※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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第6話:謝肉祭(カーニバル)にて①

 

 トリニティ謝肉祭の、ほんの少し前────。

 キヴォトス全域に報道される程の未曾有の抗争、飂熾冘巫髏大決戦を経た各学園のゴタゴタが収束し平穏を取り戻した頃。学園の垣根を越えた連絡は、実に唐突に訪れた……。

 

「議長。トリニティよりお手紙が届きました」

 

「ヒッ!? …………と、トリニティ、ですか……?」

 

「は、はい……トリニティ、です……」

 

 ある日の生徒会の会議にて。書記の天河アンナは議長の我猛リエに手紙を渡す。差出人はトリニティ総合学園・生徒会(ティーパーティー)のホスト、桐藤ナギサ。

 トリニティからの手紙と聞き、リエはその大きな身体をビクリと震わせる。

 トリニティ総合学園と言えば──先の飂熾冘巫髏大決戦の被害者だ。そして加害者は、リエが議長を務めるハドマ学園……に通う生徒が首謀者。

 リエが手を下した、指示を出したワケではない。しかし学園の長としてリエは見て見ぬふりできず、先日、トリニティ総合学園へと謝罪に行ったばかりだった。

 謝罪などした所で、あの大決戦のせいでハドマとトリニティの間に溝が生まれてしまっている事は、もはや言うまでもない。

 ────そんな、冷戦状態にも似た空気の中で、被害者側であるトリニティの、生徒会の名を冠した(・・・・・・・・・)手紙が届いたのである。

 普段はおっとりしつつ強気なリエが震えるのも、無理からぬことであった。

 手紙を渡したアンナもまた、小刻みに手を震わせながら、リエがその手紙を読み上げるのを待った。

 

「請求書じゃない? ほら、向こうの子と戦うとか言って、レイコが暴れて壊した分の」

 

「「あっ」」

 

 副会長の弖使魔(てしま)シエルがそう言った事で、リエもアンナも同時に声を上げる。

 当事者である会計の博愛(はくあ)レイコは小さめの身体を更に小さく見せるかのように、真下を向いて視線を逸らし、肩を狭めていた。

 請求書────レイコには、身に覚えがあった。

 ハドマ学園生徒会・失楽園(ダイモニオン・ソサエティー)がトリニティに謝罪に赴いた際、レイコは、元ティーパーティーの聖園ミカと戦闘行為に及んだ。

 そこで、戦闘場所に面した窓ガラスは全て割り、校舎の外壁にもヒビを入れる──などなど、他にも散々トリニティに迷惑を掛けているのである。

 飂熾冘巫髏大決戦の謝罪行脚としてトリニティに行ったというのに……だ。

 だから、シエルの言う「請求書なのでは」という言葉も、3人にとっては笑えぬ冗談だった。

 

「ッ……」

 

 リエは手紙の封を切る手を止めた。いや正確には止めざるを得なかったのだ。あまりに手が、身体が震えるので、綺麗に封を切ることができないから。

 ハドマ学園は酷く貧乏だ。もちろん、廃校寸前のアビドスなどに比べたらかなり裕福な方ではある。生徒も数百人規模で居るのだ、貧乏とは言えない。

 しかし、姉妹校としての繋がりをしばらくぶりに復活させたゲヘナ学園の援助があって、今がある。もしも、トリニティから請求書が来たとなれば──ゲヘナからの援助が打ち切られる可能性すらある。

 リエにとってナギサからのこの手紙は、今すぐに燃やしたい程、そして見て見ぬふりをしたい程に、忌々しいブラックボックス──パンドラボックスと化していた。

 ……が、しかし。

 

「今だっ!」

 

「えッあっ!? シエルさんっ何を……」

 

 手を止め開封を躊躇するリエを見かねたらしく、シエルは何食わぬ顔でそれをひょいと取り上げた。

 シエルは面白い物が好きだ。気に食わぬ事も色々あるが、大抵の事は笑って流せる。もし仮に本当に請求書だろうと、そんなのは知ったことではない。話のネタにはなるだろう──その程度に考えていたシエルは、手紙を開封して、目を丸くした。

 

「へぇ〜。ナギサちゃん、だっけ? こんな手紙を寄越すなんて、面白いこと考えるコだね。何考えてこんな……。いっそ、請求書の方が理解できるよ」

 

 ケラケラ笑いながらレイコに手紙を見せつける。渋々顔を上げたレイコは、それを見て目を剥いた。目を血走らせる程にカッと見開き、彼女から手紙を奪い取るようにしてその手に収め、何度も何度も、ナギサからの手紙を熟読……。

 鬼気迫る様子にアンナは口元を震わせる、しかしリエは「請求書ではない」という事実を聞いて既に普段の落ち着きを取り戻しつつあった。

 

「フッフッフッ、アーッハッハッハッハッハァッ! いいじゃない、桐藤ナギサァ! キヴォトス最強を目指す前に、ちょっくら、この私もアイドルとして参加してやるわ! その挑戦、受けて立つッ!!」

 

「ちょ、挑戦状でも届いたんですか……?」

 

 レイコの反応を見て逆に困惑したアンナ。リエはようやくナギサからの手紙に目を通すことができ、レイコのその反応の理由を知った。

 

「招待状──いえ、推薦状ですわ。アイドルとして謝肉祭に参加しませんか、という内容の……」

 

「ええっ!? しょ、招待状ではなく……!?」

 

「謝肉祭自体、招待状など無くとも、学園に遊びに行けますからね。私も、幼い頃に何度遊びに行ったことか……」

 

「そーだね。私も子供の頃にゃ何回も行ったなぁ。懐かし……って、誰がアイドルなんかやるのよ」

 

「この私に決まってるじゃない! トリニティの、そして、他の学園のヤツらに見せつけてやるわッ! ハドマには今も『歌って踊って戦える』最強種族が居るってね!!」

 

 ドンッと胸を叩いて、自分が出場すると豪語するレイコ。シエルはもちろん出場する気など無いし、アンナもそうだ。

 リエは少々興味があったものの、身体が大きめな自分が白のロリータファッションを来ていることでバカにされる事がほぼほぼ日常と化してる現状──そんな状態で公衆の面前に出ると更なる誹謗中傷に晒されるのではと、口にも顔にも出さずとも、心の奥底で危惧していた。

 無論、トリニティだし、表立って騒ぐ事はないとリエも分かっていた。とはいえ、陰で言われるのも繊細なリエの心には耐えられなかった。

 だからある意味、レイコが羨ましかった。以前はテロ組織の副総長であったハズの彼女でも、堂々と公衆の面前に立つことを選べる所が羨ましかった。

 しかし同時に、こうも思えた。

 そういう選択ができる彼女だから、副総長として他の生徒を導くことができたのではないか──と。

 

「同封されたエントリーシートには、3人分の欄がありますわね。尤も、3人でなくとも、出場は可能らしいですが……レイコさんはどうしますか?」

 

「あ。あの子でいーんじゃないの? 確か、私らのクラスに居るでしょ、レイコのイトコ」

 

「レイアさんですわね。それから、スズさんと同じクラスのレイラさんも含めて合計3人──ふふっ、姉妹や親戚同士でアイドルユニットを結成ですか。とても素晴らしいではありませんか」

 

「え、ヤダ。アイツら、歌って踊って戦えないよ? 流石に博愛姉妹(アイツら)は人選ミスと言わざるを得ないね」

 

「でも神社の家系でしょ? ダンスはできなくとも舞みたいなのはできるんじゃない? バイトとかと違って、レイア達は巫女さんが本職なんだしさ?」

 

「そうですわ。舞や祈祷などをダンスに昇華する、というのはどうでしょう? 不足している部分は、今からの練習で補う、とか……?」

 

「そんな時間は無いでしょ。謝肉祭まで、たったの1週間くらいじゃん。そもそもアイツらが祈祷とか舞とかしてんの、私でも見た事ないんだけど?」

 

「では、今回はレイコさん1人での出場という事でエントリーシートの提出を……」

 

「はっ? 私1人でヤるワケないじゃん。歌えんし踊れんし。戦いしかできないよ、私は」

 

「「え??」」

 

「じゃあどうすんの? 歌って踊って戦えるヤツはどこに居るっての?」

 

「ふっふっふ……こういう時は、同族の繋がりを利用してやるのよ。良い案があるわ!」

 

 ◆

 

「はぁ、それで議長とわざわざスタジオ(こんな所)まで……」

 

「ルビーなら歌って踊って戦えるっしょ。だから、出場しよ! で、私を歌って踊れるようにしてよ。私、覚えんの早いよ? ルーちゃんにも、先生にも褒められるし♪」

 

「…………」

 

 レイコの案とは、ルビーを誘い、2人でアイドルユニットを組んで出場することだった。バイト先のモデル事務所の所有するスタジオに突撃したリエとレイコは、ルビーの休憩時間に例の話を持ち掛け、反応を伺う。

 通常時はあまり表情変化の少ないルビーだから、表情から考えを読み取る事は、ちょっぴり難しい。しかしレイコにのみ感じ取れる「何か」があった。

 まるで同族にしか聞こえない超音波でやりとりをするかのように。リエが心配そうな顔をする中で、レイコただ1人が、ニマッと口角を釣り上げ、踵を返した。

 

「帰るわよ、リエ!」

 

「え? えっ、あの、レイコさん? ルビーさんの勧誘はどうし……」

 

「大丈夫よォ。明日になりゃあ自然と分かるわ」

 

「はい……??」

 

 ◆

 

 翌日、朝のHR前、第1校舎屋上にて──。

 屋上は、生徒にとって憩いの場だ。良くも悪くも生徒が集まる場として使われがちである。今では、技術開発部部長・砂田リンコの列車砲があるので、かなりの面積を取られてしまっているが……。

 そんな第1校舎屋上に、彼女達は、居た。

 

「来たわね、ルビー」

 

「来ましたよ、レイコ。それで、昨日の件ですが」

 

「ええ。『私とアイドルやらん?』って話ね。一応衣装も作ってあるけど、どうする?」

 

「見せてください」

 

「今から技術開発部の部室に連れてこ〜と思ってたところだケド──まぁいいわ、写真ならあるから」

 

 スマホに画像を表示させて、技術開発部の者達に作らせたらしいアイドル衣装をルビーに見せる。

 オモテ面もウラ面も、上から下まで舐めるように見る。画面を拡大・縮小して、細かい所まで見る。ルビーは、ハドマでは有名なモデルだ。衣装には、きっと口うるさい。レイコはそれを見越した上で、しっかりとしたデザインを施した。技術開発部ならそれを全て再現できるだろうと、信頼した上で。

 だからといって、吸血鬼化させられた上に徹夜で作業させられたその生徒達は、ちょっぴり可哀想なものではあるが……。

 

「ベビードールを基調とした造形によって、幼さ、そしてセクシーさを同時に強調。ルビーはもちろん私もスラッとしてて、胸は無いけどペタンコな割にシルエットだけ見りゃナイスバディだからこういう薄い衣装が私達には似合うわ。翼を通す穴もあるし翼の稼働を邪魔する造形でもないしね。闇に生きる私ら吸血鬼は、闇の黒、血の紅を基調とした衣装が最も似合うわ」

 

「このゴテゴテした無駄にも思える飾りは?」

 

「着脱式よ」

 

「練習期間は?」

 

「1週間弱」

 

「報酬は?」

 

「名声」

 

「先生は?」

 

「来る」

 

「ユニット名は?」

 

「『吸血姫(きゅうけつき)ドラキュリーナ』」

 

「パーフェクトです、レイコ」

 

「当然よ」

 

 フッと静かに笑うルビー、ニィッと口角を上げるレイコ。相性があまり良くなさそうなこの2人は、その希少な種族故か、それとも潜在的な戦闘好きが結びつけているのか──どうやらこの2人は、妙にウマが合うようだ。

 

「エントリーシートか何かあります? すぐにでも書いて、トリニティに提出しましょう。謝肉祭まで1週間弱しかありません」

 

「あー、アレ? 問題ないわ、もう提出したから」

 

「まだ書いてませんが……?」

 

「この私が代筆しといてやったわ」

 

「えぇ……。というか筆跡……」

 

「甘いわ。私は生徒会の役員よ? アンタの直筆の署名がある書類くらい、容易に手に入るわ。あとはそれをなぞるだけだしね。トリニティには、昨晩のうちに提出してやったわ。今頃、確認を受けて受理されてるでしょうね」

 

「それでいいんですか、生徒会役員が……」

 

「そもそも本人直筆じゃなくて良かったわ、アレ。書き終わってから気付いたんだけどね☆」

 

「だとしても、私が許可しなければ本番でどうするつもりだったんです? 勝手にエントリーするとか酷いですよ?」

 

「うっさいわねー。モデルやるくらい自分が可愛いことを知ってるアンタなら、この話は断らないわ。そう確信してたのよ」

 

「っ!」

 

「現に断らなかった。私の目論見が正しかったの。それでいいでしょ?」

 

「……全く、あなたという人は……」

 

「じゃ、今日の放課後から早速レッスンよ。まぁ、振り付けとか考える所からね」

 

「曲の長さは……いや、まさか曲を作る所から?」

 

「それは、まぁ……追々……ね?」

 

「ダンスよりそれが最優先ですよ。全く……。今日は授業に身が入りませんね……」

 

 幼き吸血鬼2人によるアイドルユニット計画──遂に、本格始動。

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