「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「──たっだいま〜!飂熾冘巫髏総長、ルーシィの帰還だぞ〜ぅ!!」
「ルーちゃんっ!!」
「ルーシィッ!」
百鬼夜行を停学中で、現在ブラックマーケットを放浪中の身である少女、賽鬼ユウナを協力者としたルーシィは、
レイコは飛び付きライムは駆け寄り、他の幹部は背筋を伸ばして居住まいを正し、畏まる。
「ルーシィっ!捕まったってホントだったの!?」
「『出頭した』ですって。……ユウナさん……総長を助けて頂き、ありがとうございました」
「破壊を
ルーシィは出頭前、トリニティの幹部──特に、より優秀であるマトイの方に、ユウナと連絡を取るように指示をしていた。
ユウナは金銭より破壊を好む。それを交渉条件にルーシィの脱獄を手伝ってほしい。ただそれだけで鬼神魔王こと賽鬼ユウナは、飂熾冘巫髏の為だけにその溢れんばかりの力を貸してくれた。
「マフユも元気そうね!」
「えぇ、まぁ……それなりですけどね……」
「やたら疲れてる顔してるけど大丈夫?」
「あ、はい……この前まで工務部でデモしてて……。でも流石に疲れ過ぎたので、辞めました……」
「え、工務部、辞めちゃったの?まぁいいけどさ、こっちデモより疲れるけど大丈夫?」
「いえ……ルーシィさんの指示に従っていれば、デモなんかと比べたら全然疲れないので……」
「あっはは!じゃ、マフユ達レッドウィンターにはライムとアスカとアガリと一緒に、後方支援の方を頼もっかな。元々、人数も少ない事だしね」
「あ、それなら助かります……」
この一連の会話の流れが無くとも、ルーシィは、最初からレッドウィンター部隊に後方支援を任せるつもりだったのは秘密である。幹部で好戦的なのは副総長でもあるレイコを除けば、トリニティ部隊、ゲヘナ部隊だ。
それなら必然的に、レッドウィンターを主とする後方支援が必要となる。2、3人程度で後方支援が成り立つ程、3人のカバー範囲は広くはない。
「あ。あなた初めましてだよね?あなたがゲヘナで入れ替わりで幹部になったっていう子だね?連絡はもらってるから把握してる。総長の針村ルーシィ、よろしくね?」
「古谷レティです。よろしくお願いします」
「私ら
「ありがとうございます。じゃ、これからタメで」
ルーシィの帰還によって、飂熾冘巫髏は本格的に再始動を図れるようになった。しかしそれよりも、まずはライムとレイコがルーシィに報告を上げる。
「集合の連絡来るまでマコトを探してたんだけど、それ、今、中断してるんだ。どうすればいい?」
「マコトを?なんで探してたの?」
「脱獄したとはいえ、ルーシィが捕まった以上は、ハドマ学園との併合を無かった事にできるのは羽沼マコトだけ。リエは当然、併合なんて解消したいと思ってるでしょうから。マコトからリエに接触とかされたら困るでしょ?」
「その話か。それなら、マコトから直接聞いたよ。私を煽る為に面会に来たんだよ、アイツ」
「「面会に!?」」
「だから『そんな事しても意味無いよ』って、逆に笑ってやったわ。実際、復讐は果たしたと思ってる私にとって、ハドマ学園とゲヘナ学園の併合が解消されても、今更どうでもいいっていうのが本音よ」
「……本当にどうでもいいの?」
「ええ、構わないわ。寧ろ、併合を解消された方がハドマにとっては苦しい状況に陥る事になるから、どちらにせよ都合いいのよ」
「一挙両得ってか。さっすがルーちゃん……」
「おっそろしいわー、この娘。敵に回したくない女堂々のナンバーワンよ、ルーシィは」
「ふふん、この程度すぐ思いつくわ。だから私は、ハドマの方は放置していたの。どちらにせよ、私はすぐにハドマに戻れる計画だったし。賽鬼ユウナの協力さえあれば、だけどね」
「もしあの鬼娘が協力してくれなかったら?」
「──その場合は、元々指示を出してた通りに行動してくれてたはずよ。そうでしょ、マトイ?」
「はい。ユウナさんから断られた場合は、総長自ら出頭した事を含めて、事前に頂いていた指示を全て副総長にお伝えし────副総長が、総長を救助に行かれるという手筈でした」
「ぶっちゃけそれが早かったんじゃない?わざわざこんなロリ巨乳鬼の協力なんか得る必要あった?」
「ロリ貧乳吸血鬼は黙ってなさい。胸も小さいなら器も小さいのねェ、お可哀想に……」
「あ゙ぁ!?」
「まぁまぁ落ち着いて2人共。特にレイコ」
「うぐぅ……」
「まずね、私が彼女に目を付けたのは、シンプルにその強さにあるわ。SRT特殊学園のエリート達が束になってようやく──という圧倒的な戦闘能力に加え、狐坂ワカモと同時に脱獄できたにも関わらず自力で脱獄するのに拘るその胆力──飂熾冘巫髏に欲しいと思った。でも流石にそれは無理そうだからせめて短期で構わないから、力を貸してほしいって頼むことにしたの」
「……でもさ、飂熾冘巫髏の活動目的から考えても、もう、そこまでの戦力は要らなくない?復讐とかも果たした、併合も達成できたのに、これ以上、私が最強になる以外に目的なんか無いじゃん」
「分かってないわねレイコ。それは飂熾冘巫髏の、というよりハドマ部隊の目的でしかないでしょ?」
「!」
「それぞれの部隊の目的を果たすのに、それぞれの自治区の垣根を越えて協力し合う──それが私達、飂熾冘巫髏の存在意義よ。下っ端共にやらせていた統治委員会との戦闘だってそうよね。逃走の時にはトリニティ部隊やら何やらに何度も世話になってるワケだし。──要は、助け合いは大事ってコトよ」
「それは……そう、だけどさ。でも……」
「ハドマ部隊の目的は九分九厘達成済みよ。だから今度は、ハドマ部隊が他部隊に力を貸す番。これに異論は認めないわよ、レイコでもね」
「……そりゃ、うん。分かるけどさ。リエにやられてレーちゃんを連れて逃げた時は、トリニティ部隊に匿ってもらったしね……」
「そうよね。だからこれからは私達ハドマ部隊から他部隊への恩返しのターン。そうね、私達が揃って助けられた事だし、レイコの目的と併せて考えると最も効率的なのは────うん、とりあえずここはトリニティ部隊の目的から果たしていきましょうか」
「「!!」」
トリニティ部隊のクロノとマトイは、揃って目を丸くする。自分達が真っ先に野望を果たせるとは、全く予想すらしていなかったから。
そして2人はルーシィに目的を問われ────。
「もちろん、トリニティをブッ壊す事よッ!!私の青春を壊してくれたトリニティを壊してやって!!他のヤツらの青春も壊してやる!!煌びやかな学園生活を丸ごと、全部!ブッ壊す!破壊よ!!」
「私は──クロノさんの傍に居られればそれで……」
「聞いての通りよ。多分だけどゲヘナとハドマとの併合のゴタゴタより大きい問題になる。これは私達飂熾冘巫髏とトリニティとの戦争になるわ」
「「「「「「────ッ!!」」」」」」
「ユウナ。建物を破壊するのに、腕に覚えは?」
「腕にも身にも、覚えしかないわねぇ♡ あたし、構造物破壊の専門だからさ♡」
「……念の為に、レッドウィンターとゲヘナの方も、目的だけでも聞いておきましょうか」
「わっ、私は……!チェリノ会長相手にクーデターを起こしてみたいなって……飂熾冘巫髏の戦力があれば叶えられない夢でもないから……えへへ……」
「私は、クロノにはさっき言ったけれど、ゲヘナをブッ壊したい。私も、クロノ程ではないけどずっとイジメられてたから……その復讐がしたい」
「うーん……。難易度としてはトリニティ、ゲヘナ、レッドウィンターの順か。難しいのからやってこ。目的を果たすのも、この順番でいいかな?」
「私はオッケー!」
「クロノさんがそれでいいなら」
「私、新参者なのに……最後じゃなくていいの?」
「新参者かどうかは、関係ないですから……えへへ。私の目的は皆さんのと比べて簡単なんです。だってレッドウィンター連邦学園って毎週というか毎日のようにクーデターが起きてますから……」
「「「成程納得……」」」
こうして、今後の飂熾冘巫髏の動きが決定した。しかしそれに対し、口には出さないものの、不満を抱いている者が、およそ2人────。
◆
「……お。来たね、アスカ」
「……副総長……」
「いいよ、レイコで。そっちのが歳上でしょ」
ルーシィを交えた会議が終わってしばらくして、それぞれ訓練なり休養なりに入った時のこと。
ハドマ学園第2校舎もといゲヘナ学園第4校舎の家庭科室に、レイコはアスカのことを呼びつけた。
「……」
「そんなに警戒しないでよ。取って食おうってワケじゃないんだから」
「……」
「アスカ。あんたは、さっさと飂熾冘巫髏やめて、ハドマのヤツらんとこ戻りな」
「……え?」
「ルーちゃん──ルーシィはああ言ってるけどさ、実際の所、自分達の目的の為に組織を立ち上げたし自分達の目的の為に組織を運営してきた。ゲヘナやトリニティ、レッドウィンターのヤツの事なんか、都合のいい手足程度にしか思ってないハズなのよ。ルーシィの幼馴染はトリニティのクロノだけだし、それ以外は大して関わりすらも無いハズよ」
「っ!」
「だからおかしいのよ。ルーシィ、目的を果たして燃え尽き症候群になってるだろーと思ってたのに、急に戦争とか言い出すし。マコトは放置するのに、レティの希望ってだけで、ゲヘナ潰す事すらも賛成してる。曲がりなりにも、自分が生徒会長やってるゲヘナ学園よ?ハドマの併合とは、ワケが違うわ」
「どういう事……?」
「だから……!!なんかよく分かんないけど、組織にズレが発生してきてるのよ!アスカ、あんたはただ美食研究会を潰したいだけなんでしょ?だったら、もう飂熾冘巫髏はやめな!美食研究会を潰すとか、潰さないとか……そんな話じゃなくなってきてるの!あんたまでこっちに来る事ないから……だから……!あんたは元通りの生活に戻って!」
「どうしてそこまで……?」
「あんたは私が勧誘しただけだからさ。テキトーに理由くっつけて、クビにしたって言うよ。副総長の私なら、ある程度はワガママも通じるでしょうし」
「ッ……私はそれでもいいけど……!レイコ
「私はこのまま作戦を進めるフリして、ルーシィの目を覚まさせる。戦争なんかダメだ、そんなの私は望まない。私が望むのは強いヤツとの戦い、それはずっと変わらない。これからもね。でもルーシィのやり方──戦争を始めるのは、絶対に違う!!」
淡々と、それでも力の籠った口調で語るレイコ。しかしアスカは何も返答せず、黙り込んでレイコの話に耳を傾けている。
「……分かったらさっさとあっちに戻りな」
「…………」
「私が信じられない?」
「逆にどうあなたを信じろって言うの?この前まで敵対してて、リエ議長を生き埋め状態にしたのに!というかあなたって、ルーシィの信奉者でしょ!?ルーシィが大好きで、ルーシィのイエスマンでっ!ルーシィに従ってばかりのあなたに止められるの?そんなワケないでしょ!?だったらどうしてずっとルーシィに従ってたのよ!?」
反撃だとばかりに強めの口調で言い返す。自分も生き埋めにされた、それでもアスカにとってそれはどうでも良かった。
自分より他人を思いやるのがアスカだ。それも、あまり行き過ぎるとバカみたいに見えるとかつての仲間達には思われていたが。
「ンなの言わなくても分かるでしょ!?ルーシィと私の思惑がピッタリ合致してたからだよ!それに、私が好きなのは、確かな勝利に導いてくれて、頭が良くって、現実逃避しない、リアリストのルーシィなんだ!あんなのっ……あんなのルーシィじゃない!ルーシィが戦争なんか起こすハズ無いんだ!!」
「何でそう言い切れるのよっ!」
「当たり前でしょ!?そもそも私達がこんな組織を立ち上げたのだって、戦争に対する復讐なのよ!?それなのに、どうしてまた!今度は自分達が戦争を起こしたいなんて願うのよッッ!?」
「……!?ゲヘナとの併合、ゲヘナの乗っ取りが目的じゃなかったの……!?」
「それもあるにはあるわ!でも大元はハドマへの……私達のお友達を殺した失楽殿の、後釜の失楽園さえ潰せればそれで良かったの!私はそれで良かった!ルーシィだけなのよ、ずっと先を見てるのはっ!!私はそれが凄いと思ってた、だけど違ってた!私はずっと……盲目的に従ってた……!」
「!!」
「だから……だから、ルーシィの目を覚まさせなきゃダメなの!それは私にしかできないのよ!!だけどアスカまでこんなバカな事に付き合う必要は無い!だからハドマに帰って!……お願いだからっ……!」
「……」
「アスカの事は私が勝手に巻き込んじゃっただけ、それだけだから……まだ戻れる。まだやり直しできるハズだから……今なら間に合うから……っ」
段々と声が掠れてくる。涙を流してまでアスカを元の生活に戻そうとしてくるレイコを、真っ直ぐに見つめる。アスカの固い表情は、変わらない。
「ルーシィの目を覚まさせたいのなら、もっと良い確実な方法があるよ」
「え……っ」
「──私は、ルーシィの目を覚まさせようとしてるレイコちゃんのことを信じてあげたいと思ったよ。だから今度はレイコちゃんが私を信じてくれる?」
「私が……アスカを??」
「多分、この方法でなら────戦争は防げるし、ルーシィの目を覚ますことができる!……と思う」
「最後の一言で、ちょっとだけ不安になったけど……教えて、アスカ!その方法ってヤツ!!」
ぐしぐしと袖で涙を拭い、強い決意を秘めた目でアスカを見る。その強い目を見てアスカは、本気でルーシィを止めるつもりなのだと改めて思わされ、アスカもまた本気でレイコの事をサポートしようと思ったのだった────。
◆
「アスカさんからメッセージが来ました……!」
「何ですって?ルーシィの脱獄といい、滅茶苦茶な状況なのに……アイツ、どの面下げて……!」
「一旦スズ先輩は黙って聞いてください。ひとまず読み上げてください、アンナ先輩」
「うん!『ルーシィは戦争を始めるつもりみたい。トリニティやゲヘナやレッドウィンターとか、他の自治区を巻き込む大きな戦争が始まる。こんなはずじゃなかった。美食研究会さえ倒せたら私はそれで良かったのに、そんな事も言っていられない状況になってしまいました。みんなの事を裏切ってしまい本当にごめんなさい』……だそうで……」
アスカのメッセージにある「戦争」という言葉に一同は息を飲んだ。そんな事は、ルーシィからも、レイコからも聞いていない。
ましてや先生の私も聞かされていなかった事で、完全に初耳だったから。
「……アンナ、とりあえず『皆にも伝えました』って返信してみてくれるかな。ブロックされてなければアスカを取り戻せるばかりか、飂熾冘巫髏の情報も色々と得られそうだ。それから、可能な限り会話を引き伸ばして。少しでも情報が欲しい」
「は、はいっ!」
「あれ?先生、会計やってたライムって奴の連絡先ゲットしたんじゃなかったの?」
「うん、そうなんだけど……話にならなくてね」
「話にならない?」
「こっちがどんなに話題を変えても……そのね……。卑猥な方に話題をすり替えようとしてくるから……」
「あまりにもビッチ過ぎてクビになったんだっけ。ねぇ、リエ?そのライムってヤツ、リエも連絡先は生徒会時代に交換してるんでしょ?」
「とうにブロックされてますわ」
「ちぇっ。シエルパイセンは?」
「クラスも違うし関わりも薄いから、連絡先なんて交換してないよ」
「まぁそれもそっか」
それにしても「戦争」ときたか。そんなの断じて許すワケにはいかない。この前のルーシィは、別にそんな事は言っていなかったけれど。何か思う所があるのだろうか。
いつどこで、何をどうやって戦争を起こすのかがまるで不明瞭だ。どうしたものか検討が付かないがとりあえず今はアンナに情報収集を任せて……。
「……?」
モモトークの通知が鳴った。
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博愛レイコだけど
先生の連絡先で、合ってる?
───────────────────────
レイコからの連絡だ。レイコといえば飂熾冘巫髏副総長──私とは敵対関係にあるはずで、こうして彼女から連絡をしてくる理由は無い。
「……ふむ」
無視するべきか、応じるべきか。応じるなら罠と考えた上で引っ掛かりに向かうのか、罠ではないとレイコの事を信じるべきなのか。
考えなくてはならない事がこの一瞬で私の脳内で溢れ返った。
「どったの、先生?」
「ん……他の自治区を巻き込むとなったら、かなりの大騒動に発展しそうだなと」
「ね。ホントダルい。レイコにも勝てないあたし達だけじゃ、絶対に止められないじゃん」
それについては私がどうにかする。ゲマトリア、上手くすればデカグラマトンの技術も利用できる*1今の私なら、戦力の確保についてなら問題は無い。
問題はそこじゃあない。他の自治区にまで影響を及ぼす飂熾冘巫髏の規模が、未だ不明瞭なことだ。
飂熾冘巫髏は正体不明の組織────それが今も効いているという現実が、骨身に染みてくる。
最悪な事にならなければいいが、と悩んでいるとレイコからの追いメッセージが。
「『ルーシィを止めたいから協力してほしい』……?」
レイコがルーシィを止めたい?何故?仲間では?一体、飂熾冘巫髏で、何が起きている…………?