友希那は丁寧な手で彼を撫でた。撫でれば撫でるほど、彼への感情が盛り上がっていった。心臓が動き、過呼吸のようになった。苦しさは無く、代わりに心地良さだけで満ち満ちていた。友希那は震える本能を素手に乗せて彼を撫でた。
彼は顔を押し付けていた。谷間の位置で臭いを嗅いでいた。鼻呼吸が顕著だった。スンスンと音が鳴っていた。犬のようだと思った。友希那は愛玩するように頭を撫でてあげた。
「眠い、かも」彼の声が聞こえた。
「唐突ね」
友希那が率直な感想を述べると、次に胸の中で彼の欠伸が鳴った。
「あなた、やっぱり疲れているのね。ふふ、それならもう寝ましょう」
「うんっ……」
彼は柔らかい声だった。埋もれているため胸部からその声が聞こえていた。友希那は彼を撫でながら身体を丸めて彼を包囲した。
「ねぇ」
胸の中から彼の声がした。
「どうしたの?」
友希那は彼の頭頂部を眺めながら答えた。穏やかな声だった。
「子守唄、歌ってほしい」
「子守唄?」
「うん……。聴きたい」
彼はやはり甘えた質感だった。
しかし友希那はきっちりとした情緒だった。
「……嫌よ。私の歌は、あなただけのものじゃない。プロとして、誰か一人を優遇するなんて、そんなこと許されないわ」
苦い顔をして低く吐いた。すると彼が呻いた。甘く、媚びてくるような声だった。それをすればこちらが言うことを聞くと思っているようだった。なんだか癪だった。
「歌が無いと眠れないのかしら」
硬く訊ねると彼の頭部がざわりと動いた。胸の中で首肯をしているようだった。
「……今回だけよ」
「それ昨――」
途端、彼の顔を胸にねじ込んだ。窒息させる勢いだった。
「寝かせるために歌うのだから、あまり興奮はしないで、すぐに寝るのよ?」
「うんっ……!」
彼の弾んだ調子の返事を聞きながら、友希那は彼を撫で、それから、いつものように息を吸った。歌うからには、彼のことだけを意識し、彼に集中していようと思った。友希那は口を柔らかく開いた。
彼一人だけのライブも、いいかもしれないと思った。