※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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第20話:危機を、楽しむ。

 

 シッテムの箱に編成画面が表示される。今回は、フリーのNPCのように戦闘しているレイコを私が指揮する部隊で援護するという形式の戦闘らしく、編成できる生徒は固定との事。ルビー(1着目(制服))、マフユ、レティ(2着目(ライダースーツ))。

 黒いライダースーツはボディラインがくっきりと浮き出ていて、モデルのような細身でありながらもメリハリがある彼女のラインが、非常に艶かしい。というよりも、こんな屋外でいつ着替えたんだ──なんてツッコミや疑問は野暮ってものか。

 

「レティ、マフユ……」

 

 マフユとレティは別学園にも関わらず、イロハとイブキのように搭乗するタイプとしても編成できるようだった。

 この場合、主になるのがレティ、乗る方がマフユという判定だ。だが今回はやめておこう。次回また彼女達を同時に指揮する機会があったら、試そう。

 

「────レティ今だ、EXブチかませッ!」

 

「はいはーいっ! イッくよぉおおッ!!」

 

「「「「ぎゃあああああああっっ!!」」」」

 

 レティ(2着目)のEXスキルはバイクに乗って真っ直ぐ突っ込むという、非常にシンプルなモノ。効果範囲が少し狭い直線上のみというデメリットはあるものの、その分、与えるダメージは防御無視で倍率も凄まじい。

 典型的というか分かりやすい「爆発」タイプだ。しばらく真っ直ぐ走ると大爆発を起こし、バイクを中心とした円形範囲内にも大きいダメージを与え、煤まみれになったレティがパタパタと自軍の方へと駆け寄ってくる。……で、またバイクに乗る。

 SDモーションの動きが変態的なまでにヌルヌルしている。アロナ達は相当な変態だな。

 

「ルビー、は……うーん……」

 

 マフユと2着目レティは複数人を攻撃できるが、通常ルビーのEXは単体攻撃。倍率は高いものの、コストは4と少し重め。中ボスクラスなら問題ないだろうが、今のこの戦場はゲームで言うと雑魚戦のようなものだ。単体攻撃のスキルを使う暇は無い。

 幸いな事に3人だけの編成だから、スキル回しを考慮して強制的に使わされるワケでもないし、少し偏りは出てしまうものの、ここはレティとマフユに活躍してもらおう。

 大丈夫。今回の戦闘は「時間内に敵を倒し切る」戦闘ではなく「耐え切る」戦闘なのだから……。

 

「……思ったんだけどさ。ルビーも、さっきのレイコみたいに拳で戦うとかどうかな? 弾薬にも余裕ができると思うんだ」

 

「それは──私もずっと考えていました。それこそ何年も前から。……でも、ダメなんです」

 

「どうして?」

 

「先生もご存知の通り、吸血鬼(わたしたち)は、素でそれなりの暴力性を有しています。一見、大人しそうな私も、決して例外ではありません」

 

「大人しそう……ま、まぁ、そうか……」

 

「……? 大人しそうに見えるでしょう?」

 

「……。レイコとかに比べると、だけどね」

 

「それは私が、厳しく自分を律しているからです。生まれ持ってしまった暴力性を、ボクシングという形で発散しているからこそ、日常生活において内に秘めた暴力性が爆発しないで済んでいるんです」

 

 ルビーの趣味は「ボクシング」──なるほど。

 趣味として暴力性を発揮しているからこそ普段の生活や戦闘においてそれを発揮したり我慢しすぎて溜め込む事もなく平静を保てているというのか。

 伝承のような「弱点」に加え、潜在的暴力性──なんというか……吸血鬼、本当に生きづらそうだ。

 

「あ。別に『ボクシングをスポーツではなく戦闘の道具にしたくない』などと言うつもりは無いです。微塵も無いです。なんなら戦闘の道具にしたいとも思っています。汚したくないとかそんな高尚な事を考えた事は、ただの一度もありません」

 

「じゃあ尚更、どうして?」

 

「あまり戦闘が長引くと、アガり過ぎるんですよ。テンションが。それこそハイになった時のレイコと同じくらい……」

 

「……それだけで察せてしまった」

 

「だから、戦闘の道具にしたくとも、戦闘の道具にできないんです。アガり過ぎると、楽しすぎて──目の前が見えなくなるので」

 

 レイコは銃を使った戦闘でこそ己の暴力性を──本領を遺憾無く発揮できる。一方ルビーは己の拳を使ってこそ本領を発揮できる。そういう事らしい。

 レイコは銃を手放す事で自分にセーブをかける。ルビーは銃を手にする事で自分にセーブをかける。

 種族、そして秘めたる暴力性こそ同じであるが、生まれつきそうであるからか、それぞれがちゃんと対処法というものを確立しているらしい。*1

 

「最近、ボクシングする暇も無かったんじゃない? 大丈夫だった?」

 

「統治委員会の訓練のメニューに近接格闘術としてボクシングを取り入れています」

 

「成程、それはいいね」

 

 やはりルビーは利口だ、私が言うまでもなく既に実行済みだったとは。既にボクシングという対策を確立しているくらいだし、察せたかもしれないが。

 

「……けどね、ルビー」

 

「はい」

 

「今は『それ』を解放してもいいのかもしれない」

 

「……っ!」

 

「学園が陥落寸前だ。ユウナは集団内で暴れてる、レイコは学園に向かいながら暴れてる。私達も今はユウナ同様、集団内で暴れてるに過ぎない」

 

「……はい」

 

「学園まで残り1キロちょっと。レイコの殲滅力を以てしても、間に合うかは五分五分じゃないかな。相変わらずスズと連絡が取れないって事は、恐らく連絡している暇も無いって事だろうから……」

 

「しかし……学園の危機だというのに……。戦闘を、楽しんで良いのでしょうか……? 不謹慎じゃ……」

 

 ルビーは良い子だ。悪魔なのに品行方正だ。いや別に悪魔差別ではない。しかし創作物においては、悪魔というのは往々にして「人を堕落の道へ誘う、悪しき魔物」として扱われる。

 それなのにこの子は、他人を誘惑するどころか、自分すらも律している。あまりにも良い子すぎる。ゲヘナの、自称アウトローの社長を思い出させる。

 

「『学園の危機に楽しんではならない』なんて──どこの誰が言ったのかな?」

 

「!」

 

「例えばリンコとテンコ。彼女達は、学園の危機を口実にして、新たな兵器や装備を開発した。これは普段から画策していた事だけれど、非常時だという建前があってやっと実現できた事なんだ。非常時を利用してトコトン発明を楽しんでる。──レイコも見ての通りさ」

 

「れ、レイコは戦闘狂ですから……」

 

「レイコなんて、デメリットがあるとはいえ、銃を使わないとかいう縛りプレイを課してたくらいだ。縛りプレイだなんて、あんまりにも戦闘ってヤツを楽しみすぎでしょ。──でも、それで勝てるなら(・・・・・・・・)。戦闘を、学園の危機を楽しむ事を『悪』だとは私は思わない」

 

 この戦闘(・・・・)の終了まで、あと30秒。

 

「私は普段、結果より過程を重んじるタイプだよ。でも『学園が乗っ取られる』という一大事にまで、いつもと同じ事を言うワケじゃない。スケバン達に学園が壊されたり乗っ取られても『全員頑張ったしそれでいい。仕方ない』なんて、寝ぼけた事を言うつもりは無い。今回に関しては『結果が全て』だ。それなら……過程を楽しんだって、良いじゃない」

 

「……ッ……」

 

 戦闘終了。レティ、マフユ、ルビーの誰も負けず戦い抜いた。倒し切る戦闘ではなく耐え切る戦闘で見事、勝ち残った。スケバンも、私達の勢いを見て襲い来る手を少し止めている。

 

「……分かりました。私……行きます」

 

「!」

 

「先生。バイクで少し前まで送ってくれませんか? 流石に、これだけの山(・)を全て1人で片付ける気力は無いので……」

 

「よしきた。後ろに乗って!」

 

「ありがとうございます」

 

 マフユとレティに今後の行動について軽く指示を出して、ブルンとエンジンを唸らせる。これまでのバイクの威力を見てきたからか、大半のスケバンは道を開けてくれるようだった。

 しかし中には抵抗してくる者も居る……が。

 

「先生のバイクに手出しはさせません」

 

 ルビーがドンドン蹴散らしてくれるのでバイクを進めるのにあまり支障は無い。銃声がすぐ近くから聞こえるので耳に少しばかりダメージがあるが今はそんな贅沢を言っていられる場合ではない。

 

「……先生。運転したまま聞いてください」

 

「うん」

 

「今一度、先生の事を吸血鬼化させます」

 

「えっ? な、何で?」

 

「私が先生のそばから離れたら、誰が、スケバンの山から先生を守ると言うんですか? というより、先生を吸血鬼化させる為にマフユさん達から距離を置いたんですよ? マフユさん達に任せるよりも、先生そのものを強化した方が安心できますから」

 

「そっかぁ……」

 

 アロプラバリアはある。しかしそれはそれとして彼女達に頼りすぎるのは良くない。いざという時に彼女達の力を借りられなくなる程に消耗させたら、それはもう意味が無いから。

 まさか私をまた吸血鬼化させるつもりとは──と内心焦っていると、するりと首筋に手を伸ばして、スーツの襟を引っ張る。うなじが夜風に晒されて、少しばかり背筋が震えてしまう。

 

「噛みますから、運転、気をつけてくださいね」

 

「ダメと言ってもやるんだね?」

 

「やります。先生の身を守る確実な方法ですから。大丈夫です、残り全部を注入しても、大体4時間も経てば自然に解けるでしょうから。この為だけに、レイコに残り全部は注がなかったんですからね」

 

「分かった。……痛くしないでね?」

 

「何回か体験してるんですから、分かるでしょう? 痛みよりも、快楽が来ますよ……♡」

 

 ハンドルを握る手に力を込める。ぺろりと、熱くヌルッと滑らかな舌が首を滑る。まるで注射の前のアルコール消毒のように唾液で軽く濡らすと、唇でちぅ、と軽く吸い付き、それから牙を突き立てる。

 ズブリと表皮を突き破る瞬間は痛い、しかし肉に牙が到達すると、どういうワケか性感帯を口淫でもされているかのように、噛まれているのに、性的に感じてきてしまう。

 吸血の為の噛み付きと吸血鬼化エキスを送る為の噛み付き、どちらもそうだ。何度も噛まれたから、よく分かる。

 言わば、運転中にフェラされているに近い。

 バイクの運転中にそんな事をされて──まともに運転を続けられるほど、私は運転が上手くない。

 

「ッ! ん゙っ、フラフラしないで(ふあふあひぁいぇ)ください(くらはぃ)!」

 

「そいつは、厳しいって……!」

 

 アクセルをフカし速度を上げて、スケバンの海を縦横無尽に駆け巡る。後ろから少女に抱き締められ首に噛み付かれている状態でバイクを運転とは──なんてヒドイ絵面だ。

 2ケツなので、後ろから抱きつくのは普通だが、噛み付くというのは……聞いた事がない。

 

「うっ……っ、そろそろだね……」

 

 背中がムズ痒くなってくる。何度味わってもこの奇妙な感覚は慣れそうにない。

 ルビーも、注入が終わったのか口を離し、血液が垂れる牙の痕をペロリと舐め取り、チュッ、と軽くキス。こそばゆくて、思わず肩を竦めてしまう。

 

「じゃあ……私の銃、先生に預けます。肩掛け紐(ショルダーストラップ)を付けてあるので、背負っててください。使ってても構いませんよ」

 

「使わないよ。私には私の武器があるから」

 

「そうですか。……では、レイコが見えてきたので、私ももう行きます。先生は、このまま進んで学園に戻っててください。私はスケバンを蹴散らしてから戻りますので」

 

「気を付けるんだよ」

 

「先生こそ気を付けてください。……ご武運を」

 

 走行中のバイクから飛び降り、スケバンの海の中たった1人で取り残されてしまったルビー。しかし私は彼女の言葉を信じて、学園に向かってバイクを走らせた。

 スケバン達はただ1人で走る私を見て道を開けてくれるようだった。流石に、「シャーレの先生」を直接攻撃しようとする子は居ないらしい。

 

「……よく見えるな」

 

 動体視力が凄まじく、夜目が利く吸血鬼の眼は、バイクのライトに頼らなくともスケバン達の動向を鮮明に私に伝えてくれた。

 

「アレだ! あのバイクを止めろぉッ!!」

 

 誰かが叫んだ。それに数秒遅れ、銃撃を受けて、私が乗っていたバイクは爆発──私の身体は空中に投げ出され、そしてそのまま地に叩き付けられた。

 

「……イテテテ……」

 

 時速80キロは超えていたハズだ。なのに擦り傷で済んでいるあたりルビーに守られたと言っても過言ではないだろう。もしも吸血鬼化を本気で拒んで、彼女が大人しく引き下がったら、私は死んでいた。

 

「あ……!? せ、先生、じゃないのか?」

 

「いや先生だろ、ヘイローっぽいの無いし」

 

「でも翼が生えてるぞ」

 

「先生って『人間』じゃなかったのか……??」

 

「銃も背負ってるみてーだし、アレってシャーレの先生じゃないんじゃ?」

 

「というか、ヘルメットで顔も見えないし、アレは先生じゃないって事で別に攻撃しても……」

 

 スケバン達の困惑の声が聞こえてきた。今の私は顔も隠しているし、生徒が使っている銃をそのまま背負っているから、到底「シャーレの先生」の姿に見えないのだ。極めつけに、人間であるシャーレの先生の背中に翼が生えているという発想など恐らく彼女達の発想には無いだろう。

 これは……好機だ。

 

「……夜の学校を襲うなんて、悪い子達だ」

 

「あぁ? なんだと〜?」

 

「掛かってきなさい。私が『教育』してあげよう。なに、痛い事はしないからね」

 

 この後、めちゃくちゃ血を吸ってやった。

*1:
レイア&レイラは、日々の姉妹での特訓にて発散している。飂熾冘巫髏(吸血鬼部隊)は、そういった意味でも吸血鬼の生徒達の受け皿として機能していた。

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