※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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第11話:心傷

 

「──いい? 『猫田ナルコ』なんて女、この世に存在しないのよ。猫田ナルミの自作自演。アイツは所謂、二重人格ってヤツなのよ」

 

「「…………えっ?」」

 

 スズの言葉に、私とリンコは息を呑んだ。まさか別個に存在していたハズの生徒が同一人物だなどとそう簡単には信じられないからだ。

 しかも二重人格なんて、そんな事があるのか──いや、私は似たような例を既に複数知っている。

 

 ゴルコンダとフランシスだ。確か、二重(・・)人格かはまだ詳細が不明であるものの、マエストロの言葉を信じるならば、少なくとも、あと1つは別の人格があるような事を言っていた。

 そして、アリスとケイ。人工の存在であるが故に二重人格と言っていいかは疑問が残るが、分離前のアリスとケイは、見方によっては二重人格のような関係だったと言える。

 

「人格が切り替わる瞬間はあたしとリエが見てる。多分だけど、目を数秒閉じるだけで、人格の交代が可能なんだと思う。しかも、あの口振りからして、ナルミとナルコの記憶はほぼほぼ共有してるわね」

 

「ウソ……そんな事ある……?」

 

「ナルミとナルコ、どっちが主人格か分からない。とりあえずナルミっぽいから、暫定的に、ナルコが第二の人格として仮定してるわ」

 

「別の人格とかじゃなく、ナルコが、ナルミという架空の人物(キャラ)を演じてる可能性は?」

 

「可能性は低いわね。有り得るとしても、その逆の

『ナルミがナルコを演じてる』の方かもね。多分、いや十中八九、ナルミが主人格よ」

 

「その根拠は?」

 

「D.U.シラトリ区のとある心療内科、及び精神科に通院記録があった。猫田ナルミの名前でね。だから主人格はナルミだと仮定してる。病院でも『解離性同一性障害』って診断されてるわ、小学生の頃に」

 

「そんな……。でも、どうしてD.U.の方まで……?」

 

「剣道部、弓道部を退部して不登校になった奴に、話を聞きに行ったの。そうしたら、皆が口を揃えてこう言うの。『アイツは頭おかしい』『一人二役のように陰で喋っている時があった』って」

 

「そこまで言うって事は、どう見ても通話ではない感じだったんだね?」

 

「多分そうね。あたしはよく分かんないけど、心の病気だって統治委員の部員が言うからさ。だけど、ハドマにそういう系統の病院は無いし、とりあえずネットで調べて、そういう系統の病院を、虱潰しに探させたの。で、D.U.の病院でナルミの通院記録がヒットしたワケよ」

 

「まさか、その子達が不登校になった原因は……」

 

「お察しの通り。ナルコ、またはナルミと喋ってる所を見られた、聞かれたと察知したナルミ、またはナルコは、口封じの為にその子をボコボコにした。そして不登校に追い込み──退部届を代筆し提出。本人達は、自分達が部活を退部してる状態だと全く知らなかったわ」

 

「そんな……」

 

 リンコとスズのやり取りを聞いていて、少しだけ疑問に思った事がある。シエル──つまり生徒会の生徒からも「教えてくれないだろう」と言わしめた不登校の生徒からの「話」を、どう聞き出したか。

 

 スズは常識もあるし、言動は粗雑な所もあるが、不登校の生徒を更に追い込むようなマネはしない、ハズだ。私はそう信じている。

 しかしそれなら、生徒会すら匙を投げた生徒への聞き取り調査を、どのように実現したのか……? 

 

「何でそんなに調査できたの、って顔してるわね? 先生?」

 

「えっ。……あー……近い事は思ってる、かな……」

 

「単純な話よ。『言わなきゃ分かるわよね?』ってちょっとだけ脅しを掛けたのよ」

 

「「うわぁ……」」

 

「んなっ!? リンコまで引くことないでしょ!? あんたも必要とあらば似たような手を使うでしょ! そんなあんたにだけは引かれたくないわ!」

 

「まーそーかもだけどさー……」

 

 口を「3」のようにしてブー垂れるリンコ。少しクスリと笑ってしまいそうになったが、笑っている場合ではないと思い直した。

 

「それと、ここだけの話ね。多分、リエ、ナルミに酷いトラウマを刻まれてるわね。正確には、ナルコモードのナルミに、だろうけどさ」

 

「「!?」」

 

「あたしがナルコモードのナルミと戦ってる時さ、リエ、援護しようとしてたのよ。でも、手が震えてまともに照準も合わせられない様子だった。なんかおかしいと思わない?」

 

「確かに。リエ、ビビりでも何でもないよね?」

 

「そこで、よ。ね、リンコとリエって同じクラスのハズでしょ? プールの授業ん時、リエの背中(・・)──見たことある?」

 

「……。2年(・・)の頃から同じクラスだけど、無いかな。プライベートでの水着は分からないけど、授業中のリエ、上半身も綺麗に隠すタイプの競泳水着だし。1年の頃から一緒なのはシエルだったハズだから、シエルに聞いた方が早くない?」

 

「多分そうだけど、それは置いといて。──でさ、リエって、人間じゃなくて天使のハズでしょ?」

 

「まぁ……翼が無い天使も居るんじゃないかな?」

 

「ええ、確かに居るかもしれない。でもそれはリエじゃない。──多分、リエ、翼をヤラれてるわよ。時期は恐らく1年生の頃ね。あたしが入学した頃、既に翼は無かった。だからもし翼持ちだったなら、失われたのは1年の頃だわ」

 

「……。どうしてリエに翼があったって思うの?」

 

「ナルコモードのナルミ、あたしの翼を切り落とすような攻撃ばかりして来たの。トラウマがどうの、翼持ちがどうの、って、やたらそれに執着してさ。思えば、リエの様子がおかしくなったのはそれからだったかも。だから、リエがそのトラウマ持ちって推測してるわ」

 

「ほへぇ。スズらしくないくらい筋通った推理だ。ルビーに考えてもらったんじゃないの〜?」

 

「バッ、違うに決まってんでしょーが! あんなに執拗に翼を狙われたら、バカでも察せるってのっ! てか先生! 先生はリエの背中、見た事ないの?」

 

「無いけど……どうして?」

 

「どうしてって、そりゃ、どうせリエともセックスしてんでしょ? それなら、背中を見る機会くらいあるでしょ」

 

「……リエとはシテないよ」

 

「え。……ごめん、意外だったかも……」

 

「そだね、意外かも。エッチな事に興味無さそうな生徒でも篭絡するのが先生だと思ってたから」

 

「君達は私を何だと思っているの……」

 

「「淫行教師でしょ」」

 

 もう、溜め息しか出なかった。事実だから否定はできないし、するつもりも無い。かと言って、面と向かって淫行教師などと言われてしまうと……。

 

「────って、何の話だっけ」

 

「『ナルミ=ナルコ』で、双子ではなく同一人物の可能性が高いって話。でも、この学園って受験日は1日だけだから、やっぱり別人じゃないかなぁ?」

 

「それリエも言ってた。で、リエにも言ったけど、ナルコは編入生だから、ナルミや他の受験生達(あんたら)とは同時に受験してないの。1年生の2学期からココに通ってる扱いなのよ」

 

「うわっ、そうなんだ? ナルコとは同じクラスになった事ないから知らなかったよ。それでなくともハドマって転校生が多いしね……」

 

「出るのも入るのもね。だからこそ、それが上手く隠れ蓑として機能したんでしょ。姉妹や双子だってそんなに珍しくもないしね」

 

「テンちゃんがもしポニテやサイドテールやめたらフツーに私っぽく見えるしね。目付きは悪いけど。あぁ、ナルミとナルコもそうか〜……」

 

「かもね。それで、同一人物って疑われる事もなく一人二役の学生生活を送ってたんでしょうね。あ、出席簿も矛盾は無かったわ。同日に出席してたら、午前と午後で入れ替わってるとか、そんな感じね」

 

「……じゃ、早退してたんじゃなかったんだね……」

 

「えぇそう。ナルミが早退してた頃、何食わぬ顔でナルコとして3年3組の授業に出席していたのよ」

 

「うーん。まさか私が騙されるなんて。ちょっと、それもショックかも」

 

「普通、二重人格だなんて誰も疑わないわ。双子や姉妹なんてよく居るんだから、疑いようもないし。仕方ないわよ」

 

「うーん、スズに慰められるの何かヤダなぁ」

 

「どーゆー意味よ、それはァ……」

 

 リンコも、流石にしゅんとなってしまっている。ここ数時間、数分の間に、悪い事があまりに連続で続き、悪い知らせが入り続けている。リンコでさえグロッキーに近くなるのは仕方ないかもしれない。

 

「……あ。ごめん、リンコ。修繕してほしいところが1ヶ所あるんだけど」

 

「うん? どこ?」

 

「3階の非常階段のドア。鍵閉まってたから、銃でブチ抜いてきたんだ」

 

「ええ〜……先生って意外とアグレッシブだよねぇ。分かった、後でやっとくね〜」

 

「先生、非常階段から来たんだ? てっきり普通に昇降口から来たものだと思ってたわ」

 

「そのつもりだったけど、昇降口がごった返してて入れそうに無かったんだ。非常時とはいえごめん。お手数お掛けします……」

 

「ううん、いいよそれくらい。せいぜい、鍵部分やドアの交換くらいでしょ? 誰かさんが暴れた後の壁の補修とかより全然、楽勝楽勝♪」

 

「あたしへの当て付けかしら?」

 

「ナルミの事だよーん」

 

「うっざー……」

 

「ドア交換くらいなら、わざわざ私やテンちゃんがやるまでもないね。部員の子達に連絡しとこっと。とりあえず私は──アンドロイドリンコでナルミを捜索しつつ、休もっかな。スズはどうするの?」

 

「あたしは──あっ!? あたしは凶器についての話を聞きに来たんだったわ。解析を終えたのよね? なのに、なに無駄話してんのよ、あたし……!」

 

 私もリンコも、苦笑しか返せない。そうだった、私達も忘れていた。その為に私達はナルミの依頼を受注したという証拠の帳簿を探しつつ、ここで待機していたのだから。

 

「凶器の製作者は私……と、ナルミだね」

 

「は? あんた、ナルミに武器を提供したの?」

 

「違う違う、最後まで聞いてよ。元々ね、練習用の矢の製作を頼まれたの。金属製じゃなく、木製の。白がいいって言って、白樺の木まで用意してきての依頼だったから、依頼通り白樺の木を削り出して、矢を作ったの」

 

「矢って、あんな変な形してたっけ?」

 

「鏃の部分は後付けだね。よく見て。写真なら拡大できるから見えるでしょ。別の金属を上から被せて圧着した痕跡があるの分かるでしょ?」

 

「うーん……血で見えないわ」

 

「この鏃は銀のナイフを加工したモノなの。銀食器一式を頼まれた事があってさ。ナイフだけを頼むと怪しまれるから、スプーンやフォークなども含んだ食器一式を依頼してきたんだと思う」

 

「つまり、どういう事よ? 矢に、ナイフの先端をくっ付けた、って言いたいワケ? 何の目的で?」

 

「殺す為」

 

「……ッ!!」

 

「ほら、私達って銃弾あんまり効かないでしょう? 矢も似たようなモノで、当たっても痛いだけなの。だけど、その点、刃物は違う(・・・・・)でしょ(・・・)?」

 

「明確な殺意がある──ってことか。矯正局へ送致するには、十分すぎる要素だわ。でもどうして銀と白樺なのかしら。ナルミの拘り?」

 

「吸血鬼の弱点だからね。御伽噺の中の話だけど、強大な吸血鬼を倒すには弱点を突く必要があった。魔物への特効を持つ銀の弾丸(シルバーブレット)だとか、心臓を白樺の杭で打って封印する、とかね」

 

「レイコは弱点無しだったハズだけど?」

 

「うん、銀の弾丸(シルバーブレット)で倒したり杭で封印とかって話はあくまで『御伽噺』だよ。レイコに弱点は無いよ。御伽噺関係なくシンプルに心臓を刃物で突かれれば死ぬでしょ」

 

「ついでに、矢を杭に見立てたってワケね。フン、気持ち悪い。天使どうこう言ってたクセに、天使に手を出さずにレイコを殺す気満々じゃないのよ」

 

「目的を達成する上で、レイコが一番の障害だからじゃないかな。やっぱり、レイコはハドマの誰もが認める、文字通りの『最強』だしね」

 

「ちっ……『最強』が殺られてちゃ世話ないわ……」

 

「凶器の説明は以上だよ。他に何か質問は?」

 

「今んとこ特に無いわ。また何か分かったら、すぐあたしに連絡して。ナルミを見つけた場合にもね。じゃ……ゆっくり休んで」

 

「はいはーい。スズもお疲れ様〜」

 

 メモをまとめたスズは小走りで工場を出ていく。

 私ももう、ゆっくり休みたい。何だか、まだまだ昼間だというのに……かなりヘトヘトだ。

 身体は大して疲れていないハズなのに、心は今に崩壊しそうなくらいにヒビが入ってしまっている。ナルミに騙されていたというのも大きいが、やはり何よりレイコの死だろう。未だ、信じたくはない。

 

 博愛姉妹といったレイコの親族に、ルーシィやらライムといったレイコの幼馴染に、クロノやマトイなどの元・飂熾冘巫髏のメンバーには言いにくい。隠していてもいずれバレる事だろうが、言えない。言えるワケがない。

 

 喪主など務めたことがない。というより、生徒が亡くなった場合、誰が喪主をやるのだろう。確か、レイコに親は居なかったハズだが。年上の従姉妹のレイアだろうか……? 

 葬儀社などを手配すべきなのか、それとも……。

 

「お通夜状態……ってのが、冗談に聞こえないね」

 

「この状況でそれを言う子が居たら、流石の私でも不快な気持ちを隠せそうにないかもね。タチの悪いジョークだ」

 

「あはは、先生でさえそうなるかもしれないんだ? でも、そうだよね。多分、私もそうなるかも」

 

 そんな会話をする事自体が不謹慎に思えるが──まぁ、何でもかんでも不謹慎だなどと言っていては何も始まらないだろう。

 

「──にしても、リンコ。妙に吸血鬼の生態とかに詳しいようだね。私もかなり詳しい方だと思ってたけど、ビックリしたよ」

 

 キヴォトスにおいて、吸血鬼といった存在自体が半ば伝説化しているというのに。御伽噺からの引用だけではなさそうな、真に迫るものがあった。

 

「そりゃあ、ハドマ学園で一番多く吸血鬼を擁する技術開発部の部長だしね。弱点も好みもバラバラな彼女達を纏める為に、色々調べまくったんだから」

 

「どうして技術開発部に吸血鬼が集中しているの? 私の知る限り、レイコ、ルビー、ヒトデ以外の子の大半が技術開発部だったような気がするけど……」

 

「んふふ、それはね? 多分だけど、私がレイコに次いで強いから……じゃないかな☆」

 

「!」

 

「レイコはルーシィに、ルビーはスズに、ヒトデはサラに魅せられた。その他の子は私にってワケ☆」

 

「成程……」

 

「先生も知っての通り、吸血鬼の子って、何故だか強者に従う性質っぽいからね。飂熾冘巫髏時代に、ゲヘナ部隊幹部としての私の強さを見てきたから、レイコに次いで私に従うようになったんじゃない? 予想だけどね」

 

「………………ひょっとして、リエよりも強いの?」

 

「ふふっ。先生は……どっちだと思う?」

 

「どっち……って……」

 

 私を試すようなニヤけた表情の彼女を前にして、私は言葉も思考も止まってしまった……。

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