「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
そしてそれだけの人数が飂熾冘巫髏イチの戦力を有する絶対的強者・レイコの強さを認識していた。
だからか、学園のあちこちで七天魔の序列を巡る戦闘が勃発していても、飂熾冘巫髏に所属していた過去を持つ者は、絶対にレイコには挑まなかった。アルミの空き缶を踏み潰すが如く、文字通り一瞬で潰されるというのが、戦う前から分かるから。
そしてそれと同時に、レイコに挑むヤツはただのバカだと、飂熾冘巫髏の構成員だった生徒の誰もが思っていた。
レイコは1年3組である。強さだけでなく勉強もそれなりにデキるので、成績優秀者が集まる1組に入るのは余裕ではあった。しかし前年度に入学したルーシィは、1組というだけでもそれなりに注目を浴びる事になると知っていたので、1組に入らないようにと、成績を調整するようレイコに仕向けた。
その結果が、1年3組であった。
飂熾冘巫髏の活動が本格化するまで、息を潜めて実力を隠し続けてきた。授業中に寝たり、そもそもサボったり。大好きな体育の授業では、誰が見ても分かる程にわざとらしく手を抜いたり。
しかし組織の活動が本格化し、沈静化してからはその力を遺憾無く発揮するようになった。体育では同じクラスの生徒を打ちのめし──合同授業の時は1組や2組など、3組より優秀なクラスの生徒をもコテンパンに打ち倒したり……。
飂熾冘巫髏の解散からしばらく経った現在では、飂熾冘巫髏の構成員ではなかった生徒にもレイコの圧倒的な強さが周知されていた────。
だからなのか、学園中で戦闘が勃発していても、レイコの周囲は、平和そのものだった。もし彼女が動き出せば、それで全てが終わるから。
トリニティの正義実現委員会が、委員長ツルギの圧倒的な戦闘力を信じるが如く、大抵のハドマ学園1年生は、レイコの圧倒的な戦闘力を信じていた。学園の風紀や自治を担う統治委員会の副委員長たるルビーですら、同じ1年だからか、例に漏れず同じ反応を示していた。
「ふわぁ〜ぁ……なーんか、退屈ね。ねぇ、アンタは行かないの?」
「戦いに?」
「他に何があんのよ」
「私は七天魔にも興味無いし、興味あったところでアンタが居る以上は上位は狙えないし、別に……」
「か〜ッ、相変わらず冷めてるわね〜」
「うっさいなぁ」
同じクラスのヒトデは、圧倒的力を持つレイコが居ること、そもそも興味が無いことを理由に戦闘に行かないと告げる。ハナから諦めたような態度に、レイコは苦言を呈するが、ヒトデ本人は、気にした様子はない。
「ていうか、戦闘狂のアンタが乗り気じゃないのが何よりも意外すぎるんだけど」
「これで私が最強だ! って舞い上がってるアホを私がコテンパンにぶちのめす。それが一番楽だし」
「うっわぁ……最強を目指す者の姿か? これが」
「てか私以外のハドマ生は基本雑魚だからさ、誰と戦おうと雑魚狩りにしかなんないのよね……。つーか生理中だし……マジで気分がアガんないわー……」
「生理なら身体を温めるハーブティーとか飲みな。ココアとか。カモミールなら校内の自販機にもあるはずだよ?」
「だるーい……ヒトデ買ってきて、お金渡す……」
「ったく……しょーがないな……」
「よっ、健康保全部部長〜!」
「副部長です〜」
現時点でハドマ学園最強はレイコである。そして彼女の次に強いのは、前議長であるリエだ。更に、そのリエとレイコの間にはあまりに大き過ぎる壁が存在している。レイコにとってはリエですら雑魚の1人と言えてしまうから、恐ろしい。
しかしそれが自惚れではなくただの事実であると誰もが理解しているから、彼女はこうして机の上に突っ伏して級友とくだらない話をするという平和な時間を享受できていた。
レイコに挑む者は存在しない。自称最強のスズがほんのたまに腕試しに挑むくらいで、他には、誰もそんな無鉄砲な行為には及ばない。
……ただ1人を除いて。
「あなたが前期失楽園の会計、博愛レイコだね?」
「あー? 誰?」
そんなレイコの横に立つは、この騒動を起こした張本人──自己の存在証明として「最強」を目指す6枚もの翼を持つ、ロイヤルブラッドの天使でありハドマ学園の真の後継者──。
白羽マコラ改め、我猛マコラである。
「あなたが『最強』の生徒でしょ? 元議長よりも強いって噂だよ」
「噂っつーか事実っつーか……で? 誰なん?」
「自分の学校の生徒会役員くらい把握しときなよ。1年1組2番、白羽マコラ。この前の選挙で天使族副議長になった。『最強』をかけて私と勝負して」
「1年1組2番──2番? じゃ1番のルビーより下じゃん。アイツよりも下とか、話にならねーわ。最低でもルビー倒してから出直しな」
「倒してきたよ」
「……あん?」
「というか1年の
ルビーを倒したと聞き、ほんの一瞬だけ不快感をその顔に示すが、すぐに先程までのような気怠げな顔に逆戻りする。
「あらま〜そら大層な欲望だこと……ふわぁ……」
「真面目に聞いてよ」
「真面目に聞いてほしけりゃあ、2年や3年くらいさっさとボコしてきなさいよ。あんなん雑魚共よ? とりあえず1年からとか言ってるけど無理だから。私が居るからね」
「なっ……」
「3年リンコ、リエ、サラ。2年テンコ、スズ──最低でもこの辺を1分でボコせる程度じゃないと、お話にならないね。走り方も知らねー幼稚園児と、短距離走の世界大会に出られるヤツが、50m走で勝負するようなもんよ……話にならねーっての」
「統治委員会の副委員長すら倒した私が、走り方も知らない幼稚園児だと──そう言いたいワケ?」
「そうだっつってんの。わざわざ確認が必要なの? 1年1組2番の頭もその程度なのね。潜伏のために手ェ抜いてなきゃ、私が1番か2番だったろうね」
レイコの所属する1年3組は、決して優秀だとは言えない生徒が集まるクラス。そんなクラスに所属する生徒に「私はお前より上」などと言われれば、自らの優秀さを自負している生徒は、誰もが青筋を額に浮かべるだろう。
そう、マコラもまた例外ではなかった。
「……どうも、あなたは自惚れが過ぎるね」
「ふんッ。自惚れかどうか──その貧相なカラダに教えてやってもいいよ?」
「あっそう、じゃあ教えて? 校庭でやり合おう。さっき校庭でドンパチしてた連中は、私がボコしてどかしたからさ。今はもうガラ空きだよ」
「クラスメイトに、ジュース買いに行かせてんの。アイツが戻るまでに決着つけたげるわ」
教室の窓を開け放ち、窓からダイレクトに屋外に飛び出したレイコ。歩けばぺったんぺったんと音が鳴るような、外では歩きにくい室内シューズのまま外に出たようだ。
ハンデをくれてやる。そう無言でアピールされたように感じたマコラは、言い訳の余地を潰す為に、自身もまた室内シューズのままで外に飛び出した。
「生徒会のクセに室内シューズのまま外に出てきていいんですかァ〜?」
「あなたもね。つい先日まで会計だったのに」
「もう生徒会じゃないし〜。現在進行形で生徒会のヤツに言われたくないわー」
語尾に「w」がついていそうな彼女の物言いに、前髪に隠れたマコラの額には、段々と、太い青筋が浮かび上がるように。
明らかに舐めている態度。マコラの中に苛立ちが募るのも仕方ない。しかしこれがレイコという生徒なのだ。決して性格は良くない。
「あれ? 副総長じゃね?」
「マジじゃん。七天魔戦争に遂に参戦するのかー。この戦争も終わったな」
「もう七天魔だからって静観してるのかと思った」
「あの白ワンピ誰?」
「ほら、新生徒会の天使族の副議長だよ」
「副議長に挑むとか、命知らずにも程があるだろ」
「飂熾冘巫髏じゃなかったっぽいからしゃーない」
「南無……」
そして、レイコ達が校庭に出たことで、各教室の窓際の生徒達は窓際に、校庭の周辺に居た生徒達は物珍しさに校庭の外周に集まり始めた。
「じゃ……ヤろっか☆」
「ッ……望むところ……!!」
こうして、早くも、頂上決戦に近い対戦カードが実現することになった。ただし、本当に頂上決戦に近いと言えるかは、マコラ次第である……。