「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「──それでそれで、ニャルミ先輩とナルコ先輩のどっちが強いのか、なんてのも実際は分からないんですよ! ナルコ先輩の方が強いっていう話だって全部ニャルミ先輩の自己申告なんですから!」
「そうなの?」
「そ、そうですけど! でも、ナルコは防具立てを粉砕できて、私にはできません。客観的に見ても、ナルコの方が強いって分かるでしょう?」
「その話から分かるのは、ナルミよりナルコの方が攻撃力が高いって事だけ。攻撃力の強弱だけでは、決着は分からないよ。ゲームも現実も……ね」
「やっぱり、先輩達の戦い、見てみたいですっ!」
「私もです! 今度、ナルコ先輩のこと連れてきてくださいよ! バイト行くって言って先輩を部活に来させて、あとでニャルミ先輩がこっちに合流ってやり方なら、ナルコ先輩も来てくれるハズ!」
「うーん、騙されてくれるかなぁ……」
ナルミは、皆の前でナルコと手合わせすることに何故だかノリ気ではないらしい。
ナルミがバイトの時にだけ代わりに後輩の面倒を見てくれるという話と合わせて考えたなら、難しく考える必要は無く、いつも通りにナルコに任せればそれで済むハズ。何も難しく考える必要は無い。
それとも妹を騙す事に抵抗感があるのだろうか。
「う〜ん。なんか怪しいなぁ〜? ニャルミ先輩、意地でもナルコ先輩と部活に来たくないみたい?」
「そんな事は無いけどね……あははは……」
彼女は後輩2人からジト目で見られ、苦笑いして縮こまってしまう。私に次いで背が高いのに、後輩よりも小さく見えてしまうくらいだ。
「やっぱあの噂、本当なんじゃないですか〜?」
「噂は噂だって流してたけど、少し現実味が……ね」
「噂?」
「いやね、私が入部した頃に居た先輩に聞いた事があるんですよ。ナルコ先輩達に関する噂!」
「え……? 何それ、初めて聞いたかも?」
「やっぱり知らなかったんですね」
「そりゃあ、噂ってのは本人の耳に入らないように話すものですから。なんでも、その噂によると──
『ナルミ先輩とナルコ先輩は────」
彼女の言葉が、最後まで紡がれる事は無かった。大地震と勘違いしてしまいそうな程の強い揺れと、山のような大量の爆薬を一度に炸裂させたような、破滅的なまでの大爆音が、殆ど同時にハドマ学園に襲いかかってきたからである。
「うわ何!? 地震!?」
「火薬の匂い──地震じゃない、爆発だよ!」
「しかもこの方角って……弓道場の方じゃ!?」
3人が窓や戸を開けたりして避難経路を確保して爆発が起きた方角を確認している中で、私は黙ってシッテムの箱を起動し、アロナ達に爆発地点を特定してもらう。場合によっては、生徒達を避難させる事も視野に入れての事だ。
しかし、爆音と振動の割に、爆発地点は学園から少し遠いようだ。
上空からの視点で即座に場所を特定。爆発地点は吸血鬼であり巫女である博愛レイア、レイラの住む博愛神社が建っているあの小高い山。ハドマ学園の敷地内ではないらしい。
「ひとまず落ち着いて。──爆発場所を特定した。博愛神社がある山で、爆発が起きたみたいだ。火山噴火ではなさそうだね」
「やっぱり弓道場だっ!?」
「ヤバいって! 誰か倉庫に火ィつけた!?」
ナルミに比べ後輩2人は酷く右往左往している。学園内ではないと伝えたにも関わらず、
「ナルミ。弓道場や倉庫……というのは?」
「その言葉の通りです。私達が、剣道部と弓道部を兼ねているのは先にお伝えした通りです。剣道部の道場は
「そうだったんだね。これまで、ハドマの学園内で弓道場なんて見た事も無いから、弓道部があるのは妙だと思っていたんだけど、そういう事なんだね。それじゃあ、あの山を借りているって事は、当然、博愛姉妹とも面識があるワケだ?」
「レイアちゃん達のことも既にご存知なんですね。それならお伝えします。実は私達も、飂熾冘巫髏のハドマ部隊だったんです」
「!?」
「ハドマ部隊とは違いますけど、同じ飂熾冘巫髏の吸血鬼部隊にはレイアちゃんが居て。そのツテで、参道と逆方面、つまり神社の裏側の土地を、ほんのちょっぴりだけ、間借りさせてもらってるんです。弓道部の部費の一部を神社に奉納するって条件で」
「成程……」
神社の裏側の土地──成程、それならば納得だ。私も、神社の裏側は蔵しか踏み入ったことがない。弓道場があるというのは蔵より更に奥なのだろう。
それなら私も見た事ないし、知らないのは無理もないだろう。レイアとレイラとの交流の中でも他の部活に土地を貸している話を聞いた事は無かったがそんなのわざわざ私に言うことでもないか。
──参拝客も殆どおらず賽銭も無いといった話は聞いていたものの、まさか、弓道部から部費を奉納してもらっているとは。博愛姉妹め、中々やる。
とはいえ「山」という個人で所有するには広大な土地を貸してお金を取るというのは確かに納得だ。一部とはいえ土地の管理も任せられるのだろうし、合理的と言えば合理的だ。──ひょっとしてこれはリンコの案だろうか……?
「──って、そんな話をしてる場合じゃなかった! 早く弓道場に行かなきゃっ!!」
そういえばさっき、弓道の用具などは「別の所にある」と言っていたが、それが博愛神社の山という事なのだろう。弓道場がそちらにあるなら、用具もそちらに置いておくものだろうし。
今の爆発で吹き飛んでいなければいいが。
◆
弓道部の生徒が使用する自転車を借りて、4人で山にある弓道場へと急行する。風向きも相まって、山に近付く毎に火薬や木が燃える匂いが強くなる。
黒煙が酷いので、普段弓道部が通る裏のルートは使わず、少しだけ迂回して、参道を経由して現場に到着した。
現場では、私達よりも少し早めに現場に到着した統治委員会が、技術開発部による消火活動を手伝いながら、早速、現場調査を始めているようだった。
技術開発部の中でも、特に博愛姉妹とその周囲の生徒が必死に燃え盛る地面に水を掛けていて、その努力の甲斐もあって、私達が到着した頃には、鎮火した後のようだった。
「あ、先生。どーしたのよ、こんな所まで」
「久しぶりだね、スズ。弓道部の視察中、弓道場の辺りが爆発したって聞いたから。弓道部の子達と、現場を見に来たんだ」
「あー。そういや〜視察期間中よね。先生を応援に呼んだってリエから聞いたわ」
あの会議は生徒会の生徒しかいなかったが、情報共有は他の部活や委員会ともしているらしい。
いや、七天魔だからだろうか。そういえば、私が初めてハドマを訪れた時も生徒会と同時に七天魔と顔合わせをしたのだったか。
視察自体は生徒会の仕事だが、
などと、勝手に学園内の事情を考察していると、統治委員会のモブちゃんが、スズに耳打ちで何やら報告を入れる。それを聞いて眉をひそめたスズは。
「──えっとォ、確か
「は、はいっ! 私だけど……!」
「あたしは統治委員会の委員長、2年、鐘蟲スズ。率直に聞くけど、あんた、自分の弓道場に爆発物、仕込んだりしてた? 地雷もそうだけどC4とか、まぁ比較的安価な爆弾かな。どう、心当たりは?」
「う〜ん……。心当たりも何も、そういうのを埋める理由がまず無いかなって……」
「でも地雷系の爆弾が連鎖的に爆発を起こしたのはまず間違いないのよ。地面の表層で爆発するのとは地面のエグれ方がまるで違うの。ハドマの鑑識──もとい、リンコやテンコの目は誤魔化せないわよ」
「地面の中で爆発、ってことだよね。地雷は勿論、爆弾を埋めたワケじゃないんだけどなぁ……」
「ハドマ学園自体が大してお金が無いから、生徒が扱う武器や爆弾なんかも比較的安価なのが多いの。なんなら、トリニティ産の量産型より安いかもね? 技術開発部じゃなくても分かるわよ、この安っぽい火薬の匂いなんかまさにそうね」
私には火薬の匂いに大した違いは感じられない。こうして現場に出て調査したり、戦闘するタイプのスズだから、実際に触れて知っているのだろう。
トリニティ産の量産型より安価──というのは、少しだけ驚いたが。
「ていうかさぁ、弓道部ってちょくちょく爆発事件起こしてない? 少し前にだって、コレより小規模だけど爆発事件を起こしたばっかでしょうよ?」
「「ゲッ!?」」
「……2人共、何か知ってるの?」
「「あ、いや、その〜……」」
「ま、実戦訓練中の
「確かに、あの子のEXスキルは爆発系だけど──ねぇ、スズちゃん、私その事件について知らないんだけど……何があったの?」
「は? あんたは不在だったらしいけど、あんたの妹が起こした事件でしょ? 妹からも部員達からも聞いてないワケ? あんたら弓道部がこの山ン中で実戦を想定しての訓練中、あんたの妹が使ったEXスキルで山の一部を吹っ飛ばした──って事件」
「知らない知らない、私は何も知らないよっ!?」
「あ、そう。別にどーでもいいけど。ていうかさ、この前のその件を除いても、
「ウソでしょ!? 1つも知らないっ!」
「その情報統制の上手さだけは褒めたげる。でも、その主犯はどれもこれもあんたの妹なんだかんね? 姉なら姉らしく、もっとしっかり管理してよね」
「あうぅ、面目ないです……」
「部員共も部長に伝えなさいよね。この様子だと、多分、生徒会に提出した始末書とかも何もかも妹がやったんでしょ? リエもリエよ、なんでそんなの受理してんだか……意味分かんないわ」
部や委員会として生徒会に書類を提出する時は、原則として、部長や委員長などその組織の長の名で提出するものである。
受理する時もまた、部長の名でない時には、受理されないものである。
ルーシィが副議長を務めていた頃はリエが彼女に任せっきりにしていた事もあって、そういった不正書類も通していたらしいが、リエもしっかり書類に目を通すようになった今では、それもできない。
だからこそ、スズも首を傾げるのだ。仮に他人が長の名前を騙ったところで、筆跡鑑定をすればすぐ足がつく。生徒会には全生徒の自筆の書類がある、筆跡の照合などすぐにできてしまう。
だから、スズがルビーに書類の代筆を頼む時も、署名欄だけは必ず自分で書くようにしているのだ。
「────双子だから、ではないですか?」
「ルビー! 今日の
「切り上げました。爆発音を聞いて、スタジオから直行ですよ。この山、スタジオから近いので」
「そーいや、スタジオから大通りに出て4回くらい角を曲がればすぐ
「ええ。情報は、道中で部下から」
「いつも通り、あたしら統治委員会って情報共有はしっかりしてるわね。戦闘でもこれくらいしっかり役に立ってくれるといいんだけど」
ジト目になるスズから目を逸らし、苦笑いで返すモブちゃんズ。ルビーも流石に何か言いたげだが、論破されるのが分かっているからか、口を噤む。
「──んで? 双子だから筆跡を誤魔化せるんだ、なんて言うつもり?」
「ええ。先程、アンナ先輩に頼んで、猫田先輩達の筆跡を確認して頂きました。結果は言うまでもなく一致、というか『極めて一致』との事です。まぁ、ただの姉妹ではなく双子との事ですから、不自然なところは無いでしょう」
「そーなのかしらねぇ。双子って言っても文字まで似るもの? ……いや、似せることならできるか」
「ですね。当の書類の確認の際も、提出に来たのがナルコ先輩であった事には違和感があったものの、部長であるナルミ先輩が体調不良でお休みだった日という事で納得し、受理したそうですよ」
「ふぅん」
すっかり黒焦げになった爆発地点を見て、スズが口角をキュッと釣り上げた。まるで中から爆発したようなこの地面を見て、何か気付きを得たらしい。
「──てかさ、今回の
「「「!!」」」
「先生。弓道部の視察に来た、って言ってたわね。今日、部活にナルコは顔を出してないのよね?」
「うん」
「なら現時点でアリバイは無し、か。黒だとまでは言えないにせよ、少なくとも、重要参考人程度にはなるかしらね。こんな山ん中じゃ監視カメラなんか期待できないから、とりあえずナルコを探す所から始めましょーかァ?」
「了解です。部下にもナルコ先輩捜索に切り替えることを伝えてきます」
「ええ。それと、ルビーはそのまま学園に戻って」
「学園で、ナルコ先輩の捜索ですね?」
「あー違う違う。ちょっと学園で調べてほしい事があんのよ。内容は、後でモモトークで送るわ」
「……? 了解です」
「あたしらは周辺の捜索よッ!」
「「「「は、はいっ!」」」」
いつもよりキビキビと部下に指示を出すスズに、どこか言い知れぬ違和感と頼もしさを覚えながら、軽く挨拶だけ残し、学園への帰路についた。