「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
ルーシィがヴァルキューレに出頭した、次の日。その日のゲヘナ学園内では、新しい生徒会長が逮捕されたという話題でもちきりだった。
それはもう、政治に興味の無い生徒さえその噂を口にするくらい、大きな話題となっていた。
その頃、
「は……?ルーちゃんが、なんだって?」
「だから、ルーシィは出頭したのよ。自分からね」
「はぁ!?」
「そうする事で、この併合問題は収まるからって。まぁルーシィが居なくなった後の事の行動は事前にあの子に聞いてるから、大丈夫だけどさ」
「いやいやいやいや、大丈夫なわきゃないでしょ?何言ってんのライム?頭湧いてる?」
「落ち着きな、レイコ。ルーシィの目的は既に達成されてるからこその
「ルーちゃんが捕まってるこの状況で!?無理よ、そんなの!ルーちゃんもなんてことしてんのよッ、まだ『交流会』って名目すら完成してないのに!」
「それくらいならあんた1人でもどうにかなるって思ってるからでしょ」
「私1人で?組織をやりくりしろっての!?無理よ私には!私にはルーちゃんしか居なかったのに!」
「……。組織は私がやりくりできるわぁ、元ハドマの会計だもの、それくらいはヤレて当然よ」
嘘だとレイコは直感した。ライムは飽きっぽい。気に入ったセフレもふとした拍子に捨てるくらい、他者への思い入れというものが「無い」のが彼女。組織への思い入れも無いに等しい。ここに居るのはルーシィが居たからだ──とレイコは思っている。
今はアガリを手元に置いているライムだがそれもいつまで続くのか分からないくらいだ。
だからこそ、レイコは気付いた。ライムの発言に込められた裏の意味に。
「……ルーちゃんが戻るまで耐えろって事ね?」
「そ。ルーシィが戻ってくるまでの辛抱よ」
「いつになるかも分かんないのに……」
「すぐに戻ってくるわよ。大丈夫」
「私と違ってルーちゃんの腕っぷしはカスだけど……大丈夫なのかなぁ……」
(腕っぷし含めて、ルーシィ自ら脱獄できるなんて思えないのよねぇ〜。とはいえ、シャーレの先生はたとえ甘くても脱獄には手を貸さないだろうから、そうすると────どうやって脱獄するのか……)
レイコもライムも、そこについては同じ想いだ。ルーシィは決して強くない、タイマンだと本気でも七天魔で下位レベルだ。
素の腕っぷしも強くはない、ひたすら頭脳だけが戦闘における彼女の持ち味なのに……と。
「──あれ?確かこの学園併合問題って、ハドマの生徒会長を騙して、勝手にゲヘナの生徒会長と調印したのが原因だよね?連邦生徒会も、調印の破棄も両校の合意があれば可能って言ってたし」
「そうよ?」
「てことはだよ?ルーちゃんに騙されたマコトが、ルーちゃんの計画を台無しにしてやろうとハドマの生徒会長と『調印破棄』で合意したら……」
「…………あっ!?」
「ハドマの生徒会長は、ハドマを復活させたいって今でも思ってるはずよ。ならマコトの返答次第ではゲヘナ学園とハドマ学園が再び別々になる可能性があるんじゃない……?」
「ヤバい、かも……!?アガリ、今すぐ皆を集めて!羽沼マコトを捜索するわよぉ!!さっさと見つけて捕らえて──私自ら
こうしてレイコとライムの指揮で、飂熾冘巫髏はゲヘナ学園の旧生徒会「万魔殿」の議長、マコトの捜索を開始した。
◆
ゲヘナ学園でマコト捜索が始まった頃────。当のマコトは、捕らえられたルーシィの面会の為にヴァルキューレに来ていた。
まだ簡単な取り調べの段階なので、まだ矯正局に送致されていないからである。そもそも、矯正局に行く事になるのかさえ、未だに不明瞭であった。
「キキキ、捕まったと噂を聞いて来てみれば、か。まさか本当に捕まっていたとはなァ」
「……面会者ってマコトの事だったの……!?」
「何とも無様な姿だなァ、針村ルーシィ?この私を裏切るからこうなるんだぞ」
「まさか初っ端からあんたが面会に来るとはね」
「話を聞け」
「で?何の用よ。捕まった私を、虫籠の虫を見るが如く観察しに来たのかしら?」
「フン、虫籠の虫とは言い得て妙だな。そうだな、幾つか話したい事はあるにはある。が、面会時間は限られているようなのでな。手短に話すとしよう」
「そーね、こちらとしてもその方が助かるわ。私、まだやる事あるし」
「囚人風情が……」
「あんたも一歩踏み出してりゃこうなってたわよ。今回はたまたま、それが私だったってだけでね」
「どうだかな」
ガラス越しにルーシィを見下ろし、パイプ椅子にふんぞり返る。そんな彼女の様子を、ルーシィは、相変わらずだと溜め息混じりに冷たい目で見る。
「──今日か明日、旧ハドマ学園に、万魔殿からの使いを送る。サツキはお前の部下に籠絡され、最早使い物にならないからな。面倒臭がりだが、優秀な部下が居てな。ソイツを使いとして送る事にした」
「!」
「無論、旧生徒会の『失楽園』にな」
「……私との調印を『無かったこと』にするつもり?確かに、私が犯罪者として捕まった以上、あんたがリエと合意さえすれば……今回の併合は無かった事になるんでしょうね」
「あぁ、相変わらず話が分かるヤツだな、お前は。まさにその通りさ。私を裏切った罰だ、達成されたハズのお前の計画をも滅茶苦茶にしてやる」
「……あっそ。そんな杜撰な計画、上手くいくなんて思えないけどね。お粗末過ぎて鼻で笑っちゃうわ」
「フンッ!負け犬の遠吠えだな。愚かにも捕まり、檻の中に押し込められた貴様に、そう鼻で笑われる筋合いは無いと思うが?」
達成されたハズの計画を滅茶苦茶にされるのは、ルーシィにとっては屈辱だった。マコトも、それが分かっているからこそ、彼女を煽りに来たのだ。
しかしルーシィはここで、別のカードを切った。
「──ホント、バカよね。私が捕まったって認識がそもそも間違ってんのにさ」
「……何だと?」
「私は『出頭した』のよ。自分からね。そんな奴が何も用意してないとでも思ってんのかしら?」
「「!?」」
ルーシィとマコトのやり取りを字で記録しているヴァルキューレ生徒は、ビクリと肩を震えさせる。つい昨日「シャーレの先生」により連れてこられたルーシィが、更なる手を用意していたとは、到底、思えなかったから。
「とはいえ、飂熾冘巫髏の
「……ハドマ部隊?何を言っている?まるでハドマの生徒以外にも飂熾冘巫髏の構成員が居るかのような物言いだな?」
「あらぁ、この程度の文脈なら読み取れるのねぇ♡ 偉い偉い♡────まさに、その通りよ」
「!?」
「ハドマ自治区は、他の自治区と比べて細長くて、隣接している自治区がキヴォトスでトップクラスに多いのが特徴よ。私、こう見えてトリニティ出身のトリニティ育ちなの。────ならさ、
「な……にィ……ッ!?」
「私がハドマに来たのは小学校に上がる時なのよ。でも私の家はトリニティに近い所にあったからね。引っ越してハドマに進学した後も普通に交流くらいあった。──後は簡単。友達の友達の友達の友達の友達の友達────みたいにさ、まさに、芋蔓式に人員を確保できちゃったわ。ゲヘナとの確執を煽る感じで勧誘したら秒よ、トリニティならね」
「じゃ、じゃあ……飂熾冘巫髏の構成員は……!!」
「んー、おおよその数字だけど、ハドマで300人、トリニティで500人、レッドウィンターで100人──それと……ゲヘナで少なくとも400人は居るわね」
「なッ、何ィィィーーーーッ!?!?」
「ホントはレッドウィンターだけで1000人は稼げる予定だったんだけど、アイツら思想強すぎ。私じゃレッドウィンターのヤツら束ねるのは無理だわ」
やれやれ、と肩を竦める。レッドウィンター生の思想の強さは言わずもがな。マコトでも、まともに返事をすることは出来なかった。
ルーシィは、ハドマ自治区という「他の自治区に接している」という立地をもフルに活用している。
他の自治区にもメンバーが居るからこそ、スズ達率いる統治委員会からの追跡から逃れられている。飂熾冘巫髏の規模がハドマを超えているのは幹部や一部の部下くらいしか知らない情報であり、これはハドマの上層部、七天魔すら知り得ない事だった。
「所謂、レイコの舎弟?ってのもいるらしいから、舎弟のチンピラとかも全員含めたら、軽く2000人は超えるんじゃなかったっけ?この前、ライムが算出してたけど忘れちゃったな……うーん……」
「に……にせん……にっ、にせ…………」
「ふふっ、どうしようね?ゲヘナ学園の全校生徒の半分だよ?もう、十分に大きな学園レベルの戦力があるワケだけどさ。学園内で3%の支持率しかないマコトちゃんはぁ、どう対抗するのかしら♡」
「……風紀委員会を使う!!」
「バカなの?その風紀委員会ってさ、風紀委員長のワンマンでしょ?モル姉を含めたって2000人なんか到底倒せない数字よ」
「ッッ…………!!」
「しかも様々な方向から同時に襲われたら?対処が追いつかないわ?」
「っ!……いや!司令塔たる貴様がここに居るんだ、誰がソイツらを統率する?統率者無くして、人数は纏まらない!ましてや、飂熾冘巫髏のような荒くれ集団ならな!!」
ピクリと眉が反応する。マコトにしてはいい所を突いてきたな──と、ルーシィは密かに感心する。しかしその感心もすぐに薄れ、彼女の口元は、薄い笑いを形作るに至る。
「だから──私は近い内にここを出るのよ」
「何を言っている?……まさか頼んだのか!?その、ハドマ部隊以外に……!!」
「いいや違うわ。私が今回、助力を頼んだのは──飂熾冘巫髏とは無関係もいいところの、完全なる第三者よ。でも決して単なるバカではないハズよ、私の見込み違いでなければ……だけどね」
「貴様……何を企んでいる……?」
「べぇつにぃ?マコトちゃんがリエと合意して学園併合を解消したって、それはそれで構わないわよ?どちらにせよハドマ学園はプレハブ校舎状態だし、ゲヘナからの支援が無きゃキツイ状態なワケだから併合を解消したら困る事になるのはハドマの方よ。寧ろ、ゲヘナと併合している今だからこそ、学園を建て直すチャンスだからねぇ」
「どちらにせよ、私がどう動こうと貴様にとっては何の痛手にもならない……のか」
「せーかい♡ そもそも今は囚われの身だしねェ?損も得も無いよね〜☆」
「……」
「どうせ動くなら自分に──自分達に得がある方を選ぼうよ。広い目で、長い目で見てさ」
「なら私はハドマとの併合を解消し切り捨てるぞ。あの広大な土地は確かに魅力的ではあるがな……」
「トリニティにも攻め込みやすいのになー♡」
「ッッ!!」
「次に私達が会う時はシャバよ♡」
「言ってろ、囚人め。次に貴様が私の顔を見るのはテレビ越しだろうな。ハドマとの併合を解消すると記者会見を開いてやる」
「あ、そ。──最後に1つ、教えてあげる。『善は急げ』、『思い立ったが吉日』よ、マコトちゃん」
「何を思ってそんな事を言うのか知らないが、私は貴様に『ちゃん』付けで呼ばれる筋合いは無いぞ。牢に居るのは貴様であり、自由なのは私だ。そこを履き違え────」
履き違えるなよ──マコトのその言葉は最後までルーシィに向けられる事はなかった。けたたましく鳴り響き始めたサイレンがマコトの声を掻き消したからだった。
ジリリリリリリッ!!と鼓膜が震えるような音が響き、面会は当然ながら中断となってしまう。何が起きたのか分からないまま房に戻されそうになったルーシィ、しかしその時、壁を突き破って拳が1つ飛び出してきた。その拳は、まるでウエハースでも裂くように、メリメリと壁を引き裂き──呆気なく破壊されてしまった。
「うわあああっ!?」
「きゃっ!!」
マコト側の監視員は、素早くマコトを面会室から避難させる。ルーシィの監視員はと言うと、彼女と一緒に瓦礫の下敷きになってしまった。
そこからすぐに身体を起こすと、壁を突き破って侵入してきた少女──赤い着物を纏い2本のツノを生やした金髪ツインテールの鬼の少女に銃を向け、威嚇する。
「止まれッ!!どこから来た、お前!」
「邪魔」
「きゃんっ!」
突き飛ばされただけに見えたヴァルキューレ生、しかしそのパワーは、ただの突き飛ばしにあらず。壁に叩き付けられ、瞬時に気絶してしまった。
「あ。下敷きになっちゃった?ごめんなさいねー」
「イタタタタ……ッ……あんたの脱獄方法ってマジにこんな強引な方法なワケ……!?」
「力で解決できる事なら力で解決するのが手っ取り早くてイイのよ。──えっと赤髪ポニテ、金の目、大して大きくもない胸。うん、聞いてた特徴と一致してる。あんたが針村ルーシィね?」
「誰の胸が貧乳よ!……まぁいいわ。で、どうやって外に出るの?」
「え?来た道を戻ればいいだけじゃない」
「えぇ……」
「とりあえずコレ。あんたのスマホと制服。名前で管理されてあったから、持ってきといてやったわ」
「あっ、助かる〜!ありがと!」
「いいからさっさと着替えなさいよ。囚人服で外に出るワケにもいくまいし」
「そーなのよね、助かったわ〜」
鬼の少女──
ユウナの脱獄経路はまさに最短だ。壁など、全て破壊しているからである。お陰で、ヴァルキューレ生徒の追手の処理も最小限に抑えられ遂にユウナとルーシィは脱獄を果たす────。
「あはははっ♡ ホントに脱獄できちゃった♡」
「さぁ、見ず知らずのあんたを脱獄させたんだし、絶対に約束を果たしてもらうわよ、針村ルーシィ。思う存分、破壊を
「えぇ、もちろんよ──鬼神魔王、賽鬼ユウナ!!あんたの力を借りたいなら、金なんかじゃない──あんたが暴れる『場』を用意すればいいのよね!」
「そうよ!ヘルメット団のバカはそれくらいの事に気付けないから、このあたしに破壊されるのよ!!アーッハッハッハッハッハ!!」
出頭前────全ての用意を整えたルーシィは、トリニティの仲間へ連絡を飛ばしていた。
トリニティの自治区に新設されたというブラックマーケットに住まう、百鬼夜行を停学中の生徒は、きっと力になってくれると。
交渉条件なども全て、事細かに指示をしていた。
ユウナは連邦生徒会が「新・総力戦」に指定する程度には、外部にもそれなりの情報が漏れている。だからルーシィもそれらを前提とした作戦を立てることができていた。
「飂熾冘巫髏、最初で最後の大舞台!天使も悪魔も関係ないッ!キヴォトスをステージとした大戦争を起こしてやるわッ!!」
「おっ!イイねイイねぇ!!トリニティとゲヘナの軋轢に火ィつけちゃうカンジ〜?」
「それも悪くないわ──いや!それくらいのことをやらなきゃねぇ!火は大きく燃えるほど熱く、高く燃え上がる!!飂熾冘巫髏の幹部と合流でき次第、トリニティとゲヘナの両校に宣戦を布告する!!」
「ひゅー!やるねぇあんた!気に入ったわ!戦争が終わるまでは、あんたについてってやる!」
「そいつは助かるわね……!」
「いたぞ!こっちだ!!」
「捕まえろー!」
「ひえぇぇ、こんなのバレたら始末書モノだぁぁ!」
「おっと。来たわね、逃げましょ♪」
「そーね!しばらく撒いて、それから本部に帰る。でないと、本部がバレちゃうからねぇ」
「回りくどいなぁ、全員ブッ倒せば?」
「ダメよ。もし無理にヤツらに接触して発信機とか取り付けられたら大変だし。ぶっちゃけこの制服も怪しいと思ってるわよ、私は」
「あっそーか!頭良いなぁ」
「あんたが向こう見ずなだけよ……」
ヴァルキューレから逃れた2人は、ハドマにある飂熾冘巫髏の本部へ向け逃走を開始。飂熾冘巫髏と各学校とを巡る大きな戦いは、もう、目の前にまで迫ってきていた────。
「待っててレイコ────とびっきりの、最ッ高のステージをあなたに用意してあげるわ……♡」