「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「大体、候補者が出揃って来たわね。すっごい選挙ポスターの数……」
「そりゃ、明後日には選挙本番ですから……」
「ルビーはホントに立候補しないの? アンタならフツーに当選すると思うけど?」
「議長はダルいので結構です。というより、私には合いません。スズ先輩にも合わないでしょうけど」
「っさいわねー。てか本気で議長なんかになる気は無いわよ。書類仕事ばっかりで頭おかしくなるわ。あんなのは、堅物や真面目ちゃんに任せておくのが正解なのよ。クロン先輩もそう言ってたわ」
「私、真面目ちゃんですけど?」
「真面目ちゃんは自分でそう言わないのよ」
「ちっ……」
選挙を目前に控えた現在。学園内のあちこちに、立候補者の顔やら情報などについてプリントされた選挙ポスターが貼られている。
その大半は、悪魔族だった。リンコは居ないが、テンコは居る。レイコは居ないがルーシィが居る。天使族からの立候補者は、有名人はアンナとアガリくらいのものであった。その他には、これまで殆ど名前を聞かなかったような、あまり主張が強くない生徒ばかりだった。
「天使からの立候補者、少ないですね……」
「天使って、慣例っつーか掟に従いがちだからね。リエとシエルが立候補しないんなら、アンナに全て任せるつもりなんでしょうね」
「リエ議長の任期、もう少しだったのに……ちょっと寂しいですね」
「そぉ? あたしは清々するけど」
「ったく……」
と、その時。ふと、とある生徒の選挙ポスターを見て、ルビーは思い出したようにスズと情報共有。
「そういえば、私のクラスからは2人も立候補者が居るみたいです。天使の子ですけど、レアですね」
「あんたと同じクラスっていうと……アガリ?」
「ええ、アガリともう1人ですね。……あっ、ほら、あそこで演説してる子です」
「ん……?」
そこには、体育館の屋根に立っての演説という、凄まじく目を引く演説をしている生徒が居た。背は低い、ルビーと同じくらいだろうか。しかし、少し控えめな性格のルビーとは違い、明朗快活といった性格をその表情や声の調子から感じ取れる。
「──だから! 天使も悪魔も人間も関係なくッ! 素晴らしく平等な政治にするつもりだよ! だからどうか私に! この、1年1組2番、
頭に4枚の小さな翼、背中に大きな2枚の翼の、合計で6枚もの翼を持っている。あんなに翼が多い生徒なんて、ハドマどころか、トリニティですらも存在していないだろう。
そして、その次に目を引くのは────。
「って、アイツ、白ワンピって! 制服着なさい、七天魔でもないんだから!!」
「あー……いつも通り過ぎて忘れてました」
「いつも通りって!? 注意しなさいよ、あんたのクラスメイトでしょ!?」
「注意したその時は制服を着るんですよ? でも、少し目を離すとまた白ワンピに戻すんです。何度もこれを繰り返すものですから、もう呆れて……」
「なんでそんなのが2番をもらってんのよ……」
「頭はいいんですよ、頭は。戦闘もそこそこです。私は余裕で勝てますが、ま、スズ先輩には天敵だと思いますけどね」
「は? どういう意味よ、それ?」
「時間を掛けると、どんな戦術にも『適応』して、的確な対抗策を打ち出してきます。私も負けた事はあります。時間を掛けたら負けです、つまり先輩に勝ち目はありません」
「へぇ……ブッ潰してやろーじゃないッ!」
「ホントにやめてくださいよ。委員長である先輩が負ける姿なんてのは、公衆の面前で出していいものじゃないんですよ。断言します、初っ端から大火力出せるようなヤツじゃなければ彼女に勝てません」
「チッ、何よそれ、気に食わないわねェ。レイコと似たようなタイプなの?」
「そうかもしれません。レイコの天使バージョンと言ってしまえばいいでしょうか。レイコレベルでは打たれ強くない事だけが救いです」
「ふーん……厄介なヤツも居たものね」
受験の時、レイコはルーシィの指示によって弱いフリをしていた。だから彼女は1年1組ではない。1組というだけで、一定の注目を浴びる事になると前年度に入学したルーシィが痛いほど実感しているからである。
因みに、今年度の1年1組1番はルビーである。頭脳明晰、戦闘も優秀。なんならスポーツクラブのような形でのボクシングやキックボクシングなどの成績もあるし、読者モデルとしての活動実績までもあるくらいだ。文句なしのトップと言える。
2番があのマコラである。ルビーに近いレベルで成績は優秀、戦闘もルビーに次ぐレベル。
そしてそれに次ぐ3番がアスカの妹のアガリだ。頭脳はルビーやマコラにも負けず劣らず──しかし戦闘の腕は数段劣る。
「──悪魔からは、テンコ先輩が立候補するみたいですね」
「ルーシィも悪魔枠で立候補するみたいよ」
「じゃあもう悪魔枠はルーシィさんで確定ですね。飂熾冘巫髏の総長としての『やらかし』があれど、未だに人望はある。テンコ先輩でも、流石に、分が悪いでしょうね……」
「流石にね。議長と副議長の2人を選出するんなら両方の当選も有り得る、てかそれしかないけどさ。あの2人以外にマシな立候補者とか居ないでしょ? あたしのクラスからはレイラも立候補するけどさ、フツーに無理でしょ。どこか不思議ちゃんだしさ」
「えっ。博愛神社の妹巫女の方ですか? フツーにというか、シンプルに無理でしょう。議長としての器じゃないですよ」
「でしょでしょ!? もうさぁ、なんか、ふざけて立候補したとしか思えないのよね」
「ですね。……人間側はどうなってるんでしょう」
「コッチも概ね、既定路線というかほぼ確みたいなモノかしら。発案者のナルミは当然のように立候補してるけど、他の奴は『誰コイツ?』ってレベルで無名のその他大勢って感じ。まぁ、まだザッとしか見てないけどさ」
「だけど、ナルミ先輩、もう3年生ですよ? 当選したところですぐ次の代に引き継がなきゃなのに」
「そーね。何考えてるのかしら。あーあ、種族毎に投票枠なんて用意されてもねぇ。誰に投票するか、迷うわよね」
「天使枠はアンナ先輩で、悪魔枠はルーシィさん、人間枠はナルミ先輩……が安定なんですかね?」
「ルーシィはやめなさい、テンコにしときなさい」
「そりゃあ私はそうしますよ。そうじゃなくって、安定して選挙で勝ちそうなのは誰か、って話です」
「あー……そう、ねぇ……そうなるとルーシィだわ」
選挙ポスターに囲まれた廊下を歩く、悪魔2人。もし立候補していればルビーは確定で当選していたという事実を、何となく肌で感じつつ────。
そのまま、選挙当日を迎えた。