「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「──5日間にも及ぶ部活動の視察、大変お疲れ様でした。特に先生は、突然の申し出にも関わらず、ご協力頂きまして……」
「いやぁ、私なんて。5日もあって2つの部活しか見れてないから……」
生徒会の幹部1人1人が、1日1つの部活または委員会を視察する。部と委員会の数から算出して、1人が1日につき1部活を視察すれば間に合う計算だった。
それなのに私は、5つのノルマのうちの2つしか視察できておらず、3つ、オーバーしてしまった。情けない限りである。
「十分ですわ。5日のうち4日は、先の爆発事件の調査にまでご協力頂きましたもの。寧ろ申し訳ない限りです。ですからお気になさらないでください」
「気にするよ、スズに引っ張られていったとはいえ任せてもらった仕事をこなせなかったから……」
「先生が見れなかった3つ、シレッとルーちゃんに見てもらったから大丈夫だよ。マジ気にしないで」
「えっ。まぁ、元不良少女とはいえ副議長の実力はあるんだろうけど。……大丈夫なの、リエ?」
「ええ。元より仕事ができるお方ですし、何より、視察して頂く部活はこちらで指定しました。それに加え、今回の本命は先生に視察して頂きましたからさしたる支障は無い見込みですわ」
「それに、一度『裏切り者』の烙印を押されたら、そう簡単にその汚名を払拭できないなんて事、あのルーシィさんなら分かっているハズ。だから改めて信頼を勝ち取る為に真面目に仕事する──ってね。リエはそう読んでるけどさぁ。楽観的過ぎでしょ、これはさぁ……」
「うふふっ♪ 私が仕事を任せていた事もあって、彼女の仕事の腕は、この私とアンナさんがこの場の誰よりも理解しておりますもの」
「ですねっ……!」
「ったく……リエもアンナも甘いなぁ〜」
あまり事情を知らない
そういう意味もあると考えれば、成程、納得だ。ルーシィの
その程度の事も考えられないルーシィではない。
レイコが推薦したのか、リエの発案なのかは──話が逸れるし、深堀りする必要など無いか。尤も、シエルが猛反対した光景だけは目に浮かぶようだ。彼女はルーシィというより飂熾冘巫髏の「ガチ」のアンチだ。
アンナは──自分で意見を言うというよりかは、議長であるリエの判断に任せたのだろう。彼女は、良くも悪くも、ひたすら
今回の視察の主目的たる「本命」はどうやら私に任せていたようだし、それ以外であればルーシィに任せても良かったのだろう。……いや、待て。
「……本命? って、何?」
「無論、剣道部及び弓道部ですわ」
「あ、あぁ……人間しか入れないから、だったね」
「それもあります。が、決してそれだけが目的ではありません。失礼ながら──先生には事前にお伝えしておりませんでしたが……その……」
言いにくそうに口ごもるリエ。見かねた様子で、溜め息一つ経由して、彼女の代わりにシエルが話を続けてくれた。
「剣道部部長の、3年猫田ナルミ、副部長で同じく3年の猫田ナルコ。部長が姉、副部長が妹の双子。どうも、この2人には黒い噂が絶えなくってね」
「噂……?」
「アレを視察したんなら、先生も知ってるでしょ? あの部活、やたら部員が辞めてるってのをさ」
「それなら聞いたよ。でも4人未満だと部活として認められないから、帰宅部の生徒を勧誘して、部活としての形を維持してるって言ってた」
「そっ。じゃ、辞めた理由の方は知ってる?」
「……それは……ごめん、聞けば良かったね」
「大丈夫。聞いてもロクに教えてくれないからさ。多分、先生が相手でもそれは変わらないと思うよ。自発的に言わなかったんだから、隠す気があるって言ってるようなもんだよ」
「それは……どういう?」
「辞めたヤツさ、不登校になってんのよ。尽くね」
「……ッ!?」
「で、
「じゃあ、退部届を受理する必要は……」
「受理する必要は無いけど、現に本人が学園に登校しなくなってる。部を辞めるのと同時にね。別に、退部を保留にしなくちゃいけないワケじゃないし、無闇に部員を減らしても苦労するのは剣道部の方。コッチとしては書類を溜めたくないから受理してるだけのこと。──ね? 2人に噂が立つのも分かる気がしてこない?」
「……」
ホシノの件もそうだが、私だったらそもそも受理などしない。が、そこは主義主張の話に波及する。本題でもないし、無闇に口出しはしないでおこう。
「でもそれだと、噂が立つのはナルコについてだけなんじゃ?」
「まぁ、部に関してはナルコの比重が大きいけど。部以外の範囲での話になると……ナルミもね……」
「そもそもナルミさんが部長ですから、部の話でもナルミさんは外せませんわね。退部届にもきちんと署名と印がありますから……ナルミさんの……」
「
「噂に踊らされるのは良くありませんわ……」
「とか言って。その『噂』の真偽を確かめる為に、爆発事件と並行して、統治委員会を使ってイロイロ調べさせてるクセにィ〜♡」
「し、シエルさんっ……!」
「まっ、自分から探る気は無いとはいえ、私も結構気になってたしサ。丁度いいよね、あの爆発事件。あの姉妹について掘り下げる
「そういう事を言うのは不謹慎ですわ……」
「なんて言ってさぁ、リエも内心、同じような事を思ってはいるんでしょ?」
「……思ってませんわ」
にしししっ、と小悪魔的な笑顔で笑うシエルと、少し気まずそうに私から目を逸らすリエは、同じく天使でありながらまるで対称的だ。
シエルの方は楽しんでいる節があるが、リエにはそんな様子は見受けられない……ように見える。
「その『噂』って?」
「何個かあるよ。代表的なのは『猫田ナルコなんて存在しないのではないか』って噂かな?」
「そちらですか? 私は『ナルミの方が強い説』が代表的だと思いますけれど……」
「猫田先輩といえば『新・飂熾冘巫髏を作ってる』という話もあります。飂熾冘巫髏が解散したから、次は自分で組織を立ち上げるつもりなのかも……」
「猫田姉妹なら、ハドマ部隊の幹部だったライムの部下ん中で、戦闘面では一番の実力者だったハズ。まぁ、ライムは実力より
などなどシエル、リエ、アンナ、レイコは口々にそれぞれが聞いてきたという「噂」を口にする。
リエの話は置いておくが、アンナとシエルの話が気になる。
飂熾冘巫髏に所属していた過去があるからなのかやはり少し怪しく思えてしまう。そんな目で生徒を見てはいけないと分かってはいるものの。
飂熾冘巫髏が解散してしまったから、自ら新たに組織を立ち上げるつもり──というのは分かるが、それで何をしようと思っているのか……。
「アンナさんの仰る噂も確かによく聞きますわね。飂熾冘巫髏と似た思想で運営されているという──例の組織の話ですね?」
「その話です。議長もご存知だったんですね」
「組織っていうのは?」
「人間による、天使族、悪魔族への対抗組織を運営しているという疑い……いえ、噂があるのです」
「対抗組織って、そんな荒唐無稽な……」
「私もそう思いたいですけれど、現に剣道部は人間以外の出入りを禁じています。人間主導での組織を結成していたとしてもおかしくはないですし、仮にそうでないとしても、我々外部からそう思われても無理もない行為をしていますわ」
「それは……そうかもしれないけれど。でもっ……」
その時。
爆弾を使ったかのような爆音と共に、生徒会室の扉が片方、吹っ飛んだ。そこには、膝まで届く長い艶のある銀髪に、顔の前に巨大なアホ毛を垂らす、緑眼の少女が居た。
見た目は剣道部部長のナルミ。けれどもナルミのような丸い目とは対照的にキレ長──見る者を萎縮させる、鋭い目付きの少女だ。
担ぐようにして木刀を持ち、ニヤニヤと、凶悪な笑みを浮かべている。
「あっれェ〜? バレてたんだ?」
「「「「ッッ!?」」」」
「っかしぃなぁ。気付き始めたヤツは全員
「猫田ナルコ……実在してたんだ?」
「あ? 実在してたんだ、だと? こりゃ傑作だ、天使サマには不似合いな、失礼極まる発言だなぁ。まァ、そいつも仕方ないか。ゲスな天使には似合う言葉だものなぁ、
「はぁ? 何言ってんの?」
「くひっ、ひひひっ……!」
「これはこれは、シャーレの先生殿。先日は世話になったなぁ……ひひっ」
「先生は知ってるかい? この学園の闇を……!」
「おいおい冗談だろ? いい大人が、それも生徒を導く先生が……ガキに騙されてるって言うのか?」
「ま、そうは言っても無理か。
「フッ。肥溜めに落ちたらクソまみれになるなんてバカでも分かる。見え透いた言い訳なんてすんな。なら……博愛レイコ」
「あ? 誰を呼び捨てにしてんのよ、ヒトカスが」
「私達と共に来い。お前さえいれば、きっと、楽にコトを進めることができる。生徒会唯一の悪魔よ、契約だ。力を貸せ。針村ルーシィの飂熾冘巫髏には成し得なかった大望を……アタシ達で叶えるんだ」
「一人称ブレッブレ。キャラ作ってんの丸分かり。痛々しくって、まるで見てらんないわァ〜」
「……あ゙?」
「バカモモイがシナリオを担当するゲームの方が、よっぽどキャラを作り込んでるっつの。くだらねー勧誘なんかしてないで、そのお粗末な交渉術を磨くくらいしたらどうかしらぁ?」
「っせぇ!!」
床に蹴り倒した生徒会室の扉を、怒りと共に踏み壊す。やはりキヴォトス人は人間も圧倒的パワーを持っている……私にはできそうにない芸当だ。
「暴力と恐怖で屈服させるしか能が無いカスがッ! トリニティとの戦争前に私ら組織を裏切りやがった恨み、今だって忘れちゃいないんだからなァッ!? 分かってるのか? 裏切り者のクソッタレが!」
「負け犬の遠吠えってのは、虚しく響くものよね。情けないったらありゃしない」
「あんだと!?」
「私は、あの時も今も変わらないわ。この私自身が最強になる為に生きてる。飂熾冘巫髏を裏切った? 違うね、飂熾冘巫髏が私を裏切ったんだから」
「!?」
「かつて、ルーちゃんは言った。『最強になる道をサポートする』ってね。だから私は、ルーちゃんに従った。けどね。『トリニティとの戦争』なんて、この私が最強に至る道の上で、なんの関係も無い。だから飂熾冘巫髏を離れ、その上で、ルーちゃんと敵対する形を取った。ルーちゃんを止める為にね」
「う、うるさいッ! 飂熾冘巫髏を裏切った事実は変わらないだろうが! 詭弁ばかり並べやがって、厚顔無恥の裏切り者が……!!」
「先生……」
「フン、なにが『必死の決断』だ。歴史も知らない部外者の分際で、
「今に見てな。如何にも清廉潔白のようなツラしたクソ天使共よ。──ハドマの時を、戻してやるよ。そしてクソ先公。せいぜい次に会う時までに歴史のお勉強でもしておくことだな? クソ天使共に汚染されたその目で、歴史を直視できるなら……な!」
挑発するように舌を出して、親指で首を掻き切るマネをして、彼女は木刀で残った生徒会室の扉をも一振りで破壊し、その場を後にした……。