「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「お待たせレイコ、マジお待たせ」
「おっそ〜。あの生意気天使、とっくに返り討ちにしてますけどー?」
「だと思った。いや、やっぱりというか、保健室の片付けに追われてさぁ」
「片付けェ? 飲みモン買ってこいっつったのに、どーして保健室なんか行ってンのよ」
「ほら、さっきの地震だよ。部長、1人で大慌てで大変なコトになってそうだなーって思って寄ったら案の定ってカンジ」
「地震? そんなんあったの?」
「あんたは戦いに夢中になってたからでしょーね。夢中になると、相手以外に何も見えなくなるから」
「あーね」
「『あーね』じゃねーわ、全く」
「「「…………」」」
レイコとヒトデの会話を聞き、クラスメイト達は苦笑い。レイコはヒトデに買わせた飲み物を飲み、漫画を読み始めた。元生徒会の生徒とは思えない。
ヒトデはと言うと、いつも通り傍若無人な彼女に呆れながら溜め息をつき──何故か苦笑いしながら2人の方を遠巻きに見ているクラスメイトの視線に気が付く。
「……何?」
「あーいや……そうだよね、ヒトデちゃん、自販機に行ってたもんね……そりゃ気付かないよなーって」
「だよね……ハハッ……」
「何が??」
「さっきのアレ、地震じゃないよ」
「へ?」
「私達、ずっとあの天使の子とレイコちゃんの戦い観戦してたから分かるんだけどさ。アレね、全部、レイコちゃんが校舎を足場に飛び回ったり、地面を殴った時の衝撃……なんだよね……」
「はぁ……??」
「ほら、なんか変な揺れ方だったでしょ? 揺れが一瞬強くなったり弱くなったり何度も繰り返して、しかも横にも縦にも揺れるような感じでさ」
「あー……確かにそんなんだった。いやマジか……」
流石にその話には信じ難いものがあった。しかしレイコなら──自他共に認める「最強」だったら。そんな「まさか」も起こせてしまいそうな、例えて言えば「スゴ味」のようなものがレイコにはある。
実際にそんな場面を見たワケでもないのに何故か納得できてしまう、そんな圧倒的な説得力がある。
「あんた、少しは加減しなさいよね……」
「加減? あんな雑魚に本気出すワケないじゃん。遊びよ、遊び。あんなん、遊びの範疇を出ないわ」
「そりゃあんたはそう言うだろーけどさ……」
「?」
本気で分かってないな、コイツ──と、ヒトデは呆れの溜め息を吐いた。
◆
「……」
「マホさん……大丈夫ですわ、次はきっと」
「うっさいッ!」
「っ」
レイコにコテンパンに倒されるなり、マコラは、すぐさま帰宅してしまった。それを風の噂で聞き、リエも追い掛けるようにして早退してしまう。
なお、マコラとリエが2人きりの時*1は、彼女は前世のマホとして振る舞い、姉であるハズのリエもそれに従う。だから、どこか姉妹というよりは歳が離れた親戚のように見えてしまうかもしれない。
何にせよ、レイコに圧倒的敗北を喫したマコラは不貞腐れるように帰宅し、自室の布団を被った。
姉の慰めなど、初めから聞く気が無いようだ。
「ちくしょうッ……あんなガキにこの私が……!」
「レイコさんもまた『最強』を目指す者──衝突は不可避だと常々思っていましたが、まさか……」
「『まさか』なんなんだよッ!? まさかここまでボロクソにされるとは、って言いたいのか!?」
「いえ、そうではなく。まさか、レイコさんの力がマホさんすら下すほどだとは、と……」
「同じ事だろッ! クソッふざけやがって!!」
「……私にも勝てるマホさんであれば、或いは……と思っていましたが……」
「ボロクソだったよ、言うまでもなく! まるで歯が立たなかった! 2分、いや1分半掛かったかどうか……」
「マホさん……」
「クソッ、クソッ、クソクソクソクソクソ!!!」
低反発枕にはマコラの拳の跡がクッキリと残る。ポタポタと流れ落ちる涙は、そのきめ細かな布地にじんわりと広がり、中々染み込んではくれない。
怒りか悔しさか、彼女は泣いていた。
数ヶ月前、レイコによって学園が破壊されたり、ルーシィに乗っ取られた時などは、寧ろ笑い飛ばすくらいだったのに。
「……あんなバケモノと戦ってたんだね。そりゃあ、リエでも負けるよ……」
「バケモノだなんてそんな……あのレイコさんとて、負ける時は負けるでしょう」
「例えば?」
「え?」
「アイツ、いつ負けた?」
「……………………」
「知らないんじゃん。──まさか私が負けるなんて思わなかった。いや、負けるどころか歯が立たないなんて思わなかった。そんな日を私が迎えるとか、思うワケないじゃんか……クソォッ……」
布団に潜ったことで、布団に小さな山ができる。どうしたものかと溜め息をつくリエだったがどうも簡単には機嫌を直してくれそうになかった。
少しでも機嫌を直させるには、とある事を提案。
「……私がお相手しましょうか?」
「相手になるのなら」
「……。リンコさんにも、声を掛けてみますわね」
「リンコ? あぁ、リエと同レベルかもっていう、技術開発部のか。けどさァ、ホントにメカニックが戦えんの? しかも、リエと同レベルに?」
「ええ。もしかしたら私を上回る腕かと思います。そんなリンコさんとの2人であれば、恐らくですがマホさんの特訓相手足りうると思いますわよ」
「……ふんッ。分かった。声、掛けてみて」
「分かりましたわ」
実のところ、リンコとリエが揃っていたとしてもレイコの方が強いし、戦術も何もかも違いすぎるが故に、大して戦闘訓練にならないのが現実である。
レイコと違い「強いヤツと戦えば強くなれる」と考えているのがマコラの悪いところだ。
ならばレイコはと言うと、強いと思う者は勿論、弱いと断ずる者とも戦う。暇潰しという考えから、というのもあるにはあるが、より多くの者と戦った方が、より多くの戦術パターンを体験できるから、という理由が何よりも大きいのかもしれない。
言わば「貪欲さ」が、マコラには足りていない。レイコは、自身が納得できなければ、たとえ勝負に勝っていようとも心の中では敗北判定し、いつかはリベンジするつもりで考えている。
ただしマコラは、そういう場合、素直に勝ちだと喜んでしまう。
喜ぶのが悪いと言いたいのではない。ただただ、レイコに比べて「飢え」が足りていない。だから、周囲のレベルを知ろうともしない内から、かつての自分の力だけを信じてこんな騒動を起こしたのだ。下手をすれば自分の首を絞めることになるだけだと気付きもしないうちから。
こうして彼女にボロボロになるまで打ち倒されて初めて、自分はかつての強さに胡座をかいていて、現代のハドマ学園では頂点に立てないのだと、強く思い知らされることになった。果たしてマコラは、ここからどこまで強くなれるか。
全ては本人の「貪欲さ」次第である……。
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