「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「──そんなこんなで、レイコは仮死状態から復活しているってワケ。レイコの治癒力が異常に高くて良かったね、ナルコ。殺人犯にならずに済んでさ」
「〜〜〜〜〜〜〜ッッ……!!」
「あぁそれと。君がレイコを仮死状態に追い込んだ事実を知っているのは私、リエ、シエル、アンナ、スズ、ルビー、サラ、ヒトデ、リンコ、テンコ──たったの10人だけだよ」
モルモは計上しないでおく。
「私本人を入れて11人ね」
「そうだね。──とにかく、ハドマ学園の生徒達の大半は、君がレイコを打倒した事実すら知らない。君の『最強を打倒する事で、天使は自分から学園を去るように促す』という野望は潰えたんだ」
「そーゆーことっ! 大人しく私の『お礼参り』を受けることねっ!」
「ッ、放送室さえジャックしていたなら、あの場でレイコ打倒と天使虐殺を宣言できたのに……!!」
「それも無理だと思うよ。リンコ達が、ハドマでの最高峰のセキュリティを敷いてるから。並の腕では放送機器を遠隔起動させる事すらもできないかな。飂熾冘巫髏の事件を経て色々と対策したらしいよ」
「ッッ……!!」
「さァ、カモ〜ン?」
「くっ……!!」
「ああ……ッ、上等だ、やってやるよッ!!」
「威勢は十分。だけどねェ、夜の女王たるこの私に敵うと思わない事ね!」
背負っていたARを私に押し付けてくるレイコ。それを見たナルコはピクリと眉を釣り上げ、怒りを露わにする。
「素手だと? 舐めやがってッ!」
「あんたくらい、素手で十分だっつーの。この私の吸血鬼CQC、甘く見ないことね!」
「せいぜい天狗になってろ! 武器を使うは人間の叡智──リンコに作らせたコイツで今度こそお前をブチ倒してやるよッ!!」
この後めちゃくちゃナルコはボコられた。
◆
そして数時間後──つまり翌朝。
七天魔をはじめ事情を知るメンバーが生徒会室に集められ、床の上で直に正座しているナルコの事を全方向から取り囲んでいる。
そのナルコの顔は赤黒く、場所によっては青黒く腫れていた。しかも、その首には「私はレイコ様に逆らい余裕でボコられたクソザコヒトカスです」と書かれた札が掛けられていた。
全く、容赦ない。きっと、ナルコは不機嫌そうな顔をしているのだろうが、顔が腫れすぎており表情なんか微塵も読めやしない。恐らく、エリドゥにてネルにボコられたトキより悲惨な顔になっている。折角の美少女顔が……。
「それで、レイコさん? 私達を呼んで、どうするつもりですの?」
「あ、うん。コイツの処遇を話し合お〜と思って。まぁ、みんな、もう大体は決めてるっしょ?」
「それはまぁ……ザックリとは……」
「フンッ、当然よ! ね、ルビー!」
「ですね」
「そ。言わずとも分かるって感じね。じゃ、判決を言い渡しまーす。被告、猫田ナルミ及びナルコは! 無罪とする! これまで通りハドマ学園にて勉学に励み、私を倒せるくらいに力を高め、クソ真面目に精進するように! ……的な?」
「……え?」
「……は?」
得意気に放たれた彼女のセリフに、リエとスズは揃って素っ頓狂な声を漏らす。言葉を発するというよりは、素で声を「漏らす」ようだった。
シエルやアンナ、ヒトデなんかは目を丸くして、リンコはクスクス笑い、テンコは苦笑い。サラは、何を言っているのか分からないという風に首を傾げレイコとナルコを交互に見ている。
そして、ルビーは……。
「何を考えてるんですか? この人はあなたを一度殺したんですよ? ヴァルキューレに引き渡して、その後、矯正局に入れるべきです」
「いや殺されてないし。仮死状態にされただけよ、仮死状態。Do you know 仮死状態?」
「いや、殺されたも同然でしょう。私達──つまり吸血鬼特有の『杭を二度打ちされると蘇る』というギミックが無ければ、普通に死んでいるんですよ? しかも『矢』が何故か『杭』判定されたとかいう、本物の奇跡があっての復活だったというのに……」
「でもさー、結果的に先生に復活させてもらって、こうしてナルコにお灸を据えてるワケだし? 別にいいんじゃないかなぁ〜って思うんだよね。だってその方が平和的だし。──ていうかコイツ、人間の割に強いしさ♡ 良いサンドバッグにできそぉ♡」
「サンドバッグ……。生徒会の者が言っていいセリフではありませんよ、全く」
「てか被害者本人が『許す』つってんだから外野がピーヒャラピーヒャラ騒ぐなよって思うんだけど。馬鹿なんじゃない? これは私とコイツの問題で、リエもスズもルビーも、部外者同然なのよ?」
「部外者ではありません! あれは学内で起きた事なのですよ!? 私は議長ですわ。学園を統括する責任者として、決して見て見ぬふりはできません」
「リエと同意見よ。ここは、責任者──議長であるリエの意見に従うべきだわ」
やいのやいのと言い合う生徒達。レイコとスズは次第に苛立ちを隠さなくなってきているし、ヒトデだったりルビーだったり、アンナなどは間に挟まれ可哀想になってくる。
しかしリエも──いや、ルビーやスズの方がリエよりも強気だ。尚、それを見たレイコも、譲る気は全く無さそうだ。被害者が加害者を強く庇うとは、あまり見た事がない。貴重な光景だ。
「それイイね、ナイス先生! スズもそれなら納得でしょうよ? んん? どうよ?」
「うーん。ま、いいでしょ。リエもいいわね?」
「先生がそう仰るなら……」
スズ、ルビー、サラ、ヒトデが挙手。
レイコ、シエル、リンコ、テンコが挙手。
リエとアンナは迷った様子で目をギュッと瞑り、自分の答えを出そうと頑張っている様子。矯正局に送るべきと考えていたハズのリエも、本人の言葉を受けてなのか、想いが揺らいでいるようだった。
「私は──決められません。確かに、ナルコ先輩は大変な事をしてしまったかもしれませんが、結果、レイコさんは助かりましたし。だけど、そんなのは結果論でしかないのかな、って……」
「送るべきだと私は思いますわ。しかし、他ならぬ本人が『許す』と言うのならば──私はご本人の、レイコさんの意思に従ってみようかなと思います」
しばらく、両陣営の生徒からの説得がなされる。最終的に、アンナとリエはそれぞれ「送るべき」と
「送らなくてもいい」に別れて、人数は5:5に。この場に居るのは10人なので、多数決失敗だ。
「待ってよ。先生はどっちなのよ?」
「そうですわ。多数決なのですから先生のご意見も聞かせてくださいまし」
どっちがいいのだろう。
普通に考えれば殺人未遂だ。しかも明確な殺意があったし、何なら、昨晩も殺しに掛かっているのを目の前で見た。呆気なくボコられたが……。
レイコが助かったのはただの奇跡。死因がソレで彼女の種族が吸血鬼で、武器が矢で──などなど、幾つもの偶然が重なって初めて、彼女の「死」が、まさかの「仮死状態」という事になったのだ。
とはいえレイコを看取った時、ヘイローは
だからどちらにせよ、ナルコは殺人未遂止まり。
それに、もしも「殺人未遂だし矯正局で」などとこの私が言ってしまったら、きっとこれは、重大なダブルスタンダードになってしまうだろう。
だって
なんなら、許すどころか誤魔化した事すらある。被弾なんてしていないよ、気にしないで──と。
それなら、私が示すべき道は、たった一つだけ。
「〜〜〜〜〜〜ッッ……先生がそう言うんなら……」
「少々、納得しにくいですけどね……」
「先生がそう仰るなら、従いますです!」
「うー……絶対ヤバいでしょ……」
「わ、わかりましたっ!」
矯正局に送る派の5人も、一応納得はしてくれたらしい。
スズ、ルビー、ヒトデの3人は渋々もいい所だが一応賛同はしてくれた。この3人なら、不服過ぎて何かしでかす事もないだろうから、安心できる。
さて──問題は、ナルコだ。
「矯正局に送らなくて、本当にいいのか? 天使をハドマから追い出したいって想いは変わらないぞ。アタシはな、ナルミと違って頑固で強情なんだよ。ナルミは懐柔できてもアタシの事まで屈服できると思うなよ」
「……ねェ先生、コイツもうダメっしょ」
「更生する気ゼロですよ?」
「その間に今度こそ誰か死んだらどーすんのよ」
「それを防ぐ為の生徒会──そして七天魔ですわ」
「リエ……」
「スズさん。問題を未然に防ぐのは、大事ですわ。確かに、ナルコさんを矯正局に送れば、この問題に終止符が打たれるでしょう。ですが起きてしまった問題をそういう形で
「……チッ。わぁったわよ、黙って議長に従うわ」
「スズ先輩が従うなら……私も従います」
「まっ……レイコ本人が許すって言ってんなら、私がどうこう言える立場でもない、か……」
スズ、ルビー、ヒトデも、それぞれ納得したようだった。
しかし、敵意を込めたようなその視線は、逸らす気配がまるで無い。ナルコは未だ敵意を剥き出しにしているのだ、無理もない。
「……提案?」
「…………まさか」
「────!!」
「先生ッ!? 何を言ってッ……」
「………………面白い。実力でひっくり返せ、ってか? リエ達の敷く政治体制をひっくり返せと、本人達の目の前で言いやがるとは。ひひ、面白いな、お前。あんた、それでも『先生』かよ?」
「…………。あぁ。バカなことしたな、アタシ」
床を見つめるように、ガクリと項垂れる。しかしその「反省」の方向性は、普通の意味の「反省」とまるで違っていて……。
「先生……これはどういうおつもりですか? 彼女を焚き付けるようなことを言うだなんて……!」
「でも君──ううん、君達は、そう簡単にひっくり返されないだけの『強さ』を持ってるでしょう?」
「ッ!」
「戦闘だけの話じゃない。心の強さとかも含めての話。──考えてもみて。ナルコを正道に戻すには、野望を根本から諦めさせるか合法的な道を示すかの2択しか存在しないんだ。諦める気が無いなら──無理だと諭すのも、通用しないだろう。それなら、こうやって『別のやり方』を示してあげるのが最も正解に近いんじゃないのかな?」
今度はリエが下を向いて黙ってしまった。先程、私がナルコに言ったことは、傍から見たらおかしいセリフに思えるだろう。しかし実力主義が根付いたこのハドマ学園という特殊な環境下においてのみ、あの言葉が「正しい」言葉になってしまうのだ。
何故なら、私が彼女に言った「実力で政治体制をひっくり返す」という合法クーデターは、これまで何度も繰り返されてきたから。
レッドウィンターのお遊びクーデターとは違う。生徒会の名前も在り方も変わる本物のクーデター。しかし実力で示した結果がそれであるなら限りなく正解に近付く。
飂熾冘巫髏、いやルーシィは、ハドマとゲヘナを併合したかったのなら、レイコに頼ることなく己の力を磨き、その上でリエと対峙し、己の力でリエやシエル、スズなどの反対派を打倒するべきだった。
それなら、リエも納得するしかなくなるからだ。
その上でハドマ学園の議長に就任し、マコトとの調印式を行えば──今頃、ハドマ学園は存在せず、ゲヘナ学園の一部になっていた事だろう。
「……チッ。アホくさ」
「シエル?」
「……先生が連邦生徒会側の人間だって事、覚えてたつもりだったけど、すっかり忘れてたよ」
「? どういう意味?」
「ふんっ、言葉通りの意味に決まってんでしょう? その『正規の方法で』ってゴリ押し方、ゲヘナとの併合を勧めてきた連邦生徒会とか、『調印式』までお膳立てしてたルーシィのやり方とソックリだよ」
「……そうだろうね。どちらかと言えば、というよりガッツリと法規側の存在だからね、私は。だから、道を踏み外したナルコのような生徒には、別の道を示すんだよ。それも『先生』の責任だからね」
「筋が通ってるだけに、余計に腹立つ。ルーシィもそう、話しててイラつくんだ。でも、世の中、正論だけじゃ動かないよ。先生なら分かるでしょう?」
「勿論。でもこれは正論かどうかは特に関係なく、ただの『事実』でしょう?」
「そうだよ、その通りだよ。でも、まさにそういう所だよ。そういう所がムカつくんだ、ルーシィも、先生もっ……!」
「『自分が実力でひっくり返すのはいいけど他人にやられるのは絶対に嫌だ』──シエルなら、そんなみっともない事……言わないよね?」
「ッッ!!! っ、言わないよそんな事っ!!」
プイッと顔を背け、肩をいからせて、生徒会室を出ていく。図星だなぁ、とリンコやスズは苦笑し、リエは小さくなる彼女の背中を見送りつつ、大きい溜め息をついている。
多分、私、ロジハラしてると思われるんだろう。悲しい事だ。
「──おい、我猛リエ」
「!」
「必ず生徒会を、七天魔をブチのめす。トラウマを抱えていようが関係ない。首を洗って待ってな」
真っ直ぐにリエの目を見据えて宣戦布告をする。首にダサい札を掛けられている事を除けば、結構な名シーンに思えるのだが──首に「私はレイコ様に逆らい余裕でボコられたクソザコヒトカスです」の札があるのでイマイチだ。イマイチ、キマらない。
それを見てなのか、それとも、もうナルコの事を脅威と──トラウマとは思っていないのか、リエはほんのりと頬を緩め。
同じように真っ直ぐ彼女の目を見つめて、言葉を返す。
「ええ、受けて立ちます。議長の立場にかけて──私の卒業まで、あなたの手から、この学園を守ってみせますわ。……でも……」
「でも?」
「
「ッ! …………フンッ。雑魚にとって『過度』だと判定されないよう、気を付けておくよ」
「ふふふ……」
「くひひっ……」
────こうして、猫田ナルミ及びナルコによる単独クーデターは、反省も投獄も特に無く、何なら野望すらそのままに主犯を無罪放免にするという、特異中の特異、極めて奇妙な解決に至った。
今後、ナルミ達は、自分達が手に掛けたかつての剣道部・弓道部員の仲間達に謝罪行脚し、生徒会の支援の元、不登校を脱するようサポートすることになるようだ。
果たして彼女の野望が日の目を見る事になるのはいつになる事やら────。