「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
第1話:第1級危険人物登場、的な
「はぁ…………」
3年1組の生徒・猫田ナルミは、休み時間、机に突っ伏して寝たフリをしていた。欠席は多いものの成績自体は良好、体育の成績も良く、優秀者が集うこの1組に割り振られるだけのことはあった。
しかし今の彼女はクラス内で──否、学園内で、孤立してしまっていた。
飂熾冘巫髏ハドマ部隊で特攻隊長的な立ち位置を担っていたから? ──違う。そんな理由であれば副総長のレイコが生徒会に居られるハズが無い。
二重人格である事を利用し、暴力的な側面を持つ別人格に気に食わぬ存在の排除を押し付けていた、そんな烙印を押されていたからだ。
しかし、烙印と言うには、事実に即した判断だと本人を含む誰もが思っていた。
剣道部・弓道部にも、ここしばらくは顔を出していない。事実上の休部状態だ。後輩2人も、そんなナルミを気遣ってなのか変に連絡は寄越さないし、部活に誘ってきたりもしない。なんなら後輩2人はきちんと部活動をしているのかすら、今の彼女には窺い知ることはできなかった。
ナルミとナルコが同一人物であると察したことで口封じされ、退部まで追い込まれた生徒達への謝罪行脚は、とうに済ませた。頑なに心を閉ざす者にはシャーレの先生の力を借りたりもした。
それも……何度もだ。
それ程までに深く、深く傷付けてしまっていた。
その事実を、その現実を改めて目の当たりにしてしまったからこそ、謝罪行脚を終えても尚、彼女の心が晴れることはなかった。
──けれども、そこで凹んだままではないのが、この猫田ナルミという生徒である。
己の中に眠る「ナルコ」との対話を経た彼女は、見違える程の思考転換を起こしていた。
◆
謝罪行脚を終えて数日後。ナルミは見違える程に普段通りの明るさを取り戻していた。そんな様子を遠巻きに見ていたクラスメイト達は、酷く意気消沈していたナルミが復活したのを見て、これまで通り接する事に決めた。
「おはよ、ナルミちゃん!」
「おはよ。元気になったみたいでよかった……!」
「おはよう! 元気になったっていうより、その、キレイに吹っ切れちゃった! バレちゃったモノはしょうがないよね、って!」
「バレちゃった、って?」
「? 3組のナルコは私の妹じゃなくて、別人格の私ってこと」
「「…………えっ?」」
「え?」
そう──ナルコは、クラスや学園で孤立していたワケではないのだ。近頃は妙に学校を休みがちで、やっとまともに登校してくるようになったと思えば常に寝たフリなどを決め込むなど──あからさまにナルミの方から周囲に対して壁を作っていたのだ。
烙印を押されてだの、そんなのは、全てナルミのただの思い込みでしかなかった。
そもそも彼女が二重人格であると知っているのはレイコ殺害未遂事件を知る者達とルーシィだけだ。事件を知っている十数人から、剣道部・弓道部員を除けば1人として「秘密を知る者」は増えてない。
ナルミは、自分が学校に来ない間にそれらの話が広まっているだろうと考えていた。だから自ら壁を作るような態度をとっていた。
しかし、壁を作られているのが誰から見ても明白だったからこそ遠巻きに接されていただけの事で、二重人格の事が周囲に露見していたワケではない。
リエの翼を切除するキッカケを作ったという事でナルコを──否、ナルミを恨んでいるシエルすら、決して口外はしていなかったのだ。
全ては、ナルミの名誉の為。世間体を守る為だ。
しかし彼女のそのネガティブな思い込みにより、彼女達とシャーレの先生の気遣いは、吹き飛んだ。
「「「「「えええええええっっ!?!?」」」」」
ナルミと話していた2人、近くに居たから会話が聞こえていた生徒達は、同じクラスの優秀な生徒と隣の隣のクラスの乱暴者が同一人物であると知り、学園中に響き渡るのではないかと思う程の凄まじい声を上げた。
「えっ、みんな知らなかったの……!?」
「逆になんで知ってると思ったの!?」
「わ、私、な、なんか避けられてるなって……」
「なんか凄いショゲてるからじゃんッ!?」
「バレてると思って凹んでたのッ!?」
「あわわわわわわ……!」
「え……どゆこと? ナルミちゃん=ナルコ?」
「ってことはさ? スケバンをブッ倒しまくってた暴れん坊ってのも、ナルミちゃんなの……?」
「【朗報】
「いや逆逆ゥ! 【悲報】ハドマ学園で5本の指に入る優等生、実は不良生徒だった」
「あわわわわ……どどどどうしよう、また余計なこと言っちゃった……!!」
しかし──そうやって慌てるナルミとは裏腹に、何故だか、彼女を取り巻く生徒達との距離が離れるどころか、寧ろ、季節外れの転校生を珍しがるかのように、ドンドン距離が近付いていた。
「ていうか、どうして双子のフリしてたの?」
「それな!? 1人2役で学園生活を送るなんて、普通にキツくない?」
「休んでて習ってない範囲も理解してて凄いな〜、なんて思ってたけど、実はその時は、ナルコとして3組の授業に出席してたんだ……」
「普通に自主勉だと思ってた。休んでるのに自主勉なんてヤバすぎだろって内心ドン引きだったけど、まぁリエちゃんとリンコちゃんの次くらいに成績が良いもんね……それくらいやりそうって思ってた」
「「「それな!?」」」
存外、二重人格という話は受け入れられている。ナルミが逆に困惑しているくらいだった。
「あの……その、えっと……」
「どったの?」
「ドン引きしたり、しないんです? ふ、不良とかヘルメット団とかと凄く戦ったりしてきたし……」
「え? そんなのフツーじゃない?」
「フツーだよねぇ。アイツら割と誰にでも絡むし」
────ここは、学園都市キヴォトス。
一般市民も手榴弾を日用品感覚で持ち歩くような修羅の
優等生が、実は異名持ちの有名な不良である──そんな話、ちょっとしたインパクト程度ならあるのかもしれないが逆に言えばその程度。
わざわざ別人のフリをしてまで隠すほどの事でも無かったのだ。
その事にようやく気が付いたナルミは、この時、3年生にして初めて真の意味でクラスメイトと心を通わせることができたのである。
◆
「ったく……たかが二重人格、受け入れられないとか思ったのかねぇ?」
「そう言ってはいけませんわ、ナルミさんご本人は真剣に悩んでらしたのですから……」
「それにしたって、
「あの時の先生のアドバイスを受けての判断──。そう受け取るべきでしょうね」
ナルミが受け入れられたその後から、また新たな問題が、彼女を中心に巻き起ころうとしていた。