※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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第12話:四つ羽(よつば)の天使

 

「────先生が私に話があるって珍しいじゃん。しかもわざわざ教室で、2人きり。久しぶりだし、期待しちゃうじゃん♪」

 

「そんな事、思ってもないでしょ」

 

「んふふ……まーね」

 

 スズと話していて、リエについて知りたいコトが幾つか出てきてしまった。しかしトラウマについて聞くのは憚られるので、リエ本人ではなく、彼女の幼馴染らしいシエルに聞くのが早いと思い、彼女に話を聞くことにした。

 

 簡単な挨拶と、互いに心のこもっていない会話を一言二言だけ重ねると、椅子ではなく机に座って、可愛らしくサイドテールを揺らして小首を傾げる。

 

「それで話って何? 今、リエに頼まれてナルミの捜索してるとこなんだけど」

 

「そのリエについて、知りたい事があって。リエと長い付き合いでしょ? 良ければ、教えてほしい。それに、ナルミの問題を解決する手掛かりにもなるかもしれない」

 

「不知火カヤの件で先生に不信感を抱いている私にわざわざ聞くってことは、リエ本人には聞きにくい内容なんだよね。それくらいは想像つくよ」

 

「察しが良くて助かるよ」

 

「別にいーよ。話せそうな事なら、話してあげる。どうせ私が断っても、私やリエのクラスメイト達に尋ねられたら同じ事だもんね?」

 

「そうする手間が省けるなら有難いよ」

 

「リエの、何について知りたいワケ?」

 

「翼──トラウマについて」

 

「!」

 

 リエに聞きにくい理由を、察したのだろう。少々おちゃらけていた雰囲気があったが、一気にそれを引っ込め、真面目そうな顔付きになった。

 

「これはただの推測だけど。リエには翼があった。でも何らかの事件か事故で翼を失うことになった。しかもその事件か事故にはナルミ──正確に言えば

『ナルコ状態のナルミ』が深く関係していてリエはそのせいでナルコがトラウマになっている────どうかな?」

 

「驚いた……ほぼ合ってるよ。ルーシィの推理?」

 

「ううん、スズの推理」

 

「スズの!? じゃあルビーの推理か……」

 

「本人はルビーの関与を否定してたけどね」

 

「えぇ……スズってここまで頭良かったっけ……」

 

「それは今はどちらでもいいとして。『正解』を、君の口から教えてほしい。リエの事なら、ハドマの誰よりも知っているでしょう?」

 

 シエルは、普段は制服だが、白ロリータでリエとペアルックするくらいには仲が良いのだ。何なら、デキてるんじゃないかと思ってしまう所もある。

 

「──簡単に言えば、翼をズタボロにされたのよ。ナルコの手によってね」

 

「!」

 

「翼ってのは、繊細でさ。例えば腕や足のように、骨折しました、ならボルトで固定しましょ──ってできる部位じゃないの。ちょっとした骨折とかは、ギプスみたいなので固定して自然治癒力に任せる、なんて方法もできるけどさ。だけど……」

 

「……だけど?」

 

「これが、開放骨折だの粉砕骨折だのとなるとさ。腕や足でも手術が必要になるでしょ。でも、それが翼だとさ、そうもいかないんだ。程度によるけど」

 

「繊細な部位だから……って事だね」

 

「そういう事。下手すると、切除しかなくなるの。指ほど単純な作りでもないからね、翼。粉砕骨折の後は変形したまま癒合する事もあるって言われてるくらいだからね。それが翼ともなると、下手すれば指より細い部分がある分、そうなりやすいんだよ」

 

「……成程……」

 

「その結果、翼を切除する事になったのが1年生の二学期頃のリエね」

 

「!!」

 

「リエって、マジの天才児でね。1年生の一学期、つまり入学の直後から七天魔の一員だったんだよ? それで二学期開始して早々、ナルコが入れ替え戦を申し込んできたの。リエに対してね」

 

「その戦いの場で、翼をダメにした……と?」

 

「そ。でも、あまりに過度な暴行って判定されて、リエvsナルコの入れ替え戦はノーゲーム。ついでにナルコは1ヶ月くらい停学を食らってたね。当然、ノーゲームだからナルコは七天魔にはなれないし、リエは七天魔続投って事になったの」

 

「それで、その時の『過度な暴行』やナルコの事がトラウマになったと。そういう事だね?」

 

「そゆこと」

 

「……あれ? でも、ナルコも七天魔になった経験があるんだよね? 視察の時にそう聞いたけど」

 

「よっぽど七天魔の特権が欲しかったんだろうね。停学明けに早速、入れ替え戦を申し込んできたよ。でも、その時にはリエじゃなくて他の生徒だった。今思えば、またリエを相手にすると憎悪で歯止めが効かなくなるから、次は敢えて別のヤツを選んだのかもしれないね。ただの想像だけどさ」

 

「その時の入れ替え戦でナルコは七天魔になり──ナルミと共に剣道部、弓道部を創立したってこと? ナルミは、どのタイミングで七天魔になって部活を創立したの?」

 

「ナルミは、その年の夏休みに入る少し前くらいに七天魔に加入して、その時に剣道部を創立したの。因みに、剣道部はナルミ、弓道部はナルコの名義で創立されたんだよ。七天魔と言えど、1人で何個も部活を作るのはダメだからね」

 

「でも剣道部と弓道部って2つで1つじゃない?」

 

「そう、弓道部の設立から間も無く統合されたの。部長同士が合意すれば、何にも問題は無いからね。部員がそれについていくかは別問題だから生徒会は特に関与しないし。当然、部費は少し減るけどね」

 

 そうか。学校の資金で道具を揃える為に剣道部と弓道部を別に創立し、必要なものをある程度揃えてそれぞれの部を統合──そうする事により、予算は少々減るものの「剣道部と弓道部」の二足の草鞋を別々に履く事なく、同時に履けるようにしたのか。

 

 二足の草鞋を履く方法は、2つある。

 まずは誰でもやる方法。「履き替える」ことだ。そしてもう1つ、「上から履く」。

 ナルミ(ナルコ)は、部を統合する事によって、二足の草鞋を同時に(・・・)履く方法を実現したらしい。

 成程、部を統合してしまえば管理する手間だって一本化できるのだから、色々と楽になっただろう。

 

「──どうして、七天魔になりたがったんだろう? 部や委員会を創立する事自体は七天魔じゃなくてもできるハズだよね? 今は改名されたけどアスカの美食研究会対策委員会はまさに、アスカが七天魔になる前からあったハズだ」

 

「手続きがクソ面倒だからじゃない? 生徒会とか七天魔だとほぼ二つ返事でOKされるんだけどさ、そうじゃないと、クッソ面倒な手続きを踏む必要があるんだよね。時間も掛かるし」

 

「成程。じゃあ本当にそれだけが目的なのか……」

 

「そうじゃない? 少なくとも、それ以外の特権を求めてたワケじゃないんだと思うよ」

 

「どうして?」

 

「だってさぁ、飂熾冘巫髏の騒動があった頃のこと考えてもみてよ。自分で言うのもアレだけど、私やアスカが七天魔だったんだよ? 特権が欲しくて、尚且つ腕に自信があるなら、私とかアスカなんて、まさに狙い目じゃん?」

 

 うん、と言いにくいが、確かにそうだろう。現にテンコやサラはシエル、アスカを引きずり下ろして七天魔に昇格している。

 もし本当に特権が欲しいのなら、スズとある程度互角に戦え、スズから逃げられるナルミやナルコの実力で、七天魔に復帰しない理由は無いと言える。

 何なら、七天魔に加入することで、ハドマ学園を中枢から混乱に陥れられるとすら言えるだろうに。

 

 つまり、あくまでスムーズに部活を創立するのが目的でそれ以外の七天魔の特権が目当てではない。なので、七天魔に復帰できそうでも、復帰しない。もう求めるものは無いから……と。そういう事か。

 少しだけ、分かってきた気がする。

 

「……リエさ、ホント、凄かったんだよ? なんか、懐古厨みたいになっちゃうけどさ……」

 

「そうなの?」

 

「4枚も翼があってさ。重厚で荘厳なその見た目を裏切らない超越的な実力、それを笠に着たりしない謙虚さ、丁寧な物腰。惚れ惚れしたよ……本当に」

 

「4枚!?」

 

「そう、4枚。見た事ある? 私はまだリエのしか見た事ない。こう見えてもトリニティ出身なのに」

 

 トリニティにはよく出入りする。仕事でもそう、生徒との逢瀬でもそう。とにかくよく行く。恐らくトップクラスによく訪れる自治区だと言える。

 それでも4枚の翼を持つ生徒など、コハル以外に見た覚えが無い。そのコハルでさえ、頭に一対と、背中に一対という生え方なのに。

 

 4本の角だったら、覚えはある。ヒナやマコトは確か4本の角だったハズ。しかしそんなゲヘナでも4枚の翼なんて見た事は無いような気がする……。

 

「リエは頭も良くて、気品もあって、戦闘も強い。近くに居ると安心もするし、どこか幸せな気持ちになれるんだ。そんな所から、四つ葉のクローバーに準えて付けられた渾名が『四つ羽(よつば)の天使』。本当、リエにピッタリな呼び名だったよ」

 

「ナルコと別のクラスなのは、学校側の配慮かな? だけど、ナルコと同じ顔のナルミと同じクラスで、よくトラウマが常にフラッシュバックしないね」

 

「リエって、割り切りがしっかりしてるというか、キッチリと区別つけられるからね。ナルミとだって普通に接してたよ。それがまさか、同一人物だとは思わなかったよ。アイツどの面下げてリエと普通に喋ってたんだろ、私がアイツを殺したくなる……」

 

「それは絶対にやめてね。シエルの事まで矯正局に送りたくないよ」

 

「へぇ? ナルミの事は矯正局に送るつもりなの? 大好きなレイコを殺したから?」

 

「そうだよ。だけどレイコだからじゃない。殺人はやり過ぎだ。彼女が何を考えていようと、何を計画していようと。殺人というその手段だけは、絶対に許されるものじゃない」

 

「ま……それもそーだね」

 

 フッ、と小さく笑うと、シエルはひょいと机から飛び降りる。

 話も一段落した、気になっていた事もある程度は知る事ができた。シエルに礼を言い、とりあえず、この場は解散することにした。

 

 何故ナルミがそこまで天使を憎んでいるかはまだ推測程度しかできやしないが、少なくとも、ハドマ学園に入学する前から憎んでいるのは分かった。

 もっと、あらゆる角度から調査を進めなくては。

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