「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
砂田姉妹がルーシィの「組織」──飂熾冘巫髏に加入した翌日から、学園の治安は、まるで別世界に迷い込んだかのようにガラリと変貌してしまった。
ルーシィの言う「技術開発部の仕事を増やして、資金的にも組織的にも疲弊させる為」という策略がブラフではなく真実だった、何よりの証明だろう。
それでも、数日間は「たまたまかもしれない」と警戒をしていた2人であったが、1週間も2週間も経過する頃にはすっかり、平和が訪れたと認めて、ルーシィのあの言葉を信じるようになっていた。
そして新設された「ゲヘナ部隊」への挨拶なども済ませ、ヘルメット団など比較にならない組織力を実感させられた2人は……。
「いや〜。ルーシィの『組織』、思ったより規模が大きいみたいだったねぇ。私達が加入してからさ、ドンパチ後の修理依頼、来てたっけ?」
「スズとクロン先輩のドンパチの後始末以外は──見たところ、2、3件しか来てないね。少なくとも1日5回はあったドンパチが一気に減った。全く、呆れるよ。あの数の仕事が殆ど、アイツの差し金によるものだったなんてね……」
「ほんと、呆れるしかないね〜。テンちゃんなんて修理やその指示に追われすぎて、成績、入学当時に比べてめちゃめちゃに下がっちゃったもんねぇ〜? 対して、組織を裏から操っているルーシィは、常に全教科満点を維持……かぁ……」
「ね、姉さんだって! ルーシィから貰った資金でホテルなんて建設して、事業拡大して! 設計だの指揮だのでめっちゃ時間浪費してんじゃん! 私に言わないだけで、姉さんの成績もダダ下がりしてんでしょうッ!?」
「え、私? 私の成績は変わんないよ? 元から、試験勉強なんてした事はほぼ無いし。ほら」
写真で記録を残すのが好きなのだろう。リエとの同率1位の順位を幾つか見せる。去年の入学時から今年の2学期中間テストまで成績の変遷をドヤ顔で妹に見せ付ける。
成績の変遷──とは言っても、点数や順位に全く変化は無い。あるとしたら、クラスメイトの増減や成績に伴う、相対的な数字、偏差値の上下くらい。
そろそろ期末テストシーズン。この流れからして今回も問題無く学年首位を取ってしまうのだろう。
「相変わらず
「リエとほぼ変わんないけどね〜。生徒会の仕事をしながら、どーやって成績を維持してるんだか?」
「リエ議長も、ノー勉がデフォの姉さんにだけは、絶対にそんなこと言われたくないだろうね……」
姉の発言に心の底から呆れ返りつつ、姉の口から飛び出たその名前に、そういえば──と少し遅れて反応を見せる。
「……そういえば。姉さん、そのリエ議長に対して、何か思うところとか無いワケ?」
「え……何が?」
「クラスメイトで、同じく入学当初から七天魔の、言わば同僚みたいなモンでしょ。私ならともかく、そんな姉さんがルーシィの組織に味方する、ってか加入するってのはさ──その、議長を裏切るようなものじゃない? って、ふと思ったんだけど……」
「あ〜…………うーん…………?」
「考えた事もない、って顔だね。姉さんらしいや」
「だって考えた事とか無いもん。私、リエに対してそんな仲間意識──みたいなの、感じた事ないし。学園の統治は生徒会であるリエに
「
「そーだよー。というか、リエは生徒会に入るのが目的で入学してきたんだよ? 私が何もせずとも、自然とこうなる運命だったんだよ」
「だとしても、クラスメイトが生徒会として学園の運営に携わってるのに、その『学園』を併合する、言わばテロ組織に加入ってのはさ。ある種、裏切りみたいなもんじゃないの?」
「テンちゃんさ。クラスメイトと思想が違うだけで裏切り認定するタイプのおバカさんだったっけ?」
「そういうワケじゃ……」
「初めから味方でもないのに裏切りも何もないよ。私が七天魔になったのは、
「……」
「それともテンちゃんってば──学年もクラスも、種族さえ違うリエに、謎の忠誠を誓ったのかな?」
「そんなワケない。てかもしそうだったら初めからルーシィの組織なんかに入らないよ」
「だよねェ。裏切りだとか、そういった行為は私達みたいな悪魔にとっては禁忌。本能レベルで嫌う。私としては、テンちゃんがそれを気にしてる事のがビックリしたけどね。私が、クラスメイトだからとリエに肩入れするような性格に思える?」
薄いピンクの瞳を細めて、どこか冷たさを帯びた視線で真っ直ぐにテンコを見る。そんな視線に次の発言への躊躇いを、そして恐れをなすものの。
「────思えない。姉さんはいつもそう。他者を蹴落とし見下ろし自分が上に立ち、その事に愉悦を覚えるような人格破綻者だ。ゲヘナを出てハドマに来たのも、『ゲヘナに比べて平和だから』とかいうクソみたいな理由じゃない。何より──ゲヘナより圧倒的に『実力主義』だから。頭も腕っ節もある、そんな姉さんにとってここは、まさに楽園だよね」
「そーそー。ゲヘナはここよりお金もある、そしてかなり自由だけど。こと『自由』という点においてゲヘナはハドマ以下、いや
「……同感。だから私も、ミレニアムじゃなくって、ハドマに来たんだ。ハドマは良くも悪くも平等だ。感情論を徹底的に排除して機械的なまでに──とは行かないまでも。良くも悪くも『平等』だからこそ他の学園にはない特殊な環境に育ったんだろうね」
「だけどそのお陰で、ルーシィみたいな不穏分子も紛れ込むワケだけど〜、っと。──よしっ、完成! できたよ、テンちゃん! 新しい望遠鏡っ!」
淡々と会話しながらも手掛けていた作品を、遂に完成させたようだった。それを機に、組織に関する暗い話も完結させ、2人の間の話題は全くの別物にすり変わってしまった。
「わざわざ新しいの作らなくたって。高倍率に適応できるよう調整するだけでいいって言ったのに……」
「せっかくドサッとお金が入ったんだし、新調して良いと思うよ〜?」
「……で、何倍まで適応してるの、コレ?」
「計算通りなら、500倍までが有効倍率だよ」
「ごッ……ば、バカ言わないでよっ! この口径から導き出される数字じゃ、せいぜい……」
「まぁまぁ、とりあえず覗いてみなって♪」
「夜になったらね……。昼から覗いてどーすんのさ」
「えー? 雲の中を、ううん、向こう側を見通せるくらいウルトラスーパー高性能に作ったんだよ? 寧ろ、明るい内から見なきゃ損だよね☆」
「バッ……姉さん、そっちは見ちゃダメッ!!」
「あぎっ!? ひぐっ……あああぁぁっっ……!」
「姉さん! 姉さんッ!! 何やってんのッ!?」
左目を押さえて蹲るリンコ。涙を流すことで傷む眼球を癒すが、時既に遅し──彼女の左目は既に、今の一瞬で機能を喪失してしまっていた。
しかしそれにしっかりと気が付きつつ、テンコを心配させまいといつも通りのニヤケ顔を崩さない。
「あはっ……500倍くらいは耐えられる計算だったんだけどね……700倍くらいで太陽見ちゃった☆」
「頭良いのにやってる事がバカなんだ、姉さんは! 失明したらどーすんのッ!?」
「ごめんごめん! でも大丈夫だよ、倍率さえ数段落としちゃえば太陽すらもぎゃあああっ!」
「バカなのッ!? きゅ、救急車! 救急車ァ!」
◆
外部の救急車が学園に駆け付けるといった混乱が巻き起こる中、総長からの「これ以上余計な騒ぎは起こすな」という指示を無視して、組織の強大さを誇示しようと暴れた生徒が、数人。
しかしルーシィの指示を無視して行動した為か、スズやクロン達に追われ始まっても、いつもの様に逃走経路の指示は来ず。ゲヘナ部隊の幹部、もといライムに救援を求めるも、モモトークは既読スルーされてしまう。
「あぁクソッ、無視されちゃう!」
「余計なことしなきゃ良かったぁぁっ!!」
「どこに助け求めてンのよッ! ザコが!!」
「そのザコに逃げられまくってるのが、最近の私らなんだが──久しぶりに、捕まえられそーだな♪」
「ぎゃああああッッ!! 平井クロンッ!?」
「新入生委員長の鐘蟲スズ! いやああああ!!」
────これまで逃げられてきた鬱憤を晴らす、そう言わんばかりに本気を出したスズとクロンに、騒ぎを起こした飂熾冘巫髏の構成員数人は捕えられ統治委員会の取り調べ室に詰め込まれた。
「んじゃ、あとはテキトーに絞っといて〜」
「やり過ぎんなよ」
「お任せ下さい委員長、副委員長。……さて、と」
現場に出て不良生徒達を相手するのは、腕の立つスズとクロン。では、それ以外の
「ここ数日はヤケに静まってますけど、最近まで、やたら騒ぎが起きてました。……あなた達ですね?」
「……あなた
「とぼけないで下さい。騒ぎを起こす頻度といい、無駄にスマートな逃げ足。明らかに組織立った犯行だろうと、先輩方は見ていますよ?」
「ッ!?」
「正直に吐いた方が、楽だと思いますけどね」
「……ッ」
2つの団子を頭に備えた黒髪ボブの生徒の、その溜め息を受けて、飂熾冘巫髏の構成員は思い悩む。組織立った行動だと見抜かれている──それなら、飂熾冘巫髏の存在が表沙汰になるまで、そう時間は掛からないだろう。
そして自分は「上」の指示を無視した愚か者だ。他学区の生徒すら擁する「組織」が、不穏分子たる自分の事を放置しておくハズが無い。
きっと、この場をやり過ごしたって「組織」から粛清される。
いつだったか、「副総長」を名乗る白髪の生徒が構成員を集めた事があった。チビで、細腕で、雑魚だろうと鼻で笑ったが、爆弾も使わず一瞬でビルを消し飛ばして、その「実力」を構成員全員に見せた事が一度だけあった。
あんな、兵器のような圧倒的強さを有する組織に目を付けられれば……自分に明日は無い。
そんな未来を過ごす事になるのなら、今ここで、統治委員会に全てを白状した方がいい。
──そう決心し、彼女は口を開いた。
「我らは堕天使。堕天使の集い。不純で、不浄で、不快で、不毛で、不要で、不遜で、不埒で、雑多な悪魔風情とは違う。どんな手を使ってでも、野望を叶えてやる。誇り高き我ら
「……やれやれ。あっさり口を割りましたか」
「ッ!?」
「あなた、もう組織は
「なッ!? おま、統治委員会じゃ……ギャッ!」
ガツンと銃で殴られ、ゴトンと机に突っ伏す形で気絶した彼女を、黒髪ボブでツイン団子の彼女は、おんぶして背負う形で統治委員会の建物から脱出。
他の不良生徒を捕まえに行く為に、もうその場にクロンやスズ、他の生徒が居ないことを事前調査で把握していたからだ。
「ハドマの生徒も気付けないでしょうね。まさか、中学生が高校に潜入しているなんて……ね」
「ぐ……うっ……お前……何なんだよ……ッ!?」
「ハドマ部隊幹部補佐、三重アガリ。統治委員会に潜入して、あなたのような不穏分子を消すのが今の私の仕事です」
「……!! あっ!? お前、その顔──翼の色が違うから気付けなかった……お前、アスカの妹!」
「という事で、あなたはクビです。それが嫌なら、ゲヘナにでも転校して、ゲヘナ部隊に入り直して、組織の目に付く所にいて下さい。その方がきっと、あなたも、心身共に平和に過ごせるでしょう」
「っ、分かったよ……ッ!!」
◆
「────って事で、残念だけど私、七天魔を辞退することにしたよ。テンちゃんも辞めるってさ」
「そう、です……か……。リンコさんが……」
「両目共、キッチリ失明しちゃったしさ。リハビリ頑張って、普段の生活に戻れるようにしないとね。期末テストももうすぐだし、義眼も開発したいし。あー、忙しい忙しい♪」
いつもの様にケラケラと笑うリンコ、しかしその目の上には白い包帯が何重にも巻かれていて、もう彼女の桃色の瞳が見れることは無いのだとイヤでも強く思わされた。
リエ達は「事故」としか説明されておらず、深く追求しようという気にもなれなかった。何よりも、リンコがそれを望んでいなさそうにも見えたから。
「……ってワケだからさぁ。私の後釜には、シエル。あなたが入りなよ。七天魔にさ」
「……え、私?」
「七天魔になりたかったんでしょ? 譲られる形は不本意だろうけど、見ての通り、誰かと戦える状態じゃないからさ。シエルさえ良ければ席を譲るよ。いつかは取り返すけどね♡」
「…………そっか。分かったよ」
「お。思ったよりアッサリだ。でも、良かった〜。シエルならそう簡単に負ける事も無いだろうから、私が復帰するまでその席、守っててよね〜」
「あんたはさっさとリハビリしてきな。もうすぐ、期末テストだかんね?」
「あはっ、わかってるわかってる♪」
リンコとテンコが同時に抜けた事による七天魔の空席。そこにシエルと、そして他の七天魔候補達を蹴散らした新入生の三重アスカが加入した事により七天魔の席は埋まった。