※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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第5話:歴史

 

 剣道部副部長・猫田ナルコによる生徒会室襲撃の翌日────トリニティの古書館にて調べ物をしに小関ウイの元を訪れた。

 これは、ハドマ内部で調べるよりも外部の目で、つまりトリニティやゲヘナなどの目で見るべきだと判断した。そして調べ物といえば図書館、より古いデータを知りたいなら古書館がベストと判断した。

 

 ウイの邪魔をしないよう音を立てずに入室。私がここに来ることは、事前にモモトークで伝達済み。後は静かに静かにひたすら調べ物をするまで──と思っていたが、本を選んでいる最中、本を片付けに来たらしいウイと目が合ってしまった。

 

「あ」

 

「へあぁッ!? あ、せ、先生ですか……。来るのは分かっていましたが……音も無く来ないでください」

 

「ごめんごめん、読書中かと思って。ノックすると集中が切れそうだし」

 

「その配慮には感謝します、が、自分で気が付いてビビった時の方が集中は切れます……」

 

「そ、そっか、ごめん……次は気を付けるよ」

 

「はい……。それで、『歴史を調べたい』って、一体何の歴史ですか……? その棚は……」

 

「あぁ、ハドマ学園の歴史を……ちょっとね」

 

「ハドマ学園、ですか。まだ絡みがあるんです?」

 

「まぁね」

 

「全く……トリニティに攻めこもうとしたならず者の学園でしょう? しかもトリニティに内通者までも居たとか? その学園はどうなっているんですか、本当に……」

 

「……。どうやら、今度の問題にはあの学園の歴史が関わっているらしいんだけど……」

 

「でしたらここに先生の望む情報は無いハズです。そういった系統の情報は……置かれないハズです」

 

「えっ」

 

「ティーパーティーを尋ねてみては如何でしょう? お、恐らくですけど、踏み入った内容であるなら、ティーパーティーで管理してるような気がします。ただの予想、ですけど……」

 

「……!」

 

「先生が知りたいのは、インターネットで1分2分調べたら出てくるような情報ではないでしょうし、ましてや、書籍になるほど公に明らかになっているような情報でもないはずです。そういう内容なら、古書館ではなく……図書室に行かれるのでは?」

 

「そう言われてみれば……そうかも?」

 

「でしたら、ティーパーティーの管理する図書館や資料室などを当たるのが賢明かと。ナギサ様などはまさにそうですが、近隣の自治区で大きめの事件が起きた場合、よく、調べ物をなさいます……」

 

「よく知ってるね……?」

 

「たまに、ほんのたまにですが、この古書館にまで来る事があります。ティーパーティーからの話は、流石に、私も断れませんから……」

 

「なるほど」

 

 ウイのアドバイスを元に、再度、考えを巡らす。

 普通に考えれば、学園の歴史を調べたいのなら、その学園の資料を調べるのが普通だ。

 しかしナルコのあの口振りから察するに、学園にある資料は──恐らくその内容が改竄されている。それも、生徒会こと失楽園(ダイモニオン・ソサエティー)の手によって。

 

 リエ達が資料を改竄した、とは言えない。恐らくリエの先輩──先代か先々代か、更に過去の生徒か皆目見当もつかないが。

 ちょっと調べた程度で掴める情報ではなさそう、ということくらいしか分からない。

 

「ありがとう、ウイ。助かったよ」

 

「い、いえ……私は何もしていませんので……」

 

 ◆

 

「──で、私の所に来たというワケだ」

 

「セイアなら、話が早いからね」

 

「その判断は賢明だよ。なにせ、君があの『ティーパーティー専用の図書館』に入った経験がある事を知っているのは私だけ。連れていくのは容易だし、再度、あそこに入らせるのも造作もない。私が君の恋人であるという事実を抜きにしても、ね。だが、ご存知の通りティーパーティーもそれなりに多くの生徒を抱えているんだ。今は実質的に私の貸切状態とはいえども、最低限の用心は肝要だろう。本来、君は立ち入り禁止なのだから。そして、そんな君と一緒に居れば、私まで罰則を受ける事になるね」

 

「もちろん、心得てるよ」

 

「言い訳の1つでも考えておこうか。そうだね──内容は『シャーレの先生への捜査協力』という事で構わないかな?」

 

「……恩に着るよ」

 

 こうして、セイアと一緒に例のティーパーティー専用の図書館へ入るに至る。

 そういえば、飂熾冘巫髏のトリニティ部隊幹部の時計クロノが、去年の補習授業部に所属していた事などもデータを纏めてあるとナギサは言っていた。あれは──ここの事を言っていたのかもしれない。

 

「ハドマ学園の歴史について、だったね? 他所の学園についてのデータはあまり多くは無いのだが、何故トリニティを選んだんだい?」

 

「何故、とは?」

 

「ハドマ学園といえば、かつてゲヘナ学園と姉妹校だった学園だろう? ならば、まずゲヘナ学園から調べるのが筋だと、私は思うのだが────いや、すまない。これについては、何も言うまい」

 

「あはは……」

 

 事件事故ばかりの修羅の自治区(くに)、ゲヘナ学園──書類の管理やらそういう事に関しては、風紀委員会くらいしかまともに頼れない気がしている。何より情報部長がサツキのようだし……。

 

 それに資料の客観性に欠ける気がする。万魔殿の威厳を示す為かは知らないが、マコトは己の権威を誇示するようなところがある。チアキの記事は既にイブキ特集専門紙になっているところもあるから、まだいいものの……。

 どちらにせよ、ゲヘナは、調べ物をするには少し向かない環境のように思えてならない。

 

 ……いや、ちょっと待て。

 もしかしたら──ゲヘナと実質的に敵対しているトリニティもまた、資料の客観性に欠けるのでは? アリウス分派を激しく弾圧し、追放し、あまつさえその歴史すら現代まで伝える事も無かったような、そんな歴史を経た学園だと言うのに。

 歴史について、客観性を以て資料を残していると断言できるのだろうか? 

 

 ……とはいえ、考えても始まらないか。

 ただ、ゲヘナの方も、後で調べてみよう。資料の客観性などは、それから判断すればいい。セイアの言う通り、まずはかつて直接的な関係を持っていたゲヘナに探りを入れるべきだった。これは反省だ。

 

「────見付けたよ、先生。まだ冒頭の部分しか目を通していないものの、先生が知りたい情報は、恐らくコレに載っているのではないかな?」

 

「さわりの部分しか見ていないのにそこまで察せるなんて、流石だね」

 

「因みにその『さわり』は誤用だよ。歌で言うならサビ、聞かせ所──要点やクライマックスのような意味が正しい」

 

「そうなの? 勘違いしてた……」

 

「言葉の意味は時と共に移ろいゆくものだからね。現在は誤用とされているが、この誤用が広まれば、そう遠くない未来、誤用ではなくなるのだろう──すまない、少し話が逸れてしまったね。とにかく、君が求めていそうなハドマ自治区──学園の歴史が記されている資料を見付けた。活用してくれ」

 

「ありがとう。早速、読ませてもらうよ」

 

「ところで。当のハドマ学園にある資料の方はどうだったんだい?」

 

「現存する分は前の騒動の時に全部目を通したよ。あまりにも失われすぎてたけど……」

 

 金庫が盗まれた時に荒らされた生徒会室。そしてレイコに破壊された学園。あの飂熾冘巫髏の騒動が痛かった。あの2大イベントで学園内の資料が喪失する事になったと言っても過言ではない。

 しかも、私が読めた「残った資料」さえも、信用ならない可能性があるならば……。

 

 ◆

 

「──うわ、何これ。扉が壊れてんじゃないのよ。まぁいいわ、リエ、入るわよ」

 

「まだ入室許可の返事をしていないのですけれど。それで、ご用件は?」

 

「アンタに頼まれてた、猫田ナルコについての調査報告。調査の結果、猫田ナルコは存在しない、って結論に至ったわ。恐らくは、ナルミがでっち上げた架空の生徒(いもうと)ね」

 

「……」

 

「それと、現場から見つかった爆発物の破片から、遠隔タイプの爆弾が使用された痕跡が見つかった。爆発に巻き込まれた可能性も一応あるから、内部の機構だかデータだかよく分かんないけど、復元して解析したらしいんだけど、通信を受けての爆発って記録が残ってた。十中八九、ナルミの仕業だわね。遠隔での爆破だから、爆発の時にシャーレの先生と一緒に居たっていう剣道部のアリバイは怪しいわ。ボタン1つ押すくらい、どこに居てもできるしね。それこそ、こういう人前だろうとね」

 

「……」

 

「……って、何よ、その呆れたようなジト目は?」

 

「いえ。猫田ナルコさんなら見ましたわ、昨日ね。その扉を破壊したのも、ナルコさんですもの」

 

「はっ? あたしらの推理が間違ってるっての?」

 

「ではお尋ねしますが、ナルコさんの仕業ではないどころか『存在しない』と言うのは何なのですか? 何を根拠に、そのような事を?」

 

「まず第一に『猫田姉妹が揃った状態で目撃された例が一度も無い』ってとこかな。3年1組と3組の出席簿を見て驚いたわよ。なんと──出席日の6割以上、2人は同日に出席してないの。片方が休めばもう片方が出席する──そちらが休めばもう片方がまた出席する──っていう風にね」

 

「6割以上、でしょう? ならば残り4割未満は、同日に出席しているのですよね?」

 

「ええ。でもそれは『同日に』であって、あくまで

『同時に』ではないみたいよ?」

 

「と、言いますと?」

 

「健康保全部から借りてきた、保健室の記録表よ。出席簿と併せて見て……何か、気付く事は無い?」

 

「──どちらかが保健室を利用した日には、必ず、保健室を利用した方が早退している──?」

 

「で、休んでたハズの方が、午後から出席してる。出席日数がほぼ変わらないのも、そのせいね。留年しないよう、欠席ではなく遅刻扱いにしてるのよ。この学園って、留年の判断基準に『遅刻』した数は関係ないからね……」

 

「いや──いや! それはおかしいですわ!」

 

「何が?」

 

「異なる学年で誤魔化すなら分かりますが、しかしお2人は双子! しかも我が校の受験は予備日など設けず、完全に1日のみで完結させる形式ですわ! 途中退室は認めるものの、途中入室は厳禁ですっ! つまり、2人が同学年という事は、同時に我が校を受験したという事! 有り得ないですわ!」

 

「あたしは、この件を調べてて初めて知ったけど。1年生の頃から失楽園の構成員として活動していたリエだったら、知ってるんじゃない? 忘れた?」

 

「何を、ですの……?」

 

「猫田ナルコ(・・・・・)は編入生よ(・・・・・)。だからナルミと同時には受験していないの」

 

「ッッ……!!!」

 

「今から2年前──つまりリエやナルミが1年生の夏休みを謳歌してる頃に編入試験を受けて、合格。ナルコは、1年生の二学期からハドマ学園で学生をやってるみたいね」

 

「編入……あっ!?」

 

「ま、生徒会の生徒とはいえ当時は1年生だしね。編入試験の用意や入学手続きとか、そういう事には携わらせてもらえなかったのかもしれないわね」

 

「……」

 

「しかも、ナルミは1組でナルコは3組。クラスが違うから、話題にならなきゃ知りもしないでしょ。わざわざナルミが言わなければ、あんたやシエル、リンコの居る1組では、話題にもならないはずよ」

 

「……ッッ……」

 

 そもそもハドマ学園は人間、天使、悪魔の全てが入り乱れる混沌とした学園。バランスも不安定だ。だからそれだけ、治安の悪さを憂いて近隣の学園に転校していく者は多いし、面白がって転校してくる生徒も少なからず存在する。

 

 ──要は、生徒の出入り(・・・・・・)が激しい(・・・・)、という事だ。そんなハドマ学園では、転校生なんか珍しくない。つまり、わざわざ本人達が口にしなければ、話題になんかならないのだ。

 そういった学園の空気が、上手く、隠れ蓑として機能したらしい。

 

「驚いたわよ、本当にね。当時のナルミの推薦状を見たら『スケバン上がりの荒くれ者の妹を、学園に通わせてあげたいと思った』──って書いてある。資金は、リンコの設立した会社で稼いでたみたい。こっちも既にリンコに確認済みよ。クラスメイトのよしみで働かせてあげてたみたい。外部でもバイトしているから、リンコの所で働くのはたまにだったらしいけど……」

 

 ツラツラと統治委員会でまとめ上げた資料を読むスズ。リエは、この時点で、既に目眩がしていた。

 存在しない人間を、あたかも存在するかのように扱い、ましてや別個人としてカウントしていたなどどのように認めればいいのか。

 

 管理が杜撰とか、そういう段階の問題ではない。ナルコを学園に受け入れたのはリエではなく、その先輩方。だからリエに責任は無い──お人好しならそう言いそうなものだが、現在の議長は、つまりは学園を統括する責任者はリエなのだ。

 全ての責任は我猛リエにある。そう糾弾されても仕方の無い事態に発展しつつある。

 

「で、第二に。不登校になった剣道部及び弓道部の連中の何人かに、話を聞いてきたわ」

 

「ッ!? 話を聞けたのですか? 何度も、私達もお話をしたいと言ってきたのに……」

 

「うん。頑なに口を開かないつもりだったからさ、ちょっとボコろうとしたらアッサリとバラしたよ」

 

「乱暴はいけませんわ!?」

 

「あの、話聞いてる? ボコろうとしたら、だよ。脅迫とすら言えないセリフを言っただけでアッサリ吐いたんだって。『ナルミに脅された』って」

 

「脅された? ナルコさんではなくナルミさんに? どちらにせよ、穏やかではないですわね……」

 

「内容は後で説明するとして、次、第三の根拠ね。10年以上前の、D.U.にある某病院の通院記録よ」

 

「ハドマ自治区ではなく、D.U.の……ですか?」

 

「ハドマにあるようなちっこい病院じゃあダメで、そこでしか診れない内容だったっぽいわね。病院の先生曰く『猫田ナルミさんは────」

 

 その瞬間。リエの背後の窓に1つの穴が空いた。銃撃かと察知し、即座に銃を手に取り、スズと共に戦闘態勢に入るリエだが。

 窓を挟んで遥か向こうにいたのは、和弓(ゆみ)を構える目付きの悪い銀髪少女──猫田ナルコであった。

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