※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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第29話:吸血鬼部隊のボスは……

 

「チッ、リンコ先輩とテンコが同時に抜けた──! 失明しちゃったらしいリンコ先輩はまだ分かるわ、でもテンコまでだなんて……!」

 

「まぁ、せめてもの義理立てとして、中立の立場で居てくれるって言うしィ? こうして隠れ家としてホテルも提供してくれてるワケだしさ? そんなに気にしなくていいんじゃなぁい?」

 

 その隠れ家のホテルのベッド上に横たわりつつ、好物の飴玉を口に放り、女性向け雑誌を読みながらライムは他人事のように言う。

 

「それは分かるのよ! でもテンコも抜ける意味! それが分からないのよっ! 変に暴れ出したヤツは統治委員会に送り込んだ子が処理してくれたっぽいけど、何の情報も吐かせないのは不自然だからって組織名を勝手に統治委員に伝えちゃったっぽいし! ん゙あ゙あ゙あ゙っっ、もうッ!!」

 

「でも〜、アガリちゃんの言う事も正論じゃない? 

『捕まえて尋問したけど、何の成果も得られませんでした〜』ってやるより、情報を小出しにするのが良いと思うのよねェ〜。潜入してるアガリちゃんが疑われるのも良くないしさ?」

 

「確かに正論よ、でもそれだったら皆に伝えてあるボスの名前でも伝えとけばいいじゃないのッ!?」

 

「あぁー……偽名の方ね」

 

「そう! 『皆の欲望を映す鏡──鏡嶺(かがみね)ルージュ。それが私の信じる人の名だ』──みたいな事くらい言えないのかなぁ!?」

 

「そこまで頭が回る子、そうは居ないでしょ」

 

「機転が利く子だってライムが言うから、中学生のあの子を潜入させたのよッ!?」

 

「機転は利くわよぉ? 私の声色一つで『私の望むプレイ』の用意をしてくれるもの♡ きゃっ♡」

 

「エロの方で気ィ利かせても意味無いのよッ!!」

 

 ガツンと机を殴ると、その衝撃でランプが跳ね、倒れてしまう。ルーシィがここまで負の感情を表に出す事は稀だ、しかしライムはその柔らかな笑みを絶やさずにルーシィを宥め続ける。

 

「でもさ? 組織名を教えたくらいじゃ、あんたの計画に支障は無いんじゃなぁい?」

 

「ダメよ! 『組織的な犯行』ってのがバレたら、余計な警戒に繋がるってのに……!」

 

「あー……個人個人のイザコザに見せ掛ける工作も、全ては組織の存在自体を隠す為、だものね?」

 

「そうよ! なのに、指示を無視して勝手に暴れたバカとアガリのせいで、『組織の存在』が学園側にバレた……!」

 

「うーん。とりま、しばらく大人しくしておいて、来年に向けて用意しておくのがいいかしらね?」

 

「それしかないわ……」

 

 来年──即ち、飂熾冘巫髏の創設メンバーであり副総長である、博愛レイコの入学である。

 レイコが入学したら、在校生の大半を打ちのめし組織に引き入れる──尤もこれは、入学せずとも、つまり現在進行形で(・・・・・・)進めている(・・・・・)計画でもあるが。

 

「あ、そうだライム、来年の新入生達への根回しはできてる?」

 

「モチのロンよ。七天魔にエントリーさせない──これでいいんでしょ?」

 

「ええ。七天魔にエントリーすると、その時点で、エントリーしない生徒達より、より深く(・・・・)見られる。面接も増えるし、精神鑑定じみたテストもやるし。つまり個人情報がより多く持ってかれる事になる。組織の秘匿性が崩れる一因になりかねないわ」

 

 ルーシィレベルになると、精神鑑定だって、何も考えていない凡人や優等生等を演じる事ができる。しかし、凡百の生徒にそれは不可能だと判断して、七天魔として内側からハドマ学園を掌握するのは、とりあえず保留という事になっている。

 

 だからこそルーシィとライムのみで七天魔、更に生徒会に潜入していた。──だというのにライムは女遊びが激しすぎて生徒会の会計をクビにされて、今に至るワケだが。

 横領がバレなかった事だけが唯一の救いだろう。しかしそれも、ライムの手腕ではなく、ルーシィが揉み消したからなのである。

 

「全く、どーして『七天魔になりたい』ってだけで受験生だってのに精神鑑定じみたテストみたいなのやらされなきゃいけないのよッ!」

 

「……あはは〜……」

 

 ルーシィの苛立ちは尤もだ。そしてそんな余計なテストが増えた理由は言わずもがな。そう、去年の夏に起きたナルコの事件がキッカケである。

 トラブルが起きると、それの再発防止策として、余分な作業が増える。世の常だ。

 

「そういえば、吸血鬼部隊の方はどうなってるの? リンコの下に集めたんでしょう? 吸血鬼の生徒」

 

「とりあえずレイコ、レイア、レイラの3人から、ジワジワと人員を増やしつつあるわ」

 

「ヘェ? 役に立ってるのね、モル姉の教え(・・・・・・)」

 

「ええ、とても。──吸血鬼は自主性に欠けていて従者気質。そして自尊心が低めで、褒めに弱い」

 

「んふふっ♡ それなら、集めるならリンコの下が一番よね。リンコ、社長なだけあって指示も的確、強さも相当、カリスマもある」

 

「だからこそ、リンコ先輩にはゲヘナ部隊と吸血鬼部隊の両方を任せたかったんだけどな〜。先輩ならそれくらいできたでしょ?」

 

「もう、レイコに任せるしかないんじゃない?」

 

「レイコにはチンピラ部隊があるでしょ? それが既に遊撃隊みたいなモンなんだし、同じような隊をレイコに任せるワケにはいかないと思うんだけど。というか本人も嫌がりそうだし、それに──」

 

「──レイコの気質じゃあ、吸血鬼部隊の生徒まで感化されて統制が取れなくなりそうだし──と?」

 

「な、によ……珍しく分かってるじゃない」

 

「ルーシィの言いそうな事だもの♡」

 

「……。吸血鬼って、なんか、妙にデリケートよね。従者気質で、身近な環境に流されやすく、しかも、従う者に染まりやすい」

 

「今、吸血鬼部隊の統制が取れているのもリンコの下で働いてるから──ってのも大きいのかしら?」

 

「私はそう見てるわ。だから、無闇にリンコ先輩の統制下から外したくないのよ。同族だし、レイコの統制下に置いた方がいいのでは──っていうのも、分かるんだけどさ……どうしたものかな……」

 

 とはいえ、中立の立場であるリンコの支配下に、いつまでも自軍の武闘派組織を置いておくワケにもいかない。それはルーシィにもよく分かっていた。

 だからこそ、余計に頭を悩ませているのだ。

 

 仮にリンコの統制下から外し、暴力性が服を着て歩いているようなレイコの統制下に置いたとして、そして吸血鬼部隊の生徒がそんなレイコに感化され統制が乱れたら。それこそ、組織は破滅に向かうであろう事は明白だ。

 

 うーんうーんと唸って、枕をポカポカ殴りながら頭を悩ませるルーシィを横目で見つつ、ライムは、雑誌のページを捲る──が、その手を止める。

 

「……ねぇ、ルーシィ?」

 

「んー?」

 

「ある程度の強さがありつつ、大人しい──そんな吸血鬼が居たら、最高じゃない? その子に部隊を任せたり、レイコの補佐を任せる。名案でしょ♡」

 

「そんなの居るワケないでしょ。レイコ達を通じて結構な人数と知り合ったけどさ、レイラくらいよ? そのレイラだって、ヒートアップしたら銃を捨てて笑いながら殴ってくるような、そんな超絶暴力特化種族──それがあの子達『吸血鬼』なんだからさ。御伽噺の吸血鬼とは、まるで違うわよ……」

 

「それがね、居るの! かなり強くて、それでいて冷静さを保つ──そんな、吸血鬼として『異質』な女の子が……♡ じゃーんっ♡」

 

「!?」

 

「読モの、零得(ぜろえ)ルビーちゃん、でーすっ♡」

 

「『キヴォトスボクシング大会中学生部門無差別級優勝──天使のような悪魔ここに降臨──』?」

 

 雑誌の一面を飾るのはトロフィーを高々と掲げる表情の薄い女の子。別のページには全く別人とすら思える、炭酸のように弾けるような、眩しい笑顔の写真が掲載されている。同一人物だとは思えない。それくらい大きなギャップがある。

 そして、写真からも伝わる大人しそうな雰囲気。一目見て、ルーシィは「この子だ」と感じていた。

 

「公式プロフィールは『悪魔』って事になってる。けど、体格に似合わない異常な腕力に真紅の瞳孔。猫のように縦長の虹彩。吸血に特化した、この牙。そして何より──妙に筋肉質に発達した両翼っ!」

 

「とはいえさぁ、大多数の悪魔も似たような特徴を持ってるわよ?」

 

「それはそう。でも見て、ココ! インタビューのところ!」

 

「ん……『来週はキックボクシングの方に出るので、応援よろしくお願いします』……?」

 

「ボクシングに続いて、キックボクシングまで──まるで、とめどなく溢れる暴力性を、格闘技という形で発散しているかのよう。そうは思わない?♡」

 

「────ッ!!」

 

「吸血鬼は、その個体数の少なさから、半ば伝説化しつつある種族。ハドマ以外には、もう居ないわ。ゲヘナに居たモル姉も、もう卒業してるだろうし。だから多分、敢えて種族を隠してるんだと思うの。死にかけレベルのよっぽどの大怪我をしたり、精密検査でもしなければ、外部には自分が吸血鬼だとはバレないでしょうしね」

 

「……どれくらいの強さか、見てみましょう」

 

「そう言うと思って。じゃーん、観戦チケット♡」

 

「え……」

 

「実は私、このルビーちゃんのファンなのよねー♡ スカウトついでに、この大会も見に行きたかったんだけどさ? 抽選、外れちゃって。マジ萎える〜」

 

「抽選になるレベルなの?」

 

「ええ、読モとしてはハドマどころかキヴォトスでトップクラスで人気だもの」

 

「そんな子が、ひょっとしたら吸血鬼で──そして私の組織に引き入れる事ができたら……!!」

 

「かなり大きな戦力になる……そう思わない?♡」

 

「ナイスよライム!」

 

 そして数日後──運命の日はやってきた。

 結論から述べるなら、試合を見る限り、ルビーはルーシィの求める人材としてまさにピッタリで──その日から、同族を利用したルビーへの勧誘が幕を開けることになった。

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