※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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第3話:運命の全校集会

 

 1週間後。遂に、学園の在り方を決めるための、重大な全校集会が開かれた。

 まずは、何の事だかイマイチ分かりきっていない生徒に今回の全校集会の主旨を伝えて、それぞれの陣営が演説を挟んだ上で投票を求める──という、これからの流れがリエの口から説明された。

 まずは、提起者であるナルミから演説を始める。

 

「──古くから、この学園は実力主義による平等を謳っています。入学したてホヤホヤの新入生でも、勉強の成績がイマイチ良くなくっても。ある程度の実力があるだけで一定の権力が認められています。それが、皆さんよくご存知の『七天魔』制度です。なんなら、七天魔制度を利用して、よりスムーズに生徒会にも入りやすい慣例もあります。しかし──これって、本当に『平等』と言えるでしょうか?」

 

 生徒達の反応はイマイチだ。しかしナルミは更に言葉を続ける。

 

「考えてみてください。私のようなただの人間族、議長のような天使族、スズ委員長のような悪魔族、会計のような吸血鬼族──我が校では4つの種族がごちゃ混ぜになっていますが、それぞれの種族にはそもそもかなりのスペック差があり、そのせいで、平等に与えられているハズの『機会』を満足に発揮できないで居るのです。人間族だけがスペック的に劣りすぎているせいで、どう足掻こうが、人間族はデフォルトで扱いが悪いのです」

 

「お前も元七天魔だろー!」

 

 人間族ではない何者かからの野次が飛んでくる。しかしナルミは動じない。

 

「そうです、私も元七天魔です。しかしこれまでの七天魔の変遷をよく思い返してみてください。特に私と同じ3年生の皆さん。──ここ数ヶ月、そして私達3年生が入学してから──人間族の七天魔は、何人、在籍していたと思いますか?」

 

 生徒達がザワつきだす。

 

「現在3年生の私達が入学した頃には、平井クロンという先輩が居ました。統治委員会の、先代委員長です。クロン先輩は、人間族であり七天魔でした。そしてこの先輩の他には、この私、猫田ナルミしか人間の七天魔は存在していないのです。現3年生が入学して現在に至るまでの約2年半、入れ替わりも激しいハズの七天魔で。たった2人しか、人間族の七天魔は存在していないのです!!」

 

「……マジか」

 

「確かに翼が生えてるヤツばっかだよね」

 

「ん? 双子の妹のナルコはノーカン? ナルコも元七天魔じゃん」

 

「なんでも、ナルミとナルコは同一人物らしいよ。二重人格とか何とか1組の周辺では噂になってた」

 

「ファッ!? 1人2役を演じてたってコト!?」

 

 人間の七天魔は、クロンとナルミだけ。2年生と3年生はその事実にハッとさせられ、クロンの事を知らない1年生も「人間の七天魔、居ないなぁ」と改めて思い知らされていた。

 

「生徒会に入るには、七天魔を足掛かりにするのが通例となっていますよね。しかし先に述べた通り、そもそも七天魔に人間族が入れないので、必然的に生徒会にも『人間族以外』ばかり集まっています。見てください、今の『失楽園』を。議長、副議長、書記──役員4人中3人が天使族が占めています。これは、もはや『天使族による独裁』とも言えるのではないでしょうか? 私はこの『権力の集中』を解消したい。そこで天使族、吸血鬼を含む悪魔族、人間族からそれぞれ代表を選出した『三頭政治』に移行するべきだと、ここに主張します!!」

 

「おぉー! いいぞやれやれー!」

 

「難しい事は分かんないけど、天使ばかりに権力が集中してるのはマズイ、ってのは分かった」

 

「ざけんな! 自分で掴み取ればいいだろーが!」

 

 生徒達の反応は、好意的な反応が過半数だった。ナルミの見込み通りやはり悪魔族と人間族の反応は良さげだ。反対に、天使族の反応は良くない。当然だろう。

 

「──以上です。失楽園側、質問や主張があれば、どうぞ」

 

 言いたい事を言い終えたナルミは、リエに演説の権利を投げる。

 

「質問は──特にありません。私は『現状維持』でよいと考えておりますわ。ナルミさんは『天使族に権力が集中している』とお考えのようですけれど、そもそも、天使族に権力が集中しているからとて、悪魔族や人間族の皆様に不利な政治をしている等の事実はありません。片方に権力が集中する事によりもう片方が不利や被害を被るなどの事実があれば、すぐに改善されるべきです。しかし、我々の自治は種族など関係なく執り行われるものでありますし、どちらか片方が不利や被害を被っている等の事実もありません。そうであるなら、我々天使族に権力が集中している事に、何か問題があるのでしょうか? まさか、何か問題が起きているワケでもないのに、

『権力が集中している事そのものが問題だ』などと仰るおつもりですか? ────以上です」

 

 天使族から、体育館が震える程に凄まじい盛大な拍手が沸き起こった。そしてリエの完璧とも思えるその返しに、渋い顔をする悪魔族と、人間族。

 

「問題? ──ええ、とっくの昔に起きています。大多数の生徒の目には見えにくい形ではありますが確かに既に『問題』は起きています。それを議長は

『でも、ハドマ学園は実力主義の学園ですから』で圧殺しているんです。封殺しているんですよ」

 

「……聞きましょうか?」

 

「皆さんご存知の通り、七天魔であれば、優先的に予算が降ります。現在はありませんが、連邦生徒会対策委員会などの生徒会直轄の組織もまた同様に。そしてこの連邦生徒会対策委員会の委員長は議長と同じクラスであり幼馴染の弖使魔シエルが委員長に就任しました。しかしこれは、投票などで決まった人事ではなく、議長自らが任命した形になります。学園を守る為の大事な組織ですから、信頼のおける友人に任せたい──という気持ちはわかりますが。傍から見れば同族に重要なポジションを任せているだけ──言わば、学園を親族経営しているような。そんな歪んだ形に見えてしまいます」

 

「それは、穿った見方というものですわ」

 

「果たして本当にそうでしょうか? 大した成果もあげられない話し合いメインの組織なのに、やたら予算を注いでいましたよね。学園を防衛するという大義名分があるからでしょうか?」

 

「大義名分などと、そんなつもりはありませんわ」

 

「そうでしょうね。では、七天魔の運営する部活や委員会の予算分布はどうなっていますか?」

 

「? それは……申請があれば、都度……」

 

「七天魔であれば予算は優先して降りる──まぁ、それ自体は七天魔の特権なので良いとしてもです。その中でも、予算の振り分け方が絶望的に変です」

 

「具体的には?」

 

「まず、統治委員会。学園及び自治区全域の治安を維持する組織ですが。何ですか、あの小屋モドキ。初めに見た時、安いプレハブ小屋かと思いました。校庭の隅っこにポツンと建ってる、コンテナハウスみたいな、ちゃっちぃ建物。アレが、統治委員会が所有する牢屋って、本気ですか? 聞く所によればロケラン数発で破壊されたそうですが?」

 

「統治委員会はその活動内容上、弾薬などの消費が激しいですから。そこに予算を大きく割いている、その結果でしょう」

 

「だから、足りてないから補填しろって話ですよ。美食研究会対策委員会、いえ、料理研究会の部長も七天魔だったと思いますが、ぶっちゃけ、そこまで予算を割くべき部活ではありませんよね? そこに流す予算があるなら統治委員会に流すべきでは?」

 

「食材や機材の物価は高騰してますし、部員の数も多いですから」

 

「統治委員会の方が多いですけどね。もっと言えば技術開発部の方が多いですけど? 全校生徒の1割以上が技術開発部ですよ」

 

「技術開発部には一番多くの予算を流しています。料理研究会の倍以上もの予算を分配していますが。技術開発部に流し過ぎ、と仰るのですか?」

 

「逆です、足りなさ過ぎです」

 

「…………はい?」

 

「議長。あなた方生徒会は、技術開発部に『学校や自治区内の景観維持』を任せていますよね。道路や壁の舗装や、落書きの除去、壊れた街並みの修復。部活動ではなく、生徒会の指示をこなす為に部費を使っているんです。おかしいと思わないんですか? 技術開発部の『部活としての活動費用』がどこから出てるか、分かりますか? リンコさんが経営する会社の儲けから出ているんですよ。言わば、自腹で部費を補っているんです。こんな部活があります? いや、あっていいと思いますか??」

 

「しかし我が校は……決して、裕福ではなく……」

 

「だから! 予算の分配の仕方がおかしいんです! 料理研究会と、学園内及び自治区全域の保全活動を一手に担う技術開発部──どちらを重要視すべきか子供でも分かります。それなのに『倍以上の予算を流してる』ですか? その程度では足りませんよ。自腹を切らなきゃ趣味の物作りすらできないとか、予算分配の比重が完全におかしい証拠ですよね?」

 

「ッ」

 

「そもそもの話になりますけど。部費というのは、部活としての活動費用であって。生徒会の指示にて学園内及び自治区内の保全活動をするのであれば、毎期の『部費』とは別のカテゴリーで予算を用意、分配するべきですよね。だって生徒会の指示により仕事を任せてるワケですから。それなのに『私達が任せた仕事も、部活動も、この予算でやってね〜。他の部活より予算多いんだから良いでしょ』なんて横暴が、許されると思っているんですか?」

 

「横暴だなんて、そん、な……ことは……」

 

「横暴ですよ。横暴以外の何です? リンコさんが会社を経営していなければ、技術開発部は、もはや部活動ができない状態です。こんなの、部活なんかではなく、生徒会直轄の組織ですよ? それなのに予算はケチられている現状。──学園や自治区内の景観を気にするのは結構ですけど、それだったら、予算の分配の仕方というのを、根本から見直すべきじゃないでしょうか。それともリンコさんが悪魔族だから予算をケチっているんですか?」

 

「そんな事はありません、決して! 言いがかりはやめてください!」

 

「利用者が少ない健康保全部が、統治委員会並みの予算を得ているのも疑問ですけどね。料理研究会に続いて健康保全部まで不自然に部費が多いですが、これはどう説明するんですか?」

 

「ッッッ……や、薬品には、使用期限があり……」

 

「知ってますよそれくらい。使用期限があるから、未使用だろうと新品と入れ替えなくちゃいけない。そういう事を考慮した上で『余分に多すぎる』と、そう言っているんですけどね。学校の保健室にある薬品なんて、たかが知れています。種類も、数も。それなのに弾薬を消費しまくる統治委員会と同等の予算って。フツーに、バランス崩壊でしょうに?」

 

「……」

 

「先にも述べた通りですけど、対外的な活動が一切存在せず、話し合いがメイン活動である連邦生徒会対策委員会なんて、予算の使い所など、せいぜいが資料を印刷する為の紙、プリンターのインク代に、ホチキスの針やらファイル代などなど、そんなモンでしょう。ぶっちゃけ、全部活・全委員会の中でも最安でいい。──でも、そんな安く設定してませんでしたよね?」

 

「それ、は」

 

「ここでやっと本題に戻りますが。そんなんだから

『天使族に権力が集中している』と言われる上に、それに伴う『問題』だ、と指摘しているんですよ。七天魔は有事の際に生徒を動かす権利を持つ程度。ぶっちゃけると、七天魔に人間族が居ないことは、別にどうでもいいんですよ。でも七天魔を踏み台に生徒会に成り上がると、必然的に天使族ばっかりになって──そして、こういう予算の運用が起きる。だから、それが問題だと指摘しているワケです」

 

 連邦生徒会対策委員会の予算で、紅茶やお菓子、その他、幾つもの嗜好品を購入していた。それは、話し合いを円滑に進める為だとか表向きには様々な理由があったものの、外野から見ればそんなものはただの言い訳で。予算で遊んでいる、と見られても仕方ない内容だった。

 だからリエは、何も反論できないでいた。言えば墓穴を掘る事になるだけだと、分かっているから。

 

「生徒会に天使族を入れるな──とは言いません。でも、あらゆる種族が混ざり合う我が校だからこそ生徒会には各種族の代表者が必要となるのではないでしょうか? それでこそ、予算のみならず色んな意味で平等で、公平な運営になると私は思います」

 

「……」

 

「皆さん、委員長や部長を思い浮かべてください。人間族の委員長や部長──剣道部及び弓道部の部長であるこの私以外に、誰か居ますか?」

 

 居ない。大抵の委員長や部長は天使族の誰かだ。悪魔族のスズが委員長を務める統治委員会は珍しい部類に入るであろうことは、ほぼほぼ間違いない。

 

「委員会を取り纏める委員長に、部活を取り纏める部長。実は、大半が天使族なんです。リンコさんや私など、自分の手で部を創設した者は例外として、既存の組織の長の多くは、天使族です。統治委員会などは、実力主義の流れを委員会でも導入しているお陰で、そうはなっていませんし──まァそもそも今年の統治委員会には、天使族の生徒なんて1人も居ないんですけどね」

 

 より一層、体育館内がザワつく。

 それはつまり、既存の組織の長は殆ど天使族で。しかも、天使族が加入している組織では、高確率で長を務めていて。悪魔族も人間族も、良くてそれに次ぐ存在にしか成れていない──ということだ。

 

「もう分かりましたよね。明らかに天使族にばかり権力が集中している。集中しすぎている。これを、不平等と呼ばずしてなんと呼びましょうか?」

 

「ですからっ! その気になれば、実力にて誰もが権力を得られる学園であると……」

 

「それじゃあ、どうして飂熾冘巫髏の総長であった針村ルーシィさんは七天魔から除名され、生徒会を脱退しているんです?」

 

「それは……この学園を不当に併合しようと……」

 

「知りませんよそんな事。そんな話はしてません。ルーシィさんは、今でも間違いなく七天魔レベルの力量はあります。頭脳面はもちろん、戦闘面でも。それなのに強引に脱退させた。ルーシィさんは読む必要の無い空気をわざわざ読んで、挑まないだけ。学園を酷い目に遭わせたのは事実だから、と。反省しているのかしていないのか、心を読めない私にはわかりません。だけど、これだけは分かる。実力を持つ者の存在をわざと無視して、議長の権限により排斥している。──実力があれば、誰もが権力を? 寝言は寝て言うから寝言と呼ぶんですよ?」

 

「ッッ、ケースバイケースでしょう……!」

 

「ですから、その『ケースバイケース』を、天使族だらけの生徒会の勝手な裁量で決めてるから横暴と言っているんですけど? まだ分かりませんか?」

 

「ッッ」

 

「実力主義。『力さえあれば権力を握れる』って、一見平等に見えるけれど、こんなの平等じゃない。ただただ『機会』だけが与えられているだけです。そもそも根本から力の差がある事を前提にすれば、そんなの、ただの見せ掛けの平等。ハリボテです。力があるとしても今度は議長または生徒会の裁量で存在を無視される。実力主義が聞いて呆れますね、我猛リエ議長?」

 

「…………」

 

「学園内の各種族から代表を集めた新たな生徒会をハドマ学園で実現したいと考える生徒が居るなら! 是非、私に投票をお願いいたします! この投票で私が人間代表の生徒会長になるのではありません! 私の提案(・・)に、投票をお願いいたしますっ!!」

 

 過半数の生徒が、割れんばかりの拍手をナルミに送る。

 謝罪行脚を済ませたとはいえど、ナルミに対してヘイトを向けている人間の生徒は未だ少なくない。それなりに存在してしまっている。

 しかしそれ以上に、彼女が「天使族への憎悪」を強く煽った事によって──そして、ナルミに投票をするのではなく、彼女の「提案」に投票するのだと最後の最後に強調した事により……。

 

 第三者であるリンコが代表として開票を行う。

 その結果、全校生徒の人数の7割以上もの票を、ナルミが得たのだ。

 

「そん、な」

 

「生徒の心を掴んだ、私の『実力』というコトで。リエ議長の唱える『現状維持』なんかではなくて、私の『提案』が可決──って事で構いませんね?」

 

「…………は、い……」

 

 議長として正式な引退を目前に控えた今になって立場が完全崩壊した。ナルミは、完璧とも思われたリエの牙城を崩す事に成功したのだ。

 

「じゃ、これから数日〜数週間、各種族から代表を選出する選挙期間を設けよっか☆」

 

 リンコのこの提案を最後に、この日の渾沌とした全校集会は終わりを告げる。この時のチャイムは、リエには、終末のラッパのように聞こえていた。

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