「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「──この前のウッカリ二重人格バレから、なんかヤケにナルミの周りに人、多くない?」
「どういう形であれ、そういった個人的な事情をも受け入れられるというのは、素晴らしい事ですわ」
「能天気だなぁ……そんなんで済む話なの?」
「そうであってほしいと、願っているだけですわ」
もうじき、リエは生徒会を降りる。秋になれば、次の生徒会選挙が始まる。そうなれば議長のリエ、副議長のシエルが抜ける事になる。
順当に行けば──次の議長はルーシィ、副議長はアンナ、書記にレイコ、会計に新たな生徒──などそんな形になっただろうに。
議長候補生だったルーシィが抜けてしまった事で2名の欠員が出る事になってしまっている。
必然的に次の議長はアンナとなり副議長か書記、または会計をレイコが請け負うことになるだろう。
レイコはかつて飂熾冘巫髏で副総長という立場を担っていた事から、副議長でもいいのではないかとリエは密かに思っている。
だが、そんなリエの期待を裏切るような凄まじいタイミングで「種族の代表」といった大きな主語を掲げて、1人の生徒が名乗りを上げた……。
◆
「────三頭政治、ですか……?」
「う、うんっ! あのトリニティみたいに、3人の生徒会長が共同でトップに立つようにすれば──! 3種族からそれぞれ1人ずつ生徒会長を選ぶのっ! どうかな!?」
「どう、と言われましても……」
ある日の放課後。生徒会室に急ぐリエを呼び止め生徒会の新たな在り方を提案する生徒が──1人。そう、天使と悪魔と人間のサラダであるこの学園に降臨した、這いよる混沌──猫田ナルミである。
ナルミは、三頭政治を提案した。議長と副議長、書記と会計からなる現在の生徒会を一新しようと。トリニティと同じような在り方にしようと、そう、提案したのだ。
天使と悪魔、人間の3種族からそれぞれの種族を率いる生徒会長を選出しようと。
「そうすれば今よりも学園内が平和に、というか、平等になるんじゃないかな……って思うんだ」
「つまり──『今のハドマ学園は不平等だ』と?」
「ッ……うん。ぶっちゃけ不平等だよ……!」
「!?」
「リエちゃんは天使。シエルちゃんもそう。書記のアンナちゃんも天使だよね。悪魔はレイコちゃん、たった1人。しかも人間は誰も居ない!」
「それは……立候補しないからでは?」
「違うよ。立候補したところで選出されないって、事前に分かっちゃってるからだよ」
「何ですって? それは、聞き捨てなりませんね。立候補者が複数居た場合、選挙にて選出するという形式をとっております。立候補してもいないのに、選出されないのが分かっているなど、そんなことは絶対に有り得ませんわ」
「分かってる。だってルーシィちゃんが立候補したあの時、飂熾冘巫髏のメンバーには『飂熾冘巫髏に都合のいい駒としても使えるから、針村ルーシィに投票しろ』って指令が出てたもん」
「なっ!?」
「まぁ、それを抜きにしてもルーシィちゃんは優秀だったから、普通に当選してただろうけどさ」
「……」
「ね。リエちゃん、そういう裏事情、全く知らないでしょ。なのにどうして『この学園は平等』なんて言えるの? 本当に平等かも分からないのに」
「……しかし、誰もが下克上できるような、そういうシステムがありますわ」
「そうだね。この学園、実力主義だもんね。だから良くも悪くも平等なんだよね」
「そうで──」
「でもね。その時点で、もうダメなんだよ?」
「え……?」
「分からない? 天使と悪魔と人間では、それぞれ結構な種族差がある。だから『機会』だけが平等に与えられていたとしても、そもそもそれを満足には発揮できないんだよ、私達『人間族』はさ」
「ッ……!!」
「ハドマで一番数が多い天使族は、頭がキレる子が多い。それと、稀にとんでもない怪力を持つ生徒が出現する。リエちゃんがそうだね。悪魔族は天使族よりも頑丈さが目立つし、膂力も、全体的に高い。それに比べて私達人間族は、秀でてる所はないよ。別の自治区には、壁を走れるとんでもない生徒や、最強と名高い悪魔族とすら互角以上に渡り合える、スゴイ生徒も居るみたいだけれど──少なくとも、このハドマには、そんな傑物は1人も居ないよ」
「しかしハドマは昔から実力主義だと──」
「だから、言ってるじゃん。そんな『機会』だけを平等に与えられたところで、非力な人間族は、何もできやしないって」
「ッ」
「だから変えようよ。生徒会の在り方そのものを。失楽園の在り方そのものを、根本から変えようよ。そうでなきゃハドマ学園は今のままずっと、天使が主導の不平等な学園のまま──」
「話は聞かせてもらったよッ!」
ドガシャアッ、と引き戸を蹴り飛ばして現れる、2人のクラスメイトのシエル。少し話すのにしては妙に遅いので、リエの迎えに来た次第である。
戸を蹴り飛ばした彼女の顔面には青筋がビキビキ浮いている。誰がどう見ても、キレている。
「リエの政治が不平等だなんて、言ってくれるねぇナルミ! レイコの打倒が失敗に終わったからってリエに八つ当たりしてんの!? ええ!?」
「そんなんじゃないよ! 私はただ、天使と悪魔も人間も平等に扱うべきって言ってるだけだよ!」
「だァから! 平等に『機会』を与えてんじゃん! それをフル活用できない人間サイドに問題があると考えないワケ!?」
「機会だけがあっても仕方ないでしょ! フル活用するための地力が無いんだから!!」
「ハンッ、そんなの努力不足の言い訳だよねェ!」
「努力不足? 何よそれ。自分は努力したから今の地位があるとでも言いたいの?」
「他に何があんのさ?」
「────」
シエルのその返答を聞いて、遂に燃え盛る怒りを露わにしたナルミは。静かに目を閉じ、ブツブツと何か呟く。次に目を開けると、ここしばらくずっとなりを潜めていた暴君が表に出る。
「どこが『努力』だよ? 連邦生徒会対策委員会の委員長になったのも、ルーシィの後釜で副議長ってポジに落ち着いたのもッ! リエに胡麻擂りしてたお陰じゃあねーか! テメーの努力で勝ち取ったと本気で言ってんのか? 脳内お花畑かよチビ天使! 脳ミソまで小さく纏まる必要ねーんだぞ?」
「はぁ!? 急に何なの!? ワケわかんない!」
「七天魔に入れた経緯だってそうだろうがよッ!? 失明したリンコから譲られる形でたまたま七天魔に入れただけのクセになァ!?」
「それ、は」
「胡麻擂りの結果を『努力の結果』なんて言って、それっぽく取り繕ってんじゃねーよ、バ〜カ!!」
「ナルミさん──いえ、ナルコさん。それは、その認識は違いますわ」
「あぁ? 何がどう違うってんだ、言ってみな?」
「シエルさんは努力していますわよ。私は、それを見込んで、たとえ表向きとはいえ彼女に連邦生徒会対策委員会の委員長を任せ、そんな彼女を副議長にしたのです」
「じゃあ単なる
「募りましたわよ!」
「そりゃ『設立後』だろーが!」
「!」
「設立する前に『こういう委員会を立ち上げるので部員を募集します』って宣言をしたのかよ? って聞いてんだよダボが! 表向きとはいえ、委員長にシエルを置くことを決定した後に部員を募集したの忘れたのか? 脳内お花畑のお姫様よぅ!」
「ッッ……!!」
「──お前さ。差別発言ばっかしてるシエルのことよく庇ってるけどさ。表に出さないだけで、お前は行動で悪魔族と人間族を差別してンだよ」
「そんな事ありませんわ!」
「じゃあどうして、ハドマ学園の過半数の生徒達が飂熾冘巫髏に加入してたんだ? それが答えだよ、我猛リエ。過半数が学園に反旗を翻すだなんてさ、どう考えても異常事態だ。暴力か何かで無理矢理に従わされてた生徒が大半──とか思ってたのか?」
「それ以外に何が……ッ!」
「チンピラ部隊みてーな外部組織ならまだしも──ハドマ部隊みてーな内部組織で暴力での支配とか、頭悪すぎだろ。吸血鬼は『強さ』に惹かれるから、例外としてもな。けど、吸血鬼なんざ100と少しくらいしか居ない。それ以外の過半数が飂熾冘巫髏だった事実を、よく考えてみろよ」
「っ、お金で釣られたのではないんですの……?」
「バカが。人間ってのァ、いや天使と悪魔もだが、悪意を持つと纏まりがより一層、強くなるんだよ。悪魔も私ら人間も差別を受けていた意識があった。ルーシィはそこにも目を付け、憎悪を煽ったんだ。そして完成されたのが『飂熾冘巫髏』だ……!」
ルーシィの真の目的は「失楽園への復讐」でありナルコの言うような「差別」等を無くそうとまでは考えていない。
しかしルーシィは「仲間集め」の際に、そういう憎悪を煽る事でより強く組織の結束を固めていた。表立って、こうしろと騒ぐ必要は無い。仲間集めに必要なのは「大義名分」であり「叩き棒」である。
当然ながら、リエには差別している意識は微塵も無い。可能な限り平等に接しているつもりだった。
しかし、ナルコの発言の通り、何かと親友であり幼馴染であり同族であるシエルを優遇しているのは間違いない。これはどう足掻けど覆せない歴然たる事実なのだ。
「テメーの天使優先政治に呆れ果ててたヤツがさ、大勢居たんだぜ? だから、アタシも飂熾冘巫髏に入ってたしさ」
「裏切り者……」
「シエルさんっ!」
「おーおー、裏切り者で結構さ。失楽園の在り方を変えようとしてるんだ、そういう意味でも学園から見れば裏切り者だろうからな」
「……しかし、今から三頭政治にするなどと……」
「何をするにも『遅すぎる』ってことはないのさ。全校集会を開いて投票でもしてみようじゃないか。お前が真に求心力を持つ議長サマってんなら、私の言い分なんか風の前の塵に同じ。吹けば飛ぶような戯言として、軽く流されるだろうよ」
「良いですわ。ではそこまで言うなら。全校集会の開催は1週間後に。生徒に向けては明日、放送でも入れましょうか。生徒達の心を動かす演説の用意をしておきなさい」
「クックックッ……そうでなくてはな」
猫田ナルミは──ナルコは、変わった。
シャーレの先生の助言を受け、アプローチ方法を根本から変えるようにしていたのだ。シエルの細い首に、今にも手を伸ばそうとしていたのを、強靭な理性で押さえ込んでいた。それが出来ただけでも、まずは大きな一歩だと、
そして、その1週間後。演説と投票が行われる、学園の未来を運命付ける全校集会が、始まった。