※この作品はR-18です。

湊友希那ママシリーズ。   作:美肉。

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湊友希那ママ、臭い。

 彼はこの現実に圧倒されていた。

 彼は突っ立っていた。どこか現実感を意識できない次元の中に居た。今しがた閉じられた玄関扉の前だった。この自宅の中にはもう誰も居なかった。たった独り彼だけだった。棒立ちのままポツンと在った。

 彼の脳裡では薔薇が咲いていた。それはつい先ほどまでここに居た恋人・湊友希那の気配だった。友希那の声と顔と、そして臭いが本能の中に繁栄していた。外から聞こえてくる蝉の煩い音を無視して、彼の脳裡をただ友希那だけが埋めていた。

 友希那は気丈で強かで、さらに親しみやすい穏やかな雰囲気も在って、けれど、やっぱり頼りがいのある強い女性だった。

 彼にとっては唯一の女性だった。唯一の愛する女性だった。

 故に今の彼は落胆していた。友希那が行ってしまったという現実がどうしても耐えられなかった。

 脳裡では愛おしい友希那の声だけがじんじんと反響していた。

 彼は友希那の声が好きだった。いつでもどこでも丁寧で低くって、熟れた色気が在って、しかし同時に、確信めいた勇敢で真っ直ぐ突き進むあの美声が好きだった。顔とや臭いと同様に大好きだった。取り憑かれていると言ってよかった。可憐な活力に撃たれるだけで発情するのが常だった。すっかり安心するのが常だった。全ての思考を放棄して、彼女に何もかもを託して、人生のありとあらゆる決定を嬉々として任せたくなるのが常だった。

 友希那は彼にとっての絶対的な魔性だった。

 彼はぎゅっと決意した。視線は扉にあったが実際は友希那の顔を視ていた。身体にみなぎる友希那への想いと、同時にかき立てられていく無限の性欲が彼の身体を動かした。

 彼は廊下を一直線に進み目的地へ向かった。どし、どし、どしと足音が続いた。迷いを得ていない足取りだった。脳裡は愛する友希那を独占したいという欲だけだった。なんだか心が晴れていた。外に広がっているらしい夏の空のような、穏やかで爽快感に満ちた心境だった。彼は大きく歩んだ。

 今日は一日中かまってもらえる予定だった。確実にそのはずだった。偶然予定がぽっかりと空いたのだった。まるで、人間を超えた存在から今日はいちゃいちゃしてろと言われているように都合良く何も無かった。故にずっと二人で居ようと思っていた。

 朝日に祝福された寝室のあの空気感が心地良かった。互いのぬくい野生がそのままになっていて柔らかかった。

 そこに淀みを与えたのは一本の電話だった。

 寝起き故にまだパジャマ姿だった友希那は、それでも電話に飛びついた。懸命な態度で、声はすぐに凛々しく変わった。少し遠くで見守る彼はただ恐ろしいと思っていた。友希那のそれは豹変だった。つい先ほどまでのゆったりとした雰囲気が一変していた。これまでの何もかもが悉く嘘であり、全てきっちり演技なのではないかと危惧してしまうほどの変貌だった。淡々と話し続ける友希那の横顔を視る彼の胸中では、ただ嫌な予感だけが生まれていた。背筋を上がって情緒を脅かす鋭い予感だった。

「ごめんなさい。少し、出ることになってしまったわ……」

 電話を終えた友希那の口から飛び出た内容は至極辛い現実だった。

 昔からの付き合いの、いわゆる幼馴染の女性から届いた連絡だった。その女性は友希那の幼馴染であると同時に友希那と共に音楽活動をやっている仲間で、顔や名前は彼も知っていた。

 どうにも少し確認してほしいことがあるようだった。その用事というものは半日ほどかかるもので、今すぐ行かなくてはいけない、と友希那は苦しそうに話した。話し終えると素早く身支度を整えた。彼はてきぱきと動く友希那をを茫然と眺めるだけだった。何か問答をする隙間など無かった。

 友希那の姿はやはり美しかった。完璧に仕事人だった。音楽家・湊友希那その人だった。呼び止めて駄々をこねたい欲求はまだまだ滾っていた。しかしそれと同じぐらい、友希那の仕事を応援したい気持ちも栄えていた。友希那の仕事や友情に介入するのは絶対に違う、という思想だって前々からずっと持っていた。故に彼は文句なんて言わなかった。我が儘も発動しなかった。なんとか抑えた。出発する友希那を苦しく見送ろうと思った。

「……ごめんなさい。できるだけはやく戻るから、待っていて」

 そのまま土下座がはじまりそうな顔だった。どうか謝らないでほしいと思った。友希那は何も悪くないはずだった。しかし友希那は何度も何度も沈んだ顔で謝罪を口にした。

 たとえば幼馴染の女性に今回のことで何か感情を向けるだなんて、それは絶対に筋違いであり理不尽そのものだった。脳ではそういうこともしっかりと理解していた。理解していたが、しかし今日友希那の相手を予約していたのは他ならない彼氏である自分だった。故に強引に無視してきた女性のことが、少し、ほんの少しだけ嫌だった。

「それじゃあ、いってきます」

 友希那はそうやってひとつほほ笑んでからさっさと出発してしまった。

 彼は涙を飲んで友希那を送り出した。すらりと美麗な真白い素手を離れ、ゆったりと動いて、バタリと閉じていく扉を前に、彼はただ突っ立っていることしかできなかった。

 そして今に至るのだった。

 今の彼はつい先ほどまでの冷たく重い感情をひとまず隅に追いやって無視していた。今はただ自分の欲を満たそうとしていた。

 たどり着いたのは自宅の中でも水の気が盛んな場所だった。

 奥まった位置に鎮座する洗濯機は彼が一人暮らしの経験をもとに厳選した愛機で、いざ仕事をする際はきっちりこなす職人だった。

 家の清潔感を担っている存在を彼は軽々と無視した。向かう先は隣の洗濯かごだった。彼はかごの傍でしゃがんだ。中には衣類があった。ぎっしりと詰まっているのではなく一式だけが入っていた。それこそが目的のものだった。彼はかごの中に手を伸ばした。

「ふふ」

 ほんのりと柔らかい質感が指先に触れた。彼はその衣類を引っ張り出した。拾い上げた。引き寄せた。

 それは友希那のパジャマだった。しかも脱ぎたてだった。故にまだ友希那の女体の雰囲気が籠っていた。今の季節は夏だった。夏の蒸された夜の中、それでも心地良く就寝する友希那が着用したこのパジャマには、友希那の汗や体臭がくっきりと移っていた。彼は両手でパジャマを展開した。素手の大部分に熱が触れた。パジャマは濃厚な紫色で、就寝の邪魔をしない良質な布で造られた衣服の総面積は、何かを物語るように可愛げを含んでいた。

「友希那……」

 きっと、こういう状況を察知した友希那さんが、ここにパジャマを置いていってくれたのだろう。

 彼はそんなふうに解釈した。にやけ顔に続いて両肩が揺れた。途端に脳裡で友希那の声が反響した。

「勃起してるみたいだけれど、おちんちん、勝手にしたら駄目よ? わかった?」

 友希那は家を出る直前にそうやって制した。しかし彼に我慢という高尚な行為ができるわけがなかった。いつもいつもそうだった。欲が発生すれば友希那に迫り、友希那を最愛の『ママ』として認めてとにかく消費した。そんな彼が言うことを聞いて自制するなど到底無理だった。荒唐無稽だった。確実に達成できない偉業だった。故に彼はこの友希那パジャマをすぐに使おうと思った。使うべきだと思った。使うしかないと思った。

 しかし今ではなかった。

 今ではないと思っていた。ここで全てを解放するのは間違いだと思った。

 彼の脳裡にはこの興奮をさらに高める秘策があった。

 彼は友希那の脱ぎたてパジャマを持って歩いた。向かう先は友希那の自室だった。

 扉は簡単に開いた。抵抗は無かった。彼は扉を最大まで開けた。室内から異質な空気が流れてきた。冷たい、あるいは熱いというわけではなかった。しかし今まで廊下の中で感じてきた空気とは明らかに違う感覚だった。いうならばぬるい感覚だった。友希那の体温のように程よく熟れていた。彼は室内に向けて一歩を踏み出した。中は薄暗かった。部屋の主である友希那はもちろん外出していた。家には居なかった。残念なことに居なかった。彼は迷いなく進んだ。廊下の光源が筆で薄く引っ張った絵の具のように及んでいた。

 彼は友希那のパジャマの上下を手にさっさと歩いて一つの箪笥の前に立って、しゃがんで下から二段目を掴んだ。棚には若干の重さがあった。腕力によって引き出した。瞬間、また別の空気感がむわっと放出していった。箪笥の中から流れる新しい凝縮された友希那だった。飛び出す友希那は彼の顔面を撫でて舞った。部屋の雰囲気が一気に変動していた。なにか卑しい方向へと転換していた。彼は友希那に包まれていた。

 箪笥の中にはもちろん衣類が入っていた。しかしシャツや上着の類ではなく下着だった。友希那が普段、女性としての性器を隠すために着ている一番奥の布たちだった。まさに友希那の尊厳を守る重要な存在であり、彼にとっては並々ならぬ性欲を意識する貴重な存在だった。黒が多く、時おり水色や紫色もあった。どれも清らかで、もはや神秘と言ってよかった。

 彼はその一つに右手を伸ばした。ほぼ無意識の動作だった。自然と友希那の下着に誘惑されていた。彼が取ったのは黒色のパンツだった。丁寧にたたまれてねじ込まれていたが、彼が摘まんで引っ張ると途端にほろりと崩れて一枚の布の形を見せた。彼はそれを両手で貴重に持った。パジャマよりも軽かった。友希那の下着であるためどこか重苦しい雰囲気を感じていたが、実際のところその下着は彼の素手の中で簡単に落ち着いていた。現実感があまり無かった。しかしこれは現実だった。

 彼は喉を鳴らした。一度パンツを箪笥に置いて脱衣した。股間周りが一気に爽快に至った。全力を発揮している竿が自由になっていた。

 身体から強く生えている肉は自分でも制御不能なほどだった。上というか、前の方向に性欲が集結して勇ましく固まっていた。腰そのものが不思議な感覚だった。とにかく蠢いていた。痙攣は心臓と共鳴して身体をどくどくと滾らせていた。友希那のパジャマを持って友希那の部屋に入って友希那の箪笥を漁っているこの不道徳が、非常識なときめきをもたらしているようだった。

 彼は左手のパジャマに集中した。ぎゅっと握っていたが片手だけで完全に保持することはできず、パジャマが上から素手に被さっているような見ためだった。下着よりもふわふわとした質感だった。彼はパジャマを自分の顔面に押し込んだ。ためらいなんて無かった。

「んむっ……!」

 ふわりとしていた。温もりがあった。友希那の肉体から発せられる熱だった。優しい質量を彼は顔面で意識していた。恍惚と吐息を漏らす彼は友希那のパジャマの中を進んだ。顔面全体でパジャマを貪る勢いだった。布のふっくらとした質感が覆った。友希那が寝る時に必ず使用し、寝汗や体臭などがたっぷり染み込んだ衣服だった。今は自分の頬が、口が、鼻先が触れていた。

「んふっ。ゆきなっ……」

 彼は勢い良く空気を吸った。その瞬間身体の全てが反応した。脳がカッと閃光を放ち、体内のありとあらゆる細胞が一気に歓喜を上げているのがわかった。

「んんー……。んふ」

 パジャマにこびりついた友希那の臭いだった。ほんのりと甘かった。同時に鼻の中に残る独自の魅力が籠っていた。それは友希那の雌の臭いだった。何も飾っていないナマ身の友希那から漂う濃い臭いだった。彼はそれを嬉々として吸った。脳の細胞が弾けたり増えたりしていた。

「んふっ、んんんふぅっ、んっ」

 二つある小さな彼の孔が友希那の臭いを獲り込んでいた。パジャマを顔面全体に覆っているためどこでどのように呼吸しても友希那だった。吸えば吸うほど友希那だった。友希那にまみれていた。意識できるのは本当に友希那だけだった。友希那の姿や声がより濃い存在感として染みていった。とことん友希那の臭いだった。脳が友希那で埋め尽くされていた。友希那しか居なかった。細胞が友希那を強く意識していた。本能が友希那に取り憑かれていた。彼はパジャマをより強く顔に押し付けた。

 彼は激しく鼻呼吸を続けた。パジャマの中でうっすらと漂う友希那を隈なくかき集めていった。友希那の臭いに操られていた。薄暗い室内でスンスンスンと音が鳴っていた。とてつもない恍惚だった。凄まじい喜悦だった。彼は喜びに乗って友希那を嗅いでいた。嗅覚を野獣のように酷使して友希那を嗅いだ。嗅ぐという行為そのものが何よりも発達した優越だった。筋肉が震えて神経が滾るほどの興奮だった。どこか浮世離れしている友希那の人間らしい部分をじかに感じている心地だった。たまらなく倒錯した愛おしさがあった。

「うはぁ、ふう」

 彼はのっそりと立ち上がった。もう何も我慢する必要が無かった。股間にてすっかり盛り上がって固まった欲望が物欲しそうに痙攣していた。彼は箪笥の上のパンツを右手で持ち上げて竿を握った。陰茎そのものを友希那の神秘で包んでやった。

 肉棒は布のさらりとした質感に露骨な反応を示した。股間の奥から衝動が轟いて震えていた。彼は思考ではなく本能で感じ取ってしごきをはじめた。一心不乱だった。

「んぐっ……。ふぬっ。んあっ」

 緩急の類は無かった。最初から高速だった。しごいているというよりは必死に竿を慰めているような感覚だった。自分の中にすでに大量に在る性的な熱量をさらに盛り上げた。呼吸は当然荒くなった。彼は鼻で濃い空気を吐いたり吸ったりしていた。口で濃い空気を吐いたり吸ったりしていた。パジャマの友希那でとにかく満たされていた。意識がぼうっと友希那で浮いた。頭が軽く成ったような気がした。

「くうっ。ゆきなっ。ゆきなぁっ……」

 彼は腰を強張らせながらしごき続けた。たった独り取り残されてしまったその中で、同様に残された友希那の気配に縋り、行き場のない性欲を自主的に発散していた。自分で自分を攻撃していた。刺激の全てが愉悦だった。

「はぁっ。ううっ、ゆきなっ、ゆきなっ」

 彼は猛烈にパジャマを吸っていた。くしゃくしゃに丸めたパジャマを顔面に押し付けた。一度吸引するとその度に熱が竿に集中していった。よりくっきりとした濃度で巡っていた。竿をしごくと高まっていった。他の概念がどうでもよくなった。

「ゆきなっ、すきっ。ゆきな……。んんっ。ゆっ、ゆきなぁ」

 彼は薄暗い室内でつらつらと声を漏らした。今日の友希那は自分だけのものだった。独占できるはずだった。それは彼氏の特権だった。その権利が謎の第三者に脅かされていた。

「ゆきなっ、ゆきな……。んぐっ、ゆきな、ううっ……」

 友希那を没収される明確な映像が脳裡で浮き上がった。凄まじい喪失感だった。しごきが加速した。

「ゆきなぁ……。ゆきなっ。んっ、ゆきなっ」

 脳が湿っていた。とにかく悲しかった。心細くて砕けてしまいそうだった。友希那は自分の彼女でありママであるはずだった。しごきと鼻呼吸が過激に昇華した。

「ゆきなっ、んんっ。ゆきな……。すきっ、だいすきっ」

 素晴らしい音楽家の地位に立つのが湊友希那という女性だったが、それと同じくらい、自分の、自分だけの女性だった。鼻呼吸と共に友希那が入って来てくれた。しごく速度が熱烈に至った。

「ゆきなっ、でそうっ。もうでるよっ。でちゃうっ」

 彼は頭の中の友希那に宣言した。友希那に射精の瞬間を認識してほしかった。射精の欲求は身体を駆けて上がっていた。濁った快楽がどろどろとせり上がっていた。肢体が明確に震えていた。彼は腰を前方に突き出した。熱く上がっていく男根だけを必死にアピールした。自分の性欲の業を友希那に一生懸命みせつけた。彼は鼻で呼吸をした。ぐりぐりと顔面に押し付けた。パジャマからの臭いを受け取った。彼はそれでもパジャマとキスをした。彼がパジャマに触れているようにも、逆にパジャマが彼の顔面に覆いかぶさってまとわりついてるようにも思えた。脳裡に在るのは友希那だけだった。友希那を想っていた。とにかく友希那を意識し続けていた。友希那でしごき続けていた。なんだか友希那のために自慰をしているような感覚だった。布に籠った友希那を取り込んでいた。布の質感とぬくもりを確かめていた。単純な柔らかさとなめらかさだけだった。友希那が頬に触れていた。

「うううっ……!」

 彼は身体を反らせて思いっきりぶちまけた。練り上げられたものたちが勢い良く出発した。発射したのではなく限界を超えて破裂していた。どろりとした感触以外の全てが消え、圧倒的な爽快感だけが在った。

 出発は一瞬だった。彼はとても短い時間の中で雄としての全てを披露した。友希那にみせつけることはできていた。部屋には誰も居なかった。

 彼はパジャマから顔を上げた。パンツも剥がすように退けた。か弱い布はすっかり白く濁っていた。

「ふぅ……」

 やりきった彼はじんじんと癒えない感覚の中に居た。射精の反動とも呼べる後味だった。腰が強張って止まらなかった。物理的な重さのある質感だったが倦怠感のようなものは全く無かった。筋肉は弛緩して震えていたが、溜めに溜めた全てを最高の状況下で解放した幸福が心地良かった。今回のこの射精は友希那に導かれていた。友希那に精液を出してもらったような、あるいは、友希那に精液を差し出したような雰囲気だった。男としてきっちりやりきったような感情だった。達成感のようなものだった。

 一方で竿はくたびれていた。逞しさがすっかり抜けていた。柔らかく股間に付属してただ下を向いていた。

 彼はその萎れた竿の先端に友希那のパンツを触れさせてみた。

 縮こまった亀頭はぬめめっていた。さらに、散ることがなかった精液の残滓が垂れて糸を引いていた。彼は亀頭をパンツで撫でるように拭いた。敏感な亀頭の真っ赤な表面で布がごわごわと触れた。彼はパンツを亀頭に押し付けてみた。纏わりついている残り物が少しずつ拭き取られていった。

「うううっ……!」

 小さくなったはずの陰茎が大きく跳ねた。低い呻き声と共に亀頭の先端から少量の精液がぴゅっと飛び出した。一度目の射精の際の精液と同じような雰囲気だった。友希那のパンツの控えめな刺激が小さな射精へと導いたようだった。

 白濁は友希那の下着軍団を上から愉しそうにぐちょりと濡らしていた。

 彼は二度目の射精による亀頭の湿りもパンツで拭き取ったが、その中でも射精した。再びパンツが刺激となったようだった。しかし今度のそれは箪笥へと散るようなものではなかった。尿道を覆っていた友希那のパンツの黒色の中にじゅわりとオモラシをする程度の勢いだった。

「んっ、ゆきなっ……、すきっ」

 三度の射精で彼はようやく静まった。熱烈の性欲がひと段落を得たようだった。精液の拭き取りに使った友希那のパンツはどろどろに潰れていた。あの友希那の秘部を守るに値する尊厳は見受けられない汚れがこびり付いていた。もはや自分専用の精液拭き取りティッシュだと彼は思った。

 冷静になった感覚の中で、彼はふと、自分がぶちまけた精液を見たいと思った。きっと箪笥の中の下着軍団も、片手に在るこのパンツのように精液まみれだろうと思った。視たかった。精液を出した者としてそれは視なくてはいけないと思った。

 彼は後方を向いた。室内出入り口付近にある照明のスイッチを目指そうとした。

 しかしそうやって視界を意識した瞬間その身体が硬直した。動けなかった。動かすことができなかった。感覚は生きていた。それでも意識の方が完全に委縮していた。戦慄していた。故に指の一本すら動かせなかった。

「友希那さん……」

 友希那が立っていた。扉が大きく開かれた入り口に居た。廊下からのあの光が差し込む位置で、仁王立ちをして室内を見渡していた。

 その瞳は鋭い光で満たされていた。

 彼はその眼光にあっという間に打ちのめされた。

「――私の下着は、あなたの射精を手伝うためにあるわけじゃないのよ?」

 冷静で起伏の無い声だった。

 

 実のところ、急用というのはすぐに終わった。

 至極簡単な内容だった。この程度で呼び出さないでほしいとすら思った。彼との休日の時間が一秒ずつ無くなっていく感覚がとにかく嫌だった。なんとも耐えられなかった。はやく彼のもとへ帰ろうとだけ思っていた。

 故に友希那は走っていた。激走していた。彼のためだった。家で待ち惚けを受けている彼のことが愛おしくって心配だった。彼との休日を取り上げられた苦痛は強烈だった。前々から今日は一緒に過ごせると話していた。それを嘘にはしたくなかった。友希那は彼のためだけにたくさんたくさん走っていた。

 走っているとすぐに呼吸が辛くなった。しかしどうでもよかった。全ては彼のためだった。身体の内と外から同時に焼かれていた。そのため汗が放出し続けていた。いくつもの汗の玉が毛穴からじゅわりと放出して素肌を下って、我が儘に濡らして全身がぬるついた。

 今は夏だった。外は暑かった。熱は嫌がらせのように友希那の身体に絡みついていた。悪意そのもののような湿った熱だった。故に友希那は汗だくだった。薄着だったがそのシャツはあっという間に裸体に貼り付き、比喩ではなく本気で脱ぎ捨てたい衝動に到達した。

 帰ったらまずシャワーを浴びようかしら。あの人と一緒に入浴してしまうのも良い。それが終わったら、改めてたくさん二人きりで――。

 友希那は見慣れた玄関扉を開いた。

 慌てながら靴を脱いでいる最中、友希那は焦燥を得ていた。静かなことが気がかりだった。彼のことだから、家に到着すればすぐに察知し、駆け寄って来るものだと思っていた。なんだかぎこちなかった。罪悪のようなもので喉が刺激された。友希那は落ち着きながら、それでも大きく足を動かしていた。手洗いうがいを済ませた後、名前を呼びながら彼を探した。

 リビングには居なかった。

 ならばキッチンかと思った。いつものようにちゃんとした朝食を作ってくれているのかと連想し、その後を追う心地で向かったが、そこにも彼は居なかった。

 まさか消えてしまったのかと思考して腹の底が冷えた瞬間、友希那は一つの声を耳にした。それは自分自身を呼んでいる声だった。明らかに彼のものだった。妙に細くて弱弱しかった。小指一つで簡単に崩壊してしまいそうな弛緩した声だった。

 友希那は不思議に思いながら廊下を歩いた。彼がほぼ毎日清掃している廊下だった。歩いていくと彼の部屋ではなく自分の部屋の扉が開かれていることに気付いた。部屋の電気はついていないようだった。

「ゆきなっ、ゆきな……。んぐっ、ゆきな、ううっ……」

 声はその自分の部屋から聞こえてきた。室内に彼が居るのは確実だった。疑問がさらに深く友希那の脳に突き刺さった。とにかく状況を確認しようと思い一歩を踏み出した。

 薄暗い廊下から覗く室内はさらに暗闇だった。その部屋の中に彼が居た。いまだに友希那の名前を呟いている彼はなぜか箪笥に向かっているようだった。

「ゆきなっ、んんっ。ゆきな……。すきっ、だいすきっ」

 友希那は目を凝らした。目元を力んでぎゅっと彼を視た。そこで全容を理解した。彼が必死にしごいているのは陰茎だった。箪笥は下着を入れている場所が開かれていた。彼はまるでそこを狙っているように竿をしごいていた。顔は何かに覆われていた。色と柄からパジャマであることがわかった。洗濯かごに雑に入れておいたパジャマだった。脱ぎたてのパジャマを彼が後から引っ張り出して使用しているようだった。

「ゆきなっ、でそうっ。もうでるよっ。でちゃうっ」

 彼は腰を引きつらせて静止した。素手の中の陰茎の先端から放物線が飛んだ。激しく勢いのある様だった。広げられた箪笥にぶちまけられた。数秒静止した後、彼はやりきったような雰囲気で陰茎を拭き始めた。どうやらしごいていた素手にも友希那の衣類を絡めていたらしく、よく見るとそれはパンツだった。友希那は胸中が押されるように広がって熟れていくのを感じながら、彼の蠢く肩を視ていた。

 彼はパンツで亀頭を数回擦ると呻き声を上げた。その度に縮んだはずの亀頭から白色の飛沫が飛んだ。暴発だった。暴発は二度在った。一度目の発射と比べると、それらは細く、散り散りとしていた。白い花弁のような飛沫が下着の上に降りかかっていた。

 その後、落ち着きを取り戻したらしい彼は唐突に動いた。ぐるりと体躯を揺らした瞬間、部屋の入り口に立って彼を観察していた友希那と目が合った。彼は呆けた様子だった顔を一気に強張らせた。心地良さから緊張に変化しているようだった。感情が顔に出てきやすい彼の長所はこの仄暗い空間の中でも健在だった。

「――私の下着は、あなたの射精を手伝うためにあるわけじゃないのよ?」

 友希那は冷静さをそのまま放った。驚くほどに起伏が無かった。

「あえ、なんで――」

「用事ならもう済んだわ。全部終わったから安心して」

「ええっ、うん……」

 友希那は表情を変えずに部屋に入って、出入り口の付近のスイッチを押した。軽い音と共に部屋の灯りが起動した。

「それで、あなたはここで何をしているのかしら」

 全裸の彼と、その近くの箪笥がよく見えた。箪笥はやはり一つの段が開かれていた。中に収納されている下着には濁った白い液体がぶちまけられていた。

 友希那はそれを一瞬みつめてから彼に目を戻した。彼の瞳はうるうると揺れていた。怯えているように観えてなんだか可笑しかった。

「ごめんなさい……」

 彼の口が開いた。ぽつりと放った。部屋は明るかったが彼の周りだけ薄暗い印象を受けた。

「何に対しての謝罪なのかしら」

 友希那は彼の萎んだ顔を眺めながら刺した。途端、彼は言葉になっていない音を口から出した。

 友希那は俯き、ため息を吐いた。

 彼を再びじろりと刺した。

「本当に謝るつもりがあるのなら、しっかりと自分の罪も告白してほしいわ」

 低く重い声で追撃した。

「ええ、あのっ」

「――私に告白するの、好きでしょう?」

「え、ええと」

 彼は視線を迷わせながらよろよろと動いた。下半身だけが露出している姿は、男が造ることのできる最良のみっともなさを演出していた。追い詰められた下等生物のような雰囲気だった。

「あの時だって、ずいぶん情熱的に話してくれたでしょう?」友希那の脳裡に愛の告白を受けたあの日の光景が鮮明に浮かんだ。「――ふふ、懐かしいわね。あなたなら、今もちゃんとできるはず」

 友希那はぞくりと湿っていた。普段はあれだけ頼りがいがあるのに、こういう状況になるととことん幼く弱くなる彼のことが愛おしかった。抱きしめたかった。四肢で彼を感じたかった。

「……ほら、言ってみて? 自分が何をしてしまったのか、自分の口で説明して」

 友希那は彼の目の前で冷徹に放った。

「ええと……。その……」

 彼は居心地の悪そうに口を動かした。先ほどまでの熱量や意気地はすっかり消えていた。なんだか身体もひと回りほど縮んだような気がした。友希那は小さな小さな彼をじっと見つめた。

「ゆ、友希那さんのパジャマと、下着で、オナニーしてました……」

 彼は本当に追い詰められていた。

 友希那は見せつけるようにそっぽを向いた。

「オナニーというと、具体的にナニをしていたの?」

「しこしこ……」

「シコシコを?」

「……しこしこ、してました」

「誰の何を使ったの? ちゃんと話して」

「友希那さんのパジャマとパンツでっ、シコシコしてました……!」

 彼の瞳の潤みがさらに濃くなった。萎んだ陰茎とよく似た顔をしていた。もう泣き出してしまいそうだった。

「最低ね。私が居ないのをいいことに、勝手に使うなんて」

 友希那は腹を力んでいた。

「ごめんなさい……」

「謝って済む問題じゃないわ」

 冷静で無機質な友希那の声に反応して、彼の雰囲気がさらに縮こまった。友希那はそれを前に喜悦を得て背筋を歪ませた。絞れば絞るほど魅力が溢れ出てくる心地がなんとも甘美だった。

「あなた、自分の竿の調子すら操れないの? 本当に、おちんちんで物事を考えているのかしら」

「ごめんなさい……」

「謝って済む問題じゃないの。何度も言わせないで」

「ごめんなさいっ」

「私の言う事、ちゃんと聞かないと駄目でしょう? えっちになると何もできない赤ちゃんなんだから、言いつけくらい守ってちょうだい」

「でもぉ、あの、興奮しちゃって……」

 彼の瞳の中に熱が浮いた。

「言い訳しないで」友希那は彼を刺すつもりで語気を強めた。「その興奮を努力して制御してほしいって、前からお願いしているはずよ。あなたからは自分の性欲を律しようという気概が感じられないわ。欲情した時に好きに私の私物を使って、好きに処理するだなんて、そんな愚行、人間じゃなくてただの猿よ。あなた、人間もやめたいのかしら?」

「……友希那さん飼ってくれるなら、それも良いかも」

 彼が少しだけにっこりとした。

 友希那はため息を吐いて脱力した。

「本当にどうしようもないわね」

 小さく呟いてから彼の下半身を見つめた。出し切ったはずの陰茎は少しずつではあるが力を取り戻していた。おそらくここまでの全ての 責が原因だろうと友希那は考察した。考察してから友希那は密かに固唾を飲んだ。凄まじい性欲だと思った。友希那の驚愕を知らない陰茎はさらに盛り上がっていった。まさに圧倒的だった。

「はぁ……」友希那は彼の震える竿に目を向けてわざとらしく息を吹いた。「あなた叱られてるのよ? わかっているの?」

 彼は口ではなく竿で答えた。

 友希那は眼力を強めた。陰茎はその圧に反応するように何度もびくついた。

「まだまだたくさん射精したいーって、本物の赤ちゃんみたいに駄々こねてるのね、あなたのおちんちん」

「えへへ……」

「褒めてないわ。おちんちん大きくしたぐらいで、調子に乗らないで」

 彼は悪びれる様子が無いようだった。この勃起も当然のことだと思っているようだった。

 友希那は彼を目を合わせながら静かに思考を展開した。

 今回のこの事象に関しては自分にも悪いところがあると思っていた。一日ずうっと、しっかり付きっきりで居られるだなんて言っておきながら、急用で全てを簡単に嘘に変えてしまった。それこそがまず愚行であり、その愚かしい行動が彼の今回を引き起こしていた。相手を蔑ろにしたという点だけ見れば、非が在るのはむしろ自分のほうだった。

(こんなのもう、私が責任を持って対処するしか……)

 だからと言って私物に手を出すのは道理に反していると思った。それはどちらが悪いとかそういう話ではなく、単純にその行為だけが許されざるものだった。彼のこの癖については治してもらいたかった。そして、たとえばその治療に自分が協力できるのなら力でも何でも喜んで貸すつもりで居るのが友希那だった。

「……少し、甘やかし過ぎたのかもしれないわね」

 友希那はあえて冷たく接した。

「これからはもっと厳しく躾けないと」

「ええっ、やだっ。もっとママに甘えたいよっ」

「なら私もう、あなたのママをやめるわ」

 友希那はきっぱりと放った。彼の顔が固まった。室内の空気すら凍ったような気がした。

「なんで……」

 ぽっかりと空いた彼の口から出るのは、ほぼ空気に溶けた声だった。

「しょうがないでしょう? 居ないのが嫌だからって勝手に処理するだなんて、どうかしてるとしか思えないわ。言う事が聞けない赤ちゃんなんて、手に負えないもの」

「やだ、ママ……」

 彼は湿って潰れていた。

 友希那はその顔にもとげを持って迫った。

「やめて。私はもうあなたのママじゃないわ。……だいたいあなた、年下の彼女にママになってもらいたいだなんて、よく考えると随分我が儘というか、欲張りじゃないかしら。私より長く生きてるはずなのに、私無しじゃ性の世話もできないだなんて、本当にみっともないわ」

「う、嘘でしょ……? そんなの嫌だよっ。ねぇママ……」

 彼はなおも友希那を『ママ』と呼んだ。そして友希那に歩み寄り両膝をつき、ふっくらと育った友希那の腰を左右から掴んだ。

「んふんっ、まぁま……。んふ」

 呟く彼は友希那の下腹部に頬ずりをした。彼の頬そのものが衣服を貫通し肌に触れて子宮にまで流れてきた。友希那は声を堪えながら、しかししっかりと反応していた。身体が彼という刺激によって潔く震えていた。ほとんど強制的だった。胎内が彼に突かれて発火していた。

(この人……。本当にっ……)

 彼の性的な質感は魔性そのものだった。まるで友希那の方が彼を求めている調子だった。さすが、音楽だけだった自分を女性として本気にさせた唯一の男だと思った。

 すると彼が友希那の腹ではなく股間に鼻頭をぐりぐりと押し付けた。

「ちょっと、ひとまずお――」

「ああっ、友希那おまんこのニオイ……」

「はぁ、まったく……」

 彼の歳を考えるとあまりにも異質な幼さだった。

「あなた、そんなに私がいいの?」

 友希那は真剣な目で彼を見下ろした。

 彼は友希那の腹から顔を上げた。

「もちろん」

 彼は一切のためらいも、少しの間も何も無く放った。最初から友希那しか意識していないような声だった。

「友希那さんが好きだから」

 彼の瞳は潤んでいた。しかし純粋で、しかし野生的だった。

 貪欲に愛する者を求めているだけのようだった。

「そう……」

 友希那は弛緩していた。自分の中で精神的に力んでいた部分が、彼の光を前にくたくたと解けていた。脳はとっくに火達磨で、腹を厳しく律することなんてもう不可能だった。彼を抱きすくめたい欲だけに成っていた。

 友希那は彼を凝視して固唾を下した。思い返すといつもこんな調子だった。彼のこういう瞳の気迫に、友希那は女性として何度も何度もやられていた。

「罰が、必要だと思うの」

「ばつ……?」

「今回の件で私は本当に落胆したわ。一人でするのは駄目って言ったのに、あなたはそれを破った。私を裏切ったのよ。だから、その罪を償うの。私、このままだとあなたのママを本当にやめるわ」

「やだ……」彼は逆戻りをするように萎んだ。

「それが嫌なら、もう一度自分からちゃんと私に懇願して。自分からよ。自分から、私に改めてママになってほしいってお願いするの」

 友希那は若干の悪戯心を宿して彼を見下ろした。

「え、えっと……」

 彼は迷ったようにおどおどと震えた。

「私が大事なんでしょう? それなら、少しぐらい頑張ってるところ、見せてほしいのだけれど」

「ええと、な、んんっ。んふっ、どうすればっ」

 きょろきょろと泳ぐ彼は再び弱弱しい声色だった。

 友希那は腰の位置にある彼の手を左右で獲ってしゃがんだ。彼の顔と視線が平行になった。友希那はさらに彼の両肩を持った。彼の身体は震えていた。瞳も同様だった。硝子体そのものが眼窩の中でぐちゃぐちゃに崩壊してしまうようなあやうさがあった。

「仕方ないから、私が、なんて言えばいいかお手本を聞かせてあげる。ふふ。いい? 私が言った通りに言うのよ?」

「う、うん……」

 友希那は薄っすらと笑いながら口を開いた。

「僕は、ママが居ないと何もできない本物の赤ちゃんでちゅー」

 友希那の声はとても上擦っていた。普段の彼を嗤うような雰囲気だった。

「ママ、友希那ままぁー、ずっと僕のこと甘やかしてー」

 友希那は彼の耳元に向かってから囁いた。友希那が言葉を発する度に彼の細い体が震えた。

「ずーっと、僕とイチャイチャしてー、おねがーい」

 その声は普段の友希那の裏側に位置する質感だった。落ち着きと不動の歌姫からは全く想像がつかない声だった。相手に全力で媚びて尻尾を振っているような、わかりやすい姑息さのある声だった。

 つまり彼にそうあってほしいということだった。

 そのようなへりくだった情緒に努めて宣言してほしいということだった。

「――ほら、こんなふうに言って。ちゃんと話してみて?」

 友希那は先ほどまでの高い声が嘘のように低く息を吐いた。

「う、わかったっ。言うよっ。言うからっ……」

 彼はごくりと喉を鳴らすと、友希那が提示した『お手本』をそのまま復唱した。震えていたが発音はしっかりとしていた。

「ふふ。よく言えたわね」

 腹の底からこみ上げてくるものがあった。彼という人間の明確な上位に達した心地は友希那の脳内をくすぐった。彼に対しての凄まじい庇護欲がさらに発火していった。

「ねぇ、ママ……」

「いいわよ」

 膣を中心とした全身が火照ってうずいていた。

 この瞬間だけは、今この時だけは音楽よりも彼のことを最優先に意識しようと思った。

「ママを続けてあげる。あなた専用のママになって、徹底的に面倒をみてあげるわ」

 その瞬間彼がにたりと笑った。一気に緊張状態から弛緩していた。凍り付いていた身体が解凍されて、優しくふやけるように歪んでいた。心の底から安心の熱を得ているようだった。友希那も多大な満足感を得ていた。口角が自然と吊り上がっていた。

「覚悟して」

 二人は個室の中央でほほ笑み合った。

 

「私が居ない間、私のパジャマの臭いで発情したのよね?」

 室内ベッドに座った友希那は、その目の前の床で正座している彼を見下していた。友希那の細っこい女体は夏の熱をいまだに含んでおり、少し鬱陶しいほどに蒸れていた。

「うん。友希那さんの臭いで興奮したよ」

「……そう」

 楽しそうに歯列を覗かせる彼はすでに全裸だった。脱ぎかけの衣類を友希那が脱がせた。中肉中背の肉体は猫背気味で、股間の竿は半分ほど屹立していたが、時おり余力を訴えるようにぴくりぴくりと震えていた。

「あなた、私の臭いが好きなの?」

 友希那は単刀直入に訊ねた。

「うんっ。すきだよ」

 彼は堂々と唇を歪ませた。双眼には激しい光が在った。唾液にまみれた白い歯列がより鮮明だった。

「勝手に嗅ぐほどなの?」

 追撃のように訊ねると彼はこっくり頷いた。友希那はひどく困惑した。思考が滞っていた。砂浜に足を取られてしまった心地に在った。彼は変わらず燦然だった。

 友希那はベッドに置いた自分のパジャマを改めて取った。くしゃりとしており、手触りはもちろん良質だった。友希那はそれを鼻先に近づけてスンスンと嗅いでみた。自分の体臭が触れた。発酵しているような香ばしさが在った。それは汗だった。寝ている間に身体から分泌された濃厚な汗が大量にパジャマへと染み込んでいた。友希那はパジャマから顔を上げた。

「あなた、本当にこんなものがいいの?」

 少なくとも好んで嗅ぐようなものではないと思った。

「だって、友希那さんの臭いだもん」

 彼の声は震えていた。恐怖などではなく単純な興奮から来る声質だった。

「……なんというか、やっぱり変わってるわね」

「そうかな」

「ええ。とても」

 脳裡にて変態という二文字が浮かんだ。まさか自分の彼氏がそういう領域に達しているとは思っていなかった。こんな彼ならたとえば自分の糞尿すら、嬉々として受け取るのではないかと思ってしまった。

「なら、今から本物を嗅がせてあげるわ」

 友希那は気を取り直す心地で大きく宣言した。

「脱ぎ捨てた服についただけの残り香だけだと、満足しきれないでしょう?」

「ほんものって……」彼の視線がベッドの方に逸れた。「だから、それを出したの?」

「そうよ」友希那はきっぱりと放って立ち上がった。ベッドの柔らかい箇所がふんわりと解放された。「――そのためにわざわざ、この毛布を出したんだから」

 友希那のベッドには毛布が敷かれていた。冬の季節専用の分厚いものだった。夏の日にざわざわ視認すると、それだけで身体の内側から熱気のようなものを錯覚して、思わず目を逸らしたくなる大きな防具だった。友希那は拾い上げたパジャマをその毛布の中に押し込んだ。素手を一瞬入れただけで重い熱が指先に触れた。すでに出来上がっているようだった。予想通りの質感に思わずほほ笑みが漏れた。そのまま彼の目の前でシャツを脱ぎ捨てた。

「ええ、ちょ――」

「落ち着いて。毎日視ているでしょう?」

 顔を変えない友希那は、汗で湿った衣服に手をかけてぐいと上げた。途端に彼の眼光を意識した。強烈でしつこい目ぢからだった。なんだか楽しかった。自分の女性らしい特徴を十二分に発揮し、雄である彼を誘惑していく感覚はぞっとするほどの恍惚だった。

 両手に握ったシャツはやはり自分の汗で蒸れていた。重さすら得た。外の、いかにも地獄らしいぎらついた灼熱に加えて、先ほどの毛布を出す作業での汗がじわりと染み込んでいるようだった。

 間違いなく、パジャマなんかよりもよっぽど香ばしかった。

 シャツを毛布の上に一旦置いた友希那は次にスカートと下着類も脱いだ。彼の眼光は変わらずだった。いやらしいことを覚えたばかりの中学生男子のような情熱だった。友希那は間もなく完全な裸体に成った。彼は友希那という女性の裸体に無我夢中だった。人としての幼稚さを超えた獣に至っていた。

 友希那の肉体はただ平坦で、目を見張るほどの特徴も大して無かった。友希那自身がそんなふうに感じていた。しかし彼からの好感は今のようにすこぶる高かった。止まらない汗が至る箇所にまとわりつく小さな肢体だったがそれでも彼の瞳の圧は凄まじかった。

 友希那は衣類を持って毛布をめくった。数分敷いただけだというのにその地帯は蒸れていた。友希那は滑り込むように入った。長い髪を後ろに回してから寝そべった。毛髪は大げさな流れで上に散乱していった。

「ほら、おいで」

 友希那は片手で毛布をめくった。目の前の彼だけに自分の秘密を打ち明けるような情緒で誘った。彼は立ち尽くしていた。直立したままだった。ただ友希那を視ていた。茫然とした目だった。

「どうしたの? 大丈夫よ」

 友希那は再び彼を誘った。毛布を摘まむ手とは別の、もう片方で彼が還るべき居場所をぽんぽんと叩いた。

「冷めてしまうから、はやくこっちに――」

 彼はごくりと唸った。友希那にすら聞こえる喉の痙攣だった。やがて彼は歩き出した。友希那は口元に喜悦を浮かばせて彼を呼び続けた。

 彼が膝からシーツに触れてそのまま乗り込んでくると、ベッドの少し湿った白色が相応にへこんだ。男らしい力のある進軍だった。友希那はそれに対応するように毛布をさらに大きく開いた。彼は流れ込むように熱の中へ入って来た。友希那は彼を世界から隠すように毛布で覆った。

「捕まえた」

 友希那は彼の耳元で囁いた。笑みが湿度として彼の耳をくすぐり、仮の肩がぴくっと幼く成っていった。

 友希那はその彼を湿った四肢で襲って温めはじめた。

 

 友希那の肉体から一番に香る雰囲気は幼さだった。

 身体の総てに童女的な質感が漂っているのが湊友希那の肉体だった。

 しかし、同時にその小ささの中から母性を得るのも常だった。友希那の人間としての余裕がそうさせているのか、友希那の一つ一つの動作、たった一度のまばたきにすら、彼はとてもぬくい母性を見出していた。

「ほら、おいで」

 

 湊友希那であった。

 女体の肉っぽい気品がむき出しだった。童女じみた雰囲気からは考えられないほど、ひどいほどに蠱惑的な友希那の発汗がもうもうと漂って、彼を極めて卑しく取り込んでいった。

「捕まえた」

 完熟した友希那だけで満ちていた。過剰な雌の臭いと甘い母性の臭いだった。彼はその熱烈を完全な体勢で享受していた。浸っているような心地だった。

「温かいかしら」

 友希那の声が彼の間近に在った。いつもの穏やかな調子だったが、その語尾は浮いているように感じた。

「あったかいよ……。気持ち良い」

 彼は友希那の中で肩をびくつかせながら友希那を吸った。乳母じみた温かい友希那だった。彼は十分に友希那を吸ってからンハーと息を吐いた。嗅ぐたび嗅ぐたびに身体が震えた。全身が性感帯だった。外側と内側が同時にホクホクと肥えた。自分の中の飢えのようなものが満たされていくのを感じた。細胞そのものがじんわりとほどけた。濃厚で深い友希那の甘味だけだった。

「うう、すき……」

「その臭いへの執着、もう尊敬するわ」

 背丈も腕っぷしも年齢すらも勝っているはずの彼は、愛する相手にたった母性だけで懐柔されていた。

「いいにおいだもん……」

「あなたが満足なら、それでいいわ」

「うん……。んふ」

 まどろんでいると友希那が絡みついてきた。彼は汗と熱で湿った女体に巻き込まれた。友希那から漏れ出る情熱が彼の体躯を愛撫した。性をもてなすように掴んでいた。それは肯定だった。彼は今まさに男として肯定されていた。寂しかった肉体がようやく養護されていた。彼は生命として保護されていた。

「ほら、あなたも私に抱き着いて。遠慮なんて要らないわ。ほら……」

 彼はすぐ隣の友希那に飛び込んだ。背中を丸めて四肢をくねらせた。ところどころで無垢にもたつき、腰の位置の卑しく出っ張った硬さにつまづきながら、それでもしつこく友希那に合わさって、互いのぬくもりを互いに潜ませ合った。

「……温かいのね、あなたも」

 友希那の身体はしっとりとしていた。極めて乙女で細身で、ぬくぬくと柔らかかった。その友希那からの汗が彼へと滴っていた。ぬるついた情緒で触れていた。友希那の素手が彼の頭部に向かって包み込んだ。

「ほら、もっと近づいて。撫でてあげるから」

「ううっ」

 友希那の手の質感が彼の頭を覆って蠢いた。腕そのものに包まれているような心地だった。彼はその柔らかさに堕ちるように意識を手放した。

「ふふ、いい子。いい子ね」

 小さな素手が大らかな情緒で彼を這っていた。脳すら撫でられていた。友希那の湿気が彼を歓迎していた。安心するには十分過ぎる湿り気だった。自分だけが特別に可愛がられているような心地だった。彼は丸っこく膨張しているように感じる友希那の乳房に頬を預けた。平たい乳房を顔で覆った。すると頭部に在る温かさが背中にも触れて廻った。筋力が友希那の体躯へ溶け込んでいくのを感じて満悦だった。

「いいよの。もう大丈夫だから、安心して、私に――ママに甘えなさい」

 友希那の声が彼を愛撫した。小さな雄を許す寛容な声だった。彼は友希那にごろんと甘えた。乳房に頬ずりしていた。背中に廻した腕で友希那の骨格を摩った。自分の体躯の中にすっぽりと納まる友希那を丁寧に確かめると穏やかな感触に成った。なんともちっこい友希那の肉体が彼を安心させていた。

「本当に、赤ちゃんみたい」

 恋慕に満ちた声が彼を撫でた。彼は友希那に抱き込まれていた。もう何も取り繕わなくてよかった。此処こそが自分の還るべき場だと確信していた。故にむき出しのままでよかった。それでも友希那に包まれて熱されていた。此処はまさしく友希那の胎内だった。友希那の素手や腕そのものがより深く彼の身体に絡みついた。口から再びとろけた悲鳴が漏れた。友希那は彼を揉むように蠢いていた。彼は友希那の乳房に本格的に甘えはじめた。

「そうよね。男で、さらに今は赤ちゃんなのだから、おっぱいが大好きなのは当然よね」

「んっ……」

 それはほぼ本能だった。雄の感性でそれを食んでいた。

「いいわよ。ほら――」

 友希那が胸部を突き出し、同時に彼の後頭部を根本から持ち上げた。顔面がより深く乳房に向かった。

「これで舐めやすいでしょう? たくさん舐めて、吸っていいわよ」

 両手を使えば簡単に組み伏せることができる細い横幅が目の前に登場した。彼はその健気な友希那を手に取って理解し、自分の粘つきを押し付けた。

 友希那の胸は心地良かった。実りというよりは女体のその部分が限定的にもちもちと優しいだけだった。明確な幼さだったが、しかしそれぞれの房の中心は生々しい桃色で、さらにもっとも飛び出た箇所はいかにも乙女らしくぷっくりと湛えていた。

 彼は突起に吸い付いていた。思考はあまり無かった。いつかのあの日の続きのをするように、チュウチュウ、チュウチュウと吸っていた。唇で転がし、軽く潰してみるとそれだけで強烈な安泰を意識した。次いで彼は突起を舌でちろちろと弾いた。一種の可愛げが漂うちっこい噛み痕を上から舌でなぞって湿らせた。汗のしょっぱい味が広がった。より強く叩くと友希那が敏感に背筋をくねらせた。淫らで細い声が毛布の中で弾けた。なんだか卑猥だった。重く神々しい歌声を持つ友希那から不意に出てくる高い声は魅力的だった。美徳であり興奮そのものだった。もっと聞いてみたいと思った。彼は夢中になって舌を動かした。

「んんんっ、あなたっ、んふっ。ああ」

「ぢゅう……」

 しょっぱい柔らかさの中に甘い味が在るような気がした。べつに錯覚でもよかった。それでも確かに甘い友希那の味だった。彼は友希那をしつこく舐め続けた。

「そ、そんなに吸っても、まだ母乳はでないわっ。ねぇっ……」

 飛沫のように震えている声だけが耳に届いた。脳が湿って竿が痙攣した。頭部を這う友希那の熱がさらに濃く成った。友希那に肯定されていた。彼は平地のような友希那の柔肉に顔面を押し付けた。今の今まで欠けていた何もかもがしっかりと補充されているような気がした。心地の良い鳥肌のようなものが内側から繁栄していった。彼は友希那の背に伸ばした両腕をぎゅっと引き絞った。胸部に耳を当てるとその内部の心臓の音まで聞こえた。

「甘えたがりなのね。本当に」

 友希那の声が暖かかった。彼は確かに口を動かして答えた。自分でその声を認識することはできなかった。友希那の声にうっとりと弛緩していた。

「……ちょっといいかしら」

 もしかしたらこのまま吸えば一滴くらい母乳が出てくるかもしれないと思っていた。故に彼は友希那に吸い付いていた。すると友希那の方から身体が離れてしまった。大切に楽しんでいたオモチャを無理やり取り上げられた気持ちだった。彼はじゅっと潤んでいく目で友希那の顔を探し廻って、やがて目を合わせた。

「これ、私の前で今、嗅いでみて」

 彼は戸惑った。しかし自分の感情などよりも友希那の強い口調のほうが優先されるべきだった。彼は友希那に流されるように、いつの間にか出されているシャツを嗅ごうとした。友希那のものだった。鼻先をぐいと伸ばしたがすぐに制止が入った。友希那が布の中から一つの箇所を探し出した。

「ここよ。ここを嗅いでほしいの」

 布の色そのものが少し濃く成っていた。濃度の高さを強く物語っていた。なんだか目印のようだと思った。視ているだけで鼻先に脇汗の臭いが再現されていた。

 友希那は彼の口を抑え込むようにシャツを押し付けた。脇汗で湿った箇所はもちろん鼻に触れた。やはり湿度が明らかに他と違った。何か強いものが凝縮されているような友希那の質感が彼の孔を撫でて覆った。

「ほら、吸って」

 彼は鼻で勢い良く空気を吸った。孔に貼り付いている布が孔の形を真似るようにへこんだ。彼は痙攣していた。雄の身体が震えていた。友希那の汗の臭いは強烈だった。友希那が逃がさないと言わんばかりに彼を抱きしめた。彼は鼻で必死に呼吸していた。

「んはっ。ゆきなっ……」

 友希那の可愛げをそのまま変換した甘味だったが、より深く嗅いでみると豹変した。甘さの中から籠ったケダモノがじゅわりと覗いた。意識が消し飛ぶほどの心地の良さだった。甘さで引き寄せた後に本当の刺激臭を嗅がせて取り憑かせて、一生離さず依存させる危険な風味だった。今まで嗅いできたどの友希那よりも美味だった。

「んふん。まんま……」

「ええ、ママよ」

 友希那がしっかりと答えた。彼は強くシャツを嗅いだ。長い長い呼吸で濃厚な友希那を取り込んだ。身体が発火し続けていた。股間に粘力が集中し、皮膚が浮くような感覚に至った。

「その調子よ。その調子でもっと私を嗅ぐの。そうやって私のニオイをたくさん取り込んで、本物をちゃんと覚えるのよ。ほら、頑張りなさい」

 彼は息を吐くことを忘れていた。ずうっと友希那を吸っていた。次次に友希那が入ってきた。友希那を鼻で飲み込んで肺を膨らませ、友希那を鼻で飲み込んで肺を膨らませた。たったそれだけだった。肺の肉壁に友希那が付着して停滞し、臓器が明確なうねりを示した。

「ゆきなぁっ。ままっ……。ゆきな……」

「ええ。ママよ。あなただけのママだから、もっと甘えて、もっと嗅いでもいいのよ」

 友希那をさらに強く求めた。彼は謎の呻き声を漏らしながら友希那を摂取し続けた。吸えば吸うほど、飲めば飲むほど、肉体が改造されていくような感覚だった。生まれ変わりだった。彼は友希那の臭いによって新しい何かへと転生していた。

「んふ。ゆきなっ、んはっ、あう、ゆきな……」

「休まないで。鼻呼吸続けるの。ほら」

 友希那の低い声が脳で轟いた。彼の思考を動かしていた。弱弱しいだけの彼は激しく鼻で友希那を吸引した。酸っぱい雌の風味だった。友希那の生物らしい激臭だった。今の彼にはそれが必要だった。

「ひと時たりとも、私を吸うのを止めないで。ずっと私だけを意識するの。いいわね?」

「うん……」

 彼は毛布の中で頷いてそのまま沈んだ。友希那の素手がすかさず這って、彼の頭部を大切に扱った。

「いい子ね」

 彼はもう友希那のことしか思考できなかった。友希那以外を深く考えたり、友希那以外を理由に行動するという発想が消え去った。友希那の素手は頭と同時に彼の背中も摩っていた。彼の可愛い起伏をなぞるように撫でていた。その熱を受ける彼は友希那の中で震えていた。友希那が自分の飼い主であることを実感していた。友希那からの保護そのものが彼にとっての恍惚だった。幸福以外の何でなかった。

「うう……」

 そんな彼が勃起を発動するのは当然のことだった。

 止められなかった。止めるつもりも無かった。

 それは二つ目の心臓だった。腰の位置でむくむくと育って、圧倒的な脈拍を披露し、友希那だらけの空間で逞しく存在していた。硬さと熱量を蓄えていた。象徴は友希那に触れていた。愛するママに自分の強さを主張していた。真っ赤な先端は今の彼の切羽詰まった情緒そのものだった。

「当たってる」

 友希那の低い声が溶けていった。囁くようなひと時は彼の身体をびくりと怯えさせた。股間の雄ぢからがさらにぐぐっと固まった。彼の中の本能の部分が友希那に向かって大きく求愛していた。

「興奮しているのね」

「まま……」

 むき出しの雄をわざわざ指摘されていく感覚はなんだか痒かった。

 しかし、こういう見透かされて理解されている羞恥は快感へと連鎖した。

「ねぇ、今のあなた、もの凄くみっともないわよ。ニオイだけでこんなに興奮して、触ってもないのにおちんちんおっきくするだなんて、本当に、なさけないわ」

 視界の中の友希那はクスクスと咲いていた。

「……これじゃあもう人間というより、ただの犬ね。ふふ」

 友希那の瞳には温かい潤みが在った。穏やかな情緒の中に姫のような色気が浮いていた。

「ゆきなしゃん……。ちんちん……」

 彼は友希那の胸に顔を埋めながら腰をぐいと進めた。友希那の素手がその丸まった体躯を包んだ。彼はその中でさらに腰を押し付けた。友希那の肉が亀頭に触れていた。脳の全ての領域が獣欲に浸っていた。細胞そのものが友希那との性行為を志願していた。はやく挿入したかった。

「えっちしたい……。えっち……。ううっ」

「そうね……」友希那の低音が彼の耳を湿らせた。「いいわよ、入れて。そのためにニオイまで嗅がせたのだから」

「うふ」

 許可を貰った彼はもう止まらなかった。友希那の中で身体を動かし友希那の雌を探した。すぐに他の箇所とは明らかに違う部分を探し当てた。湿り気を持った箇所と亀頭が触れていた。腰を押して突いてみると上から友希那の嬌声が聞こえてきた。彼は本能で決起した。

「ほら、来て……」

 友希那の薄い喘ぎがすぐ近くに在った。彼はぬるついた友希那を真正面から割っていった。

「んんっ、きたっ……」

 友希那は彼のすぐ近くで破廉恥に咲いた。彼はその軟体にしがみついてさらに進んだ。友希那の秘裂に強い抵抗感は無かった。肉孔を亀頭でかき分けた。竿で拡張していった。彼は少しだけ強引に友希那を雌へ塗り替えた。

「んっ、ふふっ。一人で挿入できたのね」

 彼は再び背もたれを掴まれて頭を撫でられた。身体の表面を廻る素手の熱にすっかり愛着を得ていた。

「えらいわよ」

 友希那の声は彼の深い位置で反響して、男そのものを包んでいた。

「ねぇ、こっち」

「んえ」

 彼は甘い声を漏らしながら顔を上に向けた。フスフスと悶える友希那の鼻息が顔面に接近し、やがて寄り添い合うように唇二つが重なった。彼は背中の上部が限定的にひしゃげていくのを意識した。口の周囲が別の熱で覆われていた。もちろん友希那の熱と柔軟だった。友希那の新鮮な肉は彼の口周りを一巡するとすぐに離れた。

「あ、あのっ――」

 彼が口を開くと友希那が再び迫った。垂れ出る彼の欲情を友希那が口だけで掬い上げて預かっていた。彼は吸引されていった。後頭部に在る友希那の素手が少しだけ硬く成っていた。

「んふっ、ぢゅ」

 二人は顔を廻して折り重なった。互いの肉を再確認するように押し付け合って、触れ合って、ぬるぬると揉みくちゃに崩れた。

「いい子よ」

 離れた友希那が彼を撫でた。頭部の全体を巡って愛撫する調子だった。彼は飼い猫のようにその素手に体躯を擦り付けた。汚い部分や獣欲の概要すら友希那に見透かされていたが、その友希那から薄っすらと漂う妖しさの中に軽蔑の色は無く、むしろ肯定してさらに助長してくる誘惑が在った。

「ほら、自分で動くのよ。できるでしょう?」

 友希那が低い甘味を吐いた。彼はゆっくりと腰を起動させた。友希那の熱気が全身に浸った。慈愛に富んだオンナの余裕だけが空間を支配していた。

「んんっ……。まま、ゆきなっ……、まま……」

「いいわよ。もっと、もっと入って来て。私の一番奥まで来て」

 彼は友希那により深く迫って発情した。友希那の膣の壁にてびっしり栄える肉ひだは、どこからともなく垂れ出る蜜によっておしとやかに発揮していた。彼はその極上を必死の腰振りで摩って味わった。友希那のひだはその彼の竿のいびつな形に几帳面に触れていた。彼は肢体のびくつきすら友希那に抱っこされていた。異質で可怪しい発達だけが肯定されていた。

「気持ち良いでしょう? あなたがだぁいすきな、ママのおまんこ」

 彼は答える代わりにより深く友希那を四肢で握った。このママは自分だけのものであるということを誇示した。すっかり適当な位置に流れたシャツを意図的に巻き込んで友希那を求めていた。脇汗の臭いと体臭を同時に嗅いでいた。彼は友希那だけのこの空間で深い呼吸を続けた。より多大な量の友希那が身体に入っていた。激しく友希那を吸う度に睾丸が強固に粘ついた。精液が順調に錬られていた。

「うう、うっ」

 彼は友希那の芯に向かって腰を持ち上げた。それは咄嗟の動きだった。そこに人間的な理性は皆無だった。この女性に種を植えたいという雄だけで動いていた。

「ううううっ」

 どぷり、という明確な音が腰から響いた。胎内の竿が怯えるように震えていた。脳がきゅっと縮こまって濡れた。思考も蒸れていた。どこかへ離れてしまった。

「あら……?」

 腰から異物が全て引っこ抜かれるような快楽だった。それがなんだか恐ろしくて、彼は友希那の肉を必死に擦っていた。友希那がどこかに行ってしまわないように抱擁し、ただ友希那の汗を意識していた。四肢が放つ小刻みの痙攣を必死に誤魔化していた。今のなさけなさを友希那には悟られたくなかった。このまま混ざって一緒になりたかった。

「もう、出しちゃったの?」

 友希那の声に肩が震えた。彼は友希那の胸に顔を押し付けた。友希那の胸と腹と腰に迫った。全身を押し付けて萎んでいた。

「……ごめんなさいっ」

 彼は謝罪を口にしていた。真っ赤な羞恥が一斉に皮膚の裏側を這って巡って身体を襲った。胸の内部をつねられたような心地だった。

「ママがっ、ママがすごくてぇっ……!」

「それは……」友希那は低い声だった。「あなたのおちんちんが弱いからじゃないかしら」

「んんっ」

 彼はびっくりするほど正直だった。友希那の口が卑猥な単語を紡ぐと彼は何もできなかった。友希那の懐の中で素直に痙攣するだけだった。膣内部で蠢く竿はさらに震えた。先端から予想外の精液を放った。

「んっ。いま、またおちんちんがびくって……。あなたやっぱり、私に貶されるのが気持ち良いの?」

 友希那は何かを整えるような情緒で彼の背中を摩っていた。

「……ごめんなさいっ」

 彼は再度謝った。しかし罪悪を得ているのは脳だけだった。身体はより執拗で、柔らかい友希那を潰す勢いだった。雌の中心にすら届く陰茎は微弱な発散を続けていた。

「怒ってなんかないわ」友希那の平坦な声色が響いた。同時に、その素手が彼の頭部を温かく包んだ。「ふふ、可愛い」

「まま、もっと……」

「ええ、いいわよ。こんなに準備したんだもの。もっと楽しまないと、もったいないわ」

 彼は身体を動かそうとした。粘ついた熱が一気に股間へ集結していた。どうにも自分が自分ではないような感覚だった。彼は急く心地で腰を動かそうとした。しかし身体は言うことを聞いてくれなかった。体力を消耗しているようだった。友希那の膣を擦ろうと思っても何も無かった。彼の細い筋肉はただ震えるだけだった。

「ほら、どうしたの? もっとえっちするんでしょう?」

「ううっ。うううぬ、んんっ……」

 彼は友希那に抱き着いて呻くことしかできなかった。

「しょうがないわね……。いい? よく聞くのよ?」

 友希那の耳がすぐに彼へと迫った。

「好きよ」

 友希那の声が鋭く脳へ浸透した。顔面の周囲にとびきり甘い風味が漂っていた。彼はその内部で起動した。すぐ横に居る友希那にさらに向かって、ついに女体の上に乗っかった。すぐに友希那の素手が後頭部と背中に伸びていった。身体が抱き寄せられていた。彼は何も言わずに腰で求愛した。体躯の急所と急所がとろけて絡み合っていた。

「ふふっ。いいわよっ。その調子、その調子よっ。まだまだたくさん気持ち良くなりましょう。ふふっ」

 乱れている友希那はそれでもほほ笑んでいた。喜悦に歪んだ口からは雌っぽい安心感がもうもうと舞っていた。より分厚く成った左右の素手が彼を大切にしていた。彼はその中でぬるりと這った。友希那の口元に向かうと友希那を見上げた。

「ちゅー、したい……」

「ちゅー……?」友希那が高い声でわざとらしくそっぽを向いた。「どうしようかしら」

「したい……」

 彼は消えゆく声だった。腰でへこつきながら溶けた顔で友希那に集中した。

「させてっ。ちゅーしたいっ、うう、ゆきなあっ」

「はぁ。仕方ないわね。……ほら、こっち」

 友希那の素手が彼の背中を強く持った。同時に友希那の顔から恰好良い質感が消えた。唇を絞り、彼だけに差し出す瞬間の顔はとても無防備で、ただ色気だけが籠っていた。

「んんっ――」

 彼は友希那の肉欲の中に飛び込んだ。零れ落ちそうな舌や唾液を友希那にぶちまけた。友希那はその彼を受け止めて温めた。姫としての厳格に見合った搾取で彼を揉んだ。鼻息同士が触れ合い、互いの膣がおそろしいべたつきを編んでいた。

「……舌の使いかた、あなたも上手になったわね。気持ち良いわよ」

 彼は脱力するように友希那の体躯へ沈んだ。頭から乳房に埋まって腰を動かした。後頭部と背中に友希那の素手が廻っていた。友希那に抱きかかえられているような熱気だった。

「いいわよ。その調子っ。もっとっ……」

 友希那からの応援と肯定を一度に受け取っていた。温かい肌が何度も何度も皮膚を撫でていた。乳房に突っ伏している彼は腰だけを激烈に動かした。

「ぜんぶ私の、ママのお腹で発散するの。それが赤ちゃんであるあなたの仕事よ。いい?」

 友希那の落ち着いた声が脳を動かしていた。

「だから頑張って。もっと腰振りして。ふふっ」

 彼は極めて貧弱で滑稽な動きだった。互いにまぐわっているのではなく犬が友希那という不動の雌にへこついているだけだった。友希那の肉穴を掘っているのではなく膣の肉壁に自分の竿を擦り付けているだけだった。

「ううっ、うふうっ」

 犬は自分よりも大きな雌の胎内にどうにか己の遺伝子を預けたがっていた。何も取り繕っていない活発はまさしく動物だった。

「ふふ、出し惜しみなんてもちろん許さないわ。たっぷり射精していいのよ。ほら――」

 友希那の湿度が彼に向かった。臭いが重く鼻に流れ込んできた。彼は女体にさらに進んだ。友希那の母性そものもに腰をぐりぐりと沈めた。己の中の在るはずの無いツヨサを一生懸命アピールしていた。肉棒は友希那の孔を押し退けながらさらに奥に到達し、そこで赤ちゃんらしく母親の介抱を受けて快感に浸っていた。限界なんてすぐそこだった。あっという間に我慢がきかない部分へと侵食した。

「んんっ。でるぅっ」

 彼は叫びながら友希那の腰に自分の腰をくねらせた。胎内を余すことなく探ろうとした。竿が震えていた。先端から炸裂していた。彼は友希那の口元に滑り込んだ。ぽっかりと開いてハァハァと誘っている友希那に被さって肉で圧した。

「んっ、ぢゅっ……」

 彼は必死に友希那に吸い付いた。取りこぼしてしまった何かを取り戻すように力んで雌をしゃぶり尽くした。吸えば吸うほど流れてくる友希那の味を独占して執着した。股間が滾っていた。友希那をかき分けるように腰を動かして押し込んだ。最奥に近い位置で再び果てた。口を離そうとしたが友希那が後ろから拘束した。細い二つの腕が彼の上から絡みついてきた。彼は友希那に吸われながら何度か濁りを吐露した。真っ白に練った温かい男を友希那の胎内に散布した。彼の腹に漂うのは爽快感だった。奥のほうから焼けて焦げていく心地に酔って緩んでいた。口が友希那で満ちていた。

「あなた、いっぱい出てるわね」

 互いの唾液でぬめめった口をそのままに、二人は至近距離でほほ笑み合った。彼はすぐに友希那の谷間に顔を置いて溶けた。友希那の素手が頭部を守ってくれた。

「こんなにたくさん。ふふ……」

 友希那の膣は彼をじっとりと受け止めていた。精液を陰茎ごと取り込んで、全てをぐにゃりともみほぐした。友希那の膣はその肉壁に彼を練り込んでいた。その女体の蠢きは彼の竿に直接触れていた。友希那の女が彼を相手として認定している証拠だった。彼は友希那の谷間の中でびくびくと反応した。

「うう、うううっ」

「ちょっと、どうしたの?」

 無防備な竿が膣の刺激を受けていた。彼は友希那を包囲して力んだ。腰の根幹が引っこ抜かれる凄まじさだった。口から吐息が垂れた。細い身体が女体の中で痙攣した。熱がとろとろと漏れてしまった。

「また、でるうっ……」

 彼は再び友希那の母性に頼った。腰を力み、友希那の母性に向かってびゅるりと崩壊していった。成す術なんて無しだった。完全敗北だった。友希那によって巻き採られていた。睾丸ではなく本能から精液を強奪されていた。止めようとしても無駄だった。そんなもの関係無かった。阿呆のように精液を差し出していた。友希那という快楽に支配されていた。快感を見返りのように受けるだけだった。小さな身体そのものが友希那によって爆裂していた。

「二度も射精したの?」

「ううっ。ううっ……。んふ」

 友希那の胸に顔面を押し付けた。細々と呻くだけだった。羞恥と快感が均等に迫って脳が散りぢりに慌てた。息を吸うといつでも友希那だった。少しだけ落ち着くことができた。竿が雌の中で震えた。

「……まだできるわよね?」

 友希那の声は少し鋭かった。できないと答えた途端、この天国が消え去ってしまうような気がした。

「もしかして、もう疲れたのかしら」

 彼は涙のような声を漏らした。

「駄目よ」語気と共に背筋を覆う素手が滲んだ。「あなたはまだまだ私で射精するの。私、まだ満足してないわ」

「でも、もうっ――」

 彼は頭を上げようとした。すぐに友希那の湿った肌色に妨害された。友希那は物を握りなおすような情緒で改めて彼に抱き着いた。周囲に友希那が舞っていた。

「私のニオイ、好きなんでしょう?」

 友希那はにやけながら自分の芯の部分に彼を引き寄せた。時間の経過によって緩んでいた束縛がやり直されていた。友希那の四肢はやはり柔らかくって心地良かった。彼はその中で深呼吸をした。消耗した身体が癒えていった。

「そうよ。その調子。もっとママのニオイを嗅ぐのよ。そうやって、もっと勃起して……」

「んんっ……。んへっ」

 肺が友希那を多大に取り込んだ。臓器にも血管にも神経にも友希那が流れた。内側が友希那の臭いと気配で熟れていた。震えていると背筋を摩る友希那の素手がより深くなった。耳元にぬるい息がかかった。

「おちんちん、大きくするの……」

 体内をのたうち廻る熱が股間へと流れて膨張していった。竿は友希那を再び拓いた。ねっとりと閉じられているひだとひだをかき分けて奥の入り口と触れ合った。彼はもう一度友希那にしがみついた。友希那の裸体に上からのしかかるような勢いだった。

「落ち着いて。私は逃げないわっ。ふふ」

 剥がれかけた毛布を友希那が素早くかけなおした。彼はその温かさの中で腰を振った。友希那に叩きつけるように打ち下ろした。

「ほら、もっと頑張れるでしょう? それとも、やっぱり赤ちゃんだからこの程度なのかしら。それなら私、やっぱりママをやめるわ」

「やだっ……。きらいにならないでえ……。がんばるからっ」

 彼は友希那の胸元から顔を上げて友希那を視た。

「ええ、そうよね。あなた、そういうところは最初から変わっていないものね」

 友希那の瞳はうっとりと熟成していた。彼は自分の情緒も何もかもを全て舐め廻されているような錯覚に堕ちた。意識や思想の中身なんてすっかり覗かれているような気がした。友希那の前ではやはり丸裸だった。

「――留守にしてる間、勝手に部屋を漁って、勝手に射精して、私が視てる前で下着を汚すだなんて……。これだけだと本当に変態ね。ど変態」

 友希那の低いざらつきは彼をより膨張させた。

「ごめんなさい……」

「けれどおちんちんは大きくなってるわ。やっぱりどうしようもない変態なのね、あなた。ふふ、でも大丈夫よ。見捨てるなんてことはしないわ。私はあなたのママだから」

「まま、すき……」

「私もよ。当然でしょう?」

 友希那の笑みと声がそのまま柔らかく迫った。彼の唇が一瞬で覆われた。すぐにその奥から舌が飛び出した。友希那の舌は唾液で濡れていた。それが彼の喉に巡って窮屈にねじれながら埋まっていった。彼は鼻呼吸しかできなくなった。スハスハと鳴っていた。体内に入り込んでくるのは友希那だった。現在唯一の呼吸法が友希那だった。友希那が自分の命そのものにすら介入していた。

「んふっ。んんっ……」

 彼は下から貴重に抱きすくめられていた。股間から栄える陰茎がより強い結団で友希那を割った。彼は絞められた嬌声を上げた。陰茎の先端から強烈な熱が飛び出した。神経が一斉に溶けていった。女体の中で女体に陥落していた。心地はまさに名誉じみた絶頂だった。

 友希那は得意げな雰囲気で口を動かし続けていた。勢いは増していた。獰猛に成って男を搾っていた。彼はそれを受けながら長く長く射精した。陰茎は心臓の鼓動の如く轟き続けた。びゅるりと発揮される種友希那の内部で露骨な蠕動を魅せて友希那に順応していった。身体に強烈な消耗がのしかかった。彼はその勢いに弾かれる形で友希那から口を離してしまった。

「――駄目」

 友希那が総てを許さなかった。両足が毛布の中でぐいと動いた。細い美脚は舌のように彼に向かってその尻に絡みつき、湿度そのものを補強した。彼の腰が友希那によって友希那に押し込まれていた。胎内に深く雄が刺さっていた。竿の根本はよりぐっぽりと咥え込まれ、赤々と肥えている先端は胎内でも明らかに異質な肉感に到達してひしゃげ合っていた。友希那はそれでも彼を押し付けた。彼は友希那に引っ付いたまま腰を動かした。しとどに熟れた互いの身体が活発に動いた。相手を圧したり揉んだりしていた。彼は次第に腰の奥から迫る重たい熱気に身を任せた。

「ううううううっ」

 彼は友希那に腰を突き出しながら細かく炸裂していった。友希那に向かって埋まったまま、そのまま何か故障でもしたように止まって、粘ついた性の波を漏らしていた。友希那はそういう様子の彼を全て撫でて肯定していた。臭いなどを自分から嗅がせる包容だった。いつまでもびくつく彼に対する鷹揚な素手は、雄をおだてているようにも落ち着かせているようにも思えた。

「うぅ……」

 快感によってすっかり萎んだ彼は友希那に抱き着いていた。腕に力は無かった。荒々しい呼吸で情緒を整えようとしたが空気は友希那だった。彼はより強い痺れを得て溶けていた。友希那に抱き着いているというよりはただ友希那に寝そべっていた。

「ふふ、耳まで真っ赤」

 温かい素手がいつまでも彼の背中を警邏していた。彼は友希那の上で時おり腰を振るわせた。肉と肉が弾け続けていた。互いの軟体が互いを求めるように痙攣していた。

「ねぇ、気持ち良かったかしら」

 耳元で友希那の声がした。その低い声に続くように、友希那の口からは吐息が漏れていた。妙に深い呼吸は彼の耳を次次とつつき、常に極上の湿り気で保護した。

「私は、気持ち良かったわ。とても」

「うん。よかったよ……」彼は友希那の中で力無く頷いた。「ありがと」

 なんだかこれまでのものとは別の熱が上がって来たため、友希那の胸部に額をより押し込んだ。

「それじゃあ、そろそろ休憩に――」

「やだ」

 彼は即答した。同時に友希那が嫣然に弾けた。爽やかに喉から息を漏らしていた。その細い腕はするすると彼を這い、穏やかな素手が頭部を廻った。

「そうね。まだあなたのおちんちんは、私とえっちしたいって言ってるわ」

 陰茎の蠢きに合わせるように、彼のその心臓も性を強く打っていた。なんだか視界がぐらついた。脳の細胞がより濃密な友希那を求めていた。彼は全てを無視して再び動き出した。途端に友希那が四肢を動かした。汗や唾液まみれの四肢が彼を押さえつけて固定し、大切にしながら毛布の中で回った。

「んぶっ?!」

 たった数秒の出来事だった。あっという間に立ち位置が逆転していた。彼はいつの間にか下に居た。すぐ上を友希那が支配していた。秘部と秘部がぐぐっと密着し、互いのぬめりが混ざって潤んでいた。

「んふ」

 友希那の素手が彼の肩へ滴っていた。固定された彼は友希那の汗ばむ肉弾だけを感じていた。このまま潰されるのではないかと思った。それでもかまわないと本気で願った。それほどに強制的な具合だった。友希那が問答無用で彼の唇に突撃し続けた。

「んぢゅっ。ぢゅるるっ」

 彼は友希那の肉感や唾液で溺れていた。顔面の上にて潰れた友希那がぐねぐねと動いた。鍛え上げられた柔靭を彼だけに自由自在に発揮していた。

「んぶっ。んふ」

 彼は今まで友希那が背を落としていた位置に寝転んでいた。今までの友希那の熱、つまり残り香がじわりと漂って、彼にふわふわ触れていた。なんだか背中のほうから友希那に抱きしめられているような心地だった。友希那の長い髪がそこらじゅうに垂れていた。優しいはずの薄紫は徹底的で、しかしやっぱり友希那らしく華麗で、彼の裸体へと絡みついていた。

「んんんっ……。んぢゅっ」

 友希那が彼の口から離れた。水けや粘膜がぢゅるんと派手に鳴り、周囲に友希那の唾液の臭いが舞った。彼は死に物狂いでその甘味を吸引した。

「美味しかったわよ」

 友希那の素手が彼の肌の上でゆさゆさと揺れていた。その素手はすぐに頭部に巡って包容した。彼の真っ直ぐ上部に在る友希那の表情は、ありえないほど妖艶だった。音楽における矜持ではなく女性の本能を優先している顔だった。

「……あと、一回くらいかしら」

 見慣れた二つの金色は湿った暗さの中でも明瞭だった。彼はこくりと頷いた。

「本気で搾り取るから、覚悟してちょうだい」

 友希那の素手が額の辺りを覆って揺れた。強かな表情だった。歌っている時に稀に造るあの顔に似ていた。自分の熱量を完璧にモノにして、さらに高ぶらせているような、あの劇的な表情が彼にのみ向けられていた。目を合わせて穏やかに首肯すると背筋が反り立った。情熱的にぴりぴりと求愛していた。友希那の胎内に在る欲望がさらに育っていた。

「ふふ。いい子よ」

 友希那がにたりと笑った。美しい顔が美しく歪んだ。勝ち気で、真っ白な歯列がすぐそこで覗いていた。友希那はぐいっと引っ張った毛布で全てを覆った。近くで視える滲んだ額や眉間の辺りにて、薄紫の一本一本がみずみずしく舞っていた。

「一滴も残さないわ。ぜんぶ私のナカに出すの。いいわね?」

 彼は友希那の口の甘い臭いを吸って頷いた。愛情で潤んだ二つの金色が暖かかった。すると友希那の細さが彼の両手の上へするりと這った。顔の横で腕が押し倒されていた。細い指はすかさず彼に忍び寄り、五指と五指がまるで示し合わせたように堅く連結した。胎内に存在している肉棒がさらに高ぶった。下から友希那を押し上げるようにするとすぐに肉が抵抗してきた。

「――いくわよっ」

 精悍な掛け声と共に友希那は駆動した。尻と股間がぶつかって空気が揺れた。彼は乱れる友希那の美麗だけを視ていた。彼の形に変形した肉壁が柔靭に彼だけを讃えて絞った。

「ほらっ。ほらっ。最後の精液っ、ぜんぶ、差し出しなさいっ。ほらっ。んっ」

 友希那はむき出しのまま男体の上を何度も何度も跳ねた。ハキハキと開かれた貴重な口から唾液の臭いをまき散らし、まだ幼さが残る臀部を起き上がらせたり沈ませたりして彼を搾った。追い詰めた雄を徹底的に舐め上げていく様は確かに湊友希那だったが、全てを薙ぎはらって我が道を歩むあの湿度とは別のほうに気高く、柔軟で女王のような雰囲気だった。

「ふふっ、なさけない顔」

 友希那の乙女らしい活発は連鎖を造っていた。空間の輪郭を描いている毛布そのものが起伏し、内部の友希那の臭いや熱気が再びかき混ぜられて巡っていた。

 彼は大きく解放した鼻孔でその友希那を味わっていた。

「あなた、また私のニオイ嗅いでいるのね」

「だって、すきだもん。んふ」

「……そう」

 庇護に富んだ声と同時に彼は頭部を掴まれた。艶やかに発汗し続ける友希那の顔面で視界が束縛された。鼻頭同士がぶつかって呼吸で殴り合った。

「それなら、もっと吐息を嗅がせてあげるっ」

 友希那が顔を彼により接近させてハァーと吐いた。途端に彼は跳ね上がった。股間の根本がより硬く成ったのを意識した。

「んっ。またおちんちん大きくなった……」

 友希那はさらに熱を吐き出した。口や喉でねばねばと潤んでいる熟成が彼の鼻に触れて顔面に流れた。臭いはしつこいほど絡みついてきた。友希那の肺から直接上がる友希那の原液の臭いだった。膣に刺し込まれている竿がさらにさらに膨らんだ。友希那の子宮口にとつんと激突していた。

「でそう、でちゃう、うう……」

 彼は何かに縋る意識で報告した。すると友希那の顔面が迫った。ぶちゅりと数秒触れ合うと離れたが、それでも垂れ出る粘ついた愛が、口と口の間にだらしない橋として出来上がっていた。

「いいわよ、出して」

 友希那の声が触れていた。耳の周囲が友希那の湿度で薄っすらと蒸れた。友希那はそのまま彼の頬を舐った。薄暗さの中で純情に満ちた友希那だけが目立っていた。

「精液、出してもいいわよ。私のナカでたくさん、どぴゅどぴゅしてもいいわ。許可してあげるっ」

 友希那はにやけながら彼を尻で叩いた。

「ほら、びゅって出してっ、びゅーっ、びゅーって、気持ち良く精液出すの。赤ちゃんなら、それが当然でしょう?」

「うんっ、ううっ」

 ぞくりと這い上がる感覚が腰を振るわせた。ママだの母性だのというありとあらゆる求愛がぐちゃぐちゃに成って、ただ友希那が気持ち良かった。陰茎だけがさらなる硬さを得て友希那をほじっていた。彼は思わず腕を伸ばして友希那を抱きしめた。友希那の尻が大胆な肉感体躯を潰していた。尻の重さが直接ぶつかっていた。細い身体が震えていた。ベッドそのものが揺れていた。友希那の口のぬるつきが頬に触れた。唾液が滴り、頬が弾けて潤った。友希那は短い間隔で彼の顔面の中を跳ね廻った。彼の顔面の総ての箇所にが友希那の唇が捺印された。

「――ほらっ、出してっ!」

 友希那が強く呟き、同時に尻をどちんと落下させて叩きつけた。

「ううっ……!」

 彼はついに友希那の内部に性をぶちまけた。多大な謎の浮遊感と共に果てた。友希那の開かれた口が巨大に迫った。

「あむっ――」

 顔面そのものを丸呑みされるような錯覚を意識して竿が震えた。たるんだ唇や舌はあっという間に友希那の口腔の中に至った。口同士で触れ合った。同時に友希那が何度か尻を持ち上げて彼を躾けた。上から叩き落される女性の力強さが全身に伝播した。彼はそれに合わせるように胎内で飛沫を上げた。

「んふっ、んふうっ、ふふ……」

 彼は友希那の拘束の中で跳ねていた。身体に流れる快感によって股間の奥がきゅっと縮こまりながら力んで、友希那にめり込んだ先端から粘つきが飛び出し続けた。

「んっ。んんむっ。んっ……!」

 友希那は鼻息を荒く立てながらどこまでもどこまでも執拗だった。彼はその友希那から流れてくる唾液によって粘膜そのものを肯定されていた。口内環境の至る箇所に友希那の雌が塗り込まれていた。頬の筋肉が突っ張り、脳に上がるはずの酸素が乏しくなったが代わりとして陰茎がさらに飛沫を上げた。友希那の卑猥によって身体が激しく稼働し、友希那に種を仕込んでいた。自分を構成する体組織が友希那に搾り取られていた。

 彼の射精の勢いが落ちていくと友希那は自分の腰をぐりぐりとかき混ぜた。彼の中にめり込むように落ちた小ぶりな腰が彼の中で蠢いた。膣壁のひだの肉が彼に不規則に絡みついた。射精の勢いだけが加速した。

「んむっ。むんっ。んぐっ」

 口腔内部にて彼は友希那から唾液をぶちまけられていた。友希那が己の中で編んだ巨大な粘液の塊が優雅な重さで彼に降って注がれていた。喉が拓かれて、奥の奥にまで友希那の味が広がった。彼は喉を大きく動かしながら友希那の大量の唾液を体内に誘っていた。途端に細胞が潤った。爽快感と熱が広がった。彼はさらに友希那の唾液を細胞へと取り入れた。友希那の味だけが広がった。

「ぢゅっ。んんっ。んあっ。ちゅ、ぢゅる、んれっ」

 射精はスーッと引いていくように終息をみせた。しかし彼は口を食べられ続けていた。友希那の咀嚼は激しかった。友希那は彼を食い散らかしていた。唾液が口内で混ざり合い、泡すら含んだ濃い舌が、彼の奥の粘膜に大胆に這って高速でごちごちごちと擦っていた。徹底的だった。お残しなんてありえなかった。周囲の全てがぬるぬると愛されていた。

 口が塞がっているため友希那は鼻息が荒かった。ハスハスと連続で鳴っていた。彼はそれを至近距離で受けていた。顔面に吹き付けられてむわりと広がる友希那の湿度は重たく、そしてやっぱり甘かった。

 彼は友希那の口に応えようとしたが無理だった。体力の消耗によって舌の蠢きはとにかくのろまだった。故に友希那から遊ばれるように舐められ続けていた。友希那に唾液を吸われ続けていた。彼は小さな射精のようなものを繰り返した。その度に心臓の動悸が激しく成った。大きく唸っていった。友希那は双眼で彼を見下ろしながら彼の口の奥まった構造を探っていた。

 彼の竿は最後まで発揮されていた。しかし次第にその勢いは衰えて、やがて何も出すことができなくなった。それでも友希那からの愛撫によって彼は快感を得ていた。最後は根本から可愛くびくびくと主張するだけになった。友希那は彼の口の内部をじうぅぅ、と密着しながら吸い尽くして、ついにじゅとん離れていった。

「ごちそうさま」

 友希那の美顔がめいっぱいに映った。満足げに火照った表情だった。女王然としていたが、その唇から伸びる数本の唾液下品な緩急が、彼を優越で満たした。

「気持ち良かったわ。私も――」

 ぞくぞくとまどろんでいると彼は頭部をゆさゆさと撫でられた。すでに果てた後だというのに心臓が硬く成った。口をぽっかり開いていると、友希那がその中にひと握りの唾液を落とした。

「うにゅ……」

 彼は最後に喉をドクリと呻らせた。友希那のぬるい唾液が大きな愛情として下って体内に溶けて、重い安心に成った。

 彼は意識が途切れるその瞬間まで友希那と触れていた。友希那の体温が何よりも近くに在った。互いに漏らす後味のような吐息が少し乱暴に混ざっていた。彼は友希那という幸福の中で一時的な眠りに沈んでいった。

 友希那の腰周りがひどく痙攣しているのを、彼は、萎んだ男体そのもので感じていた。

 

 彼があんなにも喜んでくれるのなら、暑さに撃たれるのも悪くないかもしれない。

 明るく思考した友希那は毛布を洗濯機に落として部屋に戻った。

 彼が意識を取り戻していた。

 にっこりと笑っていた。体力のほうは少しずつ回復しているようだった。

 友希那も自然と笑っていた。やはり彼の笑みには魅力が在った。花で比喩するなら間違いなく向日葵だろうと思った。

 ベッドに腰掛けた友希那は彼の腰を視た。素早く盗み見るような意識だった。全裸の彼の竿はすっかり縮こまっていた。完璧に電池切れのようだった。漲っている時はあんなにも強くて硬いのに、精が抜けるとこんなにも小さくなるだなんて、陰茎とはなんてわかりやすいのだろうと思った。

 友希那は彼の横に添った。今度は絡み合うのではなく、ただ身体を落として傍に居続けた。彼はどこか申し訳なさそうにしていた。裸体の友希那を認めてからというものの、その目元にぎゅっと力を込め、顔にいくつかのシワを作っていた。

 どうしたのかと訊ねてみた。彼は友希那から目を逸らして口を開いた。次いで語られたのは、友希那が居ない時の自分自身の行為への罪悪だった。彼は沈んだ調子で語った。今になって振り返ってみると、やはりいけないことをしてしまった、と自分を追い込んでいた。

「ごめんなさい」

 彼は友希那の方に目を向けた。友希那がベッドについてからようやく目が合った。彼の瞳はより一層の潤みを得ていた。黙ってみつめていると謝罪の言葉が次々に垂れた。震えていたが強さも在る声だった。

「許すわ」

 友希那は彼に笑みを落とした。はっきりと呟いた。強い声だった。しかし彼を包む情緒も在る声だった。

「やってしまったことはもう取り消せない。確かにあなたは罪を犯した。けれど、私はもう怒っていないわ」

 彼は泣き出してしまいそうな顔だった。友希那はその頭をゆったりと廻るように寵愛した。素手の中で彼がどんどん落ち着いていくのがわかった。

「今回の件は、私にも悪いところがあったと思うの」

「いや、そんな――」

「聞いてちょうだい。……確かに、下着に射精するのは駄目だと思うわ。勝手に部屋に入って、勝手に使うのも駄目なことだと思う。けれど、もともと今日は二人きりでゆっくりする予定だったでしょう? 急用とは言え、それを壊してしまったのは、他でもない私。それなら、私だって謝るべきなのよ。……本当に、ごめんなさい」

 友希那は真剣な色で彼を視た。

「あなたも、許してくれるかしら?」

 それは対等だった。

 真っ当な男女の間柄での謝罪だった。

「も、もちろんだよっ」彼は友希那同様にはっきりと示した。「ゆるす、ゆるすよっ。怒ってなんかないよ」

 少し慌てている様子だった。

「そう……、ふふ、そうなのね」

 友希那は彼をより深く素手で愛撫した。やはり可愛いと思っていた。彼はもっと鮮やかに咲いた。どこまでも暖かくって、いつまでも安心できる存在だった。

「ありがとう。本当に、ありがとう」

 彼に本気で嫌われるのではないかと危惧していた。しかしその不安も無くなった。しっかりと和解することができた。

 それが何よりも嬉しかった。

「それじゃあ、この件はもうお互い様で、お互い、ちゃんと謝罪したから、終わりにしましょう」

 彼が歯列を覗かせてにかっと輝いた。友希那はその顔をやはり愛で続けた。

「ところで、あなた……」

 友希那は視線を彼の胸部の辺りに向けた。

 先ほどから妙に気になっていたことがあった。

 彼は友希那の方を見つめたまま、ずうっと握っていた友希那のシャツを顔に覆い、スハーと深呼吸をした。彼の小さな顔面の上でシャツの布がへこんでいた。シャツが彼の素手によって剥がされた。下から現れた男児は、にぱっと明るく胡乱だった。

「あなた……」

 彼は緩んでいた。シャツを愛おしそうに両手で握っていた。シャツの脇の箇所は最初から多大に湿っていたが、もう他の箇所もかなり濡れていた。全て友希那の汗だった。じめじめとしていた。ごわごわと深々しい質感が彼の手の中で大切にされていた。

「どうしたの、友希那さん? 何か変かな」

 彼はいつもの調子だった。

「……それ、そんなに気に入ったの?」

「ええ、これ?」彼はシャツをちらりと見てから目を戻した。「そりゃあ、友希那さんの臭いだから。ふへぇ……」

 彼は友希那が宿った布を揉んだり擦ったり楽しんでいた。天真爛漫に至っていた。友希那の布をじっくり愛玩している彼は、唐突にシャツを自分の顔に触れさせた。何の予兆も前触れも無い動作だった。彼は友希那のシャツの中でンハンハと呼吸した。胸板が膨らんでいた。鼻孔に湿った脇の箇所が覆っていた。彼はすぐにシャツを退けてまた深く息を吐いた。とても満悦な顔だったがその瞳は虚ろだった。精神の強さのようなものが宿っていなかった。操り人形の如くだった。

「あなた、なんというか、大丈夫なの……?」

「んふ、ゆきな……。んへへっ、へへぇ……」

 彼は朧気な口調を続けていた。友希那は思考した。もう彼は、定期的に臭いを摂取していないと人間性すら保つことができないのではないかと思った。

「んへへっ。へへっ」彼は再び顔面をシャツで覆って友希那の臭いを吸っていた。「んはっ。んふふっ。ゆきな……」

「大丈夫なのかしら……」

 人間性を保つために臭いを吸引しているはずだったが、臭いを吸引しているその様はすっかり人間から外れていた。なさけなかった。本当にまずいかもしれないと思った。思っていると彼が大きな欠伸をした。また唐突な行動だった。忙しい人だと思った。

「んふ、眠いかも」

「少し、寝たほうがいいわ」

 意識を取り戻したとはいえ、やはりまだ回復の時間が足りないようだった。

「……でもさ、もっといちゃいちゃしたいよ」

 彼は必死そうに呟いた。ふにゃりとしていた。わかりやすい弛緩だった。どこからどう認識しても眠気の中だった。

「少しだけよ。そうね……」友希那は素早く思考した。壁の時計を視て考慮した。「一時間ぐらいかしら。ちょうどお昼だし、一時間後、ちゃんと起こしてあげるわ」

「いき」

「いき?」友希那は彼を見下ろしながら困惑した。「え、息……?」

「吐息欲しい……」

 はっきりとした声色だった。在るはずの眠気を一時的に無視してるようだった。

「あなた、まだそんなこと言ってるの?」

 異常な性欲だと思った。

「さっき、さんざんしたでしょう?」

「でも、ママの臭いが無いと寝られないよっ。お願い」

「それがあるじゃない」

 友希那は彼の手のシャツを視た。自分が脱いだだけのものだったが、彼がここまで気に入るのは完全に予想外だった。

「汗と吐息は違うでしょ」

 彼は真剣な顔だった。

「ねぇお願い……。友希那ママ……」

 思わずため息を吐きそうになった。しかし今の彼を強く断る感情など少しも無かった。

「……しょうがないわね」

 友希那は彼の鼻に口を寄せてホーと息を吐いてあげた。鼻孔でそれを感じ取ったらしい彼はその途端、にたりと笑って恍惚を浮かばせた。瞳の奥には灯のような光が浮いていた。深い森の中でもほんのりと輝くような、そういう暖かい閃光そのものだった。

「ほら、これでいいでしょう? もう寝て」

「んふ。ありがと……」

 とろけた口調の彼は両目を落とした。抗えない何かに、自分から意識を乗せてゆく雰囲気だった。友希那の口の息の臭いを嗅いだ途端、本当に満足しきったような心地に到達したようだった。

(いったい、これの何が良いのかしら……)

 残された友希那は困惑の中で思考していた。自分の口臭までもを好む彼の趣向を完璧に理解することはできなかったが、かといって、べつに嫌悪するような心地でも無かった。

「不思議な人ね……」

 やはり彼の性癖は難解だった。とにかく酔狂だと思った。変わっていると思った。そんなおかしな彼の言いなりになって、なんやかんや願望を叶えてしまう自分も相応に妙なのかもしれないと客観した。

「……おやすみなさい」

 友希那はゆったりと呟いた。次いで彼の頬に口を落とした。どこかおかしい彼だったがそれでも当然愛おしかった。このままずっと一緒がよかった。永遠に過ごしていたいと思った。

 友希那はゆっくりと動いた。その瞬間、胎内でどろりとしたものが重く蠢いた。友希那に注入された彼の精液だった。ベッドに腰掛けた友希那は優しく自分の下腹部を摩ってみた。自然と笑みが浮かんだ。脳裡にて先ほどの性行為を意識した。度重なる性行為は女として彼女として嬉しかった。連続する種付けも同様だった。このまま彼の子供を孕むかもしれないと思った。それももちろん嬉しいことだった。真っ当で強烈な名誉だと思った。子供を出産し、彼と本当に家族に成る未来が友希那の脳細胞にて、純粋であり強烈な喜悦をもたらした。それは自分たち二人にとっての絶対的な祝福だった。

「ふふ……」

 友希那は立ち上がった。ひとまず新しいシャツぐらいは着ておこうかしら。

 眠りに落ちた彼がまだ握っているシャツを見つめた。名残惜しそうだった。

「これをまた着て汗を溜め……、いや、それは流石に……」

 そこまで考えてから友希那は自分自身でどきりとした。思考すら彼に犯されはじめているようだった。

 ゴクリと喉が鳴っていた。重いものが下っていた。脳裡のどきりとした意識がそのまま好奇心に成っていた。

 再びベッドに乗り上げた友希那が向かう先は彼の頭皮だった。

 友希那はじっとりとした目で彼の頭を見つめていた。すらりと伸びる鼻の先を彼の頭頂部に横から擦り付けた。その瞬間彼が呻いた。猫の鳴き声のようなふにゃりとした声だった。友希那は落ち着きながら、再度、自分の鼻を彼の頭に進めた。鼻頭がチクリとくすぐたかった。友希那は静かに呼吸をしてみた。

「んっ……!」

 香ばしい臭いだった。嫌な質感ではなかった。嗅いでいると、なんというか肢体が歪むような気がした。芯の部分がぐぐっと熱く成っていた。友希那はさらに吸引していた。彼の臭いが高い濃度で鼻孔を通り抜けて脳を重くした。途端に下腹部辺りがぴちぴちと呻った。物欲しそうな情緒で熟れていた。すでに粘液で埋まっているはずなのに反応していた。友希那は彼から上がった。このまま嗅ぎ続ければ、きっと自分もよくない領域に入ってしまうと確信した。

「んんっ。ゆきなままぁ……」

 彼の声だった。友希那はぎょっとした。目覚めてしまったのかと驚いた。

「なんで、ままがふえてる……」

「増えてる……?」

 彼は眠っていた。寝言のようだった

「分身の術でも、体得したのかしら」

 彼がいったいどんな夢を観ているのか、友希那は少しだけ気になった。

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