「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
第1話:始まり
「────では、会議を始めましょう。まず本校が廃校、もしくはゲヘナ学園と併合されるというお話ですが。やはり、如何に連邦生徒会であろうとも、在校生の存在は無視できないと思うのです。皆さん何か意見はありますか?
ハドマ学園生徒会
制服ではなくて、私服のロリータファッションを身に纏っている辺り、彼女も大概、自由人である。
「やっぱし、抗議文を提出するか乗り込むのが一番じゃないの?」
連邦生徒会対策委員会の委員長、
本来ならリエが委員長の座に着くべきところを、既に生徒会長として忙しくしているからと、リエの友人であるシエルがこうして対策委員会の委員長を請け負っているとの事だった。
「抗議文は意味無い、と思います。普段から仕事で忙しくしているから、手付かずの書類もあるとか。郵便物すら溜まっているようなので、抗議文とかは尚更、見てくれないんじゃないかな……と」
シエルの意見の一部を否定するのは、美食研究会対策委員会の委員長、
一部とはいえ年下に真っ向から意見を否定され、シエルはちょっぴりムッとなりアスカに向けて目を細める。
「それ、どこ情報よ?そりゃ、連邦生徒会は忙しくしてるでしょーけど?どこでそんなの聞いたの?」
「妹の友達が、連邦生徒会に入ってるらしくって。だから、少しくらいなら情報は得られるので……」
「あっそう、それはイイね。んじゃあ、どうしよ?書類が溜まってるから抗議文は見てくれる可能性が低い────なら、現地に乗り込むのがいいよね。デモとかヤッちゃう?」
「それも……面白そうではありますけど…………」
「ふむふむ、これで2票ね。他に意見あるヤツは?居ないんなら、この方向で話、進めない?」
シエルは連邦生徒会対策委員会の委員長である。しかも話題がその連邦生徒会対策についてなので、シエルの土俵である。こうなってはあまり表立って誰も口を挟めない。
内心、どうしようかと思っている。先生の私も。しかしもう少し生徒に話し合わせてみようと思う。もしもの時はもしもの時に考えよう。
「────お言葉ですが、シエルさん」
「……何よ?」
あまり逆らおうとしない他5人の生徒達に対し、シエルに抗議しようと口を開いたのはハドマ学園の生徒会副会長、
「不知火カヤ元代行が、七神リン行政官に代わって台頭したあのクーデター、覚えてますよね?」
「そりゃ覚えてるけど、それが何よ?」
「あの時は、レッドウィンター連邦学園の工務部の連中が現場に押しかけていたようですが、あまり、効果は無かったそうです。何日、何週間と居座れど効果は無く、かのレッドウィンターの工務部でさえ撤退を余儀なくされた──とのことですよ?勿論、レッドウィンターのこのデモは、リン行政官が復帰した後も続き、それを含めての数日、数週間です」
「うっ……」
「そんな不屈の連邦生徒会を相手にデモをすると?しかもこの場には、連邦生徒会と親密な関係にあるシャーレの先生も居ますし。そんな事をするのは、あまり利口とは言えないのでは?」
「の、乗り込んで私達と話し合いさせるとか!多分それくらいならしてくれるでしょ!歴史は浅いけど昔はゲヘナ学園との姉妹校扱いだったんだしさ!」
ギリリと歯を食い縛って私を見るシエル。確かに私はリンちゃんら連邦生徒会の子と仲良くしてる。何なら、この子達には言わないが不祥事を起こしたカヤをシャーレに引き取って面倒を見るばかりか、私の専属秘書としているくらいだ。
だから確かにルーシィの言う通り、私の前で連邦生徒会と真っ向からやり合おうという話をするのもそういう事を考えるのも、あまり利口ではない。
「抗議文も乗り込んで話し合いさせろと言うのも、意味無いと思います……。だって、連邦生徒会って、慈悲の欠片も無いですし……。実績を残してる学校も潰すじゃないですかぁ……」
「実績を……?そんな事あった?」
紙にペンを走らせながらも連邦生徒会を悪し様に言うのは、生徒会書記の
彼女自身「慈悲の天使」などという二つ名があるらしく、口癖のように「慈悲」という言葉を使う。ちなみにこの場にいる学園内の上位7人を「7人の天使と悪魔」という事で略して「
慈悲を以て敵を貫く────そんな戦術との事。
「SRT特殊学園、七囚人の狐坂ワカモを捕らえた実績もあるのに……そんな優秀な所を潰した七神リン行政官は慈悲の欠片も無いと思うんです……」
「あー……そんな事もあったなぁ、そういえば」
「やっぱ連邦生徒会クソじゃん!実力行使で潰しに行かない!?あたしらならヤレるって!!」
「それ、私も一枚噛んでいい?腕には自信あるし」
「おっ、ルーシィも来る!?やったろーじゃないの連邦生徒会!」
「おーっ!」
実力行使に出ようとするのは、ゲヘナ学園で言う風紀委員会に相当する委員会、統治委員会の委員長である
ついさっきの会議開始直前に、七天魔の誰かからボソッと「クソバエ」呼ばわりされて、滅茶苦茶にキレ散らかしていた子だ。
ただし、戦闘力の上がり下がりが極めて激しく、この七天魔の中では最強にも最弱にもなるそうだ。その詳細は、私はまだ分からない。
「やれやれ、先輩は相変わらず脳筋の単細胞です。シャーレの先生が目の前に居るというのに、今から作戦会議でも始めそうな勢いですね……」
「あぁん?なんか文句あんの!?」
スズを「先輩」と呼びつつ罵倒もするのは、同じ統治委員会の副委員長、
趣味はボクシングやキックボクシングらしいが、それを「殴るのと蹴るのが好き」という表現をするなどなど、言葉足らずな面が目立つ子だ。
「だって……普通にバカだなぁって……」
「何ですってぇ!?今日はヤケに逆らうじゃない、今日という今日はブッ潰して────」
「お静かに。──風紀を守る委員会の、長としての発言とは思えませんわね?スズさん?そして我が校生徒会の副会長とは思えませんよ、ルーシィさん」
「でもさぁリエ?アイツら連邦生徒会は抗議文とか見ても無視するだろうし、デモに屈しないってのはレッドウィンターの工務部が証明してる。んじゃ、どうやって廃校や併合を阻止するってのさ?」
「そのくらいの事、私とて把握済みです。わざわざその位の事で会議を開いたりしませんよ。その為にこうして『シャーレの先生』をお呼びしたのです。こうして皆さんの意見を聞きつつどのような答えをお出しするのか────今回の会議の本命はそちらなのですから」
殆ど全員の視線が私を貫く。
実は今回、ハドマ学園に来る道中、リンちゃんに問い合わせて「ハドマ学園併合の問題は凍結中」と回答を得ている。
理由は、単純に忙しすぎて、ハドマの問題に回す時間が無いからである。
ハドマ学園は教員ロボも居ない上に、学校機能は既に死んでいるようなものだそうだ。リンちゃんがそう判断し、学校として死んでいるなら併合を、と考えるのは、至極当然のことである。
「その前に──アスカの意見も聞いてみたいな」
「え……私……?」
この会議に招集される直前まで自分が作っていたクッキーを、空を眺めながら頬張っている。会議を上の空で聞いていた様子だったのが気になったので意識を引き戻す意味で意見を尋ねてみた。
先程、シエルに反対意見は出したが、特に彼女の意見らしい意見は聞けなかった事から、彼女自身の意見を聞いてみたくなった。
三重アスカ────晄輪大祭にてお菓子の出店を出していたが、後夜祭で美食研究会に見つかって、ハルナとアカリに砂糖の多さについて酷評されて、イズミに調味料らしき物でゲテモノにアレンジされ頬張られた事で、美食研究会に恨みを抱いている。
なお、ジュンコについては、酷評しなかったので特に恨みは無いとの事である。
自分で立ち上げた美食研究会対策委員会の委員長という立場であり、強さの面ではハドマ学園の上位7名、七天魔に加えられている。そしてアスカは、その七天魔で唯一のヒーラーである。
「私は──併合は、嫌です。美食研究会のヤツらと同じ空気を吸いたくないので……」
「そ……そっ、か……」
「……り、理由はともかく!併合に反対という想いは同じ、という事ですね!七天魔の総意、改めて確認できたこと、とても嬉しく思いますわ」
理由が理由だけに、リエも困惑している。しかし彼女の言う通り、アスカもまた、ゲヘナとの併合は嫌だという想いは確かなもののようだ。
「さ、先生。ここまでの流れを見て聞いて、何か、思う所や提案などはございますか……?」
「そうだね──まず実力行使に出るのは良くない。もしそうするなら私は連邦生徒会側につくと思う。それは、皆が思っている通りだろうけれど」
「……はい。ですが、生徒の味方であると公言されているので、連邦生徒会に味方するであろう事を既に知りつつ、こうしてお呼びしたのです」
「それについては、ありがとう。もしそうせずに、シエルやルーシィの言う通り実力行使に出ていたら私達の出会い方は最悪なものになっていたと思う。きっと、敵として出会っていただろうね」
「はい……恐らくは」
「この問題について、私の考えを言うとするなら、これだけ胸に留めておいてほしい。──まず、焦る必要は無い。落ち着いて解決策を見つけていこう」
「というと……?」
「ここに来る前に、ハドマ学園併合問題について、連邦生徒会に問い合わせてみたんだ。回答としては
『他の問題で手一杯である為、ハドマ学園の問題については凍結中』って内容だったんだ」
「そうだったのですね……
「うん……あくまでとりあえずは、だけれど」
「連邦生徒会は忙しいそうですし、暫くこの問題も大丈夫なのでは……?」
緊張した空気が解けて、空気が柔らかくなった。もう少し落ち着いて話せると思ったが、机をバンと強く叩き椅子を後ろに飛ばすようにしてルーシィが立ち上がる。
「リエ会長もアスカも甘いッ!先生もです!」
「え……?」
「?」
「甘い、かな……?」
「甘いです!アスカのお菓子くらい!連邦生徒会のその答えは『今の問題が解決したら連邦生徒会内で話し合いを再開する』って事でしょう!?今ここで私達が手を抜いていい理由にはならない!ハッキリ言いますが、ここでの手抜きなんて、問題の先送りでしかないでしょう!?」
「……そうかもしれない。でも、再開する見通しまであるワケじゃないよ。私は『いつか考えよう』って言っているんじゃない。『焦る必要は無い』、ただそれだけを伝えたいんだ」
「甘すぎます……!学校が無くなるかどうかの瀬戸際なのにそんな悠長な!こっちから向こうに抗議して問題を再燃させてもいいんですよッ!?その方が、解決も早くなるんだから!その方が、私達としても安心できるんですからっ!!」
ルーシィの言う通りかもしれない。無期限に問題を先延ばしにするのも、それはそれで問題だろう。それならそれで問題を再燃させた方が────と、そういう結論に至るのもおかしくはない。
だがどちらかといえば連邦生徒会側の人間である私としては、リンちゃんを急かすような事はあまりしたくはないというのが本音だ。
どうにかハドマの生徒を抑えつつ、連邦生徒会にこの問題を無かったことにできないか打診するのが良いのかもしれないが、リンちゃんの口振りから、この問題をなぁなぁにするつもりが無いのは私にもよく伝わってしまった。
廃校か併合なら併合、これ自体は合致していると見てもいい。しかし併合は実質的な「故郷剥奪」と同義とこの子達は考えている。こればかりは、幾ら私でも──多分、リンちゃんら連邦生徒会に味方はできないかもしれない……。
「──私から連邦生徒会に問い合わせて、この話を無かった事にできないか打診してみるよ」
「それでダメだったら?あのカタブツ連中が先生の話を聞いて説得されるとでも?そんなに堕ちやすい連中なんですか?連邦生徒会ってヤツらは?」
「……分からない。全力を尽くすと約束するよ」
「どーせダメでしょ。ゲヘナと同じくらいに治安も悪い、しかもゲヘナと違って教員すら
「落ち着いて下さいルーシィさん、相手は先せ……」
「落ち着いてられるかッ!!どーせ先生も、外部の人間だからそんな他人事で居られるんだ!土地への思い入れとか、そういうの分かんないんだろ!?」
「そんな事は無……」
「キヴォトス外の住人だったアンタは!その土地を捨てて、このキヴォトスに来てるんだよなァッ!?自分が住んでた所に思い入れもクソも無いだろ!?アンタの経歴がそう示してるだろ!?もし思い入れあるんなら、どうしてキヴォトスに来れたんだ!?どうしてこんな治安の悪い世界に住んでるんだ!?自分の土地に思い入れがあるんなら、帰れよッ!!帰れないとか言われても、帰る為に足掻けよ!何もしてないクセに!帰る為に動いていないクセにッ!解決する気も無いクセによくもそんな事────」
涙ながらに怒鳴るルーシィ。しかしある瞬間に、彼女の言葉は途切れて、彼女の身体はバタリと倒れ床に転がる。
「……スズ……」
「別に。先生の為じゃないし。キーキーウザイから黙らせただけよ」
何故かツインテールになったスズは、ルーシィの首への手刀一発のみで彼女を気絶させてしまった。そしてツインテールのスズを見たルビー、シエル、更にアンナなどは、彼女を警戒して銃を手にする。
「あー、大丈夫だっつの。別に。ルーシィを一撃で仕留めるにゃ、
しゅるりとヘアゴムを取り、ポケットに仕舞うとドカッと椅子に腰を下ろす。気絶したルーシィは、アンナが椅子に座らせた。ヘイローも消えている、どうやら完全に気絶してしまっているようだ。
「……スズ、今のツインテールは……?」
「ん?あぁ、髪を分けると集中力がアガんのよね。ただそれだけよ」
「それにしてはルビーとか凄く警戒してたけれど。シエルも、睨むような顔で見てたよ?」
「えー?ひっどぉ〜!」
「そりゃ、アレはスズ先輩の戦闘モードですから。食事中でもないなら、警戒するのが普通ですから。なので今のは、寧ろ────」
「寧ろ、リエがどうして静観を決め込んでたのかが不思議。アンナですらライフル構えてたのにさ?」
「わっ、私の麻酔ならルーシィさん眠らせられるなって……」
「────私としては、スズさんなら、あの一撃でルーシィさんを鎮めてくれると信じていましたし、この場には先生もいらっしゃいますから、あんまり大事には至らないと確信しておりましたわ?」
「あん?あたしの強さについてはともかくとして、何であたしの事に先生が関係あんのよ?」
「ご自分の胸に聞いてみては?」
「もしもし私、なんで先生が関係あるんですかぁ?って、答えてくれるワケあるか!!リエのクソデカおっぱいじゃあるまいし!
「ふふ、ノリとツッコミがお上手ですわね」
「あーもう、うっさいなぁ!……何で睨むのよ!」
「いや……先輩の貧乳芸に巻き込まれた気がして」
「うんうん。マジ無理、後で殴らせてくれない?」
「いーよぉ、殴らせてあげる〜!シエル先輩は特にザコザコだしィ?シエル先輩で、あたしにダメージ与えられるんですかぁ〜?」
「……ルビー、私の代わりにスズ殴っといてよ」
「任されました」
「ゲェッ!?ルビーは無しでしょ、先輩!?」
「こういう時ばっか先輩呼ばわりはやめな〜?」
「う、ぐ…………分かったわよ!ここは、リエの胸を羨む貧乳同士、仲良くしましょ!」
「「別に羨んでない
「あっそ!あっそへっそ!ばーか!あーほ!」
「クソバエがブンブンうるさいですね。サングラスあげますから、今後そうやってブンブン言う時にはそれを装着してください。きっと似合いますから」
「あー!ルビーだったのね、それ言ったの!!」
「私以外に先輩をハエ呼ばわりする人は居ません。居たら私が潰してますから……」
「ッ!?……あ…………あっ、そ……どうでもいいわ」
ルビーとスズだけ、他より関係が少し湿っている気がしたが、聞かなかった事にしておこう。
そして彼女らに聞く所によると、スズは場に応じ髪型を変えるのだそう。
戦闘時や食事の際にはツインテール、遊ぶ際にはポニーテールに。普段はこうして結ばないそうだ。スズ曰く「集中力がアガる」との事だがツインテに変えてどうして集中力が上がるのかは分からない。気分的なものなのだろうが、良いルーティンだ。
ただし、スズは目の前の事に集中しがちなので、あのままルーシィと戦闘に突入するのではないかと他の子達は警戒をしていたようだ。実際は、一撃でルーシィが鎮んでくれたので事なきを得たが……。
「……そういえばさ」
「……?どうされましたか?」
「さっき、ルーシィは『教員ロボは壊されてる』と言ってたけど、誰が壊したの?」
「……っ!」
「ゲヘナ学園でも教員ロボは普通に教鞭を執ってるくらいだから、気になってね。何なら、教員ロボに手を出すのはご法度みたいな扱いな所もあるしね。やっぱり……アレかな?暴れた生徒達がやったの?」
「「「「「「──────……」」」」」」
私がただ純粋にその疑問を口にした瞬間、室内の空気が凍りついた……そんな気がした。
次回────ダイモニオンの真実
3年
リエ、シエル
2年
スズ、ルーシィ、アンナ、アスカ
1年
ルビー、サエ、アスカ妹