「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「ひ、ヒィィィッ! ヤバイぞコイツ、毒があるのかもしれない!」
「逃げろッ、逃げろォオオオッ!!!」
「……ふー…………まずい、お腹がたっぽたぽ……」
襲い来るスケバン達の銃弾を、吸血鬼ボディーやアロプラバリアで弾き返し、吸血して骨抜きに──そんな工程を何度も何度も繰り返しているうちに、私の周囲にスケバンが寄り付かなくなり、最終的に逃走まで始めた。
1人が逃げ出すと、また1人、また1人と逃げ、それを見た者達も逃げ始め、ハドマ学園校門前は、一気に閑散としてしまった。
────「恐怖」とは「無知」から生ずるもの。
おおよそ、そんな意味の言説がある。これは割と正しいのではないか、と私は思う。
暴力を恐れないスケバンも、
「ちょっとちょっと何よあんた? あんたのせいでアタシの獲物が逃げてったんですケド!?」
眉をつり上げながら、細い金棒のような物を肩に乗せた鬼の少女がやってきた。力強く地面を踏み、足跡を残すかのように。まるで歩きながら地団駄を踏んでいるようだ。
ユウナの攻撃を受けてしまえば流石に気絶や骨折などは不可避なので、敵視される前にヘルメットを取り素顔を晒す。
「や。ごめんごめん、ユウナ。まさか逃げられると思わなくてね」
「え。……その顔、まさか先生!?」
「久しぶり。数ヶ月ぶりだね。覚えていてくれて、何よりだよ」
「えっ、せんせ、目ぇ紅い……てか、その翼!?」
「ちょっとワケありでね。バイク壊されたついでにこの姿で参戦する事にしたんだ」
「え、えっ? なに? なんなの? 先生、生徒を指揮する人じゃなかったの? 先生も戦えんの?」
「普段は戦えないけど、今の私は特別だよ。コレは私が戦う為の装備と思ってもらっていいよ」
「……? あぁー……バトルスーツ的なヤツかな?」
「あーうん、それ。そういうヤツさ」
全然違うが、そういう事にしておこう。
「あーね? バイク壊されちったんだ。スケバンは見境無しに襲うね、まさか先生も襲うとか。先生を襲うのはルールで禁止っしょー。レギュレーション違反だわ〜」
「スケバンはルール無用だからね。ところで、他の飂熾冘巫髏の子は? クロノとか」
「さぁ? 逃げ出そうとしてるヤツらをそのまんま袋叩きにでもしてるんじゃないかな」
有り得そうだから怖い。そしてクロノの事だからそのまま返り討ちに遭いそうだ。そこに、クロノを助けに入るマトイ……そこまで想像できた。
「くらァッ! なァに逃げてんのよ、反社のヘナチンがァ!!」
「ふふふっ……この私から逃げられるとでも……?」
閑散とした大通りに、銃声と打撃音が響く──。
その中心に居るのは返り血に塗れた2人の少女。戦闘欲に目を輝かせるは、ハドマ最強であり最凶の狂戦士、レイコ。そして自制心の強い最強モデル、ルビー。自身に秘めた「欲」を解放した喜びからか普段のお淑やかな彼女からは考えられない、凶暴な獣そのものの牙を剥き出しにした笑顔でスケバンを追い縋っていた。
◆
こうして学園を囲むスケバンの大半は逃亡または撃退され、残る敵は敷地内に入り込んだ、未だ戦闘継続中であるスケバンのみになった。
早々に決着をつけなくては──とレイコ達を率い急ぎ学園に帰還を果たすも、そこには異様な光景が広がっていた……。
「はぁっ!」
「
「議長ぉーーっ!! やっちゃえーーーーっ!!」
「姐さァァァんッッ!! そんなヒラヒラのヤツに負けないでくださァァァいッッ!!!」
「フランクフルト如何ですか〜」
「ポップコーンとコーラのセット如何ですか〜!」
「小腹が空いた人向けのラーメンもありますよ〜」
「「「「…………」」」」
学園に帰還した飂熾冘巫髏幹部、そして私達は、呆然とその場に立ち尽くした。そこでは何と戦闘が起きているのではなく、アケミとリエの殴り合いとそれを囲む生徒の壁が築かれていたからだ。
しかもアスカ率いる美食研究会対策委員会などは飲食物を超安価で販売しており、まるで殴り合いが見世物のような様相を呈していた。
「リエぇぇええええっっ!! そんな筋肉ダルマに負けるんじゃあないわよおおおおっ!!!」
「アケミ姐さんは最強なんだ、こんな名の知れねえ学園のヤツなんかに負けるかよぉおおおおっ!!」
観客と化した両陣営の生徒は、応援をしながらも野次にも似た怒号をぶつけ合う。リエの自慢の白いロリータファッションは血と砂埃で酷く汚れておりアケミとの激しい殴り合いが服から見て取れた。
「ハァッ、はぁっ、はぁっ……タフですわね……!」
「そうでなくては、スケは務まりませんもの」
「〜〜〜〜〜ッッ……そう、ですわね……」
アケミも相当ダメージを負っているようだった。以前、サオリ達と相対した時のような覇気が無い。かなりダメージを受けているのは間違いない。だがそれ以上に、リエがダメージを受けている。恐らくこのまま戦闘が長引けば、リエが負ける……。
「────『
リエがEXスキルを使用。手を天に掲げ、そこに巨大な氷山を生成……それを投擲。
「──ッ!?」
「「せんせ危ない!」」
呆然としながらその様子を見ていると、レイコとルビーに引っ張られ、まるで投げられるようにしてその場から強制退去。すると私が居た場所は氷山の欠片で埋もれており、生徒やスケバンなども、そのかなりの人数が氷の欠片に埋もれてしまっていた。
こりゃ後片付けも大変そうだ、などと引き気味に見ているとドスの効いた声と共に拳が突き上げられ氷の破片が風圧で吹っ飛んだ。
「
「ッ、まさか数秒しか動きを止められないとは……」
「初見の技故に、少々、判断に手間取りましたわ。同じ手は食いませんがね」
「いいえ食って頂きますわ。地獄の冷気に当てられ浄化されてしまいなさい! 『
再度発動されるリエのEX。それを見た生徒達やスケバン達はワァワァと悲鳴と共に避難。私達も、先程より大きく生成される氷を見て更に避難する。
そんな私達の避難を待っていたのか生成を終えた彼女は思い切り氷山を投擲──アケミは目を閉じて瞑想──謎のオーラのようなものが彼女を包む。
「破アアアアァァッッ!!!」
攻撃力を上げたアケミが拳をぶつけるとガラスが砕けるような音と共に氷山は爆発四散する。ダイヤモンドダストのように満月の光に照らされキラキラ光を反射する。
リエの
「
「!?」
天に掲げた手で、パキンと指パッチン。指の音と思えない程に硬い音が、氷の欠片が舞う夜の校庭に響き渡る────。
「……まさか」
「これにて終幕──最期は心中と参りましょう」
リエが優しく微笑んだ刹那、校庭が丸ごと派手に爆発。凄まじい爆風に吹き飛ばされて、スケバンもハドマの生徒も関係無く、全員が等しくダメージを受け、吹っ飛ばされた。
◆◆◆
「いててて……。全く、やる事ぶっ飛んでるよ……」
「申し訳ありませんわ……。しかしこうでもしないとあのスケバンに勝てないと思いまして」
「いやまぁ……うん……否定できないけども」
現在──時刻は分からないが、月の高さからして日付が変わる頃。ハドマ学園の体育館にて、大勢の生徒が寝かされている。保健室には重傷者のみが、体育館には軽傷者や気絶している生徒が。
そして私はリエから傷の消毒を受けている。
最後の最後、リエがアケミを倒す為の手段として用いた「心中」はその場に居た者全てにダメージを与えた。アロナ達のバリアがある私も、爆風で飛来してきた物が衝突したりなどそれなりにダメージを受けてしまった。
「あはは……ごめんね先生〜、まさかここまで派手に爆発するとは思わなくって……」
「リンコなら計算できてたでしょ。アケミを確実に打倒する為に、初期の想定より威力を高めにした。まさか、リエの言う『心中』が『自分諸共列車砲で校庭を吹っ飛ばすこと』だとは思わなかったよ」
「サタリンって呼んでってば〜……」
「ダーメ。私だけだったらともかく何人も重傷者を出したんだから。抗争じゃなくて、リエとリンコのあの一撃のせいでね」
「しかし、皆さんの避難を遠回しに促す為に、一度デモンストレーションとして
「……」
音も無く指パッチンを合図にして爆発したように見えたのは、列車砲の弾速が音速より遥かに早く、発射音よりも先に砲弾が着弾したからだった。
アケミとリエが殴り合っている最中、リンコは、屋上にて列車砲の発射準備を整えていたのだ。既に起動自体はしていたので、あとは砲弾を装填して、角度を調整──そしてリエからの発射の合図を待つだけだったそうだ。
殴り合いにおいて、リエに分があるハズが無い。だからリエが前線でアケミとやり合う事が決定したその瞬間から、この心中作戦は存在したのだそう。
「あの作戦はリンコが考えたの?」
「えぇっ!? せ、先生ってば、私がそんな事するキャラに見えるの!? リエや皆を巻き込む作戦を立案する非情な女に見えるの〜っ!?」
「寧ろこんな作戦を立てるとしたらマフユかリンコしか思い付かないけど……? マフユは気楽に仲間を切り捨てるし、リンコといえば、ハドマでのマッドサイエンティスト枠でしょ」
「ええ〜っ!?」
「ふふっ、確かにリンコさんならそういうキャラに見えますわ。実際そういう場面も多々ありました。ですが、今回の立案者は私なんです。リンコさんは寧ろ、他の生徒達を巻き込むと心配した方でして」
「ほらー! 言ったでしょ!?」
「……ごめん」
あの作戦を立案した本人曰く────。
デモンストレーションとして一度EXを使用することにより、アケミの出方を見ると同時に、周囲の生徒に避難を促す。(リエのEXは強力だと有名)
EXの使用直後は周囲に居た者も離れているし、アケミも「この技は拳で対処できる」と理解した後だろうと想定。
あとはヴァルキューレを呼びアケミを引き渡し、ハドマ学園篭城戦は幕を下ろす。
────ここまでが作戦だったらしい。
「まさか、大ダメージを与えるのみで、気絶すらもせずに──ただただ負けを認めて引き下がるとは、全く予想していませんでしたけどね」
そう。列車砲の直撃を受けたアケミは気絶すらもしなかった。離れていた私でさえ、ルビー達と共に爆風で吹っ飛ばされて大変な事になっていたのに。立案者であるリエですら、頭に包帯を巻く程度にはかなりのダメージを受けているのに。
リエのみならず自身も継戦不能であると判断したアケミは、スケバンに支えられながらも、学園から撤退したようだった。ヴァルキューレを呼ぶのは、諦めたそうだ。既に逃走した後。アケミは既に指名手配されているのだから呼んでも呼ばなくても同じだろうと。
それに何より、取り調べに応じる気力も無いと。
◆
美食研究会対策委員会の用意した夜食を食べて、この日は解散する事になった。といっても、自宅に帰る生徒はほとんどおらず、学校に残る生徒が大半だった。
そういう私もこんな瓦礫だらけの学園を後にしてシャーレに戻る気にはなれず、もう一晩、こちらで過ごす事にした。片付けをある程度手伝ってから、ゆっくり帰ることにした。
──因みに、スケバン達に潜入して囚われていたアスカの妹・アガリについては、こちらがドタバタ抗争していた隙に目を覚まして自力で帰還していたらしく、ルーシィも含め驚きを隠せていなかった。
アケミの事なのでスパイだからとアガリに危害を加える事はしないだろうと思っていたが……本人から話を聞くに、普通に談笑し普通に寝落ちしただけ、という事だった。
アケミの言う「良い子は寝る時間」とは、恐らく言葉通りの意味だったのだろう。
「……良い夜だ……」
吸血鬼化が解け、翼が抜けて普通の視界になった今の私にも、美しい満月は今も見えている。普段の月に比べ少々オレンジがかった満月は、今もなお、闇のような夜に浮かんで淡い光を放っている。
満月はその眩しさ故に、その周囲に見える小さな星々の光すら自身の光で覆い隠してしまう。そう、それはまるで校庭に広がる抗争の
「ほんと、良い夜。こんな月夜には、何でもできる気がする。まぁるい満月が、何もかもぜ〜んぶ丸く収めてくれるみたい」
「レイコ……」
「吸血鬼部隊、じゃないや。ヴァンピールの連中でパーティやってるよ? 夜通しヤるつもりだけど、先生もどう? お菓子にジュースもあるし、寿司にラーメン……屋台の残りモンもかなりあるよ」
「私は……少し休んだら行くよ」
「そ。んじゃ、第2音楽室でね〜」
「レイコ」
「んぁ?」
「──ごめん、レイコ。君には、随分と……その……無理をさせてしまった」
「あぁ? 無理? 何のこと?」
「その……ルビーに吸血鬼化させてもらうっていう、無理矢理な強化について……」
「別に無理なんてしてない。私はキヴォトス最強を目指す女よ。あの程度も耐えられないんなら、私は所詮その程度だったって事。スケバン共との戦闘も私自身への試練だと受け取ってた。最強を目指す者として、ああいう1vs多の戦闘もこなせなくちゃ」
「レイコ……」
「てか、そんな事で謝る先生にビックリ。私、散々先生に言ってきたよね? 私は最強を目指すって。あの程度で、この私が怖気付くとでも思った?」
「いや、そうじゃない。1対多数の戦闘にレイコを行かせる事じゃないよ。ロードのように理性を失う可能性もあったのに、検証も何もせず、仮説段階で作戦を実行に移して──君を危険な目に遭わせた。何事も無かったって言うのは、結果論に過ぎない。レイコが、
「……」
「ごめん。代案も何も思いつかないで、保証も何もできないような危険な作戦に乗り出してしまった。結果オーライだったとはいえだ。……先生失格だ」
「だからなんだっつーのよ、アホくさい。つーか、生徒とセックスしてる時点でアウトでしょ。恋愛はともかく、セックスは年齢差的にもアウトでしょ? それについてはどうなのよ?」
「あぅ……い、いや、それはそれとして。さっきのは下手したら、命の危険もあったハズで……それなのにレイコにそんなリスクを背負わせ──」
「でも、守ってくれたでしょ?」
「……え?」
「もし私があんな風に暴れたり、ガチで死にそーな展開になったらさ。先生、必死になって私んこと、守ってくれたでしょ」
「そ……ッ……それは、もちろん。レイコも、大事な私の生徒の1人なんだから。もしもそうなったら、どうにかして、その責任は私が負うつもりだった」
「ならもうそれでいいじゃん。結果オーライ。私はスケバン共をブチ倒したし、理性も失わなかった。先生は責任を負う必要も無く、ハドマ学園は先生と生徒達の活躍によって大した被害を受けることなく無事平和な日常を取り戻しました、ちゃんちゃん。
……それじゃ、だめなの……?」
「ダメじゃない……かもしれない。でも……他に何かやり方があったんじゃないかと、もう、タラレバを考えずにはいられなくて──」
そんな煮え切らない解答をすると、チッと舌打ちしたレイコはツカツカと急速に距離を詰めてくる。彼女の接近に気付いた時には既に遅し、ネクタイを掴まれグイと身体を持ち上げられていた。
「いい? 先生。私は
有無を言わさぬその勢いに、私は反論できず……。
「は……はい……」
蚊の鳴くような声で肯定するより他になかった。