「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
────あの頃の私は、酷く荒んでいた。
溢れる暴力性、というよりは「苛立ち」を暴力で発散するような。そう、まさに
今にして思えば、酷く情けない姿だと泣きそうになってしまう。穴があったら入りたいという言葉があるが、まさにその通り。何なら自分の手で墓穴を掘って、その中に自分の棺桶と共に埋まりたい──何度思い返しても、そういった衝動に駆られそうなくらい、あの頃の自分は、酷く「子供」に思えた。
◆
「あ! うそつきルビーだ!」
「うそつきルビーがきたー!」
「あははははははは!!」
「…………はぁ」
ハドマ自治区の某所にある某小学校に私は居た。やはり「転校生」というものは珍しいのか、色々と変な注目を浴びた私は、とある理由から「うそつきルビー」などと呼ばれるようになった。
転校前も転校後も変わらないんだな──と幼心に諦めの境地に至り、私は転校2日目にして、諦めの溜め息を吐き出す。
次は、どの学校に転校しようか。
ハドマ自治区はとても広大だ。高校はハドマ学園1つに統合されているが、小学校、中学校は幾つも存在している。転校先の候補はまだ残っていた。
自治区が広大と言っても、例えばゲヘナ自治区や幾つもの自治区が集まった結果とも言えなくもないトリニティ程ではない。
南北に長い土地は、例えば北方は住むには厳しい大地が広がっており、もはやレッドウィンターとの境目がよく分からない事になっている。なんなら、レッドウィンターに不法占拠されている土地があるくらいだから。
そんなザマだから、ハドマに住む者達は、種族を問わず北方を捨て、中央〜南方に集中している。
そう……
獣人も、ロボも、人間も、天使も、悪魔も。
そして私──「吸血鬼」も。
『皆さん、揃っていますね。それでは今日も元気に出席を取っていきましょう』
「せんせー!」
『はい、なんでしょう』
「このクラスんなかにィ、ドロボーがいま~っす! ヴァルキューレにつれてってもらいましょーよ!」
『なっ、それは本当ですか? それはいけません。誰ですか、そんな事をしたのは!』
「てんこーせーの、ルビーちゃんでーっす!!」
『え!?』
「ほら、ウソツキはドロボーのはじまりってね!! キューケツキなんてそんざいするワケないじゃん! やーい、ウソツキ〜!」
「「「うそつきルビーちゃ~ん!!」」」
「……」
『……こほん。静かにしてください。それでは出席を取っていきますね』
────吸血鬼。それは、血液を活動の糧とし、または吸血行為により同族を増やすとされる怪物。文献によっては人の成れの果てとする説もあれば、死者が蘇った姿とする説もあり、先天的・後天的を問わず悪魔の一種だとする説もある。
弱点やら対処法なんかも、地域や作者によっては極めてバラバラ。翼の有無すらもハッキリしない。
御伽噺や昔話、平たく言えば「フィクション」に登場しがちな、吸血用の長い牙を持つ種族。
それが「吸血鬼」だ。
転校初日──つまり昨日、私こと
前の学校では、信じてもらえなかった。そして、虐められ、転校するに至った。
だから今回の学校では信じてもらえるよね、と、愚かな期待に胸を膨らませていたんだ。
──結果はご覧の通り、惨敗。私の幼い期待を、クラスメイトは、満面の笑みで踏み躙ったのだ。
キヴォトスにおいて「吸血鬼」とは、やはり──フィクションに登場する「架空の種族」だ。噂では一部の地域では吸血鬼の実在を信じている、なんて聞いた事もあるけれど。どこで聞いたんだったか。
まぁそれはともかく「吸血鬼」の存在というのはまさにゲームだとか、作り話の中のモノとしてしか認知されていなかった。
私がソレを名乗ると、最初の学校ではまず「頭のおかしい子」と扱われ、腫れ物扱いされるように。それだけなら、まぁ幼いプライドが傷付くくらいで済んだだろう。でも、それは私の気持ちが許さず、そのように扱われてからも、吸血鬼だと名乗るのをやめなかった。
そして誰が言ったか「頭おかしいんじゃなくて、単純に嘘つきなだけなんだよ」──。
その一言が、私の寂しい日常を揺るがした。
もちろん……悪い意味で。
子供というのは、残酷だ。子供がそう言うのは、少しおかしい気がするけれど。だけどこの言葉は、かなり的を射ていると思う。
自分が少しでも「悪」だと思えば、その「悪」を徹底的に叩き始める。真偽を無視して、何よりも、己の思い込みを優先してしまう。
だから残酷なんだ、子供というものは。
蟻の行列を、単純に興味本位で踏み潰すように。
肉体と一体化していると知らずカタツムリの殻を取ろうとして、うっかり殺してしまうように。
ダンゴムシを手指で丸める感覚で、ワラジムシを真っ二つにへし折ってしまうように。
私を「嘘吐き」呼ばわりするのは、そういった、子供ならではの「残酷さ」が故……なんだろう。
◆
『──では、これで帰りの会を終わりましょうね。皆さんさようなら』
「「「「せんせ、さよーなら!」」」」
『あぁ、それと。ルビーさんはこの後、私の所まで来てください。少し話しましょう』
「……はい」
「あはははは! ドロボーへのさばきだ!」
「さぁ、おまえのつみをかぞえろ!」
「かぞえきれなぁ〜い! ぎゃははははは!!」
『ルビーさんは泥棒なんかしていないでしょうに。バカなことを言っていないで、早く下校しなさい。戦車や不審者には気を付けるのですよ』
バカなクラスメイト達のバカな声を無視し、私は黙って職員室に向かう。
この先生は、積極的に問題を解決しようとしないものの、最低限、バカを黙らせる事くらいはする。全くの無能というワケではなさそうだ。
「……それで、話というのはなんでしょう」
『ええと、何と言いますか。ルビーさんの、その、種族の自認と言いますか……』
「私は吸血鬼ですが何か? 心配しなくとも生身の肉体を持たない先生を吸血鬼化なんてできません」
『あぁはい、まさにそれです。ルビーさん、今後はシンプルに「悪魔」と名乗ってはいかがでしょう』
「……はい?」
『昨日、軽くですが調べてみたのです。吸血鬼──古代のアビドスには、そんな存在が言い伝えとして広まっていたと。あなたが本当にその末裔なのかは一介の教員たる私には知り得ませんが、少なくとも今のあなたの身を守る事ならできます。しかしね、それにも、まずはあなたの協力が不可欠なのです。妙に大人びているあなたです。私の言いたいこと、分かりますね?』
やっぱりコイツも無能らしい。
「我々吸血鬼は誇り高き種族。なのに自分の種族を偽れだなんて、そんな馬鹿な提案は呑めませんが」
『しかしそれではあなたを誹謗中傷する声はきっと止みません。私や他の教員が止めようにも、飽きるその時まで、やめる事は無いでしょう』
「職務放棄ですか?」
『それは違います。職務を全うするにも、まずは、最低限、本人からの協力がですね……』
「子供の幼い自尊心を自ら踏み躙り、へし折るよう本人に促すのが、先生の言う『協力』なのですね。よく分かりました」
『違っ……話を聞……』
「先生、生身だったら良かったのに。もしそうなら先生を吸血鬼化させて……日光に晒してやるのに」
『……? それは、どういう……』
「私達『吸血鬼』は、それぞれ、何かしらの弱点を抱えて生まれてくるそうです。私の弱点は、日光。真冬でさえ日焼け止めが手放せません。──そんな私の『眷属』には、私の弱点が引き継がれます」
『……まさか』
「ロボットで良かったですね、先生。生身だったら今頃、この赤く燃えるような夕焼けに、文字通り、焼かれていたでしょうね」
『ヒィッ!?』
「
『ッッッ』
「私がそんな事をクラスメイトにしないように──せいぜい、バカの手綱、握っといてくださいね?」
──でも、この職務放棄クソ教員は、どこまでもクソだったらしい。
数日後には、私の弱点が日光であると、クラスの有象無象に
その日は体育があった。汗をかけば日焼け止めも汗で流れてしまう。故にこまめに塗り直さなければ肌が荒れてしまい、果てには、崩れかねない……。
だから、汗の始末をすると同時に、日焼け止めを塗り直すのが習慣だった。……それなのに。
「ルビーちゃ〜ん?」
「……はい?」
「おとしものだよぉ? コ・レ♡」
クラスメイトが、ヒラヒラと振るようにして私に見せてきたのは、常備している日焼け止め。制服、体操服を問わず身に付けているハズなのに、何故、彼女の手の中にあるのか。
落とした覚えは無いし、落とした事などこれまで一度も無い。原理は不明だが、世界は広いもので、なんと「スリ」という行為が存在する。それと同じ原理……というか、同じやり方で盗んだのだろう。
しかし根拠も無くそうだと決め付けるのはクラスメイトが自分を「嘘吐き」と呼ぶのと大差無い──心の中はどうあれ、
「ありが……」
「えいっ!」
「……は?」
そいつは、私の日焼け止めを地面に叩き付けた。まぁ、百億歩譲って、それだけなら顔面パンチ1発くらいで許しただろう。でもそいつは。
「ごめーん、あせですべっておとしちゃったぁ〜。あっ、ふんじゃったー!」
拾うフリをして体重を掛けて容器を踏み付けた。プラスチックで出来ている容器は、子供の体重でも容易に踏み壊す事ができてしまう。
割れた容器から白い日焼け止めクリームが溢れ、その生徒の靴の裏を無意味に白く塗装する。
「うわ、ベタベタしてキモチワル! ふかせろ!」
「っ」
ドカッと強く私を蹴り飛ばす。体格は私と大して変わらないが体重が乗ったその蹴りは中々に響く。校庭の砂と日焼け止めクリームが混ざったソレが、私の白い体操服に、汚らしい靴跡として残される。
とうとう口だけではなく手を出すようになった。いや正確には足だが、そんなのはどうでもよくて。
とにかくこの瞬間──私は、プツンと頭の血管が切れたような感覚がした。
「……焼き殺してやる」
「あー? なに
全力で地を蹴る。表情の変化さえ許さない超速でその生徒の背後に回り、両腕をガッシリ掴むと。
「あ゙ッ!? が、ぐっ……んっ……」
首に噛み付き、吸血鬼化を施す。
原理は分からない、でも生まれ持った技能だから原理は分からなくとも使い方は身体が知っている。
1×1の答えはどう足掻いても1であるように。右足を前に出し、左足を前に出せば歩けるように。重力の存在を知らない幼子でさえ、高所から低所へ物が落ちたり、液体が流れる事くらいならば本能で知っているように。
それらと同じように、ごく当たり前の事として、私は自身の技能「吸血鬼化」を知っていた。そして担任に説明した通り、自身の「弱点」が、そのまま眷属となった者に引き継がれるという事も。
──その「弱点」が、
「あぎっ……ぎゃあああああああぁぁっっ!!!」
「フフ、焼ける痛みは格別でしょう? 銃なんかで撃たれる痛みとは全く異質の痛みです」
「……ッ、が、がぁ……!!」
ほんのりと茶色になる皮膚。やがては薄皮が捲れピンクの皮膚が剥き出しに。ここから更に焼けば、どうなるのだろう──などと、そう考えていた時の私の口角は、無意識に吊り上がっていた。
彼女の背中からは、同族の証である筋肉質で妙に分厚い吸血鬼の翼が生え、服に大穴があく。しかしその翼さえもまた、生えると同時に日光に晒され、逆に彼女に焼かれる痛みを与える。
当たり判定を無意味に増やしただけだ。無様な。
──しかし仕返しとばかりにクソクラスメイトを痛め付ける事に、無意識に愉悦を感じていた私は、すっかり頭から抜け落ちていた。
日焼け止めクリームを塗る為に、ほんの一時的に離脱しただけで……今は授業中であるという事を。
そんな叫び声が轟いてしまっては、周囲の注目を浴びる事になってしまうのは仕方がない。
私が何をしているのか見られるのも、仕方ない。
「き、きゃあああああああっっ!?」
「うわっ!? な、なにやってんだおまえ!?」
『ルビーさんっ!?』
「……はあ……」
こうして、仕返しにクソみたいなクラスメイトを吸血鬼化させて復讐し、私が「吸血鬼」である事をクラス全体に信じ込ませる事に成功した。
……私の放校処分との引き換えに。
ちなみに、私の施した吸血鬼化は不完全だから、日に当たらないように生活する事を心掛けていれば数日後には元に戻れるハズだ。
生まれつき備えた技能だろうと、鍛えなくては、十全に能力を発揮できない。走るのだって投げるのだって、そうであるのと同じように。
そして私は学んだ。バカに構うだけ無駄だ、と。
けれども、編入し直した学校でもやっぱり、同じような話に発展した。
どうしても「吸血鬼なんて嘘だ」や「嘘吐き」と扱われる事だけは、どうにも、我慢ならなかった。
──いい、ルビーちゃん?
──私達「吸血鬼」は誇り高い特別な種族なの。
──雑多な悪魔共とは根本から違う特別な血族。
──その誇りだけは、忘れないでね。
……だぁ?
──ふふっ、まだ分かんないよね。
遠い遠い……それはもう遠い遠い微かな記憶。
幼稚園に上がるより前の白くピンボケした記憶。誰が言っていたんだったか。私に、この「誇り」を植え付けたのは誰なんだっけ。
やたら長い髪で、幼く小さいこの乳首のように、桃色の髪だったような気がする。私と同じ血族だと一目見てわかるくらいの真紅の瞳で、真っ直ぐに、私を見ていた。
◆
小学校中学年になって、ボクシングを始めた。
この頃になると、溢れる苛立ちの発散の仕方を、徐々に学ぶようになっていた。私の場合、暴力だ。ただし人ではなくサンドバッグに当たるやり方で。
吸血鬼とは、平均的なキヴォトスの民よりずっと力が強い。だからその種族としての特性を利用し、同年代・同階級の子供の中では圧倒的最強だった。
高学年になって、キックボクシングを始めた。
溢れる苛立ちは、上半身だけが派手に暴れるのを許さず、下半身にも派手に暴れさせろと私に囁く。
大会に出ればやはり無双状態。幼い頃からずっと
「嘘吐きルビー」などと言われて傷付いていた幼い自尊心は、ここに来て、ようやく回復するに至る。
勝ちまくったからかインタビューなども受けた。
でもそういう場では、流石に「私は吸血鬼」とは言えなかった。なんだかんだ言ってまだ怖かった。信じてもらえず、大バッシングされるのが。
リアルでバッシングされるのはまだいい、しかし私の知らないところで──例えばネット上だとか、そういう私の目に付かない所で好きに言われるのはどうにも気持ちが悪かった。
それでも僅かな「誇り」を投げ打つ気は全く無くリアルではやはり「吸血鬼」を名乗り続けた。
そして中学校。
私は頑固だ、それは自覚している。小学生の頃に何度も虐められたというのに、それでも尚、未だに誰かに植え付けられた「誇り」を胸に抱いていた。
同じ小学校だった生徒はおらず、全員初見の人。だからやっぱり、ここでも私の「嘘吐き呼び」は、健在だったらしい。
虐められるのが嫌ならそう名乗らなければいい。
わかってる、そんな根本的な事なんて。
でもどういう訳だか、基本的に、身近な人達には私の事をちゃんと知っておいてほしくて。ちゃんと見ていてほしくて。そんな──ある種の強迫観念のようなものが、この時の私の中にはあったらしい。
入学数日後には、往来で撃たれる程度には、また虐められるようになった。
──あぁ、コイツら全員、焼き殺してしまうか。
そんな仄暗い、いや、黒い感情が胸の中で燻る。しかし私がそれを実行に移す寸前に、その感情は、日光より眩しい光で照らされたことで、ジュワッと瞬時に蒸発する事になる。
「朝っぱらから通学路で騒いでんじゃないわよ!」
「あぁん? 何だテメーコラァ?」
「げっ、風紀委員会!」
「へっ、風紀委員会がなんぼのもんじゃい!」
「ほらッ、2年の先輩だよ! 死にかけの野生動物みたいにクソ暴れまくるって有名な先輩!」
「ファッ!?」
「逃げろ!」
「私が来たら逃げるくらいなら、初めから余計な事するんじゃないっつーの! バーカ、バーカ!!」
悪役──それも名無しのモブのような台詞と共に同級生を追い払ってくれたその先輩は、私達よりもほんの少しだけ薄い紅色の目で、私を見る。
「大丈夫だった?」
「別に……助けてくれなんて頼んでません」
「はぁん!? 生意気なヤツね! つーかアンタも少しくらい反撃なさい! やられるばかりのクセに強がってたって死ぬほどダサいだけだかんね!?」
「ダサッ……!?」
微塵も自覚は無かったが、恐らく、厨二病というモノに片足突っ込んでいたんだと思う。虐められ、それを無言で耐え、されど暴力的な事で発散して。きっと、そんな自分に酔っていたんだと思う。
でも同じ中学校の風紀委員会の先輩にそう言われ少しだけ目が覚めた……ような気がした。
これまで見た事もない、透明な翼を背中に持ち、小さめのサブマシンガンを両手に持つその先輩は、私を焚き付けるつもりで面と向かって「ダサい」と言ってくれたんだと思う。
でも、自分が「ダサい」事に自覚的になれたのはその先輩が中学を卒業し、高校に進学した後。
その間も私は殆ど変わらず、先輩に「ダサい」と言われた事を引きずっていた。
私の「同族」を名乗る連中に──確かに、私から見ても同族だったが──ハドマを手に入れようとか何とか勧誘されたが、そんなつまらない話は右から左へ受け流して過ごした。
そしてハドマ学園に入学した。
花の女子高校生だし、今度は何か部活や委員会に入ってみるのもいいかもしれない。
勿論、ボクシングやキックボクシングを練習する時間を削らない程度に。尚且つ、幽霊部員などとは言われない程度に。
そこで私は、よく見知った人影を見つけた。
「先輩……!」
「あん? 何アンタ、どっかで会ったことある?」
「え……」
「あぁ、受験の時かな。
「……」
私を「ダサい」と言った中学時代の風紀委員会の先輩は、私の事など綺麗サッパリ忘れていた。まあイジメもそんなもんだ。
言った方は忘れていて言われた方は覚えている。それが世の常。この先輩も、所詮はその程度──。
「にしてもアンタ、人形みたいに可愛いわね?」
「え」
「そーいや電車内広告で見たわ。読モとか何とかを募集してるらしいわよォ。学園の近くに、ドデカイスタジオがあるんだけどさ。どうせ、入学したてで部活とか入ってないでしょ? そんなら暇だろうし行ってみれば?」
「暇だろうしって……。ていうか私、中学生の頃から読モやってるんですけど……」
あぁ、このデリカシーの無さ。変わらないな。
ドストレートに「ダサい」だの「暇だろうし」と言えてしまう、クソみたいな、デリカシーの無さ。普段の、というよりこれまでの私だったら、普通に反発していただろうと思う。
けれど、この時の私にしてみれば、懐かしさすら覚える言葉でしかなかった。
そして私は、先輩に言われたスタジオに、まるで道場破りのように堂々と乗り込み、そのまま流れでその会社の読者モデルに応募してやった。
読者でも何でもないのに、何をやっているのか。
それでもその雑誌の編集部は、私のその胆力と、小学生の頃からボクシングやキックボクシング等で優勝しまくっている私のネームバリューに目を付け数日後には採用通知が届いた。
この時知ったが、ハドマ学園の近くにスタジオを構えるその会社は結構な大手らしい。私が中学生の頃から所属していた会社は小規模もいい所だった。中学生だから給料も安いんだろうな、くらいにしか思わなかったが、単に貧乏会社だったかららしい。私が事務所を辞めて程なくして倒産してしまった。
次の事務所でも最初は吸血鬼を名乗らなかった。でもよく考えてみれば、「
そう思い至り、会社の人にも自分が吸血鬼である事を明かした。
──正直、信じてくれているかは分からない。
でも表向きは信じたように振る舞ってくれるし、吸血鬼のコスプレとかで特集を組むような計画まで持ち上がり、更には「ロリ吸血鬼ボクサー」という妙な属性まで付与される始末。まぁ、正直、あまり悪い気はしなかった。
結局、私が幼少の頃から周囲に求めていたのは、私が吸血鬼であると「信じてもらう事」ではなく。私は吸血鬼なのだと「そのように扱ってもらう事」だったのかもしれない。
それに気付けたのは、あの先輩のお陰だ。
◆
「あ、居た居た! おーい、ルビー!!」
「あ……先輩」
「入部届、見たわよ。統治委員に入るんだってね? 読モの方はどうなのよ? あの後スタジオに行ったらしいけど……ダメだったの?」
「専属モデルになりましたよ。バイトですけどね」
「え、マジ!? まぁアンタなら行けると思ってたけどね! 撮影とかのスケジュール分かったらすぐ報告しなさいよ? 副委員長と相談して色々と調整するから。とりあえず、これからよろしくね?」
「……はい。よろしくお願いします、スズ先輩」
この人が忘れても、私は、覚えてる。
ハドマで──いやキヴォトスでも唯一であろう、まるで御伽噺やゲームに出てくる妖精のようなその透明の翼は、どう足掻いても、きっと、忘れようと意識しても忘れられないくらい目に──脳裏に強く焼き付いている。
いつか遠い未来で、しわくちゃのおばあちゃんになって、自分の名前さえ忘れ去っても。この人への恩義だけは絶対に、死ぬまで忘れないのだろう。
悪の道を強引に閉ざし、手を取って