「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「────アイツらに勝ちたいっ!!」
「ど、どうしたんですか、急に……?」
「美食研究会よ! 晄輪大祭の時に屋台を爆破して酷評してきたアイツら!」
「は、はい……。確かそれがこの委員会の設立の理由ですもんね。でも、急にどうしたんですか?」
「この前のスケバンの抗争の時、かなり評判だったでしょ? 私達のお菓子さ……」
「確かに、かなり食べてもらえました」
「でしょ!? つまりあの頃より上手くなったの! だったらもう、アイツらに勝てるんじゃない!?」
「……で、でも、大丈夫でしょうか……? かなり、舌が肥えてると思いますけど……」
「大丈夫よ、あの時と同じ料理で挑んでやるから! 美味しいと認めさせてやるんだから……!」
「……! アスカ先輩の得意料理……!」
「そう、クッキーよ! あらゆる材料のバランスを考え直した! 今の私ならあの時の私より圧倒的に美味しいクッキーが作れる! サエ、試食お願い! 感想は容赦なく、忌憚なく聞かせてね!」
「了解ですっ!」
◆
「──それで、美食研究会とコンタクトを……?」
「はい! サエは美味しいって言ってくれました、あとレイコちゃんとか、スズとか、議長だってっ! だったら後は、アイツらだけなんですっ!」
「そ、そっか……」
モモトークを使うこともなく直接、それも唐突にシャーレにやってきたアスカは、目を輝かせながらそんな事を言う。
美食研究会に屋台を爆破された事を恨む彼女は、美食研究会対策委員会という委員会を設立──日々上等なお菓子料理を作る事に心血を注いでいる。
それが遂に実を結ぶと確信を得たらしい彼女は、美食研究会との再会を望み、シャーレに来た。
争いを誘発したくはないが、このままだと彼女が浮かばれない。シッテムの箱を確認すると、丁度、シャーレのカフェにハルナとジュンコが居ることが確認できた。全員に食べてもらうよりかは、人数が少ない方がアスカへのダメージも少ないだろう。
「……4人中2人は今すぐ会えそうだよ」
「ダメです! 4人全員に、です!」
「……そっかぁ」
やはりそうなるか。委員会を設立してしまう程に燃えているのだ、4人中2人だけに認められることなんかアスカは望んでいないだろう。
幸い、今日はまだカフェに生徒を招待していないお陰で招待の空きが2人分ある。アカリとイズミもカフェに来てもらい、批評してもらおう。
流石に店舗ではなくカフェ内でのやりとりなら、ハルナ達だって爆破なんかしないだろう。
◆
「──という経緯でね。たまたまハルナ達が来てることが分かったから、皆に集まってもらったんだ」
「成程、そうだったのですね。そして、先生の隣に居るその方が──」
「ハドマ学園2年、美食研究会対策委員会委員長、三重アスカ! 晄輪大祭で屋台を爆破された恨み、忘れてないんだからねッ!!」
「そうでしたか。原動力は何であれ、腕を磨こうと努力する事は素晴らしいですわ。美食の道に通ずるものがあると思います。──イズミさん。今回は、先生の紹介という事もあります。無闇なアレンジや改造などは失礼に当たるでしょう。他の方々の道に口出しなどはあまりしたくありませんが、今回は、控えるようにしましょう」
「うんっ、わかってる!」
「この瞬間の為に、先生にお呼ばれしてから飲まず食わずでシャーレに来ました。楽しみです~♪」
「確か、凄く甘~いクッキー作る人だったわよね? 今回は何を作ったのっ!?」
純粋に楽しんでいそうなのがジュンコしか居ないように見える。アカリは、沢山食べる気満々なのが怖い。アスカが持参したモノだけで腹を膨らませる事なんかできるワケが無かろうに……。
「今回もクッキーよ、私の得意なお菓子だからね。まぁとりあえず食べてみなさい、学校の人達からは高評価だったからね! 先生もどーぞ!」
「ありがとう」
「あっ、今回はザラメクッキーじゃないのね!」
「前だってザラメクッキーじゃないんだけど……」
「え゙っ」
「そうですわ、ジュンコさん。あの時のクッキーは純粋な砂糖の塊でした。しかし今回は──」
「ふんわりと漂う、優しいバターの香り……♡」
「うんうん、これこそクッキーだよね~!」
見た目良し、香り良し。私はともかく美食研究会からもここまでは高評価だ。シンプルなクッキーのようだが、シンプルだからこそ粗が目立つ、という部分もある。彼女達の反応や如何に……。
「ちなみに、茶葉を混ぜ込んだりは……」
「してないよ?」
「……分かりました。一先ず、いただきましょう」
「「「いただきまーす!」」」
「いただきます」
舌触りがいい。しかも、舌の力でも容易く割れるくらい柔らかく、ホロホロと溶けるような口溶け。普段のは過剰に甘すぎるが今回はそんな事も無く、砂糖でジャリジャリする事も無い。
ナギサ達とのティータイムを自然と思い出した。喉が乾いた訳でもないのに、身体が、自然と紅茶を求めている。パブロフの犬みたいだ。
「……」
いやしかし、クッキーは割と頻繁に食べている。仕事で手が離せないときがまさに分かりやすいが、一口で気軽に食べられるお菓子というのは、非常に有能だ。だから作業のお供としてよく食べている。
──だが、そのクッキーの為に紅茶を淹れようと思った事はない。仕事で忙しくしているから、か?
それにしても、どうにも違和感がある。
どうしてこんなにも紅茶が欲しくなるのか……。
「……どっ……どう、かな……?」
「ご馳走様でした。一口や二口で食べてしまうのが勿体無いと感じてしまいました。是非、作りたてを頂きたいですわね」
「じゃ、じゃあ……!」
「もう少しバターを混ぜ込み、後はミルクティー、いえバニラティーがあれば、アフタヌーンティーの付け合せに最適かもしれませんね……。紅茶が欲しいですわ、今すぐにでも」
「まぁでも、これよりバターを足さずとも、優しい風味が感じられて私は好きです~♡」
「美味しかった! 何にも足さなくていいかもね! このアレンジなら〜って、案が浮かばないもの!」
「うん、今回も美味しかった! ハルナの言う通り紅茶があればもっと良いって感じだけど、クッキーだけでも十分良かったと思う!」
「「「「!!」」」」
私が紅茶を用意した事に、全員が目を丸くした。まさかこのタイミングで、しかもハルナの指摘通りバニラティーを用意された事に驚いたらしい。
「まさか、ここにこんな物があるとは……。お見逸れしましたわ、先生」
「でもどうしてピンポイントで……?」
「一口食べた瞬間に、コレが飲みたくなったんだ。まぁ……最近、何かと紅茶を飲む機会があったから、たまたまね。カフェならお湯は常にあるし、バニラティーも、ティーパックだけど常設してるからね」
勿論というか何というか、これは、ナギサからの贈り物だ。私個人(とカヤ)で楽しむ分、カフェに置く分、休憩室に置く分──などなど様々な場所に置いて行ってくれている。
早く飲みたいと思ったので、今回は茶葉ではなくティーパックにしたが……ハルナ達の反応はそんなに悪くなさそうだ。
「それで、私達が味わったり話してる間に、紅茶を淹れていた──というワケですね♪」
「言ってくれたら手伝いくらいしたのに……」
「君達が、アスカのクッキーを批評する為の集まりなんだ。だから、手を借りるワケにいかないよ」
「ありがとうございます、いただきますわね」
その後、アスカがクッキーの余りを出した事で、美食研究会とアスカと私で、アフタヌーンティーを楽しむ事にした。
どうやら、アスカの「復讐」は完了したらしく、ハルナ達を見送った彼女の表情はとても晴れやかなものだった。
◆
「──おっ。アスカからだ」
それからしばらくして、アスカから連絡が来た。美食研究会への復讐が遂に完了したことによって、美食研究会対策委員会としての存在意義を喪失──それにより、対策委員会を解散する事にしたそう。
が、それはあくまで名ばかりのもので、委員会は解散させたが「料理研究会」という形でリスタートしたそうだ。
しかも、あのスケバンとの抗争の際にラーメンやファストフードなどを任せていた元・飂熾冘巫髏の生徒をも巻き込んで1つの部活にしたそうだ。
委員長改め、部長はもちろんアスカ。副部長には安定のサエを据えたそう。
ちなみに「研究会」の名は、かつては敵であったはずの「美食研究会」から拝借したそうだ。
以前より規模を増したアスカ達の門出を祝福し、トリニティの最高級の調理器具をプレゼントした。