「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「はぁっ……はぁっ……嘘、だろ……暑すぎ……!」
ライムからルーシィの伝言を受け取った私は今、汗水垂らして、ヒノム火山を登山している。
あの時、伝言をもらうと同時に連絡先を交換して座標を送ってもらい、教えられた道順で、ゲヘナの自治区内にある活火山、ヒノム火山を登っている。
活火山だけあって暑いし熱い。並の登山装備では登れそうにないからと、一旦シャーレに帰還して、ある程度の装備を整えてからヘリで途中まで来て、今に至る。
目的の場所に行くには徒歩でなくてはならない。だから、ヘリからは途中で降りるしかなかった。
ライムの「全てを終わらせる気」という言葉が、どうにも引っ掛かって仕方ない。だから、アロナとプラナにも警戒を強めさせ、ここまで来た。
「────見付けた……」
ルーシィは、火口付近に居た。柵も無く危険だしさっさとこちらに連れ戻さないと、と思い彼女へと声を張り上げるも、全く聞く耳を持ってくれない。距離があるとはいえ、私の声はしっかり届いているはずなのに。
仕方なく、もう少し彼女の方へ近付く事にした。間違っても火口に放り込まれないよう、しっかりと準備して。
「はぁ、はぁ……疲れた……!!」
「アハッ、そんな荷物背負ってるからでしょ!何よそのバカデカリュック!先生は登山家ですか〜?」
「これは、まぁ、はぁ、はぁ、暑さ対策、かなぁ?バカ暑いや、何なのここは……さっすが火山……」
「ね。ゲヘナ出身の人でも流石に暑いよ、ここは」
「ルーシィ……危ないからこっちに来なさい、一緒に下山しよう」
「まぁたそんな事言ってぇ。ヴァルキューレに私を突き出すつもりでしょう?」
「下山して、一旦落ち着いたらね」
「やーよ。捕まっちゃったら、私、いつになったら出られるか……分かんないもん」
ベッと舌を出す。そんな彼女もまた可愛らしい。しかし今はそんな事を言っていられる時ではない。暑いし、早々に彼女を連れて退散してしまいたい。
「それだけの事をしたって自覚さえあれば、それで大丈夫だよ。私も、減刑というか、短縮してくれるように口添えする。──それでも、犯してしまった罪の分、相応の罰は受けなくてはいけないよ」
「口添えする?不知火カヤの時みたいに?」
「っ!」
「それで、私をシャーレに引き取るつもりかな?」
「それはルーシィが望めばの話だよ。カヤの時は、世間的な批判が凄まじかった。ルーシィの場合は、そうでもない。まさに賛否両論って感じかな」
「そっ、か。ある程度の批判は覚悟してたけどね。賛否両論なら、まあ、良かったかな」
言葉通り、どこか安心した様子だ。両校の併合を薦めていた連邦生徒会側が、ルーシィがマコトに、ハドマの運営を任せたという前向きな受け取り方をしたと公表して「迅速な判断だと受け取った」とも口添えしたのも大きいだろう。
勿論、今度はあの発言でルーシィの代わりなのか連邦生徒会が炎上する事になってしまっているが。
「だから、戻ろう?」
「……減刑してくれた所でね。私の経歴には傷が付くワケだしねぇ……」
「それは……やった事がやった事だし仕方がない」
「それは分かるんだけどね。──何より、レイコに会えなくなるのがイヤだなぁ」
「レイコなら面会に行くよ。間違いなくね。私も、ルーシィの面会になら行くさ」
「アハッ、なにそれウケる!セックスしたからって先生のこと好きになったとか勘違いしてるの?」
「そうじゃない。ルーシィも私の生徒だからだよ」
「ッ!?……私が何をしたのか分かってるよね?」
「もちろん」
「なのに、どうしてよ?こんな問題児、フツーなら見捨てるでしょ」
「なら私はフツーじゃないのかもね。だけど私は、それでいいよ。私は君の先生で、君は私の生徒だ。良い所も悪い所も全て受け入れる。それでいて君の成長に繋がるようにと促す。それが私の役目だ」
ミカの外患誘致とカヤのクーデターとルーシィの学園併合、どれが一番罪が重いのだろう。私には、とてもではないが判断なんてできない。
どれも等しく重くて、どれも等しく裁かれるべき大罪だと思う。
ミカは事件後からずっと社会的罰を受けている。恐らく、言うまでもないだろう。私が、この両足を吹っ飛ばされた事件のキッカケがそもそもこれだ。
カヤはシャーレで匿ってはいるものの、実質的な軟禁にも近い状態だ。これは私がカヤのことを軟禁しているのではなく、カヤへの世間的な目が彼女にそうさせている。
そしてルーシィは……。
「……バカだよ、先生。こんな私の事、生徒なんて」
「バカで結構。さっ、戻っておいで。食べ歩きでもしながら、まったりヴァルキューレに出頭しよう。私も一緒に行くからさ」
「……私さ、レイコ達のことは助けてって、あの犬のおまわりさんに言ったよね」
「言ってたね」
「あの子、私とのあの約束、守ってくれると思う?私、こうして逃げちゃったけど」
「勿論。──カンナとは、結構前から仲良くさせてもらってるけど、約束はしっかりと守る子だよ」
「そっか。じゃ……少しは安心かな」
「そう、安心していい。私も、ルーシィの事を弁護するよ。事情さえ伝われば、リエ達も少しくらいは庇ってくれるかもしれない。だから……行こう」
「……うんっ。私、もう、逝くね」
「?…………ルーシィ?そっちは危ないよ」
ズッ、ズッ、と1歩ずつ後退する。彼女の背後は噴煙の立ち上る火口、中はマグマが煮え滾っているまさに地獄のような環境。キヴォトス人だろうともそんな環境ではまず生きられない。
「じゃあね、先生。今のやり取りで、ちょっとだけ好きになったよ。────バイバイ♪」
フッ、と目の前からルーシィの姿が消えた。一瞬何が起きたのかまるで理解できなかった、それでも弾かれたように飛び出し、火口の中へ飛び込んだ。
「ルーシィィイイイッッ!!!」
「……!?」
クソデカリュックの重みもあってなのか、私より先に落ちたルーシィより落下速度がある。お陰で、どうにかルーシィに触れる事ができた。
確か、重さに限らず落下速度が等しくなるのは、空気抵抗が無い状態だったか。詳しい事は忘れたがもしそうなら今は物理法則に感謝だ。
私が大人で、身体が子供である彼女より大きく、重く、更に荷物も背負っているからこそ、こうして自殺に臨んだルーシィを助けられるんだから。
「バカッ、なんで落ちてくんのよ!?死ぬよ!?」
「死なない!ルーシィも、死なせない……ッ!!」
ルーシィの足を掴む。暴れる彼女を手繰り寄せ、絶対に逃がさないようにと彼女の胴体をガッシリと抱き締める。
「主犯が死ねば被疑者死亡で書類送検で終わるの!これで全てが終わるッ!私が死ねばそれだけで全部丸く収まるの!先生が死ぬのは私の計画外よッ!」
「バカ言うんじゃない!!」
「!?」
「子供が命懸けで責任を取る世界なんか、存在していいもんか!!そんな世界、私は認めないッ!!」
「認めるとか認めないとかの話じゃ────!!」
あついアツイ暑い熱い。マグマの熱が、落下時の空気と一緒に顔面にブチ当たり、目が乾き喉が渇き全身が熱風で炙られているんだと理解させられる。
「転送ォッッッ!!!!」
「!?」
オレンジに、赤に輝くマグマだらけの景色から、真っ白な世界に移る。気温の変化で心臓がキュッと縮むような気さえした。
「きゃうっ!?」
「ぐぇっ!!」
ボフンッ!と柔らかい物体に着地し、何度か軽くバウンドする。マグマで赤々と照らされていた火山内部とは違って、仄暗い光しか灯っていない薄暗い部屋にやってきた。
「え……こ、ここって……」
「ハドマ自治区の、
「!!」
ゲマトリア製のインスタント転送装置*1。物体の運動状態は転送の前後で維持されてしまうので下に柔らかいベッドのあるホテルが最適だった。
私がリュックを背負っていたのはコレを背負って移動していたからである。有事の際は、ルーシィと共にその場から緊急退避できるように。
「……なんで、一瞬で……『転送』って……?」
「……ルーシィ。死んで終わらせるなんてバカな事、考えちゃダメだ。何事も、生きてこそなんだから」
「だからっ……それじゃ私が捕まるだけじゃんっ!!捕まって自由を奪われた私が見たいの!?」
「ルーシィはそんな事にならないよ」
「なるでしょうよ!?先生が私をヴァルキューレに突き出すんだからさぁっ!!」
「だとしてもいつまでも出てこられないなんて事は絶対に起きないよ。私が保証する」
「はァ!?」
「君は頭がいい。捕まった所で、レイコの助けとか無くても……すぐに出てくるさ」
「!?……まさか、脱獄するとでも思ってんの?」
「
「────ッ!!」
私は信じている。ルーシィの頭の良さを。そして要領の良さを。だからこそ信じられる。ルーシィは絶対にすぐに、
「先生ってホンット……ヤバイ人ね……♡」
「ヤバくも何ともないよ。私はただ、自分の生徒を信じているだけだからね」
「アハハッ……物は言いようってヤツね。先生としてどうなのよ、脱獄を勧めるような物言いは……」
「先生というか、人としてマズイとは思うかなぁ。だけど、私は生徒を信じてる。というよりかは──信じてあげたいと、そう思ってるだけだからね」
「そっか。……うん、分かったよ。これからすぐに、ヴァルキューレに出頭するよ。先生が、私と一緒に来てくれるならね」
「当然、そうさせてもらうよ」
「先生が何でワープしたのとか、色々気になる事はあるけど、ま、いっか。過程はどうあれ私も先生も生き延びたワケだし」
「そうしてくれると助かるかな」
「あと、せっかくラブホ来たんだしぃ、どうせなら出頭する前にもう1回だけ、先生と濃厚なエッチがシたいな〜♡……とは思うけどさ♡」
「……ダメだよ。今はね」
ヤるつもりは──ない。今は、まだ。これでも、スズとの約束は守るつもりだ。ルーシィとデートをしたりハーレムに引き込んだりするのは、スズより後にしなくては。
「ちぇー、ざんねーん。……あ、そっか。私は先生が好きでも、先生が私のこと好きじゃないから……」
「そんな事は無いよ」
「……え?」
「ルーシィも私の可愛い生徒だよ。大好きさ」
「〜〜〜〜ッ……そういう意味じゃないんだけど……まっ、今はそれでいっか……♪」
その後、カンナに電話し、今日中に出頭する事を伝えた。危険だ、自分達が迎えに行きます、と再三言われたものの、もう逃げる心配は無いとのことでどうにか宥め、待機してもらう事に。
そして出頭前の様々な準備などを済ませ、遂に、ホテルを出発。そこからは、火山にて彼女に言ったように、食べ歩きをしながらまったりと出頭した。
「……ここまでありがと、先生」
「……うん」
「レイコの事、お願いね。あの子、どこまでも私にベッタリだからさ。戦いと、少しのエッチな事と、ほんの少しだけのお菓子作りしか知らないような、ただの子供なの。……だからよろしくね、先生」
「分かった。レイコの面倒は私が見るよ」
「……ありがと。あと最後に1つだけ……いい?」
「うん?」
「……キス、したい。先生と……」
「!」
「
「……そういう事なら」
カンナや、他のヴァルキューレの生徒が見ている中、真正面からルーシィと抱き合った。そのまま、ドラマのラブシーンのようにゆっくり、ゆっくりと互いの顔を近付け──口付けを交わした。
1秒、2秒、3秒──6秒、7秒、8秒。一体、何秒間こうして唇を触れ合わせているだろう。舌も触れ合わさず、息すら殺して。
一瞬だったろうか、または分単位だったろうか。それすら分からなくなる中で、ルーシィが私の背をトントンと指で叩いて、キスの終わりを告げた。
「じゃ…………今度こそ、行くね」
「……うん」
「ありがと、先生。私を助けてくれて。……大好き。レイコの次に、だけどね」
「ありがとう、ルーシィ。気持ちは受け取ったよ」
最後にもう一度だけ、軽く唇を触れ合わせる。
くるんと背を向けたルーシィは、軽い足取りで、両手を前に突き出しながらカンナの前に立った。
「────19:59、針村ルーシィの出頭を、認める。ハドマ学園不当併合の容疑で逮捕する」