「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「レティ、身体は大丈夫?」
「え? 大丈夫だけど、なんで?」
「さっき……時速200キロは軽く超えているバイクを正面から受け止めてたから……」
「あー、あれね。昼だったら吹っ飛んでたかもね。でも今は夜だから、ギリ何とかなったよ!」
そう言ったレティはウインクしてピースサインを作って見せる。
レティは「夜間は基礎能力が倍になる」みたいな神秘があるらしい。マフユが言うには、好戦的にもなるらしい。そういえば、夜のうちに全ての仕事を終わらせるみたいなそんな紹介をされていた夜型に特化した悪魔が居たハズ。
彼女は、その悪魔の力を持っているのだろうか。何だっただろうか、確か、レティの名に似た悪魔が図鑑に載っていたハズだが……。
「お待たせしました。そろそろ、行きますか」
「マフユはレティの後ろに乗るんだね」
「私は運転しませんからね。そして、ルビーさん。レイコさんを吸血鬼化させる準備は大丈夫ですね? 失敗したらあなた諸共、私達までスケバンの餌食になるだけなので、失敗は許されませんよ」
「ええ、大丈夫です。まだ2人分くらいは、他者を吸血鬼化させる余裕はあります」
「そうですか。ではそれを全てレイコさんに流してください。あとは、更に強化されたレイコさんが、全てを片付けてくれますから」
「……はい」
本当にそれでいいのだろうか。もし負荷があれば私がそれを引き受ける事にしているが、作戦として本当にこれでいいのか、少し疑問が残ってしまう。
マフユに聞いてみたところ、レイコはこの作戦を知らない。ここまで劣勢になるという事がそもそも想定外である為、それ自体は仕方ないかもしれないという擁護はできなくもないが……。
マフユの立てたこの作戦を、現在進行形で戦闘中であるレイコの視点から見てみると、こうなる。
スケバンに囲まれ戦闘中、突然囲みの一角が崩れ私達が現れる。そしてルビーが噛み付いてきて急に吸血鬼化エキスを流し込んでくる──。
レイコ視点だとこうなるワケだ。唐突すぎて反抗されてもおかしくない。そもそも戦闘中のレイコに噛み付く隙があるのだろうか。作戦を説明する隙があるのだろうか……?
「先生、エンジン掛けてください」
「あ……うん。行こ、う……か……」
ゲヘナ部隊とレッドウィンター部隊による、合同作戦。私とルビーはそこに交わる事になっている。
ゲヘナ部隊の子が運転するバイクはどれも大型。そしてスケバンの海に突っ込むのは、運転手である彼女達の仕事らしい。レッドウィンター部隊の子が後ろに乗り、銃火器で援護をするようだ。
私とルビーのバイクは隊列の中核に位置しており守りを最大限に固める形でスケバンの海に突撃するかたちである。
「よーし、それじゃ行くよッ! 突撃ィーッ!!」
レティの号令で、部隊は出走。クロノとマトイに連絡してトリニティ部隊の包囲網にたった1つだけ穴を作る。その穴から私達の合同部隊が突っ込む。
クロノとマトイへの連絡役はいつも通りマフユが担当している。ハドマ学園で待機中のルーシィともほぼリアルタイムでやりとりをしているそうだ。
『もしもし先生、聞こえてますか?』
「聞こえてるよ、何?」
『学園が、そろそろ陥落しそうとの事です。伝説のスケバンが目の前に居るという事で、スケバン達の士気が、過去最高に盛り上がっているそうです』
「……ッ!?」
『──が、押されている割には、ハドマ学園勢力の生徒がまだそれなりに残ってる為、列車砲の使用はしていません。起動はしている……との事です』
「ッ、そこまでスケバン達が粘るとは……ッ」
『その為、列車砲発射の代わりに少し強めの爆弾を投下して様子を見つつ対処するつもりのようです』
投下──テンコだろう。テンコが実戦投入した、あの翼。アレで爆撃を仕掛けているらしい。しかし開戦からしばらく経つ。そろそろ、燃料が心配だ。燃料補給の隙をついて学園に侵入されればそれこそ終わりだというのに……。
『先生。先頭の方はレイコさんが確認できました。これよりゲヘナ及びレッドウィンター部隊は先生のバイクを囲んだまま隊列の範囲を広げレイコさんを巻き込みます。その後は予定通りに、ルビーさんにレイコさんを。いいですね?』
「了解。聞いたね、ルビー?」
「はい」
しかし、疑問が幾つか残る。
レイコはその自身の特性によって僅かな時間しか戦闘できないハズだ。1回1回戦闘を切り上げればそれで済むだろうが、続けざまに襲い襲われるこの環境では、きっとそれすらもできないだろう。
それなのに、どうしてレイコは現在も戦闘を継続できているのだろうか?
「お……」
「綺麗に隊列が広がっていく……」
ゲヘナ部隊、事故を起こしたと聞いたからこれは本来の自分達のバイクじゃないだろうに、まるで、自分の手足でも操るように流麗にバイクを操作し、私のバイクを半径2mほどの範囲で囲んでいる。
『全体、速度を落としてください。このまま隊列の中にレイコさんを飲み込み、停車。外側の者は応戦して中の先生達を護衛するように』
マフユの声がヘルメット内に響く。直後、全てのバイクがブレーキランプを点灯させて、泥沼にでもハマったかのように急激に速度を落としていく。
やがて目を丸くしている傷だらけのレイコを私のバイクを護衛する包囲に取り込み、完全に停車。
「お待たせレイコ、無事だったんだね」
「せ、先生!? バイクなんて乗れたの……!?」
「少し前に車の免許を取ってね。その時、ついでにバイクのも取っておいたんだ」
「へ、へぇ……てか、バイクに囲まれて何なのこれ? まるでワケわかんないんだけど?」
「私がレイコに、吸血鬼化を施します。そうするとヴァンパイア・ロードが『多重吸血鬼化』によって力を得たのと同じように、レイコ、あなたも強力な力を得られます。現状を打開するにはそれしか手がありません」
「ルビー……あんたが先生のケツに乗って……って、私が吸血鬼化させられるって? あんたに!?」
「それしかありません」
「いやいやいやいや待ってよ、そりゃあ……だって、もしも理性を失ったりしたら……」
「なりません。ロードのアレは何重にも重ね過ぎた副作用です。私が一度だけそれをするだけならば、あんな事にはなりません。仮にそうなったとしても私の施す吸血鬼化は一時的なもの。すぐ治ります」
「う、うーん……。え、てか、そんな方法をしなきゃいけないくらいピンチなワケ?」
「学園が陥落寸前だそうです。技術開発部メインで食い止めているところです」
「ハッ!? じゃこんな喋ってる暇無いじゃん!? 暴走は怖いけど〜……まぁ、いつも暴走してるようなもんだよね! ね、先生!」
「いつもは、理性を保って暴れてる。ロードとは、まるで違う。だけど、もしレイコがロードみたいに暴走してしまったなら……その時は、私が止める」
実際は、私が身体を張って止めるワケじゃない。大人のカードを通じて私に負担を移すという意味で止める事になるだろう。
尤もゴルコンダ達の言葉を信じるなら、ルビーがレイコに吸血鬼化を施したとしても、あんな風には暴走はしないだろうが……。
「……そっか。分かった。とりあえずこのスケバンのクソ共をブチのめしつつ学園に向かえばいいんだ? 学園側と私達でスケバンを挟撃するんでしょ?」
「そういう事。レイコ……できる?」
「『できる?』じゃなくて『やれ』でいい。先生の指示なら、1vs1000でも勝てる気がするからさ」
「レイコ……」
ルビーが彼女の首筋に噛み付き、同族から同族へ吸血鬼化を施す。レイコは一瞬だけ苦しそうに顔を顰めたが、特に理性を手放しそうな危うさは無い。
目を開けると、EXスキルを行使する時のように眼が紅の光を灯していた。
「……力が湧いてくる……って、こういう事かな」
「勝てますか? レイコ?」
「ヨユー。いやぁ
「……え?」
「やっと戦闘開始……? さっきまで散々……」
「私さ、長期戦できねーじゃん? でもアレって、
「……それって、つまり……」
「さっきまでスケバンが空を舞ってたのも……」
「「身一つでケンカした結果……ってこと??」」
「あったりィー♡ そんじゃあ、枷から解放されしハドマ最強・博愛レイコ! イッきまーす♡♡」
バシュンッ、と上昇気流を作る程の勢いで私達のバイクの包囲から飛び上がると、止める暇も無く、スケバンの海の中へ飛び込んでしまった。今度は、銃を使い大暴れしている────銃声がとめどなく響いてくる。
すると彼女の出陣に気付いたマフユが、小走りでやってくる。
「レイコさんは……あの様子だと、大丈夫ですね」
「あぁ。まさか、さっきまでは拳で戦闘してたとは思わなかったけどね」
「……強化された今、恐らく、怖いもの無しですね。懸念すべきは『時間切れ』くらい。ですので先生。ここからは私達も戦闘に直接参戦して、こちらからレイコさんを援護しましょう」
「よし……じゃあ、こっちも戦闘開始だ」