「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
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応援演説を行う事が、選挙本番の数日前になって告知された。それに手早く対応でき、応援演説する生徒について選挙管理委員会に申請できたのは──1年の白羽マコラ、2年の天河アンナの2名だけ。
立候補者の後見人として応援演説を務めるのは、原則として、血の繋がりの無い生徒のみとされる。
しかし、その2名以外の立候補者達にとっては、応援演説を担当してくれる生徒を探す事からして、既に一つの関門のようになっていた。
応援演説の候補者の応募期間も僅か2日と短い。一部の生徒の中では、選挙管理委員会による横暴、一部の生徒への求心力を高める為の陰謀だ──と、そういった陰謀論が囁かれるようになった。
その選挙管理委員会の委員長もまた、天使族だ。奇しくも、そのせいで、ナルミの唱える「天使族に権力が集中している」という説が分かりやすい形で更に補強され、周知されてしまっていた。
「クソ、まさか直前になって応援演説していいとか言い出すなんて思わないでしょ……ッ!?」
「抜かったわねテンコ。選挙に応援演説は付き物。この程度のアクシデント、事前に予測はできたわ」
「あんたほど政治についての勉強はしてないの!! 付き物とか言われても納得いくかって! あーもう誰に頼めばいいのよ、血縁はダメっぽいし……!」
「禁止はされてないんだからリンコ先輩に頼めば? あくまで『原則』だしさ」
「『原則』ダメなら禁止に等しいでしょ、却下」
「メンドーな性格してるなぁ」
「私、あんたほど無法者じゃあないから。そう言うルーシィはどーすんのよ、応援演説。ま、あんたは飂熾冘巫髏時代の信用の貯金があるしね。演説とか無くても、余裕で議長に当選するんだろうけどさ」
「そんな事ないよ。あの頃に比べて求心力はかなり落ちてる。分かるんだよね、そういうの。演説中の皆の反応を見ててさ」
「『あの頃ほど手足として動いてくれなくなった』とか、そういう意味でしょ、どうせ」
「まァ、超端的に言えば、そうね。あの頃は全肯定してくれるレベルで賛同されて当然だった。悪意を煽ることで洗脳できてたからね。今はそれが無い。天使族への憎悪とかも利用しようとはしてたけど、それも大したことないしね」
「差別されていた意識がこっち側に無いせいよね。そのせいで、天使族への憎悪もクソもないからね。寧ろ──天然ボケみたいなあのナルミ先輩で、よくここまで綺麗に総選挙まで漕ぎ着けたよね」
「なんやかんや、あの人も、1組でトップクラスになるだけのことはあるって事だよ」
「そーなんだろーけど。なんか、地味に悔しいな」
「あはっ、そりゃテンコはプライド高いもんねェ」
「あんたほど軽々しく捨てられるような、安っぽいプライドじゃないのでね」
「誰のプライドが安っぽいって?」
「ゲヘナで先生に色仕掛けしたんでしょ? んで、それにノられたフリに引っ掛かって、捕まる寸前。ライム先輩にギリギリ助けられたって聞いたよ?」
「アレは戦略的セックス。プライドを捨てたのとはワケが違うわ。先生が私より1枚上だっただけよ」
「アホなパワーワードね……」
こうして、投票前の応援演説の期間に突入した。
1年・天使族のアガリの応援者は無し。
1年・天使族のマコラの応援はリエが。
2年・天使族のアンナの応援はシエルが。
2年・吸血鬼族のレイラの応援はヒトデが。
2年・悪魔族として出馬したルーシィの応援は、トリニティからクロノが。
2年・悪魔族のテンコの応援は無し。
1年・人間族のカナンの応援は無し。
3年・人間族のナルミの応援は無し。
天使と悪魔からはそれぞれ他にも数人が立候補はしているようだった。しかし人間族からはナルミとクロンの妹であるカナンのたった2人しか立候補はしなかったようだ。
よって、ナルミとカナンは当選が確定。投票は、票数が多かった方を議長に、少なかった方を副議長という方針で行うらしい。
◆
「副議長も含め6人も選出するって噂、知ってる? アレ、マジなワケ?」
「らしいですね。風の噂でしかそんな話は聞かないですけど。でも恐らく本当にそうなると思います。理にかなってますしね」
「自分の種族の代表を選出するんじゃダメなの?」
「それだと投票する先が偏るからではないですか? より多くの意見を取り入れる為にわざと他の種族の議長も選ぶんだと思いますよ」
天使族──暫定的ではあるが、アンナは確定枠と言える。もう1人はマコラとアガリと他数人からの争いになるだろう。 天使族はそれでいいとする。
人間族なんかは、ナルミとカナンの2人しか出馬していないので、大した問題ですらないだろう。
問題は、悪魔族だ。
こちらは、飂熾冘巫髏の総長として学園の転覆を目論んだルーシィが出馬している。対抗馬は学園内最大規模の組織こと技術開発部の副部長、テンコ。
同じく技術開発部からはレイラが、そして他にも数人が出馬しているものの──もしも仮に、自分の種族に投票する事になれば、悪魔族は、ルーシィが最も多くの票を集めることになるだろう。それだけ彼女は悪魔族からの信頼が厚い。
選挙管理委員会はルーシィを当選させたくない。しかし表立っては票を操作できないので、こうして遠回しにルーシィに向かうであろう投票を少しでも割合的に薄める為に、自分以外の種族への投票も、可能にしたのだろう。
対外的には「より多くの票を集めることで平等に意見を反映させるため」という大義名分を掲げて。
「選挙管理委員会、そうまでしてルーシィのヤツを当選させたくないって事ね。こうなる前にナルミが言ってた『天使族に権力が集中してる』ってのも、あながちデマカセじゃないのかもね」
「現実だと思いますよ。とりあえず、学年や種族も関係なく、立候補者ならば誰にでも投票可能なのが有難いですね」
「そーね。技術開発部はテンコに入れるだろうし、あたしらもテンコに集中的に投票しましょ」
「ええ。ルーシィさんを当選させるにしても、最終決定権を持つ議長にだけは、絶対にさせないようにしなくては……」
「アイツって頭が良いからね。何か企んでいても、それを絶対に顔に出さない」
「スズ先輩とは大違いですね」
「うっさいわ」
「──とりあえず、少なくとも統治委員会だけでもテンコさんに投票するように仕向けましょうか」
「それっきゃないわよ。誰が応援演説をしようが、関係ないわ」
────しかし、スズとルビーの見込みは、少しばかり甘かった。
ルーシィの応援演説を担当したのは、飂熾冘巫髏トリニティ部隊の第1幹部であった、時計クロノ。ルーシィの幼馴染にして、一連のテロの共犯だ。
そんな彼女が応援演説の為にハドマ学園を訪れ、元は飂熾冘巫髏だった者達の前で、ルーシィ謹製の台本を元に演説する──それにより、飂熾冘巫髏が再結成を目論んでいるのではないか、と、にわかに陰謀論じみたそんな噂が囁かれるようになった。
もちろん、ルーシィは飂熾冘巫髏を再結成させるつもりなど無い。しかし、ルーシィは企んでいた。人の心の中にそういう「種」を植え付けるだけで、あとは勝手に芽吹き、成長するのだ、と。
少し前にキヴォトスを騒がせた一大テロ組織が、再結成する「かもしれない」──それならば、誰に投票するべきかは、もはや明白だろう、と。
応援演説の為と称してクロノを呼んだのは、全てこの為だった。飂熾冘巫髏の幹部との「繋がり」をこうしてサラリと「匂わせ」る事で、周囲に勝手に想像させておくのだ。
ルーシィは何も言わない。裏からも指示を出さず完全に放置しておく。全てはこの「匂わせ」の為、それだけの為に。
飂熾冘巫髏が復活する「かもしれない」ならば、誰につくべきなのか──かつては飂熾冘巫髏に所属していた生徒達にとって、1+1の答えが2であるように、まさに、火を見るより明らかだった。