「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
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「──お久しぶりです、先生」
「ひ、久しぶり……」
「どうぞお掛けください」
リエから不穏なモモトークを受け取り、私はすぐハドマ学園に向かった。穏やかなリエが「復讐」と口にするなど奇妙極まりない。もっと俗な言い方をすれば、
リエが復讐を目論んでいるのだろうか。流石に、それは無いと思いたい。しかし、理想をさておいて考えるとしたら。もし仮にそうだとすればこの前の抗争相手である、アケミが率いるスケバンへの復讐だろうか。
それとも、もっと根源的──飂熾冘巫髏の総長、ルーシィへの復讐だろうか……。
今は、彼女の思惑は分からない。だから余計に、カウントダウンが始まった爆弾を眼前にして、解体道具を広げている途中のような心境だ。
これから始まる言葉の応酬の結果、リエが復讐に走るなんて事になったら……。
私は、1人の大人として、そして「先生」としてきっちり責任を負わなくては。
「先日の抗争──世に『ハドマ学園篭城戦』などと呼ばれているあの戦いを経て、ずっと、考えていた事があるのです」
「……」
「スケバンの方々のあの行動は、『自分達に不当な支配を強いてきた飂熾冘巫髏への復讐』──そして飂熾冘巫髏が──いえ、ルーシィさんが飂熾冘巫髏という組織を立ち上げたのもまた、ご友人が被害に遭った復讐を遂げる為である……と」
「……」
「『復讐の連鎖』とは、よく言ったものですわね。まさに、
「……そうだね」
嗚呼、リエが何を言おうとしているのか不安だ。もしもここで復讐する宣言なんてされようものなら私ではどうにもできやしない。止めることができるだろうか、いや、できる気がしない……。
いざという時は命を投げ打つ覚悟で挑まなくてはならないだろう。そうならないよう、祈るが。
「リエだから、無いだろうとは思ってるんだけど。まさか……復讐しようと、してない……よね?」
「ふふ、ご冗談を。私、復讐なんて何も生まないと思いますの。遂げても虚しいだけだと思いますわ」
どこか達観したような面持ちで窓の外を見ながら紅茶を口に運ぶ彼女を見て、奇妙な気持ちが燻る。復讐しようとしているのではない事が分かり、心底安心するべきなのに。
「復讐する事が『愚か』だとは思いません。人には人の事情があるものです。ですが、復讐を終えたらその人には何が残るのでしょうか? あくまで私の個人の意見ですが、何も残らないと思ってますの。だとすれば復讐など、ただ虚しいだけですわ……」
──そうか。
復讐を完遂させたモルモ、完遂に至らなかったがかなり推し進めていたルーシィを、真っ向から否定されたように聞こえたからか。
復讐を終えたモルモは燃え尽き症候群になった。そしてあらゆる関わりを避けていた。離れた所から観察するだけに留めていた。
成程、確かに虚しい。復讐に心を囚われ、それを達成しても尚、100%は満たされなかったのだ。
しかしモルモはそこから前に進んだ。観察だけに留めていたが、それを「人間観察」といった1つの趣味にまで昇華させていた。
それは復讐した結果。ある意味、復讐が生んだと言えなくもない。それは「虚しい」だろうか……?
………………やはり、難しいものだ。
「そうだね。復讐は何も生まない。良い事よりも、悪い事の方が圧倒的に多いと思う。でも、最低限、自分の気持ちに折り合いを付けることはできる」
「……」
「良い・悪いの二元論で語るなら『悪い』と思う。理由はどうあれ、結局、復讐というものは、自分の気持ちに基づいた他者への勝手な加害行為なんだ。加害行為を正当化してはならないよ。──とまぁ、客観的に見るなら、そう判断される。だからこそ、一般に『復讐は良くない』と言われるんだろうね」
「先生は違う、と?」
「ううん、私も似た考え。『じゃあ加害行為を悪と認識しながら復讐すればいい』ってワケでもない。難しい問題だって言ったのはそういう事もあるね」
「……では、結局『悪い』でいいのでは……?」
「うん。悪いよ。善悪だけで考えるのなら、何も、難しく考える必要なんか無い。でも復讐というのは決してそれだけじゃないんだ」
「……?? よく分からないですわね……」
「『過去』に囚われてしまった者は、前に進む為、どうにかして己の気持ちに折り合いをつけなくてはならない。『復讐』は、その為の行為なんだ。善悪なんかさておき、
「つまり、ただの自己満足であると?」
「自己満足だろうね。大抵は。けど、自己満足でも必要な事なんだ。前に進むにはね。──でもそれが悪い事なら、私は、止めなくてはならないけれど」
どうにも心苦しい。復讐とは、前に進む為に己の気持ちに区切りをつける行為──そう思っていても私の立場がそれを許してはくれない。
感情的になると酷い事になるのは既に経験済み。感情と理性を、綺麗に切り離さなくてはならない。
ルーシィやテンコのように私にもそれができればいいのだが……やはり難しいものは難しい。
「──ある男の話をしようか」
「?」
「男には彼女が居た。ある時、彼女と街中をデートしていると、彼女の同級生とバッタリ会ったんだ。すると同級生は男に向かって『その女は嘘つき』、
『あなたは騙されている』──と説得し始めた」
「……えっ」
「実際、彼女は嘘で周囲を欺いていた過去がある。だから同級生がそう言うのも、無理も無いかなって状態だった。一応、男はそれなりに人望があって、その同級生は、男を助けようとしてくれたんだよ。彼女が嫌いで、貶す気持ちもあっただろうけれど、男を助けようって気持ちも、あるにはあったんだ」
「……それで、どうなったんですの?」
「彼女は自分のその罪を受け止めていた。だから、同級生がそう声を上げても、耐えるしかなかった。周囲から見れば『嘘つき女が男を騙そうとしてる』ように見えるって事は、本人も理解していたから。そしてその男は、彼女のそんな過去を知っていた。だから同級生の言葉に驚く事は無かった……けど」
「けど……?」
「男は、彼女のことを深く愛してるんだ。だから、その同級生が自分を想って忠告してくれているって頭では理解していても──大好きな彼女を、こうも悪く言われるのは、我慢できなくなってしまった。結局、男はカッとなって彼女の同級生に手を上げてしまい、同級生間での彼の評判はガタ落ち。男は、評判が下がったのは気にしていないが、感情を制御できずに同級生に手を上げた事を深く反省し、後悔するようになった」
「……」
「反省し後悔もしつつ、男は、こうも考えていた。結果的に最悪な方向に向かったが、自分の気持ちに折り合いをつける事はできた……と」
「……傲慢ですわね。自己満足、いえ、ただの正当化ですわ。気持ち悪い……」
「そうだね。傲慢だし、ただの正当化だ。その男がやってしまった事は到底、許されるべきじゃない。そんなストレスなんか、カラオケで叫んだり、枕を殴って発散すれば良かったんだ」
「そうですわ、本当に。私すらそうしてますもの」
「────言葉にするのは簡単だ。だけど、それが実際にできる程、男は『大人』じゃなかったんだ。その男の未熟な──子供の部分が、悪い形で、発露してしまったんだろうね」
「やっぱり、虚しいですわね。復讐というものは。人間誰しも失敗はするもの。それはそれとしてその男性には先生の爪の垢を煎じて飲ませたいですわ。先生なら、そんな事はしないでしょうし」
「…………そう在りたいよ、本当に。心底そう思う」
「尤も、先生も人間です。きっと、人には言えない失敗の1つや2つくらい、おありでしょう」
「……それは……」
「あ、いえ、バカにしているのではありませんよ?
『失敗は成功のもと』という言葉がありますけれどまさにその通り。成功、それに至るまでの失敗も、全て引っ括めて『その人』が成り立つのですから。先生が先生であるのは、先生の過去があるからこそなのです。良くも悪くも、そういうものなのです」
「そう言われると何も言えないな……私も、その男も救われるよ。きっと」
「ふふ、そうであってほしいですわね。──復讐は何も生まないが、復讐者の気持ちに『折り合い』をつけてくれる──成程。確かにそういった考え方もありますわね。勉強になりましたわ」
「こちらこそ。考えを整理できたよ」
私は「先生」として、復讐に走ろうとする生徒は止めなくてはならない。だけど、想いも全て含めて全否定まではしたくない。
果たして、私がリエに話した事と、この結論は……正しかったのだろうか……。