「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「失礼いたします」
「失礼しま〜っす」
「ん?」
唐突にシャーレ執務室にやってきた生徒が2人。1人は、ハドマ学園の生徒の中でもトップクラスによく見知った生徒、我猛リエ。
元議長で、今回の選挙を以て、とうとう生徒会の所属ではなくなった生徒。どこか重苦しい面持ちで声のトーンもいつもより低い気がした。
そしてそんな彼女の隣に立つのは、先程、初めて顔合わせしたばかりのハドマ学園の1年生、マコラだった。
その意外な組み合わせに、思わず疑問符を浮かべながら、椅子を回して彼女達へ向き直る。
「お忙しい中、申し訳ありませんわ。少々、先生にお伝えしておきたい事がございまして」
「私は別日でいいんじゃなーいって言ってんのに、お姉ちゃんってば今日がいいって聞かなくってさ。せんせーも忙しいのに、ゴメンね?」
「私は別にいいけど…………
「まさに、その事についてです。実は私と彼女は、血を分けた姉妹でして」
苗字違うじゃん──というツッコミなど、とうに織り込み済みなのだろう。恐らくはワケあり。何か理由があって、他人のフリをしているというところだろうか。
気にはなるが、わざわざ聞くほどの事でもない。隠したいのなら無理に聞き出す必要は無いだろう。
「……なるほど、ワケありって事だね」
「お察しの通りですわ。実は、私が彼女を生徒会に推薦したのですが……その……」
「伝統と格式? の為とか何とかで、意地でも私かお姉ちゃんは生徒会に居なきゃダメなんだけどさ。お姉ちゃんはもう卒業で、後は私しか居なくてね。伝統とか私は別にどうでもいいけど、お姉ちゃんがそうしたいからってサ。だけど、推薦とかするのは他人じゃなきゃダメだからさァ」
「……つまり不正?」
「ま、そゆこと〜」
「ッ……」
「……今の話は、聞かなかった事にしておくよ」
「助かります……」
「まぁそれは置いといてさ。そんなのよりさっさと本題に入ろうよ。あんま遅いと、あのラーメン屋、閉まっちゃうよ?」
「もうッ、あなたはそればかり……」
リエは、呆れたような大きな溜め息を隠そうともしない。ここまであからさまなリエはあんまり見た覚えが無く、少しだけ新鮮味がある。他人のフリをしつつも、やはり姉妹。気心が知れた仲ということなのだろう。
「伝統と格式──って言えば、なんとなく察せると思うんだけどさ。私とお姉ちゃん、
「ロイヤルブラッドと、そう呼ばれておりますわ」
「……ハドマにもあるんだね、その概念」
「宗教を有する学園にはある概念だと思って頂いて構いませんわ。大体は宗教とセットなんですのよ。宗教における特定の何かと血脈を神聖視するので、自然とそうなるものなのです」
「宗教? ハドマ学園にはシスターフッドみたいな部活も無いし、宗教とは無縁だと思ってた」
「ハドマ学園は成り立ちがそもそも宗教的でして。私が議長である間は良かったのですが、まだ未熟なマコラが副議長に着任する事になってしまったものですから。どうか、先生には、この子のサポートをお願いしたく──その辺の事を、今のうちにお話ししておこうと思ったのです」
「……分かったよ」
政治的な問題、宗教的な問題には介入したくないというのが本音だが、これは「問題」に発展しない段階の話なので、断る方が不自然だろう。
気になる事は気になるし、サポートをするための助けになるのなら、寧ろ聞いておかねばなるまい。
「我がハドマの自治区には、多翼天使族と呼ばれる種族が存在します。まぁ読んで字の如く、翼が多い天使族なのですが。ただし、それは我々の家だけに見られる特殊体質なので、多翼天使族=我猛家──という認識で構いません」
「天使族がメインのトリニティにも割と居るけど、アレは無関係だから注意ね」
コハルとかだろうか。頭に1対、背中に1対で、ナルコに翼をやられる前のリエと同じ4枚の翼だが確かにリエやマコラとは全くの無関係だろう。
「ハドマ学園はゲヘナ学園と姉妹校。ただしこれは自治区が隣接している、且つ両校が悪魔族の生徒を多数保有しており、学園の環境が似通っていた事に由来しています」
「前に言ってたね」
「ただしこれは、あくまでハドマ学園の成立後の話です。ハドマ学園成立以前、我々の先祖は今で言う百鬼夜行に住んでいたという話が伝わっています」
「百鬼夜行!? どうしてまた? というか、隣接してすらいない土地じゃないか……」
立地から考えると、民族大移動もいいところだ。アビドスからゲヘナやハドマに移ったとされている吸血鬼族と大差無い移動距離ではなかろうか。
「百鬼夜行で当時流行っていたその宗教に、少々、思うところがあったのでしょうね。自分達の解釈を外部に持ち出したく思っていたのか、それとも他に意図があったのか。何にせよ、宗教的権威を携えて百鬼夜行の自治区を飛び出し、自分達の手で新たに自治区を、学園を興し、そこに『
「つまり、ゲヘナと姉妹校になるのも織り込み済みだったんだよね。ゲヘナもまた『地獄』の名を持つ学園。その隣を狙って引っ越してきたんだよ」
「……その初代生徒会長が、リエ達の御先祖様?」
「おや……何故お分かりに?」
「いや、何となくだよ」
アリウスのロイヤルブラッドであるアツコも初代生徒会長の子孫との事だったから、もしかしたらと思っただけだが、どうやら予想は的中したらしい。
「そうです──我々の先祖である我猛マホを含める12人の生徒が、ハドマ学園の原型を作り上げたとされています。その12人を指して『十二神将』と呼称するのですが、この十二神将こそ『七天魔』の原型であると私は見ています」
成程ね、とここまで話を聞いてきて、ふと疑問に思った事が幾つかある。これまで調べて知ってきた歴史との相違点、というよりは矛盾点だろうか。
「天使族は学園の成立後にやってきて、ゲヘナとの姉妹校の関係を終わらせたんじゃなかったの?」
「そうですわよ?」
「学園を成立させたのも天使族?」
「悪魔族が学園を作りあげたとは言ってませんわ」
「!」
「百鬼夜行から大移動してきた我々の先祖が学園を興し、その中心人物となった我猛マホを頂点に据え生徒会長に。しかしその時代も長く続かず悪魔族の生徒が頂点に立つようになり、ゲヘナ学園と姉妹校関係になる。やがてトリニティから天使族が流入しゲヘナ学園との姉妹校関係を強制終了させる──。この流れに何か矛盾がおありですか?」
「リエ、トリニティ出身だよね? プロフィールにそう書いてあるけど」
「ええ。私の実家はトリニティにありますわ。嘘も何もついておりません」
「でもハドマ学園のロイヤルブラッド?」
「はい。我猛マホの血脈は、現代に至るまで脈々と受け継がれてます。ただし、私が生まれるまでは、複数の翼を持つ子が中々生まれなかったそうです。故に権威の証明も何もできないので、トリニティで普通の天使族として暮らしていたのです」
「2枚より多くの翼を持つ天使、ほんのたまにしか生まれないらしくてさ」
「そうなんだ。でもリエが生まれたことで、権威の証明とやらができるようになった……?」
「そうです。私達はハドマ学園に戻ってきました。トリニティから来たのではありません。あくまで、戻ってきたのです。それが、トリニティ出身である理由なのです」
権威の証明とは言っても、遥か過去のハドマ学園成立時からの伝統が受け継がれているのでもなく、ましてやこの子達以外にその「権威」とやらを気にしている生徒が居なさそうなのが気になる所だ。
要は、ハナから誰も気にしていない事柄なので、証明も何もあったものではないような……。
「先生の懸念は私も分かります。権威の証明などと言っても、誰もそれを気にしてなどいない現状ではただの自己満足に過ぎません。ええ、その程度の事などは私だって理解しておりますわ。ですが──」
「私達の家は長年それを受け継いできた。長い間、歴史の闇の中で燻っていたけどね。でも、この私が生まれた。生まれちゃったんだよ。生まれたなら、するしかないよね……自己の存在証明、ってヤツ」
「存在、証明……」
「……実のところ、このマコラは、初代生徒会長こと我猛マホの生まれ変わりなのです」
「!?」
「ハドマ学園、及びその歴史を教える前から『私は我猛マホである』などと名乗ったのですよ。所謂、マコラから見てマホは前世というものでしょうね。私はそれまで、前世だの生まれ変わりだのの存在は微塵も信じていませんでした。そんなものはただの思い込み、オカルトであると。しかし目の前の妹が教えてもいない祖先の名を騙るというそんな光景を見てしまえば、流石に信じざるを得ませんでした」
教えてもいない、知らないハズの事を話し出す。確かにそれは「前世の記憶」を持つとされる人物の最も大きな特徴だ。今世の人物はそれを知らずとも前世のその人がそれを知っていて、それを話すと。
確かに分かりやすい特徴だし、ワイルドハントのカノエの発言からも「前世」が存在するような話は伺えるが、まさか、このマコラがそうだとは……。
「証明とは言っても、何をどうするつもりなの?」
「簡単な事だよ。頂点に立てばいい」
「頂点……? 最強の座を手に入れるってこと?」
「それもあるね。けど、分かりやすい所で言うなら生徒会長だね。まぁ今回は副になっちゃったけど。ま、それは来年どうにかできるからいいとして──今年の目標は、私がハドマの最強になることかな」
「それは………………………………大変そうだね」
「随分と詰まったね。無理だろって言いたいの?」
「……かなり、厳しい道になると思う」
無理ではないかと言いたくなる程に厳しい道だと思っている。自他共に認める「最強」であるレイコという存在もそうだが、リンコやテンコ、スズなど今のハドマ学園はまさに群雄割拠の戦国時代だ。
リンコとリエで銀メダル争いをしている中、スズだったりテンコだったり、その他の多くの生徒達は似たり寄ったりの実力で拮抗している。
マコラの実力は分からないがその中に割り込める実力があるとは……とてもではないが、思えない。
「かつて『
「……」
「でもぶっちゃけ、今のハドマはかなりレベル高い学園になってる。ゲヘナ学園みたいに分かりやすい環境ってワケでもないしさ。──だから先生には、私が最強に至るまでのサポートをお願いしたいの。多分……私1人では無理だから」
「……」
どうやら「最強」というのは、誰もが自己満足や自己証明の為に欲する絶対的な称号らしい。何故、それに拘るのか。私には、理解できるハズもない。
しかし、私はルーシィにレイコを任されている。私にそのサポートができるのか分からないが、私はレイコのサポートをする義務がある。
私は小さく呼吸を整えた。
心苦しいが、レイコとマコラ、2人のサポートを並行してこなせるほど、私は器用ではない。しかも2人揃って「最強」を目指すということは、片方に肩入れすることは片方を裏切るということ。
ただ私は「先生」だ。可能な限り手の届く生徒を助けサポートするのが私の役目。だから、マコラのことも助ける。それこそが、先生という役目、大人という責任の果たし方と言える。
だからこそ、安易に答えは出せない。ルーシィとレイコへの義理立てという意味もある。
「……私は、レイコからサポートを任されている」
「ッ!」
「君をサポートしてあげたい気持ちもあるけれど、この状態では君のサポートもすることはできないと思う。レイコへの裏切りになるからね」
「そのサポート契約、打ち切れないの?」
「そういう問題じゃない」
「ふーん……先生がそっち側とは思わなかったなぁ。まぁ、早いモン勝ちか。でもしょうがないじゃん。生徒会をイチから再編成するなんて事にならなきゃ私が表舞台に出るのはまだ先だったのに──ってかお姉ちゃんが卒業まで議長やればよかったじゃん、ナルミみたいにさぁ」
「それはあなたの成長に繋がらないからでしょう。今のままで来期の生徒会に入れたと思いますか?」
「ちぇっ。……まぁいいや、出直すよ」
「そうしてくれると、私も助かるかな」
────さて。ちょっと困ったことになった。