「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
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テンコから誘いを受けた私は、改めてハドマへと足を運ぶ。第1校舎屋上には、相変わらずリンコの列車砲の大きな影が見えて──第2校舎屋上には、校舎と同じくらいの高さのフリーフォールが細長いシルエットを校庭に落として、そびえ立っていた。
◆
「ようこそ! 反重力飛行体験コーナーへ!」
「アストラル・ウィングの増産に成功したって?」
「そう! ──と言っても2つだけなんだけどね。やっぱ、予算の関係でさ。あと単に精密機器すぎて1人で作業するのにはどうしても限界があってね。この
「にしても、増産の費用はどうやって捻出したの? 発射台を作るくらいの予算しか無さそうだけど」
「……投資」
「えっ」
「姉さんに投資してもらったのよ、売上を
「せっ、折半っ!?」
「ラブホの複数経営どころか、家事代行サービスの経営くらい──下手したらそれ以上に稼げる計画になってるからね。初期投資はかなり高額になるけどリターンもそれだけ大きいのよ。まさにハイリスクハイリターン……!!」
「折半かぁ……いやぁ〜……暴利では??」
「姉さんってば、まさに悪魔よッ! 私がどれだけこの計画を成就させたいと願ってるのか知ってて、私が断れないギリギリのラインを攻めてきたのッ! 6割とか言われたら絶対に断るけど、5割だったらギリギリ、断りたくても断りにくい!」
「そ、そうなんだ……? どうしてそこまで?」
「私の技術力を姉さんに見せ付けたいの。それに、どうしても欲しいモノがあるし……その為には結構なお金が必要っていうか……」
「欲しいモノ……?」
「とにかくお金が稼ぎたいのッ! だからこうして計画を成就させたんだから……!」
「値段設定はどんな感じ?」
「まだ草案だけど、こんな感じかな」
速攻発射コース
1時間:30,000円
30分:14,000円
15分:6,000円
緩慢安全コース
1時間:25,000円
30分:12,000円
15分:5,000円
「あれ? 発射台を使わない方が安いのはもちろん分かるけど、時間と値段って同じ比率じゃないの? しかもコレって……
「お、流石。やっぱり気付く? 普通さ、こういう値段を設定する時って、数分毎に固定の値で値上げするか──もしくは『時間が長くなるほどお得』に設定するよね? カラオケ然り、ネカフェ然りさ」
「そうそう。普通なら、時間が短い方が高く感じるように設定するものだから、逆じゃないかなーって思ったんだけど……」
「そう、でもそれが落とし穴なのよ。いい、先生? まず、私達は何者? 学生でしょ? そして場所。学校の屋上を間借りさせてもらってる。それから、この体験コーナーを
「……主に……放課後?」
「そりゃあまぁ放課後も運営するつもりよ。でも、言ってしまえば学校がある日──でしょ? 当然、休み時間だって生徒が来るでしょうねェ……」
「そうだね、並ぶ事になると思…………まさか……」
「そうッ! ハナから1人に長時間体験させる事は想定してない設定なの! 安さを演出することで、自然と短時間コースを選択させる! そうする事で回転率の向上にも繋がるわ!」
「戦略的だぁ……」
「当然よ! 勝てない賭けなんかしないわ、私は。それにね、これを運営する時、技術開発部の生徒が交代で当番する予定なの。当然、バイト代も出る。部としての活動だから、授業を休んでも公欠扱い。それに対して、お客サマはどうかしらねぇ。授業中だろうと運営する予定よ。そうなれば、最初の方は授業をサボッてでも空を飛びに来る生徒は居るわ。そうなれば……どうすると思う?」
「……自然と短時間コースを選ぶ……よね?」
「その通りよ、部や委員会としての活動でない限り授業を抜け出したらサボりになるもの。だったら、トイレを口実に授業を抜け出し、短時間で済ませて戻るってやり方もあるでしょう?」
「そして休み時間になれば、より多く生徒は来る。長時間コースは強制的にシャットアウトされて──少なくとも後ろに生徒の列がある内は自然と短時間コース限定になる……」
「そうよ。だから、この長時間コースは放課後とか限定になる想定よ」
「そっか……凄いね。恐れ入ったよ」
ここまでするテンコの事だ。安さを演出する為に敢えて安く設定している15分の値段でも、きっと、ある程度の稼ぎが出るように綿密に計算しているに違いない。
回転率だけ上げてもプラマイゼロやマイナスでは話にならないのだから。
ましてや、売上をリンコと折半にして他の部員にバイト代を払うなら。しかもアストラル・ウィングだったり発射台だったりのメンテナンス費もある。それらを引いて計算すると実際のテンコの取り分は全体の何割になるだろう……。
勝手な予想だが、3割にも満たないのでは──と思ってしまう。
いや、実際の「経営」というのは割とそんなものなのかもしれない。だからこそ少しでも数を捌いて儲けを得る。だからこそ万引きなどされたら安価な1つの商品だろうと明確な損になり得る……。
私は「経営」の分野に明るくない。しかし想像はできる。テンコがどれだけ綿密に計画を立て、この事業を展開しようとしているのか。
──何か、私に手伝える事があればいいのだが。
「そういえば、何か、説明書みたいな物はもう用意してあるの?」
「ん……これも草案だけどね」
設備や機材を破損させた場合は
損傷に応じ100万円単位の賠償金の支払いの上
修復作業を無給で
有無を言わさず手伝って頂きます
体験中に使用者が起こした事件や事故について
私共は一切責任を負う事はありません
自分のケツは自分で拭くこと
逆らう場合は砂田リンコ・テンコを倒すこと
倒せなかった場合、賠償金などは倍額にします
返済方法は現金にて
もしくは、技術開発部の運営する会社にて
賠償金の金額分だけ従事してもらいます
✌️物は大切に扱いましょう✌️
「…………………………」
「どう? 完璧でしょ♪」
「いやこれ……流石に100万単位は……」
「だって、それくらいの精密機器だし。というか、その辺の賞金首でも捕まえてヴァルキューレにでも突き出せば、それで数百万とか終わりでしょ?」
「いやまぁ……うん……まぁ、そうだね……」
何なんだ? シロコ達も賞金稼ぎをしているが、キヴォトスでは生徒達が賞金稼ぎをするというのは金策の1つとして割とありふれているのか……?
ギャング組織みたいなのも普通にあるし、学校が生徒に報奨金を設定している場合もあるようだし、改めて思ったがキヴォトスは色々凄いらしい。
「『砂田リンコ・テンコを倒すこと』って……」
「文句あるなら実力で頷かせてみろって事よ。私も姉さんも七天魔に復帰しているし、姉さんなんか、学園で第2位か第3位くらいの実力だからね。多分姉さんに100%確実に勝てるのはレイコだけかも」
「リエは?」
「んー、どうだろ。議長も姉さんも共に3年生で、知り合った頃から七天魔同士、鎬を削ってきたって話だし。互いに相手の手の内を知ってるってコト。あとは時の運と根性じゃない? 少なくとも今は、レイコ、姉さん、議長、スズ、ルビー、私、アスカみたいな序列になってるよ」*1
「やっぱり七天魔内にも序列はあるんだね」
「そっ。まぁ、そんな実力主義な校風だからこそ、私も、そんな暴論と思える一文を規約に書けるってワケだね。フツーならムリでしょ」
普通なら無理だと理解はしているが、場所が場所なので遠慮なく書く、と。「それはそれとして」と認識を使い分けるのが上手すぎる。私には難しい。
ルーシィとも大差無い頭脳の持ち主だと言うし、そういう所なんだろう。
「────それでさ、先生?」
「うん?」
「もし良かったら、宣伝……お願いできない?」
「危険なら誰にもやらせられない。だから安全性が確認できたら、喜んで宣伝させてもらうよ。私は、こう見えても『先生』なんだからね。モモッターのシャーレの公式アカウントから宣伝するね」
「ホント!? で、でも、あのシャーレの公式垢、あんまし動いてるイメージ無いけどな……」
「フォローしてくれてる生徒が多いから、あんまり気軽に投稿すると、すぐいいねと拡散の嵐で……」
「あーら、バズり自慢?」
「そうじゃなくて。あれくらい拡散されちゃうと、私のスマホのスペックだと、通知過多でヒドい熱を持つというか、ラグくなるというか。充電もかなり急激に減っていくし……」
パソコンでもログインしているが、スマホからもログインしている。スマホならば、出先で非常事態などが発生してもすぐに告知や緊急避難など指示を出せる。備えあれば憂いなし、だ。
「ミュートにすれば?」
「拡散だけならそうしてるけど、みんながコメントしてくれているのに無視なんかできないよ」
「リプ欄を閉鎖しないのもそういう事か。でもさ、そんなんだからスマホが熱を持ったりラグくなるんじゃないの……?」
「それは理解してる。でもその対策はできないから投稿数を必要最低限にしてるんだ。主な連絡は大体モモトークだから、テンコが思ってるより不自由はしてないんだ。だから安心してね」
「私のコレの宣伝はさ、先生の中で『必要最低限の投稿』に入るの……?」
「もちろん。ここまで頑張って計画を立てて、姉と交渉して投資してもらって、計画を実現した──。そんなテンコを、応援しないワケにはいかないよ。是非、私にも応援させてほしい」
「…………ありがと。じゃ……今から私、飛ぶからさ。安全性の確認も兼ねてね。だから写真でも動画でも撮影して……
「!」
そう言ってテンコは飛行準備をする。ゴーグルを装着して両目を保護。改良により少し大きくなったアストラル・ウィングを背負う。
平仮名の「し」のような形状の発射台に向かうと最下部に安置されている横たえた座席に寝転ぶかのような体勢で座り、取っ手を掴む。
「あ……やっぱり安全装置とかは無いんだ……?」
「そんなの無いってば。発射装置だよ?」
「あはは……そーだよね」
尤も、これに乗るのは大体高校生しか居ないし、大丈夫だろうとは思うが。あまりにも強く取っ手を握り続けていると脱臼したりしないか心配になる。
「じゃ、スタートボタン押してくれる?」
「ん……あぁ、操作機器は裏にあるんだね」
スタートボタンを押す前に緊急停止ボタンの存在なんかも確認しておく。とはいえ、こんなに赤くて大きい、目立つボタン……探すまでもなかった。
「じゃ、押すね」
「いつでもいーよ」
「では──スタート!」
ブーッ、というブザー音が鳴ると、キリキリッとテンコが寝そべる座席を巻き上げ始めた。「し」の最下部あたりにあった座席は、初めこそは仰向けで寝そべる体勢になるものの、席の巻き上げが進むと自然と「椅子に座る」体勢になる。
巻き上げがガコンッという振動と音と共に完了。スタートボタンの隣の発射ボタンが、緑色に光る。
「いつでもいーよー!」
空からテンコの声が降ってくる。手を振り返して答えとし、カウントダウンして、ボタンを押下。
「──3、2、1、0ッッ!!」
遊園地にあるようなフリーフォールならば、自由落下による加速が殆どだろう。しかしテンコのこの発射台は、発射機構を備えている。レールに沿って座席に初速を与え、重力加速度も加えた上で加速、最終的に「し」の先端で座席の車輪は車止めに衝突する事によって、慣性の法則にて搭乗者は宙に身を投げ出されることで、初速を持った状態で宙に舞うことになる。
「ぃやっほォーーッ!!」
ピンクのポニーテールをなびかせ、彼女は舞う。
その状態でアストラル・ウィングを起動。両翼が展開される。姿勢制御装置などの存在により体勢を崩すことはなく、安全な浮遊、もとい飛行が可能になった。
「ほら見てよ先生! 発射したから、加速に必要なエネルギーを削減した上で飛べてる!」
「鳥だ……」
猛禽類のような、鋭い動きではない。方向転換は緩慢だし、速度調整も素早くはできない。しかし、その飛び様はまさに鳥のようで……。
白い雲が浮かぶ青空で、グルグルと旋回している彼女の目は喜びに満ち溢れ、とても輝いていた。
──そしてその日の晩、モモッターのシャーレの公式アカウントでテンコの事業をそれとなく宣伝。その翌日から、ハドマ学園第2校舎は、文化祭かと勘違いする程の凄まじい賑わいを見せ始めた……。