「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
第22話:ハドマの場合
技術開発部のみならず、飂熾冘巫髏の外部部隊の尽力もあり、ハドマ学園の復旧復興はものの数日で完了した。列車砲により巨大なクレーターと化した校庭の片付け・清掃に加えて、爆発の被害を受けた校舎の改修などなど。
重傷者の傷も癒え、ある程度、あの篭城戦の事がほんの少し過去の事になったある日の事……。
話し合いたい事があると、議長のリエに呼ばれて少し久しぶりにハドマ学園にやってきた。すると、校門前で清掃活動をしているスズたち統治委員会を発見した。
「あ、先生。おひさ」
「やぁ。元気にしてた?」
「まーね。あまりにも平和過ぎて、掃除くらいしかやる事が無いわ。ルビーも久しぶりに仕事で公欠。お陰で特訓相手も居やしない」
「リエとかは?」
「あのレベルになると実力が離れ過ぎてて特訓にもなんないわ。市大会準優勝程度の実力で全国大会の常連に挑むようなもの。同じ土俵にすら立てない」
「リエならレベル合わせてくれると思うけど……」
「それはそれで腹立つのよっ!」
「そう言うと思った。でも、あまりそうやって選り好みしていると、成長できるものもできなくなってしまうかもしれないよ」
「……!」
「ボロボロに負けるのを覚悟して格上に挑むのも、特訓方法としてはアリだと思うよ。──それじゃ、会議あるから失礼するよ。応援してるよ、スズ」
「……ん……ありがと……」
スズも難儀なものだ。統治委員長として、圧倒的武力により学園内の平和を維持しなくてはならない立場にも関わらず、頭脳ではルーシィに翻弄され、武力ではかつてのレイコに蹂躙され……。
しかも、ハドマ学園で2位程度の実力者であろうリエと大差無い実力とされるリンコの、七天魔への復帰──私がハドマと関わりを持ち始めた頃はまだ七天魔内でも上位だったスズも、今では中位だ。
先日の篭城戦でも目立った成果を上げられずに、議長であるリエに任せてしまった。本来はあそこでアケミと最前線でやりあうべきスズが、だ。
鬱憤が溜まっていくのは仕方ない。きっと、私が言わずとも彼女本人が誰より理解しているだろう。
言わばスランプに陥っているようなもの。どうかこのまま腐らず持ち直してもらいたいものである。
「お待たせ」
「おはようございます、先生。朝からすみません、遠い所を……」
「気にしないで。それより……」
生徒会室に入って真っ先に目に入った事。それは生徒会室にいる人数の少なさだった。
普段ならば議長のリエ、副議長のシエル、書記のアンナ、会計のレイコという生徒会の主要メンバー揃い踏みといった所だが、今回は生徒会メンバーはリエ、アンナのみ。そしてルーシィの、計3人しか居ない。
話し合うのは飂熾冘巫髏の今後についてだろう、だから総長のルーシィが居るのは分かる。しかし、シエルとレイコが居ないというのは……。
視線から私の疑問を汲み取ったか、リエが手短に解説をしてくれた。
「シエルさんはかなりの飂熾冘巫髏のアンチです。建設的な話し合いは望めないだろう、と……」
「だからってハブるのは……。本人は了承済み?」
「シエルさん御本人の頼みだったのです。『参加もしたくない。議長であるリエの判断に委ねる』と。もう少し副議長としての意識を持って頂きたいとは思いますが……まずは今後の事を話し合うのが先決と判断しました」
「うーん。飂熾冘巫髏の存在自体が他学区に影響を及ぼしてる事実がある以上、確かに、まずは組織の今後について話し合うのが先決──ってのは正しい判断だと私も思うよ。優先順位は大事だ。あくまでシエル個人の問題だからね」
「はい……ありがとうございます」
「レイコは?」
「拒否されてしまったのです。『組織が潰れる所を見たくない』と……」
レイコはルーシィと幼馴染。なんなら飂熾冘巫髏創立メンバーでもある。組織を脱退したのだって、組織が嫌になったからではなく、暴走気味の彼女を止める為に敵対する道を選んだからこそ、結果的に組織を抜ける展開になっただけ。
彼女も組織そのものに思い入れだってあるハズ。気持ちは分かる。分かるが────シエルといい、仮にも生徒会所属の生徒がこんなにもあからさまに公私混同していては……。
「うーん……」
「悩ましいですが、力尽くで連れてこようとしても私などではレイコさんに敵いません。情けない限りですが、渋々招集を諦めた形になります」
「私が呼んでもダメだった。ああなったレイコは、テコでも動かないよ。昔からそう。変に頑固なトコあるからね。滅多にそうならないんだけど……」
ルーシィが呼んでダメなら、私でもダメだろう。一度モモトークを送って、それでダメなら、今回は諦めて改めて彼女と話してみる事にしよう。
「──それでは、飂熾冘巫髏の今後についてです。テロ組織としての飂熾冘巫髏は解散の方向で──と事前に話してはいましたが、変わりありませんね? ルーシィさん」
「ええ、大丈夫。テロ組織・飂熾冘巫髏は終わり。ゲヘナとの併合も叶わなかったら存在意義は無い。ズルズル組織だけ残していてもそのせいで痛い目に遭ってちゃ意味無い。よって、今日の放課後を以て組織は解散するわ。グループチャットにも送るし、放送室から放送もするし、飂熾冘巫髏大決戦のときみたいにモモッターでも告知する」
「『伝説』を打ち倒しましたから、スケバン達も、今後しばらく静かにしている事でしょう。それに、解散の噂もすぐに彼女達の耳に届くハズですわ」
「そうね。でも『解散しました、はい終わり』ってワケにもいかないのよね……」
「……そこがネックなのです」
ハドマでもそうだが、トリニティなどにおいて、飂熾冘巫髏は不良生徒の受け皿となっているのだ。そして学園毎に幹部を設置して、頂点にルーシィが立っていたからこそ、不良生徒に秩序が齎されて、統制が取れていた。
もしもここで何のケアも無く飂熾冘巫髏を解散し放置してしまったら、手綱を握っていた不良生徒が世に放たれる事になる。だから、解散するにしても解散の仕方を、そして今後を話し合う必要がある。
「ねぇ、ルーシィ。今日すぐ解散するんじゃなく、少し先に期限を設けられないかな?」
「いいけど……どうして?」
「他の学校の生徒会に声を掛けてみるよ。他学区の部隊はそのまま委員会や部活に方向転換する方向で話し合ってみる。話がまとまってから、テロ組織の飂熾冘巫髏を解散する。これでどうかな?」
「……わかった。でも、レッドウィンターはどうするつもりなの? マフユ、賞金首なんだよ?」
「それも大丈夫。寧ろレッドウィンターの方が楽に話がまとまるんじゃないか、とすら思えるくらい。一番難しいのはトリニティだろうしね。飂熾冘巫髏大決戦の被害者だから、飂熾冘巫髏に対する心象も良くないハズでしょ」
「んー……先生がそう言うなら……」
「決まりだね。じゃ、後は幹部の子達と話し合って作戦を実行するから、他学区の事は私達に任せて。今日この場はライム率いるハドマ部隊をどうするか話し合う事にしよう」
「それについての結論は出てる。ハドマ部隊全員にアンケートを取ったけれど『(この集まりを)解散したくない』って意見で全会一致だった。だから、先生が提案した通り、ハドマ部隊はこのまま部活や委員会として再出発する事になると思うわ。吸血鬼部隊については、技術開発部や調査隊ってのに人員吸収されてたから、そのままでいいと思う」
その仕事の早さを褒めると、自分の手が届く範囲だからと軽く流されてしまった。しかし、幾ら手が届く範囲だからと言ってもかなり早い方だ。彼女もこの話にはかなり前向きらしい。
「ライムはなんて言ってるの?」
「『解散するならもう終わり。飂熾冘巫髏の後釜の組織には加入しない』ってさ。だから今日もここに呼んでない。今のハドマ部隊の代表は総長の私よ」
「そっか……なんだか、ちょっと寂しいね」
「そう? ライムってこんなもんよ。飂熾冘巫髏に加入したのだってライムの姉さんの仇討ちに燃える私とレイコへの義理立て……みたいなものだしね」
「ライムは乗り気じゃなかったの?」
「姉妹仲は悪くなかったけど、それはそれとして、仇討ちというか──私達の言う『失楽園潰し』には乗り気じゃなかったと記憶してるわね。ライムって私やレイコと違って前線で戦うタイプじゃないし、そういうのもあって結論が違ったのかもだけどね」
「ふーむ……」
「後釜の組織の名は決まってるわ。ハドマ部隊改め
『グリゴリ』! 古語で『見張る者』って意味よ」
「ルーシィも古語への造詣が深いんだね」
「深いって程でもないけどね。その昔、モル姉から教わっただけだもの」
──ハドマ学園は片付いた。問題は、これから。ゲヘナ、トリニティ、レッドウィンターだ……。
先生のメモ帳
ル・シュ・フェル組織一覧
吸血鬼部隊→吸血鬼調査隊ヴァンピール
ハドマ部隊→グリゴリ(ライム脱退)
ゲヘナ部隊→?
トリニティ部隊→?
レッドウィンター部隊→?