「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「何よチビ共? 止める気ィ!?」
「とと、止めるんじゃなくて! えっと、その……」
「屋内で暴れるのは危ないってだけで、あと……」
レイコとルビーの間に割り込んだのは、たまたまカフェに訪れていたミレニアムサイエンススクール1年生、ゲーム開発部の才羽モモイ、その妹ミドリだった。
牙と敵意を剥き出しにして、語気も鋭く2人へと食いかかるレイコだったがそれに恐怖の色を見せた才羽姉妹は、同じく割り込んできた人物に、視線で助力を求める。
「……? 私はただ、お前達が暴れそうだから止めに来ただけだ」
「あぁ? ……あ。あんた、飂熾冘巫髏大決戦の時、作戦会議に居た……」
「……ああ。お前は、あの時のハドマの。相変わらず喧嘩っ早いんだな」
「っさいわね……チッ!」
レイコが戦闘態勢を解除。握っていた拳を解き、舌打ちと共にそっぽを向く。トマトジュースを発見するなり、紙コップに注いで一気に飲み干した。
「錠前サオリさん、でしたね。お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。私らしくもなく頭に血が上ってしまっていたようです。──止めて頂きありがとうございました」
「いや。私は何もしていない。この子達だけでは、お前達を止めるのは難しいと判断したから加勢したまでのこと。礼を言われるような事でもない」
「んなっ……む、難しいって、それはヒド〜イ!」
「さっき、あの人にアッサリ気圧されてたでしょ。ユウカと同じくらいか、それ以上の気迫──多分、かなり強い人だよ。すみません、お姉ちゃんの事は気にしないでください。ありがとうございました」
「?? あ、あぁ……」
ミドリにペコリと頭を下げられ、サオリは頭上にハテナマークを浮かべながら、カフェを後にする。きっとこれからバイトなどがあるのだろう。またはシャーレにある射撃場で訓練するのかもしれない。
「ぐぬぬ……っ、じゃあやっぱり無理かなぁ……」
「無理でしょ……頼める気がしないもん」
「? 何の話です? 私で良ければ、聞きますよ」
「あーいや……でも〜……」
「私は彼女のように喧嘩っ早くはありませんから。先程は少し頭に血が上っただけです。気にしないでください。……ねっ?」
飂熾冘巫髏大決戦の作戦会議の際、ルビーが己のファンである槌永ヒヨリに向けたようなファンサ用笑顔を向ける。
この、通称「天使のような悪魔の笑顔」は、まだ精神的にも幼いモモイやミドリの心を射抜くには、十分すぎる程の劇薬であった。
あのルビーとレイコのやり取りを初めから見ていたから、才羽姉妹は、物腰柔らかなルビーに対しても警戒心を隠さなかった。それでも、ハドマのトップモデルとして界隈では有名なルビーの笑顔の前に、2人は、イチコロであった。
「えっと、実は私達、ゲーム作る部活やってて!」
「お2人のことを、次回作の登場キャラのモデルにしてみたい、なんて思って……!」
「──お2人はミレニアムの生徒さん、でしたか。ミレニアムってそんな部活もあるんですね。素直に羨ましいです」
「──ッ! もし完成したら、2人をミレニアムに招待するよっ! 新作のテストプレイって名目で! 色々おもてなしできると思うし!」
「お姉ちゃん!? そんな堂々と言える程の余裕は無いでしょ!? 部費だって、余計にゲームソフト買いすぎたから次の新作で一発大きめの当てなきゃカツカツになるの確定なのに……!」
「だ、大丈夫だよ! 2人が協力してくれたら多分良い感じになると思う! 勘だけど!!」
「……ふむ。よく分かりませんがミレニアムも資金がカツカツなのですかね……?」
「あ、いや、それは違くて!」
「……レイコ。あなたは協力する気、あります?」
「無いわよ! 何なのよそれ、ゲームのモデルゥ? めんどっちぃからパスよ! やるならアンタ1人でヤレば良いんじゃな〜い?」
「まぁそうなりますよね」
「そ、そんなぁ……」
「大体さぁッ、交渉なのに対価も提示しないワケ? 力で私を捩じ伏せられるワケでもない、分け前とか寄越すワケでもない──誰が協力するかってのよ? コッチは生徒会の仕事もあンのよ。ゲームなんかにうつつを抜かす程、コッチは暇じゃねーのよ!」
(生徒会だったんだ……)
「生徒会だったんだ!」
「何よ悪いィ!?」
「「ヒェッ!?」」
レイコは元よりワガママで短気で、粗暴で野蛮。お世辞にも褒められるような性格ではなく、まして生徒会に入るべき生徒でもない。
──尤もこれについては、ミレニアムサイエンススクールの
アスカなどの推薦もあるにはある。が、レイコがすんなり失楽園に加入できたのは、そういう意味も大きかった。
かつてはルーシィが握っていたレイコの手綱を、今度はリエが失楽園議長として握ろうというのだ。それが無理なら、同じ七天魔としてリンコを補助に回せばいい──そういう考えもあってのことだ。
──何にせよ。そんな経緯があって生徒会に居るレイコは、他の学園の生徒から見たら、どう見ても生徒会の生徒らしくは見えないのである。微塵も。
「で……では、こういうのはどうでしょう?」
「「「?」」」
「確認なんですが、あなたはハドマ学園の生徒会に所属する生徒さん、なんですよね?」
「そーだけどォ?」
「他の学園の生徒会との共同製作──という名目で製作するとしたら、臨時で予算を貰えるはずです。ミレニアムの名声にも関わりますから。そしたら、普段よりクオリティの高いゲームにもできますし、売上も伸びるハズ。だから、協力して頂けたなら、売上の一部、じゃなくて半分を、対価としてお渡しします……!」
「さっすがミドリ、名案だよ! そういう理由ならユウカも臨時で予算を出さざるを得ないよねっ!」
「しつもーん。なんか、アンタさ。その、ゲームを製作する部活をやってる、ってのは分かったけど。なんていうか『完成させる』前提で話してっけど、ちゃんと完成させられンの?」
「「……?」」
「2人揃って首傾げンのやめなさい! だからァ、ゲームとかそういうのって開発中止とかそういうの割とよくあんじゃんッ!? アンタらがそうならん保証はあるのかって聞いてんの! 協力した所で、完成しなかったら売上とかも貰えないワケだから、協力し損でしょ!? 骨折り損のくたびれ損よ!」
「骨折り損のくたびれもうけ……」
「ルビーは黙ってなッ。完成しなくて儲けられない前提で話してンのよ。──いい? まず前提として協力する義理は無い。しかも報酬は売上次第、って話だけど。アンタ、コッチにリスクを負わせるって自覚は……トーゼン、あンのよね?」
「あります。これまでにも何作も製作しているし、実績もあります……!」
「へぇ? 今の時代、調べりゃすぐに分かるのよ? その『実績』とやら、本物でしょうね?」
「本物だよっ! 特別賞も受賞したことあるし!」
「そ、そうです! 実力は、あります……!」
(────ミレニアムサイエンススクール、ゲーム開発部。1作目『テイルズ・サガ・クロニクル』は
『クソゲーランキング』で圧倒的1位。同シリーズ2作目はミレニアムプライスにて特別賞を受賞──そして映画は大爆死、と。まぁ……まぁ、子供が作るゲームですし、その辺は……まぁ……そうですね……)
レイコとミドリが交渉を重ねる中、ルビーは隣でゲーム開発部の経歴について調べていた。すると、出るわ出るわ酷評の嵐。大抵が1作目と映画の話。2作目やそれ以降の話が埋もれかける勢いである。
しかし「作品を完成させる」という意味でなら、しっかりとした「実力」を備えている──ルビーはそのように判断した。
「大体さァ──」
「ですからっ──」
「コホン。……2人共、ちょっと良いですか?」
「あん? 何よ?」
「どうしましたか……?」
「2人が話している間に、ゲーム開発部について、調べさせてもらいました」
「ッ!」
「ええッ!?」
「……んで? どうだったワケ?」
「まぁ、なんと言いますか。レイコが危惧している
『そもそも作品を完成させられない』──といった心配なら、する必要は無さそうですよ」
「へぇ。ホントにゲーム作れるんだ?」
「つ、作れるよ! 私はシナリオライター!」
「私はグラフィックなどを……」
「ふぅん? 他の奴がプログラミングとかするの? それでゲーム作ってるワケね。ふーん……へー……」
「……どうですか? お2人のこと次回作のモデルにしても大丈夫ですか……?」
「さっきのバチバチの雰囲気でインスピレーション得られたからさ! 凄いのができそうだからっ!」
心配を込めた視線でレイコを見上げるミドリと、期待に目を輝かせるモモイ。2人に見上げられて、少し居心地が悪くなったレイコは、それでも必死に頭をフル回転させる。
(ぶっちゃけ生徒会の仕事はブッチしてもいっか。なんなら、ミレニアムとの外交って名目でアンナやシエルに押し付けられるし? それに、結果として儲けが出れば上々、学園の利益にもなるし次からも私が外交役として
(絶対にサボること考えてますね、この顔。戦闘と悪い事に関してだけは、ルーシィさんくらいに頭が回るんですよね、レイコって。いや、ルーシィさん譲り……ですかね)
長い長い沈黙が、カフェに流れる。
サオリがカフェを出た今となっては、才羽姉妹とレイコ、ルビーの4人しか居ないからだろうか──ポットの中でお湯が沸騰するポコポコという音すらうるさく感じるくらいの、酷い静けさである。
すると、そんな沈黙を破って、遂にレイコが重い表情で口を開く。
「協力するにあたって、条件がもう1つあるわ」
「なん……でしょうか……?」
「私とコイツを
「「「えっ」」」
「コイツね、こんな幼いちんちくりん悪魔だけど、こう見えても、うちの自治区のトップモデルなの。風紀委員的な委員会で活動もしつつ、バイトで読モなんてやってるのよ。私も生徒会で忙しいけどォ、そんなヤツの時間を貰うワケだし? ほら、宣伝も兼ねて、みたいな? それくらいの役得、あっても良いんじゃないかなァ〜と思うんだけど、どぉ?」
「モデルさんでしたか……! ど、どうりで……」
「どうりで、お人形さんみたいだと思った!」
「それ褒めてます?????」
「褒めてる褒めてるっ! カワイイもんっ!」
「すみません、お姉ちゃんに悪意は無くて……」
「……ま、いいです。で、レイコの出した追加条件、どうです? 私としては飲んでもらいたいですが、正直どちらでもいいですよ」
「飲みます。モデルとかじゃなくて、そのまま!」
「────! 思い付いた! ゲームの中で2人に戦ってもらうってのはどうっ!? さっきの喧嘩の決着を、ゲームの中で!!」
「は? それじゃ私達の勝敗をシナリオライターのアンタが決める事になるじゃないのよ」
「キャラに応じてストーリーを別に用意するから、ストーリー上では決着つかないよ! ストーリーを一通りクリアして、フリー対戦で使えるキャラ達を解放してから、2人がそれぞれ自分のキャラを操作して、フリー対戦で決着つけるのっ!」
「ふーん? どんなゲームで、どんなストーリーを構想してんのかは知らないけど。そういう事なら、良いんじゃない? ねぇ、ルビー?」
「ですね。では、決まりという事で」
「そーね。じゃ、宜しく頼むわよ、チビ共!」
「チビじゃなくてモモイ! 才羽モモイだよ!」
「妹の才羽ミドリです。双子で、1年生です」
「私は博愛レイコ、生徒会の会計。同じく1年よ。んで、こっちが……」
「零得ルビー、統治委員会の副委員長やってます。同じく1年生です」
「全員1年なんだ!? スゴい偶然だね!」
「揃いも揃ってチビばっかだしね」
「レイコもそんなに変わんないでしょー!?」
「馴れ馴れしく呼び捨てにすんなっ! ていうか、アンタと私、目測で10センチは離れてるからね!? 10センチ違えば結構な差でしょうがよ!?」
「そんなに変わるかなぁ??」
「変わるわよチビモモイ!」
「なにを〜っ!?」
(じゃあ、レイコさんはアリスちゃんより少しだけ大きいんだ。描く時の参考にしなきゃ……)
────そんなこんなで、ゲーム開発部と吸血鬼2人組の奇妙な繋がりが生まれた。
詳細はまた後日ゆっくり詰めていこうという事でこの日は解散。モモイとミドリは、ミレニアムへと足早に帰って行った。きっとミレニアムに着くなりセミナーの早瀬ユウカの元へ向かうに違いない。
◆
「それにしても、レイコ。あなたが『ゲームを完成させられない事もある』というのを知っている事にまず驚きでした。……ゲーム、好きなんですか?」
「ゲームなんか、した事も無いけど?」
「え?」
「ライムがゲーム好きなのよ、スマホゲーだけど。だから開発中止になっちゃったゲームもあるとか、そういうの愚痴として聞いた事あるってだけ。私はゲーム興味無いよ、スマホだって連絡とメモにしか使ってないしさ?」
「ですよね……戦闘にしか興味無さそうですし」
「……? そう、だけど……?」
「そんなキョトン顔しないでくださいよ……」
「??」
こっちはこっちで、なんとな〜く険悪な雰囲気が緩和されたまま、ハドマへの帰路に着いた。