「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
第12話:最強を望む者たち
新体制での生徒会選挙の騒動からしばらく経ち、ハドマ学園がようやく落ち着きを取り戻した頃──それは起きた。
新生徒会の天使族代表の副議長・白羽マコラが、生徒会の副議長としての肩書きを利用した上で──学園内に向けて、一つの御触れを出した。
曰く「七天魔に正式な序列を設ける」と。
この御触れは、瞬く間に学園内に広がり、そして多くの者達が沸き立った。
七天魔──それは、ハドマ学園内における戦闘力上位7名からなる、生徒会とほぼ同等の権限を持つ権力者であり強さを証明した者たちの総称である。この7名は良くも悪くも平等に扱われ、表向きには権力にも何においても上下は無いとされてきた。
が、遂にそれが覆り、正式な序列が作られると、マコラは宣言した。
無論、生徒会による正式な決定ではない。彼女が生徒会の肩書きを利用して勝手にそう言っただけ。あくまでも生徒会はこの発言には関与していない。
生徒会側の見解としては、そう言い捨ててもいいハズだった。だから、その方向にて話を進めようと会議していた。
しかし「遂に上位に名を連ねる者に正式な序列が生まれるんだ」と、生徒達は、生徒会選挙の時より大いに盛り上がった。
噂が伝播するのは、光と同等であると喩えていいくらいに早いものである。そう──噂は、生徒会の会議の終結を待ってはくれなかった。
マコラが池に投じた石は、水中に潜む数々の魚の安寧を脅かし、水面には大きな波紋を呼んだ。
「ちょっとちょっと、どーゆーつもりなのよッ!? マジで序列なんて作るつもり!?」
会議室に乗り込んできたのは、ハドマの誇る統治委員長、鐘蟲スズ。レイコの表舞台への出現まではよく「ハドマ最強」を自称していたが、レイコから手酷くやられた経験によって、最強を自称する事は全く無くなった。
彼女の「最強」は、あくまでただの自称であり、しかも本気で言っていたワケではなかった。自分を奮い立たせる為のおまじないのような、その程度のモノだった。七天魔に序列など無いし、そもそも、本気のリエとすらやり合った経験が無かったから。
しかし、そんなスズだからこそ、七天魔に序列を作るという「生徒会の名を冠する発表」には、酷く困惑し、会議室に乗り込むまでに至ったらしい。
「おっ、自称最強さんじゃん」
「それはその、えっと、アレなんですよ、アレっ! 副議長のマコラちゃんが勝手に流した噂で……!」
「気にしなくていいよ! 大丈夫!」
悪魔族の議長のテンコ、天使族の議長のアンナ、人間族の議長のナルミは、それぞれスズへの反応を見せる。この場にマコラの姿は無く、しかしマコラ以外の副議長はこの場に居るようだった。
「あ? 噂ぁ? ただの噂が、学園にこんな事態を引き起こしたっての? マジふざけんな……ッ!」
「こんな事態? ……何が起きてるの?」
「白々しいよルーシィ。またアンタが裏から手引きしてるンじゃないか、とすら思ってるかんね?」
「待った待った、マジでなんのこっちゃ分からん。ここ数時間はずっと会議室に籠りっきりだしさぁ」
「ルーシィさんはスマホとかにも触ってませんし、トイレにも行ってないです……なのでホントに無関係だと思うんですけど……」
「……あ、そ」
生徒会として飂熾冘巫髏と戦ってきたアンナが、ルーシィを庇い立てしている。その事から、今回の件に関しては本当にルーシィはノータッチなのだとスズは認識を改めることにした。
ルーシィは、自分にはそのように疑われるだけの原因があるとよく知っているので、これについて、自分を疑ってきたスズをイジるような事はしない。その代わりに、彼女が言う「こんな事態」の説明を求めることにした。
「んで? こんな事態って何? 噂が広まってる事以外にも何か起きてんの?」
「そこかしこで戦闘が勃発してんのよ! 誰も彼も
『私が七天魔の第1位になる!』ってさ!!」
「学園内で戦闘が勃発してるのなんていつものことじゃん?」
「そりゃそーだけど、規模と数が違うんだっての! 防音の壁になってるから聞こえないんでしょーが! いつもの『日に数度』の戦闘とはワケが違うのよ! マジでそこかしこで起きてる! 校庭でも屋上でも教室でも、学園の外……ハドマ自治区内でも!!」
「……人手が足りない感じか」
「全く足りてないから、リンコに協力を要請して、技術開発部の部員も借りてる! でも数が多すぎて鎮圧できない……ッ!」
統治委員会と技術開発部は、ハドマ学園における部活・委員会の中でツートップの規模を誇る組織。しかも統治委員会は戦闘が主な仕事、技術開発部は戦闘に特化した種族・吸血鬼を数多く擁する組織。その統治委員会と技術開発部の連合部隊でさえ鎮圧できないという話を聞いて、生徒会の面々の顔には冷や汗が流れる。
「あわわわわ……マコラちゃん、どうしてこんな噂を流しちゃったんですかぁ……!!」
「今暴れてる連中がこれまで黙ってたのは何なの? 逆に、なんで今になって動き出した?? そんなに第1位の称号が欲しいワケ? 理解できない……」
(ナルコに頼んで鎮圧してもらおうかなぁ……)
「──私には分かる気がする」
「ルーシィ?」
「テンコみたいに、腕っぷしより頭が上回るヤツは理解できないと思うよ。だから私も理解できない。でも、それを欲するヤツの気持ちだけは理解できる気がする。──証明がしたいんだよね、みんな」
「……証明?」
「そ。自分の存在証明、とでも言えばいいのかな。それを証明する方法を知らないの。圧倒的な強さで他者を打ち負かすこと以外に証明方法を知らない。だからこそ、強さというものに固執するし、強さの証明である『最強の称号』を欲しがるんだよ」
「……レイコがそうだったから、って?」
「レイコはコレとは全く違うタイプだね。レイコは存在証明とか何とか考えてないよ。ただただ強さを求めてる。理由も何もない。悪い言い方をすれば、ただの自己満足。でも、理由も何もないからこそ、飽きることなく『強さ』を求め続ける。既に最強のレイコが燃え尽きない理由が──その執念の理由がまさに『理由なき自己満足だから』だよ」
幼馴染で、誰よりも近くでレイコを見続けてきたルーシィだからこそ辿り着けた結論と言える。
彼女が強さを求めることに、尤もらしい理由など初めから存在しない。ただの自己満足。あくまでも自己満足。目標を達成する道が見えないからこそ、燃え尽きることなく燃え続けることができるのだとルーシィは熱弁した。
「──ってか、今はそんな事はいいでしょーがッ! 噂を全面否定しなきゃこの騒動は終わらないよ!? どーすんのよ、もうメチャクチャよ!?」
「っ、そうだったね。もうとりあえず、校内放送と区内放送で噂を否定すれば少しは収まると思うけどどう思う、アンナ? ナルミ先輩?」
「そ、そうですねっ、それしかないかと……!」
「うん、それでいいと思うよ。それでも収まらない場合は、その都度、統治委員会とか鎮圧部隊を派遣する感じでどうかな。カナンはどう思う?」
「は、はいっ、それでいいかと……!」
議長3人と副議長1人がそれに賛同し、とうとう話がまとまった……かに思えたが。
大きな溜め息と共に、頬杖をついたルーシィが、議論を長引かせようとする。
「──そんな間怠っこしい手、使う必要あるかな? もっと楽な手があるってのにさァ」
「え?」
「は?」
「うん?」
「そうやって半ば強引に騒動を終わらせても、一度着火した火はそう簡単には消えないよ。強引に鎮火したところで、必ずどこかしらで燻ることになる。噂を流したマコラの心の中でも、そして、その火に踊らされた生徒の心の中でも。どこかしらで燻り、いつか、再燃する。ここまで事態が大きくなれば、鎮火は諦めて、放置する・噂を現実にする──の、二択から選ぶべきだと私は思うね」
「んなバカな──とは、言えないか。禍根を残したお陰で現在のハドマ学園がある、たったその一言で論破できるような事態が何度も起きた学園だしね」
「でも、鎮圧はしないとですよ……」
「そうだよ、街も人も傷付くだけだし……」
「そうですよ! 止めないと!」
ルーシィの唱える理論にテンコは共感を示すが、アンナ、ナルミ、カナンは全面否定。そればかりか会議室に乱入してきたスズは、更なる熱量で彼女を否定する。
「ウダウダとバカなこと言ってるんじゃないよッ! アンタこの期に及んで学園を滅茶苦茶にする気!? つーかアタシが報告するまでこの件を知らなかったクセに『ここまで事態が大きくなれば』なんてさ! 実際に見てもいないクセにッ、事件の規模を知ったつもりになってんじゃないわよ!!」
「……知ってるよ」
「あぁ!? 何を知ってんのよ、言ってみな!!」
「現場主義の
「ッ」
「そんなスズが、現場を放棄して、生徒会に報告に来た。その時点でもう、嫌でも分かっちゃうんだ。これまでに無い異常事態が起きてるんだ、ってね」
「だったら尚更!!」
「尚更──なに? 鎮圧しろよ、って?」
「そ、そうよ!」
「生徒会が擁する戦力なんて、たかが知れてるよ。統治委員会の一個小隊にすら負けるっしょ。てか、今の生徒会の最高戦力って、ナルミ先輩でしょう? リエも七天魔として現場に出てるんだろうけどさ、ナルミ先輩の追加投入でどうにかなる規模なの?」
「いやまぁその……期待薄だけど」
「本人を前に……スズちゃんも容赦ないなぁ……」
「鎮圧できないなら、いっそ、利用しようよ。噂を実現してしまえばいいの。そうすれば、同じ理由で無差別に戦闘が勃発する事態は、もう起きないよ。何故なら、既に存在する『序列』を無視してまで、無差別に戦闘を仕掛ける意味が無くなるからね」
「つまり、七天魔の存在を無視して戦闘が起きてる理由は、今の七天魔に序列が無いから、ってこと? 序列が無いから、こうなってるの……?」
「そうだと思うよ。序列が無いと、本当にその人が強いのか分からないしさ? あっても分からん時はあるけど」
「確かに、表向きには無いけどさ……でも……」
「分かるよ。私も七天魔だったからね。実質的に、序列みたいなものはある。確かにあるよ。だけど、序列を明確に決めてしまえば、七天魔の立場と権限欲しさに第7位ばかり狙われる。それを危惧して、表向きは『序列を決めてない』で貫き通してきた。遂に、そうやって逃げてきたツケを払う時が来た。そういう事なんだと思うよ」
「ッ……」
「てことで、私の意見は『明確に順位をつけて噂を実現しよう』でーす。どう思う?」
スズとルーシィの会話を聞いていた他の4人は、スズと同様に黙り込んでしまう。ルーシィに向けて言いたかった事を、既に今の会話の中で論破されたような気がしていたからだ。
しかし、それだけで止まらないのが、ルーシィに次ぐ、または同レベルの成績優秀者であるテンコ。
「立場と権限欲しさに第7位ばかり狙われるって、先人達が危惧したからそうなってるワケだけどさ。それについてはどう思う? 対策は?」
「対策? そんなの必要ある?」
「は?」
「立場と権限欲しさに第7位ばかり狙われる──。それの何がダメなのさ?
「そう、だけど! でも!」
「それにさ。一時的な満足じゃなく、本当に立場と権限が欲しいのなら──その地位を守ろうと努力を継続するハズだよ。コロコロ入れ替わる程度なら、所詮はその程度のヤツだった、ってことだよ」
「……」
「──七天魔の立場を利用して部活や委員会を設立したはいいものの、即座に七天魔を抜けた場合は? 部活の維持に七天魔の立場は必要ありませんから、そういう事も起こり得ると思いますけど……」
「そういう舐めた態度ならね、廃部にすればいいと思うよ。本当にその活動がしたいなら、七天魔って立場を利用せず、正規の手順で部活を設立する事も可能な仕組みになってるんだから。もしくは活動の実績を残すのを条件に部活を存続させるのもアリ。例えば、ミレニアムなんかは、実績で部活の存続や予算を決めるようなシステムにしてるらしいんだ。それを『七天魔の立場を利用して設立した組織』に対して適用する。そうすれば部の設立だけを目的に七天魔に入るとかいう舐めた態度のヤツは初めから七天魔に挑まなくなるよ。……ね、ナルミ先輩?」
「ふぇっ!? あ、そ、そうだね、うん……っ!」
ナルミ(ナルコ)が部活を設立した当時、彼女はまだ中学生だった。だからアンナが危惧したソレにナルミが当てはまっていると知らないハズだった。それなのにどうしてピンポイントでナルミを名指しできたのか。
当時から在学していたライムから聞いたのか──それとも書記や副議長だった当時に部活動の履歴を見て察していたのか──それとも。
ルーシィなら他にも手段がありそうで、ナルミは彼女に、不気味な底知れなさを感じていた。
「──んで、結局どーすんのよ? アタシそろそろ現場に戻りたいんだけど。その前に生徒会としての最終的な決定を教えなさいよ」
「副議長の私に言われても。皆、どーするのー?」
「運を天に任せて……」
「心苦しい、ですけどね……」
「序列を作るしかない、ですかね?」
「これからは、序列を作った後の対策を練る方向にシフトした方がいいかもね」
こうして、七天魔に正式な序列を設けることで、最終的に落ち着いた。そんな事態になるとは微塵も思っていなかったスズは、生徒会の最終決定に驚き目を見開くも──元来好戦的な彼女は、それに対し喜びが隠せないらしく。
争いを終結させる為に生徒会に助力を求めに来たハズのスズの口元は、三日月のように歪んでいた。