※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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Vol.5 第1章:天使と悪魔と人間と
第1話:ハドマの人間族


 

 ────数ヶ月前に、議長であるリエから連絡を受け取ってハドマ学園と関わりを持ってから、何度こうしてハドマ学園に足を運んだだろう。

 初めは、この長い移動距離に辟易もしていたが、今ではそれすら楽しみになってきている。

 

「今日は『部活動の視察を手伝ってほしい』、か。そういえば、他にはどんな部活があるんだろ」

 

 思えば、ハドマ学園にある部活は殆ど知らない。せいぜいが技術開発部、料理研究会や健康保全部。あとは、大抵が部というより委員会だったりする。

 いずれにせよ、どんな部活でも、校風を鑑みるに部長や委員長は揃って実力者ばかりなのだろう。

 ハドマ学園は、現代的なキヴォトスにおいて少し特殊な校風で、基本的に実力主義の学園だからだ。

 

「そういえば、普段ハドマ学園で関わってる子って大半が悪魔か天使だったような……」

 

 翼が無くとも、プロフィールを見るに種族は悪魔だったり天使だったりする生徒が大半だ。現に私がガチャで迎えた生徒なんてその2種類しかいない。

 翼の無い天使族ならリエ、翼の無い悪魔族は砂田姉妹などが分かりやすい例だろうか。彼女達の事はまさに、最初は人間族だと思っていた。だがそれは違うらしいので、私がこれまで関わってきた(ガチャで迎えた)生徒に人間は居ない、と言える。

 しかしハドマ学園は人間、天使、悪魔の3種族が入り乱れたゲヘナ以上に混沌とした学園のハズだ。こうも偏りが出るのは、些か妙な気がする。

 

 とはいえ、何となく分かる気がする。

 ホシノやネルのようなパターンは、希少なのだ。ツルギを見れば分かるが、人間には無い超再生力や滞空または飛行能力がある天使や悪魔の生徒には、普通の人間には無い大きなアドバンテージがある。戦闘において、この辺が大きな差となるのだろう。

 そもそも素の膂力の違いなどもある。

 

 だからこの実力主義のハドマ学園では、言い方はあまり良くないが、他の存在達に埋もれてしまうのだろう。だから今日のこの部活動視察で、彼女達の事もしっかり見てあげたいと思う。

 

 ◆

 

「────という事で、先日も説明しました通り、本日は先生にも協力を要請しまして、半年に一度の部活動視察を行いたいと思います」

 

 アンナとシエルにとっては恒例行事らしく、特に変わった反応を見せたりはしない。しかし1年生、しかも飂熾冘巫髏が活動を本格的に開始するまではルーシィに存在を秘匿され不登校だったレイコは、頬杖をつきながら、視察の時期に疑問を呈する。

 

「半年に1回なの? にしては中途半端な時期ね。もう下半期でしょ」

 

「実は、飂熾冘巫髏大決戦の後処理などもあって、後回しにしていたのです。本来であればあの時期に行うものなのですけどね」

 

「あー。てか、生徒会ってこんな仕事もしてんの? いや、生徒会だからこそ?」

 

「だからこそ、ですね。──先生。『視察』などの業務は経験アリとの事でしたが、何か疑問に思う事などはありませんでしょうか?」

 

 部活動一覧と簡単な資料を渡されて、それに目を通していると、リエから疑問の有無を尋ねられる。疑問──まぁ、先程、道中で考えていたような事が疑問と言えば疑問だが視察にはあまり関係ないか。

 

「そうだね。気になる事は、あるにはあるけれど。見てみたい部活が幾つかあるくらいで、疑問はとか特に無いかな……」

 

「でしたら、もののついで──ではありませんが、2つ、お願いがあり……。よろしいでしょうか?」

 

「いいよ、何でも言って」

 

「実は、この『視察』に際して────」

 

 ◆

 

「──ハドマってとことん複雑な環境だなぁ……」

 

 私は早速視察を開始。リエからのお願いを受け、真っ先に立ち寄ったのは体育館の裏方にある小さな道場。

 そこではドンッ、ダンッ、と強く床を踏みしめるような音──いや、振動が外まで伝わってくる。

 

 訪れた部活は「剣道部」。私がキヴォトスに来る前にいた世界にも普通にあった、オーソドックスな部活だ。

 キヴォトスはそこそこ奇抜な部活ばかりがあって少し忘れかけていたが、ミレニアムに野球部があるように、ハドマ学園にもこのような一般的と言える部活があるらしかった。

 

 道場の入口前に立て札がある。

 曰く「天使・悪魔禁制」──つまり、人間以外は道場への立ち入りを禁ずる、と。

 

 リエの頼み事2つのうちの1つはまさにこれだ。剣道部の視察。人間以外は立ち入りを禁じていて、満足に視察ができないのだそう。

 

 とはいえ失楽園にだってリエ、シエル、アンナ、レイコといった幹部格の他に、一般生徒(モブちゃん)なら居る。ティーパーティーにも一般生徒(モブちゃん)が存在するように。

 だからこれまでの視察は人間の一般生徒(モブちゃん)に視察を任せていたのだそうだ。

 

 このような禁制、本来なら生徒会の権限において無視できる。そのように通告した所、部活動や活動報告などをボイコットするぞ、と脅してきたので、仕方なく失楽園幹部による視察を諦め、一般生徒(モブちゃん)に任せるようにシフトしたのだそう。

 

 ──そんな中で、人間であるシャーレの先生(わたし)との関わりを得たので、お願いしたい、と。そういう話らしい。

 実は私もリストを手にした時から剣道部の存在が気になっていたので、リエからのお願いは、そんな私にとってはまさに渡りに船であった。

 

「……居るはず、なんだけどなぁ」

 

 引き戸を軽くノックしても、誰かが出てくる気配などはまるで無い。強めにノックしても、同様に。しかし戸にもビリビリと振動だけは伝わってくる。

 剣道では踏み込みが大事だと聞く。その振動が、外にも伝わってきているのだろう。

 

「失礼し……」

 

「部外者は立ち入り禁止ですっ!」

 

「うわッ!?」

 

 戸を開けた瞬間、木刀が頭を掠めた。咄嗟に反応できてよかった、もし少しでも遅れていたら下手をすれば死んでいたかもしれない。

 私に稽古をつけてくれたサオリに感謝しかない。

 

「まさか避けるとは──たぁぁぁっ!!」

 

「待って! 人間! 私、人間! 人間だから!」

 

 まるで人に成り済ますバケモノの言い訳のような言葉を並べながら、今にも木刀を振り下ろすような気迫で木刀を頭上に構える少女に言葉を投げる。

 

「……ほへっ?」

 

「連邦捜査部シャーレの先生です、よろしく。私、一応人間だから……ほんとに、よろしくね……?」

 

 ◆

 

「ほんっとーにっ! すみませんでしたぁっ!!」

 

 立てば膝まで届かんばかりの長い長い銀髪を床に敷き、ぺたんと土下座をする少女。ハナコのような極めて長いアホ毛も、シナシナになっている。

 

「ケガも無かったんだから、気にしなくていいよ」

 

「うう、しかし……」

 

「鋭い突きだったね。私も結構鍛えてるんだけど、それでもギリギリだった。──ひょっとして、君が剣道部の部長なのかな?」

 

「あ……えぇと、そうです……一応……」

 

「一応?」

 

「えっと、私よりも強い子が居て。その子が副部長なんです。本当なら、あの子が部長をやるべきなんですけど……色々あって」

 

 天使や悪魔の生徒を出入り禁止に指定はするが、強者が上に立つべきという実力主義は崩したくないらしい。ハドマ学園という学園の空気に合わせてのものなのか、それとも別の意図があるのか……。

 

「改めまして──剣道部部長、3年の猫田(ねこた)ナルミと申します。よろしくお願いいたします」

 

「ご丁寧に。連邦捜査部『シャーレ』の先生です。困った事があったら何でも言ってね。すぐ対応するからね。今後ともよろしく」

 

「「「よろしくお願いします!」」」

 

 生徒は、ナルミを含めて3人しか居ない。確か、部活動の規定として、部の最低人数はハドマも4人だったハズ。視察の資料にも、そう書いてある。

 

「えっ、と……部員は3人しか居ないのかな?」

 

「部として認定を貰える最低人数が4人ですから、意地でも、4人は維持するようにしています。今はその……さっき言った副部長の子が、不在で……」

 

「そっか。それなら仕方ないね」

 

 和風の部らしく名前が書かれている木の札が壁に掛けられている。部長、副部長、それ以外2人──そしてその名前を見て、つい反応してしまう。

 

「もしかして、副部長の子って……」

 

「副部長──猫田ナルコは私の双子の妹なんです」

 

「最近は全く顔出さなくなっちゃったけどね」

 

「ちょっと……っ!」

 

「ホントの事ですよね?」

 

「あう……」

 

 部員の鋭い言葉に、ナルミは縮こまってしまう。この頼りなさだけは、どこか、ユメっぽく感じる。

 話を聞くに、他の2人は2年と1年らしい。以前までは、創設メンバーのナルミ、ナルコ、他2人を合わせて剣道部として成り立っていたものの、色々反りが合わなかったり争いが絶えなかったりして、2人は退部──。

 

 しかしそれだと部として存続できなくなるので、帰宅部の生徒を勧誘して、ギリギリで、4人を維持しているのだそうだ。猫田姉妹以外は入れ替わりが激しく、この2年と1年の生徒もつい最近になって入部したばかりらしい。

 

 確かに、部員のリストを見ても、9割以上が退部済みという履歴になっている。現在も在籍している生徒は姉妹とこの2人だけで、創設メンバーは姉妹だけらしい。ギリギリもいい所だ。

 

「……あれ?」

 

 別紙を参照して気が付いた。次に見る予定だった弓道部のメンバーが、現在視察中の剣道部の部員と丸々被っているのである。

 

「あ。弓道部も先生が視察するんですね」

 

「うん。でもコレ……」

 

「はい。ウチは剣道部と弓道部を兼ねてるんです。部長、副部長、部員、全て共通です。弓や的などの道具は別の所にありますけど……」

 

「そっちにも、ナルコは……?」

 

「はい、顔も出してくれません……」

 

「そっか……」

 

「ナルコ先輩、マジ最強ですよ! ニャルミ先輩がスピード特化ならナルコ先輩はパワー特化って感じですね。打ち込み稽古に使う防具立て、一発で粉砕してましたから!」

 

 親指で後ろを指す部員。私が来る前までずっと、木製の防具立てに打ち込み稽古をしていたらしい。竹刀ではなく木刀で殴った所で、粉砕なんか、到底できそうには見えないが……。

 

「ニャルミって呼ばないでってば……!」

 

「えー? でも可愛いしイイじゃないですかー」

 

「は、恥ずかしいって……!」

 

「猫(・)田ナルミ(・・)で、ニャルミ?」

 

「そーそー、そんな感じっす! 親しみやすいし、フワフワしてるのが先輩っぽいから、ニャルミ先輩なんて呼んでるんです!」

 

「でも、ナルコの方は普通に呼んでいたような?」

 

「あー……ナルコ先輩は……」

 

「……」

 

 バツが悪そうに黙り込んでしまう2人をフォローするように、ナルミが2人の代わりに口を開く。

 

「──ナルコは、怖いんです」

 

「怖い(・・)……?」

 

「双子のハズなのに、私とは、まるで違うんです。強いのが怖いとかそういう話じゃなくて。まるで、攻撃性が服を着て歩いているような──思わず道を開けたくなるような凶暴な威圧感というか……」

 

「強いだけならいいんですけど、凄い怖いんです! 普段は無口なのに、いざ口を開くと口が悪くてっ! そ、そりゃ、先輩方より弱い私達じゃあ、まともな戦力にもならないでしょうけど……」

 

「新入部員相手に『ザコがヘラヘラしてんな』とか言って睨んでくるんですよ!? 怖すぎて、次の日ニャルミ先輩が来たとき泣いちゃいましたもんね、ナルコ先輩かと思って……」

 

「思えば、ニャルミ先輩が親しみやすく感じるのはナルコ先輩とのギャップのせいかもしれないよね。同じ顔なのにまるで別人なんだもん」

 

「あー! そーかもしれないですね!?」

 

「し、姉妹なんだから別人だよぅ……」

 

 目をバツ印のようにして縮こまるナルミ。部員と妹との間の溝には、それなりに苦心させられているように見える。

 ゲーム開発部で言うと、モモイとユズとアリスは仲が良いものの、ミドリの性格がキツすぎてユズとアリスとは馴染めず、モモイが板挟みになっているようなものか。確かにモモイ(姉)も苦心する状態だ。

 

「先輩はどーですか? ナルコ先輩からの当たり、強くないんですか?」

 

「え……私? 普通、じゃないかなぁ……?」

 

「やっぱり双子の姉妹だから?」

 

「ナルコ先輩的に見てニャルミ先輩は強いとか?」

 

 部員達とナルミの会話を聞いていて、どこか妙な違和感があった。

 2人の話を聞くに部員達とナルコは面識がある。最近は顔を出していないとしても、2人に恐怖心を植え付けられるくらいには接している。

 だというのに──ナルコからナルミへの当たりの強さを知らないらしいような、この口振りは一体? 

 

 同じ部で活動しているのだから、2人は、とうに知っているハズだ。ナルコからナルミへの当たりの強さなんて、2人の会話を見ていれば嫌でも分かるだろう。家や寮での話じゃないのだから。

 それなのに「間」を置いているかのような、この奇妙な感覚は……? 

 

「ナルコとナルミって、どんな会話をしてるの?」

 

「えっ、と……どんなって、普通、ですけど……?」

 

「ナルコ先輩が普通に会話してるの想像できないんですけど……」

 

「近付く者は叩き切る、みたいな雰囲気ですしね」

 

「そんなんじゃないよぉ……」

 

「というか『普通に会話するナルコ先輩』どころかナルコ先輩とニャルミ先輩の会話自体がまるで想像つかないですよ?」

 

「2人が喋ってるとこ、見た事ないですもんね」

 

 2人は仲が悪いのだろうか? もしもそうなら、これ以上踏み込むのは良くない。しかし私が2人の仲を取り持ってあげたいとも思う。複雑だ。

 プレナパテスならどうするだろう。

 たった1人の妹だ、仲が悪いままで放置しておくワケが無い。彼なら、2人の仲を取り持つハズだ。

 

「会話が無くなった理由に心当たりとか、ある?」

 

「ですから、会話が無いワケじゃなくて……!」

 

「あー違いますよ、先生。会話が無いとかそういう次元の話じゃなくて……」

 

「2人が一緒に居るとこ自体、見た事ないんです。ニャルミ先輩がバイトの時とか、そういう時にだけ代わりとしてナルコ先輩が来るんですよ」

 

「それは、部長(わたし)の代わりが副部長(あの子)なワケだから──そういう時は、頼みを聞いてくれるってだけだよ? 普段は絶対に言うこと聞かないけどね。あの子も、2人の事が心配なんじゃないかなぁ?」

 

「「うげーっ!? それはヤダぁ!」」

 

「ナルミ、バイトしてるんだ?」

 

「はい。クラスメイトの砂田リンコちゃんって子が会社をやっていて。そこで、たまに臨時で働かせてもらってるんです」

 

「リンコの会社と言うと、家事代行サービスかな? 部員だけで回してると思ってたけど、バイトも募集してたんだ?」

 

「ご存知だったんですねっ! ほんとはバイトとか募集してないんですけど、クラスメイトだからって特別に雇ってもらってて……えへへ」

 

 成程、確かにリンコだったらそれくらいの融通をきかせたりしてくれるだろう。リンコらしいとすら言える。

 バイト先、バイト内容も把握した。信頼の置けるバイト先だから、一応、先生として安心はできる。

 

 そして、そういう時はそんなナルミの代わりに、副部長を務めるナルコが部員の面倒を見に来ると。ナルコも、心の底から部員を鬱陶しいと思っているワケではなさそうだ。そうなら、姉の頼みだろうと姉の代わりに面倒を見にわざわざ来ないだろう。

 

 つまり、だ。ナルコは、ちょっと口が悪いだけで面倒見は悪くない、ツンが強めのツンツンツンデレくらいの生徒なのかもしれない。

 ナルミもそれを理解しているからこそ妹を庇うのだろう。いくら姉妹と言えど根拠も無く庇えまい。

 

 ──彼女達との対話は、始まったばかりである。

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