「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「これは…………頭が痛くなってくるね……」
「経緯はどうあれ、最近になって、ハドマ学園との繋がりが復活したでしょう? それに伴って私達もあちらについて調べ直していた所なのよ。繋がりが深かった時代の事は、私達も知らないしね。だから先生のその申し出、とてもタイムリーだったわ♪」
「はは……」
「じゃ、
「もちろん……どうにかするよ」
サツキにハドマ学園に関する資料の用意をお願いしたところ、二つ返事でOKされた。そんな気軽にOKされるような事でもないだろうに──と、少々疑問に思いながら、トリニティからゲヘナへ直行。
サツキと合流し、風紀委員会のものとは雰囲気がまるで違う、万魔殿の資料室へ。風紀委員会の方に比べて高級感はある、しかし資料を引っ張り出した名残りなのか、あちこちに小さい山を作っている。シャーレの執務室の、私のデスクのようだ。まさか遠出してまで書類の山を見る羽目になるだなんて、本当に頭が痛くなってくる……。
万魔殿モブちゃん数人にも手伝ってもらいながらサツキと共に資料を閲覧。内容と時系列を追いつつ少しずつ整理していく。
先程の「ゲヘナに良いように使われる事もあっただろう」というセイアの推測は、見事的中していたらしい。
ゲヘナ学園がハドマ学園に資材やら何やらを調達させたような記載がチラホラある。
ならば、今のマコトのようなパターンはレアか。
マコトは、ハドマより
パシリのように顎で使ってきた、過去のゲヘナの議長とは、同じ「上から目線」でも全く違う……。
「何というか。なんやかんやで、マコトがトップで良かったよ……今のゲヘナは……」
「? どういう事?」
「言葉通りの意味さ。あとは風紀委員会とも仲良くしてくれたら言う事無しなんだけどね」
「ふふ、それは難しいでしょうね。有事の際には、分からないけど。……あら?」
「どうかした?」
「ううん。ハドマ学園、かつてはゲヘナ学園と似た環境だったってことは知ってたけれど。雑多な市民ではなく、よりによってトリニティの流入によって今のごちゃ混ぜの環境になったのねぇ。見る?」
「大丈夫。その頃の資料はもう見せてもらったよ」
「あら、そう? ならその後も既に知ってるのね」
「元トリニティのその生徒が、ハドマの実力主義な環境で頭角を現し、議長に就任した──でしょ?」
「ふふ、それもそうだけど違うわ、更にその後よ。その議長さんね、結構なゲヘナ嫌いだったみたい。そこでゲヘナとの繋がりを絶とうとした事により、遂に、両校を繋いでた姉妹校としての縁が切れた。関係の終わりにトドメを刺したのは、ハドマ生──いえ、元トリニティ生のハドマ生だったのね……」
「え」
「売り言葉に買い言葉、とでも言うべきかしらね。ハドマから絶縁を言い出したからって、それに乗る形でゲヘナの議長もそれに応じた。そうした結果、ハドマの創設から続く長きに渡る縁は『プツン』。唐突にブツ切りよ。まるで作者死亡による打ち切り漫画みたいにね」
「…………」
トリニティで見た資料は「ハドマ自治区へ流れた元トリニティ生が生徒会長として上り詰めた」との記載があった。そして話はそこで終わっていた。
しかし、これにはまだ続きがあったワケだ。
元トリニティ生がハドマ学園にて生徒会長として上り詰めた──が、
自治区も生徒の属性も近いが故に、学園の規模に大きな違いはあれども姉妹校として仲良くしていたゲヘナ学園にとって、トリニティは大いなる敵だ。
過去のハドマ学園は、そんな大敵・トリニティをよりによって「内部」に受け入れてしまったのだ。そればかりか、実力主義な校風のお陰でその生徒に生徒会長に君臨されてしまう始末。
こんな展開、ゲヘナにとって面白い事ではない。成程、確かに距離を取りたくもなるだろう。
そんな中、ハドマの頂点に立った元トリニティの生徒はゲヘナ嫌いで、ゲヘナとの繋がり、つまりは姉妹校としての繋がりを絶つ事を宣言。
ゲヘナとしても、ハドマに転校したとはいえ元はトリニティの生徒──そんな奴が頂点では面白くもないだろうし、良いようにも扱えないという事で、ハドマから言い出した「絶縁」を受け入れた……。
やがて、そんな歴史があった事実すらも生徒達に忘れられ……そして現代に至る。
そういった経緯を経て、かつてのゲヘナ学園から離れたハドマ学園は、天使、悪魔、人間の3種族が入り交じった学園へと成長したのだ。
ハドマ学園がそんな道を辿っている中、数年前のゲヘナ学園では、生徒会の
結果として後者は敗北──というよりは、抗争に友人を巻き込まれた盛宮モルモの手によって、壊滅させられた。
その後、ゲヘナから落ち延びた失楽殿の構成員はやがてハドマにて頭角を現し、生徒会を乗っ取り、組織の名を
「──これが本当なら、ナルコが天使に恨みを持つようになった理由は……」
「……? 何の話?」
「あぁいや、こっちの話だよ。気にしないで」
「先生の事だから大丈夫だと思うけど。まさかとは思うけど、また、ゲヘナ学園を巻き込むような内容じゃないわよね?」
「……大丈夫。そんな事にはさせないよ」
ナルコは飂熾冘巫髏に所属していた。そしてその飂熾冘巫髏は、ハドマ学園とゲヘナ学園との併合を目的としていた。
もし仮に両校が併合したなら、どうなるだろう? ハドマ学園に所属する天使の生徒はまず間違いなく迫害され、排斥されるだろう。そうなれば……。
ナルコの「時を戻す」というあの発言は、現在のハドマの環境を、ゲヘナと仲が良かった頃の環境に戻してやる、という意味なのかもしれない。
ゲヘナと併合するというルーシィのやり方とは、また別のやり方で。何らかの手段で天使を排斥することで、学園内の環境を悪魔と人間だけだった頃のハドマ学園に戻すつもりだ。
だが、それをするのは決して容易ではないハズ。今の七天魔は攻・守・回復の三拍子が揃っている。内乱を起こそうとも、そんな力までは無いはずだ。
しかしナルコ本人は、それを目にしていながらも本気で理想を実現できる気で居るのかもしれない。とすれば、何らかの「策」を用意していたとしてもおかしくはないだろう。
今のハドマ学園は、レイコが圧倒的「最強」だ。倒す手段を思い付けない程。レイコ以外の七天魔が団結して、どうにか「手が付けられるレベル」まで落ちるかどうかという、それくらいの超越的な力を有している。
一度とはいえヒナに勝てたレイコだ、他の七天魔6人が団結しようとも──というレベル差なのは、私も理解できる気がする。
だというのに、そのレイコがトップを張っているハドマ学園で内乱を起こすという事は、レイコへの対策を用意していると見ていいだろう。
ならば、その手段は?
正面からの戦闘で、レイコに勝てるハズが無い。キヴォトス人として、悪魔として、吸血鬼としても圧倒的に規格外な膂力、圧倒的な再生力。武器種を問わぬ総合力に、柔軟に対応できるアドリブ力──恐らく頭脳以外のどれを取ってもハドマでトップと言えるだろう怪物、それが博愛レイコという生徒。
それこそ、レイコを殺す気で襲わないと、きっと倒せすらしないだろう。…………
「────まずいッ!!」
「先生?」
「サツキ、もし可能なら資料のスキャン取って私の仕事PCに送ってくれるっ!? モモトークにも! じゃ、頼んだよっ!!」
「えっ、先せ…………
◆
「────ってワケよ! どう? 言い訳あんなら聞いてあげてもいいわよォ? 猫田ナルミッ!!」
その頃、ハドマ学園。猫田ナルミ──ナルコから襲撃を受けている生徒会室では。
調べた内容からアレコレ推理したスズが、それを本人に向けて披露していた。
それを聞いた本人は、真実である事を認めるかのように、ギリッと歯を食いしばり、親の仇でも見るような鋭い視線でスズを見据える。強く握るあまりミシミシという木が歪む音が木刀から聞こえる。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ……」
「その如何にもな反応……どうやら図星のようね」
「……お前、それ、もう誰かに言ったりしたか?」
「い〜え? この場で初めて口にしたわ」
「……」
「何考えてんのか分かんないけどさ、どうせあんた程度の実力じゃあ、あんたの考えなんか絶対に実現できやしないわよ。リエを敵視するような発言──リエというより天使族かな。大方、ハドマ学園から天使族を排斥したいとでも思ってるんでしょ」
「ッ!!」
「シエルやアンナ、レイコからも話は聞いてるわ。あんたが残した捨て台詞も。今の推理はそこからの推測だけど、あながち間違ってはいなさそうね」
「…………」
「何か申し開きがあれば聞いてやってもいいわよ」
「──申し開きだぁ? んなもんあるか。ペラペラ好き勝手喋ってくれやがって、良い気になってんな統治委員長。
「はんっ! トラウマなんざクソ喰らえよッ!!」
「抜かせ!!」
再びぶつかり合う2人。幸か不幸か、生徒会室はそこそこの広さがある。各委員会や部活の長を集め会議する事もあるという事で、生徒会室という名の大会議室のような広さになっている。故に、スズとナルコの戦闘も思ったよりしっかりと屋内戦として成り立っている。
「く、そ……チクチクとウザったいな……っ!!」
「あんたの攻撃なんざ、ちっとも効かないわッ!」
スズの属性は「貫通/弾力装甲」である。対するナルコの属性は、スズの攻撃の効き具合から見て、恐らくは「爆発/重装甲」である。
そう、ナルコにとってスズは極めて相性が最悪な相手なのだ。ナルコの攻撃は半減するのに、スズの攻撃は倍となって彼女に刺さってしまう。
そのスズは連射力に優れるSMGを使っていて、しかも、ダメ押しとばかりに2丁持ち。その上で、時間経過と共に攻撃力が高まるというオマケ付き。
ナルコにとってスズは、極めて最悪な敵である。
────あくまで、
「チッ。このままじゃジリ貧だな……」
「ええそーよ、大人しくなさいっ!!」
「そーだな…………大人しくすっかね」
「!?」
ぽい、と木刀を放ったかと思うと、その場に腰を下ろして目を閉じる。あまりにも堂々とした姿に、逆に警戒を強めるスズ。
「────ハァッッッ!!!!」
「ッッッッ!!??」
逆に警戒を強めたのが功を奏したのか、文字通り目にもとまらぬ速度で動いたナルコの攻撃をまさに紙一重で回避する事に成功。
無造作に床に放り投げられていたハズの木刀は、再び彼女の手の中に納められている。
そして剣道部らしく真っ直ぐに構え、真っ直ぐにスズを見据えるその目に、スズは背筋を震わせた。どこからどう見ても、これは、ついさっきまで対峙していた
「やっぱり、あんたは……!!」
「よく分かったね。統治委員長、鐘蟲スズ。そう、私は猫田ナルコであり猫田ナルミ。ナルミであってナルコでもある。私の
「何度かあった────これまで退部して不登校になってしまった剣道部、弓道部の部員達の事ね?」
「そう。やっぱり、接する時間が長いとバレちゃう可能性も高まるでしょう? 天使をハドマ学園から消す為に同志を募っていたのに、私の事がバレちゃ元も子もないからさ。仕方ないからナルコに頼んで口を封じてもらってたの」
「口封じってまさか……何人かはもう手に掛けたって言いたいの!?」
「殺してないよ。流石にそれは
「っ、やめなさい! 具体的に何を企んでるのか、吐いてもらうわよッ!!」
「バカね。どーして、ナルコに比べてパワーの劣る私が出てきたと思ってるの?」
「!?」
「……
「待っ」
侵入の際に破壊された事によって生まれた穴から目を瞑りながら飛び降りる。もしもナルコであれば追い付けただろうが、ナルミは妙に速く、スズでもまるで追い付けず、そのまま3階からの飛び降りを許してしまった。
スズも追って飛び降りようとするも……。
「なンかあったぁ?」
「リエ、大丈夫!?」
「爆弾でも投げ込まれましたかっ……?」
「!」
レイコ、シエル、アンナの3人が現れた事によりスズの足が止まる。
そして、この一瞬だけレイコ達の方を振り向いただけだと言うのに、もう一度校庭の方を見ると既にナルミの姿は無かった……。