「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
「────本当に1人で来たんだ」
「そういう約束だからね」
「……先生、バカでしょ。どうして、私と裏切り者のアスカ相手に1人で会いに来れるの?」
「それでも私の生徒だから」
「ハッ。意味わかんない……」
レイコからメッセージを受け取った私は、彼女と待ち合わせの為に
彼女からのメッセージ曰く「先生は1人で来て。私はアスカと2人で行く」とのこと。
スズ達には、もちろん言っていない。もし言えばどうなるか私でもある程度は想像できる。なので、とりあえず今は「仕事の連絡の為に席を外す」と、少し誤魔化しを入れて席を外してここに居る。
「それで──『ルーシィを止めたい』、だよね?」
「そう。
「──引き抜かれたアスカはともかく、どうして、副総長の君がルーシィに反旗を翻すような事を?」
「そんなのは飂熾冘巫髏の活動目的に反してるし、何よりルーシィらしくない。ズレてキてるのよね、当初の目的から。ハドマ学園を併合して、実質的にハドマの名を消すのに成功した今となっては、もう組織は解散していいハズなの。それなのに今度は、幹部のお悩み相談の真似事をしてみたり、攻め込む先に宣戦布告をするつもりだとか……」
「宣戦布告──『戦争』って言っているけど、一体何をどうするつもりなの?」
「私はルーシィじゃないから知らないわよ。でも、私もアスカも戦争なんか望んじゃいない」
「アスカは美食研究会を打倒するのが目的だって、出会った頃に言ってたね。飂熾冘巫髏に入ったのも組織の力をアテにしての事なんだろうと思ってる。じゃあ、レイコの目的は?」
「強いヤツと戦うコトよ。私が負けようが勝とうが結果はどうでもいい。いやまぁそりゃ勝ちたいわ、勝ちたいけど!──それはそれとして、戦争なんて起こしたくないのよ」
リエから聞いた話によると、ルーシィがハドマに恨みを持っている理由が、5年前のゲヘナ学園内の抗争が原因なのだったか。
その抗争で失楽殿は当時のモルモによって潰され失楽殿の後輩がハドマに逃れ、失楽園として新たに組織を立ち上げ、ハドマ学園で生徒会として君臨。
だから、ルーシィの恨みの矛先はハドマ学園及び失楽園に向いており、人員を集め組織を立ち上げ、会計に幹部を送り込み、自らも生徒会に加入……。
確かにこれだけ見ればレイコの言う通り「新たな戦争を起こす事」は活動の主旨とは違う。レイコが組織について「ズレてキてる」と言うのも、きっとこういうのが1つの要因なのだろう。
「ルーシィはとても頭が良いよね。会計にライムを潜り込ませただけでなく、自らも潜入、でも会計のライムがクビになってしまったからと、自分がその仕事を請け負う事でリエの信頼を得た。──正直、レイコとアスカがこうして『ルーシィを止めるのを手伝ってくれ』って私を呼び出すのも、ルーシィの作戦じゃないかと、少しは思っているよ」
「!?」
「『私の生徒だから』とか言ってなかった?」
「もちろん。だけどレイコ、君はルーシィが好きで好きでたまらないハズだよ。なのに、その大好きなルーシィのことを裏切る真似ができるのかな?」
「ルーシィの暴走を止められるのは私だけなのよ!ハッキリ言って今のルーシィは暴走してんのよ!!こんな事なら、自分達の目的が達成されて燃え尽き症候群になって即解散の方がマシだったよ!!」
暴走────確かにそんな様子は見受けられる。出頭前のルーシィからは考えられない方向転換だ。
出頭前の彼女に対して抱いていた感想としては、脱獄後はこれまで通り統治委員会との追いかけっこなんかを楽しんだり、マコトとバチバチにやり合うくらいだろうと思っていた。
「変な方に野心を燃やして、意味分かんないくらい他の幹部と盛り上がって!どうやって攻めようか、アレコレずっと考えてる!戦争なんかの為に!!」
「だから私とレイコちゃんはルーシィを止める方で合意したんです!でも流石に、規模が大きすぎて、私達だけじゃどうにもならないから!だからっ!!先生に頼るしかないって思って……!!」
サオリの時と今回では、状況も前提条件も違う。ルーシィやライムの前例を見れば分かる通りだが、飂熾冘巫髏は堂々と敵組織に乗り込んでくる組織。
総長であるルーシィが乗り込んできたのだから、副総長であるレイコを送り込んでくる事だって当然有り得ると考えた方がいい。
──しかし、ここで2人を突っぱねて、みすみす情報源を逃すのか?それに、もし本当なら……。
というより、ルーシィはいつだって、最後は自ら動き、潰す予定の組織に乗り込んできていたハズ。リエを倒した時もそうだ。イロハの連絡によれば、万魔殿に乗り込んできたのも、
「……そうか」
逆に疑り深くなりすぎていたか。
ルーシィは自らトドメを刺すのに固執している。だから、最初にレイコに襲撃させた時も、トドメを刺さずに放置し、最後の最後は自分でリエを……。
それならばここは、寧ろ、この2人の事は信じるべき──なのか。
「──2人の言い分としては『
「はい……」
「まぁ、うん。合ってる。私としてはずっと間近でルーシィを見てきたから、内部から止めるつもりで居るんだけど」
「……分かった、一緒にルーシィを止めよう」
「「じゃあッ……!!」」
「
「えッ……!」
「!……そう、良いじゃない。生徒相手に何言うのか知らないけど言ってみなよ……!!」
拳を握って、身構える。変な事を言われるとでも思っているのだろう、だが私にそのつもりは無い。
正直、ここは、疑うのが正解だと思う。だけど、それだと満足に情報も引き出せなさそうだし、万事上手くいくとは考えにくい。だからここは……。
「2人共、飂熾冘巫髏を抜けなさい」
「え」
「……あ゙!?」
「アスカのことは……まぁ、皆、分かってくれるさ。レイコについても私から口添えする。もし七天魔が受け入れなくても、また別な受け入れ先はあるからそこで動いてもらうようにする」
「私はそうかもだけど、レイコちゃんは……」
「そーよ!リエ議長の事とか普通にぶっ飛ばして、校舎も壊したじゃんっ!どうやって私を受け入れてもらおうっての!?禊と称してボコさせるつもり?もしそうなら受けて立つよッ!」
「話し合いだよ、まずはね。だけど、もしもお互い手を出したら、その時点で交渉決裂。レイコには、別の組織に移動してもらう」
「……別の組織って、どこよ」
「候補としてはゲヘナの風紀委員会だね。そして、トリニティの正義実現委員会。およそこの2択だと思ってもらいたいね」
「いっ!?ルーシィが宣戦布告を出す予定の
「大丈夫、私のお墨付きだから」
「……今更だけど、シャーレの先生って無法ね……」
こうして2人を説得し終えた私は、2人を連れて七天魔の待っている会議室へ向かう。
それから事情を説明するが────やはり当然と言うべきか、アスカはともかく、レイコのことなどそう簡単に受け入れてはもらえないようで……。
「納得いかないッ!アイツのスパイでしょ、絶対!アスカは天然だからスパイじゃなさそうだけどさ!てかできないでしょ!だけどそっちは絶対アウト!アウトだよ先生!」
「ちがっ……スパイじゃない!私は──」
「流石に先輩に同意しますよ、先生。レイコを脱退させた上でこちらに引き入れるなどというのは些か無理があります」
「普段は、完全にスズに同意するなんてコトは無いけど、こればっかりは無理。……悪いけど反対よ」
「私も、ちょっと……。それに、いざ裏切られたら、誰もレイコさんを止められませんしね……」
「申し訳ありません、先生。打倒ルーシィさんには人手が必要というのは理解します、しかし────幾らルーシィさんにより命じられていたとはいえ、学園を実質的に壊した張本人を、というのは……」
やはり、そう簡単に受け入れられるものではないだろう。分かってた。分かってはいたさ。だけど、こうもバッサリ切り捨てられるとまでは……。
「…………………………そっか。皆の意見は分かったよ。それなら、他の協力してくれそうな子に頼むから、心配しないで。この話は無かった事にしてくれると助かるよ」
「言われなくてもそうするわよ、アホくさ」
「じゃあ行こうか、レイコ、アスカ」
「……うん」
「はい」
「はっ!?なんでアスカも連れてくのよ、先生!?ちょっと待って!!」
しょぼくれた2人を連れて部屋を出ようとするがそんな私の肩をスズがガッシリと掴む。それなりに強い力だ、呻き声が出そうな程に。
けれども、私がここで引いてはいけない。少し、キツイ言葉を浴びせる事になったとしても、私には言わなくてはいけない事がある。絶対伝えなくてはいけない事が、ある。
「アスカにはレイコのお目付け役も頼んでるんだ。なら2人をセットにしておくのは当然でしょう?」
「────ッ!!」
「レイコが飂熾冘巫髏を裏切るのはルーシィの策の可能性がある──そうだね、そう疑うのが自然だ。その気持ちは私もよく分かるさ。だけどそれなら、アスカはどうだろう?どうしてアスカの事だけは、自分達の元に取り戻そうとするの?」
「アスカにスパイなんて──」
「無理だ、できるはずが無い──って言いたいの?どうしてそう言い切れるのかな?」
「だって!七天魔の同僚として、委員長同士としてずっと身近で見てきたもんっ!アスカがどんな物の考え方して動いてるの、とか!どうせ飂熾冘巫髏に入ったのも、美食研を潰す為に飂熾冘巫髏の兵力を利用してやろうとか思ってたんでしょうがよ!?」
「うっ……」
「そうだね、アスカは確かにそう言ってた。でもねスズ、その説は
「「「……ッ!!」」」
「──改めて言い直そう。どうしてアスカが白で、レイコが黒だと……そう言い切れるのかな?」
「……だっ…………だっ、て……それは……それはっ!」
「レイコと違って、アスカ先輩と接した時間の方が遥かに長いから。……そう言わざるを得ません」
「ルビー!」
「そう、まさにルビーの言う通り。だけど、現に、接した時間が同じく長いルーシィが、飂熾冘巫髏の総長だったよね。もう、分かったよね。そういった先入観は、
「「!!」」
「ここでアスカを信じ再び仲間に迎え入れるなら、レイコの事も同条件で扱ってほしい。どちらにせよ所属が違うだけで2人も皆もハドマの子なんだし、仲良くできないなんて事は無いんだ。絶対にね」
「「「「「…………」」」」」
「もう一度言う、アスカを迎え入れるならレイコも受け入れなさい。それができないのなら他の組織に行く。──例えば、トリニティの正義実現委員会が良いかもしれない。2人への先入観が皆無だから、話せば分かってくれる確率は非常に高いと言える」
全員が黙り込む。当然だ。こんな事を言われて、すぐに「はいそうですかレイコも受け入れます」と言えるハズが無いんだ。
アスカと同等に扱え、か。我ながら無茶ぶりにも程がある発言だ。他所の組織に引き取ってもらうの前提の作戦だから、七天魔に認めてもらわなくともある意味で想定通りだと言えるのは間違いのだが。
「……行こう、2人共」
「ッ……はい」
「行くかぁ」
アスカは名残惜しそうにしつつ、レイコは溜め息混じりに私の後ろをついてくる。しかしここで再びスズが声を張り上げる。
「待ってってばッ!!」
「あまり時間が無いかもしれない。他の学園に話をするのなら、より早い方がいいんだ」
「だからッ!こっちで面倒見てやるわよ2人共!」
「えっ」
「ッ……!?」
「はぁ!?」
「!?」
そう啖呵を切るスズを見て、残りの4人は驚きを露わに。何を言っているんだ、バカなのか、と散々スズを諌めるが、まるで聞く耳を持たない。
「もしあんたが──レイコがあたし達を裏切らず、最後まで飂熾冘巫髏と戦い通して、アイツらを全員ブチ倒したら──レイコは統治委員に加入しなッ!今の元ハドマ学園の勢力の中では、一番実権がある委員会よッ!」
「へぇ……いいの?統治委員会ってのは実力主義って聞いたけど?」
「それがどうしたのよ?」
「ニブいんだなぁ。先輩は私よりも弱いんだから、もしも私なんかが統治委員会に入ったら、委員長が交代しちゃうんだよ?いいの?」
「ええ、構わない!!」
「──スズ先輩ッ!?」
ルビーはスズの胸ぐらを掴んだ。ふざけるなと、そう今にも叫びそうな程に、奥歯をギリギリと強く噛み締め、額に青筋を浮かべる。
スズを直にサポートする為にと副委員長の地位に甘んじているルビーとしてはたまったもんじゃない話だろう、しかしそれを知らないスズは今も平然としている。
「暴れ馬の手綱を握るのも委員長である私の仕事。交代戦はタイマンよ、
「スズ……せん、ぱ…………」
「……そ。そんな覚悟してるなら……それでいいわ」
「交渉成立ね。──言っとくけどあたし、あんたに勝てる算段があるからこんな事を言ってんのよ?」
「でしょうね。そうじゃなけりゃ、ブラフにも程があるってもんよ」
「あんたもバカじゃなさそーね。話が分かる部下は有難いわ?」
「……フンッ」
こうして七天魔に新たにレイコが加入、アスカが復帰を果たしたことで、久しぶりに七天魔の七つの席が埋まることになった。
アスカは同時に美食研究会対策委員会に復帰し、副委員長のサエと再会。レイコはスズの部下として仮の措置ではあるが、スズの監督下に置く為にと、統治委員会へ加入した。
「──よしっ。それじゃあ、2人から飂熾冘巫髏の話を聞いて、その上で作戦を考えてみよう。絶対に戦争なんてのは阻止しなくちゃね」
────ルーシィが2人の裏切りを知ったのは、それから間も無くの事である。