「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「……おはようございます」
「リエッ!!」
ナルコの凶行に伴う入院から半月。ようやく退院できたリエは、退院した翌日にすぐに、ちょっぴりやつれた様子で登校してきた。
しかしその背中に、あの純白の翼はもう、無い。
「リンコから聞いたよ、ナルミの妹がリエを……」
「私が弱かったが故のただの事故ですわ。ご心配をお掛けしてしまいましたわね、申し訳ありません。先輩方にも先程、挨拶してきましたわ」
「心配もするよ、リエが負けるとか──っていうか面会謝絶だったんだしさ……」
「勉強に集中したかったのです。幻肢痛とやらにも悩まされていて、今でも鎮痛剤が手放せなくって。情けない限りですわ……」
「ッッナルミィッ! どーなってんのよ、あんたの妹はァ!? バールで他人様をタコ殴りにするとか頭おかしいんじゃないの!?」
「あうっ……ご、ごめんなさい、まさか妹がそんな事するなんて思わなくって……うぐっ……」
胸倉を掴んで前後にガクガクと大きく揺さぶる。ナルミの顔の前にぶら下がる大きなアホ毛が本人の揺れにワンテンポ遅れて揺れ、ぺちぺち顔を打つ。
「シエルさんっ。ナルミさんに当たっても仕方ないですわ、私と戦ったのはナルコさんですから……」
「その本人が停学で学園に来てないから、姉であるコイツに当たってんでしょ!? 双子の姉のクセに妹の手綱も握れないのかよッ!? あんたのせいでリエが翼を切る事になったの、分かってんの!?」
「ごめんなさい、ごめんなさいっっ……」
「済んだ事は仕方ありませんわ。泣いても喚いても私の翼は二度と戻りません。──しかし大丈夫ですナルミさん。私はナルコさんの事も、当然あなたの事も恨んでなどおりません。恨むべきは──怒りをぶつけるべき相手は、弱い自分なのですから」
「リエちゃ……」
「お前は二度とリエに話し掛けんな! リエに用がある時は私を通しな! 分かったッ!?」
「う……うん……」
「ふふ、気にする事はありませんわ、ナルミさん。これまで通り七天魔の同僚として──そして、良きクラスメイトとして。何も気にせず、普通に接してくださいませ」
「リエ……」
「リエちゃん……」
3人のやり取りを遠巻きに見ていた生徒が1人。ハドマ最強とされる赤津ルカを打倒した真の最強、そして自由奔放な悪魔のメイド……砂田リンコ。
実はリエは──この一連のやり取りの中で、終始リエらしくない行動をとっていたのだった。きっと遠巻きに見ていたリンコだから──いや、それともリンコも同様に戦闘も頭脳も「天才・我猛リエ」に並ぶレベルの持ち主だからだろうか。
人の目を見て話すお行儀の良い生徒、我猛リエ。今の一連の流れの中でリエはたったの一度たりともナルミの目を見ていない。
口では「ナルミさん」と呼びつつ、視線は彼女の傍にいるシエルに向けられている。
よく、人と目を合わせるのが恥ずかしい時には、目と目の間、つまりは眉間を見るとよい──などと言われる。しかし今のリエはそれすらしていない。
目を合わさない? 違う、そんな次元ではない。目を合わさないどころか、ナルミの顔を視界にすら入れないようにしていた。口では明るく会話しつつその目、その顔は執拗にナルミ以外に向けていた。
雰囲気が違うだけで、翼を失う原因を作ったあのナルコと同じ声、同じ顔をしているのだ。リエとてそう簡単に割り切れるものではないだろう──と、リンコは普段のおちゃらけた態度から考えられないくらい深く、正確にリエの心をスキャンしていた。
……そして、
ようやくリエの手元から鎮痛剤が離れた頃……。
「……あァ? 七天魔入れ替え戦を申し込むだと?」
「復学したんだ、当然だろう? ハドマ学園に通う生徒なら誰もが持ち得る正当な権利のハズだが?」
「お前、どの口が言ってやがる? リエに守られ、ギリギリで退学を免れただけの分際で」
「守ってくれなんて頼んだか? 頼んでもないのにあの女が勝手に言い出した事だろうに?」
「お前ェ……ッ!!」
「が、アタシを退学にしなかった事に対し、一応の感謝はしているつもりだ。だからせめてもの恩返しとして、次は、我猛リエ以外に申し込む事にする。入れ替え戦を申し込む相手は挑戦者が決められる。つまりコレで構わんよな?」
「……。バールや鉄パイプをはじめとする鈍器、及び刃物の使用は厳禁だ」
「へいへい、わぁってんよ、うっせーな……」
ナルコを挑戦者とする七天魔入れ替え戦が、再度行われた。しかし例によってナルミは学校を休み、ナルコの入れ替え戦を見届ける事は無かった。
そして今回、ナルコの標的となったのは、ルカに宣言した通りリエ以外の生徒であった。しかし己の技量ではリンコ、ライムに勝てないと判断したか、1年生ではなく2年の先輩であった。
「鈍器や刃物の使用を禁じたとはいえ、アイツは、何をしてくるか分からん。備えろよ」
「分かってる。あのリエちゃんが負けた相手だし、せいぜい気張っていくよ」
ハドマ学園における風紀委員会的な存在である、統治委員会。その委員長、
クロンはリエの1つ上、ルカの1つ下だ。2年の中では生徒会の生徒達に次いで優秀とされている。リエのように七天魔で在り続け、その七天魔からはたったの一度すらも陥落した事の無いという実績を持つ──ルカが陥落した今、唯一の生徒だった。
「それでは…………始めッッッ!!!」
クロンは即座に距離を詰め、照準を合わせる暇を与えまいと、派手に動き回る。ナルコはSRを手にクロンに狙いを定めようとするも、彼女の思い通り中々狙いを定められないでいた。
これまではまともに銃撃戦をせず、すぐに単純な暴力に走っていたのが原因の一つであった。銃器の扱いや銃撃戦における立ち回りで言えば、ナルコは七天魔クラスには遠く遠く及ばない。
「ほォ〜らどうしたんだ、生意気な小娘! 私より射程もあるだろうに!」
「ッ……ぐ……」
「一発一発の火力はそこそこ、射程はまぁまぁ──けど、ダメダメだ。銃は良くとも、それを使う主がこのザマじゃあ、な!」
「ぐぁっ……」
SG2丁での超近距離発砲。ナルコは吹っ飛び、気絶。眠るように力無く倒れている。
「うぇーい、見ってる〜? 翼の仇はとったよん、リ・エ・ちゃんっ♪」
「先輩……」
キャピキャピとはしゃぎながらリエに手を振る。2年生らしき威厳も何もあったものではない上に、彼女が打倒したのはクラスメイトの妹。翼の仇を、などと言われても素直に喜べるものではなかった。
それなのに──情けないと自分で感じながらも、ほんの少しだけ心の中のモヤが晴れたのを感じた。
しかし……。
「────ッ! 待てクロン! 油断するな!!」
「!」
ルカの声に弾かれ後ろを振り向くもそこには既にナルコの姿は無かった。
「ふー……結構追い詰めてくれたな」
「なっ!?」
気付けば、ナルコはクロンの背後をとっていた。振り向きざまに振り払おうとするもナルコは怪物のような力で首を締め上げた。
「あぐぁっ……げふっ、ぐ……」
「やめろナルコ! お前という奴はまた……!」
「
後ろから首を絞め上げられていては狙いも上手く定められない。ましてやSGは銃のサイズからして自分の数センチ真後ろを撃つのには不向きだ。足をバタつかせながら銃を振り回し、適当に銃身で殴打するくらいしか、もう抵抗のしようがなかった。
「止めたいならこのアタシの勝利を認めるんだな。それができないんなら指を咥えて黙って見ていろ」
「〜〜〜〜〜〜ッ、クソッ!! 認めるぞクロン! いいよな!?」
涙を流して首を僅かに横に振る。降参するくらいだったら、私は潔く負ける道を選ぶ。無言でルカにそう伝えたクロンはナルコに意識を預け、そのまま静かに目を閉じた。
(クロン先輩の背後を取った時のナルコの足運び、どうもナルミに似てたような。……双子だから?)
こうしてナルコはクロンを下し七天魔になった。そしてハドマ学園上位7名「七天魔」は、1年生が7人中5人を占める事になり──特権を手に入れたナルコは、それから暫くして彼女の名義で弓道部を創立。
まるで既に経験があるかのように、リエやリンコなどの手を借りずに、速やかに手続きを済ませた。
七天魔の中では極めて腫れ物扱いだったナルコは部活の創立後間もなく自ら七天魔を脱退──今度はナルコと交代して、再びクロンが七天魔になった。
結局、手早く部を立ち上げたかっただけで、何がしたかったのか分からない極めて暴力的な問題児。それが、生徒会と七天魔から見た猫田ナルコという生徒の全てであった。