「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「──あんた達、もしかしてルーシィとレイコ?」
「やっぱりモル姉……なの!?」
「いや、おかしい!もしモル姉なら、どうしてまだゲヘナ学園で学生やってんのよ!?何年生よ!?」
「絶賛、3年生を無限ループ中でーす☆」
「「!?」」
モルモと2人は、どうやら知り合いらしかった。それをやり取りからすぐに察したヒナは3人の間にニュッと割り込む。
「連絡早々来てくれてありがとうモルモ、イオリ。早速で悪いけど、本部は今、この2人とその手下によって襲撃を受けてる。イオリはすぐ本部に入ってチナツとアコの援護に行ってくれる?」
「わ、分かった!!」
ヒナの指示を受け、イオリはすぐさま本部の中へ向かう。場には死屍累々と積み上がる風紀委員達と飂熾冘巫髏の構成員達、そしてルーシィとレイコ、ヒナとモルモだけが残った。
「……モルモ、説明して。この子達とあなたの関係」
「いやぁ、関係っつーか、私がゲヘナ学園1年生んくらいの時に遊んでた近所の子っつーか顔見知り?みたいな……知り合いの女の子……って感じかな?」
「その割には親しいようだけれど」
「まぁ5年前だしね。あの2人が小学生の頃だから懐かれてたってのもあるよ」
「……そうか、モルモはもう5年以上はゲヘナ学園に居るんだったわね」
「うんうん」
5年前────ゲヘナ学園にて抗争が起きていた時代である。モルモは当時1年生であった。そしてルーシィは小学6年生、レイコは小学5年生……。
友人が健在であった頃のモルモは、まさに普通の高校生と変わらぬ青春を謳歌していた。学校帰りは友人と食べ歩き、遊び歩き……。
そんな最中に彼女達は邂逅を果たしていたのだ。
「──で?あんた達ィ?今度はなぁにやらかしたのかしらァ?」
「も、モル姉こそ!なんでまだ学生やってんのよ!留年にしても留年しすぎよ!」
「私はまァ……失った青春を取り戻したくて、ね?」
「青、春……!?」
遠い目のモルモ、けれどもそれを見てルーシィは顔を引き攣らせ、レイコはギリッと強く強く奥歯を噛み締める。そしてレイコはモルモを心底非難するように、指を突きつけながら激昂した。
「ラミ姉とプーさん殺されておいて、あんただけ!あんただけ、青春なんか謳歌しようってのッッ!?私ですらっ!私とルーちゃんですら、
「あら、あんたらはまだやり直し効くでしょうよ。えぇと、ルーシィは2年、レイコは1年だっけェ?まだまだ青臭いガキじゃないのよ。若人は『今』を楽しんでこそよ〜?」
「ふざけ、ないで……ッ!どうしてよ、どうして!?2人も友達を殺されておきながら、のうのうと!」
「だってぇ……復讐って、ヤッてる内は必死んなって頑張るけど、いざ復讐を終えたら燃え尽き症候群になるんだもの……」
「!?」
「自分が復讐を終えたみたいな言い方────!」
「あらぁ、失礼しちゃうわ?あのクソッタレ集団の失楽殿を潰したの──どこの誰だと思ってんのよ」
ヘラヘラしていた様子から一転、別の人格にでも切り替わったのかと思ってしまうくらいに顔付き、声色が変化するモルモ。
ルーシィは既に足に力が入らなくなり、ぺたりとその場にへたり込む。レイコもまた足をガクガクと震わせ、モルモに向けていた銃口すら、その照準を合わせられない。
「そんな燃え尽き症候群になってた私に、もう一度青春をやり直す機会をくれたのが、先生ってワケ♡ もっかい風紀委員会に力を貸す事になるとか、誰が予想デキんのよ?モルちゃん自身がまず驚いたわ。予想なんてまず無理だし〜」
「まさか……モル姉、なの……!?」
「失楽殿の後輩が……ハドマ学園で台頭するキッカケ作ったの……!」
「あん?失楽殿の後輩……?──あぁ、逃げたんだ。先輩が私に処理されてく中で、おめおめと?尻尾を巻いて逃げたんだ?アハッ!まぁそんくらい無様な奴らだったわぁ、失楽殿の奴らは。──で?まさかルーシィ?あんたら、私の復讐を
「
「復讐はもう、終わってんのよ。私が終わらせた。だからあんたらは、この件から手ェ引きな。復讐に囚われンのは私だけで十分。あの2人の恨みは私が晴らしてやった。あんたらはフツーに過ごしなよ。フツーの女子高生みたいに食べ歩きして、映画とか観たり、ゲーセンで遊んだり。下らない復讐からは手ェ引きなさい。……『モル姉』からの、警告よ」
「「…………ッ!!」」
睨み合うモルモとレイコ、ルーシィ。しかし未だ足を震わせながらも、膝に手を添えて、ルーシィはどうにか立ち上がり、真っ直ぐモルモを見据える。
「──残念だけど、私達の復讐も終わってんのよ。私自身が失楽園に入り、ハドマとゲヘナを併合し!ハドマに逃げ
「目的、ね。ゲヘナ学園を乗っ取るのが最終目的……じゃあなさそうねぇ。どうせルーシィ発案でしょ?ルーシィが考えたんなら……大方、レ────」
「うるさいうるさいッ!!何も言わないで、私達の前から消えたクセにッッ!!レイコッ!思いっきりブチカマしてやりな!!」
「はいはい!!」
大きく口を開けるその構えを見たヒナは、再び、レイコのEXが来ると身構える。そして読み通りにレイコのEXが放たれるが──その効力は、普段の半分以下、いや100分の1程度に抑えられていた。
ヒナ、モルモ、ルーシィへのダメージは、殆ど、皆無に等しかった。
「……え?」
「おバカさんねぇ。未熟なレイコの超音波程度──この私が相殺できないとでも思ったの……?」
「「────ッ!?」」
「モルモ……イマイチ話が見えないのだけど……?」
「ヒナちゃんは吸血鬼じゃないもんね。んとねー、レイコのあの攻撃はね、吸血鬼がデフォで備えてる超音波発射機能──
音を打ち消す音────「逆位相」の音。これは吸血鬼ならば誰もが習得可能な基本技能の1つだ。特にモルモに限った話ではない。レイコもできる、ハドマ学園の吸血鬼の一般生徒もできる。ルビーも鍛えれば可能だ。
そして、シッテムの箱。レイコのEXを受けて、先生がノーダメージだったのは、アロナが逆位相の音波を発する事で、局所的ではあったが、レイコの攻撃を完璧なまでに打ち消していたからであった。
先生が聞いた「キィィン」という音は、ギリギリ超音波に分類されない程度の高周波の音。先生には無害であると、アロナ達が判断した音である。
これまで散々この攻撃で無双してきたレイコは、自身の技が全く通じず、相手にダメージを通せないという事実に、先程のルーシィのように膝から崩れ落ちてしまった。
「吸血鬼として鍛えられる部分はトコトン鍛えた、なんて言ってたけれど……成程ね、こういう所ね」
「そゆこと〜」
「「……!!」」
ギリリと歯を食いしばる2人。単なる火力ですら劣っているというのに、必殺技すら全く通じない。もう、2人に打つ手は残されていなかった。
「ヒナちゃぁん、どうすんの?」
「捕まえて計画を洗いざらい吐いてもらう。場合によっては、風紀委員会では対応不可だと判断して、矯正局に送る事になるでしょうけど」
「そっ……か。矯正局は、やぁねぇ……」
哀れむような目を向ける。モルモにとってのこの2人は、紛れもなく「子供」であった。実際、既に成人している年齢のモルモからすれば、高校1年や2年など、紛れもなく子供である。
そんな子供が──ましてや幼い頃を知る子供が、こんな事をしでかした。モルモの心境は、決して、穏やかではないだろう。
「……レイコ。あんた確か、ゲヘナ自治区に住んでたハズよね。わざわざハドマに通ってんの?」
「ううん。ハドマに引っ越したし」
「あんたもハドマに流れたクチか……そっか」
「……?何が言いたいのよ」
「今のゲヘナは、吸血鬼は私しか居ないけど、昔はそれなりに居たのよ?今はハドマに流れてるみたいなんだけど。──同族のコミュニティってヤツね。向こうに居るのが多数派と分かるや否や、そっちに流れるの。バカよね〜。『自分』っての無いの?」
「……『自分』……」
「確固たる己自身。それが無いから流されてばっかなのよ。そんなんだから廃れるのよね、ハドマは。わざわざルーシィが手を汚さなくたってさ、きっとそう遠くない未来、ゲヘナ学園との併合に至ってたでしょうね……まず間違いなく」
「ええそうね、分かってる。私は副会長として書類仕事もしてたし、連邦生徒会からの通達の書類とか全て目を通してる。でも捨てたし無視してきたわ、連邦生徒会に実力行使される前に私達で壊そうって決めてたからね」
「なぁるほど?ハドマ学園と連邦生徒会が音信不通状態だったのは、ルーシィのせいなワケだ?」
「ええ、だからあの会見を見るまで会長はハドマと連邦生徒会が音信不通だった事さえ知らなかった。私は校外に向けて、会長は校内に向けた仕事って、分担して仕事してたからね」
「普通逆だと思うけど、まぁ中途半端な連中だから何を考えてそんな結論に至ったのかは突っ込むのはやめておく。──バカね、ルーシィ。もし来年なら計画も上手くいっただろうに。今年はヒナちゃんがゲヘナで猛威を振るってるのよ?」
「私が空崎ヒナと戦うのが目的だったんだ!だから今年しかできない事だった!ルーちゃんの計画に、穴があったワケじゃないッ!」
「……最近になって設置された『副委員長』が私だと知っていたら、その計画、実行に移したかしら?」
「「────……」」
「ルーシィ。あんたは昔っからそうなの。策略家を気取ってはいるけど、肝心な所でガバるのよ。私とイオリちゃんを都市部に派遣したのも、下手したらマコトちゃんじゃあなくてルーシィの案かもねェ。現に、人員不足のお陰でヒナちゃんの事をここまで追い詰めたワケだし。もう少し私とイオリちゃんの到着が遅れていたら、最悪、風紀委員会本部も陥落してたかもしれない……」
「確かにその子の率いるル・シュ・フェルとやらは構成員が多いから、私1人で、一気に相手できる数じゃなかった。──正直、かなり危なかったわ」
「んね。かなりイイトコまでイッてた。だからこそ残念よルーシィ。あんたらの野望はここで終わり。大人しくお縄になりなさァい?」
「…………ルーちゃん……」
「────」
「ん?何か言った?」
「ここで負けても、既に目的は達成したも同然よ。私は常に、1つの行動につき『2つ以上の意味』を持たせて行動してる。確かに、風紀委員会の本部は乗っ取れなかった。悔しいけど、負けを認めるわ。でもね、第2の目的は既に達成されてるのよ!!」
「「!?」」
ルーシィが銃に手を掛けたその刹那──レイコも同時に動き出す。
ヒナとモルモも同時に銃を構え迎撃態勢に入るがレイコはルーシィを抱え上げ、逃走を開始した。
「ッ!?待ちなさ────」
「モルモッ!!」
「ヒナちゃん!?なんで止めんのよ!?」
「見て、本部から敵の構成員が逃げ出してる。多分イオリが加勢した事で形勢が逆転したんでしょう。敵の目的が分からない以上は、深入りは禁物。もしこの先で待ち伏せされて、袋叩きにでもされたら、目も当てられないわ」
「けどっ……」
「
「〜〜〜〜〜〜ッッ……!!!」
段々と小さくなりゆくレイコとルーシィの背中。速度では上回っている自覚があるにも関わらず、今捕えられないもどかしさ。モルモが強く噛み締める下唇は切れ、鮮血が垂れ落ちた。
「──現に、あの手下達は、本部の近くの建物から出てきたの。だから、待ち伏せされている可能性の方が高いハズよ」
「あーもう、分かったわよ!んじゃせめて、本部の中に居るザコ共くらいは捕まえましょうかァ!!」
「ええ。それは遠慮なく、容赦なく。本部は私達の家も同然。待ち伏せの危険箇所は当然、把握済み。行くわよモルモ──
「りょーかいッ!!」
その後、イオリ達とヒナ達との挟み撃ちに遭った飂熾冘巫髏の構成員は、50人以上が風紀委員によりお縄となり、風紀委員の牢屋に入れられる事に。
しかし本部の中での殲滅戦の最中、1人、堂々と逃げ果せた者が居る事をチナツ以外の誰も知らず、また、気が付く事も無かった。
そしてルーシィの「第2の目的」が、戦闘開始後ずっと音信不通だったチナツの口から語られる事になる……。
次回────計算通り