「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「
少女はキレた。
回復役というのは、まさに、医療関係者と言える彼女にこそピッタリの「枠」だから。そんな貴重なたった一つの枠を「お菓子係」なんぞに埋められてしまっている──医療関係者として極めて心苦しいその事実が、彼女に、中指を立てさせたのだ。
「っ……」
当然、今更そんな事を言われても──とアスカは困惑。同級生のよしみでテンコはアスカを庇うが、確かに、こと「回復」という点においてアスカより医療関係者である彼女を設置する方が合理的だ。
しかし、如何に七天魔と言えど情がある。苦楽を共にしてきたアスカを、そう簡単に「一般生徒」に戻したくはないのだ。
ましてやテンコなどは、他の生徒達と比べると、よりアスカとの繋がりが深かったからというのも、十二分に理由として挙げられる。
作業で遅くまで居残っている時、アスカは彼女によくお菓子を差し入れてくれていた。それが彼女にとってどれだけ助けになっていたことか。
レポートなどの執筆、実験、戦闘、工作、建設、部と会社の運営など、姉であり部長であるリンコが盲目の今、その妹であり副部長であるテンコが姉の代わりになって動く事も多々ある。
そんな中、アスカは陰ながら彼女を支えていた。尤も、アスカ本人にそんなつもりは無い。アスカにしてみれば「差し入れを喜んでくれるから」程度に思っている。
実際そうだし、両者の認識に齟齬など微塵も無い事は疑いようのない事実だが、テンコにとっては、ささやかながらも確かな「支え」だったのだ。
だからアスカにも権限を持たせてやりたかった。少なくとも、その権限さえ有していれば、ハドマの学園内で普通に過ごす分には、何一つ苦労はしないだろう──いや、多少の苦労はするだろうがそれは極めて軽減されるだろうと。それを支えるのが己にできる恩返しだと。実力の劣るアスカを支えるには制度を整えてやること──それしかない、と。
「──『七天魔の特別枠』、ね。強者だからこその私達『七天魔』だったんじゃないの? テンコ?」
「……それでも回復役は必要でしょ」
「ハンッ。そーかねぇ。テンコは堅いし別に回復役なんて必要とは思えないけど」
「私や
「あん? あたし? 要らないわよ回復なんか」
「いや、先輩は本領発揮まで時間かかるんですから回復役は必須級でしょう。発揮前に負けちゃったら無意味なんですから」
「あぁン!?」
「確かに、
「純粋な意味での『学内の上位7名』じゃなくなるかもしれないですけど、有事の際の事を思えばこそ回復役を設置した方が合理的です」
合理性を盾に特例措置を求めるテンコと、それに同調するルビー。元の意味での「七天魔」を求めるリエ、シエル、レイコ。同調も何もしないリンコ、自分のことで争いが起きていると慌てるアスカ。
そんな、申し込みをした少女すら置いてけぼりになっている中で、歯に衣着せぬ物言いでお馴染みのレイコが議論に一石を投じる。
「だったら『戦えるヒーラー』の方が欲しくない? アスカみたいな『戦えないヒーラー』は、ねぇ?」
「レイコ、あんた──!!」
要するに「アスカは要らない」。そう受け取ったテンコは咄嗟に拳を振り上げる、しかし他でもないアスカ本人がそれを止める。
「やめてテンコちゃんっ!」
「アスカ!? 何を……」
「いいんだよ……私、弱いしさ……?」
「でも! 助けになるのは事実だしそんなアスカをお払い箱だなんて……!」
「勘違いすんじゃないわよ。アスカが要らないとは言ってない。ただ、前に出られるヤツがヒーラーも兼任した方が攻守共に万全だっつってんの。この前スケバンやチンピラに攻め込まれた時に──それを痛感させられたのよ。空から俯瞰してて、テンコも気付いたハズでしょ?」
「っ、何の事?」
「ダメージを受けた
「────ッ!!」
ハドマ学園篭城戦はおかしな点が幾つかあった。如何に敵が倍以上の数でも地の利はハドマ学園側にある上、物資の補給に掛かるタイムラグもほぼ0。圧倒的な暴力を有するアケミは、リエとタイマン。そんな状況でただのチンピラに押し込まれる事など本来ならば有り得ないと言える状態だったのだ。
ましてや、チンピラ達の背後からは飂熾冘巫髏が別働隊として待機していてハドマ学園側と挟み撃ちするという布陣。チンピラは前後から攻撃されて、そのまま敗北──になるハズだった。
それなのに現実は、挟撃から逃れたチンピラが、そのままハドマ学園になだれ込む寸前にまでなったという報告が生徒会に上げられていた。
その原因を、レイコは「前線に出た生徒が回復の為に下がるせいで、層が薄くなったから」と勝手に結論付けている。
そう、あくまで勝手にそう言っているだけ。
しかしテンコは、アストラル・ウィングで飛行し戦場を見下ろしている中で確かにそれを見ていた。
前に出た生徒が傷付き、傷を癒す為に下がると、それと同時に敵が物量に任せて押し込んでくると。いざとなればリンコの列車砲で対処できるからと、それを見て見ぬふりをしていたのだ。
だからこそレイコは強く推しているのだ。どうせヒーラーを用意するのならば、前に出られない生徒ではなく、前に出られる生徒を、と。
それができないなら、ヒーラー枠など無い純粋な七天魔に戻そうと。
アスカを嫌っているのではない。むしろ、非力なアスカを戦場から遠ざけたいのが本心だ。しかし、それでは有事の際に備える事が難しくなる。ならばという事で「戦えるヒーラー」と言っているのだ。
そして幸か不幸か──ハドマ学園には戦闘に特化した種族が根付いている。この度、入れ替わり戦を申し込んできた彼女──吸血鬼が。
他者に従う「従者」っぽい気質でありながらも、その強さは無類だ。平均的な「強さ」は他の種族の追随を許さない。
「そんじゃ、今回の七天魔入れ替わり戦はアスカと戦うって事でOK? 記録、取るよ?」
「私はOKよ。三重アスカ! 構わないわよね!」
「う、うーん……不戦敗でいいよ、戦ったら負けるのわかってるし……」
「アスカ!? 七天魔を抜けたら────!」
「色んな権限も失うし資金繰りも大変になるよね。予算分配の優先順位もグッと下がるから……」
「そうだよ! 料理研究会として再出発したばかりなのにどうして!? レイコに比べて弱いんだから勝てる可能性はあるのに……!」
「ううん、その辺はもういいの」
「もういい、って……?」
「美食研究会への復讐も終わった。部員が増えて、色々大変なのは本当なんだけどさ──逆に言えば、部員の数が増えたからこそ大容量の材料を持ち寄りやすくなって、実は、割と楽できてたりするんだ」
「……!」
「大容量のって安いしね、基本的に。だからあまり問題じゃないかな、って。だったら、健康保全部に譲った方が、色々と合理的だし……?」
「……本気で言ってるの?」
「本気だよ。大丈夫、私が七天魔じゃなくなってもサエや皆は料理研究会に残ってくれるから」
「…………そっか。アスカがそう言うなら、私はもう何も言わない」
庇った対象が、きちんとした理屈を持って断る。これ以上はもう、何を言っても、テンコの身勝手な振る舞いになる。そればかりか逆にアスカに迷惑を掛けかねない。
確かに、部員が増えれば、材料を仕入れる元手や人手が増えたと言える。当然の摂理だ。それに加えアスカは元から権力を欲していたワケではない──これ以上はテンコのエゴでしかない。
それを理解したからこそ、テンコは自らが引き、手を引くことにした。
「ありがと、テンコちゃん。────なのでシエル先輩。私、不戦敗でいいです」
「そう? じゃ、その通りに。それでえっと、君、所属と名前は?」
「2年3組、健康保全部副部長──
「くふふっ、何度聞いても人手不足の健康保全部にピッタリな名前よね」
「だーっ、もう! だから名乗りたくないのよ!! 名前で遊ぶとか失礼だからね!?」
「あーはいはい、悪かったわよー。つか、フツーに不完全燃焼過ぎ。不戦敗オチとかさ、これ何の為に集まったのよ、
「ご、ごめんねレイコちゃん、まさかこんな流れになるなんて私も思わなくて……」
「アスカァ。謝るくらいなら抗ってみろってのよ。私よか弱いわよ、ヒトデは」
「そうだろうけど、うーん……」
「つーかさぁ、七天魔に『特別枠』とか居るワケ? 純粋な戦闘力で測り、学内上位7名が『七天魔』の定義じゃないの? 議長さァん?」
「──ええ、レイコさんの言う通りですわ。しかしテンコさんの言うように、有事の際に備え回復役を据えるのもまた悪くない、と思わなくもないです。我ながら情けない程に煮え切らないですわ……」
「んじゃ投票しよーよ。選挙みてーにさ。生徒会は投票権無しね。とりま、今の七天魔で決めようよ。まずは、特別枠不要論者、手ェ挙げて!!」
レイコ、スズ──挙手。
「迷ってるヤツ、どっちでもいいヤツ、挙手!!」
ルビー、リエ、リンコ──挙手。
「んじゃラスト、必要論者!!」
ヒトデ、テンコ──挙手。
「とまぁ、七天魔だけに、奇数なら決まるかな〜と思ったけど。中間論を入れただけで、ご覧のよ〜に綺麗に決まらなくなったワケ。いやぁ嘆かわしい、嘆かわしいねェ〜……」
(中間論……?)
くつくつと、喉を鳴らして笑う。この状況を心底楽しむように。否、この状況を待っていたと言わんばかりに。腹を空かせた猛獣が、大好物を前にしたように、レイコは笑った。
「アハハハハハハッ!! やっぱこうでなくちゃ! こうなりゃ、手段は1つしかないっしょッ!?」
「演説で再投票──とはいきませんわね」
「やったろーじゃない……合理性を証明するッ!」
アンナとシエルが遠巻きに見守る中、3チームによるバトルロワイヤルが始まった。
星井ヒトデ
万年人手不足の、健康保全部の副部長。青色の髪をワンサイドアップに纏めた、猫耳尻尾ロリ吸血鬼。
レア度☆2。保健室に行けば高確率で会える。
血管を探し当てるのも、扱うのも得意。
ヒーラーだが、吸血鬼としての自前の強さを発揮できるシチュエーションを用意してやればしっかり戦える。統治委員会モブよりちょっと強いくらいで数的に不利だと割と楽に処理できる。
回転系の体術が得意。
武器はSMG1丁。
元ネタはブエル。
地獄の辞典にて、ブエルは「星か車輪のような」と紹介されている。星井の星、ヒトデは漢字で海星。どちらも「星」である。
そして「欲しい人手」でもある。
名有りモブくらいの立ち位置。
ラファエルに仕えるブエルとかいう、珍妙な構図。
ブエルが元ネタなのにどうして吸血鬼娘にしたか?
最近、作者の翼フェチが暴走しつつあるからです。
名有りのオリキャラで翼持ち率、脅威の78%。
人工天使擬人化4姉妹を合わせたら81%。