「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「大丈夫リエ!? まさか銃撃!?」
「どうやら、襲撃……のようですわね」
「……ん? 何あれ、弓? ッ──!!」
スズは背後を振り返った。壁には、初撃の痕跡がありありと残っていた。弾痕ではない。そこには、矢が刺さっていた。窓1枚を突き破っても尚、壁に突き刺さる程の威力を誇っていたらしい矢が。
「あの目──先日お会いした『猫田ナルコ』さん、ご本人のようですが? スズさん?」
「ええ、確かにね。生徒手帳に使う写真を見たわ。ナルミは、クリックリのまんまるお目目。まるで、プリクラで加工でもしたかのようなモデル顔負けの大きな目だったわ。でも反対に、ナルコは見る者を射竦めるような威圧感モリモリの、ギラギラの目。そう、まるで戦闘時のレイコみたいな。そういう、結構な顔付きの違いがあの2人にはある……」
「だったら何故!」
「──その病院、心療内科と精神科なのよ、リエ。ハドマにはちょっとした内科くらいしかないから、わざわざD.U.にまで足を運んだってとこかしら」
「……え……」
そんな話をしていると、連続で矢が放たれるのが見えた。2人は窓の前から離れ、壁に身を潜める。パリパリパリンとガラス片が飛び散り、生徒会室を荒らしていく。怪我をせぬよう、2人は顔を覆う。
「ォォオオオオオオオオオッッッ!!!」
「────来るッ、離れて!!」
するとケモノのような叫びと共に爆弾の爆発音のような音を立てて壁が破壊され、木刀を肩に携えたナルコが、生徒会室に乱入してきた。人とは思えぬ跳躍力に、スズは口元をヒクつかせる。
「な……何階だと思ってんのよ、
「3階。飂熾冘巫髏の事件を経て再建された今回の第一校舎は、襲撃への対策も兼ねて、前と同じ1階ではなくこの3階に生徒会室を設置したんだろう? くひっ、ひひひっ! 無駄に終わったな♪」
「えぇそう、でもそんな所にジャンプで入ってくるなんて、どうかしてるわよ、あんた……!!」
「どうかでも何でもしてやる、お前らクソ天使からこの自治区を取り戻す為ならな……くひひっ!」
「あたし天使じゃないけど」
「言葉の綾だよ、うぜーな。ま、どっちでもいい。ラップのよーに透明で無駄に薄っぺらいその翼ァ、叩き切ってやるよ!」
「このッ……あのねェッ、戦いを挑むならせめて銃を持ってきなさいよ!」
「ナルミのアホが、バラしてメンテしたまんま放置してやがったんだよッ! 文句はナルミに言いな! お前の翼
言うなり、ナルコは木刀を構え床を蹴ってスズに肉薄──すかさず固有武器のSMG2丁を向けて、ナルコに向かって乱射するも、被弾を全く気にせず直進し続ける。
スズのサブスキルの効果である。彼女の攻撃力は時間経過と共に上がるものの、逆に言えば、序盤は攻撃力が全力の時に比べて極めて低いということ。
スズの場合はその差があまりに大きい。
実のところ、全力の時には当たればレイコですら一撃で倒せなくもない──が、序盤は、元七天魔で最弱クラスのアンナ、シエル、なんならヒーラーのアスカですらも倒せない程の、圧倒的貧弱さ。
七天魔をやっていた時期がスズとは被っていないものの、元七天魔であるナルコには相応の「勘」が備わっている。「戦闘の勘」と呼ぶべきものが。
スズの2丁のSMGは、平均よりも大きく下回る彼女の攻撃力を補う為の装備である──スズと戦う展開になるのはナルコにとっては初めての事だが、そのように仮定し、攻勢に出たのだ。
「でやぁぁぁああああっっ!!!」
「きゃっ……り、リエ! あんたも加勢しろっ!」
「わ、分かってますわっ……わ、わかって……」
後衛を務めるリエはナルコを撃ち抜かんとSRを構えるが、その手は、極寒の雪山に居るかのようにガクガク震え、照準を合わせられない様子だった。撃てばスズに、壁に、窓に当たるだろう。恐らくは狙った所になど当てられようはずもない。それ程、リエの身体には落ち着きと言えるものが無かった。
明らかに何かおかしい。スズはそう察知しつつもナルコのあまりの勢いに押されて、様子のおかしいリエには気を配る余裕が無かった。
「ほらほらどうしたんだ統治委員長さんよぉッ!? お仲間が居ないと押されっぱなしってかぁッ!?」
「〜〜〜〜〜ッッ、いつまでも調子乗ってんじゃ、ないわよッ!!」
「ぐふっっ……!?」
木刀による横払いをSMG1つで受け止め、もう片方でナルコの喉に向けて接射。荒くれ者を治める統治委員長であるスズは、こと「制圧」においてはハドマでも指折りの実力者だ。七天魔である以上は当然だ、と本人は思っているが……。
「『ナルミがメンテしたまま放置していた』だぁ? 寝ぼけたこと言ってんじゃないよッ! そんなの、ナルミがメンテしてたとこを、あんたが邪魔したんでしょうが!!」
「っ!?」
「本気を出した、あたしら統治委員会の調査力──侮らないことねッ! とうにタネは割れてんのよ、猫田ナルコ! ……いいや、
「はぁ? 何を言って……」
「しらばっくれても無駄、もう分かってんのよッ! 猫田ナルミは────」
◆
「──派閥争いって、いつの時代もあるんだねぇ」
「……そのようだね。遠い遠い先輩方の事とはいえ、頭が痛くなる。アリウスのみならず、他にも……」
「『派』としてはアリウス分派が筆頭っぽいけど、それより少数の『派』とすら呼べない少数の生徒はバラバラと自治区を出ていき……よそに流れた」
「結果として、現在のハドマ学園が完成したということなのだろう。しかしこれでは……」
「元トリニティ生によるハドマ学園の乗っ取り──普通に読んだらそういう風に思われても仕方ない、酷い書き方じゃないか」
「アリウス分派の事もそうだが、トリニティ生は、袂を分かつ事になったら一気に叩こうとする気質を有しているらしい。いや、勿論、全員がそうだとは断言しないが。校風、いいや、全体的な傾向とでも言うべきか」
「この書き方だと『我々との派閥争いに敗れた者、異なる思想を持つ者は
「実際、遠回しにそう書いているのだろう。恐らくこの本を纏めた時代には、現在なんかよりも遥かに激しくゲヘナと争っていたはず。総合学園としての流れに従わないばかりか、ゲヘナと懇意にしていたハドマに流れた元トリニティ生をも敵視するのは、当然と言えば当然さ」
ナルコの言いたい事が、少しわかった気がした。
かつてハドマ学園は、ゲヘナ学園と同様、悪魔と人間のみの学園だった。自治区も、民族性も近く、それ故にゲヘナ学園とは、姉妹校としてかなり強い繋がりを持ち、共に栄えていた。
そこに、トリニティでの権力争いに敗れ、または単に反りが合わずに自治区を飛び出した者がハドマ自治区に定着した。
が、トリニティでの派閥争いに敗れたとはいえ、その生徒はそれなりに優秀であった。その証拠に、ゲヘナのように荒れた校風だったハドマをまとめ、その者はやがて生徒会長として君臨する事に。
「直接的には書かれてないけど、ハドマ学園って、この頃から実力主義の学校だったっぽいね……?」
「短期間の間に何度も代替わりしているようだし、そうかもしれないね。恐らくは、ハドマと比較して遥かに大規模なゲヘナと、ほんの少しでも、対等な立場で居られるように──そういうシステムを導入したのかもしれないね」
「うん? どういう事?」
「ゲヘナは歴史あるマンモス校だ。どう足掻いても量では敵わない。しかしそれでは、姉妹校などと、ただの名ばかりのものとなるね。そこで、かつてのハドマ学園の議長は考えた。ゲヘナの圧倒的物量に対抗するには、または対等な立場にするには、我々ハドマ学園はどうすればいいか──とね」
「それで今の『実力主義』に傾倒していった、と? どうして…………まさか『量より質』ってこと?」
「そう。これが答えだ、とは言わないけれど、私はそう推測するよ。今より荒れていたゲヘナと対等な立場で居られた筈が無いんだよ、ハドマ学園がね。きっと良いように使われる事も多々あっただろう。それにも対抗したいと思っていた筈だよ」
表向きではゲヘナ学園と仲良くしつつも、水面下では少しドロドロしていた……のかもしれない。
時代遅れとも思える、ハドマ学園の「実力主義な校風」の由来が、圧倒的物量のゲヘナと対等でいる為の施策だとしたら、成程、上手くいっただろう。
実力主義にしてしまえば、権利を握る為に生徒は切磋琢磨する。しかもゲヘナのように荒事大好き、または荒事に耐性のある生徒ばかりがハドマに居るお陰で、「実力主義にする」という施策は、上手くハマったことだろう。
その結果として、生徒は思惑通り切磋琢磨した。量はゲヘナに劣るものの質はみるみる内に高まり、何度も何度も代替わりをしながら、その「質」を、現代まで維持──そして高めていった。
長い長い時が流れて現代に至って、針村ルーシィ率いる飂熾冘巫髏は、ほんの一時とはいえゲヘナを掌握できてしまった。
そんなルーシィがハドマで上り詰められたのも、実力主義な校風があってのものだろう。
「……ゲヘナの資料も見てみるべきだな、これは」
「そうだね。仲良くしていた時代の資料も、残っているといいが……とはいえ流石のゲヘナも、そこまでではないだろう」
「アハハ……」
そんなこんなでトリニティを出た私は、万魔殿のサツキに連絡を取って、ハドマ学園に関する資料を可能な限り用意してもらい……。
ゲヘナで「ナルコが天使族を敵視する理由」を、目の当たりにすることになる……。