「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
俺の身に何かあった時のために予約投稿してたのを日付変更してなかった。
ミスです。2話目は挿入投稿とかでハドマ編を完結させてから投稿します。
(2026/04/05 16:00:39)
キヴォトス某所──ミレニアム自治区のどこかにある、見渡す限りの広大な工業地帯にて。
ある日、「それ」は突如として現れた。
漆黒の光輪を戴き、静脈血のように赤黒く濁った目は鈍い光を放ち。
三日月より細く、曲線に歪められた口唇からは、隠す気が全く見受けられない剥き出しの「欲望」が溢れ出し、冬の寒さに冷やされたアスファルトを、ほんの僅かに温め。
光に目が眩んだかと錯覚する程に眩しい「白」い髪を、刺すような冷たい風に靡かせ、燃えるような夕焼けに髪を染める。
一見、ただの「生徒」。
しかし白目であるべき場所すら虹彩の色であろう暗紅色に染まっていて、明らかに異常で。
そもそも、生徒の象徴と言える制服ですらなく。
かと言って私服と言い難いゴスロリ衣装に近く。
唐突に空に現れた「それ」をまるで生徒のように演出しているのは、頭上にある漆黒のヘイローと。
少女──のように見える、その外見だけだった。
真っ先に、上空に立つ「それ」に気付いたのは、工業地帯の上空全体を哨戒している警備ドローン。
『施設へノ接近ヲ確認。速ヤカニ退出ヲ願イマス』
「ギヒヒッ……!」
『武器ヲ用意──敵対行為ト判断。警備ヲ増員シ、早急二対応シマス』
工業地帯全域にサイレンが鳴り響く。各建屋から警備ドローン、砲兵、戦車などが現れ、上空に立つその存在に一斉に攻撃を浴びせかける。
「ギヒヒヒヒッ……ヒヒヒハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!」
自身を囲むドローンをはじめ、地に立つ砲兵や、戦車などにも圧倒的遠距離の攻撃を浴びせかける。工業地帯を見渡せる程の上空から地面までの距離は相当なものだ、それでも「奴」の攻撃は正確に敵を撃ち抜き、または、敵を爆発範囲内に収めていた。
当然ながらそんな攻撃を浴びせられてしまってはこの工場は──そればかりか、工業地帯全域が炎に包まれる事になる。
『うっ……うわあああーっ!! 俺の工場がー!!』
ラグビーボールのような頭を持つ細身のロボット市民は、絶望のあまり項垂れ、地面に膝をついた。
しかし彼はタダでは負けない。所有する工場群が襲撃により破壊されゆく様を見ながら、怒りの顔を表示させ、手を震わせ、砂埃に塗れた手指を、炎で熱くなりつつあるアスファルトから離し、スマホを握る。
こういう事態に直面したとき、自分はどうすればいいか──事前に
『助けてくれっ、ミレニアムサイエンススクール! 俺の工場が、何者かの攻撃を受けているッ!!』
『『『『────了解』』』』
この事態に対応したのは、ミレニアムサイエンススクールの有する凄腕エージェント、通称C&C。正式名称をCleaning&Clearingである。
今回C&Cが彼の要請に応じたのは、上記の通り
「契約で決めていたから」である。
このロボット市民「ガザーカンパニーの社長」は以前、ミレニアムの超技術を求め、ミレニアムへの侵攻を計画していた過去がある。
それをヴェリタスが突き止めてセミナーに報告、セミナーがC&Cに依頼して、事前に阻止した──という経緯だが、動機は、ただ単に「ミレニアムの超技術を利用し、己の有する技術を高める事」だけだったのだそう。
物作りが趣味で生き甲斐でもある彼は、結果的に侵攻が未遂に終わった事と、動機が悪用ではなく、完全な趣味嗜好──端的に言えば「道楽」であったという事などから、セミナーの監視付きとの条件でエンジニア部と提携を結ぶという結果に帰着した。
そして、部分的でもミレニアムの超技術を有する事になるのだから、警備はより厳重にせよ、と──有事の際は、事態の鎮圧に向かったC&Cを臨時の警備員または兵士、つまり「戦力」として利用し、技術の流出だけは何としても食い止めるようにと、C&Cとも重ねて契約を結ぶ事になったのだった。
────そして、今。
襲撃を受けている「ガザーカンパニー」は社長の判断にて全戦力を「奴」の対処に投入し、C&Cの到着まで持ち堪える事に終始するようになった。
「お待たせっ、社長さん!」
「遠くからも見えた。……酷い火災だ。消防車は既に手配してあるよ」
「所用にてリーダーは不在ですが……」
「代わりに先輩方とこの飛鳥馬トキが対応します。ぶい」
『あ、あれ……あの時のゴスロリ破壊天使は……?』
「アンちゃんは、今日はお休みですね。シャーレの先生が出張などでシャーレに不在の場合、代わりに彼女達がシャーレに駐在する事になっています」
『そうか……。ま、まぁ、敵は「奴」1人なんだし、あの破壊天使ほどの馬鹿げた火力は要らないよな』
「それで、社長さん。敵はどこに……?」
『何言って……アイツずっと
彼が上空を指差した時──破壊されたドローンの欠片や爆発の煙などの他、そこには何も無かった。
その代わり、その真下に、「奴」が立っていた。
C&Cと社長の、50m程度先に。
「わ〜! すっごい美肌! 白くない!?」
「いやまぁ肌も白いけど……髪も凄い白くて長いね」
「外見で判別するのなら、ゲヘナ辺りの生徒さんに思えますが……しかし……」
「……アンに似ていますね」
「言うほど似てる……?」
『どー見ても生徒じゃねーよ! 目もイッてるし、てか自前の翼で空を飛ぶ生徒なんて居るのか!?』
「聞いた事はないけど、中には居るんじゃないか? 学園だけで数千はあるし、それだけ生徒も多いし。いや、そんな事より……」
「確かに社長さんの仰る通りですね。どう見ても、アレは生徒ではないでしょう。何かのミメシスか、それに類する者じゃないかなと……」
「でもミメシスのヘイローは基本的に壊れてない? アイツのヘイロー、確かに黒いは黒いけどミメシスみたいに壊れてるようには見えない……」
「それならミメシスに類する何か──って……トキ? どうかしたのか?」
カリンはずっと「奴」を真っ直ぐに注視したまま動かないトキに声を掛ける。しかしそんなカリンの声にもあんまり反応を見せず、そればかりか先輩に何も言わず武装──アビ・エシュフを運用する。
「アビ・エシュフ、移行。戦闘態勢に入ります」
「なっ!? いやそれはいいんだけど妙に急すぎやしない?」
「何か考えがあるのですか?」
「──先輩方、社長さん。一旦、退いてください。私が
「まずは理由を……!」
「あの姿、古い文献ですが少し見覚えがあります。かつては、リオ様が『名も無き神々の王女』の次かその次くらいに懸念されていました。キヴォトスに破滅的な厄災を齎すとされる、名も無き神々の力を振るう破壊の神……いえ、破壊の『悪魔』だと」
「……それがアイツであるという保証は?」
「ありません。が、私がチラ見した時に目に入った文献に載っていた言い伝えの内容と合致してます。その内容は────」
「────みたいな感じの内容でした」
「『白き衣』──ゴスロリのような服なので白黒のように思えますが髪の事かもしれませんね。見方によっては羽衣のように見えなくもないですし」
「『地を紅に染め』──ってのは、この火事のことなのかな。普段はどこか抜けてるように見えるのにどうしてこういう時は優秀なんだ……」
「公私混同はしないタイプの、パーフェクトメイドですので」
(要塞都市エリドゥでのトキはまさに『公』の部分全開だったのかもしれませんね……)
「あ、今の発言は『公私』の『私』の部分っぽい。なんて、そんな話は置いといて……」
「仮にアレがその言い伝えに登場する『破壊の神』だとして、あなたを殿に、私達が真っ先に避難する理由にはなりません。もしリーダーがここに居ても同じような事を言ったと思いますよ」
「それに、工業地帯もまだ全域は破壊されてない。生きてる部分はある。それを守る意味もある」
「──それじゃ、いこっか! 戦闘開始だよっ!」
「「「了解っ!」」」
アスナの号令にてアカネ、カリン、トキの3人は戦闘を開始。ガザーカンパニーの社長は燃え残った瓦礫に身を潜めつつ、C&Cの戦いを見守る。
自分の会社を一度完膚無きまでに叩きのめした、あのC&Cなのだ。ネルなどが居なくとも、今回も問題無く勝てるだろう──と、信じていた。応援も追加で呼んだりはせず、見守る事に集中していた。
しかし、それが甘かった。
「ゲヒャヒャヒャヒャヒャアァッッ!!」
「!?」
最初に襲われたのはアスナ。ショットガンの射程ギリギリから襲ってくる敵に対し、距離を保ちつつ的確に攻めていくアスナだったが。
「ひゃっ!?」
「先輩!!」
突如、銃を放ると共に地を蹴り肉薄──アスナはその超人的な勘で突進を回避するも、人体の構造を無視したような有り得ない動きで、敵はアスナへと狙いを定めたまま、その手を伸ばす。
そのまま、発砲により熱を帯びた銃身を掴むと、アスナをグンと引き寄せる。
銃を掴まれて引っ張られるくらいは、近接戦闘に持ち込まれた場合、無くも無い。それくらいなら、アスナにだって経験はあるし、対応も可能だ。
しかし、明らかに敵の腕の射程外に退避したにも関わらず、関節の可動域をフルに無視して、関節が捩じ切れるような異音と共に、敵の手は、アスナの腕を掴んだ。
「このぉッ!」
「──!」
ガッチリと掴まれ、腕は動かせない。ならばと、敵の股間を蹴り上げて動きを封じようと考えつく。
股間とは、男女を問わず弱点である。腕を掴まれ銃の間合いの内側に入られ、腕まで固定されれば、攻撃手段は頭突きや蹴りしか無くなる。それ故に、アスナのこの判断は正しいと言えるはずだった。
「あがっ……!?」
蹴りの勢いをそのままに、敵は、アスナの頭上を飛び越えたのだ。
肩の可動域を大きく超えた動きに、アスナの肩は悲鳴を上げ、ゴキンと関節が外れた鈍い音が響く。なまじ体幹がしっかりとしているから、よろめいて転ぶ事も無く、敵の思惑通り肩を壊してしまった。
両者の体重差は、恐らく、大きくはないだろう。本来は腕1本でガードもできたであろう肩の損傷。しかし予想外の動きに予想外の動きが重なった事で反応は一瞬の数倍は遅れてしまっていた。
「先輩ッ!!」
「気にせず撃って!
「〜〜〜〜〜ッ!!」
先輩の肩を外された──いや、壊された。普通の生徒なら「気にせず撃て」などと言われても脳内は拒絶と困惑に埋められるだろう。
しかしカリンは──彼女達は、普通ではない。
「「「……了解!」」」
ほんの一瞬の躊躇いの後、カリンは銃を再度構えアカネは爆弾を用意、トキはアビ・エシュフの照準を合わせる。
今のアスナとの近接戦を見て、誰もが直感した。
トキの話が本当であれ御伽噺であれ──そして、それが目の前に居るこの敵であろうとなかろうと、どちらにせよ、コイツはここで潰しておかなくてはならない脅威である──と。
「『優雅に排除します』」
「『ターゲット、排除する』ッ!」
「『システム:アビ・エシュフ』──発射ッ!!」
ほんの少しの間を置き、アカネに続いてカリン、トキまでEXスキルを使用。アスナを盾にしようとするも、アスナはスキル使用直前にしゃがみ込み、敵に攻撃を当てようとするが。
「うぅッ!?」
「アイツ何やって……!?」
「噛み付……」
「────まさかッ!?」
アカネ、カリン、トキの三者三様の攻撃を全身に受けながら、白い髪を振り乱して、アスナの首筋に牙を突き立てる。
「まさかアイツは……いや、しかしそんな事が……」
「トキ!? 何か分かったのか!?」
「リオ様の懸念が現実に……リオ様に連絡を……!」
「落ち着け! 会長には連絡が通じない! 私達が誰より知ってる! 今はそんな事より、奴を……」
「ダメです、攻めては! 今すぐ撤退すべきです! ミレニアムに戻り、即刻、防御を固めるべきです! このままでは私達まで……ッッ!!」
「理由を説明してください。それもなく撤退など、できるハズありません。ましてや今は、ああやって仲間が囚われている状態ですし……」
「一先ず動きだけは封じられている状態だ、勝手に納得していないで、手短でも説明してくれ……!」
アカネ達に何度も説明を求められ、トキは、一旦落ち着く為に深呼吸。落ち着きを取り戻した上で、ついに自身が辿り着いた結論を語り出す。
「御伽噺のような話ですが、首筋に噛み付いた事で合点がいきました。アイツは『吸血鬼』です」
「吸血鬼というと、血を吸うという、あの……?」
「それは流石に御伽噺すぎるな、吸血鬼なんか実在なんてしてないと思うけど……」
「ええ、少なくとも現代は。かつてキヴォトス──アビドスにて存在を確認できた種族『吸血鬼』は、凶暴、獰猛、粗暴──荒くれ者ばかりだそうです。ゲヘナでも見られないような、です。しかし近年はその個体数を減らし、現存しているのかどうかすらあやふやな状態でした」
「……会長は、その種族の復活も懸念していた?」
「それに近いかと。文献によれば吸血鬼は『誰もが生物的弱点を持つが、時として群れを統治する長が比類なき暴力を備えて出現する』という話があり。本当かどうかすらも怪しい以前に、そもそもの話、近年は
「……その、存在すらも危ぶまれたというか、疑問視されたのが……アイツだと?」
「そうです。早くしないとアスナ先輩まで吸血鬼にされてしまいます。早急に先輩から奴を引き剥がし撃退しなくては。もしくは防衛の為に撤退するより他に道はありません」
「待て! 先輩が吸血鬼にされるって……ッ!?」
「それでしたら、私も漫画やアニメなどで見た事があります。吸血行為により同族を増やすのだとか。そこに焦点を当てた、ヴァンパイアハンターものの創作物も……確かに、幾つもありますね」
「そうです。吸血鬼とは、子作りする事すら無く、種族としての個体の数を増やせる──言うなれば、他人の種族的特徴を自身のものに塗り替えて同族にしてしまう、異端の存在……!!」
「しかし解せませんね。あのような特徴の生徒ならシャーレで何人も見た事がありますが──ッ!?」
アカネは言葉を切り、怯えにも似た表情に。
トキとカリンはそれに気付くと、自然とアカネの視線を追う。そして彼女と同じような顔になった。その視線の先には、「奴」と並んで立つ紅色の眼のアスナが居たから。
その口元には、不自然な程の唾液。ニヤけた口に光る不自然なまでに伸びた犬歯。無惨な音を立てて外されたハズの両肩は、いつの間にか正常に戻り。
────何より、メイド服を突き破って、肉厚な悪魔の翼が一対、生えていた。
「う、そ……」
「そんなまさか、本当に……ッ!?」
「……あハッ♡」
「先輩方っ、逃げ」
トキが2人の先輩に声を飛ばすも、時既に遅し。エージェントとして鍛え抜かれたアスナの肉体に、吸血鬼としての身体能力が上乗せされ、絶大なバフとして機能する。そのお陰で退避を促そうとしても全く間に合わず、アカネはアスナに押し倒されると同時に首筋を噛まれる。
「ッ……ここまでですね。カリン、トキ。社長さんと共に逃げてください。リーダーに、よろしくお伝えください」
「ッ」
じんわりと、アカネの瞳が赤みを帯びてくる──カリンは下唇を噛み、吸血鬼と化したアスナを鎮圧しようと銃を向けるが。
「ガァアアアッ!!」
「私が相手です……ッ!!」
アスナに注意が向いたカリンを襲おうと「奴」は一直線に向かってくる。それをトキがEXスキルで攻撃することで吹っ飛ばし、阻止する。
アスナがアカネに向かっている時間を利用して、カリンは「奴」に照準を合わせ、トキと2人で打倒しようとするが……アカネの言葉が脳裏をよぎる。
「──撤退しよう、トキ」
「ッ!」
「ごめん。説明なんてのは後から聞けば良かった。まずは納得より鎮圧、鎮圧が無理なら撤退したり、やりようはあったハズなんだ。……なのに……ッ」
「いえ。仕方ありません。現在、ミレニアムでは、ミレニアムEXPOが開催中です。他校の要人まで来ている。なら、アレが学校に襲い来る前にここで倒そうという発想は間違っていないと思いますし、みすみす撤退する選択を突き付けられれば、納得を優先しようとするのも…………理解は、できます」
「──私が殿を務める。トキは社長さんを連れて、ミレニアムに戻って皆に知らせて。まずセミナー、それから……」
「ゲーム開発部も、優秀ですよ。この飛鳥馬トキを倒す糸口を見付けたのは静かなユズですし」
「……そうだったね。さ、ほら、早く行って。私も、ある程度抵抗したらすぐに帰還する」
「………………もうじき、3対1になりますよ?」
「その程度の差、何度も乗り越えてる、よッ!!」
今度はカリンがEXスキルを発動し「奴」の頭を撃ち抜く。が、動きを停止させるには至らず、すぐ立ち上がろうと頭から血を流しつつもがいている。そして、アスナに噛まれ吸血鬼と化したアカネも、ふらりと、不気味な笑みと共に起き上がり……。
「フフフフ……ふフッ……♪」
「ほらトキ! 早く逃げて!!」
「先輩命令、という事で。ではまた後程、学校で」
「すぐに戻るッ!」
「ご武運を。……避難しますよ、社長さん」
『あっ、あ、ああ! 分かった……!』
ロボットの社長を抱え、トキは飛ぶように走る。その背後では、カリンが「奴」とアスナ、そして、追加で参戦した吸血鬼アカネを相手に戦っている。
(ごめん、トキ。先輩。リーダー。ミレニアムには無事に戻れそうにない。ティーパーティーの──、百合園セイアさん本人から、彼女を警護する任務を中断する許可をもらって、ここに来たのに……)
遂には銃を遠距離武器ではなく鈍器として扱い、抵抗するようになった。普段のカリンなら、絶対に有り得ない行為だった。
それでも、銃を振り回す相手は、アスナやアカネではない。あくまでも全ての元凶である「奴」だ。コイツが全て悪いのだと、憎悪をぶつけるように、銃弾を放ち、または銃を振り下ろす。
先生が指揮する総力戦よりも必死かもしれない。先生の指揮は、大変な時もあるが、どこか「安心」できるから。
戦闘なのに「安心」だなんて変な話に思えるが、事実、彼の指揮は安心できるものがある。恐らく、それだけの信頼を寄せているからなのだろう。
しかし今は、そんな安心も無ければ安堵も無い。
恐らく今のカリンにとっては「色彩」襲来の時と同じくらいに本気で、同じくらいに必死だった。
他校の要人を警護する任務すら中断して参加した任務だ。必ず、達成しなくてはならなかったのだ。達成させた上でミレニアムに凱旋し、本来の任務に戻る予定だった。──それなのに。
(ただの3対1じゃないんですから。アカネ先輩にアスナ先輩が敵に回れば、当然、カリン先輩だって無事に済むワケがない。──私がもっとしっかり、先輩方を説得できていたなら──もっと強ければ、こんな事には……)
カリンがそうであるように、トキもまた、様々な事に思考を巡らせていた。本来、そんな余裕なんかあるはずがない。重たいロボットを抱えているし、何より、非常事態だから。
きっとこれは、一種の現実逃避なのだろう。
出題の範囲を間違えて勉強してしまい、そのまま試験当日を迎えた学生が、試験ではなく、その日の夕飯のメニューに思いを馳せるように。
絶望的な「現在」から、ほんの一瞬だけでも目を逸らし、耳を塞ぐ為の。
リオとのかつての会話を思い起こしたり、まさにありとあらゆる「思考」で脳内を埋めつくしながらミレニアムサイエンススクールに直帰する。
多重思考する事で絶望的な現実から目を逸らし、手を使わずに耳を塞いでいたハズなのに。
カリンが銃弾を撃ち尽くした音だけは、微かに、しかし確かに聞こえ、トキの脳裏にこびりついた。
そして、ミレニアムを起点にキヴォトスが災厄に巻き込まれんとしている中、どこかで下卑た笑いが零れていた。