「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
七天魔にエントリーした受験生の戦いが始まり、しばらく経った。リエとライムは、生徒会としての誇りもあるからなのか、早々に七天魔の仕事を終え自陣に戻り、他のメンバーの戦いを見守る。
リンコは少し遊び過ぎだ。彼女の実力があれば、もう終わっていてもおかしくないだろうに。しかしそのお調子者にも思える性格や振る舞いも、実力と頭脳が両方──それも、非常に凄まじく高レベルで備わっているから、余計にタチが悪い。
リンコの最後の相手は、生徒会希望のトリニティ出身の天使らしき生徒。名を、針村ルーシィ。
全教科満点というカンニングを疑われるレベルの超好成績を叩き出し、戦闘の強さも期待されている有望株の生徒である。
「技術開発部部長、砂田リンコでーす。全教科満点なんて凄いねぇ? お相手ヨロシクね☆」
「針村ルーシィです。よろしくお願いします」
ルーシィはMG、リンコはSRを構える。互いに射程距離はまずまずという所だろうか。とはいえ、SRを使う分、ほんの僅かにリンコに分があるかもしれない。
「……」
「──じゃ、コッチからいくよ♪」
何発か連続で発射。ルーシィは基本的に躱すが、その内の何発か被弾。その時の彼女の反応や手応えなどから、リンコはルーシィの属性を判断。
SRを使用するリンコの属性は、爆発/重装甲。その攻撃が効くとなると、ルーシィの防御属性は、軽装備であると確認できる。弱点属性だ、これなら早々に決着がついてしまう。
「くっ!」
「んー……」
ルーシィの攻撃は、リンコには大したダメージを与えない。ただし、属性の相性的に見てダメージが半減してしまった結果ではなく、単に攻撃力の問題なのかもしれない。
何にせよ重装甲のリンコにそこそこのダメージを与えられるという事は、ルーシィの属性は恐らく、リンコの予想通り「爆発/軽装備」だ。
ルーシィは、その攻撃力の低さを範囲攻撃可能なMGを使用する事で補っているようだった。成程、攻撃力は低くとも範囲攻撃さえしてしまえば距離を詰めようとするのは決して簡単なことではない。
目に見える全ての範囲を薙ぎ払うが如く、または敵の動きを制限するが如く。
────しかしその作戦も、リンコがルーシィの射程を上回るSRを使用しているせいで、通じなくなってしまっている。
「ふふ、それじゃあ私には勝てないよ〜」
「分かってますよ……でも、やるしかないッ!」
「〜♪」
楽しげに、それこそ花畑を散歩するように鼻歌を歌いながら、ルーシィの弾幕の中を歩く。あまりに予想外のリンコの行動に、彼女は顔を引き攣らせ、1歩、また1歩と後退る。
「あれれ? あなたが下がっちゃったら当たらなくなっちゃうよね? 大丈夫?」
「い、いやいや……あなた何を言って……」
「ほら。ほら。ほら。ドンドン攻めないと、私には勝てないよ? あなたの攻撃、大したダメージにもならないんだからさ?」
「〜〜〜〜〜ッッ!!」
「アハッ、追いかけっこ? 動くの得意だよ私!」
本来、距離を詰めるべきルーシィは前に動くべきところを、作戦を立て直す時間を稼ぐつもりなのか逆にリンコから距離を取るように動き始める。
しかし「現在」とは違って「
「およっ?」
ルーシィが立っていた地点に達した時、カチリと嫌な音が足元から聞こえたかと思うと、次の瞬間、地面が炸裂。校庭の土砂の色に合わせて塗装された地雷を踏んでしまったらしい。
しかも、その爆破によって近くの爆弾も連鎖的に爆発。彼女の逃走は、この地雷の爆発からの誘爆を狙ったもののようだ。
「けほっ、こっちは中々だね。ふふっ、まぁ、私を倒すには数も威力もまるで足りてないケド……」
メイド服を砂埃で汚したくないリンコは、すぐに砂埃が湧き上がる範囲から脱しようとするも、ふと足を止めて、ほんの一瞬だけ思考を巡らせる。
砂埃が嫌だからと、中から出て行けば、それこそ狙い撃ちされるかもしれない。尤も、そんなものは大したダメージにはならないものの、付け入る隙を与える事になるかもしれない。
それに加えて、他にも「誘爆の引き金」が近くにあるかもしれない。砂埃の中を下手に動けば、塗装されていない普通の地雷すら踏む危険がある。
しかし、このまま砂埃の中に隠れていれば、敵は狙いを定める事ができず、逆に攻めあぐねる事にも繋がる。範囲攻撃に特化したMGなら、それも無視しながら攻撃できるだろうが────恐らく彼女はそれをしないだろう。
MGでの範囲攻撃は確かに脅威だ、しかしそれはあくまでも弾数と範囲だけの話だ。肝心の威力は、てんで大した事は無かった。
加えて、折角こうして砂埃で目隠ししているのに大して意味の無いMGを発射したところで、逆に、自分の位置を
無意味どころか、逆効果になってしまうのだ。
つまり、今、砂埃の向こうでルーシィがしている行動は、更なる罠と、
ならば自分が取るべき行動は──待つ。これだ。
砂埃が晴れるまでは待ち、ほんの少しでも視界が開けた瞬間、SRで狙い撃ちして、ジ・エンド。
作戦の方向性が固まった。ゴーグルを取り出して装備し、砂から目を保護していると、唐突に砂埃の壁に穴が開き────。
「はあああああああっっ!!!」
「ッッ!?」
自ら用意した砂埃の壁を突き破って、ルーシィはリンコに突撃してきた。すぐ銃を構えようとするも時既に遅し、銃身が長いSRの懐に入られた。
しかし銃身が長いのはルーシィのMGも同じだ、何を考えているんだ、と彼女の銃が向けられた先を見るが。
「……あはっ。マジぃ……?」
「大マジ」
接射。ルーシィはこれを狙っていたのだった。
接射は普通の銃でも大きいダメージを出しやすいというのに、よりによって、彼女が使うのは弾数に優れるMGだった。
リンコさえ敗北を確信し、口元をヒクつかせた。
そして放たれる必殺の一撃。リンコを囲う砂埃の壁ごと、彼女を吹っ飛ばす。
「はぁっ、はぁっ……これでどう……!?」
「…………ん〜。塵も積もれば山となる、だねぇ」
「ッ!?」
「いや〜効いた効いたぁ。でもMG接射なんて殺意高すぎじゃなーい? 負けると思ったじゃん♡」
「〜〜〜〜〜〜〜ッ、リロード……ッ!!」
「私やテンちゃん、リエじゃなかったら、今のでも倒せてたかもね。それじゃ、おやすみちゃん♪」
「……えっ、それ……」
背中からMGを取り出したリンコは、カウンターしてやると言わんばかりにその圧倒的弾数の弾幕でルーシィを吹っ飛ばし、気絶させてしまった。
「……ありゃっ。ちょっとやり過ぎちゃった☆」
てへっ、と舌を出すリンコを見て、見学している在校生は溜め息をつくしかなかった。逆に受験生はリンコの圧倒的タフネス、ルーシィの奇策、そしてその奇策を耐えた上でのトドメに震える者、反対に興奮する者など、反応は様々だった。
健康保全部を呼んでルーシィを運ばせて、それを見送りながら、リンコは、ふと彼女の事を想った。一瞬とはいえ自分の予想を裏切る行動をした生徒は初めてだったから。
リエでさえ、予想外のパワーを出すことはあったものの、予想外の行動まではしない。
リンコがハドマ学園に籍を置いてから、リンコの予想をここまで大きく外す行動をしたのは、恐らくというより間違いなく、ルーシィが初めてだった。
(針村ルーシィ……ちょっと、面白い子かも♡)
この時の「ルーシィへの興味」が、後にリンコが飂熾冘巫髏に加入するキッカケになったのだった。しかしそれはまた別の話…………。
◆
その頃──ナルミとテンコは、それはもう地味な戦いを繰り広げていた。それこそ、ドカンドカンと爆発するリンコとルーシィの戦いとは逆の、静かで地味な、それはもう地味な戦いだった。
スナイパーとしては固定砲台的な性能のナルミ、そして対戦相手はタンクのテンコ。そうタンクだ。タンクと言えば、相手の攻撃を引き受けて、耐える役割を任される立場。攻撃性能は、
ましてやこのSR、
しかもナルミの攻撃力は、そこまでは高くない。素で固く、素で
「あの。これ、まだ続けます?」
「ヒェッ、まるで効いてない……」
「SRの相手は、姉さんで慣れてるんで。受け方も流し方も、実戦で身に付けたっていうか……」
「ッ、じゃあ
(異なる武器種の2丁持ち──! まさかコイツ、姉さんみたいなタイプ!?)
ナルミ本来のARを取り出し、乱射しつつ距離を縮める。流石のテンコも唐突なARの登場に動揺を隠せず、武器のSGに手を伸ばし攻撃を開始する。
「うっ!?」
「……!」
テンコが攻撃を開始した事で、ようやく判明したことがあった。属性相性的に、ナルミは不利だと。
ナルミは「爆発/軽装備」の属性を有する。が、ナルミの攻撃の効き具合からして、テンコの防御の属性は恐らく、通常装甲か重装甲だ。いや、攻撃の効き具合がイマイチな事を考えれば、
それなのに、テンコは軽装備にとって不利となる爆発属性だった。ナルミが目に涙を浮かべるのも、仕方のない展開だ。
兎にも角にも──ナルミにとっては極めて不利な対戦相手。ただでさえ攻撃が効きにくいというのに相手はタンク。防御力は高く、そしてHPは多い。
ナルミは、目眩がする思いだった。
「流石、リンコちゃんの妹さんだねっ! でもっ、私だって七天魔なんだから──勝ってみせるよ」
背中から抜き出したのは、一振りの竹刀。こんな銃撃戦に竹刀を持ち出すなんてと、一部の受験生は笑いを抑えきれない様子でクスクスと笑う。
一方で在校生の方は、ナルコがバールを出した、あの時の事を思い返していた。しかし暴走しがちなナルコではなく大人しいナルミで、しかも鈍器とも言い難い竹刀なので、一先ず、見逃すことにした。
「竹刀──あぁ、剣道部なんでしたっけ。それで、私に勝つと?」
「勝つよ」
「フッ。せめて鉄パイプとかなら、まだ、可能性があったかもしれないのに。竹刀って……」
「たかが竹刀だろ、なんて、甘く見ちゃダメだよ」
「じゃあ私に勝ってみてください」
「いいの? 合格、取り消しになっちゃうよ?」
「そうなれば、ミレニアムにでも行きますよ。首席合格は無理でしょうけど、合格自体は余裕なので」
「……そっか。分かった」
「!」
竹刀を真正面に構えると雰囲気が変わる。まるで全くの別人を相手しているかのような、そんな妙な違和感がテンコを襲う。
腰を落とし、攻撃準備をする。
大丈夫、受ける瞬間に全身に力を込めて衝撃など全て受け止めてしまえばいい──と、そう思った。しかし彼女のその思惑は大きく外れる事となった。
「い゙ッ……!?」
すれ違いざまに腹を叩かれる。
腹部に大して力を入れていなかったワケでもないというのに、まるで深層に響くような、刺すような痛みがジンワリと、ジクジクと広がって、テンコの無表情が遂に崩れた。
「ハァッ!」
「ぐっ!?」
竹刀で腹をぶっ叩かれ防御が崩れた所にすかさずARで追撃。すぐに防御を固めるも、多少なりともダメージを食らってしまったようだ。そして、再び防御が固められたと察した彼女は再度竹刀を構えて今度は脛を強打する。
「〜〜〜〜〜っっ!!」
(少しずつでも、削りきってやるっ……!)
「さっきからペチペチペチペチ、鬱陶しいなぁッ!
『
「んぎっ……!?」
テンコのPスキル──「道連れの狂想曲」。
自身のHPが10分の1削られる毎に、その時最もHPが残っている敵──つまりここで言うナルミの防御力を10%減少させ、その上で、テンコの攻撃力580%分のダメージを与える、というもの。
防御力を1割も下げられた上で急に与えられた、EXスキル並の攻撃に、ナルミは今にも地面に膝をつきそうなダメージを受けていた。
それでも倒れずに耐えられたのは、七天魔の同僚であるリエやライム、リンコが難なく受験生を打倒した姿を見てきたからであろう。
彼女達がしっかりと勝っているのに、自分だけが受験生に負けるワケにはいかないのだ、と。
「はぁあああっっ!!」
「またそれか……ッ!!」
ナルミは居合を得意としている。普通、剣道では使用されない技だが、ナルミの編み出した流派は、超実戦的なモノで、居合なども組み込まれている。お陰でお世辞にも「剣道」などとは呼べない「剣道という名の何か」になっているが。
それでも、勝てるなら良いと、そう思っていた。いや、過去形ではなく今もそう思っている。だってそのお陰で、有効打を与えられなかったテンコを、少しずつ押し始めているから。
……それが自分の首を絞めているとも知らずに。
「『
「……う、そ」
ナルミは、前回のPスキル発動から更にテンコのHPを10分の1削った。合計、全体の5分の1。
Pスキルの効果は前述の通り。そしてNスキルはHPが5分の1削られる毎に防御力が38%増加するというもの。
つまり、テンコに攻撃すればする程、反動としてダメージを受ける事にもなるし、硬くもなる。
タンクとしてまさに厄介極まる性能をしている。
テンコとは反対にナルミの防御力は20%分減少。その上で前述の通りのダメージを受けてしまえば、ナルミのHPはいよいよ限界を迎える。
テンコはまだ全体の5分の1しか受けていない、それなのにナルミはもう立つのが限界という、酷いダメージを受けている。
「じゃあね」
「────っっ」
HPの残量をバーで表すなら「ミリ残し」という言葉がピッタリだろう。そんなボロボロの状態ではもはや回避は不可能。結果、ナルミは、通常攻撃が決め手となり、ノックダウンされてしまった。
こうして、テンコの入学後には、2年生となったナルミと交代で七天魔に数えられる事がここに確約されたのであった……。
◆
リエとレイラ、ライムとアンナ。そしてリンコとルーシィ、ナルミとテンコ。彼女達が戦い終えても未だに戦っている七天魔が、1人。
統治委員会の2年生委員長、平井クロンである。トリニティで言う剣先ツルギのように2丁のSGを携え、小柄な身体を惜しみなく利用して広い戦場を所狭しと駆け巡る。
挑戦者であるスズもまた、裏が透けて見える程に薄い膜のような翼をはためかせ、クロンの凄まじい猛攻を回避し、または攻め続ける。
両者の実力はまさに拮抗していて、片方が片方を押したり押されるという事は殆ど無かった。ただし唯一、両者の相性だけは、最悪と呼べる程ではないものの──スズにとっては、不利な状態であった。
スズは「貫通/特殊装甲」の属性を有する。が、スズの攻撃はクロンに対し有効打になっていない。恐らく彼女の防御属性は、特殊装甲か弾力装甲だ。
それでいて、対するクロンの攻撃はスズにとって有効打になっている。特殊装甲に通用しやすい攻撃属性は神秘である。そこからスズは、彼女の有する属性は「神秘/特殊装甲or弾力装甲」と推察。
「イマイチ効きが悪いわねぇッ! クソッ!」
「あはははっ、そーかなぁ? こっちはバッチリ、効いちゃうけど……ねッ!」
「ぐぁっ!?」
「でもあんた、
戦闘開始から2分が経過していた。2分、つまり30秒が4回も経過している。要するにスズは、己のSスキル──「気高き暴食の王」にて既に4段階も攻撃力を上げている。*1
素の攻撃力が低めな事を抜きにしても、ここまでギアを上げて目の前の敵が倒せないのは、
「手応えはある、のに……まるで通じてない……!」
「そっ。私、打たれ強いからねぇ。そうでもなきゃこの学園で統治委員会の委員長なんかやれないよ。ゲヘナの次くらいに荒れてんだから。つまり私にも勝てないアンタは統治委員会の委員長には不適格! 私が卒業するまであと1年ちょっと──せいぜいが副委員長止まりでしょーねぇッ!」
「あぐぁっ……クソッ、そんなの認めないわ!!」
地を蹴り、スズに噛み付くように急接近するのと同時に、SGを乱射。スズのSMGとは違い、少々範囲攻撃に向いている彼女のSGでは、避けようと多少動いたくらいでは回避などできるハズもなく、ジワジワと、スズの体力は削られていった。
スズは、ここらで決着を──と思い始めていた。
戦闘開始から2分と少し。確かにクロンの動きをある程度は読めるようになってきたし彼女に攻撃を当てられる回数も増えてきた。
しかしそれは、スズにとって「調子が出てきた」ワケではない。ただ単純に、攻撃力が指数関数的に上がってきているから、彼女はそう感じただけだと思っている。
指数関数的に──それはもはや、「塵も積もれば山となる」の言葉で語れる領域の概念ではない。
ゴマの1粒とて、2倍、その2倍、また2倍にと数を増やしていけば、いつかは夜空を覆う星々より遥かに数を増やし、果ては宇宙を満たしてしまう。
「──予定変更。あたしが潰すんじゃあないわ」
「?」
「あんたが、あたしを潰しに来なさいッ!!」
「……は?」
くるりと身を翻したスズは校舎に向かって走る。すると、ヒョイヒョイヒョイッと窓などの突起部に手や足を掛けて、屋上を囲むフェンスの上に立つ。SMGを両手に持ちつつ腕を組み、真上から
「あたしは最強になる女よッ! そんなあたしが、幾ら受験だろうと先輩に『挑む』のが間違ってた! あたしはいつだって挑まれる側! それが、強者の運命であり使命なんだからッ!!」
「? よく分かんないんだけど。最強? ルカを、この私を差し置いて??」
「……? だって、先輩らなんて雑魚でしょう?」
「んなっ……!?」
「所詮、雑魚の群れの中で強者を気取ってるだけ。実際の所、中堅もいいところ。『お山の大将』って呼んであげましょうかァ?」
「潰すッッ!!!」
本来、戦場は校庭の範囲だ。屋上だの中庭だの、校庭以外は場外乱闘と言ってもいい。無効試合だ。しかし、他でもないクロンがスズの煽りに乗って、共に「場外」に飛び出した事で、無効試合が無効になってしまい、自然と戦闘は継続される事に。
それを見ていた受験生達やリエは口をあんぐりと開けて呆然とし、ルカは溜め息に怒りを乗せつつも見守り、ライムやリンコはケラケラと笑い飛ばす。
とんでもないヤツが来たものだ、と。
「オラァッ!」
「うっ!?」
「チッ、ちょこまかと!」
(ッ! 弾痕が大きくなってる──まさか、
戦闘開始より2分半が経過。当初よりも5段階もギアが上がってきている。弾速も攻撃力も向上し、ジワジワとではあるが彼女に対する有効ダメージも増えてきた。
しかし如何せんクロンは小柄で、しかも素早い。的が小さく、素早く動き回るお陰で、今のスズは、文字通り「凄い攻撃も当たらなきゃ意味が無い」の状態に陥っていた。
どうにかクロンの動きを止める事ができたなら、或いは、驚かせるなどして一瞬でも怯ませられれば勝ちの目が見えてくる……そう思っていた。
「きゃうっ!?」
「!!」
何かに躓いたか、それとも単に足が絡んだのか。スズの攻撃の回避中に転倒したらしいクロンの身は一瞬、制御が不可能となる空中へと投げ出され。
そのコンマ数秒の隙を、スズは見逃さず。
「はぁあああッ!!」
──戦闘開始より、3分が経過。
攻撃力が更に上がると同時に両のSMGをクロン目掛けて乱射。その殆どは綺麗にヘッドショットが決まり、それを受けたクロンはゴロリと転がる。
ヘイローは消えていない、つまりまだ気絶まではしていないらしかった。しかし、スズは更なる追撃まではせずに、真上から見下ろすように彼女の傍に歩み寄り……降参を促した。
「あんだけ喰らって気絶してないとか、幾ら何でもタフ過ぎでしょ、あんた。もしかしてアタッカーも出来るだけで、実際はタンクだったりする?」
「……」
「どうよ。あたしの方が強いでしょ?」
「……」
「そーやって、目ェ瞑ってたってねぇ。狸寝入りを決め込んでんのバレてるわよ。セ・ン・パ・イ?」
「……」
「なんとか言ったらどーよ?」
「…………
「は? 腹話術でもやってんの? ドヘタクソね」
「……イヒッ♡」
「ッッッッ!?!!?」
ニッ、と歯を見せて笑ったクロンを見て、スズは背筋が寒くなったのを感じ、同時に冷や汗がドッと溢れ出した。
彼女の歯はギザ歯で──いや、それだけだったらこんな反応はしない。
そのギザ歯の1つ1つにヘッドショットを決めたハズのスズの弾丸が挟まっていたのだ。
「あんたまさか──!!」
「プッ」
「〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」
スズが近寄ってきたのをいい事に、弾丸の雨を、スズにそっくりそのままお返ししたのだった。単に口から吹き出しただけとはいえ油断していたスズの意表を突くには十分過ぎた。
「弾丸を咥えて止めたのッ!? バケモノ……!」
「これで終わりだァァァーーーーッッ!!!」
「く……ッ、そぉぉ……!!」
最大までリロードしたSG2丁からの集中砲火を浴び今度はスズが吹っ飛ぶ。屋上を囲むフェンスを突き破り、真下に真っ逆さまに落ちそうになるが。
「そう簡単に先輩に勝てると思ってんじゃないよ。助けられなきゃ落ちるばかりのヒヨッコちゃん?」
「ッ……!」
間一髪の所でクロンは屋上から身を投げ出されたスズの足を掴み、落下を阻止。その手に銃は無く、純粋にスズの事を助けようとしてくれたらしい。
──完敗だった。正面から戦いながらも、機転を利かせ思わぬ方法で意表を突く戦術。敵であっても助けに向かうその精神性。どれを取っても、何一つ今のスズには勝てそうも無かった。
……それでも。
ここで負けを認めて自ら勝利を投げ出すような、そんな真っ当で、健全な精神の持ち主ではない。
「──こうやって助けたら降参すると思った?」
「!?」
SMG2丁を、クロンに向ける。銃を向けられた彼女にできる事は、手を離しスズを落とす事だけ。人1人を掴んでいるのだ、回避なんてできない。
後輩を見捨て手を離すか、甘んじて撃たれるか。二つに一つだろう。もし引っ張り上げようとすれば力が込められたと感じた瞬間に撃たれるのは明白。
どれを選ぶか、彼女の判断は極めて迅速だった。
「──なら、屋上から地面までのランデブーだな」
「……ッッ!」
「ハハハッ、流石に声も出ないか! 安心しなよ! この程度、ちょっとした打撲で済むからさァ!」
クロンが選んだのは、新たな選択肢。
スズを見捨て手を離す──そのまま撃たれる──引っ張り上げようとする──そのどれでもない。
スズを支える為に踏ん張っていた力を解放して、自分ごと地面に落下させる、という選択肢だった。
「くっ、そォォォッ!!!」
「これで終わりだァァッ!!!」
ドゴンッ、ドカッ、と鈍い音と共に2人は墜落。共に酷いダメージを負っているらしく立ち上がるもどこか目は虚ろで、揃って、肩で息をしていた。
それでも、スズの手にはやはり2丁のSMGが。そしてクロンの手には何も無い。
「万事休す、か……ハァ、ハァ……」
「ハァ。あんた、バカよね。自分でフラグ立ててんだもん」
「フラグ……??」
「『これで終わりだ』では終わらないってヤツよ。口癖かは知らないけど、それやめた方がいいわよ。こうして余計に長引くから」
「? よく分からないけど、なんか、何でもいい。私の負けって事でいいよ、もう。流石にもう暴れる気になれないや……」
「ハァ? あんた意識が朦朧としてんじゃないの? もっとキッチリ決着つけましょうよ」
「じゃあ屋上まで戻る……?」
「あんたが武器を取り戻すのをわざわざ待つあたしじゃないわ。あたしが、そんな
「へッ……微塵も?」
「でしょうね。自覚はあるわ」
「──けどまぁ、ゲヘナの次くらいに荒れてるこの学園を治めるには、お前くらいの『荒っぽさ』も、時には必要になるのかもしれない……なんてね」
「そーゆーことよ」
「良心を利用するようなやり方は良くないけどね」
「んぐっ……そいつは禁句よ、言ったら負け!」
「ははははっ、良心の呵責ってヤツ? やっぱり、お前……ちゃんと『良い子』だよ」
「うっさいわ! 撫でんなチビ!」
「1センチくらいしか変わらないだろ、白パンツ! 先輩だぞ私は!」
「ぎゃあああっ! なにパンツ見てんのよ変態!」
「足掴んだ時に見えたんだよ! 不可抗力っ!!」
「あんたンことを一番に牢屋に入れてやるわァ!! 覚悟なさいドチビ!!」
「抜かせ、生意気な後輩め! というかお前、まだ受験生だろーが! 誰かを牢屋に入れる権利なんか無いわ!」
「七天魔特権よ! この言葉で全てが許されるの! なんて素晴らしいのかしらァ! オラッ捕まれ!」
「まだ入学してすらいないだろーがぁっ!!」
「待ちなさーいっ!!」
その時、リエ達が現場に到着。受験生も在校生も2人が屋上から落ちたらしい場面までは見届けた。しかし、いざ現場に駆け付けてみれば、戦っていた2人は傷だらけで追いかけっこしている。
それを見た生徒達は全員、一様に首を傾げ、何がどうなってこうなったのか全く分からないと口々に話していた。
ルカの鶴の一声で追いかけっこは終わりを告げ、クロンから正式に、観衆も含めた全員に向けての、降参宣言がされる。「スズの根性に負けたんだ」と認め、こうしてスズの勝利が公式のものとなり──入学後の、彼女の七天魔入りが確実となった。