※この作品はR-18です。

「先生!もっとあたしらに構って!」   作:アキラゼミ

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前回は本当にやらかしました。
予約投稿の日付をズラし忘れてたのは仕方ない事と割り切る事にして、逆に開き直って、序章と言えるこの話までは投稿しておきます。
後書きもヨロシク。



第2話:唯一の希望は、世界を救う勇者なり。─Vampire Pandemic─

 

 カリンを現場に残し、そのカリンの指示で任務先であるガザーカンパニーから撤退を余儀なくされたトキ。護衛対象であるガザーカンパニー社長を抱えミレニアムに全速前進で向かう。

 

 今頃、アスナとアカネ、そして「奴」の三者から襲われ、残されたカリンまでも吸血鬼化している頃だろうか──と現場に遺さざるを得なかった先輩に思いを馳せていると。

 

『ッ、見えてきたぞ、ミレニアムだ! 助か……』

 

「──わざわざ無駄に絶望感を与えてくれる発言、ありがとうございます」

 

『え?』

 

 結論から言えば、トキは、撤退に失敗した。

 

 アスナに続きアカネも吸血鬼化した後、「奴」はカリンを襲う為に現場に残ろうとしていなかった。

 ならば、どうしたのか? 

 それはもう、嫌という程に予想通りの挙動をしたらしい。トキが社長と共に撤退を開始した瞬間に、標的をカリンからトキに変更し、追跡を開始した。

 

 それでもミレニアムが目に見える距離に迫るまでトキが「奴」に襲われていなかったのは、ひとえにカリンの捨て身の妨害が功を奏したからと言える。

 カリンが、トキへの追跡を開始した「奴」を妨害してくれたからこそ、ここまで辿り着けたのだ。

 

 しかし、惜しかった。

 あと2分──いや1分もあれば、学校に到着し、最低限の防御を固めるくらいならばできただろう。けれどそれも、手前で追い付かれてしまったなら、出来るものも出来なくなってしまう。

 

『お、俺をここに置いてけ! 元はと言えば、俺がお前達を会社に呼んだから、お前の仲間も──』

 

「却下ですね。あなたは、『学校』と公的に結んだ契約の通りの事をしたまで。それにあなたをここに置いて行くのは、任務の放棄を意味します。戦略的撤退はすれど、任務の放棄はしません」

 

『〜〜〜〜〜〜ッッ、分かったよ! じゃあ、俺が盾になるから、その隙に行け!』

 

「はい?」

 

『見た所、アイツによる「吸血鬼化」っつーのは、肉体を変化させるものらしい! 牙が生えたり翼が生えたり、あと、やたら動きが機敏になったり!』

 

「……それが?」

 

『俺はロボットだぜ! 変化する肉体を持たねえ! つまり盾にするには最良ってワケだぁあははは!』

 

「ヤケにならなくてもいいですよ。それに、どうせ機械の身体なら、もっと良い方法があります」

 

『あ……? なんだって!? そんな方法が──』

 

「確かエンジニア部の作業場には、大きな窓が──というより作業場の屋根は、まるでドームのように開ければ空が見えるようになる開閉式(・・・)だったハズ。ですので……」

 

 アビ・エシュフの演算能力を、戦闘にではなく、ただ1つの物理演算(・・・・)に使用。算出結果を見たトキは社長を抱えている腕にグッと力を込め……。

 

『おい待て、察したぞ。俺をどうするつもりなのか察しちまったぞ! やめろ装甲娘、それだけは!』

 

「エンジニア部の作業場を目掛けてブン投げます。一足先に、この事態を伝達してください。そして、迎撃用意をさせておいてください。では」

 

『やめろやめろやめろやめろぉぉおおおああああああああああああああああああっっっっ!??!?』

 

 機械音声の絶叫と共に、社長は吹っ飛んだ。高く高く、青い空と白い雲をその無機質な機械の肉体に角度を変えつつ投影させながら。

 

 無事に屋根を突き破ってエンジニア部の作業場に到達した社長を見届けると、トキは、背後に迫った

「奴」へと真っ直ぐに向き直り、武器を構える。

 

 目の前の「奴」も止まり、下品な笑いを崩さずにゾンビのようにゆったりと、一歩一歩、近付く。

 敵は素手だ。通常の相手だったら、幾分か優位を取れたと考えられる状況。しかし、アスナの顛末を思えば、そうは言えないと嫌でも分かる。

 

「──ふむ。やはり(・・・)、狙いは私の(・・・・・)ようですね(・・・・・)」

 

「……」

 

「あなたは空を飛べる。あの社長が狙いであれば、私を無視して、投げられた社長の方に向かうものと思っていましたが。私や先輩方を襲ったのは、己の標的であるあの社長を守っているからではなく──単に、社長を護衛しに来た『私達そのもの』が狙いだったから──なのですね」

 

「…………」

 

(場所がまずい。エリドゥでなら私で勝てたような気もしますが、コイツ──単純な膂力も、何もかもケタ外れ……『計算』が通じな────ッ!?)

 

 アスナの時と同様に、敵は地を蹴り肉薄──その速度には目を見張るものがあったが、既に、それは過去のもの。トキはそれを見ている。

 目には映らなくとも、回避するだけなら、決して無理ではなかった。

 

 そしてまた、アスナが襲われた時と同じく肉体の構造を無視したような動きで手を伸ばしてくるが、その手を撃ち、怯ませる。

 

「上半身を一回転させるなど、気味が悪いですね。まるで人体の可動域を再現させる事を予算の関係で諦めた、安物のフィギュアのよう──!?」

 

「ヒハハハハハハハハッ!!」

 

 トキに撃たれて傷付いた「腕」を、反対の手にて引きちぎり、トキの足元を目掛けて投擲。

 自分の腕を引きちぎるなんて芸当、ミレニアムで一番にド根性に溢れるコールサインダブルオーでも不可能ではなかろうか? 

 それ故、トキは反応が遅れた。

 

 走行する自転車のタイヤに傘を刺したら、一体、自転車と乗り手はどうなるだろう? 

 ──そう、タイヤの回転が阻害された事によって急停止し、乗り手は慣性に従って吹っ飛ばされる。

 

 今、トキの身にも、それと全く同じ事が起きた。動く足の間に投げられた腕が挟まった事で、トキは段差に躓いた子供のように呆気なく転倒──そんな特大の隙を「奴」が見逃すハズもなく。

 そして転倒した状態でアビ・エシュフをまともに稼働させることなど、当然、叶うハズもなく。

 

「……リオ様、アリス。あとは頼みます」

 

 仕えていたリオはともかく、アリスの名を自然と口にしたのは、きっと、生身の肉体を持たぬ彼女はこのパンデミックを回避できるだろうと、本能的に察知していたからであろう。

 しかしトキ本人ですら「何故アリスの名を?」と己の思考・発言に疑問を持った事で、「奴」へ抵抗する事を一瞬止めてしまった。

 転倒に次ぐ大きな隙。恐るべき「奴」の凶刃──否、凶牙はトキの細い首筋に深々と突き立てられてしまった……。

 

 

 ◆

 

 

「────成程。事情はよく分からないが、危機が迫っているという事だけ把握していればいいね」

 

「しかし社長さん……あなたの工場は……」

 

『コトリちゃん、そんなん気にするこたぁないぜ。あんなんすぐに建て直せるからな。問題は今だよ。そう、問題は今なんだ……ミレニアムだ』

 

「そうだね。まずは目下の問題への対処が優先だ。コトリ、吸血鬼の弱点を幾つか教えてくれるかい」

 

「はい、説明しましょう! 吸血鬼とは、広義では悪魔の一種ともされており、普通の悪魔には無いとされている『吸血』をはじめ多種多様な特殊技能を備えた種族を指して、個別にそう呼ばれています! 蝙蝠に変身ができる他、超音波を放つ、霧を放つ、大木を引き抜いて投擲ができる怪力、瞬きする間に数十mを駆け抜ける脚力、一説によれば自身の翼で飛行する事までできるとされていますね!」

 

「そうなのか、絶望的だね。それで、弱点は?」

 

「はい! 吸血鬼という種は並外れたチート能力を有しているからかそれなりに弱点が豊富なのです! 有名なものを挙げると、日光、流水、十字架、銀、ニンニク、サンザシ、火炎──などでしょうかっ! また、弱点とは少し違いますが『招かれないと家に入ることができない』という言い伝えがある地域もあるにはあるようですが……」

 

『俺の工場の敷地内に入ってきたんだ。恐らくだが最後に挙げたソレは通用しねェだろうな』

 

「で、ですよね……」

 

「よし、弱点は把握した。ヒビキ、確かUV硬化に使用する為に改造した『紫外線照射装置』があったハズだ。日光が弱点なら、紫外線照射装置で対抗ができるはず。──まぁ、物は試しだ。すぐに使える状態に持っていけそうかな?」

 

「任せて」

 

『待て、ウタハちゃん。今日の天気は晴れ(・・)なんだ。恐らくアイツに「日光」も通じないと思うぞ』

 

「何だって?」

 

「ほんとだ、今日は雲も殆ど無い快晴だ……」

 

 吸血鬼の弱点として最も有名なのが日光(それ)だろう。しかし、「奴」は快晴の中でも堂々と立っていた。日光が効かないとなれば、次なる手段はこれだ。

 

「メカワニ──は、修理中。銀だってそんな豊富にあるワケでもないし、まして十字架なんか、こんな工場にあるハズが無い」

 

「となれば、流水ですね!」

 

 工場とは、得てしてそういうものである。掃除や機械の冷却に使用する工業用水の上水道はそれこそあちこちに完備されているのだ。

 

「ヒビキは火炎放射器、私とコトリはホースを使いロングレンジから対処する事にしよう。社長さんは避難するなり何なり好きにしていてくれ」

 

『……分かった!』

 

 社長は、トキとその先輩達の会話を断片的にではあるものの、どうにかメモリーを遡ることで内容を思い出していた。

 トキが頼れると明言した団体、それは────。

 

『ッ!? なんだ!?』

 

「非常警報──正面玄関の方からですよ!」

 

 突如、サイレンのように胸騒ぎを助長するような凄まじく耳障りな音が、敷地内に響き渡る。それによれば、侵入者が現れた──と無機質な機械音声で全校生徒に向けて校内アナウンスが流れる。

 

「来たね。水道のバルブを全開にするんだ! 現在ここに居る全員で、敵を迎え撃つ! トリニティのお客人! すまないが、援護射撃を頼めるかな?」

 

「「は、はいっ!」」

 

 現在、ミレニアムサイエンススクールでは、あるイベントが開催中だ。ミレニアムEXPO──その来賓として、トリニティ総合学園より、生徒会ことティーパーティーの1人、百合園セイアもコチラに来ている。

 エンジニア部の工場にも、トリニティの生徒が、チラホラと見受けられる。しかも、中には正義実現委員会に属する生徒まで。

 そして、これはネルとセイアしか知らないが──お忍びで、生徒会長である調月リオもまた、近辺に身を潜めている……。

 

「……おや……?」

 

「────なん、だと……!?」

 

「まさか本当に、C&Cが……!?」

 

『もう追いついて来たってのかよ!?』

 

 コツコツと優雅な足音と共に工場に現れたのは、吸血鬼と化した室笠アカネ。真紅の瞳を笑みに歪めエンジニア部の生徒、そして他の生徒を視界の中に収める。

 

「この数を1人デ相手すルのは、骨が折れマスね」

 

 アカネの溜め息混じりの呟きを聞いて、ウタハ、コトリ、ヒビキは同時に襲いかかろうとするが。

 突如、バサリという羽ばたくような音と一緒に、大きな影が、社長が落ちてきた際に出来た天井の穴から侵入し、エンジニア部の3人の背後に着地。

 敵の侵入だ──本能的にそう察知した3人は共に振り返るが、武器を向けるよりも早く、その対象がなんともいつも通り(・・・・・)の自己紹介をしてくれた。

 

「吸血鬼トキちゃん、参戦でス。ぴーすぴーす」

 

 

 ◆

 

 

「────ンだよ、これはァッ!?」

 

「………………分からない。何も、分からないわ……」

 

 リオの隠れ家にて。ミレニアム中の監視カメラを遠隔から確認して、事態は何となく把握していた。

 ガザーカンパニーとの契約についてなどもネルを通じてリオにも連絡は行っていたから、今更そこに疑問を抱く事は無い……が。

 それはそれとして、突如として起きたこの吸血鬼パニックについてだけは、誰の耳にも、寝耳に水の出来事であった。まさに青天の霹靂。

 

「由々しき事態だ。ネル、すぐに現場に向かおう。全力で君を援護する」

 

「おう、任せたぞセイア!」

 

「ちょっと待ってちょうだいッ!!  闇雲に動いても事態を解決できるワケではないわ! いえ寧ろあなた達2人までもがアレに巻き込まれる可能性の方が高い! 冷静に構えるべきよ!」

 

「じゃあ、オメーは何か策があるってのか!?」

 

「ッ」

 

「無論、作戦など無いだろうし、考える暇はもっと無いだろう。リオ──今は、頭や口よりも、身体を動かすべき時ではないのかい? 君の守りたかったミレニアムが、吸血鬼らしき存在に侵されている。シャーレで自称吸血鬼の生徒と相対した事はあるがどう見ても『普通』だった──が、カメラ越しでも分かる。アレ(・・)は、明らかに『異常』だよ。なにせ、ミレニアムの生徒には無い翼を生やすようになり、まるで、御伽噺かマンガかのように少女達の首筋に噛み付いていく存在と化すなんて──見ていて頭が痛くなる映像だ」

 

「あァ全くだ、こうしちゃいられねー。トキといいアスナといい! カリン、アカネ! あたし自ら、アイツらに喝を入れてやらねーとなァッ!!」

 

「ッッ、待ってちょうだい! あなた達の身にまで何かあったら! 特にセイア、あなたはトリニティ代表としてミレニアムに来ている事を忘れないで! 今すぐトリニティに帰りなさい! 移動手段くらいすぐに用意できるわ! だから──」

 

「無論、断る。この映像を見る限り、既に我が校の生徒も何人か吸血鬼化してしまっているようだし、外交問題などと言いたいのなら、そんなの今更さ。私が行こうが行くまいが、何も変わるまいよ」

 

「ッッッ!!!」

 

「それでも不安だと言うなら、そうだな──リオ、君に私のスマホを預けるよ」

 

「スマホ、を……?」

 

「これを使って『桐藤ナギサ』に連絡をしておいてくれると助かる。なに、危機に瀕した私が、同僚に伝えそうなことくらい──同じ生徒会の人間である君になら、言わずとも分かるだろう?」

 

「……セイア……あなた……」

 

 その時、隠れ家に警報が響き渡る。アスナなどのミレニアムの生徒にミレニアムを襲わせ、「奴」がどういうワケかリオの隠れ家を見つけ、そして襲撃してきたのだ。

 

「なん、ですって……? 監視カメラに……」

 

「あの白い髪のヤツか、親玉は!!」

 

(どうしてここが分かった? リオはもちろん私もネルも痕跡などは微塵も残していないハズ──神の視点でもなければ発見などできるハズが……)

 

「まッ、向こうから来てくれたんなら話は早いな! アイツをブッ潰してから、アスナ達もブッ倒して、目を覚まさせる! これっきゃねーな!」

 

「──あぁ。行こうか、ネル。EXPO最終日の、まさに最後の最後で……超特大ミッションだ」

 

「おうッ!!」

 

 隠れ家には、セイアのスマホを握るリオが1人、ポツンと残された。それから程なくして銃声が響き渡るようになり、聞き慣れた銃声の他に、肉体を強かに打ち据える鈍い音が、机の下に蹲るリオの耳にまで届くようになり。

 やがて静かになった後、座ったまま顔を上げると紅色に染まった瞳が4つ──彼女を笑顔で無慈悲に見下ろしていた。

 

 

 ◆

 

 

「きゃあっ!?」

 

「アイリ、こっち! 後ろ隠れて!」

 

「ちょっと、イキナリ現れて何なのコイツら!?」

 

「──ヴァンパイア。少し前に先生もなってたよ」

 

「ハァ!? ナツ、こんな時に何を……」

 

「いやいやホント、ホント〜。数日で元に戻るとか言ってたけどね。とはいえ、先生とは様子が違う。こうして誰彼構わず襲うようになりたくないなー」

 

「それ初めて聞いたんだけど!? ていうか先生は無事だったの!?」

 

「うん、いつも通りエッチだった。体力とか本当に凄かったよ、私が先にオチたからね」

 

「こんな時に惚気とか──ナツっ!!」

 

「あうっ…………んっ……どうせ吸われるなら、先生に吸われたかったな〜……なーんテ……」

 

「いやああああっ!! ナツちゃん!!」

 

「どうせなら私は君を狙うヨ。キャスパリー……」

 

「だからそれ言うなってのッ!!」

 

「アウッ、暴力はんたーい……」

 

 

 ◆

 

 

「く、首に噛み付くだなんてエッチすぎるわッ!! エッチなのはダメ! 死刑ッ! 他校でまでうちのハナコに服を脱がせるワケにはいかないんだから! だからこれ以上ハナコに近付かないで! 少しでもエッチな気分にさせちゃダメなんだから!!」

 

「大丈夫ですよコハルちゃん、流石に私でもそれはしませんから……」

 

「ほらぁ! 少し油断するとすぐ脱ぐじゃないの! 水着も死刑! 制服どこにいったのよっ!!」

 

「あ、コハルちゃん、後ろ……」

 

「え──ひゃぁんっ♡♡」

 

「え???」

 

「んぁ……あっ♡ なに、これぇ♡ 気持ち、良く、なってきた……ぁ……♡♡」

 

「……コハルちゃん。私の首筋、空いてますよ♡」

 

「……ウンっ♡」

 

 

 ◆

 

 

「あ、あわわわ……何これ何これ、どうして……!」

 

「お姉ちゃん、これって……」

 

「翼、噛み付き……これってもしかして……!?」

 

「アリス、知ってます! ゾンビパニックです!」

 

「王女いえアリス、これはゾンビではありません。翼や、異様に発達した犬歯から察するに、恐らく、これは『吸血鬼』だと思われます。しかし何故今のキヴォトスに吸血鬼が──いや、眠っていた期間が長いせいで私が知らなかっただけでどこかで存続はしていた……?」

 

「ははハ……やァ、モモイ……元気かイ?」

 

「最新のロケットランチャーが出来たヨ……」

 

「うわあああ〜ッ!? ウ、ウタハ先輩がぁっ!」

 

「ヒビキ先輩まで……」

 

「説明しましょウ! 今の私達の肉体は、通常時の3倍を超えル絶大な膂力に満ち溢れており! 銃弾などに対する防御力も極めて増大しておりまス!」

 

「こっちはいつも通りっぽく見えるね……」

 

「翼が無くて、目が普通で、ヘイローが赤黒っぽく濁ってなかったら……いつも通りだね」

 

「静かなユズ──油断大敵でス」

 

「「「「え」」」」

 

「トキさ……あゔッ!?」

 

 避難する間も無く、その数をネズミ算式に増やす吸血鬼。巡り巡った血の呪いは、もう止まらない。

 C&Cから始まりエンジニア部、周囲の生徒──緊急事態に馳せ参じたセミナーのユウカ、ノアに、コユキ──そしてゲーム開発部。

 

 だがゲーム開発部には唯一、いや正確には2名、吸血鬼化が無効化される生徒が、在籍していた。

 それにいち早く気が付いたモモイは、双子の妹のミドリに背中を預け、自身も襲われつつも自分達のブースから部室へと避難を果たした。

 その数分後、あの社長がゲーム開発部のブースに到達し、間に合わなかった事に絶望したのは、また別の話。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁ……み、ミドリ……ユズ……! あぁ、どうしてこんな事にっ……」

 

「大丈夫だヨ、私達の仲間なんだかラ……!」

 

「────不覚でした。私とアリスは機械の身体。吸血鬼化の心配も無く活動できたはずなのに……急なあまり事態への適応が遅れてしまいました」

 

「でも囲まれたから力負けしてたじゃン!」

 

「……。モモイ。あなたは何故……まだ正気を保てているのですか?」

 

「噛まれた時、アリスにスグ引き剥がされたカラ、じゃないかな……? でもなんか……頭が、ボンヤリするように……なってきた、けどね……あはハ……」

 

「モモイ……め、目が、紅く……!」

 

「あー。やっぱダメか。さっきチラッと、ユウカも見掛けたケドさ。翼、しっかり生えてたねー。あの魔王ユウカを思い出して笑っちゃったケド、そんな場合じゃなかったネ。私も今にあんな感じになるンだろーなぁ……」

 

「……アリスは、勇者失格です……。襲われる仲間を助けられず……助けられて、ばかり……! トキも、ユウカも……元に戻してあげられませんでした……」

 

「大丈夫、ダ、よ……ッ! アリスとケイさえ、無事だったラ……まだ希望は、あル……でしョ……!」

 

「でもアリスはっ……吸血鬼化したトキに負けそうになりました……。ユウカも、他の先輩も、みんなッ! みんな、みんな……ミドリもユズも、モモイも!!」

 

「大丈夫だってバ……! ダッてこんなの、ゲーム、あるあるでしょ……っ!」

 

「!?」

 

「『ラスボス倒せば元通り』! こんなテンプレが分からないンじゃ……ゲーム開発部、勇者、どっちも失格……に、なっちゃうかラねッ……!!」

 

「……ッ!!」

 

「つまり今はゲームで言う『序章』だと言いたいのですね。或いはオープニングムービーかも……」

 

「そう、ケイの言う通りダヨ。だかラ、アリス……。勇者失格だなんて言わないで。寧ろ、今から、勇者アリスの物語が、始まるンだよ」

 

「も、モモイ……っ!!」

 

 紅く染まりゆく瞳で、モモイは真っ直ぐアリスの青い目を見つめる。彼女の目は、カメラ・アイとは思えない程に生物的で、まるで生きているように、悲しみに濡れていた。

 

「と、言うことでね。吸血鬼になル前の私からノ、最後のお願い…………クエスト、だよ……!」

 

「! ……はい、何でも言ってください! アリスはミレニアムを……世界を救う勇者ですからッ!!」

 

「その意気ダよ。──じゃ、言うヨ。よく聞いて」

 

 モリッ、モコッ、とモモイの背中が膨らむ。遂に翼までも顕現してきているらしい。それに気付き、アリスはつい目を逸らしてしまう。

 それに気が付きつつも、モモイは、自身の限界が近い事を静かに悟り。押し付けるようで申し訳ないという、あまり彼女らしくもない思いを抱きながら静かに口を開く。

 

「私のコト、倒してから……出発して」

 

「ッ────!? それは……っ」

 

「今の私に、アリスの『仲間』になる資格は無い。敵に操られ始まっテるのが……自分で、分かるんだ。もし敵の支配が完成したラ、多分アリスは、今度は私に、襲われて……。た、多分、だけ、ド……行動……不能に……させら、レて……ッッッ!!」

 

 バリッと服が破れると、小さな体躯のモモイには似合わぬ程に大きく、肉厚で、重厚感のある両翼がバサリと羽ばたく。その勢いでふわりと身体が浮くあたり、モモイの身体の小ささ、軽さを、イヤでも思い知らされる。

 

「──分かりました。モモイからの緊急クエストを受注します。その為、一旦、ここでお別れします。ラスボスを倒した後の、平和な世界で……また」

 

「うん……またね(・・・)」

 

「勇者アリスが、必ず平和な世界を取り戻します。だからせめて、モモイは、闇堕ちなんかしないで……楽しい夢だけ見ていてください。次会う時は必ず、約束を果たした後です。────光よッッ!!!」

 

 部室が壊れる事も厭わずアリスは光の剣を放つ。丁度、吸血鬼に成りたてだったモモイはそれを自ら全身に浴びヘイローは消失。気を失ってしまった。

 しかしこれでは目を覚ませばすぐにでも動ける。アリスはゲーム機のコードを何本も何本も使う事で吸血鬼化を遂げたモモイを雁字搦めに縛り上げて、部室の跡地に、正確にはユズのロッカーの中に安置する事にした。

 

 そして勇者は、吸血鬼(まもの)で溢れた最初の村(ミレニアム)を出て、ラスボス討伐の旅を始めた────。




コレの続きはハドマ編を完結させてからにします。
あっちは本当にもう少しで終わりなのに、逆に筆が進まない……終わるのが寂しいのかもしれません。
この序章(オープニング)から先を予想しながら、お待ちください。
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