※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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第13話:ゲヘナ学園、陥落

 

 万魔殿が陥落してから暫くして、レイコによって気絶させられていたヒナは風紀委員会の仮眠室で目を覚ました。チナツによって手当てされていて、一部にはガーゼが貼ってあったりしている。

 

「お目覚めですか、委員長。……よかったです」

 

「チナツ……私……」

 

「見ていましたよ。私も、行政官も」

 

「……そう」

 

「飂熾冘巫髏でしたか。まさか、あのような戦いをするとは思いませんでした」

 

「……アコは?」

 

「それが────先程、校内放送で『飂熾冘巫髏がゲヘナ学園を乗っ取った』との放送があってから、各所に連絡を取っています」

 

「な……に?飂熾冘巫髏が、学園を乗っ取った?」

 

「ッ…………はい……」

 

 重苦しい沈黙が広がる。ヒナは血が出る程に唇を噛み、掛け布団に爪を食い込ませる。自分が彼女に負けたばかりに、学園そのものが乗っ取られた──風紀委員会としては最大の醜態を晒したと言っても過言ではない有様だ。

 

「──そうだ、マコトは?奴は、何をしているの?タダで乗っ取られる程のバカじゃないハズよ」

 

「それも含めて行政官が確認中です」

 

「……そう。とりあえず、万魔殿に行くわ」

 

「まっ、待ってください!ヒナ委員長はそれなりに重度の脳震盪で倒れられていたんです、それなのに無理に動いたら……」

 

「大丈夫。調子が悪いのは、自分で分かってるわ。戦闘行為はしないつもり。ただ、飂熾冘巫髏に──針村ルーシィに、意図を聞かずには居られない」

 

「でしたら私も行きます」

 

「あまり人数が多いと戦意があると受け取られる。1人の方が都合がいい」

 

「ッ……しかしそれでは──」

 

 チナツが更にヒナを引き留めようとしたその時、仮眠室の扉が開かれアコがやってきた。その顔は、焦りや混乱というよりも、懐疑に満ちていた。

 

「ご無事で何よりです、委員長」

 

「各所に連絡してくれてたんだって?ありがとう」

 

「緊急事態ですから。イオリとモルモさんは先生を護衛しながらゲヘナ学園(こちら)に向かっています、到着も時間の問題かと」

 

「先生が?危険だし寧ろ遠ざけてほしいのだけど」

 

「それが、先生が仰るには万魔殿の棗イロハさんと連絡がつかないのだそうです。いつもすぐに返事ができる時間帯なのに、とか。なので『万魔殿の子は飂熾冘巫髏に拘束されている可能性がある』と」

 

「ッ!追い出しただけだろうと思っていたけれど、拘束とは穏やかじゃないわね」

 

「勿論、拘束されているとは限りません。それこそヒナ委員長の仰る通り、追い出されているだけだと私も思います。戦力に大きなバラツキがありますし拘束する程の余裕があったとは思えませんから……。しかし先生は、その……心配性、ですからね……」

 

「……あぁ、成程。その棗イロハもハーレムの……」

 

「……はい。なのでモルモさん達でも飛び出す先生を止められなかったそうで。たった1人で自動操縦のヘリに乗ろうとした所をどうにか宥め、今は3人でこちらに向かっているそうです」

 

「そう。なら先生の事はあの2人に任せる。私は、先生の到着を待つ気は無い。拘束してるのか否か、直接、針村ルーシィに問い質してやる」

 

 遠くからチナツとアコが見守る中、ヒナは単身で万魔殿の拠点に向かう。そこには飂熾冘巫髏を象徴するらしい六芒星の旗が立てられていて、構成員が拠点の掃除や瓦礫などの後片付けをしていた。

 銃痕を舗装して、戦車のキャタピラ跡を消して、戦車の残骸などもバケツリレーで撤去している。

 

「こんにちはー」

 

「風紀委員長じゃん、お疲れー」

 

「お疲れ様でーす」

 

 構成員達はヒナを見ても、構えるどころか呑気に挨拶してくる。ついこの先日、飂熾冘巫髏の仲間をヒナ率いる風紀委員会が捕らえたというのに。

 言い知れぬ違和感、奇妙な感覚を覚えながらも、ヒナは改装中の万魔殿の議長の部屋へ。

 

「あれっ、お客さん?待って待って、こっちもまだ掃除中なの────空崎ヒナ……!?」

 

「1対1で話すのは始めてね。針村ルーシィ」

 

「……早かったね。まさかクーデターのお返し?」

 

「そんなものに興味は無い。質問に答えて」

 

「いいよ、答えられる範囲なら」

 

「……羽沼マコト──万魔殿のメンバーはどこ?」

 

「知らない。戦いで負かした後は、奴らを建物から追い出しただけ。逃げた先まで追いかけるつもりは無かったからね」

 

「ゲヘナ学園を乗っ取って、どうするつもり?」

 

「どうもしない。もう私の目的は殆ど達成されたも同然だもの。──安心しなよ、トリニティと戦争を起こすつもりは無いわ」

 

「!」

 

「ただ、レイコの個人的な願望でね。トリニティの強い子との戦いは起きるわ、近い内に。でもそれは交流会的な名目で行うつもりだから、戦争なんかに発展はしないだろうし、させるつもりも無い。後は平和に統治するわ」

 

「……どうも胡散臭いわね」

 

「トリニティ、一応私の生まれ故郷なの。だから、破壊したいとか、荒らしたいとは思っていないわ」

 

「あなたの目的は何?」

 

「────そう、ね。これで殆ど達成されたから、あなたにも教えてあげるわ。適当に座りなさいよ、立ち話なんてさせるつもりは無いわ」

 

「……」

 

 ルーシィは室内を掃除する手を止めて、ウェットティッシュで軽く手を拭く。応接用ソファに座り、自分の前に座るようにとヒナに手で促す。

 警戒は継続して、ヒナは銃をそばに置きながらもルーシィの前に腰掛ける。ソファそのものに仕掛けなどが施されている様子は無かった。

 

「私の目的はね、主に5つあるわ。その殆どは既に達成されているんだけど……聞く?」

 

「聞かせて」

 

・ハドマの生徒会を潰した上でハドマを乗っ取る

・ハドマの乗っ取りに成功したらゲヘナと併合

・ゲヘナと併合したら万魔殿を乗っ取り統治する

(・レイコは風紀委員会を倒す契約を履行する)

・乗っ取り後は他の主な学園に新生徒会として挨拶

・その際トリニティとミレニアムには交流会を提案

 

「────とまぁ、ザックリ言うならこんな所ね」

 

 しかしそれらは全て「レイコの最強への道を補助する」という言葉でも纏めることができてしまう。ルーシィとしては実際そんなつもりで動いている。私利私欲はとうに頭に無いと言ってもいい。

 

「もしマコト達があなた達を襲ってきたら?」

 

「応戦するわ、当然よ。負けたら負けたで、もう、私としてはそれでいい。勝てないのなら、私は所詮その程度の器だったって事だし。本気で抗った末の運命なら、受け入れるわ」

 

「……私が今ここであなたを倒そうとしても?」

 

「ええ、応戦するわ。私が負けるでしょうけどね」

 

「!」

 

「だって私、弱いもんね。唯一と言ってもいい私の取り柄は、作戦を練れる事だけ。それしか、私にはできないからさ」

 

「……そこまで分かってて……」

 

「別にゲヘナ学園の治安を良くしようだなんて事は考えてないわ。でも、今よりはマシになると思う。こう、自然な形でね。あなたも少しは暇ができると思うけど?」

 

「いくらゲヘナ学園でも、軍事クーデターで学園を乗っ取ってマシになると思えないけどね」

 

「もし羽沼マコト達が復活してきたなら、選挙でもやるかもね。その方が公正でしょ。一般生徒も既に丸め込みつつあるし……卑怯な手段を使わなくとも、順当に勝てそうね」

 

「……。針村ルーシィ。あなたは、このゲヘナ学園をどうするつもり?」

 

「さっきも言ったでしょ。『どうもしない』、ただこれしか答えようがないわ。とりあえず、書類でも整理してさ。地道に生徒会の仕事してくわ」

 

「ハドマ学園の生徒会に入ったのも、飂熾冘巫髏の構成員に投票させただけでしょう。飾りの副会長のあなたに、何ができるのかしら?」

 

「あらヒド〜い。確かに部下にも投票させたけど。リエ──生徒会長から信頼を得たのはこの私自身の手腕よ。会計がヘマしてクビになっちゃったから、副会長として書類整理する傍ら、会計も兼任して。普通の生徒会役員の1.5倍以上は仕事してたわ?」

 

「……」

 

 ヒナが懐疑的な視線を向ける中、平然とした顔でルーシィは立ち上がり、マコトの──今となってはルーシィの席となった机に向かう。

 書類を何枚か手に取りそれをヒナに見せ付ける。

 

「さっきチラッと見たけど、ひっどい予算管理ね。風紀委員会なんて、学園内でも特に酷いわ。人数と予算が不釣り合いにも程がある。私の可愛い部下を使って風紀委員会を潰そうとしてた辺り、万魔殿は風紀委員会が嫌いで嫌がらせしてたって所かな?」

 

「……そうね、マコトの嫌がらせはいつもの事よ」

 

「風紀委員会の支部なんか作って、モル姉を含めて幹部2人をD.U.に出向させるとかさ。まぁ、幹部を出向させるのは私の案だったんだけど」

 

「!?」

 

「まさかその中の1人がモル姉だなんて……名前まで聞いてなかったから本気で驚いたわ」

 

「支部の設置は、あなたの仕業だったのね」

 

「『幹部を出向させる』って案は、ね。でもそれはマコトが『本当に風紀委員会に勝てるのか?』って気にしてたからなの。だから私は『戦力を削ぐ為に生徒会権限でどこかに派遣したらどうなの?』って提案したの。そうしたら、アイツってば『鬱陶しいあの女をトバす良い機会だ』なんて笑ってたわ」

 

「……そういうの、言っていいの?守秘義務は?」

 

「マコトは生徒会から追い出されてるじゃない」

 

 本人が居ないのに義務も何も無いじゃない──と言わんばかりの言い草だ。ヒナは、自分に関係ない守秘義務はどうでもいいかと溜め息1つ。

 

「本当にあなた達が拘束しているんじゃないのね?万魔殿の他の子とも連絡がつかないみたいだけど」

 

「うーん。私は何もしてないし、ましてや、部下に指示もしてないわ。今は飂熾冘巫髏の皆で大掃除をしてるところだしね。屋外も含めてね」

 

 掃除や舗装をしている所はヒナもここに来る時に目にしている。それについては、疑うハズも無い。ゲヘナ学園と併合したばかりだからなのか、未だにハドマ学園の制服だったので見てすぐに分かった。

 飂熾冘巫髏ではないハドマ学園の生徒は、未だにハドマ学園の校舎──ゲヘナ学園第3、第4校舎に留まっているという話は、アコ経由で情報部からの情報を得ていた。

 ──つまり「今ゲヘナ学園に居る旧ハドマ学園の生徒」は、殆どイコールで飂熾冘巫髏と解釈しても間違いは無さそうだった。

 これからどうしたものかとヒナが考えていると、思い付いたようにルーシィは言う。

 

「……あ。その連絡がつかない子って、ひょっとしてサツキって子?ピンクの髪の……」

 

「棗イロハ。赤髪の……戦車長よ」

 

「戦車長か。それなら多分、今頃、保健室かもね。怪我人は保健室にブチ込んでるからさ」

 

「保健室に?……どうして?」

 

「どうしてって、私達は別にマコト達に恨みがあるワケじゃないし。文句言えないくらいに打ち倒すか相手が負けを認めたなら用済みよ。それなら、同じゲヘナ学園の生徒同士、保健室に運ぶくらいの事はするけどね」

 

「あなたは……何なの?割り切りが良すぎるの?」

 

「別に……目的を果たしたらどうでもいいってだけ。敵も味方も無いわ」

 

「……サツキの名を出したのは何故?」

 

「うちの幹部の1人がさ、そのサツキって子のこと気に入っちゃったのよね。イチャコラしてるかも。だから連絡つかないのかな〜って思ったの。まさか別の子とは思わなかったけどね」

 

「ふぅん……まぁ、その辺の事はいいわ。あなた達がゲヘナ学園の生徒会として君臨しようとも、私にはあまり関係無い。嫌がらせさえしてこなければね」

 

「あ、そぉ?思ったより寛大────」

 

「でも。ハドマ学園を不法に乗っ取った件について不問になったとは思わないことね」

 

「────不法、ね。確かに、私が指示して学校を壊させてリエを行動不能にしたわ。でも、ゲヘナのあなたにそれについて追求する権限はあるかしら?空崎ヒナ風紀委員長?」

 

「私はただ忠告をしただけ。これから──それらを追求する権限を持つ人が来る。覚悟するといいわ」

 

「あー怖い。感情抜きにどう論破してやろう……」

 

「論破できる要素があるの?」

 

「さぁね。でも、表向きとはいえ法規に則って私が権限を行使したワケだからね。──どう言いくるめようかしらねェ……シャーレの先生……♪」

 

「……今のうちに言っておくわ、これも『警告』よ。先生に手を出したら、絶対に許さないから」

 

「アハッ♪ その『手を出したら』、どういう意味なのか聞いてもいーい?」

 

「『どういう意味』の『意味』が分からないわね」

 

「フン、白々しい。とぼけんじゃないわよ。でも、そうねぇ。強(し)いて、そう、本当に強いて言うなら……

『攻撃』なのか『女として』なのか……かしら♪」

 

「────ッ!?」

 

「私のことを、何でも部下任せの女と思わない方がいいわよ。私は本質的にはあなたと同じ──『自ら動き、現場に立つ』タイプだから」

 

「……肝に銘じておくわ」

 

「そっ。それならいいわ。んじゃ、風紀委員会への予算案は見直しとくわね。近い内に連絡するから、期待しといて〜」

 

「……あなたが捕まればそれも水の泡になるんだし、何も期待しないでおくわ」

 

「食えない女ね……空崎ヒナ」

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