「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「……およよ? 地震かな?」
「ちょッ、やっと部活に来れたばっかりなのに!! 工場じゃまだガスの実習中だよ、中断させなきゃ! 姉さんは避難経路確保しといて!」
レイコとマコラの戦いが始まって、ほんの僅かに時間が経過した頃。ハドマ学園を中心に、そこそこ大きく、横にも縦にも揺れる地震が発生していた。
僅かな揺れだろうと、その揺れを感じるや否や、技術開発部ではガス溶接の実習や工作機械の稼働を停止させて、万一の場合に備えて、避難経路を開拓しておく。
◆
「あわわわわっ、本が、機材が、薬品がぁ!」
「部長っ! ふぬっ……んぐぐぐ……!!」
「ヒトデちゃん!」
保健室では、医療に関する資料や書籍、棚に安置している薬品や、健康診断などの際に使用する機材などが崩れ、倒れ、悲惨なことになっていた。
薬品を保管している大きな棚も倒れそうになったものの、揺れを感じ取って真っ先にサラを気にして保健室に来たヒトデが、吸血鬼特有の怪力を利用しその細い腕で受け止め、どうにか事なきを得た。
部長が緊急時に慌てちゃダメでしょうが──と、久しぶりに、牙を剥き出しにして先輩であるハズのサラに説教をした。
◆
「……地震?」
「だと思いますけど……珍しいですね」
「あんま揺れないもんね。てか珍しいってんなら、それはあんたでしょうよ。あんたが負けるなんて、地震より珍しいったらありゃしないわ」
「相手はクラスメイトですからね。先輩やレイコの次くらいに手の内を知られてますし。でもまさか、あの彼女が、あそこまで強い野心を持っているとは思いませんでした。普段とはまるで別人です……」
「……例の、マコラっての?」
「ええ。まるで私への対策をしっかりしていたかのようでした。瞬殺って程でもないですが、ショック受ける程度には、サクッとやられました」
「ま、そんな時もあるわ。切り替えていくしかないでしょうよ」
「……ですね」
マコラに敗北した時にできてしまった傷をスズに手当されながら、ルビーは複雑な心境を吐露する。
これまでは、互角よりややルビー優勢、くらいのパワーバランスであった。しかし、それが嘘であるみたいに、拮抗する事なくマコラに敗北を喫したのだった。ショックを隠せないというのも、仕方ないだろう。
「……長いわね、この揺れ」
「ですね。でも、おかしいですね……揺れ方がどこかメチャクチャですよ」
「地震にメチャクチャじゃない揺れなんてある?」
「地震って、縦揺れ、横揺れのどちらかって相場が決まってるんです。こんな縦横無尽な変な揺れ方、この建物自体が豆腐でもなければおかしいですよ。地響きや地鳴りも無く、急に大きな揺れが来たのもおかしいですし……いきなり本震が来たみたいな」
「?」
「スズ先輩、どうやって学園に入学したんですか? 今の話、中学理科の話ですよ?」
「し、知ってるわよ! 普通の地震じゃないから、これは人工地震よ! 人工地震に決まってるわ!」
「うわ。まさか先輩って陰謀論者だったんですか? 頭の中まで羽虫程度に堕ちる必要は無いんですが」
「誰が羽虫程度よッ!」
スズが怒りに任せて机を殴る。それとほぼ同時に校庭の方からは凄まじい爆発音、ズガン、ガゴン、ボゴンッ──という、大質量の何かしらを高所から落としているかのような、妙な音が響き始めた。
しかもよく感じ取れば、揺れとその音はほぼ同期している。それに気付いたスズは、ニンマリと頬を緩めた。
「ほら感じなさいよルビー! この音、この揺れ! 屋上から何か落としてて、それの揺れよ、これは! つまり人工地震って事でファイナルアンサーね!」
「しかし、そんな大規模な作業をするなんて申請、技術開発部からは無かったですよ?」
「あたしらの確認漏れか、もしくは、
「……テンコさんが生徒会の仕事に慣れるまでの間、リンコさんが部を仕切るんでしたっけ……」
「そうよ。ね? 有り得るっしょ」
「……うーん。リンコさんなら有り得ます……」
「とりま作業中断させに行ってくるわ。申請無しに余計なことやられたら、あたしらまで生徒会に何か言われかねないし」
「私も行きます」
「怪我人は休んでなさいよ」
「こんな怪我、明日には治ってますよ」
「流石は吸血鬼。普通なら3日は掛かるわ」
と、武器を引っ提げて震源地であろう校庭に出る2人だったが。
そこには驚きの光景が広がっていた。
◆
「あはは! 散々イキッてたクセにその程度ォ!? 可哀想すぎて、寧ろ憐れみしか出てこねーわ!!」
「くっ……このォ!!」
校舎やら体育館やらの設備を壁として利用して、校庭を中心に立体的に暴れ回る白き少女が、2人。1人はその小柄な身体に似合わぬMG、もう1人は学園が配布する平均的で特徴の無いARを構える。
両者共にその白く長い髪を振り乱し、スカートが捲れてその中に潜む純白を空に晒すことも厭わず、地に壁に空にと、所狭しと暴れていた。
いや、少し違う──「両者」とするのは、語弊があるかもしれない。空すらも利用しているのは1人だけだった。
絵に描いたような意地悪な悪魔的表情を浮かべ、まるで地面に縛り付けられるが如く地面や壁からも離れられない哀れな天使を、空から見下すような、ハドマの擁する最強の悪魔────。
「くっ……ちょこまかと!」
「そんな雑魚武器でこの私に勝てると思ってんのがそもそもおかしいんだよ、思い上がんなバーカ!」
「強い武器に頼らないと私に勝てないって認めてるようなモンじゃん!」
「違うねッ! あらゆる武器を十全に使いこなす、それも含めて私の『強さ』なんだよッ!」
レイコのMGとマコラのARは射程距離が違う。レイコはARの射程距離のギリギリをちょこまかと立体的に動き回り、マコラを翻弄していた。
そして着地する際は、照準を狂わせる為なのか、その超越的な怪力にて地面を殴る。壁を足場にするならば、その圧倒的脚力で壁にヒビを入れる勢いで蹴り飛ばす。
縦にも横にも揺れる謎の地震は、レイコの圧倒的暴力によるものだったのである。
「こんな雑魚が『最強』を目指す? 舐めんなよ! こんなに手ェ抜いてる私に負けるんじゃあ、学園内最強どころか、学年最強・種族最強すら無理筋よ! 武器と首を洗って──出直してきなッ!!」
「あぐぁっ……!!」
上空から、字面の通りの急転直下。巨大な鉄球を落としたようにグシャッとマコラを踏み付けにするレイコ。
その姿は、いつかの時代の風刺画のようで……。
「ゲホッ、ゴホッ……ぐぇぇ……」
「靴底の溝に挟まった砂粒程度の存在の分際でさ。奥歯の隙間に挟まったポップコーンの欠片みたいに妙な存在感を主張してるんじゃあないよ。虚栄心が強すぎ。情けないと思わない?」
「……つ、強……」
「は? この程度で何言ってんの? こちとらまだ本気の半分も出してねーわ」
「……ッ!?」
「そんなザマでよくルビー倒せたね? それとも、ルビー倒したなんてのは嘘だったりすんの?」
「嘘じゃっ……」
「ま、どっちでもいいんだけどね。けどね、覚えておきなさい。そんな程度じゃ、私どころかリンコ、リエ──ううん、スズにすら負けるわよ」
「な……!?」
「あんたさ。自分の強さにカマけて、ずっとずっとサボってたんじゃない? イキってる割に、まるで歯応えが無かったわよ」
「……!」
「『どうせ本気出せばいつでもできるし』ってさ。そんな風に自分の強さに胡座をかいてサボり続けてここまで来たんでしょ。過去の強さを信じたダサいアホの末路なんて、所詮こんなもの。おつかれ〜」
ぴょいとマコラから飛び降りると、自分の教室に戻ろうと彼女に背を向ける。観衆にMGを投げ渡すところを見るにまた他人の武器を利用したらしい。
「……でしょ」
「……あ? なんつった? もっかい言ってみなよ」
否、聞こえている。吸血鬼は地獄耳だ。だから、レイコは額に青筋を浮かべ、もう一度言ってみろと挑発を繰り出した。
下唇を噛み、意を決して、マコラは口を開く。
「過去の強さに胡座をかいてるって、それ、モロにあんた自身の事でしょーが! どうして、私だけがそんなコトを言われなくちゃなんないってのよ!? イキってんのはあんたも一緒じゃん!!」
「あんたと一緒にすんな、バーカ。私は『最強』を目指してんのよ。その時点であんたとは格が違うと分かりそうなモンだけど? 思い上がりが強すぎるバカには、それすら理解できないのね?」
「は……はぁ? そんなの私だって同……」
「同じとか思い上がってンじゃねーわよ。勝っても負けても鍛え直す、あんたにゃそのガッツが無い。勝ったらそこで満足するンでしょ? だから自分に足りない部分をいつまで経っても自覚できないし、自分の強さを誤認したままで、落ちぶれるのよ」
「……!?」
「いい、クソガキ。覚えておきなさい。この私は、イキッてるんじゃない。事実を言っているだけよ。私は強くお前は弱い。この結果を見ても分かる通り私の強さは明らか。事実を言って『イキッてる』? 弱者の僻みね。負け犬の遠吠え、とも言うけれど」
「〜〜〜〜〜ッ、それでも! 結果が分かる前からずっと同じ態度だった! イキリの他にある!?」
「はぁ……。結果とか初めから分かってたでしょ」
「え……」
「だってあんた、弱いもん」
これ以上に言葉が見つからない──これ以上何を言っても「負け犬の遠吠え」としか扱われない。
その事に気が付いた彼女は途端に顔を青くさせ、そして、そのまま地に伏して泣き出してしまった。
レイコは飂熾冘巫髏に所属してた頃、確かにヒナに勝っています。本人はそう認識しているし、ヒナもレイコに負けたと認識しています。
しかしレイコは「最後は汚い手を使った。実質的に負けたようなもの」とも考えています。
それでも「負けたようなもの」と公言しないのは、そこまで自身を追い詰めたヒナへの敬意です。
そこでへりくだるのは、逆にヒナへの侮辱である。
敢えて「イヤな勝利」を噛み締めることで「最強を目指し続ける自分」を、焚き付けているようです。