「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
──選挙当日。応援演説期間を経て、遂に投票が行われる。様々な陰謀が渦巻く渾沌とした選挙期間だったが、それももう終わりを告げる。
選挙管理委員会は本番直前まで公表しなかったがおおよその生徒が察していた通り、議長と副議長の2人を選出するようだった。
つまり、今回のこの選挙を以て、ハドマ学園には3人の議長と3人の副議長が誕生することになる。
一部から、公平性を欠くだろうという強い批判の声が挙がったものの、開票及び集計は、規定通りに選挙管理委員会が実施することになった。
その結果が、以下の通りである。
天使族
議長:天河アンナ
副議長:白羽マコラ
悪魔族
議長:砂田テンコ
副議長:針村ルーシィ
人間族
議長:猫田ナルミ
副議長:平井カナン
────どのような生徒が誰に投票したのかは、公にされる事は無い。しかし、これまでの事情や、生徒達の中に渦巻く疑念などを鑑みれば、誰が誰に投票したのか……恐らくは一目瞭然だろう。
以下は、投票の結果を見た生徒達の反応の一部を抜粋したものである。
──生徒会経験者に責任ある「議長」を任せる、天使族については妥当な判断だね
──アンナが議長なワケだし票の操作は無さそう
──いや、なんで副だろうとマコラが当選した?
──リエ派の組織票だなぁ、そうに決まってる
──それなら議長にするんじゃない?
──いや、それはあからさま過ぎだからでしょ
──アガリの方がマシと思ったアタシは異常か?
──大丈夫、私もアガリに入れたから
──悪魔族、接戦かと思ったらテンコの圧勝で草
──技術開発部と統治委員会、ルーシィのことを当選させたくない天使族の圧倒的組織票がテンコに一気に注がれたワケだから、そりゃ圧勝するよね
──それ全て予測してたのがリンコ先輩ってワケ
──技術開発部と統治委員会って人数の多さでは学園内で1、2を争う組織だもんね、そりゃ勝つわ
──総長の負け? ルシュフェルも終わりか
──もう終わってるよ、ルシュフェルも学園も
──人間族は候補が2人しかいないし当然の結果
──銀のミヌエット、自分が議長になりたいから選挙を起こすように学園内に仕向けただけじゃん
──おっ陰謀論者か?
──というような形で、半ば陰謀論めいた話題が学園内で囁かれるようになった。
ただ、統治委員会や技術開発部の組織票が一気にテンコに注がれたのは事実だ。統治委員会から見てルーシィは宿敵だったし、テンコは技術開発部から参戦しているのだから応援しないワケがない。
そう、陰謀論じみているというのは「ルーシィを当選させたくない天使族」という存在についてだ。しかしこれも、シエルという生徒が存在するせいで単なる陰謀論だと一蹴できないくらいに根強い噂になってしまっている。
それはそれとして、こうして無事に選挙を終えて役員達も選出できたので旧生徒会から新生徒会への業務の引き継ぎがとうとう始まる。
技術開発部の副部長であるテンコは、しばらくは生徒会の業務に追われることになる。少なくとも、業務が軌道に乗るまでは、部活に行く時間は無い。
それでも、姉のリンコが本格的に部長として部を仕切る事になっているので、テンコの不在によって生まれた穴はどうにか埋められるだろう。
「は〜、やっと選挙が終わったよぉ。いい子ぶるの性に合わないから、二度とやりたくないや」
「マコラさん。副議長の地位に立ったのですから、いい加減、真面目にやる事ですね。服装もですよ。自由な服装は七天魔になってからにしなさい」
「やーだよっ。生徒会も自由な服装にできるよう、校則を作り替えるもーんっ!」
「ならば校則を作り替えてからになさい!」
「あっははは、やーだよー!」
ペロッと生意気に舌を出し、生徒会室から逃げるマコラ。リエは呆れながら、額に手を当てて大きな溜め息を吐いて彼女を見送る。
そんな様子を見て、天使族議長のアンナは、ふと思う所があったようだ。
「なんだか……親密、っぽいですね?」
「はい?」
「マコラちゃんの応援演説を、リエ議長が務めた、というのも……アレですし。もしかして選挙の前から彼女とは知り合いだったんですか?」
「まぁ……そんなところですわ。翼が複数生えている天使など、そう多くはないでしょう? 私、4枚の翼が生えていましたから……」
「あぁ、
今は切除されてしまっているが、リエには4枚の翼が生えていた過去があり、マコラには6枚の翼が生えている。
こういう種族を多翼天使族とハドマの自治区では称するが、マコラとリエにはその共通点がある事で以前から知り合いだったと──リエは嘘をついた。
実際のところ、マコラはリエの妹である。それを知るのは本人達、幼馴染であるシエルの3人だけ。
マコラを迎えていない以上、シャーレの先生すらその事を知らない。秘密の真実だ。
彼女の「
何故、他人のフリをしているのか。
それは──リエの立場とマコラの性格を見れば、一目瞭然だろう。
文武両道、しかも努力もできる天才議長として、ハドマ学園の頂点に君臨するリエ。
文武両道ではあるが、自由奔放で、天真爛漫──いや天衣無縫の極みとも言うべきマコラ。
そんな
そう、リエの名誉の為にも擁護するならば、この他人のフリはかつてマコラから提案した事なのだ。
自分の存在が姉の足を引っ張る事になるからと、そう提案した。当然ながらリエは拒否した、しかしマコラは頑固だった。
そのくせ自分の態度を改める気は毛頭なかった。
何故なら「自分は自分」だから。
ただ、自分がそうする事により姉の評価までもが落ちるのは避けたい──ならばどうするか?
簡単な話、他人のフリをすればよい。
こうして学園内では繋がりが一切無い我猛姉妹が誕生し、今回の選挙も応援演説などができたのだ。
「まさか私が議長になるとは……」
「え? テンコが悪魔族の議長なの当然じゃない? 私よりも票が集まって当然なんだから、そうやって驚く事でもないでしょ」
「はぁ? どういう意味?」
「考えてもみなよ。学園内で最大規模の組織である技術開発部は当然テンコに投票するでしょ? あと統治委員会もね。それから、私を嫌う連中も種族を問わずテンコに投票するしさ」
「悪名は無名に勝る、と言うけど。選挙に関しちゃ悪名は無い方がいい、ってことね」
「当然っちゃ当然の摂理でしょ?」
「まぁね」
悪魔族と天使族のどちらで出馬するのかを選べた堕天使のルーシィが、元の天使族ではなく悪魔族で出馬したのには、理由があった。
悪魔族からの立候補者は、天使族より多かった。全種族で最多だ。恐らく欲が強い悪魔族ならではと言えるかもしれない。
けれども、仮に天使枠で出馬した所で、生徒会の経験者であるアンナ、リエの後ろ盾を持つマコラに勝てる未来は無かった。
それなら、生徒会の経験者がルーシィ以外に誰も出馬していない悪魔枠で立候補した方が、まだ少しくらいは良い未来が期待できた。
事実、ルーシィの実質的なライバルはテンコだけだった。レイラや他の候補者など、敵ですらない。
技術開発部や統治委員会、天使族がテンコに投票したとしても、それ以外の飂熾冘巫髏の元構成員がルーシィに投票すれば、ただそれだけでルーシィの当選は確定するからだった。
「これからよろしくね、カナンちゃんっ……!」
「よろしくお願いします、ナルミ先輩……」
人間族については、特筆すべき事柄は何も無い。2人の立候補者が、それぞれ当選した。それだけ。
ただ、この選挙騒動の前に、リエは「人間族にも機会は与えている」と主張して、ナルミは「機会はあるが、力の差があり過ぎて『機会』を満足に利用できていない」という主張をしていたものの……。
力の差が関係ない今回のような選挙においても、立候補者がたった2人しか居ないのでは、ナルミの主張より、リエの主張の方が正しかったのではないだろうか──と見る生徒も、0ではない。
つまり、ナルミ以外の人間族の大多数は、機会を利用できていないのではなく「興味すら無い」のが大半なのではないか──と。
もしそうだとすれば、ナルミは、人間族の生徒の代弁をしたつもりで、実際は代弁も何もできてなどいなかった──という事になりかねない。
人間族からのこの立候補者の数を見て、生徒会に選ばれた生徒の誰もがそう察知していた。
だからこそ、今回の新生徒会の中では、各種族の立候補者数の話題は、禁句となったのであった。
──なにはともあれ、ハドマ学園は動乱の時期をどうにか乗り越えた。引き継がれ発足したばかりの新生・失楽園の歩みは、これから始まるのである。