「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
学園に帰ってからの雰囲気は、それはもう最悪なものだった。度重なる事件の事を、部長のナルミに対して黙っていたのだ。後輩2人が硬く冷たい床に正座させられるのも、仕方がないというもの。
これは流石の私も止めることはできない。
「どうして私に黙ってたの?」
「「……」」
「黙ってちゃあ、分かんないんだけどなぁ……」
このやり取りも、もう片手で数え切れないくらい繰り返されている気がする。それでも後輩2人は、脂汗を流して、気まずそうな顔をして黙っている。
これではキリがない。時間を無駄にするのは私も本意ではない──軽く助け舟を出す事にした。
「今日の爆発事件は置いといて、ついさっきスズが言っていた『以前の爆発事件』を起こしたのって、ナルコで合ってるのかな?」
「……まぁ……はい」
「現地に居ましたし……立ち会ってましたから」
「それをナルミに言えない理由でもあったのかな? 例えば──口封じされてる、とか?」
「口封じされてるとかそういうんじゃないんです、ホントに……」
「でも、ナルコ先輩がそうするまでに至った原因が私達にある、というか……」
いまいち話が見えない、が、輪郭くらいは何とか見えてきた。つまり2人はナルコに対して負い目があるのだ。
だから、結果的にとはいえ、自分達のせいで爆発事件を起こしてしまったナルコの事をナルミに黙り庇い立てしているのだろう。
「怒らないから、正直に言ってほしいなぁ?」
「それ絶対怒るヤツですよね……」
「ホントに怒らないから、教えて? 終わった事で怒ったって意味無いでしょ。時間が戻せるワケでもないんだから。単に気になるの、教えて?」
それでも黙る2人。無理に言わせるのも良くないだろうとは思いつつ、そのままでは話が進まないし事態も好転はしないだろう。
「ナルミが2人に怒ったら、その時は私がナルミを怒るから。安心して、本当の事を言ってほしいな。大丈夫、私もナルミも、聞きに徹するから」
「そうそう! 先生も居ることだし!」
「………………実はあの時、私達、お喋りしてて」
「的前に立っても喋ってたから、ナルコ先輩、凄い派手な音で舌打ちして。急にスキル使ったっぽくて的前が吹っ飛んで……」
「『真剣に鍛えるつもりが無いなら辞めるか死ね』とまで言われちゃって……」
「お喋りで怒られるの、アレが初めてじゃなくて。何回か怒られててのソレだから、ナルコ先輩のこと怒らせちゃったなぁって……」
「その時も統治委員会が来たけれど、実戦訓練中のウッカリとか、事故とか、そんな感じで誤魔化して証言してたんです。私達も『自分達のせいで先輩を怒らせてこうなった』なんて言えないから、先輩に従う形で、黙ってたというか……」
思わず絶句した。動機が思った以上に浅い、いや浅すぎるのだ。自分達に原因があるから黙ってた、確かにそれは筋の通った言い分だし尤もらしいとは思うものの、高校生のやる事か、これが……?
怒られるのが怖くて誤魔化す小学生の如き所業、ナルミも思わず口をポカーンと開けてしまっているではないか。
「だから、あの子が私の名前で書類を提出しても、黙っていたの?」
「はい……」
「『後処理はやっとくからお前達は黙ってろ』って言われたので……」
「……ふぅ〜〜〜〜〜〜〜……」
ナルミの特大アホ毛もヘナヘナだ。気苦労が凄いだろうなぁ、と思わず苦笑。既に終わった事だし、怒らないと言ってしまった以上、叱る事もできないだろう。呆れる事しかできない。
「──さっき統治委員会には言わなかったですが、今日の爆発事件についても、やっぱりナルコ先輩がやったんじゃないかなって。統治委員会の委員長も言ってましたけど、実は私達もそう思ってて」
「私達がお喋りでイラつかせた時とかそうだけど、ナルコ先輩、ストレス発散の為に爆発起こすから。だから、今日のもそうなんじゃないかなって、少し思ってて……」
「ナルコはそんな事しないッ!!」
「「ひゃっ!?」」
「っあ。…………ごめん。ちょっと……今日は、1人にしてくれないかな」
「ご、ごめんなさい。……お、お先に失礼します」
「お先に失礼します……」
後輩2人が剣道場を出てから、ナルミはヘナヘナその場に座り込んでしまう。私に対し攻撃しそうになったことを詫びたあの時より更に、長身なことが信じられないくらいに縮こまってしまう。
「大変なことになったね」
「すみません……お見苦しいところを」
「気にしないで。それよりも、ナルコについて色々教えてくれるかな?」
「まさか先生まであの子を疑って……」
「そういうの抜きで、単に気になるっていうだけ。ほら、今日はお休みなんでしょ?」
「お休みってワケじゃ……」
「え?」
「あ、いえ、確かにお休みですけど。でもどうして急にそんな……」
「急ではないよ。視察を任された身として、自分が担当する部の生徒の事を知りたいと思うのは、先生としては、当たり前の事だからね。部活の歴史とかそういう話も、もし聞けるなら有難いかな」
「……分かりました。ついてきてください」
剣道場に併設された小さな部屋を部室としているらしい。道場も比較的新しいが、部室はそれよりも更に新しく見える。洗濯機や物干し竿まで、部屋の隅に備え付けられている。ホテルによくある小さい冷蔵庫まで備え付けてあるようだ、その気になればここで生活できてしまいそうだ。
毛筆で書かれたらしい見慣れぬ四字熟語が額縁に入れて飾られている。その下には、一部が痛々しく焼け焦げてしまった写真が画鋲で留られている。
「先程もお伝えした通り剣道部、そして弓道部は、私とナルコ、他2人の計4人で創設した部活です。ハドマは裕福な学園ではありませんから、委員会や部活も、そう簡単に立ち上げられないので──部を創設するのは簡単な道のりじゃありませんでした」
「どうやって創設したの?」
「
「七天魔……」
「七天魔については、ご存知ですか?」
「よく知ってる。飂熾冘巫髏の事件の時にお世話になったからね」
ハドマ学園では戦闘の強さにおける最上位7名を一括りに「七天魔」と称している。
この七天魔は、生徒会と殆ど同等の権限を持ち、しかし有事の際には表に立って学園を守るという、大きな権限と等価な責任をも背負っている。
この「責任」を背負う事を知りつつ、学園内では生徒会と殆ど同等に振る舞えるだけの権限を欲して七天魔に成りたいと願う生徒は決して少なくない。
「なら、説明は不要ですね。──七天魔だった頃、ナルコの提案で、部を立ち上げる事にしたんです。
『純粋な力では天使族や悪魔族に敵わずとも、我々人間には「技術」があるハズ。だからそれを高める部活を』──と考えたんです」
「それで、剣道部と弓道部……なんだね」
「はい。でも、ナルコは人前に立てないというか、それができるような性格じゃないので。代わりに、というか……私が部長をやっているんです」
本来、部も委員会も、その団体においての最強の生徒が長を務めるハズ。それがこの学園の風潮だ。それを無視してでもナルコには劣るハズのナルミを部長に据えたのは、そんな理由からなのか。
猫田姉妹──いや、正確には妹のナルコか。
かつて七天魔だった猫田ナルコはまさに、そんな七天魔の権力を上手く活用したと言えるのだろう。学園の風潮に逆らうような、ある意味では暴挙とも言えるであろう行為を堂々と行えるのだから。
「でも、どこか物騒だね」
「……はい?」
「『技術を高める為』なら、理解も納得もできる。だけど『力では天使族や悪魔族に敵わずとも』って頭に付くのは、どうも物騒に思えるんだ。これではまるで天使族や悪魔族に対抗する為の部活に思えるけれど……私の考え過ぎかな?」
「……あははっ、考え過ぎですよ。そうだとしたら、こんなバカ正直に言うと思いますか?」
「それもそうだね。ごめん、変なことを言ったね」
「い〜え、慣れてますから。──話を続けますが、剣道部、弓道部共に『
毛筆で書かれた、例の四字熟語を指で示す。
「『文武両道』じゃなく?」
「はい。『あらゆる武道を修め、己の武器とせよ』という意味の創作四字熟語です。部を創設した時にナルコが考えた言葉なんですよ!」
「ほうほう……」
────この時点で、私は気が付くべきだった。猫田姉妹に飂熾冘巫髏の構成員だった過去があると知った、その時に。
しかし、この頃には、あまりに慣れすぎていた。飂熾冘巫髏・ハドマ部隊の構成員が在校生の大半を占めていたという事実があったから「そっか、君も飂熾冘巫髏だったんだね」で流してしまったのだ。
ルーシィの凄まじい手腕によって、ハドマ学園の生徒は、飂熾冘巫髏の構成員だった事が無い生徒の方が圧倒的少数派。こんな異常事態、どう考えても見落とすべきではなかった。
もし、この時点で気が付けていたのなら。あんな悲劇を迎える事は無かったのだろうか────。