「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「ユウカ〜! ユウカユウカユウカ〜ッ!!」
「何? 予算は増やさないわよ」
「予算ちょーだいっ!」
「聞いてた?」
「違うの、聞いて! 実は今度ね、他の学園の人と合作する事になったの!」
「いや、合作というか共同開発というか、とにかく次回作は他の学園も関わってて──というかそこの生徒会が関わってて……」
「はぁ? どうにも要領を得ないわね、順を追って説明してくれるかしら?」
「かくかくしかじかで……」
「それで伝わるの漫画だけよ」
「ダメかー」
ミレニアムに帰った才羽姉妹は、部室に戻るより早く、セミナーへと直行した。そこではいつも通り眉間に皺を寄せて電卓を叩くユウカが居て、傍では書記の生塩ノアがそんなユウカを眺めながら何やら書き物をしている。
モモイが来る時は、その殆どが予算のおねだり。ユウカもそれが分かっているので内容を聞く前から返答をするも、モモイは平気な様子でそれを無視。
それから、シャーレのカフェにて起きた出来事と経緯を、掻い摘んでユウカに説明した。もちろん、モモイの説明だけでは心許ないどころか誤解すらも生みかねないので、ミドリが補足しつつ、である。
「ハドマ学園ね──私個人じゃなく、ミレニアムの生徒会役員として言わせてもらうなら、できれば、あそことは関わりを持ちたくないのが本音なのよ」
「ええッ!? どうしてさ!?」
「内部分裂が凄まじくて、治安が悪いから。これに尽きるわ。ゲヘナとトリニティの仲の悪さは2人も噂程度でなら知ってるんじゃない?」
「それは……聞いた事くらいは……?」
「噂程度なら……」
「ハドマ学園はそれが1つの学園に内在してるの。私達ミレニアムは人間族──トリニティは
「だからダメなの?」
「ダメって言うか、実際に内部分裂を起こしたから言ってるのよ。先生が解決したそうだけど。ほら、数ヶ月前にトリニティで戦争が起きかけたって話、知ってるでしょ? アレもハドマ学園がガッツリと関わってるからね?」
「そうなのッ!?」
「──ハドマは、人間族に天使族、悪魔族までもが入り乱れているゲヘナ以上に混沌とした自治区よ。生徒会として言うなら『会ったら挨拶する程度』の浅い関わりで留めてほしいのよ、正直な話ね……」
「…………」
「お姉ちゃん……?」
ユウカの忠告を聞き、キュッと唇を固く結び俯くモモイ。騒がしいモモイが睡眠時以外で黙るとは、流石に言い過ぎたか──そう思うユウカだったが。
ノアは筆を走らせる手を止め、苦笑いをユウカに向け、窘めるように言う。
「ユウカちゃん……
「え」
ノアの言葉に背中を押されるかのように、キッと顔を上げる。その目はセミナーの部室に来た時より爛々と輝いていて、何が何でも意地を通してやる、という彼女の覚悟と、ロンズデーライトより遥かに固そうな決意が、ありありと溢れていた────。
◆
「──ってコトだから、近々、ミレニアムに外交に行ってくるわッ! その時は仕事、夜露死苦ね?」
「はひぃ……また……仕事が、増えりゅ……」
「あーあ、アンナが目ぇ回しちゃった。どーすんのレイコぉ?」
「またレイコさんは勝手な事を……ッ!!」
「しかし議長。私も傍に居ましたから、変な事にはなっていませんよ? 寧ろ、ハドマ学園のイメージアップのチャンスとして利用できるハズです。不当併合の件といい飂熾冘巫髏大決戦といい、ハドマの評判はガタ落ちです。ここは一つ、虎の威を借る狐じゃあないですけど、ミレニアムの力を借りるのもアリでは? と思うのですが、どうでしょうか?」
「ルビーさんがそう言うのなら……。必ず2人行動、ですよ? レイコさんの単独行動は禁じますわよ」
ルビーに対して甘いのは、これまでの積み重ねがあるからである。レイコもそれが分かっているから余計な事は言わないのである。言った所で、自分がメンタルにダメージを負うことになってしまう。
が、それはそれとして、反発する所は反発する。それが博愛レイコという子だ。
「はァ〜!? ちょっとリエッ!? 一体アンタに何の権限があって、ンなこと決めるってのよ!?」
「議長としての権限ですが?」
「だからって単独行動禁止はヤバいっしょ!」
「ミレニアムの自治区に居る間は、の話です。常にルビーさんの近くに居てくださいね。吸血鬼の方に追い付けるのは、同じく吸血鬼の方だけですから。任せましたよ、ルビーさん」
「はい。これ以上、我が校の名を落とさぬように、気を付けたいと思います」
「チッ……!」
「結構。──ではお2人共、期日が決まりましたら公欠届をお願いしますね。それから、ルビーさんはスズさんにも報告をお願いしますわね?」
「そうですね、行ってきます」
◆
「──それで? ハドマ学園の誰との合作なの?」
「どっちも悪魔ッ子だったよ!」
「生徒会からは会計の博愛レイコさん、統治委員会からは副委員長の零得ルビーさん、だったね」
「る、ルビーちゃんッ!?」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、ハドマ1有名な読者モデルの子じゃない! 何でそれもっと早く言わないの!?」
「まさか知ってるとは思わないじゃん!?」
「モモイ! テイルズ・サガ・クロニクルみたいな破綻に破綻を重ねたストーリーは許さないわよッ! そしてミドリッ! 魔王ユウカみたいな一部のみを強調するような描き方は絶対にダメだからねッ!! 分かったッ!?」
「ゆ、ユウカのやる気が凄い事になってる……」
「私達より燃えてる……」
「こうなったら、私自らが総監督というか、監督を務めないとダメよね。映画みたいな大爆死は全力で避けなきゃだし……」
「流石にそれはいいよ!」
「セミナーの仕事とかあるだろうし、一応、これはゲーム開発部としての活動でもあるし……」
「あらそう? じゃあ追加の予算は出さないけど」
「んなぁっ!?」
「ひ、卑怯な……っ!?」
「予算も含めて全力バックアップするし、それでも足りない時は私のポケットマネーから出すわッ!! 株で儲けた資金ならまだあるんだからッ!」
「で、でも〜……」
「それだけ、ゲーム開発部の負の実績が大きい──という事実にも、目を向けてみてくださいね」
「「ヒッ……」」
目も口も笑っているように見えるノアだったが、その実、心は微塵も笑っていない──モモイ達は、それを何となく感じ取り、ユウカへの反抗心などは一瞬で萎んでしまった。
そうなれば、モモイとミドリが返せる言葉は既にたったの1つしか残されていなかった。
「「監督、よろしくお願いします……」」
「分かってくれたらいいのよ、分かってくれたら。他所の学園の生徒会が絡んでるんだから、ある意味ミレニアムエキスポと同等の必死さで製作しなきゃダメよ。分かってるわね?」
「うんッ。ユウカが監督するのを抜きにしても──これまで以上に頑張るよっ!」
「何度もやり直ししないで済むくらい、ちゃんと、ルビーさん達の可愛さを絵に込めなきゃ……!」
「無理に早く終わらせようとしてはダメよミドリ。推敲してこそ完成度は上がり、練りあがっていく。セミナーの会計として、色々な部活の色々なものを見てきたから分かるけど。近道をしようとしては、ダメ。『急がば回れ』──結局、これに尽きるわ」
「……気を付けなきゃ……」
「というか、聞き忘れてたんだけど。ハドマ学園と分け前について話し合ったの? 共同開発っていう名目なんでしょう?」
「あ、うん。半々で分けるよ!」
「そう、半々…………………………半々ですってぇ!?」
「え。何かダメだった?」
「それ……あ、相手と合意は…………?」
「モチロンちゃんと合意済みだよ! 多分、今頃、向こうの生徒会長さんに報告してるんじゃない?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ…………!!!!」
モモイの拙い交渉術にユウカは目眩がしていた。金銭面だからというのも大きいが、何より、自分がその金銭面を請け負う「会計」だからであろう。
共同開発という名目とはいえ開発の比重は明確にミレニアム側の負担が大きい。ともなれば5:5で分割というのはあまりにもマズイ判断である。
ユウカは脳内で計算機を叩き、数字を見て愕然としながら検算して、もっと検算を重ねて──やがて計算が間違っていない事を確認すると、絶望に顔を歪めながら、脳内計算機を粉々に叩き壊した。
「…………フゥ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ…………」
「……ゆ、ユウカ…………さん……?」
「………………モモイ」
「は、はいっ!」
「次やったら、
スパァンッ!! と太ももを叩いた。
それを見たモモイは太ももで首を絞められた事を思い出し……背筋をぶるりと震わせた。