「先生!もっとあたしらに構って!」 作:アキラゼミ
2月2日深夜────ハドマ自治区、
「明日で全て終わらせる。トリニティを……潰す」
「そんなの、ルーちゃんの真意じゃないクセに〜。クロノが言ったくらいで本当に戦争仕掛けるの?」
「……何が言いたいの?ライム?」
「べっつにィ?ただ、レイコとアスカに逃げられたストレスを、わざわざトリニティにぶつけるつもりなんじゃないかな〜……ってさ?予定まで早めてさ、わざわざ宣戦布告なんてしてさ。元々の予定じゃ、トリニティ部隊を内部で暴れさせるのがスタートの合図だったのにィ……」
「そんなんじゃないッ!!」
「っ!」
ライムに図星を突かれ、ルーシィは反射的に机を叩いてしまう。ビクリと肩を震わせるライムだが、ルーシィのこの反応こそが言葉とは裏腹にライムの言葉が是であると認めている事に気付き、心の中でほくそ笑む。
「そっかそっかぁ、ごめんね?それじゃあどうしてトリニティを攻める予定を早めたのかな?」
「別に。クロノが言い出したから、ただそれだけ。それに、別にレイコが居たって予定は早めてたよ、節分にかこつけて宣戦布告するつもりだったし!」
「あらそぉ?余計な事言っちゃってゴメンね?」
「……明日で、トリニティ潰すわよ」
「んー、大丈夫かなぁ。サツキ、だっけ。万魔殿のヤツもトリニティの内部の重要そうな情報とか何も持ってなかったのよねー。アガリちゃんには潜入も任せにくいから、今回の前情報はクロノとマトイの報告から得られた情報だけ。本当に大丈夫なの?」
「智略で攻められないなら物量で押すまでよ」
「トリニティの正義実現委員会と、それとハドマの統治委員会は連携しそうね」
「ゲヘナの風紀委員会も来るかもね。トリニティの正義実現委員会と、ゲヘナ学園内で合同で演習した記録が万魔殿にあったわ」
「マジでぇ!?なんとかハスミだっけ?副委員長のそいつ、ゲヘナ嫌いで有名らしいじゃん!なのに、ゲヘナに来てゲヘナ相手に演習したの!?それとも暴れる前提だったとか……?」
「そんな記録は無かったけど、仲は良さそうだったそうよ。マコトは、両委員会の繋がりを警戒しつつあったらしいわ」
「!……成程ねェ。勝算はあるの?」
「レッドウィンター部隊を2つに分ける。ヤツらが学園からかっぱらった戦車があるの。敵の戦車は、レッドウィンター部隊に処理させましょう。私達は悠々と攻めるのみよ」
「りょーかいっ♪」
「さ〜て……そろそろ
◆
2月2日深夜、トリニティ総合学園────正義実現委員会の会議室にて。
数時間後に始まるであろう戦いに備えて、会議を終えた委員達が身体を休める中、委員長のツルギは会議室に残り、椅子に腰掛け物思いに耽っていた。
そんな所に、ツルギを探しに副委員長のハスミがやってきた。
「っ!ツルギ……こんな所に居ましたか。とうに消灯時間を過ぎていますよ」
「ハスミ」
「はい?」
「飂熾冘巫髏の宣戦布告──アレを見てどう思う」
「どう思う、とは?他所様に喧嘩をふっかけるのが好きな連中なのかな、とか……?」
「違う。明日、2月3日のいつ攻めてくるのか──そこが不明瞭で気になっていた。確か飂熾冘巫髏は前にも宣戦布告をしていたそうだ、ハドマ学園内で内ゲバをヤッていた頃にな」
「ああ、確か、博愛レイコが針村ルーシィの指示で生徒会室?に書き残したというアレですか?先生が写真で見せてくれた……」
「そうだ。あちらにはおよその時間指定があった。だが今回は時間指定が無かったな。そこが、どこか引っ掛かったんだ」
「考え過ぎではないですか?前回より大規模ですし前回通りにはいかないと相手さんも分かっていると思います。ましてや今回は3学園が合同で迎え撃つ手筈になってます。敵もそこを警戒しているのだと思いますよ」
「ハスミならどうする?」
「え」
「敵が大人数になると分かっていて、それでも正面戦闘を仕掛けるか?」
「────ッ!!」
「私ならそうしない。まして飂熾冘巫髏は対戦車が苦手だと自覚しているらしい。しかしこちらには、その戦車が多数存在している。自らの弱点であると自覚していながら、正面から突っ込んでくるとは、到底思えなくてな」
「……つまり、敵は奇襲を仕掛けてくる、と?」
「……憶測に過ぎないがな」
「しかし、奇襲を仕掛けるつもりなら、嘘の時間を指定した方が効果を発揮するのでは?敵の警戒心が高まる時間を敢えて設定すれば、それ以外の時間に奇襲を仕掛けやすくなると思いますし」
「そうも考えた。だから、24時間警戒は私がする。私個人の考え、まして憶測の段階で、休ませるべき部下達を動かすワケにはいかないからな。杞憂ならそれでいいし、もしこれが現実となれば私が足止めしている間に部下達を起こしに走れ」
「……本来なら、憶測だろうとも委員会全体で警戒はしておくべきでしょう。交代で寝るなど、それこそやりようはあるじゃないですか」
「……そうだな。せめて、もう少し早くハスミ達には相談しておくべきだったかもしれない。すまない」
「いえ。──おいそれと予想を口にできなくなる程この問題は大きい問題ですし気持ちはわかります。でも、抱え込まないでくださいね」
「ああ……そうする」
ハスミの淹れたハーブティーでホッと一息つく。ハスミも彼女の向かいに座ると、同じものを飲む。ツルギの刺々しい雰囲気も、紅茶を飲む毎に段々と落ち着いていく。
「ナギサ様の取り計らいで明日は臨時休校だから、24時間警戒できるが──。先程の委員会の会議でも伝えたが、お前達も食事と排泄以外などでは決して持ち場から離れるな、持ち場の警戒に努めるんだ」
「それはもちろんです」
当然の事のように答えながら、ハスミもハスミで色々と考えていた。妙だ、と。ツルギの言う通り、前回の宣戦布告とまるで違うやり方と指摘されて、今更ながらに不安が募りつつあった。
(2月3日──時間の指定が無い?いいや、違う。そもそも、
「……ハスミ?」
「最悪の可能性を考えていました。連中はこの後、日付が変わると同時に────2月3日深夜0時に開戦するつもりなのでは……と」
「ッ!!」
「時間指定が無いのは、そもそもその必要が無いと判断したから。日付のみ指定されているのは日付が変わると同時に開戦だから……なんて事は、まさか、無いでしょうけれど……」
「────今は……23時57分か。……ハスミ」
「皆を起こしてきます!」
「緊急招集だ、0時に間に合わせろ!!」
ハスミに任せるだけでなく自分も部下を起こしに行こうとはしたが、部下は信頼できるハスミに任せ自分はとにかく警戒を強める事を優先した。
冷たい風が入ってくるのも構わず窓を開け、外の音を耳に取り込む。消灯時間ともなれば、不良生徒以外に外を出歩く者など、トリニティには居ない。
ナギサとセイアは2月2日の会議後にセーフティハウスに移動済みなので、正義実現委員会は学校や自治区の保護にのみ集中できる──ハズだった。
「……そこの植木に隠れてる奴。出てこい」
会議室の窓からそう遠くない植え込みに、窓から声を掛けるツルギ。呼び掛けから少しの間を置いて2人の少女がニョキッと顔を出した。
そこに居たのは飂熾冘巫髏トリニティ部隊幹部、クロノとマトイであった。
(アイツは確か────時計クロノ、桜庭マトイ!何故こんな所に……?クロノへのティーパーティーの見張りはどうした!?)
「あっれぇ……アッサリとバレてない?」
「だから言ったじゃないですか、明かりが点いてるから別の所から攻めようって……はぁ」
「戦争前夜ともなれば警戒も高まる、か。はぁ……。気分が盛り上がり過ぎて、我慢できなかったよ」
ヘラヘラするクロノ、それを見て呆れるマトイ。2人のやり取りを聞いている内に、ツルギは段々と嫌な予感が現実となった事に気が付きつつあった。
そして腕時計を確認した2人は────。
「始まるね……!」
「ええ。最初で最後の
「「始まりは
銃を構えてツルギに向ける2人。それを見るや、ツルギは窓を飛び越えて外に出るなり、整備された2丁のショットガンをそれぞれに向ける。
「まずは剣先ツルギ!あんたを撃ち抜いて、戦争の開始の合図としてやるわ!!」
「……」
「そうはさせませんよ」
「「ッ!?」」
2人を囲むように現れた正義実現委員会の面々。ネズミ1匹すら逃がさない、という気迫を感じる。
彼女達を率いているのはハスミ、そしてイチカ。見覚えしかない面々の登場に、クロノは舌打ちし、マトイは小さく溜め息をついた。
飂熾冘巫髏からはクロノとマトイの幹部2人しかこの場には居ない。初手から幹部を完封できるのは大きい、この場の誰しもがそう感じ取っていた。
「既に、複数人のスナイパーも待機させています。あなた方の動きは丸見え……大人しく投降なさい」
「スナイパー、ね。つーことは、静山マシロとかも居んのかな?アイツ、1年のクセに凄腕らしいね」
「……クロノ、時間ですよ」
「おっと。んじゃ、コイツぶっぱなしますかぁ!」
ツルギに向けている自前の固有武器とは別の物をポケットから取り出す。それは信号弾が込められた連絡用の小銃──それを天に向けたクロノは口頭でカウントダウンを開始する。
「3、2、1────!!」
グッと引き金を握る指に力が籠る。クロノにより引き金が引かれるその瞬間、バキャッと音を立てて小銃が粉々に砕け散った。合図など送らせまいと、高所からマシロが撃ち抜いたからだった。
「え」
「……はぁ。こうなると思いました」
「今です、確保ッ!!」
ハスミの合図で彼女の部下達が飛び出して2人をたちどころに拘束してしまった。あまりに呆気なく拘束されるのでツルギもハスミも警戒していたが、しかし……。
「あーあ、捕まっちゃった!」
「……」
マトイは沈黙を貫き、クロノは堂々としている。というかあっけらかんとしている。捕まった事などどうでもいいと言わんばかりに。
「……全く、なんでこんな事をしたのか。あなた方と同じトリニティ生として、恥ずかしい限りです」
「あぁ?
「何を……」
「どうして私が去年、補習授業部行きになったのか教えてやろーか?テメーら
「……イジメと補習授業部に、何の関係が?」
「そんな事も分かんねーのかよ副委員長サマはよ!脳ミソの代わりに綿菓子でも詰まってンのかッ!?イジメられたら不登校、成績ダウン、留年の危機!その程度の想像もできないから、同じ学園のヤツが他校のテロ集団に加担してるのに気付けないんだ!バカばっかなんだよッ、どいつもこいつもッ!!」
「それとこれとは話が別……」
「トリニティなんかなぁッ!お嬢様ぶったクズ女、カス女ばっかりなんだよッ!!学校と一緒にここで一生おねんねしてなッ!!アハハハハハァッ!!」
ひとしきり怒鳴り散らしたクロノは、肩で大きく息をして咳払いなどする。ハスミは部下に「連れて行きなさい」と指示するがツルギがそれを制する。
「時計クロノ──だったな」
「あぁん?カス共のボスが何か用ですかァ?」
「どうして私を頼らなかった」
「……あ?」
「イジメを見て見ぬふりをする者は、確かにどこの学校にも居るだろう。頼る者も見つけられず助けも求められず、自暴自棄になってしまったからお前はテロ組織なんぞに加担したんだろう」
「だったら何だってんだよ!」
「私が居るじゃないか。トリニティには、正義実現委員会が、私が居るじゃないか。身近な者に助けを求められない事もあるだろう。しかし、それなら、ほんの少し先に手を伸ばせ。そこには必ず、お前を助けられる何者かが居たハズだ」
「ッ……!」
「確かに、私達は、お前へのイジメに気付くことができなかった。それについては、私達の甘さとしてお前の言葉を甘んじて受け取ろう。────だが、こうしてヤケを起こす前に、お前にも何か、他にもできることがあったんじゃないか……?」
「……イジメられた事もないアンタに何が分かんの。アンタみたいなのイジメるヤツなんか居ないよね。そんなヤツには、追い詰められた私の気持ちなんか1ミリも理解できやしないだろーさ」
「ああ、全く理解できないな。私はイジメる者ほど弱くないしイジメられる者ほど弱くもない。常に、私は私だからだ。陰で誰に何を言われようと、何と思われようと、私には関係のない事だ」
「……そーね。私は弱いわ。だからこうやって学園やアンタら
ハッキリ「八つ当たり」と言い切ると、項垂れ、黙り込んでしまった。ツルギもこれ以上かける言葉など無いと言わんばかりにクロノから目を逸らす。
「戦争を未然に防ぐ。お前達の仲間はどこだ?」
「……もうすぐ、ここに来るわ」
「何……?」
「私に合図を送らせなきゃ戦争は始まらないなんて思ってたんなら悪かったわねェ!!私達じゃ合図が送れない状況になった、
その瞬間、正門の方から爆発音が聞こえてくる。パチパチと木が燃える音、炸裂音、そして笑い声や戦車を運転するような機械の駆動音が爆風に乗ってやってきた。
「はっ……!あはははははははははっ!!始まった!始まったよ、トリニティの崩壊が!あはははっ!!ド派手にヤッてくれるじゃん、マフユ!!いや──レッドウィンター部隊!!」
「寒崎マフユの通り名は『寒空の悪魔』……。まさにゲヘナ的なやり方です……レッドウィンター生なのにやり方がゲヘナなんですよね」
拘束されながらも2人は嬉しそうだ。ハスミは、そんな2人に軽蔑の視線をくれてやる。ツルギは、これ以上はもう何も言うまいと部下に指示を出す。
「──正門の方か。お前達、拘束した2人を、牢に閉じ込めておけ。終わり次第、私達に合流しろ」
「くれぐれも閉じ込めるまで油断はしないように」
「先に行ってるっすよ〜、お2人も気を付けて!」
「「は、はいっ!!」」
部下2人にクロノとマトイを任せ、ツルギ率いる正義実現委員会の面々は正門方面へと移動を開始。先輩に任されたので、より気合を入れて飂熾冘巫髏幹部の護送という任務を遂行しようと意気込む。
クロノとマトイがどれだけ暴れようとも、2人を拘束する縄は解けやしなかった。
「っ……ッ…!!」
「くっ、そ……解けない……!」
「絶対に逃げられませんよ!」
「大人しくしてください!」
「……ちぇっ。モブのクセに……!」
「私達も似たようなものですよ」
「違うし!私達は飂熾冘巫髏の幹部だし!」
「捨て駒同然のね……」
「……ケッ!」
騒ぎを聞き付け、眠そうに目を擦りながら4人の元にある人物がやってくる。自称自警団のスーパーヒーロー……宇沢レイサであった。
「ワーワー騒ぐ声が聞こえたので来てみればっ!!敵を捕まえたんですか!?お疲れ様ですッ!!!」
「「お、お疲れ様、です……?」」
「捕まえた敵の護送ですねッ!?自警団のスーパースターこと宇沢レイサが!!護衛しましょうッ!!私が来たからにはもう逃げられませんよ、テロ組織ルシフェルさん!!」
「地味に違うけど、まぁいいや、それで」
「……うんっ?その声、私のお友達に似てますねぇ。あ、お友達というのはですね、私と同じ自警団に、時計クロノというお友達が居て………………えっ?」
正義実現委員会に護送されている2人の内1人がその「お友達」であると気が付いたレイサは、一瞬言葉を失った。全ての思考が停止し、手足の動きも失われてしまった。
彼女からはもう驚きの文字しか出てこなかった。そんなレイサに、今度はクロノから声を掛ける。
「何驚いてんのよ。本人よ、私本人」
「な……う…………えっ……?クロノ、さん……?」
「そんなに驚くことかしらね?自警団やってんのも八つ当たりだって言ったでしょ?モロにテロ組織に入るような奴の思考でしょうよ、そんなの」
「え……?だ、だって、クロノさん、は、自警団で、私の、お友達、で……テロ組織は、敵、で……?」
「フン。分かんないようだから、教えてあげるわ。私はあんたの敵だよ────宇沢レイサ」
「ッッ!?!?」
口元に手を当てて後ずさる。有り得ない物を見るような目でクロノを見て、そして────。
「……私を撃つ気?拘束された私を?」
「こ……これは、決別の、意思表示、ですっ!私は、あなたとお友達になれたと思ってました!だけど、それは間違ってた!あなたはテロ組織の人だった!テロ組織は、私の敵で!トリニティの敵です!!」
「……」
「起きてたら暴れると思うので!あなたを大人しくさせる為に敢えて撃ちます!!そしてあなたと決別します!!今、ここで!!」
「……イイじゃん。やってみなよ」
フン、と鼻で笑うクロノ。それを見て、レイサの目から溢れる涙は加速する。遂には鼻水まで垂れて端正な彼女の顔がぐちゃぐちゃになってしまった。
友達だと思っていたクロノが学園を破壊しようと目論む敵だった。それだけで、レイサにとっては、怒りなんかよりも悲しみに値する現実であった。
「ッそして!捕まって、罪を償って!テロ組織の人じゃなくなって!!綺麗さっぱり、改心したら!!また私とっ、お友達になってくださいっっ!!!」
「……!?け、決別するんじゃなかったの……?」
「はい!!悪いクロノさんとここで決別します!!でも絶交はしません!!将来のお友達なので!!」
「あんたってヤツは……バカだね……」
「はい!!バカです!!それでも、私は!お友達は絶対に大事にするんですッッ!!またいつか、改心したら、お友達になりましょう!また食べ歩きしてスイーツとか色々食べましょうねッ!!お隣の人も一緒に行きましょう!!」
ついでとばかりにマトイにも声を掛けたレイサは2人に向けて銃を乱射。マトイはすぐにダウンし、気を張っていたクロノもまた……。
「……本当の正義はあんただけだよ…………レイサ」
そう弱々しく微笑んで見せ、その言葉を最後に、レイサの弾によってクロノは気絶してしまった。
「ッ……ううぅ……うわぁぁぁぁん……」
自ら友を手に掛けたレイサは、その場に座り込み泣き出してしまった。クロノとマトイを運ぶべく、2人を任された正実モブちゃん2人は、泣き出したレイサを前にして、ただただオロオロするばかり。
レイサの涙が収まるまで正実2人は彼女を優しく慰め、それから、クロノ達を牢へと収監し、現場に向かう事にした。
◆
「合図が上がらないという事は──お疲れ様です、クロノさん、マトイさん。後は、任せてください」
「新参の私がトリニティ部隊まで率いていいの……?後で後ろから刺されたりしない?」
「問題ありません。レティさんが本気を出せる夜の間に、全て終わらせましょう。クロノさん達は幹部だからこその囮になってくれたんです。あの2人が学園生活を賭して作ってくれたこの機会、みすみす逃すワケにはいきません」
レッドウィンター部隊の戦車隊を指揮して学園を砲撃しながら、幹部の寒崎マフユと古谷レティは、ほのぼのとした口調で言葉を重ねる。
マフユは、俗に言う「ほわほわ」した外見の女子生徒だ。雰囲気だけなら、知識解放戦線のモミジに近いと言える。けれどもその中身は、目的の為なら手段を選ばない性根の持ち主。
生まれも育ちもレッドウィンター、しかしてその精神性は、ゲヘナの悪魔そのもの。そこから付いたマフユの通り名が「寒空の悪魔」であった。
「──しっかし、あなたもよく考えるね。まさか、レッドウィンター自治区からトリニティの正門まで戦車が通れる大坑道を掘ってくるなんて……」
「地上は監視カメラが、人の目が、スナイパーやらセンサーやらの目がありますから。──となれば、新しく作るしかないでしょう?新たな道を……」
「無ければ作る、か。まさにレッドウィンターって感じするね。工務部だっけ?」
「はい、去年は工務部でした」
その時、彼方から猛スピードで迫る1つの赤黒い人影を発見。戦車隊を指揮し砲撃を浴びせかけるも幽霊でも攻撃しているかのようにその謎の人影には掠りもしない。
「ケヒャヒャヒャヒャアァアアーーーーッ!!!」
「「「「ギャーーーッ!?」」」」
レッドウィンター部隊の戦車隊、あっという間に壊滅の危機に追い込まれてしまう。歩兵達が襲うも次々と投げ飛ばされ、潰されるようにたった1人に蹂躙されていく……。
「お前達……飂熾冘巫髏、だなァ……?」
──0時9分、正義実現委員会が正門に現着。
誰より早くやってきたのは委員長、剣先ツルギ。戦車隊を蹴散らし、戦車に付き従う歩兵を蹴散らしマフユとレティへ続く道を自ら切り拓く。
「ひぃっ!き、来たっ……正実の委員長ッッ!!」
「こんな早いなんて聞いてないよっ……」
「あの2人は囮もロクにできないんですのっ!?」
「やだっ、やだぁ!!もうヤダ、私逃げる!!」
「え、えっ、ちょっ……みんな!?」
レティに従うトリニティ部隊の生徒は、ツルギが現れただけで瓦解してしまった。逃げ惑うも遅れてやってきた正義実現委員会の面々によって尽く拘束されてしまう。
マフユの率いるレッドウィンター部隊の残りと、レティ率いるトリニティ部隊の残りとゲヘナ部隊は移動に使用した坑道の周辺に固まり、身を守るしか手段は無かった。
その周辺は既に包囲されており、逃げ場は既に、坑道しか残されていない。
「もう囲まれた……!?」
「まだ正門周辺しか破壊できてないんですけど……」
「そういう問題!?どうにかして逃げないと……」
「それは無理です、もう少しで総長が来るので」
「ッ!」
総長が来る、そのマフユの言葉を聞いてざわめく飂熾冘巫髏の構成員だったが、正義実現委員会は、全く容赦する様子を見せない。
「──しょうがないなぁっ!総長が来るまで、私が本気出すから……どうにか持ち堪えよう!」
「……頼みます、レティさん」
自軍の生徒を掻き分け進み出る。ツルギは彼女の存在に気付くなり、他の生徒達を撃つ手を止めて、ギョロリとした目でレティを見据える。
「任せて!夜は────私の時間だから……!」
「……お前も、飂熾冘巫髏の幹部……だな?」
「ええ、そう!この前入った新参者だけどねっ!!ゲヘナ部隊幹部、古谷レティ!行くよッ!」
「正義実現委員会委員長、剣先ツルギだ。私が相手しよう。……叩き、潰す……!!」
ベロォッと長い舌を出して、超がつくほどの前傾姿勢でレティに向かって突撃。自前の武器を構えて放つレティ、しかしツルギはそれを喰らっても全く怯まずに大砲から放たれた砲弾のように突き進む。
「えっえっえっ、なんで……」
「ケヒャアッッ!!!」
「ぎゃふっ……」
ツルギの横払い一閃でレティは吹き飛ばされて、近くの樹木に叩きつけられる。壁を破壊する彼女の攻撃を喰らってしまっては、吹き飛ばされた彼女を受け止めた樹木も簡単にへし折れてしまった。
「お前程度の攻撃──粉雪に等しい。ゲヘナ部隊の幹部だか何だか知らないが、テロ組織に入る前に、自分の学校の風紀委員長を見習ったらどうだ?」
「ッ!風紀委員なんか……!自治区内の問題ばっかり解決しに行って、学校内の問題なんか見ないフリ!学校内の問題を注視してたら、自治区になんか目を向ける暇とか無いもの!そんなヤツらの事なんて、見習う価値なんか無いわっ!あんなヤツら、自警団名乗ってればいいのよっ!!」
「……お前もそのクチか。私達、風紀を担う集団も、万能じゃあない。他力本願にも程があるだろう」
「それが風紀委員の仕事でしょうが!風紀委員長は強いから手ェ出せないけど……正実の委員長だったら頑張れば私でもボコせるよ……ッ!!」
「舐められたもんだ。掛かってこい、叩き潰す」
レティはこの後、滅茶苦茶にボコボコにされた。
◆
「────まさか、深夜0時に動き出すなんてね。近くの宿を取ってもらってて助かったわ」
「ホントよね〜。というか夜の戦闘とか久しぶりでワクワクしかしないわ♡」
「あのなモルモ……戦争が始まろうとしてるんだぞ?もう少し緊張感を持ってだな……」
トリニティで本格的な戦闘が始まった頃、学園の近くの宿を飛び出したゲヘナ学園の風紀委員会は、事前にヒナにより指示されていた通りの動きで散開して、前線に出る3人のみ、学園へ向かっていた。
「ハイハイごめんね〜。イオリちゃんも少しは肩の力、抜いたらどう?」
「お前は肩の力を抜きすぎなんだよ!」
「それよりヒナちゃん。モブちゃんズとアコちゃんチナツちゃんは、本当に後方支援でいーの?」
「さっき正実の副委員長から連絡もらったでしょ。既に正実だけで包囲できているそうだから、私達の部下までそちらに回す必要は無いわ。更に大回りで学園を包囲すれば、それで更に逃げ場は無くなる」
「まぁ理屈ではそうなんだけど、なーんかなぁ……。妙に呆気ないのよねぇ……」
「……確かに、末端と幹部数名を投入してるってのは連絡で聞いたけど。そもそも飂熾冘巫髏って幹部も表舞台に出てこない組織だったんだろ?それなのにどうして今になって……?」
「飂熾冘巫髏も総力戦のつもりって事でしょ?」
その時────3人の背後で
しかも、レッドウィンター部隊の戦車隊までもが混ざっているようだった。ヒナ、モルモ、イオリの3人だけで対処できる物量を超えかねない密度だ。
「なっ……コイツら!!」
「何で後ろから出てきたのよッ!?……ルーシィ……あんたって子は……何重の策を用意して……!!」
「そんな事はどうでもいい。敵が現れた、それなら私達のやる事は1つ」
ヒナは表情1つ変えずに銃を構える。ここで一番頼りになるのは、やはり、範囲攻撃と火力のヒナ。スピード特化のイオリ、奇襲特化のモルモはあまり戦果を出せそうになかった。
それでも、モルモが爆弾をばらまいたり、ヒナが火力で薙ぎ払い、その2人が撃ち漏らせばイオリが的確に処理していくことで、地道ながらも圧倒的な物量相手に抵抗できてはいた。しかしそれも長くは続かず……。
「やっば、爆弾が尽きたっ……!?」
「!」
「嘘だろモルモ!?足りてなかったのか!?」
「────今だ!突っ込め突っ込めーーーっ!!」
戦車が突っ込んでくる。ヒナはリロードして更に撃ち抜いてやろうとするが間に合わず……。
「火力も物量も足りてないよ、先パイっ♡」
「しししし、死んでくださいっっ……!!」
3人の背後から現れた少女達が戦車の方に爆弾やカバンを投げる。瞬間、それは大きな爆発を起こし戦車や近くの生徒達を吹き飛ばし……。
「うっ……わぁ……エグい火力ねぇ……」
「って、お前達は……便利屋の!」
「くふふ♡ ここは、私とハルカちゃんと──」
「……はぁ……リーダー命令なら、仕方ないか……」
「かつての敵に協力する事になるなんて、まるで、漫画か何かのような……でも……なんだか、悪くないですねっ……!」
「──私達アリウススクワッドが引き受けるから」
──ムツキ、ハルカ、ミサキ、ヒヨリ、アツコ、現着。倒した敵の装備を奪い、爆破しつつ参戦。
「……そう、分かった。3人くらい足りない気がするけれど、また別の所で動いてるんでしょうね」
「そっ!ここって正門前に続く大通りだから、範囲攻撃の私達が向いてるだろうってさ!カヨコっちの予想と先生の作戦、見事にハマってるね〜♡」
「そうだ、先生は!?先生はどこだっ?シャーレに居るんならそれでいいんだけど……」
「あぁ、先生なら────」
◆
「──うん、わかった。ありがとう、ゴルコンダ。お陰で早めに戦争を終わらせられそうだ」
『それは良かった。それではまたいつか、先生には私の実験にお付き合い願いたいですね』
『そういうこったぁ!!』
「ハハッ、前みたいなヤツならね。じゃ、また」
『ええ。では、ご武運を』
ゲマトリアに協力を要請し、飂熾冘巫髏の本隊を捜索した私は、ハドマ学園の生徒を指揮して、隊の最後方に控えているという本隊へと向かっていた。
トリニティでは既に始まっているらしい。私も、ハスミから連絡をもらって宿を出たけど、ハドマの生徒を集めるのに少し手間取ってしまった。
そして移動しながらアル達に連絡し、ハスミから受けた連絡から「ルーシィはその場には居ない」と判断して、ルーシィや飂熾冘巫髏の本隊を探す方にシフト。
それからは早かった。ゲマトリアにコンタクトを取ってゴルコンダ&デカルコマニーと通話しつつ、本隊の位置を調べてもらい座標を教えてもらう。
後は、私達が本隊を叩いて、戦争を終わらせる。
「────そういう事だから、私達はルーシィ達を直接、倒しに行くよ」
「それは良いけど、ホントにこの先に居るの?結構トリニティから離れてるけど……」
トリニティ内では既にレッドウィンター部隊①とゲヘナ部隊①が正実と衝突しているようだ。しかしトリニティ部隊①はツルギの姿を見て逃走、投降、拘束のどれか。そして、学園の少し手前ではレッドウィンター部隊②とゲヘナ部隊②、ちらほらだけどトリニティ部隊②の存在も確認できたそう。だからこちらには、便利屋とアリスクを配置しておいた。アルとカヨコ、サオリもあの近くに居るはず。
「この先でいい、大丈夫。ねぇスズ、ルーシィって
『いいとこ取り』みたいなのする感じは無い?」
「え。……まぁ、無くはない……かなぁ?」
「あると思いますよ。例えば失楽園の会計を再募集しなかったのも、まさにそれなんじゃないですか」
「どういう事よ、ルビー?」
「ライム先輩も飂熾冘巫髏で、会計に潜入してたんですよね。そんなライム先輩がクビになったなら、フツーに考えて会計なんて重要な役職、再募集するでしょう。でもそれをしなかった。あの人なら別の構成員を会計に立候補させる事だってできたはず。それなのに、敢えて、しなかった。そうですよね、リエ議長?」
「……ええ。ルーシィさんが全て、滞りなく、仕事を終わらせて下さっていたので……」
「……自分がそうする事で、リエ議長からの信頼度が高まると理解していたんでしょう。ルーシィさんはそこまで見越して、ライム先輩がクビになったのをいい事に、より強く生徒会の仲間の信頼を得るのに成功したんです」
「ッ……ニャロォ……どっちに転んでもルーシィにはノーダメだったのね……!」
「……結果、当初の計画に比べると横領できなかったそうなので、学園は併合したものの、飂熾冘巫髏はそこまで強化できなかったようですし、ある意味、今の状況は好機ですね。万魔殿からの武器の融通はあったものの、強度に難アリのようですし」
「────まぁ、そんな感じ。ルーシィはここでもその『いいとこ取り』を狙ってるんだ。それぞれの部隊と敵対組織をぶつけ、敵が消耗したところで、一気にトリニティに攻め込む。その後は勢いのまま学園を壊すだけさ」
「んなこと、させるもんですか!!」
そうだ。スズの言う通り、そんなことはさせてはならない。ゴルコンダによると、多少の戦車もまだ保有しているようだから、そちらはレイコに任せ、それ以外の歩兵を叩く。それだけでいい。
頼んだよ、私の生徒達。
次回────シッテムの箱、アップデート!
魅せろ、アロナとプラナの本気!